特許第6390084号(P6390084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6390084ハイブリッドシステム、ハイブリッド車両、及びハイブリッドシステムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390084
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】ハイブリッドシステム、ハイブリッド車両、及びハイブリッドシステムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20180910BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20180910BHJP
   B60W 20/10 20160101ALI20180910BHJP
   B60K 6/24 20071001ALI20180910BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20180910BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   B60W10/08 900
   B60W10/06 900
   B60W20/10
   B60K6/24ZHV
   F02D45/00 364E
   F02D45/00 368F
   F02D45/00 364N
   B60L11/14
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-196207(P2013-196207)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-58924(P2015-58924A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】稲村 晃浩
【審査官】 神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−092456(JP,A)
【文献】 特開2005−330835(JP,A)
【文献】 特開2001−355477(JP,A)
【文献】 特開2005−240580(JP,A)
【文献】 特開平10−329585(JP,A)
【文献】 特開2004−1761(JP,A)
【文献】 特開2012−107601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00〜20/50
B60K 6/20〜 6/547
B60L 11/02〜11/14
F02D 43/00〜45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボ式過給器を備えた内燃機関と電動発電機の両方を搭載したハイブリッドシステムにおいて、
前記内燃機関側の制御で、過渡期に、操作されたアクセルのアクセル開度に基づいて最終目標トルク量を算出するとともに、前記内燃機関に大きな負担が生じないトルク増加量を設定しておき、該トルク増加量に基づいて、前記最終目標トルク量に到達する状態に最も早く移行可能な移行時間を算出し、該移行時間で前記最終目標トルク量に到達するように、
前記最終目標トルク量に到達するまでの各時点における目標過給圧と測定過給圧との差である過給圧差に基づいて、又は、前記最終目標トルク量に到達するまでの各時点における目標空気過剰率と測定空気過剰率との差である空気過剰率差に基づいて、前記電動発電機で発生するアシストトルク量を算出し、前記最終目標トルク量に到達するまでの各時点における前記アシストトルク量を前記内燃機関のクランク軸に付与する制御を行うハイブリッドシステム用制御装置を備えたことを特徴とするハイブリッドシステム。
【請求項2】
前記ハイブリッドシステム用制御装置が、前記アシストトルク量を前記過給圧差又は前記空気過剰率差の変化に応じて連続的に変化させると共に、
前記過給圧差又は前記空気過剰率差が大きいときには前記アシストトルク量を増加し、前記過給圧差又は前記空気過剰率差が小さくなってきたときには前記アシストトルク量を減少する制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドシステム。
【請求項3】
請求項1又は2のハイブリッドシステムを搭載したことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項4】
ターボ式過給器を備えた内燃機関と電動発電機の両方を搭載したハイブリッドシステムの制御方法において、
過渡期に、操作されたアクセルのアクセル開度に基づいて最終目標トルク量を算出するとともに、前記内燃機関に大きな負担が生じないトルク増加量を設定しておき、該トルク増加量に基づいて、前記最終目標トルク量に到達する状態に最も早く移行可能な移行時間を算出し、該移行時間で前記最終目標トルク量に到達するように、
前記最終目標トルク量に到達するまでの各時点における目標過給圧と測定過給圧との差である過給圧差に基づいて、又は、前記最終目標トルク量に到達するまでの各時点における目標空気過剰率と測定空気過剰率との差である空気過剰率差に基づいて、
前記電動発電機で発生するアシストトルク量を算出し、前記最終目標トルク量に到達するまでの各時点における前記アシストトルク量を前記内燃機関のクランク軸に付与することを特徴とするハイブリッドシステムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ式過給器を備えた内燃機関と電動発電機の両方を搭載し、過渡期における燃焼効率の悪い領域の時間の減少と、電動発電機のアシストによる燃料消費量の低減の両方を図ることができる、ハイブリッドシステム、ハイブリッド車両、及びハイブリッドシステムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャ型の過給機を備えたエンジンと、エンジンの駆動力を補助するモータとを備えたハイブリッド車の出力制御装置において、目標過給圧算出手段がアクセル操作に応じて過給機15の目標過給圧を算出し、過給圧検出手段19が過給機15による実過給圧を検出し、モータトルク制御手段が目標過給圧と実過給圧との差に基づいてモータのトルクを制御するハイブリッド車の出力制御装置も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このハイブリッド車の出力制御装置では、アクセル操作に応じて、このアクセル操作で目指す最終の目標過給圧と実過給圧の差に基づいてモータのトルクを制御しており、アクセル操作に対応し始めから最終の目標過給圧に到達するまでの間、最終の目標過給圧と実過給圧の差によって、電動発電機のアシストによるトルク増加を行うので、アクセル操作に対応し始めから、直ぐに大きなトルク増加を行うことになり、円滑に内燃機関の運転状態を目標の運転状態に導くことができず、また、モータアシストで使用する電力も多くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-92456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のことを鑑みてなされたものであり、その目的は、過渡期における燃焼効率の悪い領域の時間の減少と、電動発電機のアシストによる燃料消費量の低減の両方を図ることができる、ターボ式過給器を備えた内燃機関と電動発電機の両方を搭載したハイブリッドシステム、ハイブリッド車両、及びハイブリッドシステムの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本発明のハイブリッドシステムは、ターボ式過給器を備えた内燃機関と電動発電機の両方を搭載したハイブリッドシステムにおいて、前記内燃機関側の制御で、過渡期に、操作されたアクセルのアクセル開度に基づいて最終目標トルク量を算出するとともに、前記内燃機関に大きな負担が生じないトルク増加量を設定しておき、該トルク増加量に基づいて、前記最終目標トルク量に到達する状態に最も早く移行可能な移行時間を算出し、該移行時間で前記最終目標トルク量に到達するように、前記最終目標トルク量に到達するまでの各時点における目標過給圧と測定過給圧との差である過給圧差に基づいて、又は、前記最終目標トルク量に到達するまでの各時点における目標空気過剰率と測定空気過剰率との差である空気過剰率差に基づいて、前記電動発電機で発生するアシストトルク量を算出し、前記最終目標トルク量に到達するまでの各時点における前記アシストトルク量を前記内燃機関のクランク軸に付与する制御を行うハイブリッドシステム用制御装置を備えて構成される。
【0007】
さらには、上記のハイブリッドシステムにおいて、前記ハイブリッドシステム用制御装置が、前記アシストトルク量を前記過給圧差又は前記空気過剰率差の変化に応じて連続的に変化させると共に、前記過給圧差又は前記空気過剰率差が大きいときには前記アシストトルク量を増加し、前記過給圧差又は前記空気過剰率差が小さくなってきたときには前記アシストトルク量を減少する制御を行うように構成される。
【0008】
そして、上記の目的を達成するための本発明のハイブリッド車両は、上記のハイブリッドシステムを搭載して構成される。
【0009】
そして、上記の目的を達成するためのハイブリッドシステムの制御方法は、ターボ式過給器を備えた内燃機関と電動発電機の両方を搭載したハイブリッドシステムの制御方法において、過渡期に、操作されたアクセルのアクセル開度に基づいて最終目標トルク量を算出するとともに、前記内燃機関に大きな負担が生じないトルク増加量を設定しておき、該トルク増加量に基づいて、前記最終目標トルク量に到達する状態に最も早く移行可能な移行時間を算出し、該移行時間で前記最終目標トルク量に到達するように、前記最終目標トルク量に到達するまでの各時点における目標過給圧と測定過給圧との差である過給圧差に基づいて、又は、前記最終目標トルク量に到達するまでの各時点における目標空気過剰率と測定空気過剰率との差である空気過剰率差に基づいて、前記電動発電機で発生するアシストトルク量を算出し、前記最終目標トルク量に到達するまでの各時点における前記アシストトルク量を前記内燃機関のクランク軸に付与することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のハイブリッドシステム、ハイブリッド車両、及びハイブリッドシステムの制御方法によれば、ハイブリッドシステムを搭載した車両の加速時などの内燃機関の過渡時において、ターボ式過給器のターボラグにより、過給圧の立ち上りが遅れている状況で電動発電機によるモータアシストを実施するので、内燃機関の回転数の上昇を早めることができ、過給圧の立ち上がりを急速にしてターボラグの時間を短縮して、燃焼効率の悪い領域での運転時間を減少することができるので、燃料消費量を減少できる。
【0011】
また、このターボラグが発生している期間においては、内燃機関で燃焼効率の悪い状態での運転によるトルク増加を避けて、電動発電機のアシストによるトルク増加を行うので、燃料消費量の減少と排ガス成分の悪化の抑制を図ることができる。
【0012】
更に、過渡期に増加させる最終目標トルク量と測定過給圧との差ではなく、この最終目標トルク量に到達するまでの各時点における目標過給圧と測定過給圧との差である過給圧差に基づいて、電動発電機のアシストによる内燃機関のクランク軸のトルク増加を行うので、円滑に内燃機関の運転状態を目標の運転状態に導くことができると共に、このモータアシストで使用する電力を節約できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態のハイブリッドシステム及びハイブリッド車両の構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態のハイブリッドシステムの制御方法の制御フローの一例を示す図である。
図3】本発明のハイブリッドシステムの制御方法を説明するためのエンジン回転数とトルクの関係を模式的に示す図である。
図4】本発明のハイブリッドシステムの制御方法を説明するためのトルクと過給圧の時系列を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施の形態のハイブリッドシステム、ハイブリッド車両、及びハイブリッドシステムの制御方法について説明する。この実施の形態のハイブリッドシステムは、エンジン(内燃機関)と電動発電機(M/G)を有するハイブリッドシステムである。なお、ここでは、このハイブリッドシステムはハイブリッド車両(HEV:以下車両とする)に搭載されるものとして説明するが、ハイブリッドシステム自体は、必ずしも、車両に搭載されるものに限定されない。
【0015】
図1に例示するように、このハイブリッドシステム2は、エンジン(ENG)11と排気通路12とターボ過給器13と、排気通路12に設けられた排気ガス浄化装置(後処理装置)14を備えている。
【0016】
このハイブリッドシステム2は、図1に例示する構成では、エンジン11のクランク軸15に直結して設けたCVT(無段変速機構:レシオ可変機構)16に電動発電機21を連結している。このCVT16は、クランク軸15側の第1プーリー(第1動力伝達部)16aと電動発電機21側の第2プーリー(第2動力伝達部)16bとの間に、無端状のベルト又はチェーンなどで形成される動力伝達部材16cを掛け回しており、これらを介してクランク軸15と電動発電機21との間の動力伝達を行っている。
【0017】
また、このCVT16では、第1プーリー16aと第2プーリー16bの幅を変化させることにより、プーリー16a、16bと動力伝達部材16cの接する径方向位置を変えて、この径方向位置を内側することで有効直径を小さくし、逆に外側にすることで有効直径を大きくしている。この2個のプーリー16a、16bの幅の拡縮が互いに逆になるように、電子制御による油圧又は電動機構(図示しない)を用いて変化させることにより、動力伝達部材16cをたるませることなく、変速を連続的に行っている。
【0018】
そして、電力システム20の一部である電動発電機21は、発電機として、エンジン11の駆動力を受けて発電をしたり、又は、車両1のブレーキ力等の回生力発生による回生発電をしたりすると共に、モータとして駆動して、その駆動力をエンジン11のクランク軸15に伝達して、エンジン11の駆動力(出力:トルク)をアシストしたりする。
【0019】
なお、発電して得た電力は、配線22を経由してインバータ(INV)23で変換して第1バッテリ(充電器:B1)24Aに充電される。また、電動発電機21を駆動するときは、第1バッテリ24Aに充電された電力をインバータ23で変換して電動発電機21に供給する。
【0020】
図1の構成では、更に、DC−DCコンバータ(CON)25と第2バッテリ(B2)24Bを第1バッテリ24Aに直列に設けて、第1バッテリ24Aの、例えば、一般的な12Vや24V以上の高い電圧の電力を、DC−DCコンバータ25で、例えば、12Vに電圧降下させて、第2バッテリ24Bに充電して、この第2バッテリ24Bから補機の冷却ファン26A、冷却水ポンプ26B、潤滑油ポンプ26C等に電力を供給している。
【0021】
また、本発明に係る実施の形態のハイブリッド車両1は、図1に示すように、上記のハイブリッドシステム2を搭載して構成され、このハイブリッド車両1においては、エンジン11の動力は、動力伝達システム30の変速機31、推進軸32、差動装置33、駆動軸34を介して車輪35に伝達され、車両1が走行する。なお、エンジン11の搭載方法によっては、エンジン11から車輪35の動力の伝達経路は異なってもよい。
【0022】
一方、電動発電機21の動力に関しては、第1バッテリ24Aに充電された電力がインバータ23を介して電動発電機21に供給され、この電力により発生した電動発電機21の動力は、CVT16を介してクランク軸15に伝達されて、エンジン11の動力伝達経路を伝達して、車輪35に伝達される。これにより、電動発電機21の動力がエンジン11の動力と共に車輪35に伝達され、車両1が走行する。なお、回生時には、逆の経路で、車輪35の回生力、又はエンジン11の回生力が電動発電機21に伝達されて、電動発電機21で発電が可能となる。
【0023】
また、ハイブリッドシステム用制御装置41が設けられ、エンジン11の回転数Neや負荷Q等の運転状態や電動発電機21の回転数Na等の運転状態や第1バッテリ24A、第2バッテリ24Bの充電量(SOC)の状態をモニターしながら、CVT16、電動発電機21、インバータ23、DC−DCコンバータ25等を制御する。
【0024】
このハイブリッドシステム用制御装置41は、通常は、エンジン11や車両1を制御する全体制御装置40に組み込まれて構成される。この全体制御装置40は、エンジン11の制御では、シリンダ内燃焼やターボ過給器13や排気ガス浄化装置14や補機の冷却ファン26A、冷却水ポンプ26B、潤滑油ポンプ26Cなどを制御している。
【0025】
そして、本発明においては、このハイブリッドシステム用制御装置41は、エンジン11側の制御で、過渡期に、操作されたアクセルのアクセル開度に基づいて算定される最終目標トルク量Tteに到達するまでの各時点における目標過給圧Ptと測定過給圧Pmcとの差である過給圧差ΔPtmcに基づいて(又は、過渡期に、操作されたアクセルのアクセル開度に基づいて算定される最終目標トルク量Tteに到達するまでの各時点における目標空気過剰率λtと測定空気過剰率λmcとの差である空気過剰率差Δλtmcに基づいて)、電動発電機21で発生するアシストトルク量Taを制御するように構成される。
【0026】
更には、このハイブリッドシステム用制御装置41は、アシストトルク量Taを過給圧差ΔPtmc(又は前記空気過剰率差Δλtmc)の変化に応じて連続的に変化させると共に、過給圧差ΔPtmc(又は前記空気過剰率差Δλtmc)が大きいときにはアシストトルク量Taを増加し、過給圧差ΔPtmc(又は前記空気過剰率差Δλtmc)が小さくなってきたときにはアシストトルク量Taを減少する制御を行うように構成される。
【0027】
そして、上記のハイブリッドシステム2及びハイブリッド車両1における、本発明に係る実施の形態のハイブリッドシステムの制御方法は、ターボ式過給器13を備えたエンジン11と電動発電機21の両方を搭載したハイブリッドシステムの制御方法であり、その詳細について、図2を参照しながら、以下に説明する。
【0028】
エンジン11の始動時や、アイドリングストップでエンジン停止した後のエンジン再始動時や、定常走行中の追い越し等で、加速が必要となった過渡期において、次のような電動発電機21によるアシストを行うように構成される。
【0029】
車両1の運転において、ドライバーによってアクセルが踏み込まれると、図2の制御フローが上級の制御フローから呼ばれたスタートし、ステップS11で、アクセル開度センサによって検出されたアクセル開度の大きさとその時のエンジン11や電動発電機21の運転状態に応じて、予め設定されたマップデータを参照したりして、ドライバーの要求に答えるために必要な最終目標トルク量Tteが設定される。
【0030】
次のステップS12で、この最終目標トルク量Tteに対して、エンジン11における最終目標燃料噴射量qte、この最終目標燃料噴射量qteを効率よく燃焼するための最終目標過給圧Pteが設定され、更に、次のステップS13で、図3に示すように、現状のトルク量Tsである現時点Xaから、この最終目標燃料噴射量qteと最終目標過給圧Pteの最終目標トルク量Tteの目標点Yaに至るまでの間の各時点における目標燃料噴射量qt(ti)と目標過給圧Pt(ti)が予め又は順次設定されて、エンジン11における燃料噴射制御とターボ式過給器13の制御が行われる。なお、qt(ti)の(ti)はqtが各時点で異なる値となり得ることを示し、このtiは各時点の時刻を表すもので、i=1,2,3,・・・・である。
【0031】
この各時点tiにおける目標燃料噴射量qt(ti)と目標過給圧Pt(ti)の設定に関しては、現時点Xaの運転状態と目標点Yaの運転状態の間で、制御時間ごとに実現可能なトルク増加量ΔTを予め設定したマップデータなどにより一度に又は順次算出しながら、各時点tiにおける運転状態を設定し、この運転状態から、各時点tiにおける目標燃料噴射量qt(ti)と目標過給圧Pt(ti)の設定を一度に又は順次行う。
【0032】
例えば、図4に示すように、アクセルが踏み込まれる直前Xaの状態での過給圧Psと、アクセル開度等で設定される最終目標過給圧Pteとから、この過給圧Psの状態Xaから最終目標過給圧Pteの状態Yaに到るまでの時間Δtを算出する。これは、エンジン11における最終目標過給圧Pteで発生しているトルクTec(Ya)から、エンジン11における過給圧Psで発生しているエンジン11で発生しているトルクTec(Xa)を引き算することで、エンジン11の運転状態がXaからYaに移行する際に増加するトルク量ΔTec(=Tec(Ya)−Tec(Xa))を算出する。
【0033】
そして、増加するトルク量ΔTecを一度に増加させようとしても、瞬時に増加できない上に、瞬時に電動発電機21で発生するアシストトルクTaを大きな量で加えるとエンジン11及びそのクランク軸15に急激なトルク変化が生じて、エンジン11にとって好ましくない急激な変化が生じる。
【0034】
これを避けるために予め実験などの結果により、全体トルクTeaを増加してもエンジン11に大きな負担が生じない実現可能なトルク増加量ΔTを設定しておき、このトルク増加量ΔTから状態Xaから状態Yaにもっとも早く移行できる時間Δtを算出し、この移行時間Δtで、状態Xaから状態Yaに移行するようにする。これにより、エンジン11に急激な負荷変動を与えることがない。
【0035】
この移行時間Δtが定まると、図4の上の図で、状態Xaの全体トルクTsと、状態Yaの全体トルクTta(実際には状態Yaでは、電動発電機21の発生トルクTec(ti)をゼロにするので、エンジン11で発生するトルクTecになる。)との間を直線的又は予め実施した実験などから得られる曲線で(図4では直線)結ぶことで、最終目標トルク量Tteに到達するまでの各時点での目標トルクTea(ti)を設定できる。この目標トルクTea(ti)に対して、この目標トルクTea(ti)をエンジン11のみで発生する場合の過給圧Pを各時点での目標過給圧Pt(ti)とする。
【0036】
なお、上記では、実現可能なトルク増加量ΔTを基に、各時点での目標過給圧Pt(ti)を設定しているが、実現可能な過給圧増加量ΔPを予め実験などにより設定しておき、この実現可能な過給圧増加量ΔPと、状態Xaの過給圧Psと状態Yaの最終目標過給圧Pteの差ΔPtes(=Pte−Ps)とからΔt(=ΔPec/ΔP)を求めてもよい。この場合は、状態Xaの過給圧Psと、状態Yaの最終目標過給圧Pteとの間を直線的又は予め実施した実験などから得られる曲線で(図4では直線)結ぶことで、最終目標過給圧Pteに到達するまでの各時点での目標過給圧Pt(ti)を求めることができる。
【0037】
次のステップS14で、測定過給圧Pmb(ti)を入力するが、この測定過給圧Pmb(ti)は、ターボ過給器13の応答遅れ(ターボラグ)があるため、シリンダ内に実際に供給される吸気の測定過給圧Pmb(ti)(図4の下の図で模式的に示す点線)は、目標過給圧Pt(ti)(図4の下の図で模式的に示す実線)よりも低くなる。そのため、目標燃料噴射量qt(ti)を燃料噴射しても吸気量が不足して、良好な燃焼状態を得ることができず、燃焼効率が落ち、また、排ガス成分も悪化することになる。
【0038】
これを考慮して、エンジン11側の制御では、目標燃料噴射量qt(ti)を燃料噴射せずに、測定過給圧Pmb(ti)に対応した吸気量に対して、燃焼効率も排ガス成分も良好になるような実燃料噴射量qb(ti)を算出して、この実燃料噴射量qb(ti)でシリンダ内燃料噴射を行う。
【0039】
この場合、シリンダ内の燃焼や排ガス成分は良好な状態に維持されるが、エンジン11側で発生するトルク量Teb(ti)は、ターボ式過給器13の応答遅れが発生している期間では、各時点tiでの目標トルク量Tt(ti)よりも小さくなる。そのため、このエンジン11側の制御だけでは、測定吸気圧Pmb(ti)(図4の下の図で模式的に示す点線)が、最終目標トルク量Tteを発生できる最終目標過給圧Pteになるのは、到達点Ybとなり、目標点Yaよりも遅くなってしまう。
【0040】
これに対処するために、本発明のハイブリッドシステムの制御方法では、ステップS15で、このエンジン11側の制御だけではなく、電動発電機21側の制御も加えて行い、過渡期に増加させる最終目標トルク量Tteに到達するまでの各時点tiにおける目標過給圧Pt(ti)と測定過給圧Pmc(図4の下の図で模式的に示す一点鎖線)との差である過給圧差ΔPtmc(ti)(ハッチング部分)を算出する。
【0041】
そして、次のステップS16で、この過給圧差ΔPtmc(ti)に基づいて、電動発電機21で発生するアシストトルク量Ta(ti)(図4の上の図で模式的に示す一点鎖線)を算出する。そして、ステップS17で、アシストトルク量Ta(ti)をエンジン11側で発生するトルク量Tec(ti)に加えて、クランク軸15に付与してクランク軸15を回転して、電動発電機21によるアシスト制御をする。
【0042】
このステップS17におけるアシスト制御を予め設定された制御用時間の間行ってから、ステップS18で、測定過給圧Pmc(ti)が最終目標過給圧Pte以上になっているか否かを判定する。このステップS18の判定で、測定過給圧Pmc(ti)が最終目標過給圧Pteより小さい場合で(NO)、各時点tiにおける目標燃料噴射量qt(ti)と目標過給圧Pt(ti)の設定を一度設定した場合は、ステップS14に戻り、ステップS14からステップS18を繰り返す。なお、各時点tiにおける目標燃料噴射量qt(ti)と目標過給圧Pt(ti)の設定を順次行っているときはステップS13に戻り(点線)、ステップS13からステップS18を繰り返す。
【0043】
一方、このステップS18の判定で、測定過給圧Pmc(ti)が最終目標過給圧Pte以上になっている場合は(YES)、リターンに行き、この図2の制御フローを終了し、上級の制御フローに戻り、次の加速時を待つ。
【0044】
なお、このエンジン11側で発生するトルク量Tec(ti)にアシストトルク量Ta(ti)を加えることにより、このエンジン11側で発生するトルク量Teb(ti)にアシストトルク量Ta(ti)を加えない場合に比べて、エンジン11のエンジン回転数Neが増加するので、アシストすることにより、測定過給圧Pmc(ti)もエンジン11で発生するトルク量Tec(ti)もアシストしない場合の測定過給圧Pmb(ti)、トルク量Teb(ti)よりも大きくなる。従って、実燃料噴射量qc(ti)もアシストしない場合の実燃料噴射量qb(ti)よりも多くなる。
【0045】
この制御では、アシストトルク量Ta(ti)を過給圧差ΔPtmc(ti)の変化に応じて連続的に変化させると共に、過給圧差ΔPtmc(ti)が大きいときには、電動発電機21によるアシストトルク量Ta(ti)を増加し、過給圧差ΔPtmc(ti)が小さくなった領域では、電動発電機21によるアシストトルク量Ta(ti)を減少する。この過給圧差ΔPtmc(ti)とアシストトルク量Ta(ti)との関係は、予め実験などにより設定し、マップデータや関数などの形でハイブリッドシステム用制御装置41に記憶しておく。なお、アシストトルク量Ta(ti)を給圧差ΔPtmc(ti)に単純に比例させる線形関係にしておくと制御が著しく単純化できる。
【0046】
このアシスト制御をすることで、過給圧差ΔPtmc(ti)が大きいときには、エンジン11のエンジン回転数Neの上昇時間、及び、排気ガス流量の増加時間を短縮して、吸気量の立ち上がりを早くして測定過給圧Pmc(ti)の立ち上がりを早くすることができる。また、過給圧差ΔPtmc(ti)が小さくなった領域では、電動発電機21によるアシストトルク量Ta(ti)を減少して測定排気圧Pmc(ti)の上昇によるタービンの回転数上昇で過給圧差ΔPtmc(ti)をより小さくすることができる。
【0047】
これにより、このアシスト制御をしたときの測定過給圧Pmc(ti)を図3に模式的に示す一点鎖線Cとすることができ、このアシスト制御をしないときの測定過給圧Pmb(ti)を模式的に示す点線Bよりも上にすることができる。従って、このアシスト制御をすることにより、早期に、最終目標燃料噴射量qteと最終目標過給圧Pteの目標点Yaに到達できることになる。また、目標点Yaに到達できないとしても、到達点Ybよりは短時間で到達できる。つまり、アシスト制御による到達点Yc(図示しない)は到達点Ybよりも目標点Ya側となる。
【0048】
なお、上記の過給圧差ΔPtmc(ti)の代わりに、過渡期に増加させる最終目標トルク量Tteに到達するまでの各時点tiにおける目標空気過剰率λt(ti)と測定空気過剰率λmc(ti)との差である空気過剰率差Δλtmc(ti)を用いることもできる。この場合は、アシストトルク量Ta(ti)を空気過剰率差Δλtmc(ti)の変化に応じて連続的に変化させることになる。
【0049】
上記の構成のハイブリッドシステム2、ハイブリッド車両1、及びハイブリッドシステムの制御方法によれば、ハイブリッドシステム2を搭載した車両1の加速時などのエンジン11の過渡時において、ターボ式過給器13のターボラグにより、過給圧Pの立ち上りが遅れている状況で電動発電機21によるモータアシストを実施するので、エンジン11の回転数Neの上昇を早めることができ、過給圧Pの立ち上がりを急速にしてターボラグの時間を短縮して、燃焼効率の悪い領域での運転時間を減少することができ、燃料消費量を減少できる。
【0050】
また、このターボラグが発生している期間においては、エンジン11で燃焼効率の悪い状態での運転によるトルク増加を避けて、電動発電機21のアシストによるトルク増加を行うので、燃料消費量の減少と排ガス成分の悪化の抑制を図ることができる。
【0051】
更に、過渡期に増加させる最終目標トルク量Tteと測定過給圧Pm(ti)との差ではなく、この最終目標トルク量Tteに到達するまでの各時点tiにおける目標過給圧Pt(ti)と測定過給圧Pm(ti)との差である過給圧差ΔPtm(ti)に基づいて、電動発電機21のアシストによるエンジン11のクランク軸15のトルク増加を行うので、円滑にエンジン11の運転状態を目標の運転状態に導くことができると共に、このモータアシストで使用する電力を節約できる。
【符号の説明】
【0052】
1 車両(ハイブリッド車両:HEV)
2 ハイブリッドシステム
11 エンジン(内燃機関)
12 排気通路
13 ターボ過給器
14 排気ガス浄化装置
15 クランク軸
16 CVT(無段変速機構)
20 電力システム
21 電動発電機(M/G)
30 動力伝達システム
40 全体制御装置
41 ハイブリッドシステム用制御装置
P 過給圧
Pmb(ti) 測定過給圧(アシスト制御なし)
Pmc(ti) 測定過給圧(アシスト制御あり)
Pt(ti) 目標過給圧
Pte 最終目標過給圧
qte 最終目標燃料噴射量
qt(ti) 目標燃料噴射量
Ta(ti) 電動発電機で発生するアシストトルク量
Teb(ti) エンジンで発生するトルク量(アシスト制御なし)
Tec(ti) エンジンで発生するトルク量(アシスト制御あり)
Tt(ti) 目標トルク量
Tte 最終目標トルク量
ti 各時点に時刻
Xa 現時点
Xb 目標点(アシスト制御なし)
Xc 目標点(アシスト制御あり)
λt(ti) 目標空気過剰率
λmc(ti) 測定空気過剰率(アシスト制御あり)
ΔPtmc(ti) 過給圧差(アシスト制御あり)
Δλtmc(ti) 空気過剰率差(アシスト制御あり)
図1
図2
図3
図4