特許第6390151号(P6390151)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6390151-複合焼結体 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390151
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】複合焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/52 20060101AFI20180910BHJP
   C01B 32/25 20170101ALI20180910BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20180910BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   C04B35/52
   C01B32/25
   B23B27/14 B
   B23B27/20
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-93395(P2014-93395)
(22)【出願日】2014年4月30日
(65)【公開番号】特開2015-209367(P2015-209367A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2016年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武
(72)【発明者】
【氏名】角谷 均
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−190124(JP,A)
【文献】 特開2004−196595(JP,A)
【文献】 特開昭50−133993(JP,A)
【文献】 特開2003−293297(JP,A)
【文献】 特開平09−071498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C01B 32/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド相、非ダイヤモンド炭素相、および不可避的に含まれる不純物のみを含む複合焼結体であって、
前記複合焼結体の任意に特定される一断面の全面積に対して占める前記非ダイヤモンド炭素相の面積の百分率である非ダイヤモンド炭素相占有率が1%以上30%以下(ただし、1%を除く)であり、
前記複合焼結体のヌープ硬度が50GPa以上である複合焼結体。
【請求項2】
前記ダイヤモンド相を形成する焼結ダイヤモンド粒子の平均粒径が1000nm以下である請求項1に記載の複合焼結体。
【請求項3】
前記非ダイヤモンド炭素相を形成する焼結非ダイヤモンド炭素粒子の平均粒径が2000nm以下である請求項1または請求項2に記載の複合焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドを含む複合焼結体に関する。詳しくは、耐摩耗工具、切削工具などの材料として好適に用いられるダイヤモンドを含む複合焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは地上に存在する物質の中で最も高硬度の物質であるため、ダイヤモンドを含む焼結体は、耐摩耗工具、切削工具などの材料として用いられている。
【0003】
特開2003−292397号公報(特許文献1)は、超高圧高温下でグラファイト型層状構造の炭素物質から焼結助剤や触媒の添加なしに変換焼結されたダイヤモンドからなる焼結体であって、ダイヤモンドの平均粒径が100nm以下であり、純度が99%以上のダイヤモンド多結晶体を開示する。また、間接的に加熱する手段を備えた圧力セルに非ダイヤモンド炭素物質を入れ、加熱および加圧を行なうことにより、焼結助剤や触媒の添加なしに直接変換でダイヤモンド多結晶体を製造する方法を開示する。
【0004】
国際公開第2009/099130号(特許公報2)は、超高圧高温下で非ダイヤモンド型炭素から焼結助剤や触媒の添加なしに変換焼結されて得られたダイヤモンド多結晶体であって、該ダイヤモンド多結晶体を構成する焼結ダイヤモンド粒子の平均粒径が50nmより大きく2500nm未満であり、純度が99%以上であり、かつ、ダイヤモンドのD90粒径が(平均粒径+平均粒径×0.9)以下であることを特徴とするダイヤモンド多結晶体を開示する。
【0005】
特開平9−142933号公報(特許公報3)は、希土類元素の酸化物および/または炭酸化物および/または炭化物からなる物質を0.1〜30体積%含み残部がダイヤモンドであることを特徴とするダイヤモンド焼結体を開示する。
【0006】
特開2005−239472号公報(特許公報4)は、平均粒径が2μm以下の焼結ダイヤモンド粒子と、残部の結合相とを備えた高強度・高耐摩耗性ダイヤモンド焼結体であって、ダイヤモンド焼結体中の焼結ダイヤモンド粒子の含有率は80体積%以上98体積%以下であり、結合相中の含有率が0.5質量%以上50質量%未満であるチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、およびモリブデンからなる群より選らばれる少なくとも1種以上の元素と、結合相中の含有率が50質量%以上99.5質量%未満であるコバルトと、を結合相は含み、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、およびモリブデンからなる群より選らばれる少なくとも1種以上の元素の一部または全部が平均粒径0.8μm以下の炭化物粒子として存在し、炭化物粒子の組織は不連続であり、隣り合う焼結ダイヤモンド粒子同士は互いに結合していることを特徴とする高強度・高耐摩耗性ダイヤモンド焼結体を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−292397号公報(特許第4275896号公報)
【特許文献2】国際公開第2009/099130号
【特許文献3】特開平9−142933号公報
【特許文献4】特開2005−239472号公報(特許第4542799号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開2003−292397号公報(特許文献1)および国際公開第2009/099130号(特許文献2)に開示されるダイヤモンド多結晶体は、耐摩耗工具である伸線ダイスに適用すると、局所摩耗により伸線時の引抜抵抗が増大し伸後の線径が小さくなり断線が多くなり、切削工具であるスクライブホイールや掘削用ビットに適用すると、局所摩耗、衝撃による欠けなどにより工具寿命が短くなるという問題点があった。
【0009】
特開平9−142933号公報(特許文献3)および特開2005−239472号公報(特許文献4)に開示されるダイヤモンド焼結体は、耐摩耗工具である伸線ダイスに適用すると、焼結体中の金属の酸化物および金属により摩擦係数が高くなるため伸線抵抗が増大し伸後の線径が小さくなり断線が多くなり、切削工具であるスクライブホイールや掘削用ビットに適用すると、焼結体中の金属の酸化物および金属により摩擦係数が高くなるため切削抵抗が大きくなり、また焼結体中の金属の熱膨張による内部破壊により、工具寿命が短くなるという問題点があった。
【0010】
そこで、局所摩耗、衝撃による欠け、および焼結体中の非ダイヤモンド成分による摩擦係数の増大および熱膨張による内部破壊を抑制して、耐摩耗工具、切削工具などの材料として好適に用いられる耐摩耗性、耐局所摩耗性および耐欠け性の高いダイヤモンドを含む複合焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある態様にかかる複合焼結体は、ダイヤモンド相、非ダイヤモンド炭素相、および不可避的に含まれる不純物のみを含む複合焼結体であって、複合焼結体の任意に特定される一断面の全面積に対して占める非ダイヤモンド炭素相の面積の百分率である非ダイヤモンド炭素相占有率が1%以上30%以下(ただし、1%を除く)であり、複合焼結体のヌープ硬度が50GPa以上である。
【発明の効果】
【0012】
かかる態様によれば、局所摩耗、衝撃による欠け、および焼結体中の非ダイヤモンド成分による摩擦係数の増大および熱膨張による内部破壊を抑制して、耐摩耗工具、切削工具などの材料として好適に用いられる耐摩耗性、耐局所摩耗性および耐欠け性の高いダイヤモンドを含む複合焼結体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のある態様にかかる複合焼結体の任意に特定される一断面のある例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本発明の実施形態の説明]
本発明のある実施形態である複合焼結体は、ダイヤモンド相と、非ダイヤモンド炭素相と、を含む複合焼結体であって、複合焼結体の任意に特定される一断面の全面積に対して占める非ダイヤモンド炭素相の面積の百分率である非ダイヤモンド炭素相占有率が30%以下である。
【0015】
本実施形態の複合焼結体は、ダイヤモンド相と非ダイヤモンド炭素相とを含み、非ダイヤモンド炭素相占有率が30%以下であるため、耐摩耗性、耐局所摩耗性および耐欠け性が高い。
【0016】
本実施形態の複合焼結体において、ダイヤモンド相を形成する焼結ダイヤモンド粒子の平均粒径を1000nm以下とすることができる。これにより、耐摩耗性、耐局所摩耗性および耐欠け性がさらに高くなる。
【0017】
本実施形態の複合焼結体において、非ダイヤモンド炭素相を形成する焼結非ダイヤモンド炭素粒子の平均粒径を2000nm以下とすることができる。これにより、耐摩耗性、耐局所摩耗性および耐欠け性がさらに高くなる。
【0018】
本実施形態の複合焼結体のヌープ硬度を50GPa以上とすることができる。これにより、耐摩耗性および耐欠け性がさらに高くなる。
【0019】
[本発明の実施形態の詳細]
(複合焼結体)
図1を参照して、本実施形態の複合焼結体10は、ダイヤモンド相11と、非ダイヤモンド炭素相12と、を含む複合焼結体10であって、複合焼結体10の任意に特定される一断面の全面積に対して占める非ダイヤモンド炭素相12の面積の百分率である非ダイヤモンド炭素相占有率が30%以下である。
【0020】
本実施形態の複合焼結体10は、ダイヤモンド相11と非ダイヤモンド炭素相12とを含み、非ダイヤモンド炭素相占有率が30%以下であるため、耐摩耗性、耐局所摩耗性および耐欠け性が高い。
【0021】
複合焼結体10のダイヤモンド相11は、焼結ダイヤモンド粒子で形成されている。ダイヤモンド相11の存在は、SEM(走査型電子顕微鏡)またはTEM(透過型電子顕微鏡)による複合焼結体10の断面(任意に特定される一断面、以下同じ。)の観察において明視野として確認され、組成解析およびX線回折による結晶構造解析で同定される。
【0022】
複合焼結体10の非ダイヤモンド炭素相12は、焼結非ダイヤモンド炭素粒子で形成されている。非ダイヤモンド炭素相12の存在は、SEMまたはTEMによる複合焼結体10の断面の観察において暗視野として確認され、組成解析およびX線回折による結晶構造解析で同定される。ここで、非ダイヤモンド炭素とは、ダイヤモンド以外の相形態の固体炭素をいい、グラファイト、無定形炭素(アモルファス)などを含む。
【0023】
非ダイヤモンド炭素相占有率は、複合焼結体10の任意に特定される一断面の全面積に対して占める非ダイヤモンド炭素相12の面積の百分率をいい、SEMまたはTEMによる複合焼結体10の断面の観察において明視野となるダイヤモンド相11の占める面積および暗視野となる非ダイヤモンド炭素相12の占める面積の和(断面の全面積に相当)に対して、暗視野となる非ダイヤモンド炭素相12の占める面積の百分率として算出される。
【0024】
非ダイヤモンド炭素相占有率は、複合焼結体10の耐局所摩耗性および耐欠け性を高くする観点から、30%以下であり、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。また、非ダイヤモンド炭素相占有率は、複合焼結体10の耐摩耗性を高くする観点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。
【0025】
複合焼結体10は、実質的にダイヤモンド相11および非ダイヤモンド炭素相12のみを含み、その他の成分である焼結助剤および触媒などを含まないことが好ましい。すなわち、複合焼結体10は、ダイヤモンド相11および非ダイヤモンド炭素相以外には、それらに不可避的に含まれる不純物のみを含むに過ぎないことが好ましい。このような複合焼結体10は、ダイヤモンド相11および非ダイヤモンド炭素相の他の成分たとえば焼結助剤および触媒などを実質的に含まないため、かかる他の成分による影響を受けないため、耐摩耗性、耐局所摩耗性および耐欠け性を高く維持することができる。
【0026】
複合焼結体10のダイヤモンド相11を形成する焼結ダイヤモンド粒子の平均粒径は、複合焼結体10の耐局所摩耗性および耐欠け性を高める観点から、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。また、焼結ダイヤモンド粒子の平均粒径は、耐摩耗性を高める観点から、30nm以上が好ましく50nm以上がより好ましい。ここで、ダイヤモンド相11を形成する焼結ダイヤモンド粒子の平均粒径は、SEMまたはTEMによる複合焼結体10の断面の観察において、ダイヤモンド相11、非ダイヤモンド炭素相12、およびそれらの粒界が見分けられる条件で撮影した後、画像処理(二値化など)により、ダイヤモンド相11を形成する各々の焼結ダイヤモンド粒子の面積の平均を算出し、その面積と同じ面積を有する円の直径を算出したものである。
【0027】
複合焼結体10の非ダイヤモンド炭素相12を形成する焼結非ダイヤモンド炭素粒子の平均粒径は、複合焼結体10の耐局所摩耗性および耐欠け性を高める観点から、2000nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。また、焼結非ダイヤモンド炭素粒子の平均粒径は、耐摩耗性を高める観点から、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。ここで、非ダイヤモンド炭素相12を形成する焼結非ダイヤモンド粒子の平均粒径は、SEMまたはTEMによる複合焼結体10の断面の観察において、ダイヤモンド相11、非ダイヤモンド炭素相12、およびそれらの粒界が見分けられる条件で撮影した後、画像処理(二値化など)により、非ダイヤモンド炭素相12を形成する各々の焼結非ダイヤモンド炭素粒子の面積の平均を算出し、その面積と同じ面積を有する円の直径を算出したものである。
【0028】
複合焼結体10のヌープ硬度は、複合焼結体10の耐摩耗性を高める観点から、50GPa以上が好ましく、70GPa以上がより好ましい。ここで、ヌープ硬度は、ヌープ圧子を用いて測定荷重9.8N(1.0kgf)で測定する。
【0029】
[複合焼結体の製造方法]
本実施形態の複合焼結体10の製造方法は、特に制限はないが、耐摩耗性、耐局所摩耗性および耐欠け性の高い複合焼結体10を効率よくかつ低コストで製造する観点から、原料として原料非ダイヤモンド炭素または原料非ダイヤモンド炭素および原料ダイヤモンドの混合物を準備する原料準備工程と、上記原料をダイヤモンド相が形成される温度および圧力の条件で焼結することにより複合焼結体を形成する複合焼結体形成工程と、を含むことが好ましい。
【0030】
原料準備工程において準備される原料非ダイヤモンドは、粉末であっても成形体であってもよいが、均質な複合焼結体を形成する観点から、粉末であることが好ましく、粉末の平均粒径は、5000nm以下が好ましく、2000nm以下がより好ましい。また、原料非ダイヤモンド炭素は、高品質かつ高純度の複合焼結体を形成する観点から、グラファイトであることが好ましく、グラファイトの純度は99質量%以上が好ましく、99.5質量%以上がより好ましい。
【0031】
原料準備工程において準備される原料ダイヤモンドは、均質な複合焼結体を形成する観点から、粉末であることが好ましく、粉末の平均粒径は、5000nm以下が好ましく、1000nm以下がより好ましい。また、原料ダイヤモンドは、高品質かつ高純度の複合焼結体を形成する観点から、ダイヤモンドの純度は 90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0032】
複合焼結体形成工程において、焼結条件は、ダイヤモンド相が形成される温度および圧力の条件であれば特に制限はないが、効率よくダイヤモンド相を形成しかつ非ダイヤモンド炭素相の占有率を調節しやすい観点から、たとえば、圧力11GPaの場合は、1900℃より高温であって、2200℃前後が好ましい。また、より高圧、たとえば圧力15GPaの場合は、2200℃より低温であって、1900℃前後が好ましい。かかる高温および高圧を発生させる高温高圧発生装置は、特に制限はなく、ベルト型、キュービック型、分割球型などが挙げられる。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
1.原料の準備
原料として、密度が1.85g/cm3で純度が99.95質量%の0.4gのグラファイト成形体を準備した。
【0034】
2.複合焼結体の形成
原料である上記グラファイト成形体を、高温高圧発生装置を用いて、温度が1900℃で圧力が15GPaで100分間の焼結条件で、焼結させることにより、複合焼結体を得た。
【0035】
3.複合焼結体の物性評価
複合焼結体の一断面のSEMによるコントラスト解析により、複合焼結体中のダイヤモンド相および非ダイヤモンド炭素相を確認および同定した。非ダイヤモンド炭素相占有率は、上記SEM観察から算出したところ、1%であった。ダイヤモンド相を形成する焼結ダイヤモンド粒子の平均粒径は、上記SEM観察から算出したところ、50nmであった。非ダイヤモンド炭素相を形成する焼結非ダイヤモンド炭素粒子の平均粒径は、上記SEM観察から算出したところ、80nmであった。複合焼結体のヌープ硬度は、ヌープ圧子を用いて9.8Nの荷重をかけて測定したところ、95GPaであった。さらに、この複合焼結体を用いて口径20μmの伸線ダイスを作製し、線速1000m/分でSUS304(ステンレス鋼)を伸線し、伸線ダイスの口径が20.5μmに拡大するまでの断線頻度および伸線距離は、それぞれ後述する比較例1の複合焼結体の場合をそれぞれ1.00および100としたときの相対値で、それぞれ0.50および150であった。ここで、断線頻度の相対値は低いほど、また、伸線距離の相対値は高いほど、耐摩耗性および耐局所摩耗性が高くなっているため、好ましい。さらに、複合焼結体を超硬の台金にロウ付けし、先端90°で先端アール(R)が100nmの切削工具を製作し、厚さ30mmの銅板に厚さ20μmのニッケルめっきした金属板に、深さ5μmで10μmピッチの溝を形成する加工を実施した。かかる切削工具の先端が10μm摩耗したときの先端部分の欠け状態(亀裂やチッピング)を、欠け量で評価した。切削工具における欠け量は、後述する比較例1の複合焼結体の場合を1.0としたときの相対値で、0.8であった。ここで、欠け量の相対値は少ないほど、耐欠け性が高くなっているため、好ましい。結果を表1にまとめた。
【0036】
(実施例2)
1.原料の準備
原料として、実施例1と同様の0.4gのグラファイト成形体を準備した。
【0037】
2.複合焼結体の形成
原料である上記グラファイト成形体を、高温高圧発生装置を用いて、温度が2200℃で圧力が11GPaで100分間の焼結条件で、焼結させることにより、複合焼結体を得た。
【0038】
3.複合焼結体の物性評価
実施例1と同様にして、複合焼結体中のダイヤモンド相および非ダイヤモンド炭素相を確認および同定した。図1に、本実施例における複合焼結体の一断面のSEM写真を示した。非ダイヤモンド炭素相占有率は4%であり、ダイヤモンド相を形成する焼結ダイヤモンド粒子の平均粒径は70nmであり、非ダイヤモンド炭素相を形成する焼結非ダイヤモンド炭素粒子の平均粒径は110nmであり、複合焼結体のヌープ硬度は80GPaであった。さらに、実施例1と同様にして評価した伸線ダイスにおける断線頻度および伸線距離の相対値は、それぞれ0.25および135であった。実施例1と同様にして評価した切削工具における欠け量の相対値は、0.5であった。結果を表1にまとめた。
【0039】
(実施例3)
1.原料の準備
原料として、平均粒径が1500nmで純度が99.95質量%のグラファイト粉末と、平均粒径が1000nmで純度が99.9質量%のダイヤモンド粉末と、を質量比1:4で、ボールミルを用いて均一に混合した混合粉末0.4gを準備した。
【0040】
2.複合焼結体の形成
原料である上記混合粉末を、高温高圧発生装置を用いて、温度が2200℃で圧力が11GPaで50分間の焼結条件で、焼結させることにより、複合焼結体を得た。
【0041】
3.複合焼結体の物性評価
実施例1と同様にして、複合焼結体中のダイヤモンド相および非ダイヤモンド炭素相を確認および同定した。非ダイヤモンド炭素相占有率は10%であり、ダイヤモンド相を形成する焼結ダイヤモンド粒子の平均粒径は500nmであり、非ダイヤモンド炭素相を形成する焼結非ダイヤモンド炭素粒子の平均粒径は800nmであり、複合焼結体のヌープ硬度は60GPaであった。さらに、実施例1と同様にして評価した伸線ダイスにおける断線頻度および伸線距離の相対値は、それぞれ0.25および120であった。実施例1と同様にして評価した切削工具における欠け量の相対値は、0.6であった。結果を表1にまとめた。
【0042】
(実施例4)
1.原料の準備
原料として、グラファイト粉末とダイヤモンド粉末との混合比率を、質量比で9:11としたこと以外は、実施例3と同様にして、均一に混合した混合粉末0.4gを準備した。
【0043】
2.複合焼結体の形成
原料である上記混合粉末を、高温高圧発生装置を用いて、温度が2200℃で圧力が11GPaで50分間の焼結条件で、焼結させることにより、複合焼結体を得た。
【0044】
3.複合焼結体の物性評価
実施例1と同様にして、複合焼結体中のダイヤモンド相および非ダイヤモンド炭素相を確認および同定した。非ダイヤモンド炭素相占有率は30%であり、ダイヤモンド相を形成する焼結ダイヤモンド粒子の平均粒径は800nmであり、非ダイヤモンド炭素相を形成する焼結非ダイヤモンド炭素粒子の平均粒径は1300nmであり、複合焼結体のヌープ硬度は55GPaであった。さらに、実施例1と同様にして評価した伸線ダイスにおける断線頻度および伸線距離の相対値は、それぞれ0.20および110であった。実施例1と同様にして評価した切削工具における欠け量の相対値は、0.7であった。結果を表1にまとめた。
【0045】
(比較例1)
1.原料の準備
原料として、実施例1と同様の0.4gのグラファイト成形体を準備した。
【0046】
2.複合焼結体の形成
原料である上記グラファイト成形体を、高温高圧発生装置を用いて、温度が2200℃で圧力が15GPaで100分間の焼結条件で、焼結させることにより、複合焼結体を得た。
【0047】
3.複合焼結体の物性評価
実施例1と同様の方法で、複合焼結体中のダイヤモンド相を確認および同定したが、非ダイヤモンド炭素相は確認されなかった。ダイヤモンド相を形成する焼結ダイヤモンド粒子の平均粒径は50nmであり、複合焼結体のヌープ硬度は120GPaであった。さらに、実施例1と同様にして評価した伸線ダイスにおける断線頻度および伸線距離の相対値は、それぞれ1.00および100であった。実施例1と同様にして評価した切削工具における欠け量の相対値は、1.0であった。結果を表1にまとめた。
【0048】
(比較例2)
1.原料の準備
原料として、実施例1と同様の0.4gのグラファイト成形体を準備した。
【0049】
2.複合焼結体の形成
原料である上記グラファイト成形体を、高温高圧発生装置を用いて、温度が1900℃で圧力が11GPaで300分間の焼結条件で、焼結させることにより、複合焼結体を得た。
【0050】
3.複合焼結体の物性評価
実施例1と同様にして、複合焼結体中のダイヤモンド相および非ダイヤモンド炭素相を確認および同定した。非ダイヤモンド炭素相占有率は40%であり、ダイヤモンド相を形成する焼結ダイヤモンド粒子の平均粒径は150nmであり、非ダイヤモンド炭素相を形成する焼結非ダイヤモンド炭素粒子の平均粒径は200nmであり、複合焼結体のヌープ硬度は45GPaであった。さらに、実施例1と同様にして評価した伸線ダイスにおける断線頻度および伸線距離の相対値は、それぞれ0.17および80であった。実施例1と同様にして評価した切削工具における欠け量の相対値は、1.2であった。結果を表1にまとめた。
【0051】
【表1】
【0052】
表1を参照して、実施例1〜実施例4に示すダイヤモンド相と非ダイヤモンド炭素相とを含み、非ダイヤモンド炭素相占有率が30%以下である複合焼結体は、比較例1に示すダイヤモンド相のみを含む複合焼結体に比べて、および比較例2に示すダイヤモンド相と非ダイヤモンド炭素相とを含み、非ダイヤモンド炭素相占有率が40%の複合焼結体に比べて、伸線頻度が低く、伸線距離が長く、かつ欠け量が少なくなること、すなわち、耐摩耗性、耐局所摩耗性および耐欠け性が高くなったことが分かった。
【0053】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0054】
10 複合焼結体
11 ダイヤモンド相
12 非ダイヤモンド炭素相。
図1