(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390030
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】アクティブ磁場キャンセラ
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20180910BHJP
H01J 37/16 20060101ALI20180910BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
H05K9/00 H
H01J37/16
H01L21/30 541Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-501608(P2017-501608)
(86)(22)【出願日】2015年2月24日
(86)【国際出願番号】JP2015055257
(87)【国際公開番号】WO2016135862
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2017年8月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000224994
【氏名又は名称】特許機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】顧 栄栄
【審査官】
石坂 博明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−332781(JP,A)
【文献】
特開2005−294537(JP,A)
【文献】
特開2003−243874(JP,A)
【文献】
特開2003−015315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01J 37/16
H01L 21/027
H01F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場制御空間を挟んで対向するように配置される一対のループコイルおよび一対のループコイルにそれぞれ電流を供給する電流供給装置からなる磁場形成手段と、
前記一対のループコイルの間の任意の場所に配置され、前記磁場制御空間の磁場を検出する一つの磁場検出手段と、
前記一つの磁場検出手段からの信号に基づいて前記電流供給装置を制御する制御手段と、を具備するアクティブ磁場キャンセラであって、
前記制御手段が、前記一対のループコイルのうち一方のループコイルと他方のループコイルとに異なる大きさ、かつ所定の比率で電流を流し、前記磁場検出手段によって検出される磁場変動に基づいて前記一つの磁場検出手段の設置位置と異なる位置の磁場変動を打ち消すようにその電流の大きさを制御するアクティブ磁場キャンセラ。
【請求項2】
前記一対のループコイルのうち一方のループコイルに流れる電流と他方のループコイルに流れる電流との比率を変更可能に構成される請求項1に記載のアクティブ磁場キャンセラ。
【請求項3】
前記磁場制御空間の外の所定の位置にある磁場発生源からの磁場であって前記一つの磁場検出手段の設置位置における磁場と、前記磁場発生源からの磁場であって前記一つの磁場検出手段の設置位置と異なる位置の磁場変動を抑制したい目標位置における磁場と、の比率に基づいて前記一対のループコイルのうち一方のループコイルに流れる電流と他方のループコイルに流れる電流との比率を所定の比率になるように制御して、前記一方のループコイルから発生する磁場の分布と前記他方のループコイルから発生する磁場の分布とから定まる前記磁場制御空間の磁場分布を調整する請求項1または請求項2に記載のアクティブ磁場キャンセラ。
【請求項4】
複数の前記磁場形成手段を具備し、前記各磁場形成手段の中心軸が互いに直交するように配置される請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のアクティブ磁場キャンセラ。
【請求項5】
前記一対のループコイルの間隔が変更可能に構成される請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のアクティブ磁場キャンセラ。
【請求項6】
磁場制御空間を挟んで対向するように配置される一対のループコイルおよび一対のループコイルにそれぞれ電流を供給する電流供給装置からなる磁場形成手段と、
前記一対のループコイルの間の任意の場所に配置され、前記磁場制御空間の磁場を検出する一つの磁場検出手段と、
前記一つの磁場検出手段からの信号に基づいて前記電流供給装置を制御する制御手段と、を具備するアクティブ磁場キャンセラであって、
前記磁場制御空間の外の所定の位置にある磁場発生源からの磁場であって前記一つの磁場検出手段の設置位置における磁場と、前記磁場発生源からの磁場であって前記一つの磁場検出手段の設置位置と異なる位置の磁場変動を抑制したい目標位置における磁場と、の比率に基づいて前記一対のループコイルのうち一方のループコイルの巻き数と他方のループコイルの巻き数との比率を変更して、前記一方のループコイルから発生する磁場の分布と前記他方のループコイルから発生する磁場の分布とから定まる前記磁場制御空間の磁場分布を調整し、前記制御手段が、前記磁場検出手段によって検出される磁場変動に基づいて前記一つの磁場検出手段の設置位置と異なる位置の磁場変動を打ち消すように前記一対のループコイルに流れる電流の大きさを制御するアクティブ磁場キャンセラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクティブ磁場キャンセラに関する。詳しくは外部の磁場発生源による磁場変動を軽減するアクティブ磁場キャンセラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子顕微鏡、電子ビーム露光装置等の電磁ノイズの影響を受けやすい電子応用機器は、外乱による磁場変動を抑制するアクティブ磁場キャンセラによる磁場制御空間内に設けられている。アクティブ磁場キャンセラは、磁場制御空間を挟むようにループコイルが配置され、外乱による磁場制御空間の磁場変動に応じて対向するループコイルに流す電流を制御するものである。このようなアクティブ磁場キャンセラにおいて、ループコイル毎に磁場を検出する磁場検出手段(磁気センサ)設け、各ループコイルを独立して制御するものが知られている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1に記載のアクティブ磁場キャンセラは、各ループコイルに対応する磁気センサが検出する磁場に基づいて外乱による磁場変動を打ち消すようにループコイル毎に流れる電流の大きさを制御する。これにより、外乱としての磁場発生源の大きさや磁気センサまでの距離に関わらず磁場変動を抑制することができる。しかし、特許文献に記載の技術は、磁気センサが配置されている検出位置での磁場変動を抑制するものである。従って、磁場変動を抑制したい位置に磁気センサが配置できない場合、磁場発生源の位置や大きさによっては、磁場変動を抑制したい目標位置での磁場変動が十分に抑制されていない可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−332781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、磁場検出手段が配置されていない位置の磁場変動を抑制することができるアクティブ磁場キャンセラの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明においては、磁場制御空間を挟んで対向するように配置される一対のループコイルおよび一対のループコイルにそれぞれ電流を供給する電流供給装置からなる磁場形成手段と、一対のループコイルの間に配置され、磁場制御空間の磁場を検出する一つの磁場検出手段と、磁場検出手段からの信号に基づいて電流供給装置を制御する制御手段と、を具備するアクティブ磁場キャンセラであって、制御手段が、一対のループコイルのうち一方のループコイルに流れる電流の大きさと他方のループコイルに流れる電流の大きさとの比率を一定にして、磁場検出手段によって検出される磁場変動を打ち消すようにその電流の大きさを制御するものである。
【0007】
本発明においては、前記一対のループコイルのうち一方のループコイルに流れる電流と他方のループコイルに流れる電流との比率を変更して、一方のループコイルから発生する磁場の分布と他方のループコイルから発生する磁場の分布とから定まる磁場制御空間の磁場分布を調整可能に構成されるものである。
【0008】
本発明においては、前記磁場制御空間の外の所定の位置にある磁場発生源からの磁場であって検出手段の設置位置における磁場と前記磁場発生源からの磁場であって磁場変動を抑制したい目標位置における磁場との比率に基づいて前記一対のループコイルのうち一方のループコイルに流れる電流と他方のループコイルに流れる電流との比率を変更して、一方のループコイルから発生する磁場の分布と他方のループコイルから発生する磁場の分布とから定まる磁場制御空間の磁場分布を調整可能に構成されるものである。
【0009】
本発明においては、複数の前記磁場形成手段を具備し、各磁場形成手段の中心軸が互いに直交するように配置されるものである。
【0010】
本発明においては、前記一対のループコイルの間隔が変更可能に構成されるものである。
【0011】
本発明においては、磁場制御空間を挟んで対向するように配置される一対のループコイルおよび一対のループコイルにそれぞれ電流を供給する電流供給装置からなる磁場形成手段と、一対のループコイルの間に配置され、磁場制御空間の磁場を検出する一つの磁場検出手段と、磁場検出手段からの信号に基づいて電流供給装置を制御する制御手段と、を具備するアクティブ磁場キャンセラであって、磁場制御空間の外にある磁場発生源の磁場と磁場発生源からの磁場変動を抑制したい目標位置の磁場との比率に基づいて一対のループコイルのうち一方のループコイルの巻き数と他方のループコイルの巻き数との比率を変更して、一方のループコイルから発生する磁場の分布と他方のループコイルから発生する磁場の分布とから定まる磁場制御空間の磁場分布を調整し、制御手段が、磁場検出手段によって検出される磁場変動を打ち消すように一対のループコイルに流れる電流の大きさを制御するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
即ち、本発明によれば、各ループコイルに流れる電流の比率と磁場検出手段によって検出される磁場とに基づいて磁場制御空間内の任意の位置における磁場分布が調整される。これにより、磁場検出手段が配置されていない位置の磁場変動を抑制することができる。
【0014】
本発明によれば、磁場制御空間の磁場分布とその大きさがループコイルに流れる電流の比率によって調整される。これにより、磁場検出手段が配置されていない位置の磁場変動を抑制することができる。
【0015】
本発明によれば、磁場検出手段によって検出される磁場を基準として磁場変動を抑制したい目標位置における磁場分布とその大きさがループコイルに流れる電流の比率によって調整される。これにより、磁場検出手段が配置されていない位置の磁場変動を抑制することができる。
【0016】
本発明によれば、磁場制御空間において打ち消すことができる磁場変動の空間が拡大する。これにより、磁場検出手段が配置されていない位置の磁場変動を抑制することができる。
【0017】
本発明によれば、磁場制御空間において磁場分布を調整することができる。これにより、磁場検出手段が配置されていない位置の磁場変動を抑制することができる。
【0018】
即ち、本発明によれば、磁場検出手段によって検出される磁場を基準として磁場変動を抑制したい目標位置における磁場分布とその大きさがループコイルの巻き数によって調整される。これにより、磁場検出手段が配置されていない位置の磁場変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るアクティブ磁場キャンセラの構成を示す斜視図。
【
図2】本発明に係るアクティブ磁場キャンセラのX軸方向の磁場形成手段の構成を示す斜視図。
【
図3】本発明に係るアクティブ磁場キャンセラの制御構成を示す図。
【
図4】本発明のアクティブ磁場キャンセラにおける電流制御を表すフローチャートを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、
図1を用いて、本発明に係るアクティブ磁場キャンセラの第一実施形態であるアクティブ磁場キャンセラ1について説明する。本実施形態において、アクティブ磁場キャンセラ1は、磁場制御空間SのX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向における外乱としての磁場発生源Pdからの磁場の影響を抑制するものとする。なお、本実施形態において、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向における外乱としての磁場発生源Pdからの磁場の影響を抑制する構成は同一であるため、X軸方向における構成を中心に説明する。
【0021】
図1に示すように、アクティブ磁場キャンセラ1は、磁場制御空間Sに磁場を発生させて磁場変動を抑制したい目標位置Pt(以下、単に「目標位置Pt」と記す)における磁場発生源Pdからの磁場を打ち消すものである。アクティブ磁場キャンセラ1は、磁場形成手段である一対のX軸ループコイル2とX軸電流供給装置3、一対のY軸ループコイル4とY軸電流供給装置5および一対のZ軸ループコイル6とZ軸電流供給装置7、磁場検出手段である磁気センサ8および制御手段であるコントローラ9を具備する。アクティブ磁場キャンセラ1は、外乱としての磁場発生源Pdからの磁場の影響を抑制すべき空間である磁場制御空間Sに配置される。
【0022】
磁場形成手段を構成する一対のX軸ループコイル2、一対のY軸ループコイル4および一対のZ軸ループコイル6は、磁場を発生するものである。一対のX軸ループコイル2を構成している一方のX軸ループコイル2aと他方のX軸ループコイル2bは、巻き数および巻き径が同一になるように形成されている。この際、一対のX軸ループコイル2は、互いの中心軸が一致するようにして磁場制御空間Sを挟むように配置されている。一対のY軸ループコイル4および一対のZ軸ループコイル6についても同様の構成である。なお、本実施形態において一対のX軸ループコイル2、Y軸ループコイル4、Z軸ループコイル6は、それぞれのループコイルの中心軸が一致するようにして配置されているがこれに限定するものではなく、中心軸が一致していなくてもよい。
【0023】
一対のX軸ループコイル2は、その中心軸が磁場制御空間SのX軸方向に沿うようにして配置されている。一対のY軸ループコイル4は、その中心軸が磁場制御空間SのY軸方向に沿うようにして配置されている。一対のZ軸ループコイル6は、その中心軸が磁場制御空間SのZ軸方向に沿うようにして配置されている。つまり、磁場制御空間Sは、一対のX軸ループコイル2、一対のY軸ループコイル4および一対のZ軸ループコイル6によってその範囲が定められている。
【0024】
磁場形成手段を構成するX軸電流供給装置3、Y軸電流供給装置5およびZ軸電流供給装置7は、対応する一対のX軸ループコイル2、一対のY軸ループコイル4および一対のZ軸ループコイル6に電流を供給するものである。X軸電流供給装置3には、一対のX軸ループコイル2を構成している一方のX軸ループコイル2aと他方のX軸ループコイル2bとがそれぞれ独立して接続されている。X軸電流供給装置3は、一方のX軸ループコイル2aと他方のX軸ループコイル2bとに同じ方向で供給能力範囲内の任意の異なる大きさの直流電流を任意の大きさで流すことができる。Y軸電流供給装置5およびZ軸電流供給装置7についても同様の構成である。なお、本実施形態において、一つの電流供給装置に一方のループコイルと他方のループコイルとが接続されているがこれに限定されるものではなく、一方のループコイルと他方のループコイルとにそれぞれ電流供給装置を接続する構成や、一対のX軸ループコイル2、一対のY軸ループコイル4および一対のZ軸ループコイル6を一つの電流供給装置に接続する構成でもよい。
【0025】
磁場検出手段である磁気センサ8は、磁気を検出するものである。磁気センサ8は、ホール素子、磁気抵抗素子、磁気インピーダンス素子等などから構成されている。磁気センサ8は、磁場制御空間Sの中心から一定範囲内の任意の場所に配置される。磁気センサ8は、一対のループコイルが配置されている軸数(本実施形態においては3軸)に応じた検出数のものが用いられる。
【0026】
制御手段であるコントローラ9は、X軸電流供給装置3、Y軸電流供給装置5およびZ軸電流供給装置7を制御するものである。コントローラ9は、X軸電流供給装置3、Y軸電流供給装置5およびZ軸電流供給装置7の制御を行うための種々のプログラム等を記憶する。コントローラ9は、実体的には、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。コントローラ9には、X軸電流供給装置3、Y軸電流供給装置5およびZ軸電流供給装置7と磁気センサ8とが接続されている。コントローラ9は、磁気センサ8からの検出信号に基づいて電流の大きさを制御する制御信号をX軸電流供給装置3、Y軸電流供給装置5およびZ軸電流供給装置7に出力するように構成されている。
【0027】
コントローラ9は、磁気センサ8に接続され、磁気センサ8が検出するX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の磁場の検出信号を取得することが可能である。
【0028】
コントローラ9は、X軸電流供給装置3、Y軸電流供給装置5およびZ軸電流供給装置7に接続され、磁気センサ8から取得した検出信号に基づいてX軸電流供給装置3から一対のX軸ループコイル2に供給される電流、Y軸電流供給装置5から一対のY軸ループコイル4に供給される電流およびZ軸電流供給装置7から一対のZ軸ループコイル6に供給される電流を制御することが可能である。
【0029】
このように構成されるアクティブ磁場キャンセラ1は、コントローラ9が磁気センサ8から取得したX軸方向の磁場の検出信号に基づいてX軸電流供給装置3を制御することで、磁気センサ8の設置位置である磁場の検出位置Pm(以下、単に「検出位置Pm」と記す)におけるX軸方向の磁場変動を抑制する磁場を一対のX軸ループコイル2から発生させる。同様に、アクティブ磁場キャンセラ1は、コントローラ9がY軸方向とZ軸方向の磁場の検出信号に基づいてY軸電流供給装置5とZ軸電流供給装置7とを制御することで、検出位置PmにおけるY軸方向の磁場変動を抑制する磁場を一対のY軸ループコイル4から発生させ、Z軸方向の磁場変動を抑制する磁場を一対のZ軸ループコイル6から発生させる。
【0030】
以下では、
図2と
図3とを用いて、本発明の第一実施形態に係るアクティブ磁場キャンセラ1の目標位置Ptにおける磁場を制御する態様について説明する。なお、本実施形態において、一対のX軸ループコイル2による目標位置Ptでの磁場制御の態様について説明する。
【0031】
初めに、磁場制御空間Sにおける磁気センサ8の設置位置である検出位置Pmにおける磁場と磁場変動を抑制したい目標位置Ptにおける磁場との関係について説明する。
【0032】
図2と
図3とに示すように、一対のX軸ループコイル2のうち一方のX軸ループコイル2aに単位電流を流した場合、検出位置Pmにおける磁場を一方の検出位置磁場Ma、目標位置Ptにおける磁場を一方の目標位置磁場Taとする。一対のX軸ループコイル2のうち他方のX軸ループコイル2bに単位電流を流した場合、検出位置Pmにおける磁場を他方の検出位置磁場Mb、目標位置Ptにおける磁場を他方の目標位置磁場Tbとする。また、一方のX軸ループコイル2aに流れている電流と他方のX軸ループコイル2bに流れている電流との比率を電流比率κxであるとする。この場合、一対のX軸ループコイル2からの磁場であって検出位置Pmにおける磁場である制御検出位置磁場Mabと目標位置Ptにおける磁場である制御目標位置磁場Tabとの比率である制御磁場比率μxは、一方の検出位置磁場Ma、一方の目標位置磁場Ta、他方の検出位置磁場Mbおよび他方の目標位置磁場Tbから以下に示す数1に基づいて算出される。
【数1】
【0033】
一方の検出位置磁場Ma、一方の目標位置磁場Ta、他方の検出位置磁場Mbおよび他方の目標位置磁場Tbは、定められた検出位置Pmと目標位置Ptとにおける実測値または計算値である。従って、数1に示すように、制御磁場比率μxは、電流比率κxによって調整することができる。
【0034】
また、磁場制御空間Sの所定の位置にある外乱としての磁場発生源Pdからの磁場であって検出位置Pmにおける外乱検出位置磁場Mdと目標位置Ptにおける外乱目標位置磁場Tdとの比率である外乱磁場比率νxは、外乱検出位置磁場Mdの実測値と外乱目標位置磁場Tdの実測値とから算出される。
【0035】
一対のX軸ループコイル2からの磁場に基づく制御磁場比率μxを外乱としての磁場発生源Pdからの磁場に基づく外乱磁場比率νxに一致させた状態で制御検出位置磁場Mabの大きさと外乱検出位置磁場Mdの大きさとが等しい場合、制御目標位置磁場Tabの大きさは、外乱目標位置磁場Tdの大きさと等しい。すなわち、アクティブ磁場キャンセラ1は、制御磁場比率μxが外乱磁場比率νxと等しくなる電流比率κxを維持した状態で、制御検出位置磁場Mabの大きさが外乱検出位置磁場Mdの大きさと等しくなるように一対のX軸ループコイル2に流れる電流を制御することで制御目標位置磁場Tabの大きさを外乱目標位置磁場Tdの大きさに一致させることができる。
【0036】
さらに、アクティブ磁場キャンセラ1は、制御検出位置磁場Mabの位相が外乱検出位置磁場Mdの位相と逆位相になるように一対のX軸ループコイル2に流れる電流を制御することで外乱目標位置磁場Tdの位相と逆位相で大きさが等しい制御目標位置磁場Tabを発生させることができる。つまり、アクティブ磁場キャンセラ1は、制御磁場比率μxと外乱磁場比率νxとが等しくなる電流比率κxで一対のX軸ループコイル2に流れる電流を制御することで外乱目標位置磁場Tdを打ち消すための制御目標位置磁場Tabを発生させることができる。制御磁場比率μxと外乱磁場比率νxとが等しくなる電流比率κxは、数1における制御磁場比率μxが外乱磁場比率νxと等しいとして、一方の検出位置磁場Ma、一方の目標位置磁場Ta、他方の検出位置磁場Mb、他方の目標位置磁場Tbおよび外乱磁場比率νxから以下の数2に基づいて算出される。
【数2】
【0037】
このように構成されるアクティブ磁場キャンセラ1は、数2に基づいて算出された電流比率κxを維持した状態で、磁気センサ8が検出する外乱検出位置磁場Mdの逆位相で等しい大きさの制御検出位置磁場Mabが発生するように一対のX軸ループコイル2に流れる電流を制御する。なお、数2に示すように、電流比率κxは、外乱検出位置磁場Mdの実測値と外乱目標位置磁場Tdの実測値とから定まる外乱磁場比率νxから算出される。従って、アクティブ磁場キャンセラ1は、磁場制御空間Sの検出位置Pmと目標位置Ptとにおける磁場発生源Pdからの磁場(外乱検出位置磁場Mdと外乱目標位置磁場Td)を予め磁気センサ8等によって測定する必要がある。同様にして、アクティブ磁場キャンセラ1は、一対のY軸ループコイル4と一対のZ軸ループコイル6とにおいて、実測値に基づいて算出されたそれぞれの電流比率κy、電流比率κzを維持した状態で、一対のY軸ループコイル4と一対のZ軸ループコイル6に流れる電流を制御する。
【0038】
以下では、
図4を用いて、本発明に係るアクティブ磁場キャンセラ1における目標位置PtでのX軸方向の磁場制御について具体的に説明する。アクティブ磁場キャンセラ1は、予め検出位置Pmと目標位置Ptとで測定した外乱検出位置磁場Mdと外乱目標位置磁場Tdとから算出された電流比率κxが設定されているものとする。
【0039】
図4に示すように、ステップS110において、アクティブ磁場キャンセラ1のコントローラ9は、磁気センサ8が検出した外乱検出位置磁場Mdを取得し、ステップS110をステップS120に移行させる。
【0040】
ステップS120において、コントローラ9は、取得した外乱検出位置磁場Mdが所定値δ以上か否か判断する。
その結果、取得した外乱検出位置磁場Mdが所定値δ以上であると判定した場合、すなわち検出位置Pmにおいて磁場変動が生じていると判断した場合、コントローラ9は、ステップS120をステップS130に移行させる。
一方、取得した外乱検出位置磁場Mdが所定値δ以上でないと判定した場合、すなわち検出位置Pmにおいて磁場変動が生じていないと判断した場合、コントローラ9はステップS120をステップS110に移行させる。
【0041】
ステップS130において、コントローラ9は、取得した外乱検出位置磁場Mdから一対のX軸ループコイル2に流す電流の向きおよび大きさを算出し、ステップS130をステップS140に移行させる。
【0042】
ステップS140において、コントローラ9は、算出した電流の向きおよび大きさに基づいて一対のX軸ループコイル2電流を流し、ステップS140をステップS110に移行させる。
【0043】
アクティブ磁場キャンセラ1は、目標位置PtでのY軸方向およびZ軸方向の磁場制御についても同様に行う。
【0044】
以上のごとく構成することで、アクティブ磁場キャンセラ1は、制御開始前の測定結果に基づいて算出した電流比率κx、電流比率κyおよび電流比率κzになるように一対のX軸ループコイル2、一対のY軸ループコイル4および一対のZ軸ループコイル6に流れる電流を制御する。つまり、アクティブ磁場キャンセラ1は、磁場の実測から予め定めた電流比率κx、電流比率κyおよび電流比率κzによって磁場制御空間Sの磁場分布とその大きさが調整される。そして、アクティブ磁場キャンセラ1は、電流比率κx、電流比率κyおよび電流比率κzを維持しながら、磁気センサ8が検出する外乱検出位置磁場Mdを打ち消すように一対のX軸ループコイル2、一対のY軸ループコイル4および一対のZ軸ループコイル6に流れる電流を制御する。この結果、アクティブ磁場キャンセラ1は、目標位置Ptでの外乱目標位置磁場Tdの変動に追従しながら外乱目標位置磁場Tdを打ち消すための制御目標位置磁場Tabを各軸において発生させる。つまり、アクティブ磁場キャンセラ1は、磁気センサ8によって検出される検出位置PmにおけるX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の外乱検出位置磁場Mdを基準として目標位置PtにおけるX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の外乱目標位置磁場Tdが打ち消されるように一対のX軸ループコイル2、一対のY軸ループコイル4および一対のZ軸ループコイル6に流れる電流を制御する。これにより、アクティブ磁場キャンセラ1は、磁気センサ8が配置されていない目標位置Ptの磁場変動を抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態において、アクティブ磁場キャンセラ1は、予め検出位置Pmと目標位置Ptとで測定した外乱検出位置磁場Mdと外乱目標位置磁場Tdとから算出された電流比率κx、電流比率κyおよび電流比率κzを用いているがこれに限定されるものではなく、目標位置Ptでの磁場変動を確認しつつ電流比率κx、電流比率κyおよび電流比率κzを調整してもよい。また、本発明に係るアクティブ磁場キャンセラ1は、磁場発生源Pdからの磁場に勾配がある場合だけでなく平行な磁場に対して適応してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、外部の磁場発生源による磁場変動を軽減するアクティブ磁場キャンセラに利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 アクティブ磁場キャンセラ
2 一対のX軸ループコイル
2a 一方のX軸ループコイル
2b 他方のX軸ループコイル
8 磁気センサ
9 コントローラ
S 磁場制御空間
κx 電流比率