【課題を解決するための手段】
【0007】
誘導発電機に関しては、以下の関係性により電気エネルギが算出される。
E
e = E
m - E
v
E
v = E
vm + E
vmg + E
ve
この場合、以下のとおりである:
E
e = 電気エネルギ
E
m = 機械エネルギ
E
v = 損失エネルギ
E
vm = 機械的損失エネルギ
E
vmg = 磁気的損失エネルギ
E
ve = 電気的損失エネルギ
【0008】
ここで提案された本発明の構想は、エネルギ変換のために、非常に重い磁石システムに替えて発電機のコイルを動かした場合、誘導発電機の効率性を著しく向上可能であるという認識に基づくものである。
【0009】
エネルギ式を参照することで、この考察がより明確に示される。運動エネルギ又は移動エネルギに関しては、以下のとおりである:
E
kin. = 0.5 × m × V
2
この場合、以下のとおりである:
E
kin. = 運動エネルギ
m = 質量
V = 速度
発電機の電気エネルギは、以下のように算出される:
E
el. = U
2× t / R
この場合、以下のとおりである:
Ε
el. = 電気エネルギ
U = 電圧
t = 時間
R = 電気抵抗
V ≒ U
【0010】
そのため、質量又は時間を高めること又は電気抵抗を低減することに替えて、速度又は電圧を高めるのに注力することは、鉄回路の磁束密度が本質的にある程度にまでのみ増大可能という事実を考慮すると、特に効果的である。なぜなら、磁気的に柔らかい最善の材料でも、約2.4Tの最大磁束密度のみが達成可能であるためである。もちろん、磁束密度又は磁場を可及的に高く維持することが望ましいが、費用の観点からも、磁束密度を1.8乃至2.0Tの領域内で選択することが有意義であろう(Fe,FeSiの場合)。
【0011】
本発明の実施形態により、電磁エネルギ変換の効率性を決定的に改善可能である。それにより、鉄回路の比較的重い素子である磁石又は磁心を、短い経路上で可及的速やかに加速し、サイクルの最後で可及的速やかに制動するステップが省略可能である。
【0012】
ここで提案された構想により、さもなくば、はね返る際に無駄になってしまうエネルギの大部分を変換可能である。更に、騒音の発生を低減し、発電機の寿命を延ばすことが可能である。ここで提案された誘導発電機の効率性が高いのは、比較的重く、可動の磁石システムを加速するための力をもはや使用しないという事実による。副次的な作用として、可動部分の線状の支承部における機械的損失、並びに、比較的固有周波数が低いことに起因して、システムが実際の振動スペクトルで不所望な共鳴振動に陥り、無線スイッチが不所望な無線信号に至りかねないエネルギを発生させる危険性が無くなる。
【0013】
ここで提案されたアプローチにより、磁心を完全に逆転させることが不要になる。これにより、さもなくば磁心に使用される材料又は最終的な焼き戻しのための、高度な要件が不要になるため、システムの費用を低減可能である。磁気的損失は全く受けないか、又はあったとしてもごく僅かである。本発明の実施形態に従って構成された誘導発電機は、効率性を低減させる変速機及び機械的に敏感で複雑な構成を必要とせず、特に自律型無線システム用に最適な電気機械式エネルギ変換器を構成するための、全ての基準を組み合わせたものである。その基準の中には、構造空間が小さい、エネルギ密度が高い、効率性が高い、起動経路が短い、起動力が僅かである、騒音の発生が僅かである、エネルギ量が可及的に一定である、機能が作動速度に左右されない、温度変化に対する堅牢性、機械的堅牢性、並びに製造コストが低い等が含まれている。
【0014】
上述のアプローチは、自律型無線システムへの需要の高まりに対応したものである。自立型無線システムは、KNX-RF,ZigBe,Bluetooth Low Energy又はW-LANのような複雑な無線プロトコルを、高い送信性能を備え、及び複数回の繰り返しが可能であるよう実現すべき状況にある。こうしたことは、まれに見る高性能の発電機(0.7乃至2mWs)によってのみ可能である。この場合、既知のエネルギ変換器を単に大きくしても目的を達成することはできない。なぜならそうしたシステムは、操作力及び寸法が更に増大し、騒音の発生が増加しているため、その有用性が除外されるか又は弱められているためである。以下に記述される誘導発電機は、小さな構成寸法で大きなエネルギ収量が要求される、そうした適用領域のために使用可能である。
【0015】
永久磁場を発生させる少なくとも1つの永久磁石と、永久磁場を導く少なくとも1つの還流プレートと、コイルと、ばね素子と、を備える誘導発電機であって、永久磁石及び還流プレートの少なくとも一部分が、永久磁場が広がる間隙により互いに分離され、コイルがばね素子と接続され、コイルの少なくとも一部分が、間隙内に可動な状態で配置されている誘導発電機において、ばね素子が、コイルの偏向に対して、間隙内のコイルの部分の振動運動が間隙内部の永久磁場の磁束を横切る向きに作用するよう構成されていることを特徴とする誘導発電機である。
【0016】
誘導発電機又は発電機とは、電磁誘導により電流又は電圧を発生させるよう構成された装置である。この種の誘導発電機は、例えば自律型無線スイッチと共に使用可能である。こうした自律型無線スイッチは、例えば照明装置のスイッチをオン及びオフするために使用される。少なくとも1つの永久磁石又は持続磁石は、例えば鉄、コバルト、ニッケル又はフェライト又はこれらの金属の複数からなる合金を含むことが可能であり、永久磁場の静磁場を形成するよう構成される。永久磁石は一個で構成可能であり、対向する側に反対の極であるS極及びN極を備える。例えば、永久磁石は対向する側に高い透磁率を有する材料性の磁極片を備えることができる。永久磁石の極性に応じて、一方の磁極片をN極に、他方の磁極片をS極として構成できる。磁極片の助けにより、永久磁石により発生された磁束を定められた方法で導き、分配できる。代替的に、永久磁石は複数個で構成可能であり、例えば、少なくとも2個又は複数個の永久磁石素子から組立てることができる。
【0017】
一実施形態により、そうした2個の永久磁石素子は、各々が独立した永久磁石となり、共通の接続プレートを介して互いに接続される。この場合、2個の永久磁石素子は接続プレート上で間隔を空けて支承され、一方の永久磁石素子のN極及び他方の永久磁石素子のS極が、接続プレートの表面上に支承され、対応して全体でU字型の永久磁石を構成する。U字型の永久磁石の極面は一つの平面上に存在可能であり、振動運動はこの平面に対して平行に発生可能である。接続プレートは、磁束を個々の永久磁石の間で最適に導くよう、平坦な矩形のプレートとして構成可能である。還流プレートは、磁束の環状の流れを確保するために、材料、構成、寸法に関して接続プレートと類似させることが可能、又は同一とすることが可能である。永久磁石及び還流プレートは互いに対向して配置可能であり、例えば、2つの永久磁石素子の還流プレートと接続プレートを、構成される磁石システムの上側又は下側として構成する。磁石システムの構成により発生される環状の磁束に基づき、永久磁石は間隙内に2つの対向する磁束の流れを備える。
【0018】
コイルは1本又は複数本の、例えば銅製の電線巻回部を備えることが可能である。従ってコイルは、一実施形態により巻回面に平行して、更なる実施形態により巻回面を走る回転軸を中心に偏向可能な状態で、少なくとも1つの間隙内に支承されるよう、ばね素子と接続されている。コイルは、ばね素子により可能な振動運動にコイルが誘導されるよう、誘導発電機の偏向手段により偏向可能である。
【0019】
振動運動とは弱められた振動であり、振動の強度は、ばね素子の特定の構造及び/又は特定のばね力に左右され、時間と共に弱まり、最終的に止む。磁束又は磁束の流れを横切る向きに発生するコイルの振動を介して、コイルの巻回部に電気的な交流電流が誘導される。1つ又は複数のばね素子を使用可能であり、ばね素子はコイルを支承し、コイルの振動運動を可能にする。ばね素子は、例えば屈曲ばね、ねじりばね、引張ばね又は圧縮ばね等の適切な構成のばねとすることができる。
【0020】
誘導発電機の一実施形態により、永久磁石、還流プレート、及びばね素子の端部は、誘導発電機の支承構造に、固定的又は定位置に取り付けることができる。この実施形態には、磁石システムの比較的重い素子を静止させて電流発生に使用可能である、という利点が特にあり、これにより騒音の発生が低減され、誘導発電機の寿命を延ばすことができる。支承構造が重い磁石を加速することによる負荷に耐える必要が無いため、同様に誘導発電機の構造寸法も低減可能である。支承構造は、誘導発電機のハウジング又はハウジングの一部分とすることが可能である。ばね素子により、支承構造及び従って永久磁場に対し、コイルを可動な状態で支承できる。
【0021】
一実施形態により、永久磁石及び還流プレートは間隙により互いに分離可能である。従って、永久磁石と還流プレートの間に接触点を存在させなくてよい。更に、間隙内のコイルは可動な状態で配置できる。この場合、コイル全体が間隙の内部に位置可能である。ばね素子はコイルの偏向に対して、間隙内のコイルの振動運動が、間隙内部の永久磁場の磁束を横切る向きに作用するよう構成可能である。有利にも振動運動は、コイルにおいて互いに対向する直線運動を備えることができる。
【0022】
誘導発電機は、永久磁場が磁場回路を構成し、磁場回路の磁束が永久磁石の第1極から間隙の第1部分、還流プレート、間隙の第2部分を経て、永久磁石の第2極へと流れるよう構成可能である。この場合、コイルの第1巻回部半分は間隙の第1部分に配置可能であり、コイルの第2巻回部半分は間隙の第2部分に配置可能である。巻回部半分は、コイルの互いに対向する側に配置可能である。従って有利にも、コイルの両巻回部半分が最強の磁石効果にさらされるよう確保可能である。対応して、簡単な手段で電流発生の際の効率性を高めることが可能である。
【0023】
コイルの中心軸は、間隙の第1部分及び第2部分を経て、磁束に対して平行又は略平行に走ることができる。コイルの巻回部はコイルの中心軸の周りを走るため、中心軸は、巻回部を含むコイルの巻回面に対して直交できる。コイルの方向が磁束に対して直角であるため、有利にも、振動運動によりコイルの巻回部に最大電圧を誘導可能である。
【0024】
更なる実施形態により、誘導発電機は、永久磁場の第1の磁束の流れを発生させる第1永久磁石と、第1の磁束の流れを導く第1還流プレートと、永久磁場の第2の磁束の流れを発生させる第2永久磁と、第2の磁束の流れを導く第2還流プレートと、を備える。この場合、第1磁場回路内の第1の磁束の流れは、第1永久磁石の第1極から、間隙の第1部分及び第1還流プレートを経て、第1永久磁石の第2極へと流れ、第2磁場回路内の第2の磁束の流れは、第2永久磁石の第1極から、第2還流プレート及び間隙の第2部分を経て、第2永久磁石の第2極へと流れる。特にこの場合、コイルの第1巻回部半分は間隙の第1部分に配置可能であり、コイルの第2巻回部半分は間隙の第2部分に配置可能である。例えば、第1還流プレート及び第2還流プレートは、各々U字型にカーブして構成可能であり、各永久磁石は、U字型の還流プレートの脚部の内側に支承され、更なる脚部の内側に覆われる。従って、両磁束の流れが更に環状になり、各磁石システム内を流れるようすることが可能である。2つの、互いに独立して作動可能な磁束の流れにより永久磁石を構成する冗長性に加えて、この実施形態には、誘導発電機を特に簡単にカプセル化し、所望される防塵性及び/又は防水性を達成する可能性がある。なぜなら、U字型のバッキングプレートにより、敏感なコイルばねシステムを完全に保護すべく包囲しているため、第1及び第2バッキングプレートの間の1つの間隙を閉鎖するのみであるためである。
【0025】
一実施形態により、少なくとも1つの永久磁石をコイル内部に配置可能である。この場合、コイルは永久磁石に対して可動な状態で配置できる。永久磁石を配置することで、誘導発電機を非常にコンパクトに構成できる。
【0026】
コイルは、振動運動を実行可能であるよう、コイルの巻回面を通って走る回転軸を中心に回転可能な状態で支承できる。この場合、十分なエネルギを発生可能とするのに、コイルがわずかに偏向するのみで十分である。
【0027】
この場合、永久磁石の第1極部に接する第1還流プレート、及び永久磁石の第2極部に接する第2還流プレートを備えることが可能である。極部は、磁極片又は永久磁石の端部により実現できる。第1還流プレートは、永久磁石の第1縦辺に沿い延在する第1曲部を、及び第2還流プレートは、第1縦辺に対向する、永久磁石の第2縦辺に沿い延在する第2曲部を備えることができる。縦辺は、極部の間を走る、永久磁石の中心軸に平行に走ることが可能である。第1間隙は永久磁石と第1曲部の間に、及び第2間隙は永久磁石と第2曲部の間に位置可能である。この場合、コイルの第1部分は第1間隙内に、コイルの第2部分は第2間隙内に、可動な状態で配置可能である。
【0028】
上述の実施形態においては、誘導発電機のばね素子は、第1薄板曲げばね及び第2薄板曲げばねを備えることが可能である。これらの間で、間隙内のコイルを振動可能な状態で支承できる。薄板曲げばねは、コイルの適切な振動を確保するために、省コストかつ省構造空間で使用可能である。薄板曲げばねにより、いわゆるばね平行四辺形を構成可能である。このばね平行四辺形により、コイルは特に均一に、長く継続して振動可能となる。これにより、誘導発電機の効率性をさらに増強可能である。
【0029】
薄板曲げばねの代替として、コイルに振動を発生させて補助する他の素子、例えば板ばね又は膜を、ばね素子の内部で又はばね素子として使用可能である。
【0030】
一実施形態により、ばね素子はコイルの電気接触のための導電体として対応可能である。そのためにばね素子の部分は、振動運動によりコイルから供給される交流電流を集電するための接触素子を備える。従って、コイル内で誘導された電流を例えばコイルと電力消費装置の間へと導くためにも、ばね素子を使用可能である。有利にも、2つの互いに電気的に絶縁されたばね素子を使用可能である。このばね素子を介して、コイルを電気的に接触させることが可能であり、また、コイルを誘導発電機の支承構造に対して可動な状態で支承可能である。例えば、コイルの電気接続部を2つの薄板曲げばねを介して接触させることが可能であり、その際、薄板曲げばねは互いに電気的に絶縁されている。この実施形態により分離型の集電器を省力可能であるため、構造空間が省略できる。
【0031】
特に、誘導発電機のコイルを心部無しで構成可能である。このようにして、特に重量を僅かに抑えて構成可能である。従って、ごく僅かな抵抗に抗して、非常に迅速にコイルが静止位置から振動に移動可能であり、振動自体も非常に高い周波数を備えることができる。このようにして、誘導発電機の効率性も向上可能である。
【0032】
コイルはコイル枠により囲むことができる。コイル枠は、支承構造に固定されたばね素子の端部に対向する、ばね素子の更なる端部と接続可能である。従ってコイル枠を介して、ばね素子のばね力を、損失を僅かに押さえかつ均一にコイルに伝達可能である。同時にこの実施形態により、コイルの巻回部内で発生された電流を、例えばばね素子に一体化された接触部を介して集電すべく、ばね素子に容易に転送可能である。コイルの両側に配置された薄板曲げばねを、ばね素子として使用した場合、例えばコイル枠は2つの延長部を備えることが可能である。コイル枠を支持するよう、薄板曲げばねの端部を、各々の延長部内に係合可能である。
【0033】
更に、コイル枠はコイルを偏向するための操作素子を備えることができる。操作素子は、例えば操作舌部の形状で構成可能であり、操作者の手が届き易く、かつコイルが静止状態から2つの対向方向に偏向可能であるよう配置できる。操作素子を解除した後、コイルは振動運動を開始可能である。
【0034】
誘導発電機は、振動運動に起因してコイルから供給される交流電圧の初期極性を検出する、検出ユニットを備えることができる。初期極性は、偏向に続く振動運動の初期方向に依存し、従ってコイルの偏向方向に依存する。対応して検出ユニットは、振動運動に起因してコイルから供給される交流電流の初期方向を検出するよう構成可能である。これにより、例えば振動運動の準備のため、2つの対向方向のいずれにコイルが操作素子により偏向されたか決定できる。このようにして、いずれの方向に誘導発電機の操作素子が動かされたかを知ることができる。このようにして、例えばスイッチオン操作及びスイッチオフ操作を区別可能である。
【0035】
本発明は更に、誘導発電機を使用する電流発生方法に関し、誘導発電機は、永久磁場を発生させる少なくとも1つの永久磁石と、永久磁場を導く還流プレートと、コイルと、ばね素子と、を備える誘導発電機であって、永久磁石及び還流プレートの少なくとも一部分が、永久磁場が広がる間隙により互いに分離され、コイルがばね素子と接続され、コイルの少なくとも一部分が、間隙内に可動な状態で配置されており、方法は:
間隙内のコイルの少なくとも一部分の振動運動が、間隙内部の永久磁場の磁束を横切る向きに作用するよう、コイルを偏向するステップと、
コイルの振動運動に基づく電磁誘導により、コイル内で電流を発生させるステップと、を備える。
【0036】
本発明のこのような形態においても、有利にも、ここで提案された本発明の構想を実行可能である。