特許第6390096号(P6390096)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390096
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】陽極酸化皮膜生成方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/04 20060101AFI20180910BHJP
   C25D 11/26 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   C25D11/04 101A
   C25D11/26 301
   C25D11/26 302
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-264104(P2013-264104)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-120945(P2015-120945A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 恵実
(72)【発明者】
【氏名】小林 大之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠喜
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−222585(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/029570(WO,A1)
【文献】 特開2009−235539(JP,A)
【文献】 特開平11−236696(JP,A)
【文献】 特開昭49−079334(JP,A)
【文献】 特公昭48−039337(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00−11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の円筒部と当該円筒部から突出した突起部とを有する金属製の被処理物を陽極として、陰極と共に電解液中に配置し、
前記被処理物の表面のうち各部位どうしの温度差が予め設定した所定値以内となるように第一直流電流を両極間に通電して保持する第一通電工程と、
前記第一直流電流よりも大きな値の第二直流電流を前記両極間に通電する少なくとも一つの第二通電工程と、を備え、
前記第一通電工程は、通電開始から前記第一直流電流まで電流値を上昇させる第一上昇工程と前記第一直流電流で電流値を保持する第一保持工程とからなり、
前記第一直流電流は、酸化処理される前記円筒部と前記突起部との温度差に基づき設定される陽極酸化皮膜生成方法。
【請求項2】
前記第二通電工程は、前記第一直流電流の電流値から前記第二直流電流の電流値まで上昇させる第二上昇工程と前記第二直流電流で電流値を保持する第二保持工程とからなる請求項に記載の陽極酸化皮膜生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の被処理物を陽極として陰極と共に電解液中に配置し、被処理物の表面に酸化処理を行う陽極酸化皮膜生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の上記陽極酸化皮膜生成方法として、直流電流をスイッチングしてパルス電圧を出力し、正電圧印加と電荷除去とを周期的に反復する方法が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、正電圧印加時間を、電流波形のピーク到達時間の1〜3倍に設定することで処理速度の高速化が図られると記載されている。
【0003】
また、特許文献2の方法では、定電流を所定時間印加した後、酸化皮膜のヤケが発生する電圧に達する前に交直重畳制御に移行して電圧を一定に保つことで、ヤケの防止や処理速度の高速化を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−228069号公報
【特許文献2】特開2009−235539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の陽極酸化皮膜生成方法は、例えばピストンのように外観形状が整形である被処理物の表面に被膜生成する場合において最適化を実現しているが、複数の突起などが外面に形成された複雑形状の被処理物については考慮されていない。つまり、特許文献1−2のような高電流密度下での高速処理では、突起部に電流が集中してジュール熱が過大となり酸化皮膜のヤケが発生し易いことや、各部位どうしの膜厚バランスが不均一となるおそれがある。
【0006】
また、特許文献1の方法は、正電圧印加と電荷除去との周期を制御するために、プラス側及びマイナス側の直流電源やインバータ装置などを用いるといった複雑な制御が必要となり、高コスト化を招いてしまう。また、電荷除去をしている間は酸化皮膜を形成しないので、処理時間にロスが生じてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、複雑形状の被処理物において、簡便な方法で高速処理を実現し、膜厚の均一化を図ることのできる陽極酸化皮膜生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る陽極酸化皮膜生成方法の特徴構成は、筒状の円筒部と当該円筒部から突出した突起部とを有する金属製の被処理物を陽極として、陰極と共に電解液中に配置し、
前記被処理物の表面のうち各部位どうしの温度差が予め設定した所定値以内となるように第一直流電流を両極間に通電して保持する第一通電工程と、前記第一直流電流よりも大きな値の第二直流電流を前記両極間に通電する少なくとも一つの第二通電工程と、を備え、前記第一通電工程は、通電開始から前記第一直流電流まで電流値を上昇させる第一上昇工程と前記第一直流電流で電流値を保持する第一保持工程とからなり、前記第一直流電流は、酸化処理される前記円筒部と前記突起部との温度差に基づき設定される点にある。
【0009】
本構成によると、直流電流のみを用いて定電流制御を行うといった簡便な方法で、被処理物の陽極酸化処理が行われる。一方、突起を有する被処理物に直流電流を印可した際、突起部に電流が集中してジュール熱が発生し、突起部の温度は急激に上昇してしまう。その結果、酸化皮膜にヤケが生じたり、突起部の膜厚が円筒部の膜厚より大きくなって膜厚が不均一になる。これは、特に、酸化処理の初期の段階で顕著に現れる。
【0010】
そこで、本構成では、第一通電工程と、一つ又は二つ以上の第二通電工程とを含む多段階の通電工程とし、第二直流電流より小さな第一直流電流の電流値で通電して保持することにした。このため、一度に第二直流電流の値まで上昇させる場合に比べ、酸化処理の初期において被処理物の表面粗度が整い、表面性状が安定する。また、初期段階における突起部の急激な温度上昇を回避するような小さな電流値を所定時間保持することで、酸化皮膜のヤケを防止し、突起部と円筒部とにおける膜厚の均一化を図ることができる。その結果、酸化処理速度を高めるために、次の第二通電工程で電流値を上昇させても、各部位の安定化された初期被膜によって各部位の温度は緩やかに上昇し、全体的に膜厚バランスの取れた所望の酸化皮膜を生成することができる。
【0011】
さらに、本構成では、酸化処理の初期において、被処理物の表面のうち各部位どうしの温度差、つまり突起部と円筒部とにおける温度差が予め設定した所定値以内となる電流値に設定する。このため、被処理物の表面積や複雑な外観形状に関わらず、突起部の急激な温度上昇を回避することができる。例えば、高速処理を行う上で大きな電流を通電した方が望ましいが、突起部に集中する電流も大きくなる。つまり、極力大きくした方がよい第一直流電流の値を、突起部と円筒部とにおける温度差に応じて最適な値に設定している。よって、高速酸化処理において均一な酸化皮膜を確実に生成することができる。
【0012】
【0013】
【0014】
他の特徴構成は、前記第二通電工程は、前記第一直流電流の電流値から前記第二直流電流の電流値まで上昇させる第二上昇工程と前記第二直流電流で電流値を保持する第二保持工程とからなる点にある。
【0015】
第一通電工程の初期段階に安定したアルマイト膜を生成していれば、その後、第二通電工程で連続して電流値を大きくしても各部位の温度は、均一に上昇する。その結果、本構成であれば、膜厚がある程度均一になった状態でアルマイト膜が成長する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る陽極酸化処理装置を説明する図である。
図2】複雑形状を有する被処理物の一例である。
図3】第1実施例に係る通電工程を示す図である。
図4】被処理物の表面に酸化皮膜が成長する説明図である。
図5】第1実施例、比較例における上昇温度と初期膜厚との関係を示す図である。
図6】第1実施例に係る通電時間と温度との関係を示す図である。
図7】比較例に係る通電時間と温度との関係を示す図である。
図8】第2実施例に係る通電工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る陽極酸化処理の実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態では、陽極酸化処理の一例としてアルミニウム基材の表面にアルマイト膜を形成する例を説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0018】
アルミニウム基材1(被処理物の一例)としては、例えば、ダイカスト等のアルミニウム鋳造材、アルミニウム鍛造材等を用いることができる。アルミニウムとしては、純アルミニウム、アルミニウム合金等を適用できる。アルミニウム合金の種類は、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、錫、鉛、チタン、クロム、ジクロニウムなどの1種又は複数種との合金が考えられる。なお、陽極酸化被膜する基材は、アルミニウム以外にチタンやタンタルなどの金属や、それらと他の金属との合金であってもよい。
【0019】
本実施形態において陽極酸化皮膜を生成するアルミニウム基材1は、図2に示すように、筒状の円筒部P2,P4と円筒部P2,P4から突出して形成される突起部P1,P3とを有する複雑形状材として説明する。このような複雑形状のアルミニウム基材1の表面に酸化皮膜を形成するにあたって、特に突起部P1,P3に電流が集中しやすく、酸化皮膜のヤケが発生したり、電流値のアンバランスに起因して各部位P1〜P4間での膜厚が不均一になりやすい。これは、特に、高速で酸化皮膜を生成する高密度電流下において顕著に現れる。本実施形態では、詳細は後述するが、バルス制御や交直重畳制御ではなく、簡便な方法である定電流制御において、膜厚の均一化を図ることとしている。
【0020】
陽極酸化皮膜を生成するために用いられる陽極酸化処理装置は、図1に示すように、直流電源3と、陰極4と、内部に電解液51を有する電解槽5と、を備えている。また、アルミニウム基材1を陽極6として陰極4と共に電解液51の中に配置し、両極間に直流電流を通電することで、アルミニウム基材1の表面にアルマイト膜2を形成する。電解液51は、希硫酸、シュウ酸、その他有機酸などが使用され、陰極4には鉛、白金などが使用されるが、特に限定されない。
【0021】
電解槽5には、陽極酸化処理の温度を一定に保つために、電解液51の温度を調整する温度調節手段(不図示)が設けてある。処理温度はアルマイト膜2が溶解して消失してしまわない温度であれば特に限定されないが、例えば−5℃〜20℃の範囲で調整される。
【0022】
また、電解槽5には、電解液51を撹拌する撹拌手段(不図示)が設けてあり、電解液51の温度のばらつきを抑え、アルミニウム基材1に電解液51の温度差が影響しないようにしてある。撹拌手段としては、例えば、ポンプで電解液51を循環させたり、エアパブリシングによる撹拌などが考えられる。
【0023】
(制御方法)
本実施形態における陽極酸化処理、図3に示すように、アルミニウム基材1の円筒部P2,P4と突起部P1,P3との温度差に応じて決定される第一直流電流A1を両極間に通電して保持する第一通電工程S1,S2と、第一直流電流A1より大きな値の第二直流電流A2を両極間に通電して保持する第二通電工程S3,S4と、を備えている。また、第一通電工程S1,S2は、第一直流電流A1まで所定の勾配で上昇させる第一上昇工程S1と、第一直流電流A1で保持する第一保持工程S2とを有する。同様に、第二通電工程S3,S4は、第一直流電流A1から第二直流電流A2まで所定の勾配で上昇させる第二上昇工程S3と、第二直流電流A2で保持する第二保持工程S4とを有する。
【0024】
一般的に、電流値と通電時間との積分値によってアルマイト膜2の膜厚が決定されるので、陽極酸化処理が施されたアルミニウム基材1の生産効率を高めるには、処理速度を向上させて短時間で所望の膜厚を形成することが求められる。一方、図3の従来例に示すように酸化処理の初期から大きな直流電流を印可すると、アルマイト膜2のヤケが生じたり、膜厚バランスが不均一となる。
【0025】
ここで、アルミニウム基材1の表面にアルマイト膜2が生成される一般的な流れを説明する。電解処理に先だって、アルミニウム基材1は、荒加工や表面研磨加工などが行われるが、表面を十分に平滑化するのは困難であり、微小な凹凸が発生してしまう。このアルミニウム基材1を電解処理すると、アルミニウムが溶解して、導電性の被膜であるバリア層が生成され始める。次いで、バリア層が一定の厚さに成長すると、微細な孔が形成され、六角柱状のセルの集合体であるポーラス層(多孔質皮膜)が生成され始める。次いで、この孔の部分で被膜の溶解と生成が同時に起こって孔が下がり、最終的には、電流値と処理時間との積分値に比例して所定の膜厚を有するアルマイト膜2が生成される。
【0026】
続いて、図4を用いて、本実施形態の電流波形で直流電流を通電した場合における、アルミニウム基材1の表面にアルマイト膜2が成長する過程を説明する。通電を開始した時点(図3の(a)点)では、図4(a)に示すように、アルミニウム基材1の表面には、微小な凹凸が存在する。次いで、第一直流電流A1まで緩やかに電流値を上昇させる(図3の(b)点)と、凹凸を埋めるようにアルマイト膜2が生成され始める(図4(b))。この第一直流電流A1を所定時間保持する(図3の(c)点)と、図4(c)に示すように、膜厚の均一化されたアルマイト膜2が生成される。この酸化処理の初期段階に電流値が大きすぎると、図7に示す比較例のように電流が集中しやすい突起部P1,P3の温度が急上昇して、アルマイト膜2にヤケが生じやすい。さらに、図5の比較例に示すように、初期段階における膜厚のばらつきが大きくなってしまう。ここで電流値を低くすることで、各部位P1〜P4の温度のばらつきがなく、凹凸を埋めるよう、均一な膜厚に成膜することができる。
【0027】
最終的(図3の(d)点)には、図4(d)に示すように、電流値と処理時間との積分値に比例して所定の膜厚を有するアルマイト膜2が生成され、初期段階における膜厚の均一化によって、最終的な膜厚も均一化されていることが分かる。つまり、初期段階に安定したアルマイト膜2を生成していれば、その後の電流値を大きくしても各部位P1〜P4間のアルマイト膜2が均一に生成される点に着目し、本実施形態では最適な第一直流電流A1及び第一通電時間T1,T2を設定することとした。
【0028】
第一直流電流A1の値は、アルミニウム基材1の各部位P1〜P4どうしの温度差が予め設定した所定値以内となるように設定される。また、第一通電時間T1,T2は、アルミニウム基材1の形状や表面積などに応じて各部位P1〜P4の膜厚が均一になる時間に設定される。
【0029】
(第1実施例)
図3及び図5−7を用いて第1実施例について説明する。図3は、本実施例と比較例とにおける電流波形である。図5は、第一通電工程S1,S2の通電時間を20秒とした時の各部位P1〜P4の温度上昇と膜厚との関係を示す図である。図6−7は、本実施例と比較例とにおける通電時間と各部位P1〜P4の温度との関係を示す図である。
【0030】
本実施例では、第一上昇工程S1における第一電流上昇時間T1を5〜10秒、第一上昇工程S1における第一電流保持時間T2を10〜20秒に設定した。これは、初期段階に安定したアルマイト膜2が生成される時間は、経験上、アルミニウム基材1の形状や表面積が変化しても第一通電時間T1,T2の範囲内に収めることができると判明したためである。つまり、第一通電時間T1,T2は、各部位P1〜P4の膜厚が比較的平滑化される初期段階の時間として設定している。
【0031】
また、第一電流上昇時間T1は、第一直流電流A1が大きなほど、緩やかな勾配で通電上昇するように時間を長く設定するのが好ましい。これは、上述したように、急激に電流値を上昇させた場合、アルマイト膜2にヤケが生じやすくなるのを防止するためである。
【0032】
さらに、第一通電工程S1,S2で安定したアルマイト膜2が生成されていれば、その後に急激な温度上昇は発生し難いので、第二電流上昇時間T3(例えば、0〜10秒)は、適宜設ければよい。第二電流保持時間T4は、アルミニウム基材1の形状や表面積に応じて、目標とする膜厚を生成するために必要な処理時間である。
【0033】
第一直流電流A1の値を決定するに際しては、図2に示すように、実際に酸化処理されるアルミニウム基材1の円筒部P2,P4及び突起部P1,P3の温度を、温度センサK1〜K4によって計測する。具体的には、直流電源3の電流値を上昇させていき、温度センサK1〜K4の測定値の差の最大値が予め設定した所定値を超えた時、その直前の電流値を第一直流電流A1として設定する。本実施例では、図6に示すように、第一通電時間T1,T2におけるアルミニウム基材1の各部位P1〜P4の温度上昇が均一になるように第一直流電流A1の値を決定した。なお、温度センサK1〜K4は、熱電対、サーミスタや測温抵抗体などが想定されるが特に限定されない。
【0034】
図7には、第一直流電流A1を設けず、初期段階から電流値を上昇させた比較例が示される。この比較例では、各部位P1〜P4どうしの温度差が最大で7〜8℃発生した。つまり、突起部P1,P3に電流が集中してジュール熱が発生し、突起部P1,P3の温度が急激に上昇して微小(軽微)なヤケが発生した直後に温度が低下することとなる。
【0035】
さらに、図5に示すように、第一通電時間T1,T2経過後に測定した各部位P1〜P4の膜厚において、比較例は本実施例に比べて大きなばらつきが生じている。その結果、突起部P1,P3の膜厚が円筒部P2,P4の膜厚より大きくなってしまい、膜厚が不均一になったままアルマイト膜2が生成されてしまう。参考に6個のアルミニウム基材1で検証すると、比較例では、膜厚平均が約12μmに対して、最終的な膜厚のばらつきが2.7〜4.0μmと大きなものであった。
【0036】
一方、本実施例では、各部位P1〜P4どうしの温度差がほぼゼロとなる第一直流電流A1に設定しているので、図5に示すように各部位P1〜P4の膜厚ばらつきが少ない。さらに、次の第二通電工程S3,S4に移行しても、各部位P1〜P4どうしの温度差がほぼゼロとなった状態を維持している。つまり、上述したように初期段階に安定したアルマイト膜2を生成していれば、その後の電流値を大きくしても各部位P1〜P4の温度は、均一に上昇する。その結果、膜厚がある程度均一になった状態でアルマイト膜2が成長する。参考に6個のアルミニウム基材1で検証すると、膜厚平均が約12μmに対して、最終的な膜厚のばらつきが1.9〜3.4μmと比較例に比べ改善された。なお、本実施例では、各部位P1〜P4どうしの温度差がほぼゼロとなるように設定したが、2〜3℃の温度差があっても良い。
【0037】
(第2実施例)
第1実施例では、第二通電工程S3,S4を一段階設けたが、本実施例では、図8に示すように第二通電工程を二段階(S3〜S4,S5〜S6)設けている。例えば、高速処理をするために第二直流電流A2の値を急激に大きくする必要がある場合などにおいて、第二直流電流A2を急上昇させると、安定化したアルマイト膜2に大きな負荷がかかり、ヤケの発生が考えられる。そこで、本実施例のように第二通電工程を多段階とすることで、各部位P1〜P4の温度は緩やかに上昇し、各部位P1〜P4間の温度差が生じ難くなって、アルマイト膜2の生成不良を防止することができる。
【0038】
第1実施例で示したように、第一通電工程S1,S2で安定したアルマイト膜2を生成すれば、以降の第二通電工程S3〜S6では各部位P1〜P4どうしの温度差のない状態が維持される。つまり、第一通電工程S1,S2における第一直流電流A1の値と第一通電時間T1,T2とを最適なものとすれば、その後の処理時間や電流値はアルミニウム基材1に形成されるアルマイト膜2の膜厚に応じて適宜設定すれば良い。本実施例においても、アルマイト膜2の最終的な膜厚バランスの均一化が図られる。
【0039】
[その他の実施形態]
(1)上述した実施例では、第二通電工程を一段階又は二段階に設定したが、例えば三段階にするなど、さらに第二通電工程を細分化させても良い。
(2)上述した実施例では、第一通電時間T1,T2を各部位P1〜P4の膜厚が均一になる時間に設定したが、例えば、各部位P1〜P4の膜厚が所定の厚さ(例えば1〜2μm)になる時間に設定しても良い。また、所定の厚さは、安定したアルマイト膜2が生成される膜厚として、最終的な目標膜厚に対する比率で設定しても良い。
(3)本実施形態における陽極酸化皮膜生成方法は、複数の突起部などを有する複雑形状の被処理物を対象としたが、外観形状が整形である被処理物に適用しても良いことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の陽極酸化皮膜生成方法は、被処理物の表面に酸化皮膜を高速で生成する方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 アルミニウム基材(被処理物)
2 アルマイト膜(酸化皮膜)
4 陰極
6 陽極
51 電解液
A1 第一直流電流
A2 第二直流電流
K1〜K4 各部位における温度
S1,S2 第一通電工程
S3,S4 第二通電工程
T1,T2 第一通電時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8