(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6389945
(24)【登録日】2018年8月24日
(45)【発行日】2018年9月12日
(54)【発明の名称】インバータ用負荷異常検出回路
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20180903BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-212183(P2017-212183)
(22)【出願日】2017年11月1日
【審査請求日】2017年11月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】楊 躍
【審査官】
栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−235044(JP,A)
【文献】
特開平06−284736(JP,A)
【文献】
特開2007−159174(JP,A)
【文献】
特開2003−086342(JP,A)
【文献】
特開平07−177757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子として自己消弧素子を有するとともに位相同期ループで出力周波数が負荷の共振周波数となるように制御されるインバータの運転中に前記負荷の異常を検出するインバータ用負荷異常検出回路であって、
前記自己消弧素子に与えられ、前記自己消弧素子のオンオフを制御するゲート電圧信号の位相と、前記負荷に与えられる前記インバータの出力電流との位相ずれを検出し、この位相ずれに基づき第1負荷異常信号を送出する位相ずれ検出手段を備えるインバータ用負荷異常検出回路。
【請求項2】
請求項1記載のインバータ用負荷異常検出回路であって、
前記位相ずれ検出手段に入力される前記ゲート電圧信号の波形を整える波形整形器と、
前記位相ずれ検出手段に入力される前記出力電流の波形を整える波形整形器と、
を備えるインバータ用負荷異常検出回路。
【請求項3】
請求項1又は2記載のインバータ用負荷異常検出回路であって、
前記ゲート電圧信号に対する前記自己消弧素子の応答遅れ時間は、前記インバータの出力周波数における半周期より小さいインバータ用負荷異常検出回路。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項記載のインバータ用負荷異常検出回路であって、
前記位相ずれ検出手段として、クロック信号と同時に入力されるデータ信号によりセット状態となり、セット状態の信号であるセット出力を送出するデータフリップフロップが設けられているインバータ用負荷異常検出回路。
【請求項5】
請求項4に記載のインバータ用負荷異常検出回路であって、
前記データフリップフロップには、前記セット状態からリセット状態へ移行させるリセット信号が入力されるリセット入力が設けられており、
前記負荷に与えられる出力電流の電流値と、予め設定された基準値とを比較し、前記電流値が前記基準値よりも大きくなるまで、前記データフリップフロップへ前記リセット信号を出力し続けるマスク手段をさらに備えるインバータ用負荷異常検出回路。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項記載のインバータ用負荷異常検出回路であって、
前記負荷に与えられる前記インバータの出力電流の電流値と、予め設定された基準値とを比較し、前記基準値よりも前記電流値が小さくなると第2負荷異常信号を送出する電流低下検出手段をさらに備えるインバータ用負荷異常検出回路。
【請求項7】
請求項6に記載のインバータ用負荷異常検出回路であって、
前記電流低下検出手段からの前記第2負荷異常信号が入力され、当該第2負荷異常信号が所定の時間以上継続したときのみ、当該第2負荷異常信号を出力する時限手段が設けられているインバータ用負荷異常検出回路。
【請求項8】
請求項7に記載のインバータ用負荷異常検出回路であって、
前記インバータの運転信号が入力されるとともに、この運転信号が入力されたときのみ、前記第2負荷異常信号を出力するマスク手段が設けられているインバータ用負荷異常検出回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータが電力を供給している負荷に異常が生じた際に、この負荷の異常による影響からインバータを保護するために設けられるインバータ用負荷異常検出回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、負荷に交流電力を与える電源装置として、インバータ装置が利用されている。インバータ装置で電力を供給すれば、負荷に与える電圧値および電流値だけでなく、その周波数までも任意に設定できることから、負荷の特性や必要とする仕事量に応じて電力が供給され、負荷への電力供給に無駄がなくなり、電力供給が効率良く行える。
【0003】
インバータ装置の一例として、
図5に示されるように、三相交流電力をダイオード11および平滑コンデンサ12で直流電力に変換する整流回路10と、この整流回路10の出力電圧を所定電圧に整える定電圧回路20と、この定電圧回路20からの直流電圧を交流電力に変換するインバータ回路30と、このインバータ回路30から出力される交流電力の周波数を負荷2の共振周波数となるように制御する位相同期ループ回路(以下、「PLL回路」と略す。)40とを備えたインバータ装置1が知られている。このインバータ装置1は、高周波と見なせる高い周波数の交流電力を発生するとともに、出力インピーダンスが小さい電圧型のものとなっている。
【0004】
定電圧回路20は、負荷や入力電圧が変動しても所定の直流電圧を安定して出力側に供給するチョッパ方式のものである。この定電圧回路20には、チョッパ本体となる高速スイッチング素子である電力制御用のMOSFET21と、電圧・電流平滑用のリアクトル22およびコンデンサ23と、MOSFET21がオフのときの負荷電流通路となるフリーホイリングダイオード24とが設けられている。定電圧回路20は、MOSFET21のゲートに加える周期信号のオン時間の幅を変化させることで、出力電圧が調節可能となっている。
【0005】
インバータ回路30には、ブリッジ状に接続された高速スイッチング素子である周波数制御用のMOSFET31が設けられている。各MOSFET31には、誘導負荷の場合の遅れ電流成分を直流回路に帰還させたり、ブリッジ内を環流させるダイオード32が並列に接続されている。また、インバータ回路30には、インダクタンスLおよびキャパシティCからなる負荷2が接続され、この負荷2への電流I1および電圧V1を検出するために、変流器33および変圧器34が設けられている。
【0006】
PLL回路40には、負荷2への電流I1および電圧V1の位相ずれを検出する位相比較回路41と、位相比較回路41が検出した電流I1および電圧V1の位相ずれを合せるように、予め設定された周波数設定値を加減するアナログ加減算器42と、このアナログ加減算器42が出力する電圧に応じた周波数の信号を出力する電圧制御発振器43と、電圧制御発振器43の出力する信号の周波数に応じて、インバータ回路30の各MOSFET31が有するゲートA〜Dへ信号を順次送出するゲート信号制御回路44とが設けられている。
【0007】
このようなインバータ装置1によれば、高周波と見なせる高い周波数の交流電力が発生可能となり、鋼材等の高周波焼き入れに利用可能となる。そのうえ、負荷2への電流I1および電圧V1の位相が合うように出力の周波数が制御されるので、出力電力の周波数がインダクタンスLおよびキャパシティCからなる負荷2の共振周波数と一致し、負荷2を効率よく運転させることが可能となる。
【0008】
インバータ装置1の運転中に、負荷2側の回路の一部が短絡したり、又は開放されたりする等の異常が発生すると、負荷2のインピーダンスが急激に変化し、共振周波数が大きく変動する。すると、インバータ装置1のPLL回路40は、負荷2の共振周波数で運転するように出力の周波数を制御し、過渡状態において、瞬間的に大きな電流や電圧が発生し、MOSFET31を破壊する可能性がある。特に、負荷2のインピーダンスの変化により、電流I1の位相が電圧V1の位相に対して進むと、比較的大きなサージ電圧が発生し、このサージ電圧でMOSFET31が破壊されやすいという問題がある。
【0009】
特許文献1に記載されたインバータ用負荷異常検出回路は、上記インバータ装置1に付加され、インバータ装置1から負荷2へ出力される出力電圧V1及び出力電流I1の位相ずれを検出し、この位相ずれに基づき負荷異常信号を送出するものである。この負荷異常検出回路には、PLL回路40と接続された変流器33及び変圧器34の各々から得られる電流I1及び電圧V1が入力される。そして、負荷異常検出回路は、入力された電流I1及び電圧V1をそれぞれ所定の方形波に整え、さらに一方(例えば電流I1)の波形を反転させ、電流I1及び電圧V1の波形を比較する。
【0010】
負荷2に異常が発生し、負荷2の共振周波数がインバータ装置3の作動周波数からずれると、負荷2の共振回路は容量性負荷となり、電圧V1の位相に対して電流I1の位相が進む。この場合に、負荷異常検出回路は、インバータ回路30のMOSFET31のゲート信号をすべてオフし、チョッパ方式の定電圧回路20に使用しているMOSFET21もオフし、入力側からの電流流入を防ぐ。これにより、負荷2への電力供給が停止されるとともに、MOSFET31が保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3652098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
インバータ回路30のMOSFET31として、一般にはSi製のものが用いられるが、近年、Si製のものと比較して一素子当たりの定格電流が大きく且つスイッチング速度が高いSiC製のものも用いられている。しかし、SiC−MOSFETは、Si−MOSFETと比較して、高速で動作した際のOFF時にリンギングを生じやすい。MOSFET31にリンギングが生じた場合に、特許文献1に記載された負荷異常検出回路では、負荷異常検出回路に入力される電圧V1の波形に高周波のノイズが重畳され、ノイズ成分の増加に伴う誤動作が懸念される。
【0013】
ここで、特許文献1に記載された負荷異常検出回路には、入力された電圧V1の波形を方形波に整える波形整形器が設けられており、波形整形器は、抵抗器、電圧V1の波形に含まれる不要な高調波分をカットするためのコンデンサ等を備える。このコンデンサの容量を増加することによって、電圧V1の波形に含まれるノイズ成分を除去可能であるが、コンデンサの容量が過大であると、抵抗器とコンデンサとで形成されるフィルタの時定数が大きくなり、入力された電圧V1の波形の位相に対して、整形された方形波の位相に遅れが生じ得る。負荷異常検出回路は、電圧V1及び電流I1の位相ずれに基づいて負荷異常を検出しており、電圧V1から生成される方形波の位相の遅れに起因する誤検出が懸念される。
【0014】
本発明は、負荷の異常を正確且つ迅速に検出し、インバータの重要な構成要素であるスイッチング素子の破壊が防止可能となるインバータ用負荷異常検出回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様のインバータ用負荷異常検出回路は、スイッチング素子として自己消弧素子を有するとともに位相同期ループで出力周波数が負荷の共振周波数となるように制御されるインバータの運転中に前記負荷の異常を検出するインバータ用負荷異常検出回路であって、
前記自己消弧素子に与えられ、前記自己消弧素子のオンオフを制御するゲート電圧信号と、前記負荷に与えられる前記インバータの出力電流との位相ずれを検出し、この位相ずれに基づき第1負荷異常信号を送出する位相ずれ検出手段を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、負荷の異常を正確に且つ迅速に検出でき、インバータの重要な構成要素であるスイッチング素子の破壊を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るインバータ装置を示す回路図である。
【
図2】前記第1実施形態の負荷異常検出に用いられるゲート信号の信号電圧Vgとインバータ装置から負荷へ出力される出力電圧との関係を示すグラフである。
【
図3】前記第1実施形態の負荷異常検出回路を示す回路図である。
【
図4】本発明の第2実施形態の負荷異常検出回路を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、既に説明した素子や回路と同じものには、同一符号を付し、その説明を省略若しくは簡略にする。
図1には、本発明の第1実施形態に係るインバータ装置3が示されている。このインバータ装置3は、前述したインバータ装置1に負荷異常検出回路50を付加したものである。インバータ回路30のMOSFET31としては、例えばSi−MOSFET、SiC−MOSFET等が用いられる。
【0019】
負荷異常検出回路50は、PLL回路40からMOSFET31に与えられるゲート電圧信号の信号電圧Vgと、インバータ装置3から負荷2へ出力される出力電流I1との位相ずれを検出し、この位相ずれに基づき第1負荷異常信号を送出する位相ずれ検出式のものである。負荷異常検出回路50には、PLL回路40から得られるゲート電圧信号と、PLL回路40と接続された変流器33から得られる電流I1とが入力されるようになっている。
【0020】
図2に示されるように、ゲート電圧信号の信号電圧Vgの周期と、インバータ装置3から負荷2へ出力される出力電圧V1の周期とは互いに一致している。そして、ゲート電圧信号の信号電圧Vgには、MOSFET31のリンギングに起因して出力電圧V1に重畳されるノイズ成分が含まれていない。したがって、ゲート電圧信号の信号電圧Vgは、出力電圧V1に替えて出力電流I1との位相ずれを検出する電圧として、好適に用いられ得る。
【0021】
ただし、両電圧Vg,V1の間には、ゲート電圧信号に基づいてオンオフされるMOSFET31の応答遅れ時間Δに起因する位相ずれが生じている。ここで、応答遅れ時間とは、ターンオン遅延時間(t
d)と上昇時間(t
r)との合計をいうものとし、ターンオン遅延時間(t
d)とは、ゲート−ソース間電圧(V
GS)の立ち上がり10%からドレイン−ソース間電圧(V
DS)の立ち上がり10%までの時間であり、上昇時間(t
r)とは、ドレイン−ソース間電圧(V
DS)の立ち上がり10%から90%までの時間である。このMOSFET31の応答遅れ時間Δは、出力電圧V1の半周期λ/2よりも小さいことが好ましく、半周期λ/2よりも十分に小さい(例えば半周期λ/2の1/10以下である)ことがより好ましい。上記のとおり、出力電流I1の出力電圧V1に対する位相の進みはサージ電圧の発生要因となるところ、MOSFET31の応答遅れ時間Δが出力電圧V1の半周期λ/2以上であると、出力電流I1の出力電圧V1に対する位相ずれが進み位相であるか又は遅れ位相であるかを、出力電流I1と信号電圧Vgとの位相ずれの検出結果に基づいて判別することが困難となる。
【0022】
なお、負荷異常検出回路50に入力されるゲート電圧信号は、PLL回路40からゲートA〜Dに送出されるゲート電圧信号のうちいずれか一つのゲート電圧信号(例えばゲートA若しくはゲートBに送出されるゲート電圧信号)であってもよいし、同期してオンオフされる複数のMOSFET31のゲート(例えばゲートAとゲートD)に送出される複数のゲート電圧信号の平均であってもよい。
【0023】
負荷異常検出回路50には、
図3に示されるように、電圧Vgの波形を所定の方形波に整える波形整形器51と、電流I1の波形を所定の方形波に整える波形整形器52と、電圧Vgおよび電流I1の位相ずれを検出する位相ずれ検出手段としてのデータフリップフロップ53と、このデータフリップフロップ53の出力をホールドするラッチとしてのフリップフロップ54と、電流I1の大きさが基準値に達したか否かを検出する比較器55と、この比較器55の出力信号を反転する反転器56とが設けられている。
【0024】
ここで、波形整形器51は、データフリップフロップ53への入力電圧に応じた直流抵抗値を有する抵抗器51Aや、電圧Vgの波形に含まれる不要な高調波分をカットするためのコンデンサ51B等を備えたものである。波形整形器52は、波形整形器51と同様に、データフリップフロップ53への入力電圧に応じた直流抵抗値を有する抵抗器52Aや、電流I1の波形に含まれる不要な高調波分をカットするためのコンデンサ52B等を備えたものである。
【0025】
ここで、電流I1は、元の波形から位相が180°反転して逆位相となってデータフリップフロップ53に入力される。換言すれば、電流I1の元の波形が電圧Vgと同位相の場合には、データフリップフロップ53に入力される電流I1の信号は、電圧Vgとは逆位相となっている。
【0026】
データフリップフロップ53は、クロック信号が入力されるクロック入力ポートCLと、データ信号が入力されるデータ入力ポートDと、セット信号が入力されるセット入力ポートSと、リセット信号が入力されるリセット入力ポートRと、セット状態となるとセット信号を送出するセット信号ポートQとを有し、クロック信号と同時にデータ信号が入力されると、セット状態となって、セット信号ポートQからセット信号を送出するものとなっている。
【0027】
比較器55は、二つの入力ポートにそれぞれ入力される交流信号の大きさを比較するものである。比較器55の一方の入力ポートには、負荷2への電流I1の値を示す交流信号が入力されている。比較器55の他方の入力ポートには、予め設定された基準値として、所定の交流電圧V2を可変抵抗器57で分圧した交流信号が入力されている。この際、電流I1が基準値よりも大きくなると、比較器55から定常運転信号が出力されるようになっている。この定常運転信号は、反転器56で反転されてデータフリップフロップ53のリセット入力に送られるようになっている。ここにおいて、比較器55、反転器56および可変抵抗器57により、電流I1の値が基準値よりも大きくなるまで、データフリップフロップ53へリセット信号を出力し続けるマスク手段58が形成されている。
【0028】
このような本実施形態では、インバータ装置3の起動後、インバータ装置3の運転が定常状態に達するまで、具体的には、インバータ装置3の作動周波数が負荷2の共振周波数に一致するとともに、負荷2への電流I1が基準値よりも大きくなる状態となるまで、マスク手段58がデータフリップフロップ53へリセット信号を出力し続け、負荷異常検出回路50による位相ずれ検出動作は休止される。これにより、負荷2への電流I1が不安定となり、位相が電圧と一致しないインバータ装置3の起動直後に強制的に停止されるといった不具合が解消される。
【0029】
そして、インバータ装置3の運転が定常状態に達すると、負荷異常検出回路50による位相ずれ検出動作が開始される。
【0030】
ここで、負荷2に異常がなく、負荷2の共振周波数がインバータ装置3の作動周波数に一致し、電圧Vgおよび電流I1の位相が相互に一致した状態となっている場合には、データフリップフロップ53のクロック入力ポートCLおよびデータ入力ポートDのそれぞれに入力される信号は、互いに位相が反転している。このため、データフリップフロップ53は、リセット状態のままとなり、セット状態へ移行することがなく、セット信号ポートQからセット信号が送出されず、インバータ装置3は、そのまま運転が継続される。
【0031】
一方、負荷2に異常が発生し、負荷2の共振周波数がインバータ装置3の作動周波数からずれると、電圧Vgおよび電流I1の位相が相互に一致しない状態となる。このような状態となった場合には、データフリップフロップ53のクロック入力ポートCLおよびデータ入力ポートDのそれぞれに入力される信号は、同時に正極となる部分が生じ始める。このため、データフリップフロップ53は、セット状態へ移行し、セット信号ポートQからセット信号が送出され、このセット信号は、フリップフロップ54を介して、インバータ装置3のPLL回路40に、第1負荷異常信号として入力される。
【0032】
第1負荷異常信号を受け取ったPLL回路40は、MOSFET31を適宜オフ状態にして、負荷2への電力供給を停止し、MOSFET31を破壊から保護する。なお、第1負荷異常信号は、フリップフロップ54がリセットされるまで、出力され続ける。
【0033】
前述のような本実施形態によれば、次のような効果がある。
【0034】
すなわち、負荷2への電流I1とゲート電圧信号の信号電圧Vgとの位相ずれから負荷2の異常を検出する負荷異常検出回路50を設けたので、事故等により、負荷2のインピーダンスが変化すると、その共振周波数の変動で発生する電流I1と電圧Vgとの位相ずれから負荷2の異常が迅速に検出可能となり、PLL回路40が負荷2の共振周波数で運転する動作を完了する前に、負荷2の異常を確実に検出することができる。
【0035】
そして、負荷異常検出回路50が負荷異常を検出したら、インバータ装置3のMOSFET31を適宜オフ状態にして、負荷2への電力供給を停止するようにしたので、負荷の異常によるMOSFET31の破壊を未然に防止できる。
【0036】
さらに、電流I1との位相ずれを検出する電圧として、MOSFET31のリンギングに起因するノイズ成分が重畳された負荷2への電圧V1に替えて、MOSFET31のリンギングに起因するノイズ成分を含まないゲート電圧信号の信号電圧Vgを用いたので、ノイズ成分の増加に伴う負荷異常検出回路50の誤動作を防止し、負荷2の異常を正確に検出することができる。
【0037】
また、クロック信号と同時に入力されるデータ信号によりセット状態となり、セット状態の信号であるセット出力を送出するデータフリップフロップ53を含んで負荷異常検出回路50を構成し、負荷2に流れる電流I1の逆位相信号をクロック入力ポートCLに入力させ、ゲート電圧信号の信号電圧Vgをデータ入力ポートDに入力させたので、電流I1と電圧Vgとの位相がずれたときのみ、データフリップフロップ53からセット信号が出力されるようになり、これにより、負荷2への電流I1およびゲート電圧信号の信号電圧Vgの位相ずれが、簡単な回路構成で検出可能となり、負荷異常検出回路50を著しく簡単なものとできる。
【0038】
さらに、負荷2に与えられる電流I1の電流値と、予め設定された基準値とを比較し、電流I1の値が基準値よりも大きくなるまで、データフリップフロップ53へリセット信号を出力し続けるマスク手段58を負荷異常検出回路50に設けたので、負荷2への電流I1が不安定となり、位相が電圧Vgと一致しないインバータの起動時に、負荷異常検出回路50の位相ずれ検出動作が一時的に休止するようになり、起動直後にインバータ装置3が強制的に停止されるといった不具合の発生を未然に防止することができる。
【0039】
図4には、本発明の第2実施形態の要部が示されている。本実施形態は、前記第1実施形態における位相ずれ検出式の負荷異常検出回路50に電流低下検出手段60を付加したものである。なお、以下の説明では、電流低下検出手段60以外の部分は、前記第1実施形態と同様なので、電流低下検出手段60についてのみ説明を行う。
【0040】
電流低下検出手段60は、負荷2に流れる電流I1の値に基づいて第2負荷異常信号を送出するものであり、
図4に示されるように、負荷2に与えられる電流I1の値と、予め設定された基準値とを比較し、基準値よりも電流I1の値が小さくなると第2負荷異常信号を送出する比較器61を備えている。
【0041】
この電流低下検出手段60には、比較器61の他に、比較器61からの第2負荷異常信号が入力され、当該第2負荷異常信号が所定の時間以上継続したときのみ、当該第2負荷異常信号を出力する時限手段としてのタイマ62と、インバータ装置3の運転信号が入力されるとともに、この運転信号が入力されたときのみ、第2負荷異常信号を出力するマスク手段としてのAND回路63と、このAND回路63の出力をホールドするラッチとしてのフリップフロップ64とが設けられている。
【0042】
この本実施形態では、負荷2の共振周波数がインバータ装置3の動作周波数と一致していたために、負荷2に流れる電流が極大となっている状態から、事故などにより、負荷2のインピーダンスが変化し、その共振周波数が変動すると、インバータ装置3側の出力電圧が変化しなくとも、その動作周波数とずれるので、負荷2に流れる電流I1が小さくなり、比較器61で負荷2への電流低下を検出すれば、PLL回路40が負荷2の共振周波数で運転する動作を完了する前に、負荷2の異常が確実に検出されるようになる。そして、負荷異常を検出したら、インバータの動作を停止する、すなわち、スイッチング素子を適宜オフ状態にして、負荷への電力供給を停止するように回路全体を構成すれば、負荷の異常によるスイッチング素子の破壊が未然に、且つ一層確実に防止されるようになる。
【0043】
また、タイマ62により、ノイズ等で電流I1が瞬間的に低下しても、負荷2への電流I1が低下したとみなされず、インバータ装置3が安定した運転を行うようになる。
【0044】
さらに、AND回路63により、負荷2への電流I1が定格値に達しないインバータ装置3の起動時に、比較器61からの第2負荷異常信号が一時的に遮断されるようになり、起動直後に、インバータ装置3が強制的に停止されるといった不具合が解消される。
【0045】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は、この実施形態に限られるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の改良並びに設計の変更が可能である。
【0046】
例えば、整流回路の整流方式としては、整流素子としてダイオードを採用したパッシブなものに限らず、SCR等の能動的な整流素子を採用するとともに、能動的な整流素子を位相制御するアクティブなものでもよい。
【0047】
また、定電圧回路のチョッパ方式としては、MOSFETを採用したものに限らず、他のバイポーラトランジスタ等のスイッチング素子を採用したものでもよく、さらに、ダイオード整流回路とパルス幅変調式のインバータ回路とを組み合わせる場合等には、チョッパ方式の定電圧回路を省略してもよい。
【0048】
また、インバータ回路としては、MOSFETを採用したものに限らず、他のバイポーラトランジスタ等のスイッチング素子を採用したものでもよく、要するに、本発明におけるインバータ装置の本体側の電気素子、電子素子および回路構成は、実施にあたり適宜選択できる。
【0049】
なお、前記第1実施形態のマスク手段と、第2実施形態のマスク手段とは、互いに置換し合うことが可能であり、また、前記第1実施形態に、第2実施形態の時限手段を付加してもよい。
【符号の説明】
【0050】
3 インバータ装置
31 自己消弧素子としてのMOSFET
40 位相同期ループとしてのPLL回路
50 負荷異常検出回路
53 位相ずれ検出手段としてのデータフリップフロップ
55 マスク手段を構成する比較器
56 マスク手段を構成する反転器
57 マスク手段を構成する可変抵抗器
60 電流低下検出手段
61 比較器
62 時限手段としてのタイマ
63 マスク手段としてのAND回路
【要約】
【課題】負荷の異常を正確且つ迅速に検出し、インバータの重要な構成要素であるスイッチング素子の破壊が防止可能となるインバータ用負荷異常検出回路を提供する。
【解決手段】スイッチング素子として自己消弧素子31を有するとともに位相同期ループで出力周波数が負荷の共振周波数となるように制御されるインバータの運転中に前記負荷の異常を検出するインバータ用負荷異常検出回路50は、自己消弧素子31のオンオフを制御するゲート電圧信号Vgと、負荷2に与えられるインバータの出力電流I1との位相ずれを検出し、この位相ずれに基づき第1負荷異常信号を送出する位相ずれ検出手段を備える。
【選択図】
図1