(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記組合せオイルリングにおいて、前記上見掛け突出量Q1または前記下見掛け突出量Q2、および前記上見掛け突出量Q1と前記下見掛け突出量Q2との差Qが下式(8)、(9)を満足する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の組合せオイルリング。
0.15≦Q1またはQ2≦0.65 ……… (8)
0.06<Q≦0.23……… (9)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る組合せオイルリングの実施形態(実施例)の3例およびエキスパンダ・スペーサの2つの変形例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。すなわち、以下の実施形態および変形例は、本発明の幾つかの実施形態および変形例のうちの5例である。本発明に係る組合せオイルリングは、往復動内燃機関に限らず往復式空気圧縮機にも適用されるが、往復動内燃機関における構造、挙動を主として説明する。
【0020】
本発明において用いる各部の名称、記号、基本的寸法は、JIS B8032−1:2016(ISO 6621−1:2007)、JIS B8032−2:2016(ISO 6621−2:2003)およびJIS B8032−13:1998(ISO 627:2000)に準拠する。しかしながら、通常は、往復動内燃機関の設計製造メーカとの取引における推奨値であり、必ずしもこれらの規格に厳格に一致するものではない。
【0021】
この明細書および別紙の特許請求の範囲において、「上側」は、シリンダの軸方向におけるシリンダヘッド側であり、「下側」は、シリンダの軸方向におけるシリンダヘッドから離れる側である。また、この明細書および別紙の図面において、組合せオイルリングのシリンダ軸CCL方向をY方向(軸方向)と言う。組合せオイルリングのY方向の断面において、シリンダ軸CCLに直交する軸であって、組合せオイルリングの中心を通る中心軸CL方向(径方向)をX方向と言う。
【0022】
さらに、この明細書において、Y方向を幅(高さ)と言い、X方向を厚さ(長さ)と言い、単位の前後に[]を付す。さらにまた、この明細書および別紙の図面において、添字u、dは、組合せオイルリングのY方向の断面において、中心軸CLより上側をu、下側をdとし、実際に寸法を測定する際に、識別可能にするために採用している。さらにまた、この明細書、別紙の特許請求の範囲および別紙の図面において、数値の単位および測定単位は、長さが[mm]、角度が[度]、である。
【0023】
さらにまた、別紙の図面は、模式図であるから、図面に描かれた物と実物とは、形状や寸法などにおいて相違する場合がある。特に、特徴とする部分は、実物よりも大きく描かれている。
【0024】
さらにまた、別紙の図面の概略断面図は、組合せオイルリングの挙動を一断面で捉えている。しかしながら、組合せオイルリングの挙動は、全周に亘っている。
【0025】
(実施形態1の構成の説明)
図1〜
図15は、本発明に係る組合せオイルリングの実施形態1を示す。以下、この実施形態1に係る組合せオイルリングの構成について説明する。図中、符号1Aは、この実施形態1(a1u>a1d)に係る組合せオイルリングである。
【0026】
(組合せオイルリング1Aの説明)
組合せオイルリング1Aは、
図1(A)、
図4に示すように、一般のスリーピースのオイルリングである。組合せオイルリング1Aは、上セグメント(上側レール)2と、下セグメント(下側レール)3と、エキスパンダ・スペーサ(スペーサ)4と、を備える。上セグメント2は、上側に配置される。下セグメント3は、下側に配置される。エキスパンダ・スペーサ4は、上セグメント2と下セグメント3の間に配置される。
【0027】
(上セグメント2、下セグメント3の説明)
上セグメント2および下セグメント3は、
図1(A)、
図2(B)、
図2(C)、
図4に示すように、外周面20、30と、内周面21、31と、上面22、32と、下面23、33とを有する。なお、上セグメント2、下セグメント3には、合い口25、35(
図7を参照)が設けられている。
【0028】
上セグメント2および下セグメント3の基材は、鋼を主成分としている。なお、鋼としては、ステンレス鋼、炭素鋼が代表例として挙げられるが、これら以外の鋼を用いても良い。上セグメント2および下セグメント3の外周面は、硬質クロムめっき被膜、CrN系のPVD被膜、DLC被膜などの硬質被膜が被覆されるか、窒化層が形成されるが、これらに限らない。
【0029】
上セグメント2と下セグメント3の基材は、異なる材質からなるものであっても良い。また、上セグメント2と下セグメント3の外周面は、異なる硬質被膜であっても良い。上セグメント2および下セグメント3の上下面は、上セグメント2の上面22、下面23または下セグメント3の上面32、下面33に窒化層が形成されているものであっても良い。
【0030】
以下、上セグメント2および下セグメント3の自由状態における名称、記号および寸法について
図2(B)、
図2(C)を参照して説明する。
【0031】
h12uは、上セグメント呼び幅である。a1uは、上セグメント厚さである。h11uは、実際にマイクロメータで1/1000[mm]まで読み取る上セグメント幅の値である。すなわち、h11uは、上セグメント2の外周側の幅であり、組合せ呼び幅h1(組合せオイルリング1A、1B(後述)の組合せ呼び幅。
図1、
図5を参照)を求める時の寸法である。この上セグメント幅の値h11uの測定位置は、外周面頂点24から寸法h12u[mm]、内周面21側の位置とする。
【0032】
h12dは、下セグメント呼び幅である。a1dは、下セグメント厚さである。h11dは、実際にマイクロメータで1/1000[mm]まで読み取る下セグメント幅の値である。すなわち、h11dは、下セグメント3の外周側の幅であり、組合せ呼び幅h1を求める時の寸法である。この下セグメント幅の値h11dの測定位置は、外周面頂点34から寸法h12d[mm]、内周面31側の位置とする。
【0033】
(エキスパンダ・スペーサ4の説明)
エキスパンダ・スペーサ4の基材は、鋼を主成分としている。なお、鋼としては、ステンレス鋼、炭素鋼が代表例として挙げられるが、これら以外の鋼を用いても良い。エキスパンダ・スペーサ4は、
図1(A)、
図2(A)、
図3、
図4に示すように、連結片40と、上片41と、下片42と、上耳部43と、下耳部44と、上支持部45と、下支持部46と、を有する。エキスパンダ・スペーサ4は、中心軸CLに対して、上下対称の形状である。なお、エキスパンダ・スペーサ4には、合い口(図示せず)が設けられている。
【0034】
エキスパンダ・スペーサ4は、平板状金属により、連結片40、上片41および下片42を、Y方向に波形に形成し、かつ、周方向に延伸してなる。すなわち、上片41と下片42は、Y方向および周方向に離間して、かつ、周方向に交互に多数配置されている。隣接する上片41と下片42とは、連結片40により連結されている。
【0035】
上片41の内周側端部の上側の部分には、上耳部43が上側に突出して設けられている。すなわち、上耳部43は、上片41の内周側端部に起立形成されている。上耳部43の外周側面は、上耳傾斜面430をなす。上耳傾斜面430は、上セグメント2の内周面21に当接して上セグメント2を外周側に押圧する。
【0036】
下片42の内周側端部の下側の部分には、下耳部44が下側に突出して設けられている。すなわち、下耳部44は、下片42の内周側端部に起立形成されている。下耳部44の外周側面は、下耳傾斜面440をなす。下耳傾斜面440は、下セグメント3の内周面31に当接して下セグメント3を外周側に押圧する。
【0037】
上片41の外周側端部の上側の部分には、上支持部45が上側に突出して設けられている。すなわち、上支持部45は、上片41の外周側端部に起立形成されている。上支持部45の上面450は、上セグメント2の下面23に当接して上セグメント2を支持する。
【0038】
下片42の外周側端部の下側の部分には、下支持部46が下側に突出して設けられている。すなわち、下支持部46は、下片42の外周側端部に起立形成されている。下支持部46の下面460は、下セグメント3の上面32に当接して下セグメント3を支持する。
【0039】
上支持部45の上面450および下支持部46の下面460は、それぞれの内周側端部が中心軸CLに向かうように僅かな傾斜が設けられている。これにより、上支持部45の上面450の外周側が上セグメント2の下面23に当接し、下支持部46の下面460の外周側が下セグメント3の上面32に当接する。上支持部45の上面450の傾斜および下支持部46の下面460の傾斜は、それぞれ、中心軸CLに向かって略3[度]以下で設定されている。
【0040】
エキスパンダ・スペーサ4の外周側端面47、すなわち、連結片40の外周側端面47、上支持部45の外周側端面47および下支持部46の外周側端面47は、周方向に同一面内にあり、波形状をなす。なお、エキスパンダ・スペーサ4の内周側端面、すなわち、連結片40の内周側端面、上耳部43の内周側端面および下耳部44の外周側端面も、形状が異なるが、周方向に同一面内にあり、同様に波形状をなす。
【0041】
なお、エキスパンダ・スペーサとしては、前記のエキスパンダ・スペーサ4以外のタイプのものがある。このタイプのエキスパンダ・スペーサは、X方向に波形状に成形され、外周側に支持部を有し、内周側に耳部を有し、中心軸CLに対して、周方向に上側の部分と下側の部分が対称である。このタイプのエキスパンダ・スペーサにおいても、支持部の傾斜は、中心軸CLに向かって略3[度]以下で設定されている。
【0042】
以下、エキスパンダ・スペーサ4の自由状態における名称、記号および寸法について
図2(A)を参照して説明する。
【0043】
h9は、エキスパンダ幅である。a8uは、上スペーサ厚さである。a3uは、上支持部長さである。a9uは、上エキスパンダ半径方向厚さである。h2uは、上スペーサ支持部高さである。θuは、上耳角度である。a8dは、下スペーサ厚さである。a3dは、下支持部長さである。a9dは、下エキスパンダ半径方向厚さである。h2dは、下スペーサ支持部高さである。θdは、下耳角度である。上スペーサ厚さa8u、下スペーサ厚さa8dは、Y方向においてエキスパンダ・スペーサ幅(エキスパンダ・スペーサ4の耳部以外のY方向の最大幅)h13を形成する上耳部43、下耳部44における位置の径方向における寸法をいう。上耳角度θuと下耳角度θdは、同一でもよく、異なっていても良く、通常は5[度]から30[度]の範囲で設計される。
【0044】
また、
図2(A)の断面形状において、エキスパンダ・スペーサ幅h13となるエキスパンダ・スペーサ4の外周側端面47の上支持上面450の位置を位置Aとしかつ下支持下面460の位置を位置Bとする。位置Aは、エキスパンダ・スペーサ4の上支持部45の上支持上面450と外周側端面47とのなす角の位置である。位置Bは、エキスパンダ・スペーサ4の下支持部46の下支持下面460と外周側端面47とのなす角の位置である。
【0045】
さらに、
図2(A)の断面形状において、エキスパンダ・スペーサ4の下支持部46の下支持下面460と内周側端面とのなす角の位置を位置Cとする。エキスパンダ・スペーサ4の上支持部45の上支持上面450と内周側端面とのなす角の位置を位置Dとする。エキスパンダ・スペーサ4の下片42の下耳部44の付け根の位置を位置Eとする。位置Eは、エキスパンダ・スペーサ4の下片42の下面(
図19の420)と下耳部44の下耳傾斜面440とのなす角の位置である。
【0046】
ここで、
図2(A)の断面形状において、位置Aと位置Cの間の線分ACの長さをL[mm]とする。この線分ACとエキスパンダ・スペーサ4の外周側端面47とのなす角度をθ1[度]とする。また、位置Cと位置Eとを結ぶ線分CEと中心軸CLとなす角度をη[度]とする。
【0047】
h13はマイクロメータにより1/1000mmで読み取った値である。a9u、a9dはマイクロメータにより1/100mmで読み取った値である。a8u、a3u、h2u、θu、a8d、a3d、h2d、θd、ηは、形状測定器を使用し、縦横同倍率の50倍で得られる形状から直接測定する。角度ηは、エキスパンダ・スペーサ4の中心軸CLに対して定義しており、前述の形状測定器で得られる形状において、エキスパンダ・スペーサ4の外周側端面47に対して垂直な直線であってこの直線に対してなす角度として測定し、下片42となす角度を測定してはならない。線分の長さL、角度θ1はh13、a3dの測定値から算出する。すなわち、L=(h13
2+a3d
2)
0.5 [mm]、θ1=tan
−1(a3d/h13)[度]。
【0048】
(自由状態の組合せオイルリング1Aの説明)
図1(A)は、組合せオイルリング1Aの自由状態を示す概略断面図である。組合せオイルリング1Aは、上セグメント2を上側に配置し、下セグメント3を下側に配置し、エキスパンダ・スペーサ4を上セグメント2と下セグメント3の間に配置することにより構成されている。
【0049】
以下、組合せオイルリング1Aの自由状態における名称、記号および寸法について
図1(A)を参照して説明する。a11uは、上セグメント2側の上組合せ厚さである。a11dは、下セグメント3側の下組合せ厚さである。h1は、組合せ呼び幅である。hは、組合せオイルリング1Aの外周側において、
図2(A)、(B)、(C)に示す上セグメント2の外周側の幅h11u(呼び幅h12u)、下セグメント3の外周側の幅h11d(呼び幅h12d)およびエキスパンダ・スペーサ4のエキスパンダ・スペーサ幅h13を測定した合計値で得られる組合せ幅である。すなわち、h=h11u+h11d+h13である。なお、
図1(A)中、h11uとh11dは、実測される測定値の違いを意味する。
【0050】
図1(A)に示す組合せオイルリング1Aは、オイルリング溝(
図5(A)を参照)内に装着され、かつ、シリンダボア(
図6(A)を参照)内に挿入される前の状態である自由状態にある。なお、この自由状態において、組合せオイルリングのシリンダ軸方向の断面において、エキスパンダ・スペーサ4の上耳部43の傾斜面(上耳傾斜面)430が上セグメント2の内周面21に当接し、かつ、エキスパンダ・スペーサ4の下耳部44の傾斜面(下耳傾斜面)440が下セグメント3の内周面31に当接した状態とする。この自由状態の組合せオイルリング1Aにおいて、エキスパンダ・スペーサ4の外周側端面47から上セグメント2の外周面頂点24までの上突出量P1は、エキスパンダ・スペーサ4の外周側端面47から下セグメント3の外周面頂点34までの下突出量P2よりも大きい。すなわち、上突出量P1と下突出量P2の差をPとすると、P=P1−P2>0である。
図1(A)に示す組合せオイルリング1Aは、オイルリング溝(
図5(A)を参照)内に装着された状態においても、同一の突出量となる。尚、
図1(B)に示す組合せオイルリング1Bは、P1=P2であり、従ってP=0である。
【0051】
図1(A)において、上セグメント内周面21,下セグメント内周面31は曲率半径がそれぞれh12u/2[mm]、h12d/2[mm]である円弧形状であり、上セグメント
2の上面22、下面23はエキスパンダ・スペーサ4の中心軸CLと平行であり、下セグメント3の上面32、下面33はエキスパンダ・スペーサ4の中心軸CLと平行であり、
上セグメント内周面21はエキスパンダ・スペーサ4の上耳傾斜面430と、下セグメント内周面31はエキスパンダ・スペーサ4の下耳傾斜面440と線接触している状態であって、t1[mm]は、上スペーサ厚さa8uを示す上耳部43におけるX方向の位置と上セグメント2の内周側頂点とのX方向の距離であり、t2[mm]は下スペーサ厚さa8dを示す下耳部44におけるX方向の位置と下セグメント3の内周側頂点とのX方向の距離である。すなわち、θuを上耳角度、θdを下耳角度として、次の式からt1,t2は算出される。
t1=(1−tan((90−θu)/2))×h12u/2、
t2=(1−tan((90−θd)/2))×h12d/2、
ここで、θu、θdの単位は[度]である。
【0052】
さらに、この実施形態1に係る組合せオイルリング1A(本発明)においては、h12u、h12dが0.3[mm]から0.6[mm]の範囲、h12uとh12dとの差が0.15以下でh12dが大きく、θu、θdは5度から30度の範囲を対象としている。
【0053】
上セグメント2の厚さをa1u[mm]、下セグメント3の厚さをa1d[mm]、上スペーサ厚さをa8u[mm]、下スペーサ厚さをa8d[mm]、とし、上見掛け突出量Q1=a1u−a8u、下見掛け突出量Q2=a1d−a8dとすると、
P1=Q1−t1、P2=Q2−t2であり、P=P1−P2>0の関係から、
P=P1−P2
=(Q1−t1)−(Q2−t2)
=(Q1−Q2)−(t1−t2)
より、Q1−Q2>t1−t2となる必要がある。
ここで、Q1とQ2の差をQとすると、
Q=Q1−Q2である。
Q1,Q2またQは製品を測定し、容易に求めることができるが、P1、P2またPはt1,t2を算出しなければ求めることができない。
【0054】
そこで、P=P1−P2>0の関係に代わって、Q=Q1−Q2>t1−t2を考察する。P、Qは少なくとも大きい方が良い。
i)組合せオイルリング1Aにおいて、t1=Q1−P1、t2=Q2−P2より、t1=t2であれば、P=P1−P2=Q1−Q2=Q>0である。すなわち、上突出量P1と上見掛け突出量Q1は等しく、下突出量P2と下見掛け突出量Q2は等しく、上下突出量の差Pも上下見掛け突出量の差Qも等しい。
【0055】
また、Q=Q1−Q2=a1u−a8u−(a1d−a8d)>0である。
ii)組合せオイルリング1Aにおいて、t1とt2の値が異なれば、Q1−Q2>t1−t2において(t1−t2)の最大値は次式で計算される。
すなわち、h12uまたはh12dが0.3[mm]以上0.6[mm]以下、および、θu、θdは5[度]から30[度]の範囲で、h12uとh12dが同一の寸法でh12である組合せオイルリング1Aの時、
t1−t2=(1−tan((90−θu)/2))×h12u/2−(1−tan ((90−θd)/2))×h12d/2
=(1−tan((90−30)/2))×h12/2−(1−tan ((90−5)/2))×h12/2
=0.169×h12
となる。
以上から、
h12=0.3[mm]の時は、t1−t2=0.051、従ってQ≧0.055 [mm]となり、
h12=0.4[mm]の時は、t1−t2=0.067、従ってQ≧0.070[mm]となり、
h12=0.45[mm]の時は、t1−t2=0.076、従ってQ≧0.080[mm]となり、
h12=0.5[mm]の時は、t1−t2=0.084、従ってQ≧0.09 [mm]となり、
h12=0.6[mm]の時は、t1−t2=0.101、従ってQ≧0.105[mm]となる。
【0056】
ここで、h12uまたはh12dが0.3[mm]以上0.40[mm]以下であり、h12uとh12dが異なる寸法の組合せオイルリング1Aの時は、次式で計算される。
t1−t2=(1−tan((90−θu)/2))×h12u/2−(1−tan ((90−θd)/2))×h12d/2
=(1−tan((90−30)/2))×0.40/2−(1−tan ((90−5)/2))×0.3/2
=0.072
このときQ≧0.075[mm]となる。
【0057】
また、h12uまたはh12dが0.3[mm]以上0.45[mm]以下であり、h12uとh12dが異なる寸法の組合せオイルリング1Aの時は、次式で計算される。
t1−t2=(1−tan((90−θu)/2))×h12u/2−(1−tan ((90−θd)/2))×h12d/2
=(1−tan((90−30)/2))×0.45/2−(1−tan ((90−5)/2))×0.3/2
=0.083
このときQ≧0.085[mm]となる。
【0058】
さらに、h12uまたはh12dが0.45[mm]を超え0.60[mm]以下であり、h12uとh12dが異なる寸法の組合せオイルリング1Aの時は、次式で計算される。
t1−t2=(1−tan((90−θu)/2))×h12u/2−(1−tan ((90−θd)/2))×h12d/2
=(1−tan((90−30)/2))×0.60/2−(1−tan ((90−5)/2))×0.45/2
=0.108
このときQ≧0.110[mm]となる。
【0059】
さらにまた、h12uまたはh12dが0.50[mm]を超え0.60[mm]以下であり、h12uとh12dが異なる寸法の組合せオイルリング1Aの時は、次式で計算される。
t1−t2=(1−tan((90−θu)/2))×h12u/2−(1−tan ((90−θd)/2))×h12d/2
=(1−tan((90−30)/2))×0.60/2−(1−tan ((90−5)/2))×0.50/2
=0.106
このときQ≧0.110[mm]となる。
【0060】
以上から、組合せオイルリング1Aにおいて次式を満足することが好ましい。
h12uまたはh12dが0.3[mm]以上0.45[mm]以下である時
0.085[mm]≦Q≦0.18[mm] ……… (10)
h12uまたはh12dが0.45[mm]を超え0.60[mm]以下である時
0.110[mm]≦Q≦0.23[mm] ……… (11)
上見掛け突出量Q1は、上セグメント2の厚さa1uと上スペーサ厚さa8uとの差であり、下見掛け突出量Q2は、下セグメント3の厚さa1dと下スペーサ厚さa8dとの差であり、Qは、上見掛け突出量Q1と下見掛け突出量Q2との差(Q1−Q2)である。
【0061】
(実施形態1の作用の説明)
この実施形態1に係る組合せオイルリング1Aは、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について
図5(A)、
図6(A)を参照して説明する。
【0062】
(組合せオイルリング1Aのオイルリング溝51内の装着状態の説明)
図5(A)は、組合せオイルリング1Aをピストン50のオイルリング溝51内に装着した状態を示す概略断面図である。
【0063】
この
図5(A)に示す状態は、
図1(A)に示す自由状態とほぼ同様な自由状態である。この
図5(A)に示す状態は、自由状態における組合せ呼び幅h1に対するサイドクリアランスSfを説明している。この
図5(A)に示す自由状態において、上セグメント2の上面22は、オイルリング溝上面52に密着し、下セグメント3の下面33は、オイルリング溝下面53に密着している。エキスパンダ・スペーサ4の内周側端面48は、オイルリング溝内周面54に対向し、その2面は略平行である。ピストン50には、オイル戻し穴55がオイルリング溝内周面54からX方向に設けられている。なお、オイル戻し穴55は、これに限らず、オイルリング溝下面53側に設けられている場合もある。
【0064】
また、この
図5(A)に示す自由状態において、上セグメント2の下面23とエキスパンダ・スペーサ4の上支持上面450との間には、自由状態時のサイドクリアランスSfを有する。自由状態時のサイドクリアランスSfは、実測される上セグメント2の寸法h11u、下セグメント3の寸法h11dおよびエキスパンダ・スペーサ幅(軸方向に最大の幅)h13の合計値hと組合せ呼び幅h1との差(h1−h)である。このとき、(h1>h)の関係にある。自由状態時のサイドクリアランスSfは、下式(13)で表される。
Sf=h1−h=h1−(h11u+h11d+h13) ……… (13)
【0065】
さらに、この
図5(A)に示す自由状態においては、上セグメント2の上突出量P1と下セグメント3の下突出量P2との間に差P=P1−P2を有する。この
図5(A)に示す自由状態における上下突出量の差Pは、
図1(A)に示す自由状態の上下突出量の差Pと同等である。
【0066】
さらにまた、ピストン50には、組合せオイルリング1Aの他に、トップリング56とセカンドリング57とがそれぞれ装着されている(
図11〜
図13を参照)。
【0067】
(組合せオイルリング1Aのシリンダボア60内の装着状態の説明)
図6(A)は、組合せオイルリング1Aをピストン50のオイルリング溝51内に装着し、かつ、組合せオイルリング1Aおよびピストン50をシリンダボア60内に装着した状態(以下、「クローズ状態」と称する)を示す概略断面図である。
【0068】
円筒形状(ほぼ円筒形状を含む)のシリンダボア60は、シリンダブロック6に設けられている。組合せオイルリング1Aおよびピストン50は、シリンダボア60内をY方向に往復運動する。このとき、組合せオイルリング1Aの上セグメント2の外周面20、下セグメント3の外周面30、トップリング56の外周面およびセカンドリング57の外周面は、シリンダボア60の内壁面61(以下、単に「ボア壁面61」と称する)に圧接している状態でボア壁面61を摺動する。
【0069】
なお、この
図6(A)において、ピストン50のオイルリング溝51のY方向の幅は、組合せオイルリング1Aの組合せ呼び幅h1[mm]とする。また、シリンダブロック6のボア壁面61の直径は、組合せオイルリングの呼び径d1[mm]とする。
【0070】
この
図6(A)のクローズ状態の組合せオイルリング1Aは、外力(張り出し力)2F1(F1uとF1d)がボア壁面61に作用し、かつ、外力(サイドシール力)F2(F2u、F2d)がオイルリング溝上面52、オイルリング溝下面53にそれぞれ作用している状態である。
【0071】
そして、エンジンにおいて、ボア壁面61への張り出し力2F1(F1uとF1d)は、ボア壁面61の油膜厚さの制御およびフリクションの増減、または、組合せオイルリング1Aのボア壁面61への追従性などに関連する。また、オイルリング溝上面52、オイルリング溝下面53へのサイドシール力F2(F2u、F2d)は、組合せオイルリング1Aとオイルリング溝上面52、オイルリング溝下面53との間の密着性、エンジン潤滑油の流路の制御等に関連する。
【0072】
ここで、組合せオイルリング1Aにおいて、上セグメントの呼び幅h12uと下セグメントの呼び幅h12dは等しく、上セグメント2の厚さ寸法a1uは、下セグメント3の厚さ寸法a1dよりも大きい。組合せオイルリング1Aの自由状態時において、エキスパンダ・スペーサ4の上耳角度θuと下耳角度θdは等しく、a8u=a8dであって、上見掛け突出量Q1=(a1u−a8u)は、下見掛け突出量Q2=(a1d−a8d)よりも大きい。したがって、上下見掛け突出量の差としてQ=a1u−a1dを有している。
【0073】
この結果、組合せオイルリング1Aのクローズ状態において、上下見掛け突出量の差Qで、曲げモーメントMがエキスパンダ・スペーサ4に内力として形成されている。また、エキスパンダ・スペーサ4の中心軸CLは、中心G回りに、拘束されること(干渉すること)なく、X方向外周側に向かって上側に角度α[度]回転して傾斜している。
ここで、エキスパンダ・スペーサ4が角度α[度]回転して傾斜することは、自由時サイドクリアランスSfを小さくすることに他ならない。すなわち、上セグメント2の下面23と下セグメント3の上面32との距離が広がることであり、従って、上セグメント2のオイルリング溝上面52との間の軸方向の隙間、または、下セグメント3のオイルリング溝下面53との間の軸方向の隙間が小さくなることになり、特にエンジン下降行程において上セグメント2のオイルリング溝上面52との間の隙間からエンジンオイルが上側(シリンダヘッド側)に流出することを阻止し、オイル消費量を低減させることができる。
【0074】
このため、自由状態時の上耳角度θu[度]は、クローズ状態において角度α[度]分大きく作用することになるので、上セグメント2のオイルリング溝上面52へのサイドシール力F2uは、F1(tan(θu+α)−tanθu)増大する。これにより、上セグメント2とオイルリング溝上面52との間のシール力が大きくなり、シール性能が向上される。また、自由状態時の下耳角度θdは、クローズ状態において角度α[度]分小さく作用することになるので、下セグメント3のオイルリング溝下面53へのサイドシール力F2dは、F1(tanθu−tan(θu−α))減少する。これにより、下セグメント3とオイルリング溝下面53との間の摩擦力が小さくなることによりボア壁面61への張り出し性を向上し、油膜厚さを薄く制御することになる。以上から、組合せオイルリング1Aは、オイル消費量を低減させることができる。
【0075】
(実施例と比較例との比較検討の説明)
以下、実施形態1に係る組合せオイルリング1A(以下、「実施例1A」と称する)と、比較例の組合せオイルリング1B(以下、「比較例1B」と称する)とのシール性能の向上およびオイル消費量の低減について、比較検討する。
【0076】
(比較例1Bの説明)
以下、比較例1Bについて、
図1(B)、
図2(B)、
図5(B)、
図6(B)を参照して説明する。比較例1Bの下セグメント3、エキスパンダ・スペーサ4は、実施例1Aの下セグメント3、エキスパンダ・スペーサ4と同一である。比較例1Bの上セグメント2Bの厚さ寸法a1uは、
図2(B)中の外周面頂点24を破線で示すように、実施例1Aの上セグメント2の厚さ寸法a1uよりも、P[mm]小さい。なお、比較例1Bの上セグメント2Bには、実施例1Aの上セグメント2と同様に、合い口(図示せず)が設けられている。
【0077】
すなわち、比較例1Bの上セグメント2Bの厚さ寸法a1uと下セグメント3の厚さ寸法a1dとは、等しい(a1u=a1d)。従って、
図1(B)に示すように、自由状態時において、上セグメント2Bの上突出量P1と、下セグメント3の下突出量P2とは、等しく(P1=P2)、上下突出量の差Pが無い(P=0)。なお、
図1(B)において、a11は、組合せ厚さであり、上組合せ厚さa11uと下組合せ厚さa11dとは等しい(a11u=a11d=a11)。
【0078】
これにより、比較例1Bは、
図1(B)の自由状態、
図5(B)のピストン装着状態、
図6(B)のクローズ状態において、中心軸CLに対して、全て上下対称の形状である。従って、クローズ状態において、比較例1Bのエキスパンダ・スペーサ4には、実施例1Aのエキスパンダ・スペーサ4に形成される曲げモーメントMが、形成されていない。この結果、実施例1Aと比較例1Bとのシール性能の向上およびオイル消費量の低減において差が生じる。以下、詳細に説明する。
【0079】
(実施例1Aと比較例1Bとの接線張力の説明)
以下、実施例1Aと比較例1Bとの接線張力について、
図7〜
図9を参照して説明する。
【0080】
図7は、組合せオイルリングの呼び径d1における実施例1Aと比較例1Bとの接線張力(以下、「張力」と称する)F[N]、Ft[N]の測定装置を示す概要平面図である。測定方法は、JIS B8032−2:2016(ISO 6621−2:2003)に準拠する。
図8は、組合せオイルリングの接線張力測定装置を示す一部概要断面図(
図7におけるZ−Z線概略断面図)である。
図9は、
図7および
図8の組合せオイルリングの接線張力測定装置における測定状態を示す概略断面図であって、(A)は、実施例1Aの測定状態の概略断面図であり、(B)は、比較例1Bの測定状態の概略断面図である。
【0081】
接線張力測定装置7は、水平の測定台70と、測定用ホルダー71と、金属製テープ72と、を有する。測定用ホルダー71は、測定台70上に設置されている。測定用ホルダー71の外周面には、オイルリング溝51を代用する凹み溝73が円環状に形成されている。凹み溝73は、組合せ呼び幅h1[mm]の幅で作製され、上組合せ厚さa11u、下組合せ厚さa11d、組合せ厚さa11[mm]と干渉しない寸法とする。
【0082】
測定用ホルダ−71には、切欠き部74が加工されている。切欠き部74は、接線張力測定装置7の測定状態において、実施例1A、比較例1Bの組合せオイルリングの呼び径d1、すなわち、クローズ状態の上セグメント2、2Bの合い口25の幅(
図7において、相互に向き合う2本の実線矢印の間)を、実測可能にする。他の切欠き部(図示)が形成されていると、クローズ時の組合せ幅が実測可能になる。
【0083】
金属製テープ72は、測定台70上に設置されている。金属製テープ72の一方を固定端75とし、他方を移動可能な把持具76(自由端)で固定する。前もって組合せオイルリングの呼び径d1[mm]に相当する把持具76の所定の位置に、ダイヤルゲージ77によって「ゼロ点合わせ(基準位置合わせ)」をしておく。
【0084】
測定用ホルダー71の凹み溝73中に実施例1A、比較例1Bを装着する。その後、上セグメント2、2Bの合い口25を測定用ホルダー71の切欠き部74の位置に、下セグメント3の合い口35を切欠き部74の180[度]反対の方向の位置にそれぞれ配置する。円環状の金属製テープ72の内側に実施例1A、比較例1Bを装着した測定用ホルダー71を入れる。金属製テープ72の自由端側の把持具76を白抜き矢印方向に、破線の位置から実線の位置(所定の位置)まで移動させる。これにより、実施例1A、比較例1Bは、金属製テープ72で縮径される。
【0085】
この縮径する間は、測定用ホルダー71を実施例1A、比較例1BのY方向に振動を与え、実施例1A、比較例1B周りのフリクションを除去して張力F[N]、Ft[N](
図7中の太い実線矢印を参照)を測定する。以下の力のつり合いの関係において、上下セグメント2、2B、3と凹み溝73の上下面との摩擦力は、「ゼロ」とし、外力として実施例1A、比較例1Bに作用しないものとする。
【0086】
実施例1A、比較例1Bの張力F[N]、Ft[N]は、実施例1A、比較例1Bが呼び径d1に縮径される際、エキスパンダ・スペーサ4が周方向に縮む(圧縮コイルバネのたわみと同等の作用)ことにより発生する力である。ここで、
図9(A)、(B)は、
図7において張力F[N]、Ft[N]を測定しているときに、金属製テープ72が実施例1A、比較例1Bに作用する外力F1u、F1dを示す。
【0087】
(比較例1Bの接線張力の説明)
以下、比較例1Bの接線張力について、
図9(B)を参照して説明する。金属製テープ72による外力F1u、F1dは、エキスパンダ・スペーサ4の上耳部43、下耳部44のX方向にそれぞれ外力F1u、F1dとして作用し、かつ、上耳角度θu[度]、下耳角度θd[度]によりさらにY方向の上下にそれぞれ外力(分力)F2u、F2dとして作用する。この各分力は、F2u=F1u×tanθu、F2d=F1d×tanθdである。
【0088】
図9(B)は、この状態で力のつり合いがとれている。ここで、張力Ft[N]との関係を考察する。すなわち、比較例1Bの接触面圧(2Ft/((h12u+h12d)×d1)[N]/[mm
2 ]で表される)を全周に亘り合成した力に置換する。すると、F1u=F1d=πFt[N]、πは円周率であり、θu=θd=θ[度]のとき、F2u=F2d=πFt×tanθ[N]になる。
【0089】
(比較例1Bのクローズ状態の説明)
図6(B)は、
図9(B)の接線張力測定状態と同様なクローズ状態で、比較例1Bが作用する外力F1(F1u、F1d)、F2(F2u、F2d)を示す。オイルリング溝51のY方向の幅は、組合せオイルリングの組合せ呼び幅h1[mm]とする。シリンダブロック6のボア壁面61の直径は、組合せオイルリングの呼び径d1[mm]とする。比較例1Bは、中心軸CLに対してすべて対称である。すなわち、上下セグメント2B、3が、h12u=h12d、a1u=a1dであり、エキスパンダ・スペーサ4が、θu=θd=θ[度]であり、その他の上側と下側とが同一位置寸法である。
【0090】
従って、F1u=F1d=F1=πFt、F2u=F2d=F2=πFt×tanθとした状態で、
図6(B)のクローズ状態でも、
図9(B)の接線張力測定状態と同様の力のつり合いがとれている状態となる。すなわち、比較例1Bは、ボア壁面61に外力(張り出し力)2F1=2πFtおよびオイルリング溝上下面52、53にそれぞれ外力(サイドシール力)F2=πFt×tanθが作用する。
【0091】
エンジンにおいて、ボア壁面61への張り出し力2F1=2πFtは、ボア壁面61の油膜厚さの制御およびフリクションの増減、または、比較例1Bのボア壁面61への追従性などに関連する。また、オイルリング溝上下面52、53へのサイドシール力F2=πFt×tanθは、比較例1Bとオイルリング溝上下面52、53との間の密着性、エンジン潤滑油の流路の制御等に関連する。
【0092】
(実施例1Aの接線張力の説明)
以下、実施例1Aの接線張力について、
図9(A)を参照して説明する。
図9(A)は、
図5(A)の自由状態から、実施例1Aの張力F[N]を測定しているときに、金属製テープ72が実施例1Aに作用する外力F1u、F1dを示す。
【0093】
実施例1Aは、
図1(A)、
図5(A)に示す自由状態において、上下セグメント2、3の厚さの差(a1u−a1d)およびエキスパンダ・スペーサ4の上スペーサ厚さa8uと下スペーサ厚さa8dに関してa8u=a8dであることにより、上セグメント2の上見掛け突出量Q1=(a1u−a8u)と下セグメント3の下見掛け突出量Q2=(a1d−a8d)との間に差Q=Q1−Q2を有している。
【0094】
このため、
図9(A)の接線張力測定状態において、金属製テープ72が実施例1Aを縮径する際に、
図6(A)のクローズ状態と同様に、上下見掛け突出量の差Qにより、曲げモーメントMがエキスパンダ・スペーサ4に作用する。この結果、エキスパンダ・スペーサ4の中心軸CLは、中心G回りに、拘束されること(干渉すること)なく、X方向外周側に向かって上側に角度β[度]回転して傾斜している。この
図9(A)の接線張力測定状態において実施例1Aが縮径の間にエキスパンダ・スペーサ4が拘束されることなく自由に角度β[度]回転した状態は、
図6(A)のクローズ状態においてエキスパンダ・スペーサ4がX方向外周側に向かって上側に角度α[度]傾斜している状態と同じである。これにより、
図9(A)においては、α=βの関係になる。
【0095】
角度βは、h12u/2とh12d/2とh13との和をRとし、正接がQ/R=((a1u−a8u)−(a1d−a8d))/(h12u/2+h12d/2+h13)=(a1u−a1d)/(h12u/2+h12d/2+h13)となる角度として求めることができる。
【0096】
ここで、エキスパンダ・スペーサ4の中心軸CLが中心G回りに、拘束されること(干渉すること)なく回転する場合とする。この場合において、上式から、
図10に示すように、エキスパンダ・スペーサ幅h13を横軸に、エキスパンダ・スペーサ傾斜角度β[度]を縦軸に、自由状態時の上下見掛け突出量の差Qの値により角度βを概算で読み取ることができる。詳細は、後述する。
【0097】
図9(A)の接線張力測定状態は、クローズ状態時のサイドクリアランスSc(図示せず)が「ゼロ」であって、曲げモーメントMによりエキスパンダ・スペーサ4が図中の位置A(上支持上面外周側端部)と位置C(下支持下面内周側端部)で当接している状態を示している。また、位置Aにおいて、上セグメント2を押し上げる力(上サイドシール力)Fsuが発生し、位置Cにおいて、Fsuの反力として下セグメント3を下側に押しつける力(下サイドシール力)Fsd(Fsd=Fsu)が作用する状態を示している。
力のつり合いからFsu=F2u,Fsd=F2dである。
【0098】
このときの線分ACがY方向となす鋭角の角度をθ2とすると、Lcosθ2=h13+Sfである。また、θ1−β≧θ2、かつ、線分ACの長さLが、L≧h13+Sf=h1−(h11u+h11d)を満足している前提で、クローズ時サイドクリアランスをSc(図示せず)とすると、Sc=Lcosθ2−Lcos(θ1−β)で表わされる。
【0099】
また、Sc=h13+Sf-Lcos(θ1−β)=Sf+Lcosθ1−Lcos(θ1−β)である。θ1>θ1−βであることから、Sc<Sfとなる構造を有する。エキスパンダ・スペーサ4の中心軸CLが、中心G回りに拘束されること(干渉すること)なく、X方向外周側に向かって上側に回転して傾斜する場合、上式において、βをαに置き換えることができる。
【0100】
図9(A)の接線張力測定状態において、外力が作用して発生する曲げモーメントMによりエキスパンダ・スペーサ4が回転しても、図示の位置Aと位置Cで当接しない場合がある。この場合、位置Aおよび位置Cにおいて、上下セグメント2、3に対する力は、作用しない。すなわち、線分ACの長さLが、L<h13+Sfである場合において、上セグメント2および下セグメント3とエキスパンダ・スペーサ4とは、相互に当接しない。この場合において、ピストン50のオイルリング溝上面52と上セグメント2の上面22の内周側とは、および、オイルリング溝下面53と下セグメント3の下面33の内周側とは、それぞれ当接している。また、上セグメント2の外周面20および下セグメント3の外周面30は、ボア壁面62に当接した状態で、ボア壁面62を摺動する。
【0101】
しかし、この場合でも、エキスパンダ・スペーサ4が軸方向に中心軸CLに対して角度α度傾斜する限りにおいては、自由時サイドクリアランスSf=h1−h=h1−h11u−h11d−h13=h1−h11u−h11d−Lcosθ1は、クローズ時サイドクリアランスSc=h1−h11u−h11d−Lcos(θ1−α)と比較し、Lcosθ1<Lcos(θ1−α)であるからSc<Sfとなる。
【0102】
線分CEと中心軸CLとのなす角度η(
図2(A)、
図19、
図20を参照)が、β≦ηの条件下であれば、
図6(A)のクローズ状態時の角度αは、
図9(A)の接線張力測定状態の角度βに等しくなる。すなわち、クローズ状態において、エキスパンダ・スペーサ4は、曲げモーメントMの作用により、中心G回りに角度β回転し、他の部位と干渉しなければ、実施例1A内で中心軸CLが径方向外周側に向かって上側に角度α[度]傾斜する構造となる。このためには、線分CEと中心軸CLとのなす角度ηが、η≧βを満足しなければならない。
【0103】
また、実施例1Aの挙動が正常であるためには、クローズ状態において下耳角度θdは「ゼロ」以上、すなわちθd−β≧0が要件になる。また、上セグメント2とオイルリング溝上面52とのシール力を増加させるために、上耳角度θuと下耳角度θdは、θu+β≧θd−βの関係が好ましい。一方、θu+β≦45[度]が好ましく、45[度]を超えると上セグメント2とオイルリング溝上面52との摩擦力が過剰になり、上セグメント2のボア壁面61への追従性を阻害し、オイル掻き作用が低下することになる。
【0104】
金属製テープ72による外力F1u、F1dは、エキスパンダ・スペーサ4の上耳部43、下耳部44のX方向にそれぞれ外力F1u、F1dとして作用し、かつ、上耳角度θu、下耳角度θdによりさらにY方向の上下にそれぞれ外力(分力)F2u、F2dとして作用する。この各分力は、F2u=F1u×tan(θu+β)、F2d=F1d×tan(θd−β)である。
【0105】
図9(A)は、この状態で力のつり合いがとれている。ここで、張力F[N]との関係を考察する。すなわち、実施例1Aの接触面圧(2F/((h12u+h12d)×d1)[N]/[mm
2 ]で表される)を全周に亘り合成した力に置換する。すると、F1u=F1d=πF[N]、πは円周率であり、θu=θd=θ[度]のとき、F2u=F1u×tan(θ+β)=πFtan(θ+β)[N]、F2d=F1d×tan(θ−β)=πFtan(θ−β)[N]になり、F2u>F2dになる。
【0106】
ここで、実施例1Aと比較例1Bにおいて、Ft=F [N]、θu=θd=θ[度]とすると、金属製テープ72による外力F1u、F1dは実施例1Aと比較例1Bとが同一となる。また、上耳角度θu[度]、下耳角度θd[度]によりさらにY方向の上下にそれぞれ作用する外力(分力)F2u、F2dは、分力F2uに関して実施例1Aが比較例1BよりπFt(tan(θ+β)−tanθ)[N]増大し、分力F2dに関して実施例1Aが比較例1BよりπFt(tanθ−tan(θ-β))[N]減少する。
【0107】
(曲げモーメントMの説明)
以下、曲げモーメントMについて、考察する。
図9(A)の実施例1Aの寸法は、
図9(B)の比較例1Bと比較して、前述のようにa1u>a1d以外において同一である。
図9(A)の接線張力測定状態(縮径されたクローズ状態)の実施例1Aは、
図9(B)の接線張力測定状態(縮径されたクローズ状態)の比較例1Bにおいて、上セグメント2の厚さを、(a1u=a1d)から(a1u>a1d)に置き換えている。
【0108】
すなわち、エキスパンダ・スペーサ4の上耳部43をX方向に、(a1u−a1d)[mm]たわむ外力を作用させることと等価である。一方、実施例1Aにおいて、上下セグメント2、3の内周面21、31とエキスパンダ・スペーサ4の上耳傾斜面430、下耳傾斜面440との当接位置を支点として、下セグメント3の内周面31が回転自由な固定端となり、上セグメント2の外周面20からの外力W(図示せず。
図9(A)中の外力F1uに相当)がエキスパンダ・スペーサ4の上耳傾斜面430に作用し、エキスパンダ・スペーサ4の上耳傾斜面430のたわみδ(図示せず)がδ=(a1u−a1d)[mm]となるような曲げモーメントMが発生するという片持ち梁の構造モデルに相当する。
【0109】
なお、上セグメント2の外周面20からの外力Wがエキスパンダ・スペーサ4の上耳傾斜面430に作用し、エキスパンダ・スペーサ4に曲げモーメントMが発生して、エキスパンダ・スペーサ4が回転する。これにより、この外力Wは、下セグメント3の内周面31に反力W(図示せず。
図6(A)中の外力F1に相当)として作用している。
【0110】
図9(B)の比較例1Bにおける上下セグメント2B、3への外力はW=F1u=F1d=πFtである。
図9(A)の実施例1Aは、
図9(B)の比較例1Bの縮径されたクローズ状態において、上セグメントの厚さを、(a1u=a1d)から(a1u>a1d)に置き換えているが、上下セグメント2、3への外力はW=F1u=F1d=πFtとする。
【0111】
一方、片持ち梁の構造モデルから、下記の関係が成立する。外力W=F1u=πFt、エキスパンダ・スペーサ4の材料のヤング率をEe[N/mm
2 ]、エキスパンダ・スペーサ4の断面二次モーメントをIe[mm
4 ]とする。すると、エキスパンダ・スペーサ4の上耳傾斜面430のたわみがδ=a1u―a1d=Qであることから、
W=3EeIeδ/(上耳傾斜面と下耳傾斜面の腕の長さ)
3
=3EeIe×(a1u―a1d)/(h13+h12u/2+h12d/2)
3
または
W=3EeIeδ/(h13+h11u/2+h11d/2)
3
=3EeIe×(a1u―a1d)/(h13+h11u/2+h11d/2)
3
である。
【0112】
ここで、EeIeはエキスパンダ・スペーサ4の特性値であるが、次式になる。
EeIe=1/3×W×(上耳傾斜面と下耳傾斜面の腕の長さ)
3 /δ
=1/3×W×(h13+h12u/2+h12d/2)
3 /(a1u―a1d)
ここで、W=F1u=πFtであり、組合せオイルリングの張力測定から外力Wが求められ、他の要素は各部位の寸法測定により計算可能である。
【0113】
上式から、EeIeが求まる。すなわち、材料のヤング率Eeが不明であっても、片持ち梁の断面形状が複雑であっても、組合せオイルリングの張力測定から求められる外力W[N]によりδ[mm]たわむ片持ち梁の構造モデルから、EeIeを算出可能である。
【0114】
また、エキスパンダ・スペーサ4に作用した曲げモーメントMは、
M=3EeIe×δ/(h13+h12u/2+h12d/2)
2
=3EeIe×(a1u―a1d)/(h13+h12u/2+h12d/2)
2
または
M=3EeIe×δ/(h13+h11u/2+h11d/2)
2
=3EeIe×(a1u―a1d)/(h13+h11u/2+h11d/2)
2
として算出される。
【0115】
図9(A)の実施例1Aを、
図9(B)の比較例1Bの縮径されたクローズ状態において、上セグメントの厚さを、(a1u=a1d)から(a1u>a1d)に置き換えることにより、張力は増加してしまうが、本発明においては、張力増加はないものとし、同一の張力として比較例1Bに対して、特徴を見出している。
【0116】
(具体的な寸法数値による実施例1Aと比較例1Bとの接線張力による曲げモーメントの算出)
以下、具体的な寸法数値による実施例1Aと比較例1Bとの接線張力について説明する。
【0117】
組合せ呼び幅h1=2.0[mm]、上セグメント厚さを2水準とし、a1u=2.02[mm]および1.87[mm]、下セグメント厚さa1d=1.87[mm]、エキスパンダ・スペーサ幅(軸方向に最大の幅である)h13=1.14 [mm]、上下セグメント呼び幅h12u=h12d=0.4[mm]、上セグメント幅h11u=0.395[mm]、下セグメント幅h11d=0.395[mm]の寸法とする。この時、上下セグメント厚さa1u=a1d=1.87[mm]の組合せ時の比較例1Bの接線張力Ft[N]、同一のエキスパンダ・スペーサ4を使用し上セグメント厚さa1u=2.02[mm]と下セグメント厚さa1d=1.87[mm]との組合せ時の実施例1Aの接線張力F[N]とする。すると、Ft=21.8[N]、F=27.6[N]であった。
【0118】
ここで、エキスパンダ・スペーサ4の各部の寸法は、a3d=0.65[mm]、h2d=0.08[mm]、h3d=0.06[mm]、a8d=1.55[mm]、上耳角度θu=15[度]、下耳角度θd=15[度]であり、θ1=29.69[度]、θ2=21.62[度] η=8.8[度]、L=1.312[mm]、であって、エキスパンダ・スペーサ傾斜角度βは、β=5.6[度]、η>βであるからβ=αであり、自由状態時のサイドクリアランスはSf=0.07[mm]、クローズ状態時のサイドクリアランスはSc=0.012[mm]である。ピストン82のオイルリング溝幅をHpとし、組合せオイルリングの組合せ呼び幅h1より大きい時は、ピストンとの組合せでいうクローズ状態時のサイドクリアランスはSc+(Hp−h1)である。
【0119】
上セグメント厚さa1uを1.87[mm]から2.02[mm]に置き換えることにより、実施例1Aにさらに加わる外力Wは、F−Ft=W/π=5.8[N]より、W=5.8×π=18.2[N]となる。
【0120】
さらに、この実際に測定しているエキスパンダ・スペーサ4の下記値が求められる。組合せ時の実施例1Aの接線張力はF=27.6[N]であり、外力として作用する力はW=πF=86.7[N]であることから、
EeIe=1/3×W×(h13+h12u/2+h12d/2)
3 /δ
=1/3×W×(h13+h12u/2+h12d/2)
3 /(a1u―a1d)
=703.7[Nmm
2 ]
として求めることができ、従って、δ=a1u―a1dの時の実施例1Aが作用する曲げモーメントMが試算可能になる。
M=3EeIe×(a1u―a1d)/(h13+h12u/2+h12d/2)
2
=133.5 [Nmm]
【0121】
エキスパンダ・スペーサ4に曲げモーメントが発生し、中心Gの回りに5.6[度]回転した時、オイルリング溝上面52、オイルリング溝下面53にそれぞれ作用しているサイドシール力F2u、F2dの増減は、次のようになる。
(i)F2uの増加分
W(tan(15+5.6)−tan15)
=86.7×(0.376−0.268)
=9.3 [N](40%増加)
(ii)F2dの減少分
W(tan15−tan(15−5.6))
=86.7×(0.268−0.166)
=8.9 [N] (38%減少)
【0122】
このように、実施例1Aにおいて上セグメント厚さがa1uと下セグメント厚さa1d(<a1u)との組合せでδ1=a1u−a1dのときの接線張力F1[N]を測定しておけば、他の任意のδ=a1u−a1dである組合せ時の組合せオイルリングの任意の接線張力Fn[N]を測定せず、この任意の外力Wn、任意の曲げモーメントMnおよび任意の接線張力Fn[N]、を算出可能になる。
【0123】
例えば、δ1=a1u−a1dの時の外力W1=πF1であり
EeIe=1/3×W1×(h13+h11u/2+h11d/2)
3 /δ1を算出する。すると、任意の外力Wnについては、
Wn=3EeIeδ/(上耳傾斜面と下耳傾斜面の腕の長さ)
3
=3EeIe×(a1u―a1d)/(h13+h11u/2+h11d/2)
3
または
Wn=3EeIeδ/(h13+h12u/2+h12d/2)
3
=3EeIe×(a1u―a1d)/(h13+h12u/2+h12d/2)
3
【0124】
また、任意の曲げモーメントMnについては、
Mn=3EeIe×δ/(h13+h11u/2+h11d/2)
2
=3EeIe×(a1u―a1)/(h13+h11u/2+h11d/2)
2
または
Mn=3EeIe×δ/(h13+h12u/2+h12d/2)
2
=3EeIe×(a1u―a1)/(h13+h12u/2+h12d/2)
2
【0125】
さらに、任意の外力Wnのとき接線張力Fnは、
Fn=Wn/π
以上のようになる。
【0126】
(自由状態時の上下見掛け突出量の差Qの変化に関するエキスパンダ・スペーサ幅h13とエキスパンダ・スペーサ4の傾斜角度βとの相対関係の説明)
図10は、自由状態時の上下見掛け突出量の差Qの変化に関するエキスパンダ・スペーサ幅h13とエキスパンダ・スペーサ傾斜角度βとの相対関係を示す説明図(グラフ)である。すなわち、
図10は、η≧βを満足し、エキスパンダ・スペーサ4の中心軸CLが中心G回りに、拘束されること(干渉すること)なく回転する場合であって、組合せ呼び幅h1の領域における、エキスパンダ・スペーサ幅h13に対するエキスパンダ・スペーサ傾斜角度β[度]との関係を示す。
【0127】
図10中の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)は、自由状態時の上下見掛け突出量の差Qを示す。すなわち、Q=(a1u−a8u)−(a1d−a8d)である。(1)のQは、0.03[mm]である。(2)のQは、0.05[mm]である。(3)のQは、0.07[mm]である。(4)のQは、0.10[mm]である。(5)のQは、0.13[mm]である。(6)のQは、0.15[mm]である。(7)のQは、0.17[mm]である。(8)のQは、0.20[mm]である。(9)のQは、0.23[mm]である。(10)のQは、0.30[mm]である。
【0128】
図10において、例えば、組合せ呼び幅h1=2.0[mm]であって、上下セグメント呼び幅h12=0.4[mm]のときは、エキスパンダ・スペーサ幅h13=h1−2×h12=1.2[mm]であって、(2)のQ=0.05mmではエキスパンダ・スペーサ傾斜角度βは1.9[度]になり、(6)のQ=0.15mmでは5.7[度]になると読むことができる。
【0129】
また、組合せ呼び幅h1=2.0[mm]であって、上下セグメント呼び幅h12=0.3mmのときは、エキスパンダ・スペーサ幅h13=h1−2×h12=1.4[mm]であって、(2)のQ=0.05mmではエキスパンダ・スペーサ傾斜角度βは1.7[度]になり、(6)のQ=0.15mmでは5.0[度]になると読むことができる。
【0130】
図10より、組合せ呼び幅h1が1.5mmから4.0mmまでを対象に、自由状態時の上下見掛け突出量の差Qを0.03mm以上、0.30mmまでの範囲において、エキスパンダ・スペーサ傾斜角度βを1[度]以上、または3[度]以上、さらには4[度]以上に選択することができる。
【0131】
(実施例1Aと比較例1Bとの油膜厚さの比較の説明)
以下、実施例1Aと比較例1Bとの油膜厚さの比較について、
図11〜
図13を参照して説明する。なお、
図11〜
図13において、油膜厚さは、油量に相当する。
【0132】
本発明者は、前記の段落番号「0117」および「0118」に具体的な寸法数値を示し、自由状態時の上下見掛け突出量の差Qが0.15[mm]である実施例1Aと、自由状態時の上下見掛け突出量の差Qが0[mm]である比較例1Bを供試して、実施例1A周辺および比較例1B周辺の油膜厚さ、ランド部の油膜厚さ(油量)について、レーザ誘起蛍光法(LIF:Laser Induced Fluorescence)を用いて浮動ライナ式単気筒スコッチヨーク機構により、観察した。なお、油膜厚さの計測では、実施例1Aと比較例1Bの張力は同一とし20[N]であり、実施例1Aは、上セグメント厚さa1u=2.02[mm]と下セグメント厚さa1d=1.87[mm]との組合せでQ=0.15[mm]であり、比較例1Bは、上下セグメント厚さa1u=a1d=1.87[mm]の組合せでQ=0[mm]である。
【0133】
図11は、油膜厚さ計測装置8を示す概要一部断面図である。油膜厚さ計測装置8は、シリンダライナ81と、ピストン82と、コンロッド83と、保持部材84と、上部油膜計測センサ85と、中央部油膜計測センサ86と、を備える。ピストン82には、トップリング56と、セカンドリング57と、実施例1Aまたは比較例1Bとがそれぞれ装着されている。
【0134】
シリンダライナ81は、ボア径86[mm]、ストローク86[mm]、ボア表面粗さはプラトー粗さであり、Rk+Rpk=0.37[μm]とする。トップリング56は、軸方向の幅1.2[mm]、外周面バレル形状、外周摺動面がCrN系PVD被膜とする。セカンドリング57は、軸方向の幅1.2[mm]、外周面テーパ形状、外周摺動面がCrN系PVD被膜とする。実施例1A、比較例1Bに接線張力が20[N]、外周形状バレル形状、外周摺動面がCrN系PVD被膜を供試し、シリンダライナ81内での自由回転を拘束した。エンジン回転数は600rpm、1000rpm、1500rpmとし、油温80℃、エンジン潤滑油が0W−20であり、潤滑はオイルジェット給油方式とした。
【0135】
図12は、
図11の油膜厚さ計測装置による計測結果を示す説明図である。(A)は、下降行程時の行程中央において中央部油膜計測センサ86で計測された油膜厚さ(油量)を示す説明図である。(B)は、一部拡大説明図((A)における(B)部の拡大説明図)である。
図12(A)中の白抜き矢印は、下降行程を示し、矢印の向きは、下側すなわちシリンダヘッドから離れる側である。
【0136】
図13は、
図11の油膜厚さ計測装置による計測結果を示す説明図である。(A)は、上昇行程時の行程中央において中央部油膜計測センサ86で計測された油膜厚さ(油量)を示す説明図である。(B)は、一部拡大説明図((A)における(B)部の拡大説明図)である。
図13(A)中の白抜き矢印は、上昇行程を示し、矢印の向きは、上側すなわちシリンダヘッド側である。
【0137】
図12および
図13において、太線は、実施例1Aによる油膜厚さ(油量)を示し、細線は、比較例1Bによる油膜厚さ(油量)を示す。また、
図12および
図13は、エンジン回転数が1500rpmにおいて、中央部油膜計測センサ86により、下降行程と上昇行程におけるピストンリング56、57、1Aまたは1B周辺の油膜厚さを計測した結果を示す。
【0138】
以上の特性を有している実施例1Aと比較例1Bについて、以下、考察する。なお、
図11の油膜厚さ計測装置8のシリンダライナ81およびピストン82は、
図6(A)、(B)のクローズ状態の実施例1A、比較例1Bのシリンダブロック6およびピストン50に相当する。対応する部位には、()付きの符号を付す。
【0139】
図12の下降行程において、実施例1Aの上下セグメント2、3の外周摺動部位(油膜厚さが薄い部位:図(A)中図示1A)は、比較例1Bの上下セグメント2B、3の外周摺動部位(油膜厚さが薄い部位:図(A)中図示1B)よりも、セカンドリング57側にある。これは、実施例1Aがオイルリング溝上面(52)側に位置していて、上セグメント2とオイルリング溝上面(52)との隙間がより小さく、シール性が向上していること、を意味する。
【0140】
また、実施例1Aの上下セグメント2、3の外周摺動部位の油膜厚さは、比較例1Bの下セグメント3の半分ほどである。かつ、実施例1Aの上下セグメント2、3間の油膜厚さの差は、比較例1Bよりも少ない。これは、エキスパンダ・スペーサ4が径方向外周側に向かって上側に角度α[度]傾斜することにより、下セグメント3を押圧する下耳部44の下耳角度θd=15[度]がα=5.6[度]小さく作用し、オイルリング溝下面(53)側への分力を減少させたため、すなわち、これは、前記の通り、下セグメント3におけるサイドシール力F2dが、38%減少したため、これにより、下セグメント3のボア壁面(61)への張り出し性が向上して、油膜厚さを薄く制御したものと、考えられる。
【0141】
さらに、実施例1Aでは、トップリング56のシリンダヘッド側(
図12(A)中の白抜き矢印の向きと反対側)の油膜厚さが、比較例1Bよりも少ない。これは、実施例1Aにより掻き下げられたエンジン潤滑油が、オイル戻し穴(55)からオイルパンに戻っていて、上セグメント2とオイルリング溝上面(52)との隙間からシリンダヘッド側に流出していないものと、考えられる。
【0142】
図13の上昇行程において、実施例1Aの上セグメント2の位置が比較例1Bよりもオイルリング溝上面(52)側に位置している。これは、実施例1Aにおける上セグメント2の下面23と下セグメント3の上面32とのY方向距離が比較例1Bよりも長いものと、考えられる。すなわち、これは、実施例1Aのエキスパンダ・スペーサ4の中心軸CLが外周側に向かって上側に傾いていて、これにより、実施例1Aの実質のエキスパンダ・スペーサ幅h13が比較例1Bよりも広くなっているものと、考えられる。
【0143】
また、上昇行程において、実施例1Aと比較例1Bの上下セグメント2、3、2B、3の外周摺動部位の油膜厚さは、同等である。しかしながら、上昇行程において、実施例1Aのオイルリング溝直上のランド部の油量は、比較例1Bに比較して約半分である。これは、実施例1Aにおける下降行程でのオイル掻き下げ作用が充分であったことによるためと、考えられる。さらに、トップリング56のシリンダヘッド側(
図13(A)中の白抜き矢印の向き側)において、比較例1Bの掻き残された油量が実施例1Aと比較して多く残っていることが、
図13(A)から観察される。
【0144】
さらに、
図12の下降行程において、ピストンリング56、57、1A、1Bの摺動によりシリンダヘッド側方向に作用する摩擦力は、実施例1A、比較例1Bの内周側に下側への曲げモーメントの作用をなす。しかしながら、クローズ状態の実施例1Aは、エキスパンダ・スペーサ4の中心軸CLが径方向外周側に向かって上側に角度α(またはβ、以下、「α」とする)[度]傾斜する構造である。このため、前記の摩擦力に対抗する曲げモーメントの内力が実施例1Aにおいて顕在化していることから、実施例1Aが下降行程においてオイルリング溝上面(52)側に位置している。このことは、上セグメント2とオイルリング溝上面(52)との隙間を小さくし、エンジン潤滑油のシリンダヘッド側への流出を阻止しているものと、考えられる。
【0145】
実施例1Aにおいて、自由状態の上耳角度θu=15[度]は、クローズ状態で角度α=5.6[度]大きく作用し、同様に下耳角度θdは、角度α=5.6[度]小さく作用する。この結果、実施例1Aは、上セグメント2のオイルリング溝上面(52)張り出し力(上セグメント2におけるサイドシール力F2u)が強くなり、また、下セグメント3のオイルリング溝下面(53)張り出し力(下セグメント3におけるサイドシール力F2d)が小さくなり、ボア壁面(61)への張り出し性が向上する作用を、発現することができる。
【0146】
(実施例1Aの考察の説明)
以上、実施例1Aの挙動とオイル消費量試験結果を考察すると、実施例1Aにおいて、以下のことが考えられる。
【0147】
実施例1Aは、比較例1Bに比べ、下耳角度θdが小さく作用していることから、下セグメント3のボア壁面(61)への張り出し性が良好になっている。すなわち、前記の油膜厚さの測定結果において、実施例1Aは、下降行程で、下セグメント3の外周摺動部位の油膜厚さが比較例1Bの下セグメント3に比べ半分に薄くなっている。この結果、実施例1Aにおいて、下セグメント3がボア壁面(61)のオイル掻き能力を十分発揮できているものと、考えられる。
【0148】
また、実施例1Aは、下降行程において、オイルリング溝上面(52)側に位置している。かつ、実施例1Aは、比較例1Bに比べ、上耳角度θuが大きく作用するので、上セグメント2のオイルリング溝上面(52)への張り出し力(上セグメント2におけるサイドシール力F2u)が大きい。この結果、実施例1Aにおいて、上セグメント2とオイルリング溝上面(52)との間のシール性が向上し、この隙間からのオイル上がりを抑止し、上下セグメント2、3により掻き下げられているエンジン潤滑油がオイル戻し穴から充分排出されているものと、考えられる。
【0149】
さらに、上昇行程時において、実施例1Aのオイルリング溝(51)直上のランド部の油量が比較例1Bに比べ約半分であり、実施例1Aのトップリング56のシリンダヘッド側の油量も比較例1Bに比べて少ない。このことは、実施例1Aにおいて、下降行程のオイル掻き能力が向上している結果と、考えられる。
【0150】
(実施形態1の効果の説明)
この実施形態1に係る組合せオイルリング1Aは、以上のごとき構成および作用からなり、以下、その効果について説明する。
【0151】
この実施形態1に係る組合せオイルリング1Aにおいて、
図2(B)、(C)に示すように、上セグメント2の厚さ寸法a1uは、下セグメント3の厚さ寸法a1dよりも大きい。これにより、組合せオイルリング1Aの自由状態時において、
図1(A)に示すように、上セグメント2の上突出量P1は、下セグメント3の下突出量P2よりも大きい。このため、上セグメント2の上突出量P1と下セグメント3の下突出量P2との間に差Pを有している。
【0152】
この結果、組合せオイルリング1Aのクローズ状態において、
図6(A)に示すように、上下突出量の差Pで、曲げモーメントMがエキスパンダ・スペーサ4の内力として発生する。また、エキスパンダ・スペーサ4の中心軸CLは、中心G回りに、拘束されること(干渉すること)なく、X方向外周側に向かって上側に角度α[度]回転して傾斜している。
【0153】
このため、上耳角度θuは、角度α[度]分大きく作用するので、上セグメント2のオイルリング溝上面52へのサイドシール力F2(F2u)は、角度α[度]分すなわちF1(tan(θu+α)−tanθu)[N] 大きくなり、シール性能が向上される。また、下耳角度θdは、角度α[度]分 小さく作用するので、下セグメント3のオイルリング溝下面53へのサイドシール力F2(F2d)は、角度α[度]分すなわちF1(tanθd−tan(θd−α))[N]小さくなり、下セグメント3のボア壁面61への張り出し性が向上し、これにより、下セグメント3の油膜厚さを減少する作用が発揮される。以上から、組合せオイルリング1Aは、
図12、
図13に示すように、上下突出量の差Pが無い(P=0)比較例の組合せオイルリング1Bと比較して、オイル消費量を低減させることができる。
【0154】
この実施形態1に係る組合せオイルリング1Aにおいて、
図9(A)に示すように、クローズ状態時のサイドクリアランスScが「ゼロ」であって、曲げモーメントMによりエキスパンダ・スペーサ4が図中の位置A(上支持上面の外周側端部)と位置C(下支持下面の内周側端部)で当接している。この状態の時、位置Aにおいて、上セグメント2を押し上げる力(上サイドシール力)Fsuが発生する。これにより、上セグメント2とオイルリング溝上面52との間のシール性能がさらに向上される。また、位置Cにおいて、Fsuの反力として下セグメント3を下側に押しつける力(下サイドシール力)Fsd(Fsd=Fsu)が作用する。これにより、下セグメント3がオイルリング溝下面53に押し付けられて、下セグメント3とオイルリング溝下面53との間のシール性能が向上される。
【0155】
特に、この実施形態1に係る組合せオイルリング1Aにおいては、0.06[mm]≦Q≦0.18[mm]の寸法範囲が好ましい。この結果、組合せオイルリング1Aは、
図12、
図13(Q=0.15[mm]の場合)に示すように、比較例の組合せオイルリング1Bと比較して、オイル消費量を低減させることができる。
【0156】
(上下見掛け突出量の差Q[mm]とオイル消費量比との相対関係の説明)
以下、上下見掛け突出量の差Q[mm]とオイル消費量比との相対関係について、具体的数値に基づいて、
図14、
図15を参照して説明する。
【0157】
図14は、実施例1、2、3、4、5、6および比較例1の具体的数値を示す説明図である。
図14(A)において、組合せオイルリングのタイプIは実施形態1であり、タイプIIは実施形態2(後述)であり、タイプIIIは比較例である。組合せ呼び幅h1は2.0mmとしている。
図14(A)は、組合せ呼び幅h1[mm]およびセグメントの具体的数値、すなわち、上セグメント厚さa1u、上セグメント呼び幅h12u、下セグメント厚さa1dおよび下セグメント呼び幅h12dの具体的数値を示す説明図である。
【0158】
図14(B)は、
図19のエキスパンダ・スペーサの具体的数値、すなわち、エキスパンダ・スペーサ幅h13、上スペーサ厚さa8u、下スペーサ厚さa8d、支持部長さa3(上支持部長さa3u=下支持部長さa3d)、スペーサ支持部高さh2(上スペーサ支持部高さh2u=下スペーサ支持部高さh2d)、上下片逃げ高さh3(上片逃げ高さh3u=下片逃げ高さh3d)、線分CEと中心軸CLとのなす角度η、線分ACとエキスパンダ・スペーサ4の外周側端面47とのなす角度θ1、位置Aと位置Cの間の線分の長さLおよび上耳角度θu=下耳角度θdの具体的数値を示す説明図である。
【0159】
図14(C)は、組合せオイルリング特性値、すなわち、自由状態時のサイドクリアランスSf、上セグメント2の上見掛け突出量Q1=(a1u−a8u)、下セグメント3の下見掛け突出量Q2=(a1d−a8d)、自由状態時の上下見掛け突出量の差((a1u−a8u)−(a1d−a8d))=Q、線分ACとY方向とのなす鋭角の角度θ2、エキスパンダ・スペーサの中心軸CLの傾斜回転角度α(=β)、クローズ状態時の下耳角度θd−α、クローズ状態時のサイドクリアランスSc(図示せず)、上スペーサ厚さa8uを示す上耳部43におけるX方向の位置と上セグメント2の内周側頂点とのX方向の距離であるt1、下スペーサ厚さa8dを示す下耳部44におけるX方向の位置と下セグメント3の内周側頂点とのX方向の距離であるt2、上突出量P1、下突出量P2、
上下突出量の差Pおよびオイル消費量比の具体的数値を示す説明図である。
【0160】
ここで、比較例1は、Q=0.00[mm]であり、α=0[度]である。この比較例1のオイル消費量比を「100」とする。これに対して、実施例1は、Q=0.18[mm]、α=6.77[度]であって、オイル消費量比が「72」である。実施例2は、Q=0.18[mm]、α=6.77[度]であって、オイル消費量比が「74」である。実施例3は、Q=0.12[mm]、α=4.5[度]であって、オイル消費量比が「86」である。実施例4は、Q=0.12[mm]、α=4.5[度]であって、オイル消費量比が「84」である。実施例5は、Q=0.06[mm]、α=2.25[度]であって、オイル消費量比が「91」である。実施例6は、Q=0.06[mm]、α=2.25[度]であって、オイル消費量比が「93」である。
【0161】
このように、この実施形態1に係る組合せオイルリング1Aにおいては、0.06[mm]≦Q≦0.18[mm]の寸法範囲であって、測定はできないが設計計算として
図14(C)により2[度]<α=β<7[度]の範囲が好ましい。実施例6は、Q=0.06[mm]、α=2.25[度]であって、オイル消費量比が「93」であることから、α=β≦2[度]の範囲ではオイル消費量の改善は困難と考えられる。7[度]≦α=βの場合は、上耳角度θu=下耳角度θd=15[度]において、サイドシール力の増加が50%を超えるようになり、また、エキスパンダ・スペーサ4が角度β[度]回転して傾斜することにより、組合せオイルリングとオイルリング溝とのY方向の隙間がゼロに近づくようになり、サイドシール力が増し、ボア壁面61への追従性を悪化する傾向になっていく。
【0162】
ところで、上セグメント2側の上見掛け突出量Q1および下セグメント3側の下見掛け突出量Q2は、採用されるエンジンにおけるセグメント外周面20,30の摩耗速度により設定され、通常0.15以上0.65以下の範囲にある。例えば硬質クロムめっき被膜では、0.35以上0.65以下で設定されるケースが多く、耐摩耗性に優れるDLC被膜の場合では、0.15以上0.45以下で設定されるケースが多い。従って、上下見掛け突出量の差Qは、実際に、0[mm]<Q≦0.5[mm]の範囲を設定可能であるが、同一の組合せ呼び幅h1において組合せオイルリングのQの値を大きくしていくと、
図10におけるエキスパンダ・スペーサ幅とエキスパンダ・スペーサ傾斜角度との相対関係を示す説明図(グラフ)より、エキスパンダ・スペーサ傾斜角度βも大きくなっていく。
【0163】
組合せ呼び幅h1が2.5mm以下ではQが0.23mm以下、βが7[度]以下、組合せ呼び幅h1が2.5mmを超えてはQが0.23mm以下、βが6[度]以下が好ましい。傾斜角度βが大きいと、組合せオイルリングとオイルリング溝上面52との摩擦力が増加し、上セグメント2のボア壁面61への追従性が悪化するようになりオイル消費量の増加を招くことになる。
【0164】
(実施形態2の説明)
図16〜
図18は、本発明に係る組合せオイルリングの実施形態2を示す。以下、この実施形態2に係る組合せオイルリング1Cについて説明する。図中、
図1〜
図15と同符号は、同一のものを示す。
【0165】
(実施形態2の構成の説明)
前記の実施形態1に係る組合せオイルリング1Aは、
図1(A)に示す自由状態時において、a8u=a8d、a1u>a1dである。
すなわち、上スペーサ厚さa8uと下スペーサ厚さa8dとが同等のとき、上セグメント2の厚さa1uが下セグメント3の厚さa1dよりも大きい。すなわち、図中t1=t2であれば、上セグメント2の厚さa1uは、下セグメント3の厚さa1dよりも、上下突出量の差Pの分大きい。
【0166】
これに対して、この実施形態2に係る組合せオイルリング1Cは、
図16に示す自由状態時において、a1u=a1d、a8u<a8dである。
すなわち、上セグメント2の厚さa1uと下セグメント3の厚さa1dとが同等のとき、上スペーサ厚さa8uが下スペーサ厚さa8dよりも小さい。すなわち、図中t1=t2であれば、上スペーサ厚さa8uは、下スペーサ厚さa8dよりも、上下突出量の差Pの分小さい。
【0167】
この結果、この実施形態2に係る組合せオイルリング1Cは、前記の実施形態1に係る組合せオイルリング1Aと同様に、エキスパンダ・スペーサ4Cの外周側端面47から上セグメント2の外周面頂点24までの上突出量P1が、エキスパンダ・スペーサ4Cの外周側端面47から下セグメント3の外周面頂点34までの下突出量P2よりも大きい。
【0168】
すなわち、上セグメント2の厚さをa1u[mm]、下セグメント3の厚さをa1d[mm]かつa1u=a1d、上スペーサ厚さをa8u[mm]、下スペーサ厚さをa8d[mm]、とする。この寸法条件において、下式(1)、(2)、(3)を満足する。
Q1=a1u−a8u>P1>0 ……… (1)
Q2=a1d−a8d>P1>0 ……… (2)
Q1−P1=Q2−P2のとき、Q1−Q2=P1−P2であり
Q=Q1−Q2=(a1u−a8u)−(a1d−a8d)>0 ……(3)
ただし、
Q1は、上セグメント2の厚さa1uと上スペーサ厚さa8uとの差であり上見掛け突出量といい、
Q2は、下セグメント3の厚さa1dと下スペーサ厚さa8dとの差であり下見掛け突出量といい、
Qは、上見掛け突出量Q1と下見掛け突出量Q2との差(Q1−Q2)という。
【0169】
上セグメントの呼び幅の寸法をh12u[mm]、
下セグメントの呼び幅の寸法をh12d[mm]、
エキスパンダ・スペーサの上耳部の傾斜面とシリンダ軸方向とのなす鋭角を上耳角度といいθu[度]、
エキスパンダ・スペーサの下耳部の傾斜面とシリンダ軸方向とのなす鋭角を下耳角度といいθd[度]、
とすると、
h12uまたはh12dが0.3[mm]以上0.6[mm]以下、および、θuまたはθdが5[度]以上30[度]以下の範囲であり、
上見掛け突出量Q1と下見掛け突出量Q2との差Qは、下式(10)(11)の寸法範囲を満足する、ことが好ましい。
h12uまたはh12dが0.3[mm]以上0.45[mm]以下である時
0.085[mm]≦Q≦0.18[mm] ……… (10)
h12uまたはh12dが0.45[mm]を超え0.60[mm]以下である時
0.110[mm]≦Q≦0.23[mm] ……… (11)
【0170】
(実施形態2の作用の説明)
この実施形態2に係る組合せオイルリング1Cは、以上のごとき構成からなるので、前記の実施形態1に係る組合せオイルリング1Aと同様の作用を達成する。
【0171】
すなわち、組合せオイルリング1Cをピストン50のオイルリング溝51内に装着し、かつ、組合せオイルリング1Cおよびピストン50をシリンダボア60内に装着する。すると、上下突出量の差Pにより、曲げモーメントMがエキスパンダ・スペーサ4Cに作用する。これにより、エキスパンダ・スペーサ4Cの中心軸CLは、中心G回りに、拘束されること(干渉すること)なく、X方向外周側に向かって上側に角度α[度]回転して傾斜する。この結果、この実施形態2に係る組合せオイルリング1Cは、
図18に示すように、クローズ状態となる。
【0172】
この
図18に示す実施形態2に係る組合せオイルリング1Cのクローズ状態は、
図6(A)に示す実施形態1に係る組合せオイルリング1Aのクローズ状態と同様の状態である。この結果、
図18のクローズ状態の組合せオイルリング1Cは、外力(張り出し力)2F1(F1uとF1d)がボア壁面61に作用し、かつ、外力(サイドシール力)F2(F2u、F2dがオイルリング溝上面52、オイルリング溝下面53にそれぞれ作用している。
【0173】
なお、この実施形態2に係る組合せオイルリング1Cは、前記の実施形態1に係る組合せオイルリング1Aと同様に、δ=a1u―a1dの時のこの実施形態2に係る組合せオイルリング1Cが作用する外力W、曲げモーメントMおよび接線張力Fも試算可能である。
【0174】
(実施形態2の効果の説明)
この実施形態2に係る組合せオイルリング1Cは、以上のごとき構成作用からなるので、前記の実施形態1に係る組合せオイルリング1Aと同様の効果を達成する。
【0175】
すなわち、
図18に示すクローズ状態において、この実施形態2に係る組合せオイルリング1Cは、曲げモーメントMにより、角度α[度]回転して傾斜している。この結果、上耳角度θuは、角度α[度]分大きく作用するので、上セグメント2のオイルリング溝上面52へのサイドシール力F2(F2u)は、角度α[度]分すなわちF1(tan(θu+α)−tanθu)[N] 大きくなり、シール性能が向上される。また、下耳角度θdは、角度α[度]分小さく作用するので、下セグメント3のオイルリング溝下面53へのサイドシール力F2(F2d)は、角度α[度]分すなわちF1(tanθd−tan(θd−α))[N]小さくなり、下セグメント3のボア壁面61への張り出し性が向上し、これにより、下セグメント3の油膜厚さを減少する作用が発揮される。
【0176】
以上から、この実施形態2に係る組合せオイルリング1Cは、前記の実施形態1に係る組合せオイルリング1Aと同様に、オイル消費量を低減させることができる。
【0177】
(エキスパンダ・スペーサの変形例1の説明)
図19は、本発明に係る組合せオイルリングを構成するエキスパンダ・スペーサの変形例1を示す。以下、この変形例1に係るエキスパンダ・スペーサ4Dについて説明する。図中、
図1〜
図18と同符号は、同一のものを示す。
本発明において、クローズ状態でエキスパンダ・スペーサ4、4C、4Dが角度α[度]回転して傾斜するため、
図2(A)、
図17および
図19における線分CEと中心軸CLがなす角度をηとすると、η≧αであれば、エキスパンダ・スペーサ4、4C、4Dは拘束されること(干渉すること)なく自由に回転可能になり、本来の性能が発揮できる。このため、本発明におけるエキスパンダ・スペーサ4、4Cの断面構造にエキスパンダ・スペーサの変形例1を採用することが好ましい。少なくとも下片側に傾斜角度ηを形成することが好ましい。
【0178】
前記のエキスパンダ・スペーサ4、4Cの上片41の上片上面410および下片42の下片下面420は、中心軸CLに対して平行である。これに対して、この変形例1に係るエキスパンダ・スペーサ4Dの上片41の上片上面410および下片42の下片下面420は、中心軸CLに対して傾斜している。すなわち、上片上面410は、外周側端面から内周側端面にかけて、中心軸CLに対して下り勾配でλ[度]傾斜している。下片下面420は、外周側端面から内周側端面にかけて、中心軸CLに対して上り勾配でλ[度]傾斜している。この変形例1に係るエキスパンダ・スペーサ4Dは、中心軸CLに対して上下対称の形状をなす。
【0179】
この変形例1に係るエキスパンダ・スペーサ4Dは、以上のごとき構成からなるので、前記のエキスパンダ・スペーサ4、4Cより好ましい断面形状である。この結果、前記のエキスパンダ・スペーサ4、4Cより好ましい作用効果を達成することができる。
【0180】
(エキスパンダ・スペーサの変形例2の説明)
図20は、本発明に係る組合せオイルリングを構成するエキスパンダ・スペーサの変形例2を示す。エキスパンダ・スペーサの変形例1において、下片側のみ下片下面420が、外周側端面から内周側端面にかけて、中心軸CLに対して上り勾配でλ[度]傾斜し、線分CEと中心軸CLがなす傾斜角度ηを形成しており、実施形態2においてエキスパンダ・スペーサの変形例2と組み合わせることが好ましい。図中、
図1〜
図19と同符号は、同一のものを示す。
【0181】
(実施形態3の説明)
図21は、本発明に係る組合せオイルリングの実施形態3を示す。以下、この実施形態3に係る組合せオイルリング1Gについて説明する。図中、
図1〜
図20と同符号は、同一のものを示す。
【0182】
(実施形態3の構成の説明)
この実施形態3に係る組合せオイルリング1Fは、上セグメント2Fの幅寸法を下セグメント3Fの幅寸法よりも小さくする。すなわち、実施形態1、2において、上セグメント呼び幅の寸法をh12u[mm]、下セグメント呼び幅の寸法をh12d[mm]、とすると、下式(12)を満足する。
h12u<h12d ……… (12)
【0183】
(実施形態3の作用の説明)
組合せオイルリング1Fをピストン50のオイルリング溝51内に装着し、かつ、組合せオイルリング1Fおよびピストン50をシリンダボア60内に装着する。すると、上下見掛け突出量の差Qによる曲げモーメントMの作用で、エキスパンダ・スペーサ4Fが、
図21に示すように、中心G回りに角度α[度]回転して傾斜して、この実施形態3に係る組合せオイルリング1Fは、クローズ状態となる。
【0184】
図21に示すクローズ状態において、下セグメント呼び幅の寸法h12d[mm]が上セグメント呼び幅の寸法をh12u[mm]よりも大きい。これにより、エキスパンダ・スペーサ4Fの下耳部44の内周側の下面と、オイルリング溝下面53との間には、隙間Sが形成されかつ維持されている。実際にはh12u+0.05[mm]≦h12d≦h12u+0.15[mm]の範囲で選択されることが好ましい。
【0185】
(実施形態3の効果の説明)
この実施形態3に係る組合せオイルリング1Fは、以上のごとき構成作用からなるので、前記の実施形態1、2に係る組合せオイルリング1A、1Cと同様の効果を達成することができる。
【解決手段】この発明は、組合せオイルリング1Aであって、上セグメント2と、下セグメント3と、エキスパンダ・スペーサ4と、を備える。エキスパンダ・スペーサ4の外周側端面47から上セグメント2の外周面頂点24までの上突出量P1は、エキスパンダ・スペーサ4の外周側端面47から下セグメント3の外周面頂点34までの下突出量P2よりも大きい。この結果、この発明は、シール性能を向上させて、オイル消費量を低減させることができる。