(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本件発明に係るキャリア箔付銅箔の形態、キャリア箔付銅箔の製造方法の形態、銅張積層板の形態に関して、順に述べる。
【0016】
<キャリア箔付銅箔の形態>
本件発明に係るキャリア箔付銅箔1は、
図1に示すように、キャリア箔2/剥離層3/バルク銅層4の基本的層構成を備え、当該剥離層3とバルク銅層4との間に、金属成分含有粒子5を配したことを特徴とする。なお、
図1に示した模式断面図は、本件発明に係るキャリア箔付銅箔の層構成を理解しやすくするためのものであり、各層の厚さに関しては、現実の製品の厚さを反映させたものでないことを明記しておく。以下、構成要素毎に説明する。
【0017】
キャリア箔付銅箔: 本件発明に言うキャリア箔付銅箔とは、キャリア箔2とバルク銅層4とが、剥離層3を介して、見かけ上張り合わせられた状態のものである。キャリア箔2を除去した後のバルク銅層4の表面に対して、金属成分含有粒子5が分散的に転写配置される状態を形成できる限り、いかなる種類のキャリア箔付銅箔1を用いても構わない。例えば、キャリア箔2を、事後的にエッチング除去するエッチャブルタイプのキャリア箔付銅箔1に適用しても、キャリア箔2を除去した後のバルク銅層4の表面に対して、金属成分含有粒子5が分散的に存在できれば良い。しかし、好ましくは、キャリア箔2とバルク銅層4とが、剥離層3が存在することによって、物理的に剥離可能なピーラブルタイプのキャリア箔付銅箔1を採用することが好ましい。キャリア箔2を除去した後のバルク銅層4の表面に対して、金属成分含有粒子5を分散的に存在させることが容易だからである。
【0018】
キャリア箔: 本件発明におけるキャリア箔は、その表面に銅を電析することによりバルク銅層を形成できる限り、特に材質の限定はない。キャリア箔として、例えば、アルミニウム箔、銅箔、表面をメタルコーティングした樹脂フィルム等を使用することが可能である。そして、このキャリア箔2には、銅箔を用いることが、剥離した後の回収及びリサイクルが容易であるため好ましい。また、この銅箔の場合、電解銅箔でも圧延銅箔でも使用可能である。このキャリア箔2として用いる銅箔に関する厚さには、特段の限定は無い。一般的には、12μm〜100μmの銅箔が使用される。更に、このキャリア箔2として用いる銅箔の剥離層を形成する面の表面粗さ(Rzjis)は、1.5μm以下であることが好ましい。表面粗さ(Rzjis)が1.5μm以下になると、キャリア箔2の表面に形成する剥離層3の厚さが、バラツキの少ないものとなるからである。ここで、この表面粗さ(Rzjis)の下限値を限定していないが、経験的に表面粗さの下限値は0.1μm程度である。
【0019】
剥離層: この剥離層3は、キャリア箔2の表面に位置するものである。そして、ピーラブルタイプのキャリア箔付銅箔1として使用することを前提として考えると、ここで言う剥離層は、無機剥離層(無機と称する概念には、クロム、ニッケル、モリブデン、タンタル、バナジウム、タングステン、コバルト、又は、これらの酸化物等を含むものとして記載している。)、有機剥離層のいずれを採用しても構わない。そして、有機剥離層を採用する場合には、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、カルボン酸の中から選択される1種又は2種以上を混合した有機剤を用いることが好ましい。中でも、置換基を有するトリアゾール化合物である1,2,3−ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール(以下、「CBTA」と称する。)、N',N'−ビス(ベンゾトリアゾリルメチル)ユリア、1H−1,2,4−トリアゾール及び3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール等を用いて形成した有機剥離層を採用することが好ましい。キャリア箔2を除去する際の除去作業が容易であり、キャリア箔2を除去した後のバルク銅層4の表面に、金属成分含有粒子5を分散的に存在させることが容易だからである。
【0020】
金属成分含有粒子: この金属成分含有粒子5は、剥離層3の表面に位置するものである。この金属成分含有粒子は、ニッケル、コバルト、モリブデン、スズ、クロムから選択した1種の成分又は2種以上の成分を含有するものであることが好ましい。具体的に採用可能な成分は、「ニッケル」、「ニッケル−燐、ニッケル−クロム、ニッケル−モリブデン、ニッケル−モリブデン−コバルト、ニッケル−コバルト、ニッケル−タングステン、ニッケル−錫−燐等のニッケル合金」、「コバルト」、「コバルト−燐、コバルト−モリブデン、コバルト−タングステン、コバルト−銅、コバルト−ニッケル−燐、コバルト−錫−燐等のコバルト合金」、「スズ」、「スズ−亜鉛、スズ−亜鉛−ニッケル等のスズ合金」、「クロム」、「クロム−コバルト、クロム−ニッケル等のクロム合金」等である。
【0021】
そして、この金属成分含有粒子は、キャリア箔を除去した後のバルク銅層表面の金属成分含有粒子の付着量(F)が、0mg/m
2<F≦100mg/m
2の範囲となるように付着させることが好ましい。キャリア箔を除去した後のバルク銅層表面の金属成分含有粒子の付着量(F)が0mg/m
2の場合には、金属成分含有粒子が僅かでも存在する場合に比べて、黒化処理の形態がレーザー孔明け加工に適さないものとなり、レーザー孔明け加工性能が低下するため好ましくない。一方、キャリア箔を除去した後のバルク銅層表面の金属成分含有粒子の付着量(F)が100mg/m
2を超える場合、その表面に形成する黒化処理による酸化銅の形成が困難となり、黒化処理の密度が低下し、レーザー孔明け加工性能が低下するため好ましくない。そして、当該付着量(F)が、20mg/m
2≦F≦80mg/m
2の範囲となるように付着させることが、安定したレーザー孔明け加工性能を備える黒化処理形態を得ることが容易という観点から、より好ましい。
【0022】
また、この金属成分含有粒子は、粒径が1nm〜250nmであることが好ましい。この粒径は、電界放射型走査電子顕微鏡観察像より直接観察して得られるものである。金属成分含有粒子の粒径として、250nmを超えるものが存在すると、その部位での黒化処理による酸化銅の形成が困難となり、局所的に黒化処理の密度のバラツキが生じるため、レーザー孔明け加工性能が低下する箇所が、部分的に生じるため好ましくない。なお、下限値の粒径を1nmとしているが、これ以下の粒径であっても、何ら問題は生じないと考える。しかし、電子顕微鏡をもって、これ以下の粒径を直接観察しようとしても、観察した粒径の精度が不足すると考え、一応の目安の粒径と考えている。
【0023】
更に、本件発明に係るキャリア箔付銅箔の金属成分含有粒子は、5μm×4μmの視野の中で、被覆率(A)が7.4面積%≦A≦34面積%の範囲が占めるように存在させるものとする。この被覆率(A)が0面積%の場合には、キャリア箔を除去した後のバルク銅層表面に形成する黒化処理の形態がレーザー孔明け加工に適したものとならないため好ましくない。一方、この被覆率(A)が34面積%を超えると、キャリア箔を除去した後のバルク銅層表面に形成する黒化処理の密度が低下し、レーザー孔明け加工性能が低下するため好ましくない。そして、この被覆率(A)が、13面積%〜32面積%の範囲とすることが、キャリア箔を除去した後のバルク銅層表面に形成する黒化処理の形態がレーザー孔明け加工に適した状態となる傾向が高いため、より好ましい。
【0024】
ここで、
図2には、金属成分含有粒子としてのニッケル粒子を、バルク銅層表面に付着させた場合の「ニッケル付着量と被覆率との関係」を示している。この
図2から分かるように、被覆率は、ニッケルの付着量が増加すると飽和してくる傾向が見て取れる。上述のニッケル付着量の適正範囲と、被覆率の適正範囲とが一致していることが理解できる。
【0025】
ここで、被覆率の測定に関して述べておく。ここで言う被覆率は、金属成分含有粒子としてニッケル粒子を剥離層の上に形成した後の表面を、走査型電子顕微鏡で観察し、その走査型電子顕微鏡観察像を画像処理して、二値化した画像として、この二値化画像で金属成分含有粒子が、剥離層表面の面積の何%を被覆しているのかを被覆率(面積%)として算出した数値である。
【0026】
バルク銅層: 本件発明に係るキャリア箔付銅箔のバルク銅層は、電解法で形成した電解銅箔層であることが好ましい。剥離層及び金属成分含有粒子の表面に位置するバルク銅層の形成には、蒸着法、化学気相反応法等の所謂乾式法を採用することも可能であるが、電解法を用いて形成することが好ましい。電解法は乾式法に比べ、製造コストが安価であり、且つ、形成される銅の結晶組織がエッチング加工に適したものとなるからである。
【0027】
<キャリア箔付銅箔の製造方法の形態>
本件発明に係るキャリア箔付銅箔の製造方法は、上述のキャリア箔付銅箔の製造方法であって、後述する工程1〜工程3を備えることを特徴とする。以下、工程毎に説明する。
【0028】
工程1: この工程1では、
図3(1)に示すキャリア箔2を用いて、その少なくとも一面側に剥離層3を形成し、
図3(2)に示す「剥離層3を備えるキャリア箔2」とする。このときの剥離層3の形成には、以下のような方法を採用して剥離層形成が可能である。
【0029】
当該剥離層3として有機剥離層を形成する場合には、上述の有機剤を溶媒に溶解させ、その溶液中にキャリア箔2を浸漬させるか、キャリア箔2の剥離層3を形成しようとする面に対するシャワーリング、噴霧法、滴下法及び電着法等を用いて行うことができ、特に限定した手法を採用する必要性はない。このときの溶液中の有機剤の濃度は、上述の有機系剤の全てにおいて、濃度0.01g/l〜10g/l、液温20〜60℃の範囲を採用することが、実際の操業条件に適するという観点から好ましい。有機剤の濃度は、特に限定されるものではなく、本来濃度が高くとも低くとも問題はない。製造ラインの特性に応じて、適宜調整されるものであるからである。
【0030】
一方、当該剥離層3として、クロム、ニッケル、モリブデン、タンタル、バナジウム、タングステン、コバルト、又は、これらの酸化物等で形成した無機剥離層を形成する場合には、キャリア箔2の剥離層3を形成しようとする面に対し、電解法又は物理蒸着法等を用いて形成する。なお、剥離層3を酸化物で形成する場合には、キャリア箔2の表面に、予め金属層を形成し、その後、陽極酸化法で酸化物層に転化させることも可能である。
【0031】
工程2: この工程2では、金属成分含有電解液中で、当該剥離層3を備えるキャリア箔2をカソード分極し、剥離層3の表面に金属成分含有粒子5を析出付着させて、金属成分含有粒子5と剥離層3とを備えるキャリア箔2とする。
図3(3)に、この状態を模式的に示している。このときの剥離層3の表面に対する金属成分含有粒子5を析出付着させるためには、形成しようとする目的の金属成分を含んだ溶液を用いて、めっき法により、金属成分含有粒子5を剥離層3の表面に付着形成させる。このときのめっき条件は、粒径が1nm〜250nmの粒子形成が可能で、被覆率(A)が0面積%<A≦34面積%の範囲となる条件を達成出来る限り、特段の限定は無い。
【0032】
工程3: この工程3では、銅電解液中で、当該金属成分含有粒子5と剥離層3とを備えるキャリア箔2をカソード分極し、金属成分含有粒子5と剥離層3とが存在する表面に、バルク銅層4を形成してキャリア箔付銅箔1を得る。ここで言う銅電解液に関しては、硫酸酸性銅電解液、ピロリン酸系銅電解液等の使用が可能であり、特段の限定は無い。また、このときの電解条件も、銅の平滑めっき条件とすることの出来る限り、特段の限定は無い。
【0033】
任意の工程: 以上のようにして、キャリア箔付銅箔1が得られた後は、そのキャリア箔付銅箔1の使用目的に応じて、バルク銅層の表面に各種の任意の表面処理を行うことが可能である。例えば、バルク銅層の表面に、絶縁樹脂基材にバルク銅層を張り合わせた際の密着性を向上させるため、アンカー効果を発揮する粗化処理を施すことも可能である。
【0034】
また、バルク銅層の表面(粗化処理後の表面も含む)に、防錆処理層を設けて、キャリア箔付銅箔1の長期保存性、積層プレス時の負荷熱による酸化防止等を図る事が可能である。このときの防錆処理には、「トリアゾール、ベンゾトリアゾール等の有機防錆成分」、「亜鉛、亜鉛合金、ニッケル、ニッケル合金、クロム、クロム合金等の金属系防錆成分、クロメート処理等の酸化物系防錆成分等を無機防錆成分」として用いることが可能である。
【0035】
更に、バルク銅層の最外層をシランカップリング剤で処理して、バルク銅層4と、絶縁樹脂基材との張り合わせ時の密着性を、更に向上させることも可能である。ここで使用可能なシランカップリング剤としては、特段の限定は無い。使用する絶縁層構成材料、プリント配線板製造工程で使用するめっき液等の性状を考慮して、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤等から任意に選択使用することができる。そして、シランカップリング剤処理を行うには、シランカップリング剤を含有する溶液を用いて、浸漬塗布、シャワーリング塗布、電着等の手法を採用することができる。
【0036】
<銅張積層板の形態>
本件発明に係る銅張積層板は、上述のキャリア箔付銅箔を用いて得られるレーザー孔明け加工用の銅張積層板である。ここで言う銅張積層板10は、
図4(1)に模式的に示したように、キャリア箔付銅箔1のバルク銅層4の表面に、絶縁層構成材6を張り合わせ、
図4(2)の状態となる。なお、この張り合わせを行った後は、絶縁層構成材6が絶縁層となるが、説明の便宜上、図面中の符号6の表示を、そのまま使用する。
【0037】
そして、キャリア箔付銅箔1のバルク銅層4の表面に、絶縁層構成材6を張り合わせた後は、
図5(3)に示すように、当該キャリア箔付銅箔のキャリア箔2を除去する。このキャリア箔2の除去を行う際には、剥離層3の殆どが、キャリア箔2と共に除去される。
【0038】
その後、
図5(4)に示すように、露出した金属成分含有粒子5を表面に備えるバルク銅層4に対して黒化処理を施し黒化処理面7を形成し、この表面をレーザー孔明け加工表面として用いる銅張積層板10となる。
【0039】
露出した金属成分含有粒子5を表面に備えるバルク銅層4に対して黒化処理を施すと、黒化処理面7を形成したとき、金属成分含有粒子を構成する金属成分(例えば、Ni)とCuとの間で局部電池反応が起きている可能性があり、金属成分含有粒子を構成する金属成分は黒化処理液中では安定であり、近接するCuの酸化が促進されて、レーザー孔明け加工性能に優れた黒化処理が形成できると考えられる。
【0040】
そして、この銅張積層板10が備える黒化処理面7は、以下の述べるようにL
*a
*b
*表色系における色差の値によって特徴づけられる。ここで、L
*a
*b
*表色系とは、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本では、JIS Z8729として規格化されているものである。
【0041】
本件発明に係る銅張積層板は、L
*a
*b
*表色系における前記レーザー孔明け加工表面のa
*値とb
*値とが、a
*値≧b
*値の関係を満たすことが好ましい。
図6から理解できるように、このa
*値とb
*値との関係において、b
*値がa
*値よりも大きな値となった場合には、キャリア箔を除去した後のバルク銅層表面の金属成分含有粒子の付着量が100mg/m
2を超えるようになる領域であり、レーザー孔明け加工性能に優れた黒化処理面とは言えず、レーザー孔明け加工性能が低下する傾向にある。
【0042】
そして、a
*値≧b
*値の関係を満たすことを条件として、a
*値≦4.5の条件を満たすことが好ましい。a
*値が4.5を超える場合とは、キャリア箔を除去した後のバルク銅層表面の金属成分含有粒子の付着量(F)が0mg/m
2の場合が含まれることとなり、バルク銅層の表面に形成できる黒化処理がレーザー孔明け加工に適さないことが明らかであるからである。そして、a
*値≦1.0の条件を満たすことが、付着量(F)が、20mg/m
2≦F≦80mg/m
2の範囲となり、レーザー孔明け加工性能が、より安定化するため、更に好ましい
【0043】
念のために記載しておくが、ここで言うa
*値とは、色相と彩度を表わす指標であり、正のa
*値は赤方向、負のa
*値は緑方向を示し、中心(a
*=0)から数値が離れる程、色あざやかになり、中心になるに近づく程、くすんだ色になることを意味するものである。そして、ここで言うb
*値とは、色相と彩度を表わす指標であり、正のb
*値は黄方向、負のb
*値は青方向を示し、中心(b
*=0)から数値が離れる程、色あざやかになり、中心になるに近づく程、くすんだ色になることを意味するものである。
【0044】
最後に、L
*a
*b
*表色系における前記レーザー孔明け加工表面のL
*値に関して述べる。
図6から分かるように、キャリア箔を除去した後のバルク銅層表面の金属成分含有粒子の付着量(F)の適正範囲である0mg/m
2<F≦100mg/m
2の範囲として考えると、前記レーザー孔明け加工表面である黒化処理面のL
*値は12未満が好ましい。このL
*値が12以上の場合、レーザー孔明け加工性能にバラツキが生じやすく、レーザーにより形成するビアホールの形状が狙い通りにできず、良好な孔明け加工が出来なくなる傾向が強くなるからである。そして、キャリア箔を除去した後のバルク銅層表面の金属成分含有粒子の付着量(F)が、最適範囲である20mg/m
2≦F≦80mg/m
2で考えると、前記レーザー孔明け加工表面である黒化処理面のL
*値が10未満が、より好ましいと言える。
【実施例】
【0045】
この実施例では、以下の述べる方法でキャリア箔付銅箔を製造し、その後、銅張積層板を製造し、レーザー孔明け加工性能を測定した。以下、順に述べる。
【0046】
<キャリア箔付銅箔の製造>
この実施例におけるキャリア箔付銅箔は、以下の工程1〜工程4を経て製造した。以下、工程毎に説明する。
【0047】
工程1: この工程1では、
図3(1)に示すように、厚さ18μmの電解銅箔をキャリア箔2として用い、その表面粗さ(Rzjis)が0.6μmの一面側に剥離層3を形成した。なお、この表面粗さの測定は、JIS B 0601に準拠して、先端曲率半径が2μmのダイヤモンドスタイラスを使用した触針式表面粗さ計で測定した。
【0048】
この剥離層の形成は、キャリア箔2を、硫酸が150g/l、銅濃度が10g/l、CBTA濃度が800ppm、液温30℃の有機剤含有希硫酸水溶液に対して、30秒間浸漬して引き上げることで、電解銅箔に付いた汚染成分を酸洗除去し、同時にCBTAを表面に吸着させ、キャリア箔2の表面に剥離層を形成し、
図3(2)に示す「剥離層3を備えるキャリア箔2」とした。
【0049】
工程2: この工程2では、金属成分含有電解液中で、当該剥離層3を備えるキャリア箔2をカソード分極し、剥離層3の表面に金属成分含有粒子5を析出付着させて、
図3(3)に示す如き「金属成分含有粒子5と剥離層3とを備えるキャリア箔2」とした。ここでは、ニッケル電解液として、硫酸ニッケル(NiSO
4・6H
2O)が250g/l、塩化ニッケル(NiCl
2・6H
2O)が45g/l、ホウ酸が30g/l、pH3のワット浴を用い、液温45℃、電流密度0.4A/dm
2で電解し、電解時間を変えて、ニッケル付着量の異なる8種類の試料を作成した。
【0050】
工程3: この工程3では、銅電解液中で、「当該金属成分含有粒子5と剥離層3とを備えるキャリア箔2」をカソード分極し、金属成分含有粒子5と剥離層3とが存在する表面に、バルク銅層4を形成してキャリア箔付銅箔1を得た。このバルク銅層の形成には、銅濃度(CuSO
4・5H
2Oとして)が255g/l、硫酸濃度が70g/l、液温45℃の硫酸銅溶液を用い、電流密度30A/dm
2で電解し、3μm厚のバルク銅層を形成し、8種類のピーラブルタイプのキャリア箔付銅箔1を得た。
【0051】
工程4: この工程4では、工程3で得られたキャリア付銅箔のバルク銅層の表面に、表面処理を施した。ここでの表面処理は、粗化処理を施すことなく、亜鉛−ニッケル合金防錆層を形成し、電解クロメート処理、アミノ系シランカップリング剤処理とを施し、8種類のキャリア箔付銅箔P1〜キャリア箔付銅箔P8を得た。これら試料の具体的内容は、比較試料との対比が容易となるように、表1に掲載する。
【0052】
<銅張積層板の製造>
この実施例においては、上述の8種類のキャリア箔付銅箔を用いて、
図4(1)に模式的に示したように、キャリア箔付銅箔1のバルク銅層4の表面処理層に、絶縁層構成材6として厚さ100μmのプリプレグを熱間プレス加工により張り合わせ、
図4(2)の状態とした。
【0053】
そして、キャリア箔付銅箔1のキャリア箔2と剥離層3とを同時に引き剥がして除去し、
図5(3)に示す状態とした。
【0054】
その後、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社のPROBOND80を用いて、
図5(4)に示すように、露出した金属成分含有粒子5を表面に備えるバルク銅層4に対して黒化処理を施し、バルク銅層4の表面に黒化処理面7を形成し、この表面をレーザー孔明け加工表面として用いる銅張積層板10である実施試料1〜実施試料8を得た。
【0055】
<評価方法>
黒化処理面のL
*値、a
*値、b
*値の測定方法: 日本電色工業株式会社製の型式SE2000を用いて、JIS Z8729に準拠して測定した。
【0056】
レーザー孔明け加工性能の評価: レーザー孔明け加工性能の評価には、炭酸ガスレーザーを用いた。このときの炭酸ガスレーザー照射条件は、パルス幅6μsec.、パルスエネルギー2.5mJ、レーザー光径85μmとし、銅箔に黒化処理を施した銅張積層板に60μmの加工径の穴を形成することを予定して行ったものである。従って、本件発明者等は判断基準として、加工後の穴径が55μm〜65μmとなった範囲で、レーザー孔明け加工性能が良好と判断することとした。この評価結果は、表2に比較試料の評価結果と共に掲載する。
【0057】
[比較例1]
この比較例1では、実施例の工程2を省略し、当該剥離層3の表面に金属成分含有粒子5を析出付着させなかった。その他、実施例と同様にして、ピーラブルタイプのキャリア箔付銅箔C1と、このキャリア箔付銅箔C1を用いて得られた比較試料1を得た。
【0058】
[比較例2]
この比較例2では、実施例の工程2における電解時間を長くして、当該剥離層3の表面への金属成分含有粒子5を過剰に析出させ、「キャリア箔を除去した後のバルク銅層表面の金属成分含有粒子の付着量が100mg/m
2」を超えるようにした。その他、実施例と同様にして、ピーラブルタイプのキャリア箔付銅箔C2と、このキャリア箔付銅箔C2を用いて得られた比較試料2を得た。
【0059】
[実施例と比較例との対比]
実施例と比較例との対比を行うにあたり、実施試料と比較試料との差異、評価結果の理解が容易となるよう、以下に表1と表2とを示す。
【0061】
この表1から明らかなように、実施例に係るキャリア箔付銅箔P1〜キャリア箔付銅箔P8は、キャリア箔を除去した後のバルク銅層表面におけるニッケルの付着量(F)が、0mg/m
2<F≦100mg/m
2の範囲に入っている。これに対し、比較例に係るキャリア箔付銅箔C1及びキャリア箔付銅箔C2の当該ニッケル付着量は、この適正とする範囲から外れたものである。
【0063】
この表2から明らかなように、実施例に係るキャリア箔付銅箔P1〜キャリア箔付銅箔P8を用いて得られた実施試料1〜実施試料8の黒化処理面は、上述の各パラメータにおいて適正な範囲に入っている。これに対し、比較例に係るキャリア箔付銅箔C1を用いて得られた比較試料1は、L
*値、a
*値、b
*値の各値が適正とする範囲から外れている。そして、比較例に係るキャリア箔付銅箔C2を用いて得られた比較試料2は、L
*値、a
*値、b
*値の各値に関しては、適正な範囲に入っているものの、「a
*値≧b
*値の関係」が維持できず、適正な範囲から外れていることが理解できる。
【0064】
ここで、
図7を参照する。
図7には、実施例(実施試料1及び実施試料7)と、比較例(比較試料1及び比較試料2)で得られた黒化処理面の形態を示している。従来から行われてきた一般的な黒化処理の形態が、ニッケル粒子の存在しない比較試料1の黒化処理面の形態として見られる状態である。バルク銅層の表面に、非常に緻密で、形状の揃った酸化銅が形成されているのが分かる。また、ニッケル付着量を過剰にした比較試料2の場合には、黒化処理面における酸化銅の均一成長が見られず、ニッケル粒子の存在箇所を酸化銅で被覆できていない箇所が見られる。これに対し、実施試料1及び実施試料7の黒化処理面に見られる酸化銅の形態は、比較試料1の酸化銅に比べて、粗い酸化銅の成長が起きているように見られる。そして、実施試料1及び実施試料7の黒化処理面に見られる酸化銅の形態を、比較試料2の黒化処理により成長した酸化銅形態と比べると、実施試料の方が、均一な被覆状態となっていることが分かる。即ち、実施試料1及び実施試料7の黒化処理面に見られる酸化銅の形態を、レーザー孔明け加工に適した形態として、分別して認識できることが理解できる。
【0065】
そして、この表2から明らかなように、実施試料1〜実施試料8の黒化処理面に対し、レーザー孔明け加工を行うと、加工後の穴径が全て55μm〜63μmとなり、レーザー孔明け加工性能が良好であった。これに対し、比較試料1及び比較試料2に関しては、レーザー孔明け加工が加工後の穴径が55μm未満となり、レーザー孔明け加工性能が劣る結果となった。
【0066】
ここで、
図8に、実施試料1〜実施試料8を用いた場合のレーザー孔明け加工により形成した孔形状と、比較試料1及び比較試料2を用いた場合のレーザー孔明け加工により形成した孔形状とを掲載している。この
図8から明らかなように、実施試料を用いた場合の孔形状は、比較試料を用いた場合の孔形状に比べて、孔の周囲が美麗であり、且つ、孔径が大きいことが理解できる。
【0067】
以上のことから、銅張積層板の黒化処理面において、良好なレーザー孔明け加工性能を得るためには、最低限、「キャリア箔を除去した後のバルク銅層表面の金属成分含有粒子の付着量(F)が、0mg/m
2<F≦100mg/m
2の範囲」となるキャリア箔付銅箔を用いることが好ましいことが裏付けられる。