(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
円筒状のアノード電極とこのアノード電極の内側に蒸着材料を電気的に接続した円柱状のカソード電極を同軸上に配置したアークプラズマ蒸着源から、前記蒸着材料を原子又は分子としてイオン液体に照射し、イオン液体中に蒸着材料のナノ粒子を単分散化して混入形成させたことを特徴とするイオン液体材料の製造方法であって、
前記イオン液体を収容した容器を1〜100rpmの回転数で回転させながら、前記蒸着材料を前記イオン液体に照射する
イオン液体材料の製造方法。
前記アノード電極に印加される電圧は70〜100Vの範囲であり、前記アノード電極と蒸着材料間のアーク放電のためのコンデンサー容量は360〜1800μFの範囲である請求項1または請求項2に記載のイオン液体材料の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係わるイオン液体材料及びこのイオン液体材料の製造方法について、
図1を参照しながら説明する。
【0014】
イオン液体材料及びこのイオン液体材料の製造方法を説明するに当たり、その製造方法に使用されるイオン液体材料の製造装置の構成について説明する。
[イオン液体材料製造装置1]
図1は本発明の第1実施形態に係るイオン液体材料製造装置1の模式図である。
本実施形態に係るイオン液体材料製造装置1は円筒状の真空チャンバ2を備えている。
【0015】
この真空チャンバ2内には、被蒸着材料保持部4が回転自在に設けられている。
被蒸着体保持部4には容器(シャーレ)10が着脱自在に取り付けられている。容器10にはイオン液体7が充填されている。このイオン液体7としてはイミダゾリウム系、ピリジニウム系、アンモニウム系、ホスホニウム系、ピロリジニウム系、ピペリジニウム系の液体が用いられる。
【0016】
イオン液体7のアニオン種が、APD法による金ナノ粒子調製に及ぼす影響を調べるため、カチオンを1-butyl-3-methyl-imidazolium([C4mim]+)に固定し、5種のアニオン、tetrafluoroborate (BF4-)、hexafluorophosphate (PF6-)、trifluoromethylsulfonate ([OTf]-), bis(fluorosulfonyl)amide ([FSA]-)、 bis(trifluoromethanesulfonyl)amide ([TFSA]-)について、APD法により調製される金ナノ粒子のサイズ求めた。
【0017】
1回の調製に用いるイオン液体の量は2ml、調製条件は電圧100V、コンデンサー容量1080μF、試料台回転数10rpmとしショット数は以前の実験の10000回相当とした。
【0018】
[測定結果]
小角X線散乱法により、金ナノ粒子の粒径分布を導出した。
図2に各イオン液体中に調製された金ナノ粒子のSAXSパターンを、
図3にSAXSパターンから導出された粒径分布を示した。それぞれ異なったサイズを有していることがわかる。
これまでの研究から、スパッタ法では調製される金ナノ粒子の大きさが、アニオンのサイズと関係していることが分かっている。したがって、APD法においても調製される金ナノ粒子のサイズはアニオンのサイズによって制御されると考えられる。
【0019】
一方、調製中に液体の温度が80℃程度まで上昇するものの、スパッタで見られた温度によるサイズの増大は見られなかった。
イオン液体7は1-ブチル-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートを使用した。
【0020】
被蒸着材料保持部4の回転に連動して容器10が回転し、容器10内のイオン液体7中にナノ粒子が均一に形成される。回転数は、例えば1〜100rpmが好ましい。これは、1rpm未満だと、イオン液体表面に金属膜が形成される恐れがあり、液体が粘性があり均一に撹拌できないという不都合があり、100rpmを超えると、遠心力でイオン液体の形状が平面でなくなり均一に撹拌できないと共に、イオン液体の粘度によっては、シャーレ外へ漏れ出すという不都合があるためである。
【0021】
また、
図1に示すように、真空チャンバ2内には同軸型真空アーク蒸着源5が収納されている。
【0022】
図1に示すように、同軸型真空アーク蒸着源5は、金属ナノ粒子作製用材料で構成されている円柱状又は円筒状のカソード電極12と、カソード電極12に固定された蒸着材料11と、ステンレス等から構成されている円筒状のアノード電極23と、ステンレス等から構成されている円筒状のトリガ電極(例えば、リング状のトリガ電極)13と、蒸着材料11とトリガ電極13との間に両者を離間させるために設けられた円板状又は円筒状の絶縁碍子(以下、ハット型碍子とも称す)14とから構成されており、これらは同軸状に取り付けられている。
【0023】
蒸着材料11は、容器10に対向して設けられている。蒸着材料11と絶縁碍子14とトリガ電極13との3つの部品は、図示していないが、ネジ等で密着させて同軸状に取り付けられている。
【0024】
アノード電極23は、図示していないが、支柱で真空フランジに容器10に対する角度が変更可能なように取り付けられ、この真空フランジは真空チャンバ11の上面に取り付けられている。
【0025】
カソード電極12は、アノード電極23の内部に同軸状にアノード電極の壁面から一定の距離だけ離して設けられている。カソード電極12は、その少なくとも先端部(アノード電極23の開口部側の端部に相当する)に蒸着材料11が固定されている
【0026】
蒸着材料11は、例えば、金、白金、アルミニウム等の金属材料である。
【0027】
トリガ電極13は、蒸着材料11あるいはカソード電極12との間にアルミナ等から構成された絶縁碍子14を挟んで取り付けられている。
【0028】
絶縁碍子14は蒸着材料11とトリガ電極13とを絶縁するように取り付けられており、また、トリガ電極13は絶縁体を介してカソード電極12に取り付けられていてもよい。これらのアノード電極23とカソード電極12とトリガ電極13とは、絶縁碍子14及び絶縁体により電気的に絶縁が保たれていることが好ましい。この絶縁碍子14と絶縁体とは一体型に構成されたものであっても別々に構成されたものでも良い。
【0029】
カソード電極12とトリガ電極13との間にはパルストランズからなるトリガ電源が接続されており、また、カソード電極12とアノード電極23との間にはアーク電源34が接続されている。アーク電源34は直流電圧源32とコンデンサユニット33とからなり、このコンデンサユニット33の両端は、それぞれ、カソード電極12とアノード電極23とに接続され、コンデンサユニット33と直流電圧源32とは並列接続されている。
同軸型真空アーク蒸着源5では、蒸着材料11とアノード電極23との間にアーク放電が生じる。
【0030】
アノード電極に印加される電圧は70〜100Vが好ましい。これは、70V未満だと放電は発生しないという不都合が生じし、100Vを超えると照射されるイオンの量は増大し粒子の肥大化が起こるという不都合が生じるためである。
【0031】
アーク放電が起こる蒸着材料11の上端面およびその近傍周囲が火点となっている。ここを目掛けてガスを流せばガスは激しく励起されることになる。
上記アノード電極23内にH
2ガスを導入することにより、ナノ粒子の酸化を抑制することが出来た。また同時にN
2ガスもこのガスラインを経由して導入することによりN
2ガスがプラズマにより十分励起され、酸化のない十分窒化しているNb、Ta,Ti、Zrなど窒化物や炭窒化物のナノ粒子を形成できる。
【0032】
コンデンサユニット33は、1つ又は複数個のコンデンサ(
図1では、1個のコンデンサを例示してある)が接続したものであって、その1つの容量が例えば2200μF(耐電圧160V)であり、直流電圧源32により随時充電できるようになっている。
【0033】
トリガ電源13は、入力200Vのμsのパルス電圧を約17倍に変圧して、3.4kV(数μA)、極性:プラスを出力している。
アーク電源34は、100V、数Aの容量の直流電圧源32を有し、この直流電圧源からコンデンサユニット33(例えば、5個のコンデンサユニットの場合、1800Μf)に充電している。この充電時間は約1秒かかるので、本システムにおいて1800μFで放電を繰り返す場合の周期は、3Hzで行われる。
【0034】
トリガ電源32のプラス出力端子は、トリガ電極13に接続され、マイナス端子は、アーク電源34の直流電圧源32のマイナス側出力端子と同じ電位に接続され、カソード電極12に接続されている。アーク電源34の直流電圧源32のプラス端子は、グランド電位に接地され、アノード電極23に接続されている。コンデンサユニット33の両端子は、直流電圧源32のプラス端子及びマイナス端子間に接続されている。
【0035】
図1中、18はコントローラであり、各コントローラは各トリガ電源32に接続されており、各コントローラのスイッチをONにしてこのコントローラに接続された各トリガ電源32に信号を入力すると、このトリガ電源から高電圧が出力されるように構成されている。また、各コントローラ18は、CPU19に接続され、このCPUからの信号(外部信号)により、各コントローラを動作させることができるように構成することが好ましい。
【0036】
真空チャンバ2の壁面には、ガス導入系16及び真空排気系9が接続されている。このガス導入系16は、バルブ61、マスフローコントローラー62、バルブ63及び酸素ガスボンベ64がこの順序で金属製配管で接続されている。この酸素ガスは、蒸着材料の酸化を行うために導入する。
【0037】
真空排気系9は、バルブ54、ターボ分子ポンプ51、バルブ52及びロータリーポンプ53がこの順序で金属製真空配管で接続されており、真空チャンバ2内を好ましくは0.0001〜0.001Paに真空排気できるように構成されている。0.0001Pa未満では放電が発生しずらくなるという不都合があり、また、0.001Paを超えると逆に真空の残留ガスが混入するという不都合がある。真空チャンバ2内は、好ましくは20〜100℃に保たれている。約80℃が最適である。
【0038】
本実施形態では、カソード電極12に固定される蒸着材料11として、銀を用いた。また、銀をショット数を100,000ショット3Hzとした。
ショット数の下限は5,000ショットである。これは5,000ショット以下では1nm以下のナノ粒子となり粒子の存在を測定できないためである。ショット数の上限は無いが、通常30,000ショットである。これはショット数が多くなると粒径が10nm以上となり、粒度分散が10nm±3nmと広がってしまうためである。周波数の下限は特にない。一方、周波数の上限は5Hzである。1秒間あたりの投入パワが多くなり有機溶媒が温度があがり凝集してしまうためである。
【0039】
また、コンデンサユニット33はアーク電源によって充電され、その容量は360μF以上である。これ未満だとナノ粒子を形成できず、原子は飛び出すがそれを凝集できないためである。1,800μFが好適である。すなわち、コンデンサユニット33の容量は、360〜1800μFが好ましい。1800μF以上では粒径が大きくなる。また360μF以下では、ショット数が膨大に増えターゲットの寿命がもたない。
【0040】
本実施形態では、アノード電極23とカソード電極12との間のアーク放電のためのコンデンサユニット33の容量は1800μFである。
放電電圧が100で形成される電界Eと磁界BによるE×BによるF(Force:力)によりプラズマが前方にドリフトしない・
【0041】
下記式で定義されル蒸着エネルギが120,000J以上である
(蒸着エネルギ)= 1/2×(放電電圧)
2×(コンデンサ容量)×(蒸着回数)
前記コンデンサ容量は1080μF、前記放電電圧は150V、前記ショット数は10000発以上の範囲である。
【0042】
上記のような構成のイオン液体材料製造装置1を用いて、上記イオン液体7にナノ粒子を形成する方法を説明する。
【0043】
[イオン液体材料の製造方法]
まず、真空チャンバ2内を高真空雰囲気にしておく。次いで、アーク電源32により、アノード電極23に対して、蒸着材料11に直流電圧を印加しておく。その状態でトリガ電源31を起動し、トリガ電極13にパルス電圧を印加する。
すると、蒸着材料11の表面とトリガ電極13の表面との間に絶縁碍子14の円筒状部分の厚み分の距離(約1mm)を介して印加することで絶縁碍子14の表面でトリガ放電となる沿面放電が発生する。このトリガ放電によって、蒸着材料11の表面から蒸着材料
11の構成物質が蒸発し、蒸気や、イオンや電子等が発生する。また、蒸着材料11と絶縁碍子14のつなぎ目から電子が発生する。
【0044】
それらの蒸気、イオン、電子等によってアノード電極23内の圧力が上昇し、アノード電極23と蒸着材料11との間の絶縁耐圧が低下すると、コンデンサユニット33に充電された電荷よって、蒸着材料11とアノード電極23との間でアーク放電が発生する。アーク放電は連続放電ではなく、パルス的放電であり、発生回数と間隔を調整して行われる。発生回数は10000発から1000000発の範囲で行われ、好ましくは20000発である。このアーク放電により、蒸着材料11に多量の電流が流入し、ジュール熱により蒸着材料11が蒸発すると、正電荷を有する荷電微粒子が、蒸着材料11の側面からアノード電極23に向けて大量に放出される。
【0045】
かかるアーク放電によって生じたアーク電流により、アノード電極23内に磁場が形成される。その磁場は、正電荷を有する粒子に対し、アノード電極23の開口部方向に押しやる力を及ぼすので、アノード電極23に向けて放出された荷電微粒子は、真空チャンバ2内に放出され、イオン液体7の表面に向かって噴射される。そうするとこのイオン液体7中に粒度分布の狭い単分散のナノ粒子が均一に混入し、イオン液体材料を製造することができる。
【0046】
なお、上記イオン液体7中に混入形成されたナノ粒子をイオン液体7から回収するには、この製造過程で用いたイオン液体7に対して親和性の高い溶媒を該イオン液体7に添加することにより、イオン液体7中のナノ粒子が沈殿し、所望のナノ粒子を取り出すことができる。
【0047】
[同軸型真空アーク蒸着源5の実施例]
上記アーク電源32により、放電電圧100Vで電荷を充電しておく。ここで、コンデンサユニット33は、720μFとする。
トリガ電極13にトリガ電源31からのトリガパルスを印加し、カソード電極に取付けられた蒸着材料11とトリガ電極13の間に、ハット型碍子14を介して印加することで、ハット型碍子14の表面で沿面放電が発生し、蒸着材料11とアノード電極23との間でコンデンサユニット33に蓄電された電荷が放電され、カソード電極12に多量の電流が流入し、カソード電極12に取付けられた蒸着材料11が液相から気相に、さらにプラズマが形成される。
【0048】
この時、カソード電極12に多量の電流が流れるので、カソード電極12に取付けられた蒸着材料11に磁場が形成される。プラズマ中の電子が、カソード電極12に取付けられた蒸着材料11の形成した磁場によるローレンツ力を受けて、同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行するようになる。
【0049】
プラズマ中の蒸着材料11である例えば白金イオンは、分極することで、同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行する電子にクーロン力で引き付けられるようにして同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行するようになる。その結果、荷電微粒子のイオンは、イオン液体7中に凝集し、ナノ粒子が形成される。
【0050】
上述したイオン液体材料の製造方法によれば、従来の金はもとより、ナノ粒子の製造が難しかった白金またはアルミニュウムのナノ粒子をイオン液体中に単分散化し形成でき、イオン液体中に粒径が揃ったナノ粒子を含んだイオン液体材料を提供できる。なお、この製造方法によればさらに銀、鉄、コバルト、貴金属、レアメタルのナノ粒子も形成できる。
【0051】
本発明は上述した実施形態には限定されず、同軸型真空アーク蒸着源と非蒸着材料となるイオン液体との組み合わせで、イオン液体中に単分散化したナノ粒子が形成できる製造方法であれば種々の変形例が可能である。