【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、溶融加工可能な過フッ素化テトラフルオロエチレンコポリマー、より特別にはテトラフルオロエチレン(TFE)コポリマーと1つ以上の過フッ素化コモノマーとから形成されたポリマーの総合性能(例えば、熱的および機械的特性)を改善するための新規な解決策を提供する。本発明のためには、「溶融加工可能な」ポリマーという用語は、従来の溶融押出、射出またはコーティング手段によって加工できる(すなわち、造形品、例えばフィルム、繊維、チューブ、取り付け具、電線被覆などに仕上げることができる)ポリマーを意味する。このため一般に、加工温度でのポリマーの溶融粘度が10
8Pa×秒、好ましくは10〜10
6Pa×秒以下であることが必要である。
【0009】
具体的には、第1態様において、本発明は、テトラフルオロエチレン(TFE)コポリマーと少なくとも1つのエチレン型の不飽和を0.5重量%〜13重量%、好ましくは0.6重量%〜11重量%およびより好ましくは0.8重量%〜9重量%の量で含有する1つ以上の過フッ素化コモノマー[コモノマー(F)]とから形成された少なくとも1つの溶融加工可能なパーフルオロポリマー[ポリマー(F)]を含有する組成物[組成物(C)]を熱処理するための方法であって、少なくとも溶融流動可能なポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の非存在下において少なくとも260℃の温度で組成物(C)を熱処理する工程を含む方法に関する。
【0010】
驚くべきことに、溶融流動可能なPTFEを添加することを必要とせずに、上記の熱処理工程を受けたポリマー組成物は、熱処理工程前の最初の組成物(C)と比較して、MFIの低下が付随する著しく増加した屈曲破損寿命、高い第1溶融エンタルピー、改善された引張特性およびクリープ挙動によって証明される結晶性の増加、260℃を超えるより高い連続使用温度ならびに強化された透過抵抗を含む優れた総合性能を示した。注目すべきことに、熱処理ポリマー組成物は、最初の組成物(C)の連続使用温度より高い温度に曝露された場合に満足できる機械的強度を示す。
【0011】
その結果として、前記熱処理工程は、有利には高い作動温度(例えば、260℃超)および極限作業環境で使用するために好適なポリマー組成物を生成する。特に、前記熱処理工程は、固体ポリマー組成物、例えば溶融ポリマー混合物から製造された固体造形品に容易に適用することができ、その固体組成物の機械的特性および遮断性を増加させる。例えば、前記熱処理工程は、便宜的にもポリマー膜製品に、その気体透過性を低下させ、その他の熱機械的特性を改善するために適用することができる。
【0012】
第2態様において、本発明は、テトラフルオロエチレン(TFE)コポリマーと少なくとも1つのエチレン型の不飽和を0.5重量%〜13重量%、好ましくは0.6重量%〜11重量%およびより好ましくは0.8重量%〜9重量%の量で含有する1つ以上の過フッ素化コモノマー[コモノマー(F)]とから形成された溶融加工可能なパーフルオロポリマー[ポリマー(F1)]であって、下記の不等式:
Tm(I)>329.15−6×[M]
(式中、
− Tm(I)は、ポリマー(F1)の第1融点であり、摂氏温度の単位を有する;
− [M]は、ポリマー(F1)内の前記コモノマー(F)由来の繰り返し単位の重量%である)
が満たされるポリマー(F1)に関する。
【0013】
好ましくは、本発明のポリマー(F)は、半結晶性である。本発明のためには、用語「半結晶性」は、ASTM D 3418にしたがって、示差走査熱量測定法(DSC)によって10℃/分の加熱速度で測定したときに1J/g超の融解熱を有するポリマーを意味することが意図されている。好ましくは、本発明の半結晶性ポリマー(F)は、少なくとも15J/g、より好ましくは少なくとも25J/g、最も好ましくは少なくとも35J/gの融解熱を有する。
【0014】
ポリマー(F)は、有利には0.5重量%超、好ましくは2.0重量%超およびより好ましくは少なくとも2.5重量%のコモノマー(F)を含んでいる。
【0015】
上述したポリマー(F)は、有利には多くとも20重量%、好ましくは多くとも15重量%およびより好ましくは10重量%のコモノマー(F)を含んでいる。
【0016】
優れた結果は、少なくとも0.7重量%および多くとも10重量%のコモノマー(F)を含むポリマー(F)を用いて得られている。
【0017】
コモノマー(F)のために特に好適なコモノマーとしては:
− C
3〜C
8パーフルオロオレフィン、例えば、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、ヘキサフルオロイソブテン;
− CF
2=CFOR
fパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)(式中、R
fは、C
1〜C
6パーフルオロアルキル、例えば、−CF
3、−C
2F
5もしくは−C
3F
7−である);
− CF
2=CFOXパーフルオロオキシアルキルビニルエーテル(式中、Xは、1つ以上のエーテル基を有するC
1〜C
12パーフルオロオキシアルキルである);および
− パーフルオロジオキソール
を挙げることができる。
【0018】
好ましくは、前記コモノマー(F)は、下記:
− 式CF
2=CFOR
f1(式中、R
f1は、−CF
3、−C
2F
5および−C
3F
7−から選択される)のPAVE、つまり、パーフルオロメチルビニルエーテル(式CF
2=CFOCF
3のPMVE)、パーフルオロエチルビニルエーテル(式CF
2=CFOC
2F
5のPEVE)、パーフルオロプロピルビニルエーテル(式CF
2=CFOC
3F
7のPPVE)およびそれらの混合物;
− 一般式CF
2=CFOC−F
2OR
f2(式中、R
f2は、直鎖もしくは分岐鎖C
1〜C
6パーフルオロアルキル基、環状C
5〜C
6パーフルオロアルキル基、直鎖もしくは分岐鎖C
2〜C
6パーフルオロオキシアルキル基であり、好ましくは、R
f2は、−CF
2CF
3(MOVE1)、−CF
2CF
2OCF
3(MOVE2)または−CF
3(MOVE3)である)のパーフルオロメトキシビニルエーテル(MOVE);および
− 下記の式を有するパーフルオロジオキソール
(式中、X
1およびX
2は、互いに等しいかもしくは異なり、FおよびCF
3から選択され、好ましくはFである)
から選択される。
【0019】
特に、良好な結果は、PMVE、PEVE、PPVE、MOVEおよびそれらの組み合わせから選択されるコモノマー(F)を含有するポリマー(F)を用いて達成されている。
【0020】
注目すべきことに、ポリマー(F)は、TFEおよびコモノマー(F)としての数種のPAVEモノマー、例えば時には製造業者によってMFAと呼ばれる、しかし本発明のためにはPFAとして含まれるTFE/PMVE/PPVEコポリマーを用いて作成できる。
【0021】
1つの実施形態によると、ポリマー(F)は、有利には本質的に:
(a)0.5〜8重量%、好ましくは0.7〜6重量%のPPVE由来の繰り返し単位;
(b)TFE由来の繰り返し単位であって、繰り返し単位(a)および(b)のパーセンテージの合計が100重量%に等しい量にある繰り返し単位
からなるTFEコポリマーである。
【0022】
「から本質的になる」という表現は、本発明との関連において、ポリマーの基本的特性を変えることなく、前記ポリマーに少量含まれていることがある末端鎖、欠陥、不規則部分(irregularities)およびモノマー再配列を考慮に入れてポリマーの構成成分を定義するために使用される。
【0023】
任意選択的に、本発明のポリマー(F)は、少なくとも1つのC
3〜C
8パーフルオロオレフィン由来の繰り返し単位をさらに含む。
【0024】
本発明のまた別の実施形態によると、ポリマー(F)は、有利には本質的に:
(a)0〜6重量%のPMVE由来の繰り返し単位;
(b)0.4〜5重量%の、PMVEとは異なる1つもしくは2つ以上のフッ素化PAVEコモノマー由来、好ましくはPEVEおよび/またはPPVE由来の繰り返し単位;
(c)0〜6重量%の、少なくとも1つのC
3〜C
8パーフルオロオレフィン由来、好ましくはヘキサフルオロプロピレン(HFP)由来の繰り返し単位;および
(d)TFE由来の繰り返し単位であって、繰り返し単位(a)、(b)、(c)および(d)のパーセンテージの合計が100重量%に等しい量にある繰り返し単位
からなるTFEコポリマーである。
【0025】
本発明のために好適なポリマー(F)は、商標名HYFLON(登録商標)PFA PおよびMシリーズならびにHYFLON(登録商標)MFAの下でSolvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から市販されている。
【0026】
1つの実施形態では、本発明の組成物(C)は、単独成分としてポリマー(F)を含有している。
【0027】
組成物(C)は、組成物(C)の溶融加工可能なポリマー成分から溶融仕上げされる製品の形態にあってよい。例えば、製品は、次の製品の例:フィルム、シート、ロッド、パイプ、シリンダ、容器、コンテナ、ワイヤーおよびケーブルならびに熱交換器チューブから選択することができる。この製品は、さらに例えば押出チューブから作成された屈曲チューブなどの改質溶融仕上げ製品の形態にあってもよい。特に興味深いのは、半導体製造においてシリコンウエハを運送するためなどの化学処理において使用されるであろう、組成物(C)から射出成形されるバスケットやキャリヤおよびその他の製品である。
【0028】
組成物(C)は、さらにまた次に所望の製品の最終形態に溶融仕上げできる押出ペレットの形態にあってもよい。
【0029】
本発明の方法は、少なくとも260℃の温度および溶融流動可能なPTFEの非存在下で組成物(C)を少なくとも熱処理する工程を含んでいる。本発明の方法のためには、組成物(C)のための熱処理時間は、熱処理の温度に左右されるが、その逆もまた当てはまる。さらに、当業者には明白であるように、組成物(C)のための熱処理時間は、最終生成物における実際的要件、または熱処理される物体のサイズもしくはバルクにしたがって変動する可能性がある。
【0030】
一般に、本方法の発明における組成物(C)のための熱処理温度は、好ましくは少なくとも270℃、より好ましくは少なくとも300℃および最も好ましくは少なくとも310〜315℃である。これに関連して、熱処理の最高温度は、組成物(C)が熱処理中に固体状態にあるような温度であり、これは組成物(C)が流動せず、この組成物の最初の形状が熱処理の実施中および後にも依然として識別可能であることを意味する。
【0031】
有利には、上述のように、本発明の熱処理工程は、固体造形品へ容易に適用することができる。溶融製品に適用される従来型熱処理工程とは対照的に、本発明の方法は、便宜的にも予期された使用のために設計された明確な形状に製品を処理することができる。
【0032】
言い換えると、所定の実施形態によると、本発明の方法は、上述したように、組成物(C)をそれの固体造形品を提供するために溶融状態で加工処理する工程、および結果として、上述したように、前記固体造形品の形態にある前記組成物(C)を熱処理する工程を含んでいる。
【0033】
したがって、本発明の方法を実施する際に、熱処理の最高温度は、通常は組成物(C)の初期融点未満および/またはポリマー(F)の第1融点未満に設定される。
【0034】
典型的には、本発明の方法は、少なくとも260℃の温度で組成物(C)を熱処理する工程を含んでいる。少なくとも24時間またはいっそうより長時間にわたり組成物(C)を加熱する工程は、例えば結果として生じる組成物の屈曲破損寿命(耐折強さ)などの高温での所定の所望の熱的/機械的特性のさらなる改善を生じることができる。好ましくは、組成物(C)のための熱処理の加熱期間は、少なくとも1日間、より好ましくは少なくとも2日間であるが、4日間または数週間までさえ実施することができよう。特定の実施形態では、本発明の方法は、少なくとも300℃の温度で少なくとも2日間にわたり組成物(C)を熱処理する工程を含んでいる。また別の好ましい実施形態では、本発明の方法は、少なくとも310℃の温度で少なくとも2日間にわたり組成物(C)を熱処理する工程を含んでいる。
【0035】
一般に、本方法の発明の熱処理工程は、製品を取り囲む媒質を構成する空気を含有していてよいオーブン内で実施される。
【0036】
本発明の方法によると、組成物(C)を熱処理する工程は、溶融流動可能なPTFEの非存在下で実施される。「溶融流動可能な」は、そのPTFEがASTM D 1238−94aにより測定可能なゼロではないメルトフローレートを有することを意味する。この溶融流動可能なPTFEは、極めて長いポリマー鎖の形成を防止する条件下での直接重合によって、または非溶融流動性PTFEの照射分解によって得ることができる。この溶融流動可能なPTFEは、少なくとも1つの官能基を有する少量のコモノマーを含むTFEのホモポリマーもしくはそのコポリマーであってよい。例えば2010年2月11日出願の米国特許出願第2010/0036074A号明細書(E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY)を参照すると、この溶融流動可能なPTFEは、炭素−炭素二重結合ならびにアミン、アミド、カルボキシル、ヒドロキシル、ホスホネート、スルホネート、ニトリル、ボロネートおよびエポキシドからなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有する炭化水素モノマーを含むTFEのコポリマーであってよい、およびより特に約0.001〜約1重量%の、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール、パーフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)およびパーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群から選択される少なくとも1つのコモノマーを有するTFEコポリマーであってよい。
【0037】
そのような溶融流動可能なPTFEは、一般にPTFE微粉末と呼ばれる。PTFE微粉末は、溶融物から成形される製品が極度の脆性のために実用にならないために、溶融仕上げ可能であるとは見なされない。PTFE微粉末の押出フィラメントは、極めて脆性であるので屈曲すると破損する。
【0038】
溶融流動可能なPTFEの溶融流動性は一般に低分子量の結果であると考えられるので、溶融流動可能なPTFEは、上記の2012年2月9日出願の米国特許出願第2012/0034406A号明細書(E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY)、2012年2月9日出願の米国特許出願第2012/0035326A号明細書(E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY)および2012年2月9日出願の米国特許出願第2012/0031607A号明細書(E.I.DU PONT NEMOURS AND COMPANY)の米国特許出願では、LMW PTFEと呼ばれている。これとは対照的に、本発明のためには、非溶融流動性PTFEは、溶融流動可能なPTFEと比較して高分子量であるために、ASTM D 1238−94aにより測定してメルトフローレートがゼロであるPTFEを意味する。
【0039】
LMW PTFEはさらに、好ましくは少なくとも50J/gの結晶化熱を示す、高い結晶性によって特徴付けることができる。
【0040】
LMW PTFEは、例えば溶融ポリマー上の5kgの重量を使用して、ASTM D 1238にしたがって372℃で測定して、少なくとも0.01g/10分、好ましくは少なくとも0.1g/10分、より好ましくは少なくとも5g/10分、およびいっそうより好ましくは少なくとも10g/10分のメルトフローレート(MFR)によって特徴付けることができる溶融流動性を有する。
【0041】
LMW PTFEは低分子量を有するが、それでも例えば少なくとも300℃、より好ましくは少なくとも310℃、いっそうより好ましくは少なくとも320℃の高温まで固体であるために十分な分子量を有する。1つの実施形態によると、この十分な分子量の1つの指標は、LMW PTFEが、このポリマーが5kgの重量を使用してASTM D 1238にしたがって372℃でMFR測定にかけられたときにこのポリマーのMFRが好ましくは100g/10分以下、好ましくは75g/10分以下、いっそうより好ましくは50g/10分以下であるように粘性溶融物を形成する。これらの最高MFR量の各々は、MFR範囲、例えば0.01〜50g/10分、0.01〜75g/10分、10〜50g/10分などを生成するために上述した最低MFRのいずれかと結合することができる。
【0042】
LMW PTFEは、Polymist(登録商標)およびAlgoflon(登録商標)Lの商標名の下でSolvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から、またはZONYL(登録商標)フルオロ添加物の商標名の下でDuPont CompanyからのPTFE微粉末の形態で入手できる。
【0043】
本方法の発明の1つの実施形態によると、組成物(C)を熱処理する工程は、PTFEポリマーの非存在下で実施されるが、このときPTFEポリマーは、少なくとも1つの他のフッ素含有モノマーを少量で、例えば約2重量%以下で含むTFEのホモポリマーまたはTFEのコポリマーであってよい。これらのPTFEポリマーは、Algoflon(登録商標)PTFEの商標名の下でSolvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から、およびTeflon(登録商標)の商標名の下でDuPont Companyから市販されている。
【0044】
上記のように、本発明のまた別の態様は、テトラフルオロエチレン(TFE)コポリマーと0.5重量%〜13重量%、好ましくは0.6重量%〜11重量%およびより好ましくは0.8重量%〜9重量%の量で少なくとも1つのエチレン型の不飽和を含有する1つ以上の過フッ素化コモノマー[コモノマー(F)]とから形成された溶融加工可能なパーフルオロポリマー[ポリマー(F1)]であって、下記の不等式:
Tm(I)>329.15−6×[M]
(式中、
− Tm(I)は、ポリマー(F1)の第1融点であり、摂氏温度の単位を有する;
− [M]は、ポリマー(F1)内の前記コモノマー(F)由来の繰り返し単位の重量%である)
が満たされるポリマー(F1)に関する。
【0045】
ポリマー(F1)は、上述した熱処理工程を使用して製造できる。
【0046】
そこでポリマー(F)を参照しながら本明細書で上述した全ての特徴は、ポリマー(F1)の好ましい実施形態を特徴付ける。
【0047】
本発明のさらにまた別の態様は、造形品を製造するための方法であって、上述した本発明のTFEコポリマーを使用する工程を含む方法に関する。
【0048】
上述した方法においては、従来型の溶融押出、射出成形およびコーティングを含むがそれらに限定されない当技術分野において公知の標準的なポリマー加工技術を使用できる。