(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態の説明]
図1は、本発明の第1実施形態に係る燃料電池発電システム100の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、燃料電池発電システム100は、カソード極11a、及びアノード極11bを備えた燃料電池11と、カソード極11aに空気(酸化剤ガス)を供給する第1空気ブロワ12(酸化剤ガス供給部)を備える。更に、第1空気ブロワ12より送出される空気を加熱する空気加熱熱交換器13と、燃料電池11のアノード極11bに燃料を供給する第1燃料ポンプ14と、第1燃料ポンプ14より燃料ガス流路Llを経由して送出される燃料を改質してアノード極11bに供給する燃料改質器15と、を備えている。なお、本実施形態では、酸化剤ガスの一例として空気を用いる例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、酸素を含むガスであれば空気以外のものを用いることができる。
【0011】
更に、アノード極11bより排出される燃料ガスを、燃料改質器15に循環させる燃料循環ブロワ17と、カソード極11aより排出される排気ガスが排気ガス流路L2を経由して導入され、この排気ガスが有する熱により、燃料改質器15を加熱する改質器加熱熱交換器16を備える。また、燃料循環ブロワ17の出力口と排気ガス流路L2との間に設けられ、アノード極11bより排出される燃料ガスの一部を排気ガス流路L2に導入する燃料流路圧力調整弁18と、改質器加熱熱交換器16の入口近傍の排気ガス流路L2に設けられ、排気ガス流路L2を経由して改質器加熱熱交換器16に導入される排気ガスの一部を外部へ排出する排気流路圧力調整弁19と、を備えている。
【0012】
また、第2空気ブロワ21より供給される空気(酸化剤ガス)と第2燃料ポンプ22より供給される燃料により燃焼して、加熱した空気をカソード極11aの酸化剤ガス供給口に導入する燃焼バーナ23を備えている。
【0013】
燃料電池11は、例えば、固体酸化物燃料電池(SOFC; Solid Oxide Fuel Cell)であり、アノード極11bに供給される改質された燃料と、カソード極11aに供給される空気により電力を発生させて、この電力をモータ等の電力需要設備に供給する。
【0014】
燃料改質器15は、改質器加熱熱交換器16より供給される熱により加熱され、第1燃料ポンプ14より供給される燃料を触媒反応を用いて改質し、改質後の燃料(水素ガスを含む改質燃料)を燃料電池11のアノード極11bに供給する。
【0015】
また、第1空気ブロワ12、第1燃料ポンプ14、第2空気ブロワ21、第2燃料ポンプ22、排気流路圧力調整弁19、燃料流路圧力調整弁18、及び燃料循環ブロワ17は、それぞれ制御部31に接続されている。制御部31は、例えば、CPU、RAM、ROM、及び各種の操作子等からなる装置であり、電力の出力要求に応じて各機器に制御信号を送信して各機器を制御する。特に、制御部31は、第1空気ブロワ12より出力する空気量(酸化剤ガス量)、及び第1燃料ポンプ14より出力する燃料量を制御する。
【0016】
また、制御部31は、燃料電池11を、第1運転モード、及び該第1運転モードよりも高出力、且つ高温度で運転する第2運転モード、を含む複数の運転モードのうちのいずれかに切り替えるように、第1空気ブロワより出力する空気量(酸化剤ガスの供給量)を制御する。
【0017】
更に、制御部31は、第2運転モードから、第1運転モードに切り替える際に、カソード極11aに供給する空気量を、第2運転モードでの定格流量である第2空気供給量(第2酸化剤ガス供給量)から、第1運転モードでの定格流量である第1空気供給量(第1酸化剤ガス供給量)へ変更する制御を行う。また、第2空気供給量から第1空気供給量への切替時に、第2空気供給量以下で、且つ、第1空気供給量よりも所定流量だけ増量した流量とする時間帯(後述する
図3のτ1,τ2参照)を設定する。更に、制御部31は、メモリ(図示省略)等の記憶部を備えており、該メモリに、第1運転モード及び第2運転モードでの単位時間当たりの放熱量を記憶している。これに加えて、カソード極11aに供給される空気量と、セル温度に基づく放熱量のデータを記憶している。
【0018】
次に、燃料電池発電システム100の、運転開始時における動作について説明する。本実施形態に係る燃料電池発電システム100は、燃焼バーナ23を駆動してシステムの起動を行う。また、電気ヒータ(図示省略)等により燃料電池11の加熱を制御することにより、該燃料電池11の運転温度を変化させ、且つ、燃料電池11のカソード極11aに供給する空気量、及びアノード極11bに供給する燃料量を変化させて、出力電力の変化に対応させる。
【0019】
運転開始時には、初期的な動作として、第2燃料ポンプ22を作動させ、且つ第2空気ブロワ21を起動させることにより、燃焼バーナ23に燃料及び空気を供給する。そして、該燃焼バーナ23を燃焼させ、この燃焼ガスを燃料電池11のカソード極11aに供給する。従って、燃料電池11は、燃焼バーナ23より供給される燃焼ガスにより昇温される。
【0020】
その後、燃料電池11の温度が、定格温度(例えば、650℃)に達した場合には、燃焼バーナ23を停止し、第1空気ブロワ12の出力に切り替える。この処理では、第1空気ブロワ12を起動することにより、該第1空気ブロワ12より空気(酸化剤ガス)が送出され、この空気は、空気加熱熱交換器13の低温側(熱を吸収する側)を通過し、その後、カソード極11aの酸化剤ガス供給口に導入される。この際、空気加熱熱交換器13の高温側(熱を放出する側)には、改質器加熱熱交換器16より排出される高温のガスが導入される。このため、第1空気ブロワ12より送出される空気は、高温ガスとの間の熱交換により加熱されて、カソード極11aの酸化剤ガス供給口に導入される。
【0021】
この際、空気加熱熱交換器13で加熱される空気は、通常、燃料電池11の定格温度よりも200〜300℃程度低い温度であるので、燃焼バーナ23から第1空気ブロワ12への切り替え直後には、カソード極11aの温度が一時的に低下する。しかし、発電を開始することに起因する発熱により、カソード極11aの温度が上昇して定格温度に達する。
【0022】
即ち、カソード極11aに導入された空気は、燃料電池11の発電時に生じる熱エネルギーにより加熱され、燃料電池11の温度とほぼ同一の温度となってカソード極11aの出口より排出される。従って、カソード極11aに供給される空気は、燃料電池11のセルやスタックの冷却媒体として機能しており、定格運転では燃料電池11の運転温度に対応した発電により発生する熱量と空気を含むガスへの伝達熱量がバランスするように運転条件(空気流量)が設定されている。
【0023】
そして、燃料電池11により、負荷に供給する電力が出力される。即ち、燃料電池11は、車両のモータに電力を供給して該モータを駆動させ、車両を走行させることが可能な状態となる。その後、発電が開始されると、例えば、燃料電池11のセル温度が650℃での運転(第1運転モードでの運転)、或いは、燃料電池11のセル温度が750℃での運転(第2運転モードでの運転)が行われる。
【0024】
次に、燃料電池発電システム100が稼働状態であるときの、燃料電池11の運転モードの切り替えについて説明する。以下では、一例として、燃料電池11が高出力時(例えば、車両が高速道路を走行する場合)に設定される第2運転モード(例えば、セル温度が750℃)から、燃料電池11の出力が相対的に低い第1運転モード(例えば、セル温度が650℃)に切り替える場合について説明する。なお、燃料電池11は、第1運転モード、及び第2運転モードを含む複数の運転モードのうちのいずれかの運転モードでの運転が可能である。
【0025】
図2は、燃料電池11の運転モードを、第2運転モードから第1運転モードに切り替える際の、各数値の変化(本発明を採用しない比較例での変化)を示す特性図である。
図2(a)はカソード極11aに供給される空気量、(b)はアノード極11bに供給される燃料量、(c)はセル出力、(d)はセル温度を示している。運転モードを第2運転モードから第1運転モードに切り替えるためには、セル温度を100℃だけ下降させる必要がある。
【0026】
図2に示す時刻t0にて、運転モードを第2運転モードから第1運転モードに切り替えるために、
図2(a),(b)に示すように、カソード極11aに供給する空気量、及びアノード極11bに供給する燃料量を、第1運転モードに対応する流量に設定する。具体的には、
図1に示した第1空気ブロワ12の出力、及び第1燃料ポンプ14の出力を変更することにより、空気量、及び燃料量を第1運転モードに対応する流量に変更する。これに伴って、
図2(c)に示すようにセル出力(セルによる発電量)は、第2運転モードの出力から第1運転モードの出力に切り替わる。
【0027】
そして、
図2に示す運転切り替え期間(t0〜t1の期間)では、
図2(d)に示すように、セル温度がT2(例えば、750℃;時刻t0)から徐々に低下し、T1(例えば、650℃;時刻t1)に達する。つまり、第1運転モードでの発電に伴う発熱量と、カソード極11aに供給される空気による持ち去り熱量とがバランスした状態となると、セル温度が第1運転モードの目標温度T1に達して安定する。
【0028】
このように、運転モードの切り替えは、カソード極11aに供給される空気により徐々にセルの温度を低下させることにより行われ、数分単位の比較的長い時間を要して行われる。このため、より迅速に運転モードを変更することが望まれる。
【0029】
また、運転モードの移行を速めるためのセル温度の下降方法として、アノード極11bに供給する燃料ガスの温度、或いはカソード極11aに供給する空気の温度を低下させる方法が知られている。しかし、この方法を採用する場合には、燃料ガスや空気の温度を低下させるために熱交換器や、冷却用の流体を供給するための経路、切り替え装置等の、追加の補機を設置する必要が生じる。よって、システムの複雑化やコストアップを伴うため、簡素なセル温度の低下方法が望まれる。本実施形態では、運転モードの切り替え期間において、カソード極11aに供給する空気量を、第1運転モードでの定格流量である第1空気供給量よりも所定流量だけ増量させることにより、セル温度の低下を促進させる。以下、
図3を参照して詳細に説明する。
【0030】
図3は本実施形態の運転モード切替時における各数値の変化を示す特性図であり、(a)はカソード極11aに供給する空気量、(b)はアノード極11bに供給する燃料量、(c)はセル出力、(d)はセル温度を示している。また、(e)は変形例に係るカソード極11aに供給する空気量を示している。
【0031】
本実施形態に係る燃料電池発電システム100では、時刻t0にて運転モードを第2運転モードから第1運転モードに切り替える場合、
図3(b)に示すように、この時刻t0にてアノード極11bに供給する燃料量を、第2運転モードでの燃料量から第1運転モードでの燃料量に切り替える。これに伴い、
図3(c)に示すように、セル出力(セルによる発電量)は時刻t0にて低減する。
【0032】
一方、
図3(a)に示すように、カソード極11aに供給する空気量は、時刻t0にて、燃料量が減量された後も、第2運転モードでの空気量(第2空気供給量)を維持する。その後、時刻t2にて空気量を減少させて第1運転モードでの空気量(第1空気供給量)となるように切り替える。即ち、制御部31は、第2運転モードから第1運転モードへの運転切替時に、カソード極11aに供給する空気量(酸化剤ガス量)を、第2運転モードでの定格流量である第2空気供給量(第2酸化剤ガス供給量)以下で、且つ、第1運転モードでの定格流量である第1空気供給量(第1酸化剤ガス供給量)よりも所定流量だけ増量した流量とする時間帯を設けている。例えば、
図3(a)に示す空気量は、τ1の時間帯で第1空気供給量よりも増量した流量とされている。
【0033】
従って、運転モードの切り替え期間では、セル出力(セルによる発電量)が減少しているにも関わらず、第2運転モードでの放熱量が継続されるので、相対的に放熱量が過多となる。従って、
図3(d)に示すように、放熱量が過多となったことにより、セル温度の低下が促進し、セル温度を早期に下降させることができる。その結果、セル温度を迅速にT2(例えば、750℃)から、T1(例えば、650℃)に切り替えることができる。運転モードの切り替えに要する時間は、t0〜t2に示す時間となり、
図2に示したt0〜t1の時間よりも短くなっている。
【0034】
また、
図3(a)に示した例は、切替期間中(t0〜t2の期間)にカソード極11aに供給する空気量を第2の運転モードでの定格流量となるようにして、セル温度の低下を促進する例について説明した。本実施形態では、第1運転モードでの空気の定格流量よりも多い流量とすれば、同様の効果を達成できる。例えば、
図3(e)に示す変形例のように、時刻t0にて、カソード極11aに供給する空気量を、第1空気供給量a2よりも所定流量a1だけ多い空気量まで低減し、この状態を時間τ2だけ継続し、その後、第1空気供給量a2まで低減させるようにしてもよい。即ち、
図3(e)に示す例では、時間τ2が、第2運転モードでの定格流量である第2空気供給量以下で、且つ、第1運転モードでの定格流量である第1空気供給量よりも所定流量だけ増量した流量とする時間帯である。
【0035】
図4は、燃料電池11内のセル流路の位置と、セルの温度変化を示す特性図である。
図4の横軸の左端はセルの燃料入り口(カソード空気出口)を示し、右端はセルの燃料出口(カソード空気入口)を示している。また、セルは第1運転モードで発電しているものとしている。
図4に示す曲線s1は、第2運転モードでの空気流量としたときのセル温度のセル流路内での温度変化を示し、曲線s3は、第1運転モードでの空気流量としたときのセル温度のセル流路内での温度変化を示し、曲線s2は、第2運転モードの空気流量の半分としたときのセル温度のセル流路内での温度変化を示している。
【0036】
図4に示す曲線s1と曲線s3を比較して理解されるように、第1運転モードでの空気量としたときと、第2運転モードでの空気量としたときで、セル温度に160℃程度の相違がある。従って、カソード極11aに供給する空気量を、運転モードの切り替え後においても第2運転モードでの空気量に保持することにより、セル温度を約160℃だけ低下させることができる。従って、第2運転モードと第1運転モードのセル温度の差が仮に100℃であれば、運転状態切り替え時にカソード極11aに供給する空気量を第2運転モードでの供給量に保持することだけで、セル温度の低下を行うことができる。
【0037】
但し、発電に伴う放熱を冷却する目的のカソード極11aに供給する空気量を増量すれば、セル温度を自由に低下させることは理論上可能であるが、実際にはセル温度が低下し過ぎるとセルは発電し難くなる。即ち、カソード極11aに供給する空気量が過剰になるとセル温度が部分的に低下し、セル内部で発電を行えない部分が多くなる。その結果、発電量の要求値を満たすため発電可能な部分での発電量を増加する必要が生じ、却って発電可能な部分のセル温度が上昇し、熱強度的に許容されるセルの上限温度を超える場合も発生する。従って、カソード極11aに供給する空気の増量は、セルの温度や発電効率等の制限を考慮して決定する必要がある。
【0038】
次に、本実施形態に係る燃料電池発電システム100の稼働運転時に、第2運転モードから第1運転モードに切り替える際の、具体的な処理手順について、
図6に示すフローチャートを参照して説明する。この処理は、
図1に示した制御部31により、例えば、100msのサンプリング時間で周期的に実行される。
【0039】
初めに、ステップS101において、制御部31は、モード切り替え指示が入力されているか否かを判断する。この処理では、例えば、現在の運転モードが第2運転モード(セル温度750℃で運転するモード)である場合に、第1運転モード(セル温度650℃で運転するモード)に切り替えるための切り替え信号が入力されているか否かを判断する。
【0040】
この切り替え信号は、例えば、車両が高速道路から一般道路へ進入して運転速度が低下した場合(例えば、車速が80Km/h から50Km/h に切り替わった場合)や、アクセル開度の変化が発生した場合に、車両のECU等の判断にて出力される。或いは、操作スイッチ(図示省略)を車両の運転者が手動操作することにより与えられる。そして、切り替え信号が入力されている場合には(ステップS101でYES)、ステップS102に処理を進める。また、切り替え信号が入力されていない場合には(ステップS101でNO)、ステップS101に処理を戻す。
【0041】
ステップS102において、制御部31は、切替後の運転モードである第1運転モードでの単位時間当たりの放熱量(これを、Q1とする)を取得する。この放熱量は、第1運転モードでの運転温度T1(例えば、650℃)に基づいて決定することができる。例えば、制御部31が有するメモリ(図示省略)に、各運転温度に対する単位時間当たりの放熱量を記憶することにより、取得することができる。
【0042】
ステップS103において、制御部31は、現在における、単位時間当たりのセル放熱量(これを、Q2とする)を取得する。この放熱量は、現在のセルの発電量とカソード空気流量及び温度に基づいて求めることができる。なお、第1運転モードの方が第2運転モードよりも発電量が小さいので、セル放熱量は、Q1<Q2となる。
【0043】
ステップS104において、制御部31は、上述のステップS102、及びステップS103の処理で取得した単位時間当たりの放熱量Q2,Q1に基づき、これらの差分である放熱量差分値ΔQ(=Q2−Q1)を算出する。
【0044】
ステップS105において、制御部31は、上記の処理で求められた放熱量差分値ΔQと、予め設定した放熱量閾値Qthを比較し、放熱量差分値ΔQが放熱量閾値Qth以下であるか否かを判断する。
【0045】
ステップS105において、ΔQ≦Qthでないと判断された場合には(ステップS105でNO)、ステップS106において、制御部31は、放熱量差分値ΔQに基づいて、カソード極11aに供給する空気の増量値(第1空気供給量に対する増量値)を計算する。また、第1運転モードでの発電量を用いて所定流量を設定する。運転切り替え中の空気量の制御は、セル温度に基づき、第1運転モードでの運転時の学習値等と制御系内におけるモデルを用いて行い、モデルはカソード極11aへの空気の供給にセルの冷却に係わる応答性を補償するものを用いる。また、運転モード切替時における放熱量差分値ΔQ、即ち、第1空気供給量での放熱量Q1と第2空気供給量での放熱量Q2との差分が小さいほど、所定流量a1を小さく設定する。つまり、
図7に示すように、セルの目標温度差とカソード極11aに供給する空気量の関係は、一次関数的に対応するので、この関係に当てはめることにより、より早くセル温度を第2運転モードの温度に到達させることができる。
【0046】
その後、ステップS107において、制御部31は、ステップS105の処理で求められた増量値だけ、カソード極11aに供給する空気量を増加するように、第1空気ブロワ12(
図1参照)を制御する。即ち、第2運転モードから第1運転モードへ切り替える際には、切替直後に第1運転モードでの空気供給量に上記の増量値に相当する空気量を増加した空気量となるように制御する。
図3に示す例では、
図3(a)に示すように、時刻t0の後においても、カソード極11aに供給する空気量は、第1運転モードでの空気供給量よりも増量されている。その後、ステップS101に処理を戻す。
【0047】
一方、ΔQ≦Qthであると判断された場合には(ステップS105でYES)、ステップS108において、カソード極11aへ供給する空気量の増量を停止する。即ち、ΔQ≦Qthであるということは、カソード極11aに供給する空気量を、第1運転モード時における空気量である第1空気供給量としても問題は無いものと推定されるので、空気量の増量を停止する。即ち、第1空気供給量となるように、第1空気ブロワ12を制御する(
図3(a)の時刻t2参照)。その後、ステップS109において、第1運転モードへの切り替えが終了する。こうして、セルの運転モードを第2運転モードから第1運転モードに切り替える際に、セル温度の低下が促進されるので、短時間で第1運転モードに切り替えることができるのである。
【0048】
このようにして、第1実施形態に係る燃料電池発電システム100では、第2運転モードから第1運転モードに切り替える際の切り替え期間において、カソード極11aに供給する空気量(酸化剤ガス量)を、第2運転モードでの定格流量である第2空気供給量(第2酸化剤ガス供給量)以下で、且つ、第1運転モードでの定格流量である第1空気供給量a2(第1酸化剤ガス供給量)よりも所定流量a1だけ増量した流量とする時間τ1(
図3(a)参照)を設けている。従って、カソード極11aに供給される空気に放出される熱量を増加させることができ、セル温度の低下を促進することができる。その結果、第2運転モードから第1運転モードへ切り替える際に、セル温度が速やかに下降し、早期に第1運転モードへ移行させることができる。
【0049】
また、運転切替時におけるカソード極11aに供給される空気による放熱量と、第2運転モードでのカソード極11aに供給される空気による放熱量との放熱量差分値ΔQに基づいて、所定流量a1(
図3(e)参照)が決定される。更に、第1運転モードでの発電量に基づいて、所定流量a1が決定される。従って、放熱量差分値ΔQの大きさに応じた好適な所定流量a1を設定することができ、迅速に第1運転モードから第2運転モードに切り替えることができる。
【0050】
更に、放熱量差分値ΔQが小さいほど、所定流量a1が小さくなるように設定するので、第2運転モードでの放熱量と第1運転モードでの放熱量の差分が小さい場合には、所定流量a1を小さくすることにより、第1空気供給量に達するまでの時間を短縮化でき、迅速に第1運転モードから第2運転モードに切り替えることができる。
【0051】
また、放熱量差分値ΔQが放熱量閾値Qth以下となった場合には、空気量の増量を停止するので、即時に第2運転モードへ切り替えることができる。
【0052】
[第2実施形態の説明]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。システムの構成は、
図1と同一である。以下、第2実施形態において、燃料電池11の運転モードを第2運転モードから第1運転モードに切り替える際の制御を、
図5に示す特性図を参照して説明する。
図5は第2実施形態の運転モード切替時における各数値の変化を示す特性図であり、(a)はカソード極11aに供給する空気量、(b)はアノード極11bに供給する燃料量、(c)はセル出力、(d)はセル温度を示している。
【0053】
第2実施形態では、
図5(b)に示すように、時刻t0で第2運転モードから第1運転モードに切り替える際に、発電量の急激な変化を抑制するために、アノード極11bに供給する燃料量を、段階的に減少させて第2運転モードで必要とする燃料量から第1運転モードで必要とする燃料量に切り替える。この際、通常の制御では(第2実施形態を採用しない従来の制御では)、アノード極11bに供給する燃料量を段階的に低減することに伴って、カソード極11aに供給する空気量を低減するので、
図5(a)の曲線s14のように、カソード極11aに供給される空気量は段階的に低減される。
【0054】
これに対して、第2実施形態に係る制御では、
図5(a)の曲線s13に示すように、曲線s14よりも1段階分だけ増量した空気量としている。即ち、燃料量に対して本来必要とされる空気量よりも、若干多い空気量となるように、カソード極11aに供給する空気量が制御される。その結果、
図5(d)に示すように、セル温度の低下が早まることになる。具体的には、空気量を
図5(a)の曲線s14のように低減させた場合(従来の場合)には、セル温度は、
図5(d)の曲線s12のように低下して、第2運転モードでのセル温度T2から第1運転モードでのセル温度T1まで変化する。一方、空気量を
図5(a)の曲線s13のように低減させた場合には、セル温度は、
図5(d)の曲線s11のように低下し、時刻t3にて第1運転モードでのセル温度T1まで低下することになる。
【0055】
即ち、制御部31は、第2運転モードから第1運転モードへの運転切替時に、カソード極11aに供給する空気量(酸化剤ガス量)を、第2運転モードでの定格流量である第2空気供給量(第2酸化剤ガス供給量)以下で、且つ、第1運転モードでの定格流量である第1空気供給量(第1酸化剤ガス供給量)よりも所定流量だけ増量した流量とする時間帯を設けている。
【0056】
このようにして、第2実施形態に係る燃料電池発電システムでは、第2運転モードから第1運転モードに切り替える際に、アノード極11bに供給する燃料量を段階的に減少させる。この際、カソード極11aに供給する空気量は、燃料量に対応する空気量よりも増量した空気量とされる。従って、前述した第1実施形態と同様に、第2運転モードから第1運転モードへ切り替える際に、セル温度が速やかに下降し、早期に第1運転モードへ移行させることができる。
【0057】
[第3実施形態の説明]
次に、本発明に係る燃料電池発電システムの第3実施形態について説明する。
図8は、第3実施形態に係る燃料電池発電システム100aの構成を示すブロック図である。
図8に示す燃料電池発電システム100aは、前述の
図1に示した燃料電池発電システム100に計器類を追加した構成である。以下、相違点についてのみ説明する。
【0058】
図8に示す燃料電池発電システム100aは、燃料電池11のカソード極11aの入口に設けられ、該カソード極11aに導入される空気の温度を測定する入口温度センサTcinと、カソード極11aの出口に設けられ、該カソード極11aから排出される空気の温度を測定する出口温度センサTcoutを備える。更に、燃料電池11のセパレータ温度を測定するセパレータ温度センサTsと、燃料電池11のアノード極11bの出口に設けられ、該アノード極11bから排出されるガスの温度を測定する出口温度センサTaoutと、を備えている。それ以外の構成は、
図1と同様であるので、同一符号を付して、構成説明を省略する。
【0059】
そして、第3実施形態に係る燃料電池発電システム100aでは、第2運転モードから第1運転モードへ切り替える際に、セル温度に基づいて、カソード極11aに供給する空気量を設定することにより、セル温度の低下を直接的に制御する。即ち、前述した第1実施形態では、セルの放熱量に基づいて空気量を演算したが、第3実施形態では、セル温度に基づいて、カソード極11aに供給する空気量を演算する。なお、以下では、センサを示す符号と、該センサより出力される温度を同一の符号で示すことにする。例えば、入口温度センサTcinで測定される温度を、同一の符号Tcinで示す。
【0060】
また、本実施形態の燃料電池発電システム100aでは、各センサTcin、Tcout、Ts、Taoutで検出される温度に基づき、燃料電池11のセル温度を算出する。即ち、
図8に示す4個のセンサTcin、Tcout、Ts、Taoutは、燃料電池11のセル温度を取得するセル温度取得部としての機能を備えている。
【0061】
次に、第3実施形態に係る燃料電池発電システム100aの稼働運転時に、第2運転モードから第1運転モードに切り替える際の、具体的な処理手順について、
図9に示すフローチャートを参照して説明する。この処理は、
図8に示した制御部31により実行される。また、この処理は例えば、100msのサンプリング時間で行われる。
【0062】
初めに、ステップS301において、制御部31は、モード切り替え指示が入力されているか否かを判断する。この処理では、例えば、現在の運転モードが第2運転モードである場合に、第2運転モードよりもセル温度が相対的に低い第1運転モードに切り替えるための切り替え信号が入力されているか否かを判断する。
【0063】
この切り替え信号は、前述した第1実施形態と同様に、例えば車両が高速道路から一般道路へ進入して運転速度が低下した場合(例えば、車速が80Km/hから50Km/hに切り替わった場合)や、アクセル開度の変化が発生した場合に、車両のECU等の判断にて出力される。或いは、操作スイッチ(図示省略)を車両の運転者が手動操作することにより与えられる。そして、切り替え信号が入力されている場合には(ステップS301でYES)、ステップS302に処理を進める。また、切り替え信号が入力されていない場合には(ステップS301でNO)、ステップS301に処理を戻す。
【0064】
ステップS302において、制御部31は、第1運転モードでのセル温度(これを、q1とする)を取得する。このセル温度は、例えば、650℃であり、メモリ(図示省略)に予め記憶されている。
【0065】
ステップS303において、制御部31は、現在におけるセル温度(これを、q2とする)を取得する。現在のセル温度は、
図8に示したセパレータ温度センサTsで検出されるセパレータ温度Tsに基づき、各温度センサTcin、Tcout、Taoutで検出される各温度を考慮して、総合的に決定することができる。なお、第1運転モードの方が第2運転モードよりもセル温度が低いので、セル温度は、q1<q2である。
【0066】
ステップS304において、制御部31は、ステップS302、及びステップS303の処理で取得したセル温度q2,q1に基づき、これらの差分である温度差分値Δq(=q2−q1)を算出する。
【0067】
ステップS305において、制御部31は、ステップS303の処理で取得した運転状態値(例えば、カソード極11aの出入口の温度、アノード極11bの出入口の温度)に基づき、セルの状態が許容される範囲にあるかを判断する。具体的には、燃料電池11のセパレータ温度Tsが許容温度以下であることや、アノード出口温度Taoutが予め与えられた温度範囲に収まっていることを確認する。
【0068】
セルの運転状態値が許容される範囲内である場合には(ステップS305でYES)、ステップS306に処理を進める。また、セルの運転状態値が許容される範囲内でない場合には(ステップS305でNO)、ステップS310に進める。つまり、カソード極11aに供給する空気は、発電に必要とされる酸素を供給することを目的としている。従って、セル温度の低下を促進することを目的として空気量を調整することにより、セルの温度が低下しすぎる場合、即ち、運転モード切替後で、セルの運転状態値が許容される範囲から逸脱する場合には、発電に必要とするセル温度を維持することが優先されるので、ステップS310以降の処理で、供給する空気量の増量を停止する。
【0069】
ステップS306において、制御部31は、ステップS304の処理で求められた温度差分値Δqと、予め設定した温度閾値qthを比較し、温度差分値Δqが温度閾値qth以下であるか否かを判断する。そして、Δq≦qthでないと判断された場合には(ステップS306でNO)、ステップS307において、制御部31は、カソード極11aに供給する空気の増加量、即ち、第1空気供給量に対して増加させる空気量(所定流量)を計算する。具体的には、
図3(e)に示した例で説明すると、第1空気供給量a2に対して増加させる所定流量a1を演算する。この演算では、セル温度に基づき、第1運転モードでの運転時の学習値等と制御系内におけるモデルを用いて行う。モデルはカソード極11aへの空気の供給にセルの冷却に係わる応答性を補償するものを用いる。
【0070】
この際、セル温度が発電を実行可能な温度を下回らないように、所定流量を設定する。即ち、空気量を増量させてセル温度の低下を促進する場合、セル温度が発電を実行できない程度に低下する恐れがあるので、これを防止するために発電を実行可能な温度を設定し、これを下回らないようにする。また、運転モード切替時における温度差分値Δq、即ち、第2運転モードでのセル温度q2と第1運転モードでのセル温度q1との差分が小さいほど、所定流量a1を小さく設定する。こうすることにより、より早くセル温度を第1運転モードの温度に到達させることができる。
【0071】
ステップS308において、制御部31は、増加させた空気量が、搭載している空気ブロワが供給可能な空気量(規程流量)以下であるか否かを判断する。そして、規程流量以下である場合には(ステップS308でYES)、ステップS309に処理を進める。また、規程流量を超えた場合には(ステップS308でNO)、ステップS310に処理を進める。
【0072】
ステップS309において、制御部31は、ステップS308の処理で求められた増量分だけカソード極11aに供給する空気量が増加するように、第1空気ブロワ12(
図8参照)を制御する。その後、ステップS303に処理を戻す。
【0073】
一方、ステップS306の処理で、Δq≦qthであると判断された場合には(ステップS306でYES)、ステップS310において、カソード極11aへ供給する空気の増量を停止する。即ち、「Δq≦qth」であるということは、セル温度が低下して第1運転モードにおけるセル温度に近い温度にあるということであり、カソード極11aに供給する空気量を、第1運転モードにおける定格流量である第1空気供給量としても問題は無いものと推定されるので、空気の増量を停止する。即ち、第1空気供給量となるように、第1空気ブロワ12を制御する。その後、ステップS311において、運転モードの切り替えが終了し、第1運転モードへ移行する。
【0074】
こうして、第2運転モードから第1運転モードに切り替える際には、カソード極11aに供給する空気によるセル温度の低下を促進するように空気量が制御されるので、第2運転モードのセル温度から第1運転モードのセル温度へ迅速に切り替えることができることとなる。
【0075】
このようにして、第3実施形態に係る燃料電池発電システム100aでは、運転モードを第2運転モードから第1運転モードへ切り替える際には、第1運転モードでのセル温度q1を取得し、更に、現在のセル温度q2を取得し、これらの差分である温度差分値Δqに基づいて、燃料電池11のカソード極11aに供給する空気の減少量である所定流量a1を設定する。
【0076】
つまり、セル温度q2を、各センサで求められる温度Ts,Tcin,Tcout,Taoutに基づいて演算し、このセル温度q2と、第1運転モードでのセル温度q1との温度差分値Δqに基づいてカソード極11aに供給する空気量の、第1空気供給量a2に対する減少量である所定流量a1を演算する。
【0077】
そして、
図3(e)に示した時間τ2だけカソード極11aに供給する空気量を第1空気供給量に対して増量させた後、第1空気供給量に切り替える。従って、前述した第1実施形態と同様に、第2運転モードから第1運転モードへ切り替える際に、セル温度を速やかに低下させて、早期に第1運転モードへ移行させることができる。
【0078】
また、前述した第1実施形態では、カソード極11aに供給する空気量に基づいて、燃料電池11の放熱量Q2を算出し、第1運転モードでの放熱量Q1と比較することにより、カソード極11aに供給する空気の増加量を算出した。これに対して、第2実施形態では、燃料電池11の周囲に設けた各温度センサで検出される温度から、燃料電池11のセル温度q2を求め、第1運転モードでのセル温度q1と比較することにより、カソード極11aに供給する空気の減少量である所定流量a1を算出している。従って、前述した第1実施形態よりも、より高精度に空気の増加量である所定流量a1を算出でき、運転モード切替時間の短縮化を図ることができる。
【0079】
また、セル温度が発電を実行可能な温度を下回らないように、所定流量a1が設定されるので、カソード極11aに供給する空気量を増量することにより、発電効率が低下するという問題の発生を回避できる。
【0080】
更に、温度差分値Δqが小さいほど、所定流量a1が小さくなるように設定するので、第2運転モードでのセル温度q2と第1運転モードでのセル温度q1の差分が小さい場合には、所定流量a1を小さくすることにより、第1運転モードのセル温度q1に達するまでの時間を短縮化でき、迅速に第2運転モードから第1運転モードに切り替えることができる。
【0081】
また、温度差分値Δqが温度閾値qth以下となった場合には、空気量の増量を停止するので、即時に第2運転モードへ切り替えることができる。
【0082】
更に、運転モードの切り替えを行った後、第1空気供給量に対して空気量を所定流量a1だけ増量している際に、システムの運転状態を示す数値が所定範囲を逸脱する場合には、空気量の増量を停止する。従って、カソード極11aに供給する空気量が過多となり、発電できなくなるという問題の発生を回避することができる。
【0083】
また、前述した第3実施形態では、各温度センサで検出される温度Ts,Tcin,Tcout,Taoutを用いてセル温度を算出する例について説明したが、これらの温度Ts,Tcin,Tcout,Taoutを直接的に測定せず、間接的に推定する方法を採用することも可能である。更に、燃料電池11より出力される電流と電圧を測定し、測定した電流、電圧との関係からセル温度を取得することも可能である。この場合には、燃料電池11の出力電流を測定する電流計(図示省略)、及び出力電圧を測定する電圧計(図示省略)がセル温度取得部としての機能を有する。このような構成とすれば、セル温度をより簡単な方法で取得することができ、装置構成を簡素化することができる。
【0084】
以上、本発明の燃料電池発電システムを図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【0085】
例えば、上記した各実施形態では、一例として650℃〜750℃の範囲で燃料電池11の運転温度を変化させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の温度範囲においても適用することができる。設定する温度範囲は、燃料電池11の動作環境に応じて、適宜変更が可能である。
【0086】
上記した実施形態では、酸化剤ガスの一例として空気を用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、酸素を含む他のガスを用いることも可能である。