特許第6390063号(P6390063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キョーラク株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390063
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】衝撃吸収体
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/02 20060101AFI20180910BHJP
【FI】
   B60R21/02
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-539068(P2015-539068)
(86)(22)【出願日】2014年9月5日
(86)【国際出願番号】JP2014073536
(87)【国際公開番号】WO2015045807
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2017年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-200388(P2013-200388)
(32)【優先日】2013年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100186679
【弁理士】
【氏名又は名称】矢田 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100189186
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】玉田 輝雄
【審査官】 野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−107027(JP,A)
【文献】 特開2003−048501(JP,A)
【文献】 特開2012−076570(JP,A)
【文献】 特開2002−187508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R21/04
B60R21/02
F16F 7/00
B60R19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両パネルとトリムの間に配置される衝撃吸収体であって、
前記トリム側に第1壁を、前記車両パネル側に前記第1壁と対向する第2壁を有し、前記第1壁から第2壁までの総厚の異なる第1部位と第2部位とをもって形成され、前記第1部位が前記第2部位よりも大きな総厚を有する中空の本体と、
前記本体の前記第2部位に形成され、前記第1壁および前記第2壁からそれぞれ互いに近接する方向へ窪ませた先端を互いに接合させた少なくとも1つの第1凹状リブと、
前記本体の前記第1部位に形成され、前記第2壁のみを窪ませて形成された先端部が前記第1壁に接合されない少なくとも1つの溝状の凹陥部と、
を備え
前記中空の本体は前記第1部位と前記第2部位との境界に段差部を有し、
前記凹陥部は前記段差部まで延びているとともに、前記凹陥部の深さが前記段差部の段差よりも浅いことを特徴とする衝撃吸収体。
【請求項2】
前記凹陥部が3mm以上の深さを有する請求項1に記載の衝撃吸収体。
【請求項3】
前記凹陥部が前記第1部位の総厚の25%以下の深さを有する請求項1に記載の衝撃吸収体。
【請求項4】
前記凹陥部がその中央部分からそれぞれの両端に向かうにつれ大きくなっている深さを有する請求項1に記載の衝撃吸収体。
【請求項5】
前記少なくとも1つの凹陥部が複数の凹陥部から構成され、第1の凹陥部が他の凹陥部と交差して配置されている請求項1に記載の衝撃吸収体。
【請求項6】
さらに、前記第1部位と前記第2部位との境界部に形成され、前記第1壁および前記第2壁からそれぞれ互いに近接する方向へ窪ませた先端を互いに接合させた第2凹状リブを備える請求項1に記載の衝撃吸収体。
【請求項7】
前記凹陥部がその一端において前記第2凹状リブに接続されている請求項6に記載の衝撃吸収体。
【請求項8】
さらに、前記第1部位の前記第2部位と隣接しない外周部に形成され、前記第1壁および前記第2壁からそれぞれ互いに近接する方向へ窪ませた先端を互いに接合させた半円状の第3凹状リブを備える請求項1に記載の衝撃吸収体。
【請求項9】
前記凹陥部がその一端において前記第3凹状リブに接続されている請求項8に記載の衝撃吸収体。
【請求項10】
前記少なくとも1つの第1凹状リブが複数の第1凹状リブから構成され、前記第1凹状リブ同士を接続する連結リブを備える請求項1に記載の衝撃吸収体。
【請求項11】
前記連結リブは前記第2壁を窪ませて形成されている請求項10に記載の衝撃吸収体。
【請求項12】
前記第1壁を窪ませて形成された別の溝状の凹陥部を更に備え、
前記第1壁からの平面視において、前記別の溝状の凹陥部が前記第2壁に形成された前記溝状の凹陥部と位置を変えるように配置されている請求項1に記載の衝撃吸収体
【請求項13】
前記別の溝状の凹陥部がその中央部分からそれぞれの両端に向かうにつれ大きくなっている深さを有する請求項12に記載の衝撃吸収体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衝撃吸収体に係り、特に、車両パネルとトリムの間に配置され、衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
このような衝撃吸収体として、たとえば特許文献1に記載のように、熱可塑性樹脂をブロー成形した中空壁構造の衝撃吸収体が知られている。
【0003】
特許文献1に記載される衝撃吸収体は、搭乗者のたとえば腰部を保護するものであり、搭乗者の恥骨に対応する第1の部位と、搭乗者の腸骨に対応する第2の部位と、を有し、第1の部位は、衝撃吸収体が衝撃を受け付けた際に発生する応力が所定の値以下となり、第2の部位は、衝撃吸収体が衝撃を受け付けた際に発生する応力が所定の値以上となるようにしたものである。
【0004】
具体的な一例として、衝撃吸収体の第1の部位は、その衝撃方向の総厚を大きくし、第2の部位は、その衝撃方向の総厚を小さくするとともに、衝撃方向に対向する各壁からそれぞれ互いに近接する方向へ窪ませた先端を互いに接合させた凹状リブを形成した旨の記載がある。この場合、衝撃吸収体は、搭乗者から受けた荷重によって該凹状リブの圧縮変形を伴った変形ができるので、該凹状リブの形成は、衝撃吸収体の搭乗者に対して発生する応力が適度に調整できるようになっている。
【0005】
しかし、上述した構成の衝撃吸収体は、第1の部位に凹状リブが形成されておらず、第2の部位に凹状リブが形成されたものである。このため、第1の部位が比較的大きな面積を有する場合、該凹状リブが形成されていないことによって、衝撃吸収体として充分に機能しなくなるという不都合を見出した。
【0006】
すなわち、衝撃吸収体は、車両の外部から受けた衝撃(第1の部位に受ける)によって搭乗者側に移動し、該搭乗者にトリムを介して衝突する際に、該衝撃吸収体の変形に伴うエネルギーの消費によって搭乗者への衝撃緩和がなされる。しかし、車両の外部からの衝突により、衝撃吸収体が押され、搭乗者側へ移動する際に、衝撃吸収体より車両の外部方向に位置する車両パネルに配置されるインパクトビーム、アウターパッドなどの各種部品との接触において、各種部品の形状により局部的な応力が衝撃吸収体の第1の部位に加わる場合、衝撃吸収体が搭乗者に衝突する前に第1の部位が既に潰れて(変形して)しまい、搭乗者への衝撃緩和の機能を発揮し得なくなることが判明した。
【0007】
この場合、衝撃吸収体の第2の部位にも凹状リブを形成することが考えられるが、衝撃吸収体が衝撃を受け付けた際に発生する応力が所定の値以上となってしまい、たとえば、搭乗者の弱い部分(恥骨等)を保護できなくなってしまうという不具合が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−76569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、衝撃方向に異なる総厚を有する衝撃吸収体であって、搭乗者への衝突の前に潰れてしまうことなく、搭乗者に対して発生する応力が適度に調整された衝撃吸収体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成によって把握される。
(1)本発明の衝撃吸収体は、車両パネルとトリムの間に配置される衝撃吸収体であって、トリム側に第1壁を、車両パネル側に第1壁と対向する第2壁を有し、第1壁から第2壁までの総厚の異なる第1部位と第2部位とをもって形成され、第1部位が第2部位よりも大きな総厚を有する中空の本体と、本体の第2部位に形成され、第1壁および第2壁からそれぞれ互いに近接する方向へ窪ませた先端を互いに接合させた少なくとも1つの第1凹状リブと、本体の第1部位に形成され、第2壁を窪ませて形成された溝状の少なくとも1つの凹陥部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
(2)上記(1)の構成において、凹陥部は、3mm以上の深さを有することができる。
【0012】
(3)上記(1)の構成において、凹陥部は、第1部位の総厚の25%以下の深さを有することができる。
【0013】
(4)上記(1)の構成において、凹陥部は、その中央部分からそれぞれの両端に向かうにつれ大きくなっている深さを有することができる。
【0014】
(5)上記(1)の構成において、少なくとも1つの凹陥部は、複数の凹陥部から構成され、第1の凹陥部は、他の凹陥部と交差して配置されていることができる。
【0015】
(6)上記(1)の構成において、さらに、第1部位と第2部位との境界部に形成され、第1壁および第2壁からそれぞれ互いに近接する方向へ窪ませた先端を互いに接合させた第2凹状リブを備えることができる。
【0016】
(7)上記(6)の構成において、凹陥部は、その一端において第2凹状リブに接続されていることができる。
【0017】
(8)上記(1)の構成において、さらに、第1部位の第2部位と隣接しない外周部に形成され、第1壁および第2壁からそれぞれ互いに近接する方向へ窪ませた先端を互いに接合させた半円状の第3凹状リブを備えることができる。
【0018】
(9)上記(8)の構成において、凹陥部は、その一端において第3凹状リブに接続されていることができる。
【発明の効果】
【0019】
このように構成された衝撃吸収体は、衝撃方向に異なる総厚を有する衝撃吸収体であって、搭乗者への衝突の前に潰れてしまうことなく、搭乗者に対して発生する応力が適度に調整されたものを得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の衝撃吸収体の第1実施形態を示す構成図である。図1Aは斜視図、図1Bは平面図、図1C図1AのIc−Ic線における断面図である。
図2図1AのII−II線における断面図である。
図3図1AのIII−III線における断面図である。
図4】他の実施例を示す図で、図1Cに対応した図である。
図5】本発明による衝撃吸収体の変位量(mm)と荷重値(kN)との関係を示すグラフで、衝撃吸収体の肉厚が1.5mmの場合である。
図6】本発明による衝撃吸収体の変位量(mm)と荷重値(kN)との関係を示すグラフで、衝撃吸収体の肉厚が1.65mmの場合である。
図7】本発明による衝撃吸収体の変位量(mm)と荷重値(kN)との関係を示すグラフで、衝撃吸収体の肉厚が1.85mmの場合である。
図8図8Aは本発明の衝撃吸収体の第2実施形態を示す構成図、図8B図8Aのa−a線における断面図である。
図9図9Aは本発明の衝撃吸収体の第3実施形態を示す構成図、図9B図9Aのb−b線における断面図である。
図10】本発明の衝撃吸収体の使用の態様について説明する説明図である。図10Aは側面図、図10B図10AのIb−Ib線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。また、ここでは、車両パネルとしてドアパネルを、トリムとしてドアトリムを用いて実施形態を説明しているが、ドアパネル及びドアトリム以外の部位に係る車両パネル及びトリムにも適用できることは、当業者にとって明らかであることに留意する。
【0022】
(第1実施形態)
図1Aは、本発明の衝撃吸収体の第1実施形態を示す斜視図、図1Bは平面図、図1C図1AのIc−Ic線における断面図である。
【0023】
ここで、本発明の衝撃吸収体の構成の説明に先立ち、図10を用いて、該衝撃吸収体の使用の態様について説明する。図10A図10Bは、車両のシートの座部1にダミー人形である搭乗者Pが着座した状態を示している。図10Aは側面図を、図10B図10AのIb−Ib線における断面図である。図10Bに示すように、座部1の側方には、車室の側部を区画するドアトリム2が配置されている。ドアトリム2は、車両の前後方向(図中α方向)に延在して配置されている。また、ドアトリム2に対して車両の外側にはドアパネル(ドアアウタパネル)3が該ドアトリム2とほぼ平行に配置されている。本発明の衝撃吸収体100は、搭乗者Pの腰部に隣接して、ドアトリム2とドアパネル3の間に搭載され、ドアトリム2を介して搭乗者Pの腰部に対向する位置に配置されている。
【0024】
ここで、該衝撃吸収体100が仮に配置されていない場合を想定し、たとえば、車両のドアパネル3側(図中β方向)から別の車両が衝突するような場合に、搭乗者Pの腰の部分に受ける衝撃について説明する。
【0025】
すなわち、車両のドアパネル3側から別の車両が衝突した場合、ドアトリム2が搭乗者Pに向かって近づくように膨出し、搭乗者Pの腰部4は、ドアトリム2に当接するようになる。搭乗者Pの腰部4がドアトリム2と真横から当接した場合、ドアトリム2から搭乗者Pの腰部4に加わる荷重は、その腰部4の骨格において特徴的な偏りのある分布を示すようになる。特に、腰部4に加わる初期荷重は、骨盤の前方(恥骨4A)側にダイレクトに集中する傾向がみられるようになる。脆弱な恥骨4Aに荷重が集中すると、その恥骨4Aに対して影響を及ぼすことになる。たとえば、ある所定の荷重を骨盤に加えた場合に、骨盤の前部(恥骨4A)側及び後部(腸骨4B)側に加わる荷重がほぼ同じであるにも拘わらず、骨盤の前部(恥骨4A)における応力は、後部(腸骨4B)における応力よりも大きくなる。
【0026】
それ故、骨盤の恥骨4A側にかかる荷重を骨盤の腸骨4B側にかかる荷重よりも小さくするには、衝撃吸収体100の骨盤の恥骨4Aに対応する部位において発生する応力を腸骨4Bに対応する部位において発生する応力よりも小さくする必要がある。このため、図10に示すように、ドアトリム2とドアパネル3の間に配置される衝撃吸収体100は、搭乗者Pの恥骨4Aに対応する第1部位100Aにおいて、衝撃吸収体100が衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値(たとえば、100cm2当たり2.5kN)以下となるように構成し、搭乗者Pの腸骨4Bに対応する第2部位100Bにおいて、衝撃吸収体100が衝撃を受け付けた時に発生する応力が所定の値(たとえば、100cm2当たり7.0kN)以上となるように構成するようにしている。
【0027】
衝撃吸収体100は、大略、ドアトリム2側に第1壁W1を、ドアパネル3側に第2壁W2を有する樹脂材の中空の本体からなり、略平坦な第1壁W1に対して、第2壁W2は、第1部位100Aの総厚(各壁W1、W2の垂直方向の)が大きく、第2部位100Bの各壁W1、W2方向の総厚(各壁W1、W2の垂直方向の)が小さくなるようになっている。このため、衝撃吸収体100は、第1部位100Aと第2部位100Bとの境界に段差部10を有するようになっている。
【0028】
次に、このような構成からなる衝撃吸収体100を、図1A図1B図1Cを用いて、さらに詳細に説明する。衝撃吸収体100は、上述したように、樹脂材の中空の本体からなる。樹脂材としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタート等のポリエステル系樹脂、ポリアミドおよびこれらの混合物など、剛性の機械的強度の大きい樹脂が用いられる。
【0029】
図1Aに示すように、衝撃吸収体100は、第2壁W2側において、段差部10を境にして一方の領域が第1部位100Aとなっており、他方の領域が第2部位100Bとなっている。これにより、第1部位100Aは、第1壁W1から第2壁W2までの総厚(図1C中、Tで示す)が大きく、第2部位100Bは、第1壁W1から第2壁W2までの総厚(図1C中、tで示す)が小さくなっている。
【0030】
第2部位100Bには、複数(図1では3個)の凹状リブ(この明細書において、第1凹状リブと称する場合がある)20が形成されている。この第1凹状リブ20は、図1AのII−II線の断面図である図2に示すように、第1壁W1および第2壁W2の一部をそれぞれ互いに近接する方向へ窪ませ、これにより形成される各円錐筒状部21、22の先端を互いに接合させた接合部23を有して構成されている。第2部位100Bに、このような第1凹状リブ20を複数散在させるようにして形成することにより、衝撃吸収体100の搭乗者Pに対して発生する応力を適度に調整することができるようになっている。
【0031】
なお、第1凹状リブ20は、図2に示すように、その各円錐筒状部21、22において、第1壁W1または第2壁W2の開口端から中空部方向に縮径しており、その縮径角γは、たとえば3°〜30°であり、開口端の直径Aは、たとえば10〜40mmとなっている。第1凹状リブ20は、図1A図1Bに示すように、開口端の形状を円形状としたものであるが、これに限定されることはない。たとえば、長円形状で作成するようにしてもよい。
【0032】
また、第1凹状リブ20は、隣接するたとえば一つの第1凹状リブ20と接続するようにして連結リブ25が形成されている。この連結リブ25は、図1A図1B図1Cに示すように、第2壁W2を窪ませて形成された溝状の凹陥部によって構成されている。この連結リブ25は、衝撃吸収体100の圧縮変形時に、第1凹状リブ20の姿勢(中心軸の方向)を一定に保たせる機能をもたせ、第1凹状リブ20の適正な圧縮変形を実現させるために設けられている。
【0033】
なお、第2部位100Bの周辺(第1部位100Aとの境界部を除く)の一部には、半円状の凹状リブ26が形成されている。半円状の凹状リブ26は、第1壁W1および第2壁W2からそれぞれ互いに近接する方向へ窪ませ、これにより形成される各円錐筒状部27、28の先端を互いに接合させた接合部29を有して構成されている。半円状の凹状リブ26は、他の第1凹状リブ20と同様の機能を有し、隣接する他の第1凹状リブ20との間に連結リブ25’が形成されている。
【0034】
半円状の凹状リブ26の接合部29は、螺子挿入孔30を有する衝撃吸収体100の取り付け部31を構成するようになっている。なお、衝撃吸収体100の取り付け部は、上述の取付け部31の他に、図1Bに示すように、衝撃吸収体100の側面において、該側面から突出させ、螺子挿入孔30を有する取付け部がたとえば2個(図中、符号31’、31’’で示す)設けられている。
【0035】
第1部位100Aには、この第1実施形態においては、上述した第1凹状リブ20、26は形成されていないものとなっている。第1部位100Aは、搭乗者Pの比較的弱い部分(恥骨4A)を保護し、衝撃吸収体100が衝撃を受け付けた際に発生する応力が所定の値以上とならないようにするためである。しかし、第1部位100Aの第2壁W2には、たとえば、第1部位100Aの領域を横切るようにして一つの溝状の凹陥部40が形成されている。図3は、図1AのIII−III線における断面図で、溝状の凹陥部40は、たとえば、その断面が半円形の円弧状をなして形成されている。この溝状の凹陥部40は、その両端のそれぞれが第2壁W2の段差部となる側壁面(対向する各側壁面)と交差するようにして形成されている。
【0036】
このように形成された溝状の凹陥部40は、それが形成されていない場合において、搭乗者Pへの衝撃緩和の機能を発揮し得なくなってしまうのを回避するために設けられている。すなわち、衝撃吸収体100は、車両の外部から受けた衝撃(第1部位100Aにおいて)によって搭乗者P側に移動し、該搭乗者Pにドアトリム2(図10B参照)を介して衝突する際に、該衝撃吸収体100の変形に伴うエネルギーの消費がなされることによって搭乗者Pへの衝撃緩和がなされる。しかし、この場合、衝撃吸収体100が、車両の外部から受けた衝撃で第1部位100Aが既に潰れて(変形して)しまう現象が生じ、その後において、衝撃吸収体100の変形に伴うエネルギーの消費がなされず、搭乗者Pへの衝撃緩和の機能を発揮し得なくなってしまうのを、該凹陥部40によって回避できるようにしている。すなわち、凹陥部40は、第1部位100Aが潰れて(変形して)しまうのを回避する適度な補強部として機能するようになっている。
【0037】
ここで、凹陥部40は、3mm以上30mm以下の深さを有するように形成することが好ましい。また、凹陥部40は、第1部位100Aの総厚Tの1%以上25%以下(好ましくは5%以上20%以下)の深さを有するように形成することが好ましい。このように、凹陥部40の深さを3mm以上とするのは、該凹陥部40の上述した機能を充分に発揮させるためであり、凹陥部40の深さを第1部位100Aの総厚Tの25%以下とするのは、凹陥部40の深さを、それ以上とした場合に、衝撃吸収体100の衝撃時において凹陥部40の先端が第1壁W1に即時に当接して、荷重が大きくなってしまうのを回避させるためである。換言すれば、凹陥部40の深さを第1部位100Aの総厚Tの25%以下とした場合に、該凹陥部40は荷重の上昇にほとんど寄与しないようにすることができる。
【0038】
また、溝状の凹陥部40は、図1Cに対応づけて描いた図4に示すように、そのほぼ中央からそれぞれの両端に向かうにつれ深さdが大きくなるように形成するようにしてもよい。このようにした場合、第1部位100Aの表面の全域の剛性を向上させる効果を奏することができるようになる。
【0039】
なお、凹陥部40を、図1A図1B図1Cに示すように、第1部位100Aを横切るように形成することによって、第1部位100Aに発生する応力は、該凹陥部40を通して衝撃吸収体100の側面に伝達されるので、該凹陥部40が第1部位100Aを横切るように形成されていない場合と比較して、第1部位100Aの潰れ(変形)を防止できる効果を奏する。
【0040】
このようなことから、溝状の凹陥部40は、第2部位100Bに形成される連結リブ25、25’と類似の構成となっているが、第1凹状リブ20の姿勢をほぼ一定にする連結リブ25、25’と機能が異なり、該連結リブ25、25’と区別されるものとなっている。
【0041】
このように構成した衝撃吸収体100によれば、車両の外部から初期段階の衝撃を受けても、衝撃吸収体100の第1部位100Aは、凹陥部40によって、潰れて(変形して)しまうことを回避できるようになる。このため、衝撃吸収体100は、該衝撃によって搭乗者P側に移動し、該搭乗者Pにドアトリム2(図10B参照)を介して衝突する際に、該衝撃吸収体100の変形に伴うエネルギーの消費がなされ、搭乗者Pへの衝撃緩和がなされる。このため、搭乗者Pに対して発生する応力が適度に調整された衝撃吸収体100を得ることができる。
【0042】
図5ないし図7は、それぞれ、本発明による衝撃吸収体の変位量(mm)と荷重値(kN)との関係を示すグラフである。図5は、衝撃吸収体の肉厚を1.5mm、図6は、衝撃吸収体の肉厚を1.65mm、図7は、衝撃吸収体の肉厚を1.85mmとした場合を示している。図5ないし図7において、それぞれ、曲線Aは、第1部位100Aに凹陥部40を有する本発明の衝撃吸収体100の特性曲線を示し、曲線Bは、第1部位100Aに凹陥部40を形成していない衝撃吸収体の特性曲線を示している。図5ないし図7において、それぞれ、曲線Aは、曲線Bと比較して、初期段階(20kN付近)で荷重が加わっても、変形量が小さくなっており、衝撃吸収体100の第1部位100Aに潰れが生じていないことが判る。また、その後において、緩慢な衝撃吸収性が得られていることが判る。
【0043】
(第2実施形態)
第2実施形態では、衝撃吸収体100の第1部位100Aに形成する溝状の凹陥部40は、一つのみの形成としたものである。しかし、これに限定されることなく、凹陥部40は、複数形成するようにしてもよい。たとえば、図1Bに対応づけて描いた図8Aに示すように、凹陥部40は4個設けられ、平行に配置された2個の凹陥部40同士を互いに交差するように配置されるようにしてもよい。しかし、凹陥部40の配置は、これに限定されることはなく、少なくとも一つの溝状の凹陥部40が、他の溝状の凹陥部40と交差して配置されるようになっていればよい。
【0044】
なお、図8Aにおいては、第1部位100Aと第2部位100Bの境界部(段差部10)に、その境界線に沿ってたとえば2個の長円形の凹状リブ(この明細書において、第2凹状リブと称する場合がある)45が形成され、一方の第2凹状リブ45には、2個の溝状の凹陥部40の一端が連結され、他方の第2凹状リブ45には、他の2個の溝状の凹陥部40の一端が連結されている。第1部位100Aと第2部位100Bの境界部に形成された第2凹状リブ45は、衝撃時において、第1部位100Aと第2部位100Bの段差部10の変形を防止できる効果を奏するようになる。また、各溝状の凹陥部40の一端を第2凹状リブ45に連結させることで、第1部位100Aの表面の全域の剛性を向上させる効果を奏することができるようになる。
【0045】
また、溝状の凹陥部40は、図4に示したように、そのほぼ中央からそれぞれの両端に向かうにつれ深さdが大きくなるように形成するようにしてもよい。このようにした場合でも、第1部位100Aの表面の全域の剛性を向上させる効果を奏することができるようになる。
【0046】
なお、図8B図8Aのa−a線における断面図を示している。第2凹状リブ45は、第1壁W1および第2壁W2からそれぞれ互いに近接する方向へ窪ませ、断面視において、これにより形成される各円錐筒状体52、53の先端を互いに接合させた接合部54を有して構成されている。このような第2凹状リブ45は、1個に限らず複数個形成されていてもよい。
【0047】
(第3実施形態)
上述した実施形態では、第1部位100Aの外周部(第2部位100Bとの境界部でない部分)に半円状の凹状リブを形成していない構成としているが、図1Bに対応づけて描いた図9Aに示すように、第1部位100Aの外周部に半円状の凹状リブ(この明細書において第3凹状リブと称する場合がある)50を形成するようにしてもよく、また、この場合において、第3凹状リブ50に溝状の凹陥部40の他端を連結させるようにしてもよいことはもちろんである。
【0048】
なお、図9B図9Aのb−b線における断面図を示している。第3凹状リブ50は、第1壁W1および第2壁W2からそれぞれ互いに近接する方向へ窪ませ、これにより形成される各円錐筒状体52、53の先端を互いに接合させた接合部54を有して構成されている。このような第3凹状リブ50は、1個に限らず複数個形成されていてもよい。
【0049】
(第4実施形態)
上述した実施形態では、いずれも、第1部位100Aに形成する溝状の凹陥部40は、第2壁W2側に形成されるようにしたものである。しかし、これに限定されることはなく、第1壁W1にも形成するようにしてもよい。この場合、第1壁W1に形成する凹陥部は、該第1壁W1からの平面視において、第2壁W2に形成される凹陥部40と位置を変える配置にして形成することが好ましい。
【0050】
(第5実施形態)
上述した実施形態では、いずれも、図10に示したように、ドアパネル(ドアアウタパネル)3とドアトリム2との間に配置させ、搭乗者Pの腰部の保護を図る衝撃吸収体100について説明したものである。しかし、これに限定されることはなく、搭乗者Pの他の部分を保護する衝撃吸収体においても本発明が適用できることはいうまでもない。そして、この場合においても、衝撃吸収体は、車両パネルとトリムとの間に配置されるようになる。
【0051】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0052】
P…搭乗者、1…座部、2…ドアトリム(トリム)、3…ドアパネル(車両パネル)、4…腰部、4A…恥骨、4B…腸骨、10…段差部、20…第1凹状リブ、21,22…円錐筒状部、23…接合部、25…連結リブ、26…半円形の凹状リブ、27,28…円錐筒状部、29…接合部、30…螺子挿入孔、31…取付け部、40…溝状の凹陥部、45…第2凹状リブ、50…第3凹状リブ、52,53…円錐筒状体、54…接合部、100…衝撃吸収体、100A…第1部位、100B…第2部位、W1…第1壁、W2…第2壁
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B