特許第6389995号(P6389995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6389995灯具におけるシール脚の溶着方法および灯具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6389995
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】灯具におけるシール脚の溶着方法および灯具
(51)【国際特許分類】
   F21S 43/27 20180101AFI20180910BHJP
   F21Y 101/00 20160101ALN20180910BHJP
【FI】
   F21S43/27
   F21Y101:00 100
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-51108(P2014-51108)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2015-176689(P2015-176689A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000195649
【氏名又は名称】精電舎電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀人
(72)【発明者】
【氏名】影山 裕之
(72)【発明者】
【氏名】篠田 貴浩
【審査官】 當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−334705(JP,A)
【文献】 特開2009−206027(JP,A)
【文献】 実公昭48−036379(JP,Y1)
【文献】 米国特許第04259419(US,A)
【文献】 特開2003−137205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/00−45/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
灯室を画成する合成樹脂製の灯具構成部材である灯具ハウジングと前面カバーのいずれか一方の部材に形成したシール脚の先端部を、他方の部材の対向する接合面に溶着する灯具におけるシール脚の溶着方法において、
前記前面カバーの周縁部に形成したシール脚の先端部端面における板厚方向中央部だけに、その鋭角状の頂点が灯室内側にオフセットするシール山を設け、前記シール脚が上方を向くように前記前面カバーを配置し、
前記灯具ハウジングの前面開口部に前記接合面を構成するフランジ部を形成し、前記フランジ部の接合面が前記シール山の頂点に当接するように、前記灯具ハウジングを前記前面カバーの上方に配置するとともに、
前記フランジ部を介し該フランジ部と前記シール山との当接部に縦方向の超音波振動を伝達し、前記当接部の灯室内側寄りでは、振動伝達開始後直ちに溶着バリを蓄積し、当該溶着バリが、前記当接部の灯室外側寄りで発生する粉バリの灯室内側への飛散を抑制するようにし、該粉バリを該シール山の斜面に沿って灯室外に飛散落下させることにより、前記フランジ部と前記シール山の当接部を溶着することを特徴とする灯具におけるシール脚の溶着方法。
【請求項2】
前記前面カバーを受け治具に収容して固定し、その上方に前記灯具ハウジングを前記前面カバーに対し横方向に位置決めするとともに、前記灯具ハウジングを覆う振動伝達部材であるホーンを介して前記灯具ハウジングのフランジ部が前記シール山に付勢当接するように保持し、該ホーンを介して前記フランジ部と前記シール山との当接部に前記超音波振動を作用させることを特徴とする請求項1に記載の灯具におけるシール脚の溶着方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法により灯具ハウジングと前面カバーとが溶着一体化された灯具であって、前記前面カバーの周縁部に形成されたシール脚の先端部と前記灯具ハウジングの前面開口部に形成されたフランジ部の対向する接合面との溶着部には、灯室内側および外側にそれぞれ膨出する溶着バリが形成され、前記溶着バリの灯室外側への膨出量が灯室内側への膨出量よりも小さいことを特徴とする灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識灯やフォグランプ等の車両用灯具または一般照明用灯具の灯具ハウジングとその開口部を覆う前面カバーとの接合予定部を、超音波振動を利用して発生させた摩擦熱によって溶融させて溶着する溶着方法、および同方法によって灯具ハウジングと前面カバーとが一体化された灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱可塑性合成樹脂製の灯具ハウジングと同じく熱可塑性合成樹脂製の前面カバーとの接合予定部を振動溶着して接合する所謂振動溶着方法、および同方法により灯具ハウジングと前面カバーを一体化した車両用灯具が知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献には、灯具ハウジングのフランジ部の接合面に対して前面カバーのシール脚を接触させ、両者を当接させた状態で横方向(接合面に沿って直交するXまたはY方向)に振動させることで、当接部を摩擦熱で溶融させて、灯具ハウジングの接合面に前面カバーのシール脚を溶着する方法、および同方法により灯具ハウジングと前面カバーを一体化した車両用灯具が記載されている。
【0004】
さらに、シール脚の先端部に、その頂点が灯室内側にオフセットするシール山を設けることで、シール山にかかる圧力が増大し、当接部に発生する摩擦熱が高くなって、溶融した灯具ハウジング側の接合面がバリとして灯室外側により多く掻き出される。この結果、灯具の発光効率低下の原因となる灯室内側における溶着バリが小さくなる、ことも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−334705
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献では、灯具ハウジングのフランジ部の接合面と前面カバーのシール脚(のシール山)の当接部に伝達される振動が横方向振動であるため、以下のような問題がある。
【0007】
第1には、当接部の振動方向に溶着代が拡大されて、溶着部に沿って形成される溶着バリの巾が大きい。特に、灯室内側よりも灯室外側に形成される溶着バリが大きくなって、灯具の見栄えが悪い。
【0008】
さらに、溶着バリの巾が当接部の振動方向(例えばX方向)とこれに直交する方向(例えばY方向)で異なるため、灯具の見栄えがいっそう悪い。
【0009】
第2には、溶着工程開始当初(振動伝達開始当初)は、前面カバー側のシール山と灯具ハウジングの接合面の当接部の温度が低いため、両者が擦れることで発生した粉バリが灯室内側および外側に飛散し、灯具の灯室内に残れば配光に悪影響を与える。このため、溶着工程終了後に、灯室内の粉バリを除去する工程が必要となる。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、灯具ハウジングと前面カバーを溶着するに際し、溶着部に沿って形成される溶着バリの巾が狭く、しかも均一巾となるとともに、溶着工程開始当初に発生する粉バリの灯室内側への飛散を防止できる灯具のシール脚の溶着方法および同方法によって溶着一体化された灯具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明(請求項1)は、灯室を画成する合成樹脂製の灯具構成部材である灯具ボディと前面カバーのいずれか一方の部材に形成したシール脚の先端部を、他方の部材の対向する接合面に振動溶着する灯具のシール脚の溶着方法において、
前記一方の部材に形成したシール脚の先端部にその頂点が灯室内側にオフセットするシール山を設け、
前記シール脚が上方を向くように前記一方の部材を配置し、その上方に前記他方の部材を前記シール山に当接するように配置するとともに、
前記両部材の当接部を縦方向振動により溶着するように構成した。
【0012】
(作用)一方の灯具構成部材(例えば、前面カバー)のシール脚のシール山と他方の灯具構成部材(例えば、灯具ハウジング)の対向する接合面の当接部が縦方向に振動加圧されると、該当接部に摩擦熱が発生し、該当接部が溶融することで、シール脚の先端部が他方の灯具構成部材の対向する接合面に溶着されるが、当接部は溶着代拡大につながる横方向(接合面に沿った方向)に振動することなく、縦方向だけに振動するため、溶着部の灯室内側および外側に蓄積する溶着バリは、それぞれ巾が狭く、しかも溶着部に沿ってそれぞれ一定の巾となる。
【0013】
また、当接部が摩擦熱で溶融することで、当接部の灯室内側および外側に溶着バリが蓄積するが、当接部を構成するシール山の頂点が灯室内側にオフセットするため、即ち、当接部がシール脚の厚さ方向の中心に対し灯室内側にオフセットするため、図4(a),(b),(c)に示すように、シール脚先端部の灯室内側寄りで当接部が溶融し、当接部の灯室外側よりも内側に多くの量の溶着バリが蓄積する。詳しくは、溶着部に蓄積する溶着バリの量は、シール山の体積にほぼ相当し、溶着部に沿って一定であるが、灯室内側への蓄積量が多い分、灯室外側への蓄積量が少なくなる。
【0014】
このため、溶着工程が終了して、一方の灯具構成部材に設けたシール山と他方の灯具構成部材の対向する接合面の当接部が溶融一体化された形態、即ち、一方の灯具構成部材に形成したシール脚先端部が他方の灯具構成部材の対向する接合面に溶着された形態では、図4(d)に示すように、溶着部の灯室内側および灯室外側に溶着バリが蓄積しているが、灯具外に露呈する、灯室外側に蓄積した溶着バリの量は、灯室内側に蓄積した溶着バリの量よりも少なく、それだけ目立たない。
【0015】
一方、灯室内側に蓄積した溶着バリの量は、灯室外側に蓄積した溶着バリの量よりも多いが、前面カバーで隠れて目立たない。
【0016】
また、当接部の灯室内側と外側における溶着バリ発生のメカニズムに差が生じ、溶着工程(振動伝達)開始当初の当接部に発生する粉バリが灯室外側だけに飛散し、灯室内側には飛散しない。
【0017】
詳しくは、当接部の灯室内側寄りでは、図4(a)に示すように、当接部が隙間のない状態、即ち、シール山が灯具ハウジングの接合面と確実に接触した状態で縦方向に振動加圧されるため、当接部における振動エネルギーの摩擦熱への変換効率が高く、当接部が高温となって溶融するまでの時間が短い。一方、当接部の灯室外側寄りでは、図4(a)に示すように、当接部が隙間のある状態、即ち、シール山が灯具ハウジングの接合面と隙間のある状態(シール山が灯具ハウジングの接合面に接近するが確実には接触できない状態)で縦方向に振動加圧されるため、当接部における振動エネルギーの摩擦熱への変換効率が低く、当接部がすぐには高温とならず溶融するまでに時間がかかる。
【0018】
このため、当接部の灯室内側寄りでは、当接部がすぐに高温(溶融温度)となって、溶着工程(振動伝達)開始当初から、図4(b)に示すように、直ちに溶着バリが蓄積するのに対し、当接部の灯室外側寄りでは、当接部がすぐには高温(溶融温度)とならないため、当接部が擦れて粉バリが発生し、その後、当接部が高温(溶融温度)となった段階で、図4(c)に示すように、溶着バリが蓄積する。
【0019】
そして、当接部を構成するシール山は上を向いており、この溶着工程(振動伝達)開始当初に当接部の灯室外側寄りで発生した粉バリは、図4(b)に示すように、シール山の傾斜面に沿って落下して灯室外に飛散する。
【0020】
即ち、当接部における灯室内側寄りでは、振動伝達開始当初から直ちに溶着バリが蓄積し、この当接部の灯室内側寄りに蓄積する溶着バリが、溶着工程(振動伝達)開始当初の当接部の灯室外側寄りに発生する粉バリの灯室内側への飛散(侵入)を抑制する障壁として作用する。
【0021】
また、当接部の灯室外側寄りで発生し飛散した粉バリは、その後、当接部に蓄積する溶着バリに取り込まれることがないので、当接部の灯室外側に蓄積する溶着バリの量がいっそう低減する。
【0022】
請求項2は、請求項1に記載の車両用灯具のシール脚の振動溶着方法において、
前記一方の灯具構成部材を前記シール脚が上方を向くように受け治具に収容して固定し、その上方に前記他方の灯具構成部材を、前記一方の灯具構成部材に対し横方向に位置決めするとともに、振動伝達部材であるホーンを介して前記シール山に付勢当接するように配置し、該ホーンを介して前記当接部に超音波振動を作用させるように構成した。
【0023】
(作用)上下に対向するように配置した灯具構成部材間の当接部の下方にホーンを配置し、ホーンを介して上方の当接部に超音波振動を作用させる方法では、例えば灯具構成部材の寸法誤差が原因で、上方の灯具構成部材と受け治具間に隙が形成されて密着性が不十分であると、当接部に超音波振動が作用する際に、上方の灯具構成部材が受け治具に対し振動し、当接部における振動エネルギーの摩擦熱への変換効率がそれだけ低下するおそれがある。
【0024】
然るに、請求項2では、重量のあるホーンを上方に配置したことで、シール脚を形成した灯具構成部材が上方から押圧されて受け治具に確実に密着保持されるため、当接部に超音波振動が作用する際に、灯具構成部材の受け治具に対する振動が確実に抑制される。
【0025】
即ち、シール山(の頂点)と他方の灯具構成部材の接合面の接触が常に確保された状態で当接部が縦方向に振動加圧されるため、当接部における振動エネルギーの摩擦熱への変換効率が高く、当接部が高温となって溶融するまでの時間がいっそう短縮されて、当接部の灯室外側寄りで発生する粉バリも少なくなる。
【0026】
また、人の目に触れる前面カバーはできるだけ傷つけたくないので、灯具ハウジングをホーンと接触する振動伝達側として振動溶着することが望ましい。
【0027】
請求項3は、請求項1または2に記載の方法により灯具ハウジングと前面カバーとが溶着一体化された灯具であって、前記一方の灯具構成部材に形成されたシール脚先端部と前記他方の灯具構成部材との溶着部には、灯室内側および外側にそれぞれ膨出する溶着バリが形成され、前記溶着バリの灯室外側への膨出量が灯室内側への膨出量よりも小さくなるように構成した。
【発明の効果】
【0028】
本発明(請求項1)によれば、一方の灯具構成部材のシール脚のシール山と他方の灯具構成部材の対向する接合面の当接部が縦方向に超音波振動加圧され、発生した摩擦熱で該当接部が溶融することで、シール脚の先端部が他方の灯具構成部材の対向する接合面に溶着されるため、溶着部の灯室内側および外側に蓄積する溶着バリは、それぞれ巾が狭く、しかも溶着部に沿ってそれぞれ一定の巾となるので、見栄えのよい灯具を提供できる。
【0029】
また、当接部を構成するシール山の頂点が灯室内側にオフセットするため、溶着部の灯室外側の溶着バリの膨出量が灯室内側の溶着バリの膨出量よりも小さく、それだけ溶着バリが目立たないことから、いっそう見栄えのよい灯具を提供できる。
【0030】
また、当接部の灯室内側寄りに蓄積する溶着バリが、溶着工程(振動伝達)開始当初の当接部の灯室外側寄りで発生する粉バリの灯室内側への飛散(侵入)を抑制するので、適正な配光を妨げるおそれのある異物(粉バリ)が灯室内に残らず、灯具を製造する上での歩留まりが著しく向上する。即ち、超音波振動溶着工程で発生した粉バリが灯室内に異物として残らないので、溶着工程後の粉バリ除去工程を簡略化したり、省略することができ、溶着工程により灯室が密閉されて、溶着工程後に光源を後付けできない灯具構造の場合に、特に有効である。
【0031】
請求項2によれば、当接部における振動エネルギーの摩擦熱への変換効率が高いので、溶着工程時間が短縮されるとともに、当接部で発生する粉バリの量が低減する分、適正な配光を妨げるおそれのある異物(粉バリ)が灯室内に残らず、灯具を製造する上での歩留まりがさらにいっそう向上する。
【0032】
請求項3によれば、溶着部の灯室内側および外側に膨出する溶着バリは、それぞれ巾が狭く、しかも溶着部に沿ってそれぞれ一定の巾となるので、灯具の見栄えが向上する。
【0033】
特に、灯室外側の溶着バリの膨出量が灯室内側の溶着バリの膨出量よりも小さく、それだけ溶着バリが目立たないことから、灯具の見栄えがいっそう向上する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係る溶着方法により構成した標識灯の正面図である。
図2】同標識灯の縦断面図(図1に示す線II―IIに沿う断面図)である。
図3】本発明に係る溶着方法を実施するための超音波振動溶着装置の全体構造を示す原理図である。
図4】前面カバーのシール脚を灯具ハウジングに溶着する振動溶着工程を示す図で、(a)は振動溶着工程開始前の当接部の拡大断面図、(b)は振動溶着工程開始初期の当接部の拡大断面図、(c)は振動溶着工程途中の当接部の拡大断面図、(d)は振動溶着工程終了後の当接部の拡大断面図である。
図5】本発明に係る溶着方法を実施するための超音波振動溶着装置の他の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0036】
図1,2は、本発明方法の一実施例(溶着方法)を適用して構成した車両用灯具である標識灯を示し、図1は同標識灯の正面図,図2は同標識灯の縦断面図である。
【0037】
これらの図において、標識灯10は、前面側が開口する容器状の灯具ハウジング12と、灯具ハウジング12の前面側に一体化された前面カバー15と、灯具ハウジング12内に収容された光源であるバルブ18で構成されている。
【0038】
詳しくは、灯具ハウジング12の開口周縁部に前面カバー15の周縁部が溶着されることで、標識灯10の灯室Sが画成され、灯具ハウジング12の背面壁に設けられたバルブ挿着孔12aにハウジング12後方からバルブ18が挿着されて、灯室S内の所定位置に光源本体であるフィラメント18aが配置されている。
【0039】
さらに詳しくは、熱可塑性合成樹脂製の灯具ハウジング12の開口周縁部には、側方へ向かって張り出したフランジ部13が周設されており、フランジ部13の表面である接合面14に、熱可塑性合成樹脂製の前面カバー15の周縁部裏面側に周設されたシール脚16の先端部が超音波振動溶着により接合一体化されている。
【0040】
前面カバー15のシール脚16の先端部と、灯具ハウジング12のフランジ部13の接合面14との溶着部22には、灯室Sの内側および外側に溶着バリ23a,23bが膨出形成されているが、溶着バリ23a,23bの巾は、それぞれ狭く、しかも溶着部22に沿ってそれぞれ一定の巾となっているので、標識灯10の見栄えがよい。
【0041】
特に、標識灯10の外部に露呈する、灯室外側の溶着バリ23bの膨出量が、灯室内側の溶着バリ23aの膨出量よりも小さく、それだけ溶着バリ23bが目立たず、標識灯10の見栄えがいっそうよい。
【0042】
なお、灯室内側の溶着バリ23aの膨出量は、灯室外側の溶着バリ23bの膨出量よりも大きいが、溶着バリ23aは、前面カバー15で隠れ、即ち、外部から灯室S内を視認できないため、標識灯10の見栄えに影響を与えることはない。
【0043】
図3は、本発明の一実施例方法(溶着方法)を実施するための超音波振動溶着装置の全体構造を示す図で、この超音波振動溶着装置40によって、標識灯10の灯具ハウジング12と前面カバー15を溶着一体化する。
【0044】
この超音波振動溶着装置40は、縦方向(接合面14に直交する方向)の超音波振動を利用して、前面カバー15のシール脚16の先端部と灯具ハウジング12のフランジ部13の対向する接合面14の当接部に摩擦熱を発生させ、この摩擦熱により当接部を溶融させることで、前面カバー15のシール脚16の先端部を灯具ハウジング12のフランジ部13の接合面14に溶着するものである。
【0045】
詳しくは、振動子44は、発振機43によって送り込まれた電気エネルギーを超音波振動に変換し、同時に溶着に必要な振幅に増幅して振動伝達部材であるホーン46に伝達し、ホーン46を介して、前面カバー15のシール脚16の先端部と灯具ハウジング12のフランジ部13の対向する接合面14の当接部に縦方向の超音波振動が伝達される。
【0046】
また、前面カバー15のシール脚16の先端部には、その頂点20aが灯室S内側にオフセットするシール山20(図4(a)参照)が設けられるとともに、前面カバー15は、シール脚16が上方を向くように受け治具42に収容保持されて、横方向および縦方向に位置決め固定されている。
【0047】
一方、前面カバー15の上方には、灯具ハウジング12が前面カバー15に対し横方向に位置決めされるとともに、フランジ部13の接合面14が前面カバー15側のシール山20に対向して付勢当接するように配置されるとともに、振動伝達部材である、下方が円筒型に開口するホーン46を介して、シール山20とフランジ部13の接合面14の当接部に縦方向の超音波振動が伝達される。
【0048】
このように構成された超音波振動溶着装置40によって、前面カバー14のシール脚16先端部のシール山20と、灯具ハウジング12のフランジ部13の対向する接合面14の当接部に、縦方向の超音波振動を作用させると、当接部に摩擦熱が発生し、図4に示すように、摩擦熱により当接部が溶融し、前面カバー14のシール脚16の先端部が灯具ハウジング12のフランジ部13に接合一体化される。
【0049】
特に、前面カバー15のシール脚16の先端部に設けられたシール山20と、灯具ハウジング12の対向する接合面14の当接部には、横方向振動(接合面14に沿った方向の振動)ではなく、縦方向の超音波振動(接合面14に直交する方向の超音波振動)が伝達されて、当接部が摩擦熱で溶融するため、シール脚16と灯具ハウジング12との溶着部22の灯室内側および外側に蓄積する溶着バリ23a,23bの巾は、それぞれ狭く、しかも溶着部22に沿ってそれぞれ一定の巾となる。
【0050】
また、シール山20と対向する接合面14の当接部では、縦方向に振動加圧されることで摩擦熱が発生し、当接部が溶融することで、灯室S内側および外側に溶着バリ23a,23bが蓄積するが、シール山20は、その頂点20aが灯室内側にオフセットする形状であるため、即ち、当接部がシール脚16の厚さ方向の中心に対し灯室内側にオフセットするため、図4(a),(b),(c)に示すように、シール脚16先端部の灯室内側寄りで当接部が溶融し、当接部の灯室外側よりも内側に多くの量の溶着バリが蓄積する。
【0051】
詳しくは、溶着部22に蓄積する溶着バリの量は、シール山20の体積にほぼ相当し、溶着部22に沿って一定であるが、灯室内側への蓄積量が多い分、灯室外側への蓄積量が少なくなる。
【0052】
このため、溶着工程が終了して、前面カバー15に設けたシール山20と灯具ハウジング12の対向する接合面14の当接部が溶融一体化された形態、即ち、前面カバー15に形成したシール脚16先端部が灯具ハウジング12の対向する接合面14に溶着された形態では、図4(d)に示すように、溶着部22の灯室内側および外側に溶着バリ23a,23bが蓄積しているが、灯具外に露呈する、灯室外側に蓄積した溶着バリ23bの量が、灯室内側に蓄積した溶着バリ23aの量よりも少なく、それだけ溶着バリ23bは目立たない。
【0053】
一方、灯室内側に蓄積した溶着バリ23aの量は、灯室外側に蓄積した溶着バリ23bの量よりも多いが、前面カバー15で隠れるため溶着バリ23aも目立たない。
【0054】
また、当接部の灯室内側と外側における溶着バリ発生のメカニズムに差が生じ、溶着工程(超音波振動伝達)開始当初の当接部に発生する粉バリが灯室外側だけに飛散し、灯室内側には飛散しない。
【0055】
詳しくは、当接部の灯室内側寄りでは、図4(a)に示すように、当接部が隙間のない状態、即ち、シール山20が灯具ハウジング12の接合面14と確実に接触した状態で縦方向に振動加圧されるため、当接部における振動エネルギーの摩擦熱への変換効率が高く、当接部が高温となって溶融するまでの時間が短い。一方、当接部の灯室外側寄りでは、図4(a)に示すように、当接部が隙間のある状態、即ち、シール山20が灯具ハウジング12の接合面14と隙間のある状態(シール山20が灯具ハウジング12の接合面14に接近するが確実には接触できない状態)で縦方向に振動加圧されるため、当接部における振動エネルギーの摩擦熱への変換効率が低く、当接部がすぐには高温とならず溶融するまでに時間がかかる。
【0056】
このため、当接部の灯室内側寄りでは、当接部がすぐに高温(溶融温度)となって、溶着工程(振動伝達)開始当初から、図4(b)に示すように、直ちに溶着バリ23aが蓄積するのに対し、当接部の灯室外側寄りでは、当接部がすぐには高温(溶融温度)とならないため、当接部が擦れて粉バリ24が発生し、その後、当接部が高温(溶融温度)となった段階で、図4(c)に示すように、溶着バリ23bが蓄積する。
【0057】
そして、当接部を構成するシール山20は上を向いており、この溶着工程(超音波振動伝達)開始当初に当接部の灯室外側寄りで発生した粉バリ24は、図4(b)に示すように、シール山20の傾斜面21に沿って落下して灯室外に飛散する。
【0058】
即ち、当接部における灯室内側寄りでは、振動伝達開始当初から直ちに溶着バリ23aが蓄積し、この当接部の灯室内側寄りに蓄積する溶着バリ23aが、溶着工程(超音波振動伝達)開始当初の当接部の灯室外側寄りに発生する粉バリ24の灯室内側への飛散(侵入)を抑制する障壁として作用する。
【0059】
このように、灯具ハウジング12の前面開口部に前面カバー15を溶着一体化した標識灯10の灯室S内には、溶着工程開始の際に当接部で発生する粉バリ24がほとんど残らないことから、従来の振動溶着工程終了後に不可欠であった粉バリ除去工程を簡略化したり、必要に応じて省略することもできる。
【0060】
また、本実施例方法によれば、当接部の灯室外側寄りで発生し灯具の外部に飛散した粉バリ24が、その後、当接部に蓄積する溶着バリ23bに取り込まれることがないので、溶着部22の灯室外側に蓄積する溶着バリ23bの量は、飛散した粉バリ24相当さらに低減し、標識灯10の外部に露呈する溶着バリ23bの膨出量がいっそう小さくなって、溶着バリ23bはいっそう目立たず、標識灯10の見栄えがさらにいっそう向上する。
【0061】
また、前記した第1の実施例方法では、図3に示す超音波振動溶着装置40を使用し、前面カバー15をそのシール脚16が上方を向くように受け治具42に収容して固定し、その上方に灯具ハウジング12をシール山20に付勢当接するように配置し、ホーン46を介して当接部に縦方向の超音波振動を作用させるように構成しているが、図5に示す超音波振動溶着装置40Aを使用し、灯具ハウジング12Aに形成したシール脚16の先端部にシール山20を設け、灯具ハウジング12Aのシール脚16の先端部を前面カバー15Aの対向する接合面14に超音波振動溶着する場合に、灯具ハウジング12Aをそのシール脚16が上方を向くように受け治具42Aに収容して固定し、その上方に前面カバー15Aをシール山20に付勢当接するように配置し、振動伝達部材であるホーン46Aを介して当接部に縦方向の超音波振動を作用させるように構成してもよい。
【0062】
また、前記した第1の実施例方法では、灯具ハウジング12の背面壁にバルブ挿着孔12aが設けられて、光源であるバルブ18を後付けできる灯具構造、即ち、前面カバー15のシール脚16を灯具ハウジング12に溶着一体化する溶着工程後に、例えば、エアブローにより、灯室S内に残った粉バリ24をバルブ挿着孔12aから除去することが可能な灯具構造について説明したが、灯具ハウジング12内にLEDのような光源を予め一体化しておき、その後、前面カバー15のシール脚16を灯具ハウジング12に溶着一体化することで、灯室Sが密閉される灯具構造、即ち、光源を後付けできない灯具構造に適用した場合に、不良品発生率が格段に減少することから、特に有効である。
【0063】
即ち、前記した第1の実施例方法では、光源を後付けできる灯具の前面レンズ15側の当接部であるシール山20を、その頂点20aが灯室内側にオフセットする形状に構成し、シール山20が上方を向くように配置して、当接部を超音波振動溶着するように構成しているが、光源を後付けできない灯具にこの第1の実施例方法を適用した場合の、灯室S内に粉バリが残ることが原因でNGとなる不良品発生率を、シール山20をその頂点20aが幅方向(シール脚の厚さ方向)中央に位置する断面二等辺三角形で構成し、第1の実施例方法と同一条件で当接部を超音波振動溶着した比較例方法の場合と比べると、比較例方法では、全90個のワークに対し不良品発生率が23%であったのに対し、本実施例方法では、全120個のワークに対し不良品発生率が2%であった。
【0064】
なお、前記した実施例方法および同方法によって溶着一体化された灯具としては、車両用灯具である標識灯を一例として説明したが、車両用灯具に限定されるものではなく、一般照明用灯具の灯具ハウジングとその開口部を覆う前面カバー間の超音波振動溶着方法、および同方法によって溶着一体化された一般照明用灯具についても同様に適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0065】
10 車両用灯具である標識灯
S 灯室
12,12A 灯具構成部材である灯具ハウジング
13 フランジ部
14 接合面
15,15A 灯具構成部材である前面カバー
16 シール脚
20 シール山
20a シール山の頂点
21 傾斜面
22 溶着部
23a,23b 溶着バリ
40,40A 超音波振動溶着装置
42,42A 下受治具
43 発振機
44 振動子
46,46A 振動伝達部材であるホーン
図1
図2
図3
図4
図5