特許第6389727号(P6389727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6389727内燃機関の可変バルブタイミング制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6389727
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】内燃機関の可変バルブタイミング制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20180903BHJP
   F01L 1/356 20060101ALI20180903BHJP
【FI】
   F02D13/02 G
   F01L1/356 E
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-212407(P2014-212407)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-79899(P2016-79899A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100139066
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大江 修平
(72)【発明者】
【氏名】戸田 翔大
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 慶
(72)【発明者】
【氏名】横山 友
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 俊希
【審査官】 戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−255499(JP,A)
【文献】 特開2014−181676(JP,A)
【文献】 特開2010−138698(JP,A)
【文献】 特開2010−285986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/02
F01L 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(11)のクランク軸(12)に対するカム軸(16)の回転位相(以下「カム軸位相」という)を変化させてバルブタイミングを調整する油圧駆動式の可変バルブタイミング装置(18)と、
前記カム軸位相を所定のロック位相でロックするロック位置と前記カム軸位相のロックを解除するロック解除位置との間を移動可能なロックピン(30,31)を有するロック機構(28)と、
前記可変バルブタイミング装置(18)及び前記ロック機構(28)を駆動する油圧を制御する油圧制御弁(40)と、
前記油圧制御弁(40)の制御モードを、前記可変バルブタイミング装置(18)の進角室(26)に作動油を供給して前記カム軸位相を進角させる進角モードと、前記可変バルブタイミング装置(18)の遅角室(27)に作動油を供給して前記カム軸位相を遅角させる遅角モードと、前記進角室(26)及び前記遅角室(27)の油圧を保持して前記カム軸位相を保持する保持モードと、前記ロック機構(28)の油圧室(35)の油圧を抜いて前記ロックピン(30,31)を前記ロック位置に移動させるロックモードと、前記ロックピン(30,31)の前記ロック位置への移動により形成される空間部(以下「背面空間部」という)(39)に作動油を充填する充填モードとの間で切り換える制御手段(21)とを備えた内燃機関の可変バルブタイミング制御装置において、
前記制御手段(21)は、前記カム軸位相のロック要求が発生したときに、前記ロックモードに切り換えて前記ロックピン(30,31)を前記ロック位置に移動させた状態で、前記充填モードに切り換えて前記背面空間部(39)に作動油を充填した後に前記ロックモードに戻すロック時充填制御を実行するものであり、
前記背面空間部への作動油の充填は、前記ロックピンの前記ロック位置への移動が完了した後に開始されることを特徴とする内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項2】
前記制御手段(21)は、前記充填モード時に、前記進角室(26)と前記遅角室(27)とが連通した状態で前記進角室(26)と前記遅角室(27)のうちの一方に作動油を供給することで、前記背面空間部を介して前記進角室(26)と前記遅角室(27)の両方に作動油を充填することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項3】
前記制御手段(21)は、前記カム軸位相のロック要求が解除されるまで、所定期間が経過する毎に前記ロック時充填制御を繰り返し実行することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項4】
前記制御手段(21)は、前記内燃機関(11)の回転速度と前記作動油の温度のうちの少なくとも一方に応じて前記所定期間を設定することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項5】
前記制御手段(21)は、前記カム軸位相のロック要求が発生したときに、前記ロックモードに切り換える前に、前記進角室(26)と前記遅角室(27)のうち前記充填モードで最初に作動油が充填される油圧室と反対側の油圧室に作動油を供給するモードに切り換えることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【請求項6】
内燃機関(11)のクランク軸(12)に対するカム軸(16)の回転位相(以下「カム軸位相」という)を変化させてバルブタイミングを調整する油圧駆動式の可変バルブタイミング装置(18)と、
前記カム軸位相を所定のロック位相でロックするロック位置と前記カム軸位相のロックを解除するロック解除位置との間を移動可能なロックピン(30,31)を有するロック機構(28)と、前記可変バルブタイミング装置(18)及び前記ロック機構(28)を駆動する油圧を制御する油圧制御弁(40)と、
前記油圧制御弁(40)の制御モードを、前記可変バルブタイミング装置(18)の進角室(26)に作動油を供給して前記カム軸位相を進角させる進角モードと、前記可変バルブタイミング装置(18)の遅角室(27)に作動油を供給して前記カム軸位相を遅角させる遅角モードと、前記進角室(26)及び前記遅角室(27)の油圧を保持して前記カム軸位相を保持する保持モードと、前記ロック機構(28)の油圧室(35)の油圧を抜いて前記ロックピン(30,31)を前記ロック位置に移動させるロックモードと、前記ロックピン(30,31)の前記ロック位置への移動により形成される空間部(以下「背面空間部」という)(39)に作動油を充填する充填モードとの間で切り換える制御手段(21)とを備えた内燃機関の可変バルブタイミング制御装置において、
前記制御手段(21)は、前記内燃機関(11)の停止要求が発生したときに、前記充填モードに切り換えて前記背面空間部(39)に作動油を充填した後に前記ロックモードに戻す停止時充填制御を実行するものであり、
前記制御手段(21)は、前記内燃機関(11)の停止要求が発生したときに、前記ロックモードであるか否かを判定し、前記ロックモードではないと判定された場合には、前記ロックモードに切り換えて前記ロックピン(30,31)を前記ロック位置に移動させた状態で、前記停止時充填制御を実行するものであり、
前記背面空間部への作動油の充填は、前記ロックピンの前記ロック位置への移動が完了した後に開始されることを特徴とする内燃機関の可変バルブタイミング制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相(カム軸位相)を所定のロック位相でロックするロック機構を備えた内燃機関の可変バルブタイミング制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載される内燃機関においては、出力向上、燃費節減、エミッション低減等を目的として、内燃機関のクランク軸に対するカム軸の回転位相(カム軸位相)を変化させて吸気バルブや排気バルブのバルブタイミング(開閉タイミング)を変化させる可変バルブタイミング装置を搭載したものがある。
【0003】
油圧駆動式の可変バルブタイミング装置においては、例えば、特許文献1(特開2010−285986号公報)に記載されたものがある。このものは、カム軸位相を所定のロック位相でロックするロックピンを設け、例えばアイドル運転中等にカム軸位相のロック要求が発生したときに、ロックピンの作動油圧を抜いてロックピンをロック位置に移動させて嵌合穴に嵌め込むことで、カム軸位相をロックするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−285986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、ロックピンを嵌合穴に容易に嵌め込むことができるように、ロックピンと嵌合穴との間にはクリアランスが設けられている。このため、ロックピンを嵌合穴に嵌め込んでカム軸位相をロックした状態のときに、カム軸のトルク変動によってロックピンが嵌合穴内で振動して異音(ガタ打ち音)が発生する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、位相ロック時のロックピンの振動による異音を抑制することができる内燃機関の可変バルブタイミング制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、内燃機関(11)のクランク軸(12)に対するカム軸(16)の回転位相(以下「カム軸位相」という)を変化させてバルブタイミングを調整する油圧駆動式の可変バルブタイミング装置(18)と、カム軸位相を所定のロック位相でロックするロック位置とカム軸位相のロックを解除するロック解除位置との間を移動可能なロックピン(30,31)を有するロック機構(28)と、可変バルブタイミング装置(18)及びロック機構(28)を駆動する油圧を制御する油圧制御弁(40)と、この油圧制御弁(40)の制御モードを、可変バルブタイミング装置(18)の進角室(26)に作動油を供給してカム軸位相を進角させる進角モードと、可変バルブタイミング装置(18)の遅角室(27)に作動油を供給してカム軸位相を遅角させる遅角モードと、進角室(26)及び遅角室(27)の油圧を保持してカム軸位相を保持する保持モードと、ロック機構(28)の油圧室(35)の油圧を抜いてロックピン(30,31)をロック位置に移動させるロックモードと、ロックピン(30,31)のロック位置への移動により形成される空間部(以下「背面空間部」という)(39)に作動油を充填する充填モードとの間で切り換える制御手段(21)とを備えた内燃機関の可変バルブタイミング制御装置において、制御手段(21)は、カム軸位相のロック要求が発生したときに、ロックモードに切り換えてロックピン(30,31)をロック位置に移動させた状態で、充填モードに切り換えて背面空間部(39)に作動油を充填した後にロックモードに戻すロック時充填制御を実行するものであり、背面空間部への作動油の充填は、ロックピンのロック位置への移動が完了した後に開始されるようにしたものである。
【0008】
本出願人の研究によると、ロックピンをロック位置に移動させてカム軸位相をロックした状態のときに、背面空間部(ロックピンのロック位置への移動により形成される空間部)が空気で満たされていると、ロックピンの振動をあまり減衰させることができず、ロックピンの振動による異音(ガタ打ち音)が大きくなることが判明した。
【0009】
そこで、本発明では、充填モードにより背面空間部に作動油を充填できることに着目して、カム軸位相のロック要求が発生したときに、ロックモードに切り換えてロックピンをロック位置に移動させた状態で、充填モードに切り換えて背面空間部に作動油を充填した後にロックモードに戻すロック時充填制御を実行するようにしている。
【0010】
このようにすれば、位相ロック時(ロックピンをロック位置に移動させてカム軸位相をロックした状態のとき)に、ロック時充填制御によって背面空間部に作動油を充填してロックピンの周辺部を作動油で満たすことができる。これにより、位相ロック時にカム軸のトルク変動によってロックピンの振動が発生しても、背面空間部に充填された作動油(ロックピンの周辺部の作動油)のダンピング効果によってロックピンの振動を減衰させることができ、位相ロック時のロックピンの振動による異音(ガタ打ち音)を抑制することができる。
【0011】
また、制御手段(21)は、内燃機関(11)の停止要求が発生したときに、充填モードに切り換えて背面空間部(39)に作動油を充填した後にロックモードに戻す停止時充填制御を実行するようにしても良い。このようにすれば、次回のエンジン始動時(例えばアイドルストップ後の始動時)における位相ロック時のロックピンの振動による異音(ガタ打ち音)を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の実施例1における可変バルブタイミング制御システムの概略構成を示す図である。
図2図2(a)はロック解除状態を示す中間ロック機構の断面図であり、図2(b)はロック状態を示す中間ロック機構の断面図である。
図3図3は油圧制御弁の制御モードを説明する図である。
図4図4は実施例1のロック時充填制御の実行例を示すタイムチャートである。
図5図5は実施例1のロック時充填制御を説明する図である。
図6図6は実施例1のロック時充填制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
図7図7は実施例2のロック時充填制御の実行例を示すタイムチャートである。
図8図8は実施例2のロック時充填制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
図9図9は実施例3のロック時充填制御の実行例を示すタイムチャートである。
図10図10は実施例3のロック時充填制御を説明する図である。
図11図11は実施例3のロック時充填制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
図12図12は実施例4の停止時充填制御の実行例を示すタイムチャートである。
図13図13は実施例4の停止時充填制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例1を図1乃至図6に基づいて説明する。
まず、図1に基づいて可変バルブタイミング制御システムの概略構成を説明する。
内燃機関であるエンジン11は、クランク軸12からの動力がタイミングチェーン13(又はタイミングベルト)より各スプロケット14,15を介して吸気側カム軸16と排気側カム軸17とに伝達されるようになっている。吸気側カム軸16には、油圧駆動式の可変バルブタイミング装置18が設けられ、この可変バルブタイミング装置18によってクランク軸12に対する吸気側カム軸16の回転位相(以下「カム軸位相」という)を変化させることで、吸気側カム軸16によって開閉駆動される吸気バルブ(図示せず)のバルブタイミング(開閉タイミング)を変化させるようになっている。
【0015】
また、吸気側カム軸16の外周側には、特定のカム角でカム角信号を出力するカム角センサ19が設置され、クランク軸12の外周側には、所定クランク角毎にクランク角信号を出力するクランク角センサ20が設置されている。このクランク角センサ20の出力信号に基づいてエンジン回転速度が検出され、カム角センサ19の出力信号とクランク角センサ20の出力信号とに基づいて実カム軸位相(実バルブタイミング)が検出される。
【0016】
これらのセンサ19,20や他の各種センサ(例えば、スロットル開度センサ、吸気圧センサ、冷却水温センサ等)の出力は、電子制御ユニット(以下「ECU」と表記する)21に入力される。このECU21は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御用のプログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて、燃料噴射量、点火時期、スロットル開度(吸入空気量)等を制御する。
【0017】
また、ECU21は、エンジン運転状態等に応じて目標カム軸位相(目標バルブタイミング)を算出し、実カム軸位相(実バルブタイミング)を目標カム軸位相に一致させるように可変バルブタイミング装置18を駆動する油圧を制御する。
【0018】
可変バルブタイミング装置18のハウジング22は、スプロケット14と一体的に回転するように設けられ、スプロケット14とハウジング22がクランク軸12と同期して回転する。一方、ハウジング22内に配置されたロータ23は、吸気側カム軸16と一体的に回転するように設けられている。また、ハウジング22の内部には複数のベーン収納室24が形成されると共に、ロータ23の外周部には複数のベーン25が形成され、各ベーン収納室24がそれぞれベーン25によって進角室26(進角用の油圧室)と遅角室27(遅角用の油圧室)とに区画されている。
【0019】
また、可変バルブタイミング装置18には、カム軸位相を所定のロック位相でロックするロック機構28が、いずれか一つ(又は複数)のベーン25に設けられている。ここで、ロック位相は、カム軸位相の調整可能範囲の最遅角位置と最進角位置との間(例えば略中間)に位置する中間ロック位相(例えばエンジン11の始動に適したカム軸位相)に設定されている。尚、ロック位相は、中間ロック位相に限定されず、カム軸位相の調整可能範囲の最遅角位置や最進角位置に設定しても良い。
【0020】
次に、図2に基づいてロック機構28の構成を説明する。
図2に示すように、いずれか一つ(又は複数)のベーン25には、ロックピン収容孔29が設けられ、このロックピン収容孔29に、ハウジング22とロータ23(ベーン25)との相対回動をロックするためのロックピンとしてインナーピン30及びアウターピン31が収容されている。ロックピン収容孔29の中心側にインナーピン30が配置され、このインナーピン30の外周側にアウターピン31が配置されている。これらのロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)は、カム軸位相をロック位相でロックするロック位置[図2(b)参照]と、カム軸位相のロックを解除するロック解除位置[図2(a)参照]との間を移動可能に設けられ、それぞれスプリング32,33によってロック方向(ロック位置に向かう方向)に付勢されている。
【0021】
図2(b)に示すように、ロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)がロック位置に移動して、インナーピン30の先端部がハウジング22の嵌合穴34に嵌まり込むことで、ハウジング22とロータ23(ベーン25)との相対回動が阻止されて、カム軸位相がロック位相でロックされるようになっている。
【0022】
一方、図2(a)に示すように、ロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)がロック解除位置に移動して、インナーピン30の先端部がハウジング22の嵌合穴34から抜け出ることで、ハウジング22とロータ23(ベーン25)との相対回動が許容されて、カム軸位相のロックが解除されるようになっている。
【0023】
また、ロックピン収容孔29内のうちアウターピン31に対してスプリング33と反対側には、ロックピン収容孔29の内周面とインナーピン30の外周面とアウターピン31等によって囲まれたロック解除用油圧室35が形成されている。更に、ベーン25には、大気側とロックピン収容孔29とを連通させる大気連通路36と、進角室26とロックピン収容孔29とを連通させる進角連通路37と、遅角室27とロックピン収容孔29とを連通させる遅角連通路38が形成されている。
【0024】
図2(a)に示すように、ロック解除用油圧室35に作動油を充填してロック解除用油圧室35の油圧を上昇させると、その油圧によってアウターピン31がロック解除方向(ロック解除位置に向かう方向)に移動すると共に、インナーピン30の鍔部がアウターピン31に押されてインナーピン30がロック解除方向に移動して、インナーピン30及びアウターピン31がロック解除位置に移動する。これにより、インナーピン30の先端部がハウジング22の嵌合穴34から抜け出て、カム軸位相のロックが解除される(ハウジング22とロータ23との相対回動が許容される)。また、インナーピン30及びアウターピン31がロック解除位置に移動すると、アウターピン31によって連通路36〜38が閉鎖される。
【0025】
一方、図2(b)に示すように、ロック解除用油圧室35の油圧を抜くと、スプリング33のバネ力によってアウターピン31がロック方向に移動すると共に、スプリング32のバネ力によってインナーピン30がロック方向に移動して、インナーピン30及びアウターピン31がロック位置に移動する。これにより、インナーピン30の先端部がハウジング22の嵌合穴34に嵌まり込んで、カム軸位相がロック位相でロックされる(ハウジング22とロータ23との相対回動が阻止される)。
【0026】
また、インナーピン30及びアウターピン31がロック位置に移動する際には、まず、アウターピン31によって大気連通路36が開放されて、インナーピン30及びアウターピン31のロック位置への移動により形成される空間部(以下「背面空間部」という)39に大気(空気)が導入される。これにより、インナーピン30及びアウターピン31が円滑に移動することができる。更に、アウターピン31によって進角連通路37及び遅角連通路38が開放されて、背面空間部39を介して進角室26と遅角室27とが連通した状態になる。
【0027】
図1に示すように、可変バルブタイミング装置18及び中間ロック機構28を駆動する油圧を制御する油圧制御弁40は、カム軸位相を駆動する油圧を制御する位相制御用の油圧制御機能とロックピンを駆動する油圧を制御するロック制御用の油圧制御機能とを一体化した油圧制御弁(例えば電磁駆動式のスプール弁)により構成されている。エンジン11の動力によって駆動されるオイルポンプ41より、オイルパン42内のオイル(作動油)が汲み上げられて油圧制御弁40に供給される。
【0028】
図3に示すように、油圧制御弁40の制御量(スプールストローク)は、ロックモードと充填モードと進角モードと保持モードと遅角モードの五つの制御領域に区分されている。ECU21(制御手段)は、油圧制御弁40の制御モードをロックモードと充填モードと進角モードと保持モードと遅角モードとの間で切り換えて、油圧制御弁40の制御量をその制御モードの制御領域内に設定する。
【0029】
ロックモード[図5(a)参照]の制御領域では、ロック解除用油圧室35に連通するピンポートをドレンポートに接続してロック解除用油圧室35の油圧を抜いて、スプリング32,33によってロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック位置に移動させる。これにより、インナーピン30の先端部が嵌合穴34に嵌まり込んでカム軸位相がロック位相でロックされると共に、背面空間部39を介して進角室26と遅角室27とが連通した状態になる。
【0030】
充填モードの制御領域[図5(b)参照]では、ロック解除用油圧室35に連通するピンポートをドレンポートに接続したままにしてロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック位置に保持することで、カム軸位相をロックした状態に保持すると共に、背面空間部39を介して進角室26と遅角室27とが連通した状態に保持する。この状態で、進角室26に連通する進角ポートを供給ポートに接続して進角室26に作動油を供給して、進角室26と遅角室27の両方に作動油を充填する(この際、背面空間部39にも作動油が充填される)。
【0031】
ロックモードと充填モード以外の制御領域(進角モードと保持モードと遅角モードの制御領域)では、ロック解除用油圧室35に連通するピンポートを供給ポートに接続してロック解除用油圧室35に作動油を充填して、ロック解除用油圧室35の油圧によってロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック解除位置に移動させる。これにより、インナーピン30の先端部が嵌合穴34から抜け出てカム軸位相のロックが解除されると共に、連通路36〜38が閉鎖される。
【0032】
進角モードの制御領域では、遅角室27に連通する遅角ポートをドレンポートに接続して遅角室27の油圧を抜くと共に、進角室26に連通する進角ポートを供給ポートに接続して進角室26に作動油を供給してカム軸位相を進角させる。その際、油圧制御弁40の制御量(スプールストローク)に応じて進角室26への作動油の供給量を変化させてカム軸位相の進角速度を変化させる。
【0033】
保持モードの制御領域では、進角室26に連通する進角ポート及び遅角室27に連通する遅角ポートとドレンポートとの接続を遮断して進角室26及び遅角室27の油圧を保持してカム軸位相が動かないように保持する。
【0034】
遅角モードの制御領域では、進角室26に連通する進角ポートをドレンポートに接続して進角室26の油圧を抜くと共に、遅角室27に連通する遅角ポートを供給ポートに接続して遅角室27に作動油を供給してカム軸位相を遅角させる。その際、油圧制御弁40の制御量(スプールストローク)に応じて遅角室27への作動油の供給量を変化させてカム軸位相の遅角速度を変化させる。
【0035】
ECU21は、エンジン運転状態等に応じて目標カム軸位相(目標バルブタイミング)を算出し、実カム軸位相(実バルブタイミング)を目標カム軸位相に一致させるように油圧制御弁40の制御量をF/B制御して可変バルブタイミング装置18の進角室26と遅角室27に供給する油圧をF/B制御する位相F/B制御を実行する。ここで、「F/B」は「フィードバック」を意味する(以下、同様)。この位相F/B制御の制御領域は、進角モードと保持モードと遅角モードの制御領域に跨がっている。
【0036】
また、ECU21は、例えばアイドル運転中等にカム軸位相のロック要求が発生したときには、まず、目標カム軸位相をロック位相に設定して、位相F/B制御により実カム軸位相をロック位相(目標カム軸位相)に制御する。この後、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに切り換えて(油圧制御弁40の制御量をロックモードの制御領域内に設定して)、ロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック位置に移動させる。これにより、インナーピン30の先端部を嵌合穴34に嵌め込んでカム軸位相をロック位相でロックする。
【0037】
ところで、インナーピン30を嵌合穴34に容易に嵌め込むことができるように、インナーピン30と嵌合穴34との間にはクリアランスが設けられている。このため、インナーピン30を嵌合穴34に嵌め込んでカム軸位相をロックした状態のときに、カム軸16のトルク変動によってインナーピン30が嵌合穴34内で振動して異音(ガタ打ち音)が発生する可能性がある。
【0038】
上述したように、ロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)がロック位置に移動する際には、アウターピン31によって大気連通路36が開放されて、背面空間部39(ロックピンのロック位置への移動により形成される空間部)に大気(空気)が導入される[図5(a)参照]。本出願人の研究によると、ロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック位置に移動させてカム軸位相をロックした状態のときに、背面空間部39が空気で満たされていると、インナーピン30の振動をあまり減衰させることができず、インナーピン30の振動による異音(ガタ打ち音)が大きくなることが判明した。
【0039】
そこで、本実施例では、充填モードにより背面空間部39に作動油を充填できることに着目して、ECU21により後述する図6のロック時充填制御ルーチンを実行することで、次のような制御を行う。カム軸位相のロック要求が発生したときに、ロックモードに切り換えてロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック位置に移動させた状態で、充填モードに切り換えて背面空間部39に作動油を充填した後にロックモードに戻すロック時充填制御を実行する。
【0040】
具体的には、図4に示すように、カム軸位相のロック要求が発生した時点t1 (ロック要求フラグがONに切り換わった時点)で、目標カム軸位相をロック位相に設定して、位相F/B制御により実カム軸位相をロック位相(目標カム軸位相)に制御する。例えば、実カム軸位相を進角させてロック位相に制御する場合には、油圧制御弁40の制御モードを進角モードに切り換えた後に保持モードに戻す。
【0041】
この後、実カム軸位相がロック位相とほぼ一致したと判定した時点t2 で、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに切り換えて(油圧制御弁40の制御量をロックモードの制御領域内に設定して)、ロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック位置に移動させる[図5(a)参照]。これにより、インナーピン30の先端部を嵌合穴34に嵌め込んでカム軸位相をロック位相でロックすると共に、背面空間部39を介して進角室26と遅角室27とが連通した状態にする。
【0042】
この状態で、ロック時充填制御を実行する。このロック時充填制御では、まず、油圧制御弁40の制御モードを充填モードに切り換えて(油圧制御弁40の制御量を充填モードの制御領域内に設定して)、進角室26に作動油を供給して、進角室26と遅角室27の両方に作動油を充填すると共に背面空間部39に作動油を充填する[図5(b)参照]。この充填モードを所定時間継続した後、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに戻して、進角室26への作動油の供給を停止する[図5(c)参照]。
【0043】
このロック時充填制御によって背面空間部39に作動油を充填してインナーピン30の周辺部(先端部と反対側の周辺部)を作動油で満たすことができ、背面空間部39に充填された作動油(インナーピン30の周辺部の作動油)のダンピング効果によってインナーピン30の振動を減衰させることができる。
【0044】
以下、本実施例1でECU21が実行する図6のロック時充填制御ルーチンの処理内容を説明する。
【0045】
図6に示すロック時充填制御ルーチンは、ECU21の電源オン期間中に所定周期で繰り返し実行される。
本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、カム軸位相のロック要求が発生したか否かを判定し、ロック要求が発生したと判定された時点で、ステップ102に進み、目標カム軸位相をロック位相に設定して、位相F/B制御により実カム軸位相をロック位相(目標カム軸位相)に制御する。
【0046】
この後、ステップ103に進み、実カム軸位相がロック位相とほぼ一致したか否かを、例えば、実カム軸位相とロック位相との差(絶対値)が所定値以下になったか否かによって判定する。
【0047】
このステップ103で、実カム軸位相がロック位相とほぼ一致したと判定された時点で、ステップ104に進み、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに切り換えて、ロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック位置に移動させる。これにより、インナーピン30の先端部を嵌合穴34に嵌め込んでカム軸位相をロック位相でロックすると共に、背面空間部39を介して進角室26と遅角室27とが連通した状態にする。
【0048】
この後、ステップ105,106でロック時充填制御を実行する。まず、ステップ105に進み、油圧制御弁40の制御モードを充填モードに切り換えて、進角室26に作動油を供給して、進角室26と遅角室27の両方に作動油を充填すると共に背面空間部39に作動油を充填する。この充填モードは、所定時間(背面空間部39に作動油を充填するのに必要な時間)継続する。この後、ステップ106に進み、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに戻して、進角室26への作動油の供給を停止する。
この後、ステップ107に進み、カム軸位相のロック要求が解除されたか否かを判定し、ロック要求が解除されたと判定された時点で、本ルーチンを終了する。
【0049】
以上説明した本実施例1では、カム軸位相のロック要求が発生したときに、ロックモードに切り換えてロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック位置に移動させた状態で、充填モードに切り換えて背面空間部39に作動油を充填した後にロックモードに戻すロック時充填制御を実行するようにしている。このようにすれば、位相ロック時(ロックピンをロック位置に移動させてカム軸位相をロックした状態のとき)に、ロック時充填制御によって背面空間部39に作動油を充填してインナーピン30の周辺部(先端部と反対側の周辺部)を作動油で満たすことができる。これにより、位相ロック時にカム軸16のトルク変動によってインナーピン30の振動が発生しても、背面空間部39に充填された作動油(インナーピン30の周辺部の作動油)のダンピング効果によってインナーピン30の振動を減衰させることができ、位相ロック時のインナーピン30の振動による異音(ガタ打ち音)を抑制することができる。
【実施例2】
【0050】
次に、図7及び図8を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0051】
本実施例2では、ECU21により後述する図8のロック時充填制御ルーチンを実行することで、図7に示すように、カム軸位相のロック要求が発生したときに、ロックモードに切り換えた状態で、ロック時充填制御を実行した後、ロック要求が解除されるまで、所定時間が経過する毎にロック時充填制御を繰り返し実行するようにしている。
【0052】
以下、本実施例2でECU21が実行する図8のロック時充填制御ルーチンの処理内容を説明する。
図8に示すロック時充填制御ルーチンでは、まず、ステップ201で、カム軸位相のロック要求が発生したか否かを判定し、ロック要求が発生したと判定された時点で、ステップ202に進み、目標カム軸位相をロック位相に設定して、位相F/B制御により実カム軸位相をロック位相(目標カム軸位相)に制御する。
【0053】
この後、ステップ203に進み、実カム軸位相がロック位相とほぼ一致したか否かを判定し、実カム軸位相がロック位相とほぼ一致したと判定された時点で、ステップ204に進み、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに切り換えて、ロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック位置に移動させる。
【0054】
この後、ロック時充填制御を実行する。まず、ステップ205で、油圧制御弁40の制御モードを充填モードに切り換えて、進角室26に作動油を供給して、進角室26と遅角室27の両方に作動油を充填すると共に背面空間部39に作動油を充填した後、ステップ206で、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに戻す。
【0055】
この後、ステップ207に進み、所定時間(ロック時充填制御を定期的に実行する際の時間間隔)を設定する。具体的には、所定時間のマップ(図示せず)を参照して、エンジン回転速度と油温(作動油の温度)に応じた所定時間を設定する。ここで、エンジン回転速度が高いほど背面空間部39内の作動油が抜け易くなり、また、油温が高い(つまり作動油の粘度が低い)ほど背面空間部39内の作動油が抜け易くなる傾向がある。このような特性を考慮して、所定時間のマップは、エンジン回転速度が高くなるほど所定時間が短くなり、また、油温が高くなるほど所定時間が短くなるように設定されている。この所定時間のマップは、予め試験データや設計データ等に基づいて作成され、ECU21のROMに記憶されている。
【0056】
この後、ステップ208に進み、カム軸位相のロック要求が解除されたか否かを判定し、ロック要求が解除されていないと判定された場合には、ステップ209〜212の処理を繰り返し実行する。
【0057】
まず、ステップ209に進み、ロック時充填制御を終了してから所定時間が経過したか否かを、ロック時充填制御を終了した時点(例えば油圧制御弁40の制御モードをロックモードに戻した時点)からの経過時間を計測するタイマのカウント値が所定時間に到達したか否かによって判定する。このステップ209で、ロック時充填制御を終了してから所定時間が経過していないと判定された場合には、上記ステップ208に戻る。
【0058】
その後、上記ステップ209で、ロック時充填制御を終了してから所定時間が経過したと判定された時点で、ロック時充填制御を実行する。まず、ステップ210で、油圧制御弁40の制御モードを充填モードに切り換えて、進角室26に作動油を供給して、進角室26と遅角室27の両方に作動油を充填すると共に背面空間部39に作動油を充填した後、ステップ211で、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに戻す。この後、ステップ212に進み、タイマのカウント値をリセットして、上記ステップ208に戻る。
その後、上記ステップ208で、ロック要求が解除されたと判定された時点で、本ルーチンを終了する。
【0059】
以上説明した本実施例2では、カム軸位相のロック要求が発生したときに、ロックモードに切り換えた状態で、ロック時充填制御(充填モードに切り換えて背面空間部39に作動油を充填した後にロックモードに戻す制御)を実行した後、ロック要求が解除されるまで、所定時間が経過する毎にロック時充填制御を繰り返し実行するようにしている。これにより、カム軸位相のロック要求が比較的長く継続する場合でも、定期的にロック時充填制御を実行して背面空間部39を作動油で満たした状態に維持することができ、且つ、充填制御を長時間継続することにより生じるエンジン油圧の低下などの弊害を最小限に留めることができるため、カム軸位相のロック要求が解除されるまで効果的に異音抑制効果を持続させることができる。
【0060】
また、本実施例2では、エンジン回転速度と油温に応じて所定時間(ロック時充填制御を定期的に実行する際の時間間隔)を設定するようにしている。これにより、エンジン回転速度や油温に応じて、背面空間部39内の作動油の抜け易さ(又は抜け難さ)が変化するのに対応して、所定時間を変化させて、所定時間を適正な間隔(背面空間部39を作動油で満たした状態に維持するのに適した間隔)に設定することができる。
【0061】
尚、上記実施例2では、エンジン回転速度と油温の両方に応じて所定時間を設定するようにしたが、これに限定されず、エンジン回転速度と油温のうちの一方のみに応じて所定時間を設定するようにしても良い。或は、所定時間を予め設定した固定値としても良い。
【実施例3】
【0062】
次に、図9乃至図11を用いて本発明の実施例3を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0063】
充填モードでは、進角室26に作動油を供給して、進角室26、背面空間部39、遅角室27の順で作動油が充填されていくため、場合によっては遅角室27に作動油を十分に充填できない可能性がある(例えば遅角室27内に空気が残る可能性がある)。
【0064】
そこで、本実施例3では、ECU21により後述する図11のロック時充填制御ルーチンを実行することで、カム軸位相のロック要求が発生したときに、ロックモードに切り換える前に、遅角モード(進角室26と遅角室27のうち充填モードで最初に作動油が充填される油圧室と反対側の油圧室に作動油を供給するモード)に切り換えるようにしている。
【0065】
具体的には、図9に示すように、カム軸位相のロック要求が発生した時点t1 (ロック要求フラグがONに切り換わった時点)で、目標カム軸位相を(ロック位相+β)に設定して、位相F/B制御により実カム軸位相を(ロック位相+β)に制御する。
【0066】
この後、実カム軸位相が(ロック位相+β)とほぼ一致したと判定した時点t2 で、油圧制御弁40の制御モードを遅角モードに切り換えて(油圧制御弁40の制御量を遅角モードの制御領域内に設定して)、遅角室27に作動油を供給して、実カム軸位相をロック位相に戻すと共に、遅角室27に作動油を充填する[図10(a)参照]。
【0067】
この後、実カム軸位相がロック位相とほぼ一致したと判定した時点t3 で、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに切り換えて、ロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック位置に移動させる[図10(b)参照]。
【0068】
この後、ロック時充填制御を実行する。このロック時充填制御では、まず、油圧制御弁40の制御モードを充填モードに切り換えて、進角室26に作動油を供給して、進角室26と遅角室27の両方に作動油を充填すると共に背面空間部39に作動油を充填する[図10(c)参照]。この後、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに戻して、進角室26への作動油の供給を停止する。
【0069】
以下、本実施例3でECU21が実行する図11のロック時充填制御ルーチンの処理内容を説明する。
図11に示すロック時充填制御ルーチンでは、まず、ステップ301で、カム軸位相のロック要求が発生したか否かを判定し、ロック要求が発生したと判定された時点で、ステップ302に進み、目標カム軸位相を(ロック位相+β)に設定して、位相F/B制御により実カム軸位相を(ロック位相+β)に制御する。
【0070】
この後、ステップ303に進み、実カム軸位相が(ロック位相+β)とほぼ一致したか否かを、例えば、実カム軸位相と(ロック位相+β)との差(絶対値)が所定値以下になったか否かによって判定する。
【0071】
このステップ303で、実カム軸位相が(ロック位相+β)とほぼ一致したと判定された時点で、ステップ304に進み、油圧制御弁40の制御モードを遅角モードに切り換えて、遅角室27に作動油を供給して、実カム軸位相をロック位相に戻すと共に、遅角室27に作動油を充填する。
【0072】
この後、ステップ305に進み、実カム軸位相がロック位相とほぼ一致したか否かを判定し、実カム軸位相がロック位相とほぼ一致したと判定された時点で、ステップ306に進み、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに切り換えて、ロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック位置に移動させる。
【0073】
この後、ロック時充填制御を実行する。まず、ステップ307で、油圧制御弁40の制御モードを充填モードに切り換えて、進角室26に作動油を供給して、進角室26と遅角室27の両方に作動油を充填すると共に背面空間部39に作動油を充填した後、ステップ308で、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに戻す。
この後、ステップ309に進み、カム軸位相のロック要求が解除されたか否かを判定し、ロック要求が解除されたと判定された時点で、本ルーチンを終了する。
【0074】
以上説明した本実施例3では、カム軸位相のロック要求が発生したときに、ロックモードに切り換える前に、遅角モード(進角室26と遅角室27のうち充填モードで最初に作動油が充填される油圧室と反対側の油圧室に作動油を供給するモード)に切り換えるようにしている。これにより、予め遅角室27に作動油を充填しておく(遅角室27内の空気を抜いておく)ことができるため、充填モードでは、進角室26に作動油を供給して、進角室26、背面空間部39、遅角室27の順で作動油が充填されていくという事情があっても、進角室26と遅角室27の両方に作動油を十分に充填した状態にすることができる。これにより、インナーピン30の振動(ガタ打ち)の加振力も減衰させることができ、異音抑制効果を更に高めることができる。
【0075】
尚、上記実施例3では、充填モードで進角室26に作動油を供給するシステムに本発明を適用したため、ロック要求が発生したときに、ロックモードに切り換える前に、遅角モードに切り換えて、遅角室27に作動油を充填するようにしている。これとは逆に、充填モードで遅角室27に作動油を供給するシステムに本発明を適用する場合には、ロック要求が発生したときに、ロックモードに切り換える前に、進角モードに切り換えて、進角室26に作動油を充填するようにすると良い。
【実施例4】
【0076】
次に、図12及び図13を用いて本発明の実施例4を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0077】
本実施例4では、ECU21により後述する図13の停止時充填制御ルーチンを実行することで、エンジン停止要求が発生したときに、充填モードに切り換えて背面空間部39に作動油を充填した後にロックモードに戻す停止時充填制御を実行するようにしている。
【0078】
具体的には、図12に示すように、エンジン停止要求が発生した時点t1 (エンジン停止要求フラグがONに切り換わった時点)で、油圧制御弁40の制御モードがロックモードであるか否かを判定する。その結果、油圧制御弁40の制御モードがロックモードであると判定された場合(図12参照)には、その時点で、停止時充填制御を実行する。この停止時充填制御では、まず、油圧制御弁40の制御モードを充填モードに切り換えて(油圧制御弁40の制御量を充填モードの制御領域内に設定して)、進角室26に作動油を供給して、進角室26と遅角室27の両方に作動油を充填すると共に背面空間部39に作動油を充填する。この後、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに戻して、進角室26への作動油の供給を停止する。
【0079】
一方、油圧制御弁40の制御モードがロックモードではないと判定された場合(図示せず)には、目標カム軸位相をロック位相に設定して、位相F/B制御により実カム軸位相をロック位相(目標カム軸位相)に制御する。この後、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに切り換えてロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック位置に移動させた状態で、停止時充填制御(充填モードに切り換えて背面空間部29に作動油を充填した後にロックモードに戻す制御)を実行する。
【0080】
以下、本実施例4でECU21が実行する図13の停止時充填制御ルーチンの処理内容を説明する。
図13に示す停止時充填制御ルーチンでは、まず、ステップ401で、エンジン停止要求が発生したか否かを判定し、エンジン停止要求が発生したと判定された時点で、ステップ402に進み、油圧制御弁40の制御モードがロックモードであるか否か(カム軸位相がロック位相でロックされているか否か)を判定する。
【0081】
このステップ402で、油圧制御弁40の制御モードがロックモードである(カム軸位相がロック位相でロックされている)と判定された場合には、その時点で、停止時充填制御を実行する。まず、ステップ406で、油圧制御弁40の制御モードを充填モードに切り換えて、進角室26に作動油を供給して、進角室26と遅角室27の両方に作動油を充填すると共に背面空間部39に作動油を充填した後、ステップ407で、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに戻す。
【0082】
この後、ステップ408に進み、IGスイッチ(イグニッションスイッチ)をOFFして、エンジン11を停止して、本ルーチンを終了する。
【0083】
一方、上記ステップ402で、油圧制御弁40の制御モードがロックモードではない(カム軸位相がロック位相でロックされていない)と判定された場合には、ステップ403に進み、目標カム軸位相をロック位相に設定して、位相F/B制御により実カム軸位相をロック位相(目標カム軸位相)に制御する。
【0084】
この後、ステップ404に進み、実カム軸位相がロック位相とほぼ一致したか否かを判定し、実カム軸位相がロック位相とほぼ一致したと判定された時点で、ステップ405に進み、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに切り換えて、ロックピン(インナーピン30及びアウターピン31)をロック位置に移動させる。
【0085】
この後、停止時充填制御を実行する。まず、ステップ406で、油圧制御弁40の制御モードを充填モードに切り換えて、進角室26に作動油を供給して、進角室26と遅角室27の両方に作動油を充填すると共に背面空間部39に作動油を充填した後、ステップ407で、油圧制御弁40の制御モードをロックモードに戻す。
この後、ステップ408に進み、IGスイッチをOFFして、エンジン11を停止して、本ルーチンを終了する。
【0086】
以上説明した本実施例4では、エンジン停止要求が発生したときに、充填モードに切り換えて背面空間部39に作動油を充填した後にロックモードに戻す停止時充填制御を実行するようにしている。これにより、次回のエンジン始動時(例えばアイドルストップ後の始動時)における位相ロック時のインナーピン30の振動による異音(ガタ打ち音)を抑制することができる。
【0087】
また、本実施例4では、エンジン停止要求が発生したときに、油圧制御弁40の制御モードがロックモードであるか否かを判定し、ロックモードではないと判定された場合には、ロックモードに切り換えてロックピンをロック位置に移動させた状態で、停止時充填制御を実行するようにしている。このようにすれば、エンジン停止要求が発生したときに、ロックモードになっていない場合(カム軸位相がロックされていない場合)でも、ロックモードに切り換えてカム軸位相をロックしてから停止時充填制御を行うことができる。
【0088】
尚、上記各実施例1〜4は、本発明を吸気バルブの可変バルブタイミング装置に適用して具体化した実施例であるが、排気バルブの可変バルブタイミング装置に適用して実施しても良い。
【0089】
その他、本発明は、可変バルブタイミング装置18の構成やロック機構28の構成や油圧制御弁40の構成等を適宜変更しても良い等、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【符号の説明】
【0090】
11…エンジン(内燃機関)、12…クランク軸、16…吸気側カム軸、18…可変バルブタイミング装置、21…ECU(制御手段)、26…進角室、27…遅角室、28…ロック機構、30…インナーピン(ロックピン)、31…アウターピン(ロックピン)、35…ロック解除油圧室、39…背面空間部、40…油圧制御弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13