(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分と、前記第二の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分と、前記繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維は、組成の80質量%以上が互いに共通する、請求項1に記載の材料。
前記第一の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分と、前記第二の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分と、前記繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維は、それぞれ独立に、ポリアミド樹脂を含む、請求項1または2に記載の材料。
前記第一の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分と、前記第二の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分と、前記繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維は、それぞれ独立に、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂である、請求項1または2に記載の材料。
前記第一の領域、前記第二の領域および前記繊維領域は、それぞれ独立に25〜80質量%の熱可塑性樹脂成分と、75〜20質量%の強化繊維とから構成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の材料。
前記第一の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分の昇温時結晶化エネルギーと前記繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維の昇温時結晶化エネルギーとの差、および、前記第二の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分の昇温時結晶化エネルギーと前記繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維の昇温時結晶化エネルギーとの差が、それぞれ独立に、3J/g以上である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の材料。
変形抵抗荷重が1N以下である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の材料;但し、変形抵抗荷重とは、材料を速度300mm/分にて、前記材料の進行方向を90度変化させるガイドを経て引き上げる際にかかる荷重をいう。
少なくとも一方向に配列された20〜100質量%の熱可塑性樹脂繊維と、80〜0質量%の強化繊維とから構成される繊維の表面に、超音波を加振することを含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の材料の製造方法。
請求項1〜17のいずれか1項に記載の材料または請求項18に記載の部分溶着材料と、前記材料または部分溶着材料を保形する第二の熱可塑性樹脂繊維を含み、前記第二の熱可塑性樹脂繊維は、前記材料または部分溶着材料に含まれる熱可塑性樹脂繊維の融点よりも15℃以上高い、複合材料。
請求項1〜17のいずれか1項に記載の材料、請求項18に記載の部分溶着材料または請求項20に記載の複合材料を、光成形またはマイクロ波成形することを含む、成形品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0009】
本発明の材料は、厚み方向に連続して、第一の領域、繊維領域、第二の領域を有し、前記第一の領域および前記第二の領域は、それぞれ独立に、20〜100質量%の熱可塑性樹脂成分と、80〜0質量%の強化繊維とから構成される樹脂層であり、前記繊維領域は、20〜100質量%の熱可塑性樹脂繊維と、80〜0質量%の強化繊維とから構成され、前記第一の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分および前記第二の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分は、それぞれ独立に、示差走査熱量測定法により測定される昇温時結晶化エネルギーが、2J/g以上であり、前記繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維は、示差走査熱量測定法により測定される昇温時結晶化エネルギーが、1J/g未満であることを特徴とする。但し、昇温時結晶化エネルギーとは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素気流中、25℃から前記熱可塑性樹脂成分または熱可塑性樹脂繊維の融点+20℃まで昇温速度10℃/分で加熱して測定した値をいう。
このような材料とすることにより、しなやかさを維持しつつ、熱可塑性樹脂の収縮を抑制可能になる。本発明では、表層の樹脂層(第一の領域および第二の領域)を構成する熱可塑性樹脂成分の昇温時結晶化エネルギーを高い状態とし、内部(繊維領域)では、熱可塑性樹脂を繊維状のまま存在させ、かつ、繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維の昇温時結晶化エネルギーを、表層に含まれる熱可塑性樹脂成分よりも、低くすることによって達成される。このように表層の熱可塑性樹脂繊維の昇温時結晶化エネルギーを高くすると、熱可塑性樹脂繊維のうち、非結晶状態のものが一定量以上存在するため、しなやかさを維持しつつ、寸法変化を抑制することができる。さらに、第一および第二の領域が表層にあることにより、内部の繊維状の熱可塑性樹脂が保護され、しなやかさと操作性が確保される。
【0010】
<構成>
本発明の材料は、厚み方向に連続して、第一の領域、繊維領域、第二の領域を有する。
図1(a)は、本発明の材料がテープ状である場合の断面の概略図である。具体的には、
図1(a)は、テープ状の材料の長手方向に垂直な方向の断面の概略図であって、1が第一の領域を、2が繊維領域を、3が第二の領域を示している。
図1(a)の矢印の方向が厚み方向である。
第一の領域および第二の領域は、それぞれ独立に、熱可塑性樹脂成分を必須とし、強化繊維を含んでいてもよい樹脂層である。樹脂層は、熱可塑性樹脂成分が溶融し、層状またはフィルム状領域を形成した状態である。
また、樹脂層は、強化繊維を含んでいてもよく、強化繊維を含む場合は、熱可塑性樹脂成分は、概ね、強化繊維に含浸している。この場合、樹脂層における熱可塑性樹脂の含浸率は、表面から厚さ方向に20μmまでの領域において、70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。含浸率の測定は、WO2016/039242号パンフレットの段落0108の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
繊維領域は、熱可塑性樹脂繊維を必須とし、強化繊維を含んでいてもよい。
第一の領域1と繊維領域2は厚み方向に連続しており、両方の領域の明確な界面があってもよいし、なくてもよい。明確な界面がない例としては、第一の領域の繊維領域に近い側は、熱可塑性樹脂成分の溶融割合が低く、すなわち、熱可塑性樹脂成分の一部が溶融せずに繊維または繊維に近い形態となっていてもよい。また、繊維領域2と第二の領域3も厚み方向に連続しており、両方の領域の明確な界面があってもよいし、なくてもよい。すなわち、「連続して」とは、第一の領域1と、繊維領域2と、第二の領域3が間に他の領域を含まずに、厚み方向に続いて存在していることをいう。
【0011】
本発明では、さらに、第一の領域と第二の領域は連続していてもよい。
図1(b)は、本発明の材料における、第一の領域と第二の領域が連続している態様について、材料の長手方向(繊維長方向)に垂直な方向の断面の概略図を示したものである。符号は、
図1(a)と同じである。矢印は、
図1(b)に記載の材料の厚み方向を示している。
図1(b)の形態では、表層(第一の領域1および第二の領域3)が内部(繊維領域2)を覆う構成となっている。このような構成とすることにより、材料の取り扱い性がより向上する傾向にある。
図1(b)の実施形態では、第一の領域と第二の領域の境界は明確であってもよいし、明確でなくてもよい。
図1(b)の実施形態も、テープ状であるが、
図1(b)に示すように、断面が楕円形など、四角形ではない場合、材料の長手方向に垂直な方向のうち、最も厚い部分を材料の厚み(総厚み)とし、前記最も厚い部分が第一の領域1、繊維領域2、第二の領域3を形成していればよい。
尚、本明細書における、楕円形、四角形などは、幾何学的な意味での楕円形、四角形に限らず、本発明の技術分野において、通常、ほぼ楕円形状、ほぼ四角形状と解釈されるものを含む趣旨である。
【0012】
図2は、本発明の材料がテープ状である場合の他の一例の断面の概略図である。表層である樹脂層に強化繊維を多く配合し、繊維領域に熱可塑性樹脂繊維を多く配合した態様である。
図2では、黒丸が強化繊維の断面を、白丸が熱可塑性樹脂繊維の断面を示している。第一の領域21および第二の領域22である樹脂層には、強化繊維が分散している。繊維領域23では、溶融した樹脂は殆ど存在せず、熱可塑性樹脂繊維が多いが、表層(第一の領域および第二の領域)に近い領域では、強化繊維も一部存在している。
【0013】
本発明では、繊維領域の密度が、理論最大密度に対し、1.2〜6.0であることが好ましく、1.5〜5.0であることがより好ましく、1.8〜4.5であることがさらに好ましい。このような範囲とすることにより、しなやかさを維持すると同時に、回巻体にした際の膨らみやよれを効果的に低減することが可能になる。
理論最大密度とは、繊維を全く空隙が無いと仮定した時の密度を言う。
【0014】
本発明では、材料の総厚みが、10〜1000μmであることが好ましく、30〜500μmであることがより好ましく、50〜250μmであることがさらに好ましく、100〜210μmであることが一層好ましい。このような範囲とすることにより、よりしなやかさで、かつ、熱収縮率が小さい材料が得られる。
本発明の材料は、材料の総厚みに対する、前記繊維領域の厚みが、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。上限としては、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、75%以下であることがさらに好ましい。
本発明では、第一の領域および第二の領域の厚みがそれぞれ、5〜100μmであることが好ましく、10〜90μmであることがより好ましく、15〜80μmであることがさらに好ましい。第一の領域と第二の領域の厚みは、通常、概ね同じ厚みであるが、用途等に応じて、一方の厚みを他方の厚みよりも厚くしてもよい。
【0015】
本発明の材料が、テープ状である場合、テープの長手方向(繊維長方向)に垂直な方向の長さ(テープの幅)は、1〜100mmであることが好ましく、2〜60mmであることがより好ましく、3〜40mmであることがさらに好ましい。また、テープの長手方向の長さ(テープの長さ)は、1〜100,000mであることが好ましく、10〜10,000mであることがより好ましく、80〜5,000mであることがさらに好ましい。
特に、材料の総厚み(t)とテープの幅(w)の関係である、w/tが1〜10000であることが好ましく、10〜500であることがより好ましく、10〜100であることがさらに好ましく、20〜80であることが一層好ましく、30〜60であることがより一層好ましい。このような範囲とすることにより、よりしなやかな材料が得られる。
【0016】
本発明では、詳細を後述するとおり、繊維領域に含まれる樹脂繊維が、連続熱可塑性樹脂繊維であることが好ましい。さらに、繊維領域には、強化繊維も含まれることが好ましく、強化繊維は連続強化繊維であることが好ましい。特に、繊維領域には、連続強化繊維と熱可塑性樹脂繊維(好ましくは連続熱可塑性樹脂繊維)を含む混繊糸が含まれることが好ましい。これらの繊維は、一方向に配列していてもよいし、二方向以上に配列していてもよいが、好ましくは一方向に配列している態様である。
【0017】
<昇温時結晶化エネルギー>
本発明では、第一の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分および第二の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分は、それぞれ独立に、示差走査熱量測定法により測定される昇温時結晶化エネルギーが、2J/g以上であり、繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維は、示差走査熱量測定法により測定される昇温時結晶化エネルギーが、1J/g未満である。
第一の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分および第二の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分は、それぞれ独立に、昇温時結晶化エネルギーが、2J/g以上であり、3J/g以上であることが好ましく、4J/g以上であることがより好ましい。前記昇温時結晶化エネルギーの上限値は、それぞれ、40J/g以下であることが好ましく、30J/g以下であることがより好ましく、20J/g以下であることがさらに好ましく、10J/g以下、8J/g以下であってもよい。
本発明ではまた、繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維は、示差走査熱量測定法により測定される昇温時結晶化エネルギーが、1J/g未満であり、0.8J/g以下であることが好ましく、0.6J/g以下であることがより好ましい。前記昇温時結晶化エネルギーの下限値は、0.0J/g以上であることが好ましく、0.1J/g以上であることがより好ましく、0.2J/g以上であることがさらに好ましい。
さらに第一の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分の昇温時結晶化エネルギーと繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維の昇温時結晶化エネルギーとの差、および、第二の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分の昇温時結晶化エネルギーと繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維の昇温時結晶化エネルギーとの差が、それぞれ独立に、3J/g以上であることが好ましく、4J/g以上であることがより好ましく、4.5J/g以上であることがさらに好ましく、5J/g以上であることが一層好ましい。前記昇温時結晶化エネルギーの差の上限値は、それぞれ、40J/g以下であることが好ましく、30J/g以下であることがより好ましく、20J/g以下であることがさらに好ましく、10J/g以下、8J/g以下であってもよい。このような範囲とすることにより、材料の熱収縮率をより効果的に低減できる。
【0018】
昇温時結晶化エネルギーとは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素気流中、25℃から、第一の領域および第二の領域については、熱可塑性樹脂成分の融点、繊維領域については、熱可塑性樹脂繊維の融点+20℃まで昇温速度10℃/分で加熱して測定した値をいう。
なお、本発明における融点とは、DSC(示差走査熱量測定)法により観測される昇温時の吸熱ピークのピークトップの温度であり、具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定された値を言う。
詳しくは、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。実施例で使用する機器等が廃番等により入手不可能な場合は、同等の性能を有する他の機器等を使用することができる。以下、他の測定方法についても同様である。
本発明では、熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂成分、熱可塑性樹脂繊維)が2種以上の樹脂からなる場合、融点の高い方の樹脂の融点をもって、熱可塑性樹脂等の融点とする。また、熱可塑性樹脂等が融点を2つ以上有する場合、高い方の融点をもって熱可塑性樹脂等の融点とする。
【0019】
<材料組成>
本発明では、第一の領域および第二の領域は、それぞれ独立に、20〜100質量%の熱可塑性樹脂成分と、80〜0質量%の強化繊維とから構成され、25〜80質量%の熱可塑性樹脂成分と、75〜20質量%の強化繊維とから構成されることが好ましく、30〜70質量%の熱可塑性樹脂成分と、70〜30質量%の強化繊維とから構成されることがより好ましく、49〜30質量%の熱可塑性樹脂成分と、51〜70質量%の強化繊維とから構成されることがさらに好ましく、45〜30質量%の熱可塑性樹脂成分と、55〜70質量%の強化繊維とから構成されることが一層好ましい。
本発明の材料における第一の領域および第二の領域は、熱可塑性樹脂成分と、必要に応じ配合される強化繊維以外の成分を含んでいてもよいが、実質的に、熱可塑性樹脂成分と、必要に応じ配合される強化繊維のみから構成されることが好ましい。
ここでの、「実質的に」とは、上述した成分以外の他の成分が各領域における5質量%以下であることをいい、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
本発明では、また、繊維領域は、20〜100質量%の熱可塑性樹脂繊維と、80〜0質量%の強化繊維とから構成され、25〜80質量%の熱可塑性樹脂繊維と、75〜20質量%の強化繊維とから構成されることが好ましく、30〜70質量%の熱可塑性樹脂繊維と、70〜30質量%の強化繊維とから構成されることがより好ましく、49〜30質量%の熱可塑性樹脂繊維と、51〜70質量%の強化繊維とから構成されることがさらに好ましく、45〜30質量%の熱可塑性樹脂繊維と、55〜70質量%の強化繊維とから構成されることが一層好ましい。
また、本発明の材料における繊維領域は、熱可塑性樹脂繊維と、必要に応じ配合される強化繊維成分に加え、熱可塑性樹脂繊維が溶融した熱可塑性樹脂成分が含まれていてもよい。さらに、本発明の材料における繊維領域は、実質的に、熱可塑性樹脂繊維と、任意成分としての熱可塑性樹脂繊維が溶融した熱可塑性樹脂成分、ならびに、必要に応じ配合される強化繊維のみから構成されることが好ましい。
ここでの、「実質的に」とは、上述した成分以外の他の成分が各領域における5質量%以下であることをいい、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明の材料では、例えば、以下の態様が例示される。
(1)第一の領域および第二の領域が、それぞれ独立に、熱可塑性樹脂成分と強化繊維から構成される樹脂層であり、繊維領域が熱可塑性樹脂繊維から構成される領域である態様
(2)第一の領域および第二の領域が、それぞれ独立に、熱可塑性樹脂成分から構成される樹脂層であり、繊維領域が熱可塑性樹脂繊維と強化繊維とから構成される領域である態様
(3)第一の領域および第二の領域が、それぞれ独立に、熱可塑性樹脂成分と強化繊維から構成される樹脂層であり、繊維領域が熱可塑性樹脂繊維と強化繊維とから構成される領域である態様
本発明の材料は、上記(3)が好ましい。上記(1)〜(3)は、上記以外の成分を含んでいてもよい、しかしながら、各領域は、上記成分が全体の90質量%以上を占めることが好ましい。
【0022】
本発明の材料は、第一の領域、第二の領域および繊維領域のいずれか1つ以上の領域にのみ強化繊維を含んでいてもよい。このような構成とすることにより、昇温時結晶化エネルギーを微調整することができる。また、同時に成形品の強化繊維の含有量を調整することもできる。
例えば、後述する混繊糸で、熱可塑性樹脂繊維をはさみ、両面の混繊糸を超音波加振しながら、樹脂層を形成することが考えられる。このような材料では、超音波の加振の程度を調整することにより、繊維領域は熱可塑性樹脂繊維のみを含み、第一の領域および第二の領域は、強化繊維を含む樹脂層とすることができる。また、上記
図2に示す様に、超音波加振の程度によっては、混繊糸を構成する熱可塑性樹脂繊維の一部が溶融せずに残り、第一の領域21および第二の領域22は、樹脂層中に強化繊維(
図2中の黒丸)が存在し、繊維領域23では、強化繊維が多い領域と、強化繊維が少ないあるいは存在せず、熱可塑性樹脂繊維(
図2中の白丸)が多く存在する領域が存在する場合もあろう。
【0023】
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維は、通常、熱可塑性樹脂成分から構成される。
本発明の材料は、第一の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分と、第二の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分と、繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維は、組成の80質量%以上が互いに共通することが好ましく、90質量%以上が互いに共通することがより好ましく、95質量%が互いに共通することがさらに好ましく、98質量%以上が互いに共通することが一層好ましい。このような範囲とすることにより、成形時の寸法安定性により優れた材料が得られる。
【0024】
また、本発明の材料の他の実施形態として、第一の領域を構成する熱可塑性樹脂と第二の領域を構成する熱可塑性樹脂の組成を異なるものとする態様も挙げられる。異なる組成の熱可塑性樹脂を用いることにより、第一の領域と第二の領域に異なる機能を持たせることができる。例えば、第一の領域を構成する熱可塑性樹脂成分が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し(好ましくは0〜70モル%のパラキシリレンジアミンと、100〜30モル%のメタキシリレンジアミンからなるキシリレンジアミンに由来し)、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂を70質量%以上含み、第二の領域を構成する熱可塑性樹脂成分が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミン(好ましくはメタキシリレンジアミン)に由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上がアジピン酸に由来するポリアミド樹脂を70質量%以上含み、繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維がジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂を35質量%以上、および、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上がアジピン酸に由来するポリアミド樹脂を35質量%以上含む態様が例示される。このような材料とすることにより、第一の領域では、外部からの水分の侵入を効果的に抑制することができ、第二の領域では、金属との密着性を向上させることができる。
【0025】
<<熱可塑性樹脂成分>>
次に、第一の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分、第二の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分および熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂成分について説明する。
前記熱可塑性樹脂成分は、それぞれ独立に、熱可塑性樹脂を主成分として含む。主成分とは、熱可塑性樹脂成分の80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上が熱可塑性樹脂であることをいう。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂類、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂類、ポリカーボネート樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン等のポリエーテルケトン樹脂類、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルサルファイド樹脂、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、全芳香族ポリイミド、半芳香族ポリイミド等の熱可塑性ポリイミド樹脂類等を用いることができ、ポリアミド樹脂であることが好ましい。ポリアミド樹脂の詳細は後述する。本発明で用いる熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂であることが好ましい。
熱可塑性樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。ポリアミド樹脂等の同種の樹脂を用いてもよい。
【0026】
本発明で用いる熱可塑性樹脂成分は、熱可塑性樹脂を主成分とし、他の成分を含んでいてもよい。
本発明で用いる熱可塑性樹脂成分は、エラストマー成分を含んでいてもよい。
エラストマー成分としては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコン系エラストマー等公知のエラストマーが使用でき、好ましくはポリオレフィン系エラストマーおよびポリスチレン系エラストマーである。これらのエラストマーとしては、ポリアミド樹脂に対する相溶性を付与するため、ラジカル開始剤の存在下または非存在下で、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物、アクリルアミド並びにそれらの誘導体等で変性した変性エラストマーも好ましい。
【0027】
熱可塑性樹脂成分に、エラストマー成分を配合する場合、エラストマー成分の配合量は、熱可塑性樹脂成分の5〜25質量%であることが好ましい。
【0028】
さらに、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、本発明で用いる熱可塑性樹脂成分には、繊維状以外のフィラー、酸化防止剤、熱安定剤等の安定剤、耐加水分解性改良剤、耐候安定剤、艶消剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、離型剤、滑剤等の添加剤等を加えることができる。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落番号0130〜0155の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。尚、本発明で用いる熱可塑性樹脂成分は、上記フィラーを含んでいてもよいが、上記フィラーを含まないことが好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂成分中の上記フィラーの含有量が、3質量%以下であることをいう。
【0029】
本発明で用いる熱可塑性樹脂成分の好ましい実施形態として、熱可塑性樹脂成分の80質量%以上(好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上)が、ポリアミド樹脂である形態が例示される。
【0030】
本発明で用いるポリアミド樹脂としては、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミド6I)、ポリアミド66/6T、ポリキシリレンアジパミド、ポリキシリレンセバカミド、ポリキシリレンドデカミド、ポリアミド9T、ポリアミド9MT、ポリアミド6I/6T等が挙げられる。
【0031】
上述のようなポリアミド樹脂の中でも、成形性、耐熱性の観点から、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂(以下、「XD系ポリアミド」ということがある)であることが好ましい。
また、ポリアミド樹脂が混合物である場合は、ポリアミド樹脂中のXD系ポリアミドの比率が50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、さらには90質量%以上、特には95質量%以上であってもよい。
【0032】
XD系ポリアミドは、ジアミン由来の構成単位の、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、一層好ましくは95モル%以上が、キシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素原子数が好ましくは4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
上記キシリレンジアミンは、少なくともメタキシリレンジアミンを含むことが好ましく、30〜100モル%のメタキシリレンジアミンと、70〜0モル%のパラキシリレンジアミンからなることがより好ましく、50〜100モル%のメタキシリレンジアミンと、50〜0モル%のパラキシリレンジアミンからなることがさらに好ましい。
【0033】
XD系ポリアミドの原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
ジアミン成分として、キシリレンジアミン以外のジアミンを用いる場合は、ジアミン由来の構成単位の50モル%未満であり、30モル%以下であることが好ましく、より好ましくは1〜25モル%、特に好ましくは5〜20モル%の割合で用いる。
【0034】
ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸またはセバシン酸が好ましく、セバシン酸が特に好ましい。
【0035】
上記炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸といった異性体等のナフタレンジカルボン酸等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0036】
ジカルボン酸成分として、炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸を用いる場合は、成形加工性、バリア性の点から、テレフタル酸、イソフタル酸を用いることが好ましい。テレフタル酸、イソフタル酸の割合は、好ましくはジカルボン酸由来の構成単位の30モル%以下であり、より好ましくは1〜30モル%、特に好ましくは5〜20モル%の範囲である。
【0037】
さらに、ジアミン成分、ジカルボン酸成分以外にも、ポリアミド樹脂を構成する成分として、本発明の効果を損なわない範囲でε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用できる。
【0038】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)が6,000〜30,000であることが好ましく、より好ましくは8,000〜28,000であり、さらに好ましくは9,000〜26,000であり、一層好ましくは10,000〜24,000であり、より一層好ましくは11,000〜22,000である。このような範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0039】
なお、ここでいう数平均分子量(Mn)とは、ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度[NH
2](μ当量/g)と末端カルボキシル基濃度[COOH](μ当量/g)から、次式で算出される。
数平均分子量(Mn)=2,000,000/([COOH]+[NH
2])
【0040】
ポリアミド樹脂の製造方法は、特開2014−173196号公報公報の段落0052〜0053の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0041】
本発明においては、ポリアミド樹脂の融点は、150〜310℃であることが好ましく、180〜300℃であることがより好ましく、180〜250℃であることがさらに好ましい。
また、ポリアミド樹脂のガラス転移点は、50〜100℃が好ましく、55〜100℃がより好ましく、特に好ましくは60〜100℃である。この範囲であると、得られる成形品の耐熱性がより良好となる傾向にある。
ガラス転移点とは、試料を一度加熱溶融させ熱履歴による結晶性への影響をなくした後、再度昇温して測定されるガラス転移点をいう。測定には、例えば、島津製作所(SHIMADZU CORPORATION)製、DSC−60を用い、試料量は約1mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30mL/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させた際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度から融点を求めることができる。次いで、溶融したポリアミド樹脂を、ドライアイスで急冷し、10℃/分の速度で融点以上の温度まで再度昇温し、ガラス転移点、融点を求めることができる。
【0042】
<<熱可塑性樹脂繊維>>
次に、本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維について説明する。本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維は、上記熱可塑性樹脂成分から構成され、短繊維であっても、連続繊維であってもよい。ここで、短繊維とは、50mm以下の繊維をいい、連続繊維とは、50mmを超える繊維をいう。本発明では、連続熱可塑性樹脂繊維が好ましい。本発明で使用する連続熱可塑性樹脂繊維の平均繊維長に特に制限はないが、成形加工性を良好にする観点から、1〜100,000mの範囲であることが好ましく、より好ましくは100〜10,000m、さらに好ましくは1,000〜5,000mである。
本発明における熱可塑性樹脂繊維の断面は、円形であってもよいし、扁平であってもよい。
熱可塑性樹脂繊維は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0043】
本発明で用いる連続熱可塑性樹脂繊維は、通常、連続熱可塑性樹脂繊維が束状になった連続熱可塑性樹脂繊維束を用いて製造するが、かかる連続熱可塑性樹脂繊維束1本の当たりの合計繊度が、40〜600dtexであることが好ましく、50〜500dtexであることがより好ましく、100〜400dtexであることがさらに好ましい。このような範囲とすることにより、得られる混繊糸中での連続熱可塑性樹脂繊維の分散状態がより良好となる。かかる連続熱可塑性樹脂繊維束を構成する繊維数は、1〜200fであることが好ましく、5〜100fであることがより好ましく、10〜80fであることがさらに好ましく、20〜50fであることが特に好ましい。特に、詳細を後述するとおり、混繊糸を用いて本発明の材料を形成する場合、連続熱可塑性樹脂繊維の分散状態がより良好となる。
【0044】
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維は、その表面を処理剤で処理することも好ましい。これらの詳細は、WO2016/159340号パンフレットの段落0064〜0065の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0045】
<<強化繊維>>
次に、本発明で用いる強化繊維について説明する。本発明で用いる強化繊維は、短繊維であっても、連続繊維であってもよい。ここで、短繊維とは、50mm以下の繊維をいい、連続繊維とは、50mmを超える繊維をいう。本発明では、連続強化繊維が好ましい。本発明で使用する連続強化繊維の平均繊維長に特に制限はないが、成形加工性を良好にする観点から、1〜100,000mの範囲であることが好ましく、より好ましくは100〜10,000m、さらに好ましくは1,000〜5,000mである。
本発明における強化繊維の断面は、円形であってもよいし、扁平であってもよい。
強化繊維は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0046】
本発明で用いる強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、金属繊維(スチール繊維等)等の無機繊維、および、植物繊維(ケナフ(Kenaf)、竹繊維等を含む)、アラミド繊維、ポリオキシメチレン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の有機繊維などが挙げられる。なかでも、炭素繊維、アラミド繊維およびガラス繊維の少なくとも1種を含むことが好ましく、炭素繊維およびガラス繊維の少なくとも1種を含むことがより好ましく、炭素繊維の少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0047】
本発明で用いる強化繊維は、処理剤で処理されたものを用いることが好ましい。このような処理剤としては、集束剤や表面処理剤が例示され、特許第4894982号公報の段落番号0093および0094に記載のものが好ましく採用され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0048】
具体的には、本発明で用いる処理剤は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シラン系化合物、イソシアネート化合物、チタネート系化合物、ポリアミド樹脂の少なくとも1種であることが好ましく、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シランカップリング剤、水不溶性ポリアミド樹脂および水溶性ポリアミド樹脂の少なくとも1種であることがより好ましく、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、水不溶性ポリアミド樹脂および水溶性ポリアミド樹脂の少なくとも1種であることがさらに好ましく、水溶性ポリアミド樹脂であることが一層好ましい。
前記処理剤の量は、強化繊維の0.001〜1.5質量%であることが好ましく、0.1〜1.2質量%であることがより好ましく、0.3〜1.1質量%であることがさらに好ましい。
【0049】
強化繊維の処理剤による処理方法は、公知の方法を採用できる。例えば、強化繊維を、処理剤を溶液に溶解させたものに浸漬し、強化繊維の表面に処理剤を付着させることが挙げられる。また、処理剤を強化繊維の表面にエアブローすることもできる。さらに、既に、表面処理剤や処理剤で処理されている強化繊維を用いてもよいし、市販品の表面処理剤や処理剤を洗い落してから、再度、所望の処理剤量となるように、表面処理しなおしてもよい。
【0050】
<<混繊糸>>
本発明の材料は、繊維領域が連続強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を含む混繊糸を含むことが好ましい。混繊糸を用いることにより、しなやかさを維持しつつ、成形加工性に優れた材料がより容易に得られる。また、本発明の材料は、第一の領域および前記第二の領域が、連続強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を含む混繊糸から形成されることが好ましい。
本発明で用いる混繊糸は、好ましくは、連続強化繊維と熱可塑性樹脂繊維とが、連続強化繊維および熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一方の処理剤を介して、束状にされたものであることが好ましく、連続強化繊維と連続熱可塑性樹脂繊維とが、連続強化繊維および連続熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一方の処理剤を介して、束状にされたものであることがより好ましい。
混繊糸中における熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維の体積比率は、0.5〜1.5:1.5〜0.5であることが好ましい。また、混繊糸中における連続強化繊維の割合は、連続強化繊維が炭素繊維の場合、55〜65質量%であることが好ましく、連続強化繊維がガラス繊維の場合、65〜75質量%であることがより好ましい。
【0051】
混繊糸中における、連続強化繊維の分散度は、60〜100%であることが好ましく、60〜99%であることがより好ましく、63〜99%であることがさらに好ましく、68〜99%が特に好ましく、80〜99%であってもよい。このような範囲とすることにより、連続強化繊維に熱可塑性樹脂繊維が含浸しやすく、また、得られる成形品中の空隙をより少なくすることができる。分散度は、WO2016/159340号公報の段落0090の記載に従って測定される。
【0052】
また、混繊糸は、熱可塑性樹脂繊維の一部が連続強化繊維に含浸していてもよいが、かかる熱可塑性樹脂繊維の含浸率は、通常、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、3%以下であることが一層好ましく、1%以下であってもよい。
混繊糸の含浸率は、WO2016/159340号公報の段落0091の記載に従って測定される。
【0053】
本発明で用いる混繊糸は、通常、混繊糸を構成する繊維の95質量%以上が連続強化繊維または熱可塑性樹脂繊維で構成される。
【0054】
混繊糸は、通常、熱可塑性樹脂繊維束と連続強化繊維束を用いて製造する。一本の混繊糸の製造に用いられる繊維の合計繊度(一本の混繊糸の製造に用いられる熱可塑性樹脂繊維の繊度の合計および連続強化繊維の繊度の合計を足し合わせた値)は、1000〜100000dtexであることが好ましく、1500〜50000dtexであることがより好ましく、2000〜50000dtexであることがさらに好ましく、3000〜30000dtexであることが特に好ましい。特に、連続強化繊維として高繊度連続炭素繊維を用いる場合、一本の混繊糸の製造に用いられる繊維の合計繊度は20000〜100000dtexであることが好ましく、3000〜90000dtexであることがより好ましく、40000〜80000dtexであることがさらに好ましく、45000〜75000dtexであることが特に好ましい。高繊度連続繊維とは、連続繊維を構成する繊維の数が多い連続繊維をいい、通常は、50000f以上をいう。
【0055】
一本の混繊糸の製造に用いる繊維数の合計(熱可塑性樹脂繊維の繊維数の合計と連続強化繊維の繊維数の合計を合計した繊維数)は、100〜100000fであることが好ましく、1000〜100000fであることがより好ましく、1500〜70000fであることがさらに好ましく、2000〜20000fであることが一層好ましい。このような範囲とすることにより、混繊糸の混繊性が向上し、物性と質感により優れた成形品が得られる。また、いずれかの繊維が偏る領域が少なく互いの繊維がより均一に分散し易い。特に、連続強化繊維として高繊度連続炭素繊維を用いる場合、一本の混繊糸の製造に用いられる繊維数の合計は、10000〜500000fであることが好ましく、20000〜400000fであることがより好ましく、30000〜350000fであることがさらに好ましく、40000〜300000fであることが一層好ましい。
【0056】
本発明で用いる混繊糸は、撚りがかっていてもよい。撚りのかけ方は、特に定めるものではなく、公知の方法を採用できる。撚りの回数としては、熱可塑性樹脂繊維に用いる熱可塑性樹脂の種類、熱可塑性樹脂繊維束の繊維数、繊度、連続強化繊維の種類、繊維数、繊度、熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維の繊維数比や繊度比に応じて適宜定めることができる。撚り回数は、例えば1〜200回/m(繊維長)とすることができ、さらには1〜100回/m、1〜70回/m、1〜50回/m、10〜30回/mとすることもできる。このような構成とすることにより、より機械的強度に優れた成形品が得られる。
【0057】
本発明で用いる混繊糸は、テープ状である場合、幅方向(材料の長手方向に垂直な方向)に折りたたんでもよい。折りたたみの方法は、特に定めるものではなく、公知の方法を採用できる。折りたたみの回数としては、熱可塑性樹脂繊維に用いる熱可塑性樹脂の種類、熱可塑性樹脂繊維束の繊維数、繊度、連続強化繊維の種類、繊維数、繊度、熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維の繊維数比や繊度比に応じて適宜定めることができる。折りたたみ回数は、例えば1〜10回とすることができ、さらには1〜7回、1〜6回、1〜5回、1〜4回とすることもできる。このような構成とすることにより、より緻密な形状を保形することができる。
【0058】
<材料の性能>
本発明の材料は、上述の通り、しなやかさを維持している材料である。本発明の材料は、例えば、変形抵抗荷重を1N以下とすることができ、さらには0.9N以下とすることもでき、特には、0.8N以下とすることもできる。前記変形抵抗荷重の下限値については、特に定めるものではないが、例えば、0.1N以上であっても十分に実用レベルである。
変形抵抗荷重とは、材料を速度300mm/分にて前記材料の進行方向を90度変化させるガイドを経て引き上げる際にかかる荷重をいい、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
本発明の材料は、また、上述のとおり、熱収縮率が小さい材料である。本発明の材料は、例えば、前記熱可塑性樹脂繊維の融点+5℃で1分間加熱した後の熱収縮率を1%以下とすることができ、さらには0.9%以下とすることもでき、特には、0.8%以下とすることもできる。前記熱収縮率の下限値については、特に定めるものではないが、例えば、0%が望ましい。
熱可塑性樹脂繊維の融点+5℃で1分間加熱した後の熱収縮率は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0059】
<材料の製造方法>
次に、本発明の材料の製造方法について、説明する。本発明の材料の製造方法は特に定めるのではないが、以下の方法によって製造することが好ましい。
すなわち、本発明の材料の製造方法の第一の実施形態は、少なくとも一方向に配列された20〜100質量%の熱可塑性樹脂繊維と、80〜0質量%の強化繊維とから構成される繊維の表面に、超音波を加振することを含む製造方法が開示される。このように超音波を加振することにより、表層における熱可塑性樹脂繊維を効果的に溶融させ、内部における熱可塑性樹脂繊維を繊維の状態のまま保つことができる。前記繊維は、一方向に配列してもよいし、二方向以上に配列してもよいが、好ましくは一方向である。
熱可塑性樹脂繊維および強化繊維の詳細は、上述の材料のところで述べたものと同義であり、好ましい範囲も同様である。
本発明では、混繊糸を少なくとも一方向に配列し、超音波を加振することが好ましい。このような態様とすることにより、第一の領域およびまたは第二の領域の昇温時結晶化エネルギーを制御しやすくなる。
【0060】
超音波を用いる場合、原材料の表面の熱可塑性樹脂繊維を100〜400℃で加熱することが好ましく、120〜350℃で加熱することがより好ましい。特に、原材料の表面の熱可塑性樹脂繊維を、熱可塑性樹脂繊維の融点+(0〜40)℃で加熱することが好ましく、熱可塑性樹脂繊維の融点+(5〜30)℃で加熱することがより好ましい。このような態様とすることにより、第一の領域を効果的に含浸しつつ、繊維領域のしなやかさを維持することができる。
超音波を加振する装置としては、特開2016−130011号公報に記載の装置が例示される。すなわち、少なくとも一方向に配列した繊維(好ましくは混繊糸)を極薄フィルムで挟んで加振する方法が例示される。
【0061】
<材料の利用>
本発明の材料は、しなやかさを維持しつつ、熱収縮率が小さいため、微細構造や複雑な形状を有する成形品に好ましく用いられる。
本発明の材料は、例えば、光成形用材料またはマイクロ波成形用材料として好ましく用いられる。光成形およびマイクロ波成形とは、シリコーンゴムなどからなる型を用い、外部から照射された光またはマイクロ波を照射して成形する方法である。
【0062】
図3は、光成形の方法の一例を示す概略図であって、31は、光成形用の型を、32は本発明の材料を、33は光を、34は本発明の材料から形成された成形品を示している。
光成形では、
図3(a)に示すように、光成形用の型が用いられる。光成形用の型は、光を内部に透過させるものであれば、特に定めるものでは無く、シリコーンゴム型などが用いられる。
次いで、
図3(b)に示すように、本発明の材料32が型31内に設置される。本発明の材料はしなやかであるため、複雑な形状や微細な構図の型にも整合するように設置することができる。材料32を型31に設置した後、通常は、型内を真空引きする。このように真空引きすることにより、材料に圧力が加えられ、熱可塑性樹脂繊維の含浸を促進することができる。次いで、型の外側から、光33を照射する。光33は、本発明の材料32に含まれる熱可塑性樹脂を加熱溶融することができる光から適宜選択される。光33は、好ましくは、赤外線が例示される。その後、真空引きをしていた場合は、冷却した後、真空停止し、脱型する。本発明の材料32は、熱収縮率が小さいため、このような型に入れて成形しても、型の形状を適切に転写、再現した成形品34が得られる。
一方、マイクロ波成形は、上記赤外線に代え、マイクロ波を用いて材料に含まれる熱可塑性樹脂を加熱溶融する方法である。
光成形とマイクロ波成形は、材料などに応じて適切な手段を選択することができる。例えば、光成形には、炭素繊維やガラス繊維が好適であり、マイクロ波成形にはガラス繊維が好適である。本発明では、光成形の方が好ましい。
また、後述する複合材料に成形してから、光成形またはマイクロ波成形を行ってもよい。
【0063】
<<部分溶着材料>>
本発明の材料は、そのまま、成形加工してもよいが、本発明の材料2つ以上が一部で溶着している部分溶着材料として用いることもできる。
図8は、本発明の材料、具体的には、テープ状の材料を積層して、各層が部分的に溶着した状態を示す概略図である。符号は、
図1と共通であり、1は第一の領域を、2は繊維領域を、3は第二の領域を示している。また、
図8の81は溶着部分である。このように本発明の材料を部分的に溶着させることにより、少ない積層数で目的量の材料を保形でき、加工時間をより短縮することができる。
一部で溶着とは、本発明の材料同士をその一部分、好ましくは表層の一部分で溶着している態様をいい、例えば、材料の表面積の1〜40%が溶着している態様をいう。また、溶着する材料の数は、2〜10つが好ましく、2〜7つがより好ましく、2〜4つがさらに好ましく、2つが一層好ましい。
溶着は、通常、熱溶着であり、具体的に、レーザー照射によって、溶着される。
【0064】
<<複合材料>>
本発明の材料は、また、本発明の材料の表層(第一の領域および第二の領域)の表層に、さらにコーティング層などを設けたり、本発明の材料を他の材料で保形したりして、複合材料としてもよい。
本発明の複合材料の実施形態の一例は、本発明の材料または部分溶着材料と、前記材料を保形する第二の熱可塑性樹脂繊維を含み、前記第二の熱可塑性樹脂繊維(保形用樹脂繊維)は、前記材料に含まれる熱可塑性樹脂繊維の融点よりも15℃以上高い複合材料である。本発明の材料や部分溶着材料は、しなやかさがあるので、材料を折り返したり、交差させて保形する形態に好ましく用いられる。そして、本発明では、熱可塑性樹脂繊維の融点よりも15℃以上高い第二の熱可塑性樹脂繊維を用いて保形することにより、外観に優れた成形品が得られる。さらには、本発明の材料を構成する熱可塑性樹脂繊維と第二の熱可塑性樹脂繊維に、融点が同程度の樹脂を用いる場合と比較して機械的強度が飛躍的に向上し、成形加工性に優れた成形品が得られる。
この理由は推定であるが、本発明の複合材料は、混繊糸を保形する第二の熱可塑性樹脂繊維の融点を、本発明の材料を構成する熱可塑性樹脂繊維の融点よりも15℃以上高くすることにより、本発明の複合材料を加熱加工した際に、本発明の材料を構成する熱可塑性樹脂が第二の熱可塑性樹脂繊維よりも先に溶融し、強化繊維内に適切に含浸するので、複合材料中の強化繊維の分散度を高く保った状態まま成形加工することができ、強化繊維が乱れず、外観が向上するものと推定される。さらに、このような混繊糸の乱れを抑制することにより、機械的強度も、顕著に向上させることが可能になる。
【0065】
図4は、本発明の複合材料の概略図の一例を示すものであって、41は複合材料を、42は本発明の材料を、43は第二の熱可塑性樹脂繊維を、44は熱可塑性樹脂フィルムを示している。
本実施形態では、熱可塑性樹脂フィルム44の上に、本発明の材料42が一方向に配列し、第二の熱可塑性樹脂繊維43でステッチングすることにより、本発明の材料42を保形している。
図3では、混繊糸は、一方向に並んでいるが、他の並び方でもよい。例えば、WO2016/159340号パンフレットの
図2や
図3に示す並び方が例示される。熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂の融点が前記材料に含まれる熱可塑性樹脂繊維の融点よりも、15℃以上高いことが好ましい。
再び、本明細書の
図4に戻り、
図4の形態では、本発明の材料42は、基材(熱可塑性樹脂フィルム44)の上に配列され、第二の熱可塑性樹脂繊維43で保形されている。保形手段としては、ステッチングが例示される。このような手段を採用することにより、本発明の材料の保形が容易になる。しかしながら、本発明の材料を所望の形態に保形できる限り、基材にステッチングすることは必須ではない。例えば、基材にステッチングせずに、本発明の材料同士が交差する部分のみを第二の熱可塑性樹脂繊維で保形することにより、基材なしでも、本発明の材料を保形できる。
また、本発明の複合材料は、上記材料が
図8に示すように、部分溶着材料を保形した材料であってもよい。部分溶着材料を用いることで、ステッチング時により多くの材料を配置することが可能で、より生産性に優れる。
【0066】
本発明で用いる第二の熱可塑性樹脂繊維は、熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂組成物からなる。第二の熱可塑性樹脂繊維の原料である熱可塑性樹脂組成物は、通常、50質量%以上が熱可塑性樹脂であり、60質量%以上が熱可塑性樹脂であることが好ましく、70質量%以上を熱可塑性樹脂としてもよい。
第二の熱可塑性樹脂繊維に用いられる熱可塑性樹脂としては、複合材料に用いるものを広く使用することができ、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂類、ポリカーボネート樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン等のポリエーテルケトン樹脂類、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルサルファイド樹脂、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、全芳香族ポリイミド、半芳香族ポリイミド等の熱可塑性ポリイミド樹脂類等を用いることができる。本発明では、第二の熱可塑性樹脂繊維がポリアミド樹脂を含むことが好ましい。ポリアミド樹脂の具体例としては、上述の熱可塑性樹脂成分に含まれるポリアミド樹脂が好ましく採用できる。また、第二の熱可塑性樹脂繊維の原料である熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂以外の成分を含んでいても良く、これらは、上述の熱可塑性樹脂成分で述べたものと同義であり、好ましい範囲も同様である。
第二の熱可塑性樹脂繊維の融点は、用いる樹脂の種類にもよるが、180〜405℃であることが好ましく、180〜390℃であることがより好ましく、180〜320℃であることがさらに好ましく、190〜310℃であることが一層好ましく、200〜300℃であることがより一層好ましい。
【0067】
本発明では、上述したとおり、第二の熱可塑性樹脂繊維の融点が本発明の材料を構成する熱可塑性樹脂繊維の融点よりも15℃以上高い。このような構成とすることにより、強化繊維の分散状態が乱れないまま、本発明の材料を構成する熱可塑性樹脂繊維を含浸させることができ、得られる成形品の外観が向上する。
第二の熱可塑性樹脂繊維の融点と本発明の材料に含まれる熱可塑性樹脂繊維の融点の差(第二の熱可塑性樹脂繊維の融点−本発明の材料に含まれる熱可塑性樹脂繊維の融点)は、16℃以上とすることもでき、さらには17℃以上とすることもでき、特には18℃以上とすることもできる。また、第二の熱可塑性樹脂繊維の融点と本発明の材料に含まれる熱可塑性樹脂繊維の融点の差の上限は特に定めるものでは無いが、100℃以下とすることが好ましく、80℃以下とすることがより好ましく、75℃以下とすることが特に好ましい。このような範囲とすることにより、加熱成形の際に、本発明の材料を構成する熱可塑性樹脂が溶融した後に、第二の熱可塑性樹脂繊維も溶融し、第二の熱可塑性樹脂繊維が目立たなくなり、より外観が良好な成形品が得られる。
保形の基材となる上記熱可塑性樹脂フィルムを構成する樹脂(フィルム樹脂)の融点と本発明の材料に含まれる熱可塑性樹脂繊維の融点の差(フィルム樹脂の融点−本発明の材料に含まれる熱可塑性樹脂繊維の融点)は、16℃以上とすることもでき、さらには17℃以上とすることもでき、特には18℃以上とすることもできる。また、フィルム樹脂の融点と本発明の材料に含まれる熱可塑性樹脂繊維の融点の差の上限は特に定めるものでは無いが、100℃以下とすることが好ましく、80℃以下とすることがより好ましく、75℃以下とすることが特に好ましい。
【0068】
本発明の複合材料の実施形態の他の一例は、本発明の材料と、前記材料を保形するための繊維を含み、前記保形するための繊維は、通常の加熱(例えば、320℃以下の加熱)で溶融しない繊維である。このような繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド樹脂繊維、変性ポリフェニレンエーテル樹脂繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリイミド繊維などが例示される。
【0069】
本発明の複合材料の厚さは、例えば、0.2〜4mmとすることができる。
【0070】
<成形品の製造>
本発明では、また、本発明の材料または上述の複合材料を、光成形またはマイクロ波成形することを含む、成形品の製造方法を開示する。
本発明の成形品の製造方法の実施形態の一例として、光成形またはマイクロ波成形の金型に、本発明の材料または複合材料を1〜2mmの厚さとなるように配置して、光成形またはマイクロ波成形することが例示される。
【0071】
<成形品の用途>
本発明の材料および複合材料を成形してなる成形品の利用分野については特に定めるものではなく、自動車、航空機等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム等の日用品、防衛および航空宇宙製品等に広く用いられる。特に、医療用装具(長下肢装具など)、自動車、電車および舟等の窓枠、ヘルメットのゴーグル部位の枠、メガネフレーム、安全靴など用の成形材料として、好適に用いられる。特に、本発明の複合材料は、医療用装具形成用材料、自動車用二次構造部材としての利用価値が高い。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0073】
1.熱可塑性樹脂
<合成例1 MPXD10>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロートおよび窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、セバシン酸(伊藤製油(株)製TAグレード)10kg(49.4mol)および酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム・一水和物(モル比=1/1.5)11.66gを仕込み、十分に窒素置換した後、更に少量の窒素気流下で系内を撹搾しながら170℃まで加熱溶融した。
メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)とパラキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)のモル比が70/30である混合キシリレンジアミン6.647kg(メタキシリレンジアミン34.16mol、パラキシリレンジアミン14.64mol)を溶融したセバシン酸に撹拌下で滴下し、生成する縮合水を系外に排出しながら、内温を連続的に2.5時間かけて240℃まで昇温した。
滴下終了後、内温を上昇させ、250℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに内温を上昇させて255℃で20分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、これをペレット化することにより、ポリアミド樹脂MPXD10を得た。
得られたポリアミド樹脂の融点は、213℃、数平均分子量は、15400であった。
【0074】
<合成例2 MXD10>
合成例1において、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合キシリレンジアミンを、等量のメタキシリレンジアミンに変更したこと以外は、合成例1と同様の方法でポリアミド樹脂MXD10を得た。
得られたポリアミド樹脂の融点は、190℃、数平均分子量は、14900であった。
【0075】
MXD6:メタキシリレンアジパミド樹脂(三菱ガス化学(株)製、グレードS6001)、融点237℃、数平均分子量16800
保形用ポリアミド66繊維:グンゼ社製、ウーリーナイロン、融点:265℃
【0076】
保形用ポリアミド66フィルムの製造方法
ポリアミド66ペレット(東レ製、CM3001N)をシリンダー径30mmのTダイ付き単軸押出機(プラスチック工学研社製、PTM−30)に供給した。シリンダー温度を290℃、スクリュー回転数30rpmの条件で溶融混練を行った。溶融混練した後、Tダイを通じてフィルム状物を押出し、冷却ロール上で固化し、厚み100μmのフィルムを得た。ポリアミド66の融点は265℃であった。
【0077】
<熱可塑性樹脂の融点>
島津製作所(SHIMADZU CORPORATION)製、DSC−60を用い、試料量は約1mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30mL/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温(25℃)から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させ次いで、溶融した熱可塑性樹脂を、ドライアイスで急冷し、10℃/分の速度で融点以上の温度まで再度昇温した際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度を融点とした。熱可塑性樹脂成分および熱可塑性樹脂繊維の融点も同様に測定される。
【0078】
2.連続強化繊維
連続炭素繊維:三菱レイヨン社製、Pyrofil−TR−50S−12000−AD、8000dtex、繊維数12000f。エポキシ樹脂で表面処理されている。
連続ガラス繊維:日東紡績社製、ECG 75 1/0 0.7Z、繊度687dtex、繊維数400f、集束剤で表面処理されている。
高繊度連続炭素繊維(高繊度炭素繊維):三菱レイヨン社製、Pyrofil−TRH50−60M、32000dtex、繊維数60000f。
【0079】
実施例1
<連続熱可塑性樹脂繊維の製造>
下記表1に示す熱可塑性樹脂を用い、以下の手法に従って繊維状にした。
熱可塑性樹脂を30mmφのスクリューを有する単軸押出機にて溶融押出しし、60穴のダイからストランド状に押出し、ロールにて巻き取りながら延伸し、回巻体に巻き取った熱可塑性樹脂繊維束を得た。溶融温度は、熱可塑性樹脂の融点+15℃とした。
【0080】
<混繊糸の製造>
混繊糸は、以下の方法に従って製造した。
1m以上の長さを有する熱可塑性樹脂繊維の回巻体、および、1m以上の長さを有する連続強化繊維の回巻体からそれぞれの繊維を引き出し、複数のガイドを通しながらエアブローにより開繊を行った。開繊しながら、熱可塑性樹脂繊維および連続強化繊維を一束とし、さらに、複数のガイドを通しながらエアブローを与え、均一化を進めた。
得られた混繊糸は、連続炭素繊維(Pyrofil−TR−50S−12000−AD)を用いたものが繊度約13000dtex、繊維数約13500f、高繊度連続炭素繊維(Pyrofil−TRH50−60M)を用いたものが繊度約65000dtex、繊維数約675000f、連続ガラス繊維を用いたものが繊度約15000dtex、繊維数約10000fであった。
連続熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維の体積比率は1:1であった。
また、連続強化繊維の割合は連続炭素繊維(Pyrofil−TR−50S−12000−AD)を用いた混繊糸が61質量%、高繊度連続炭素繊維(Pyrofil−TRH50−60M)を用いた混繊糸が61質量%、ガラス繊維を用いた混繊糸が69質量%であった。
【0081】
<材料の製造>
上記で得られた混繊糸の回巻体1本をクリールに設置し、1束を引き出し、以下の条件で超音波加振し、表面の熱可塑性樹脂繊維を溶融させて、材料を得た。
得られた材料の幅は8mm、長さは100mであった。
<<超音波加振条件>>
振動するホーンの押圧面により、支持体の支持面に対して押圧しながら、混繊糸を長手方向に走行させることにより、熱可塑性樹脂の表面付近を溶融させ、表1に示す表層(第一の領域または第二の領域)を形成した。具体的には、振動するホーンを一面に当てて一方の表層(第一の領域)を形成し、次いで、振動するホーンをその裏面に当てて他方の表層(第二の領域)を形成した。加圧力0.2MPa、周波数20kHz、出力2400kWとし、表1に示す表層(第一の領域または第二の領域)および繊維領域が存在するよう、走行速度を調整した。超音波機器はヒューチャー社製W3080を用いた。比較例1については、内部まで熱可塑性樹脂を溶融させ、比較例2については、超音波処理を施さなかった。
【0082】
<材料の昇温時結晶化エネルギー>
表層(第一の領域または第二の領域)の熱可塑性樹脂成分(熱可塑性樹脂と、必要によって配合される添加剤等を含む)を5mg、カミソリ(フェザー安全剃刀社製、フェザーハイ・ステンレス)で削り取り、示差走査熱量計(DSC:SII製、DSC6200)を用いて、窒素気流中、25℃から熱可塑性樹脂成分の融点+20℃まで昇温速度10℃/分で加熱し、検出した結晶化ピークから昇温時結晶化エネルギーを算出した。
繊維領域:超音波処理した混繊糸を半分に裂き、中央部の熱可塑性樹脂繊維を5mg採取し、熱可塑性樹脂繊維の融点+20℃まで昇温速度10℃/分で加熱し、同様に、検出した結晶化ピークから昇温時結晶化エネルギーを算出した。
単位は、J/gで示した。
【0083】
<材料の断面の観察>
測定試料(材料)を切り取ってエポキシ樹脂で包埋し、前記包埋した測定試料の長手方向に垂直な断面を研磨し、断面図を超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9500(コントローラー部)/VK−9510(測定部)(キーエンス社製)を使用して撮影した。
以下の通り評価した。
A:表面は熱可塑性樹脂繊維が溶融し、層状またはフィルム状領域を形成しており、内部は熱可塑性樹脂繊維が溶融せず、熱可塑性樹脂繊維の大半が繊維状の状態を保っていた。
B:表層と内部の境界が認められなかった。
【0084】
<材料の表層、内部および材料の厚み>
材料のうち、上記Aの状態のものについて、材料の任意の5点を選択し、その平均値を材料の総厚みとした。次いで、前記任意の5点において、厚み方向において、全熱可塑性樹脂中の溶融し層状またはフィルム状領域を形成している熱可塑性樹脂の割合が90面積%以上の領域を表層(第一の領域または第二の領域)とし、その厚みの平均を表層(第一の領域、第二の領域)の厚さとした。材料の総厚みから、表層(第一の領域および第二の領域)の厚さを引いた値を、繊維領域の厚みとした。
厚みの測定は、上記断面観察で得た画像から解析した。
【0085】
<理論最大密度に対する繊維領域の密度比>
材料の幅と、繊維領域の厚みから密度を算出し、次式から繊維領域の密度比を算出した。
繊維領域の密度比 = (繊維領域の密度)/(理論密度)
【0086】
<変形抵抗荷重(しなやかさ)>
テキスタイル作製時に必要なしなやかさを表す指標である変形抵抗荷重を測定した。
図5に示す通り、回巻体51から得た材料52を巻きだし、ガイドロール53を経て、材料52の進行方向を90℃変化させた後、
図5に示す寸法の円筒状の通路を有する絞り治具54(クオドラント社製、MCナイロンを加工して作製)を通し、末端を荷重計55に固定した。荷重計55を上に引き上げる際にかかる荷重を変形抵抗荷重値として測定した。変形抵抗荷重の測定は、東洋精機社製、ストログラフEIIを用い、引き上げ速度は300mm/分とした。
図5(a)と(b)は実施例における変形抵抗荷重を測定する装置の概略図であって、(a)は断面図であり、(b)は斜視図である。
【0087】
<熱収縮率>
図6に示す治具を用い、熱収縮率を測定した。両端の固定具61は動かず、その間にある固定具62は抵抗なくスライドする。固定具62に得られた材料63を標点間距離(L)300mmで貼り付け、熱可塑性樹脂繊維の融点+5℃の温度のドライオーブン中に1分間静置した。その後の標点間距離(L')を計測し次式にて熱収縮率を測定した。
熱収縮率=(L−L')/L×100(%)
【0088】
<複合材料の製造(保形性)>
表1に示す「保形用熱可塑性樹脂繊維」の欄に記載の熱可塑性樹脂を用い、上記<連続熱可塑性樹脂繊維の製造>と同様にして、保形用熱可塑性樹脂繊維を製造した。上記で得られた材料を、上記で製造した保形用ポリアミド66フィルムの上に、
図7に示すように配列し、保形用熱可塑性樹脂繊維72を2本撚りにして、混繊糸を保形用ポリアミド66フィルムの上にステッチングするようにして、保形し、複合材料を得た。
図7中、71は本発明の材料を、72は保形用熱可塑性樹脂繊維を示している。
A:急なカーブとなっている部分を含め、適切に保形ができていた。
B:材料の一部が破断する等、適切に保形ができなかった。
【0089】
<光成形による複合材料の成形(成形性)>
上記で得られ複合材料を、シリコーンゴム型に設置し、ゴム型内を真空引きし、赤外線をゴム型の外部から照射して、熱可塑性樹脂を290℃まで加熱した。赤外線照射を停止し、冷却した。真空引きを停止し、ゴム型から脱型し、成形品を得た。以下の通り評価した。
A:良好な成形品が得られた。
B:成形中に収縮変形する等、良好な成形品が得られなかった。
C:複合材料が適切に成形できず、光成形が行えなかった。
【0090】
実施例2〜6および実施例8ならびに比較例1および2
実施例1において、下記表1に示す通り変更し、他は同様に行った。
【0091】
実施例7
実施例1において、表に示す通り変更し、材料を得た。得られた材料2枚の第一の領域側の表層同士が重なる箇所について、1cmの幅の部分(各材料の幅の9%に相当)について、それぞれ、レーザーで加熱して、加熱した部分を部分的に溶着した。加熱温度は、250℃、溶着部分の厚さは、30μmであった。
【0092】
【表1】
【0093】
上記結果から明らかなとおり、本発明の材料を用いた場合(実施例1〜6、8)あるいは本発明の一部溶着材料を用いた場合(実施例7)、しなやかで熱収縮率の小さい材料が得られた。さらに、前記材料を保形した複合材料は、良好な成形品が得られた。特に、本発明の材料および一部溶着材料は、しなやかで熱収縮率が小さいため、複雑で細かい形状の成形品を製造する際に好適であることが分かった。
一方、内部の熱可塑性樹脂繊維の昇温時結晶化エネルギーが大きい場合(比較例1)、表層と内部が区別された材料とならず、しなやかさにかける材料となった。そのため、屈曲部で破断しやすく、保形が困難であった。また、表層の熱可塑性樹脂成分の昇温時結晶化エネルギーが小さい場合(比較例2)、寸法変化を抑制できず熱収縮率が大きかった。また、集束せず毛羽立ちが多く、保形が困難であった。
【課題】しなやかさを維持しつつ、かつ、熱収縮率が小さい新規な材料ならびに、前記材料の製造方法、前記材料を用いた部分溶着材料、複合材料および成形品の製造方法の提供。
【解決手段】厚み方向に連続して、第一の領域1、繊維領域2、第二の領域3を有し、前記第一の領域および前記第二の領域は、それぞれ独立に、20〜100質量%の熱可塑性樹脂成分と、80〜0質量%の強化繊維とから構成される樹脂層であり、前記繊維領域は、20〜100質量%の熱可塑性樹脂繊維と、80〜0質量%の強化繊維とから構成され、前記第一の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分および前記第二の領域に含まれる熱可塑性樹脂成分は、それぞれ独立に、示差走査熱量測定法により測定される昇温時結晶化エネルギーが、2J/g以上であり、前記繊維領域に含まれる熱可塑性樹脂繊維は、示差走査熱量測定法により測定される昇温時結晶化エネルギーが、1J/g未満である、材料。