特許第6389723号(P6389723)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6389723
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】多管式貫流ボイラ
(51)【国際特許分類】
   F22B 37/32 20060101AFI20180903BHJP
   F22B 35/10 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   F22B37/32 A
   F22B37/32 C
   F22B35/10
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-202926(P2014-202926)
(22)【出願日】2014年10月1日
(65)【公開番号】特開2016-70628(P2016-70628A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】505229472
【氏名又は名称】株式会社日本サーモエナー
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100082474
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】林 訓央
(72)【発明者】
【氏名】深井 宏一
【審査官】 岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−040604(JP,U)
【文献】 特開2005−034751(JP,A)
【文献】 特開2004−176948(JP,A)
【文献】 実開平02−057124(JP,U)
【文献】 特開2002−005404(JP,A)
【文献】 特開2002−013703(JP,A)
【文献】 特開2008−261538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 37/32
F22B 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部管寄せから気水分離器の旋回流形成部に蒸気と飽和水の混合物を送る連結管と、
前記上部管寄せと前記気水分離器の前記旋回流形成部より低い位置とを連通連結するバイパス管と、を備え、
前記バイパス管は、吐出口を備える先端部が前記気水分離器内に突出して設けられているとともに、前記吐出口が前記気水分離器内で生じる飽和水旋回流の下流側に向けて開口しており、且つ、前記上部管寄せへの連結位置より気水分離器への連結位置が低い位置にあることを特徴とする多管式貫流ボイラ。
【請求項2】
上部管寄せから気水分離器の旋回流形成部に蒸気と飽和水の混合物を送る連結管と、
前記上部管寄せと前記気水分離器の前記旋回流形成部より低い位置とを連通連結するバイパス管と、を備え、
前記バイパス管は、吐出口を備える先端部が前記気水分離器内に突出して設けられているとともに、前記吐出口が前記気水分離器内で生じる飽和水旋回流の下流側に向けて開口しており、且つ、前記連結管より内径が小さい管であることを特徴とする多管式貫流ボイラ。
【請求項3】
前記バイパス管の先端部は、先端の端面が閉じられ、該先端部の側面に前記吐出口が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の多管式貫流ボイラ。
【請求項4】
前記バイパス管に介在させた制御弁と、ボイラ負荷が所定値以下の時に前記制御弁を開くように制御する制御装置と、を備えることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の多管式貫流ボイラ。
【請求項5】
前記バイパス管が、前記気水分離器の給水管接続位置と同レベルの高さ位置で該気水分離器に連結されていることを特徴とする請求項に記載の多管式貫流ボイラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気水分離器が連結された多管式貫流ボイラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の多管式貫流ボイラでは、水管で発生した蒸気は飽和水を伴って気水混合物となって上部管寄せに連結された連結管を通って気水分離器に送られ、気水分離器内の旋回羽根や遠心ノズル等の旋回流形成部を通じて旋回させられ、旋回流の遠心作用により、蒸気と飽和水との密度差により、飽和水は気水分離器胴の内壁側に偏り、蒸気は旋回する飽和水の内側に偏って気水分離器の上部中央に連結された蒸気排出管から排出されることにより、蒸気と飽和水とに分離され、蒸気は蒸気利用設備側に送られ、飽和水は気水分離器の下部に連結された戻り配管によりボイラ本体の下部管寄せに戻され、再循環される。この飽和水再循環について貫流ボイラには法規制により、「最大給水量に対する循環量の比が2以下」と定められている。
【0003】
しかしながら、循環水量が極端に少ない場合、気水分離器下部の戻り配管及び下部管寄せの温度及びpHが低くなることで、腐食障害を生じ易くなる。そのため、貫流ボイラにおいては法規制を超えない範囲で、全ての燃焼領域において適切な循環水量を確保することが重要となる。
【0004】
燃焼量制御に多段制御もしくは比例制御を用いた貫流ボイラの場合、運転状況が高負荷から低負荷に移行するにつれて循環水量は減少する傾向にある。この要因は、水管内での沸騰状態が異なることや、気水分離器に流入する蒸気の絶対量が異なることが挙げられる。近年では省エネルギーの観点からターンダウン比(以下、TDR)を大きくとり、ボイラの発停回数を減らすことでパージ損失の低減を図っているボイラが注目されている。
【0005】
しかしながら、TDRを広くとると従来の最低燃焼量よりさらに低負荷状態の超低負荷状態が存在することになる。このような超低負荷状態においては循環水の量は極端に減少し、気水分離器下部の戻り配管及び下部管寄せのpHは適切な管理基準値が外れてしまう。
【0006】
そのため、図7に示すように、気水分離器20と上部管寄せ21との連結管を上部管寄せ21の側面から引き出した連結配管22と上部管寄せ21の上面から引き出した連結配管23の2本の連結配管を設置した、多管式貫流ボイラの気水分離器の連結構造が知られている(特許文献1)。
【0007】
図7に示す連結構造によれば、上部管寄せ21の側面から引き出された連結配管22は上部から引き出された連結配管23より圧力損失が少ないため、気水混合物の発生量が少ない低燃焼時には、気水混合物の大半は上部管寄せ21の側面から引き出された連結配管22から気水分離器20へ流れ込み、戻り管24を介して所定の飽和水戻り量を確保することができ、高燃焼時には気水混合物の流量増加と蒸気負荷への蒸気供給量増加のため、気水混合物は側面から引き出された連結配管22のみでは流れきれず上部引き出し連結配管23へも流れるため、高燃焼時の飽和水戻り量は上部引き出し連結配管23への流量により増減でき、高燃焼・低燃焼別々の戻り量(循環比)を決定することができ、その結果、低燃焼時にも適量の戻り量が得られるため、下部管寄せ内缶水を適正なpHに保持でき、低pHによる缶体の腐食が低減するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平6−40604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図8に示すように、従来、旋回型の気水分離器20内では、旋回羽根25(旋回流形成部)による飽和水Wの旋回による遠心力の影響を受け、低負荷域では必要な循環水量の流入を阻害し、高負荷域では飽和水Wがボイラの側へ逆流し、分離排出される蒸気Vの乾き度を悪化させるという問題を生じ得る。
【0010】
そこで、本発明は、気水分離器での飽和水の旋回による遠心力の影響を緩和し、低負荷状態でも一定の循環水量を確保するとともに、蒸気乾き度の低下を防ぐことができる多管式貫流ボイラを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するため、本発明に係る多管式貫流ボイラは、上部管寄せから気水分離器の旋回流形成部に蒸気と飽和水の混合物を送る連結管と、上部管寄せと前記気水分離器の前記旋回流形成部より低い位置とを連通連結するバイパス管と、を備え、前記バイパス管は、吐出口を備える先端部が前記気水分離器内に突出して設けられていることを特徴とする。
【0012】
前記吐出口は、前記気水分離器内で生じる飽和水旋回流の下流側に向けて開口していることが好ましい。
【0013】
前記バイパス管の先端部は、先端の端面が閉じられ、該先端部の側面に前記吐出口が形成されていることが好ましい。
【0014】
前記バイパス管に介在させた制御弁と、ボイラ負荷が所定値以下の時に前記制御弁を開くように制御する制御装置と、を備えることが好ましい。
【0015】
前記バイパス管は、上部管寄せへの連結位置より気水分離器への連結位置が低い位置にあることが好ましい。
【0016】
前記バイパス管が、前記気水分離器の給水管接続位置と同レベルの高さ位置で該気水分離器に連結されていることが好ましい。
【0017】
前記バイパス管は、前記連結管より内径が小さい管であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、バイパス管の先端部を気水分離器内に突出させることにより、バイパス管は、飽和水の旋回流の遠心力を受けにくくなり、低負荷域では必要な循環水量の流入を妨げず、また、高負荷域では飽和水がボイラの側へ逆流することを防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る多管式貫流ボイラの第1実施形態を示す概略構成図である。
図2図1の多管式貫流ボイラの要部横断面図である。
図3】本発明に係る多管式貫流ボイラの第2実施形態を示す要部横断面図である。
図4】本発明に係る多管式貫流ボイラの第3実施形態を示す概略構成図である。
図5】本発明に係る多管式貫流ボイラの第4実施形態を示す概略構成図である。
図6】本発明に係る多管式貫流ボイラの第5実施形態を示す概略構成図である。
図7】従来の多管式貫流ボイラの概略構成図である。
図8】従来の気水分離器の中央縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る多管式貫流ボイラの実施形態について、図1図6を参照して説明する。なお、本発明に関し、全図及び全実施形態を通じ、同一又は類似の構成部分には同符号を付した。
【0021】
本発明に係る多管式貫流ボイラの第1実施形態は、図1に示すように、多管式貫流ボイラ1は、ボイラ本体2、ボイラ本体2の周囲に配置される水管3、水管3と接続された下部管寄せ4及び上部管寄せ5、上部管寄せと気水分離器6とを連結する連結管7、連結管7から送られてくる気水混合物を旋回させる旋回流形成部8と、上部管寄せ5と気水分離器6とを旋回流形成部8の下方で連結するバイパス管9と、旋回流形成部8で飽和水と分離された蒸気を排気する蒸気配管10と、気水分離器6と下部管寄せ4とを連結する戻り管11と、気水分離器6に給水する給水管12と、を備えている。燃焼バーナーは図示省略されており、燃焼制御には、多段制御もしくは比例制御が用いられる。
【0022】
第1実施形態の旋回流形成部8は、気水分離器6内に固定された案内羽根8aによって形成されており、水管3で沸騰した蒸気が飽和水を伴い連結管7を通って案内羽根8aの上部空間6aに送られると、蒸気と飽和水の気水混合物は案内羽根8aを通過する際に旋回流となり、案内羽根8aの下方空間6bに気水混合物の旋回流を生じさせ、遠心力の作用下で蒸気と飽和水が密度差により遠心分離され、蒸気は蒸気配管10から排出され、飽和水は旋回流となり、戻り管11を通して下部管寄せ4に戻される。
【0023】
バイパス管9は、図2に拡大して示すように、吐出口9aが形成された先端部9bが、気水分離器6内に突出して延設されている。先端部9bを気水分離器6内に突出させることにより、バイパス管9は、飽和水の旋回流Fの遠心力を受けにくくなる。その結果、低負荷域では必要な循環水量の流入を妨げず、また、高負荷域では飽和水がボイラの側へ逆流することを防ぐことができる。
【0024】
バイパス管9の先端部9bの吐出口9aは、気水分離器6の内壁面から離れた位置にあって、飽和水の旋回流Fの旋回方向の下流側に向けて開口している。斯かる構成により、バイパス管9の先端部9bは吐出口9aと反対側の周側面で飽和水の旋回流Fを受けるため、飽和水の旋回流Fの遠心力の影響がいっそう軽減され、低負荷域での必要な循環水量の流入を妨げず、また、高負荷域では飽和水がボイラの側へ逆流することを防ぐ効果をいっそう高めることができる。バイパス管9の先端部9bの吐出口9aは、複数としてもよいし、一つにしてもよい。
【0025】
また、バイパス管9の先端部9bは、その先端面9cが閉じられており、先端部9bの側面に吐出口9aが形成されることにより、低負荷域での必要な循環水量の流入を妨げず、また、高負荷域では飽和水がボイラの側へ逆流することを防ぐ効果を更に高めることができる。
【0026】
バイパス管9は、連結管7より内径の小さい管を採用し、連結管7に比べて気水混合物が通りにくくしておくことが望ましい。バイパス管9に絞り(図示せず。)を介在させてもよい。
【0027】
図3は、本発明に係る多管式貫流ボイラの第2実施形態を示しており、第2実施形態では、バイパス管9の先端部9bの吐出口9aが、管端を斜めにカットした形状とされている。この場合も、吐出口9aは旋回流Fの下流側を向いて開口しているため、第1実施形態と同様の技術的効果が得られる。
【0028】
図4は、本発明に係る多管式貫流ボイラの第3実施形態を示している。第3実施形態においては、バイパス管9に制御弁13が介在され、ボイラ負荷が設定値以下の時に制御弁13を開くように制御する制御装置14と、を備えている。
【0029】
ボイラ負荷は、ボイラの燃焼バーナー(図示せず。)による燃焼量であり、燃焼量は燃焼バーナーに供給する燃料ガスの流量に比例するため、燃料ガスの流量を流量計で計測することにより知ることができる。ボイラの燃焼量(実際ボイラ負荷b)が所定の燃焼量(設定ボイラ負荷a)以下となった場合に、制御弁が「開」となるように制御することにより、制御弁13により循環水量の確保が必要な低負荷燃焼運転時のみ確実に気水分離器6内にボイラ本体2からの気水混合物を供給し、循環水量の確保を可能にする。また、循環水量が確保でき制御弁13が不要となる高負荷燃焼時においては制御弁が「閉」となることで、制御弁13から上部管寄せ5に飽和水が逆流することによる乾き度の低下を防止し得る。
【0030】
図5は、本発明に係る多管式管流ボイラの第4実施形態を示している。第4実施形態では、バイパス管9は、上部管寄せ5への連結位置より低い位置で気水分離器6に連結されている。水管3で発生する高温蒸気は上昇する傾向にあるため、斯かる構成により、上部管寄せ5からバイパス管9を通って気水分離器6へ蒸気が入りにくく、また、気水分離器6からの飽和水の逆流も制限され得る。
【0031】
また、図5に示す第4実施形態では、バイパス管9は、気水分離器6の給水管12の接続位置と同レベルの高さ位置で気水分離器6に連結されている。給水管12を流れる水には、ボイラの腐食防止のために水酸化ナトリウム等の薬剤が所定量添加されており、バイパス管9と給水管12とを同レベルの高さ位置で気水分離器6に連結しておくことにより、バイパス管9からの飽和水と給水管12からの給水とが迅速に混合され、薬剤の迅速な攪拌がなされ得る。また、給水管12は通常、気水分離器6のニュートラルレベルの水位より低い位置に設けられており、バイパス管9を給水管12と同レベルの高さ位置に連結することで、バイパス管9の先端部吐出口は蒸気配管10の入口10aから十分離れた位置に設置されることとなり、バイパス管9からの気水混合物が蒸気配管10から排出されにくくなり、蒸気配管10から排気される蒸気の乾き度の低下を防ぐことができる。
【0032】
図6は、本発明に係る多管式管流ボイラの第5実施形態を示し、旋回流形成部8が遠心ノズル8bで構成されている点が上記第1実施形態と相違し、その他の構成は上記第1実施形態と同様であるので、詳細な説明を省略する。旋回流形成部は、第1実施形態、第5実施形態の態様に限らず、連結管7からの気水混合物の流れを旋回流にする他の形態のものを採用し得る。
【0033】
本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 多管式貫流ボイラ
2 ボイラ本体
3 水管
4 下部管寄せ
5 上部管寄せ
6 気水分離器
7 連結管
8 旋回流形成部
9 バイパス管
9a 吐出口
9b 先端部
12 給水管
13 制御弁
14 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8