【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
実施例1におけるインホイールモータ車用ステアリング装置(車両用ステアリング装置の一例)の構成を、「モータ駆動転舵輪の全体構成」、「転舵機構の詳細構成」に分けて説明する。
【0011】
[モータ駆動転舵輪の全体構成]
図1は、インホイールモータ車用ステアリング装置が適用されたモータ駆動転舵輪を転舵機構及びサスペンション機構と共に示す。以下、
図1に基づき、モータ駆動転舵輪の全体構成を説明する。
【0012】
モータ駆動転舵輪1は、
図1に示すように、インホイールモータ駆動ユニット2と、ユニットケース3と、ホイールハブ4と、ブレーキディスク5と、を備えている。
【0013】
前記モータ駆動転舵輪1は、個々のインホイールモータ駆動ユニット2を一体化して備え、インホイールモータ駆動ユニット2により個別にホイールセンタCLの周りに回転駆動される。そのため、インホイールモータ駆動ユニット2は、ユニットケース3内に、図示していない電動モータ及び減速機(変速機)を内蔵し、減速機の入力軸に電動モータを結合し、減速機の出力軸にホイールハブ4を結合する。
【0014】
前記ホイールハブ4は、モータ駆動転舵輪1を結合すると共に、ブレーキディスク5を結合し、これにより電動モータからの動力を減速機による減速下でモータ駆動転舵輪1へ伝達することで車両を走行可能にする。そして、ブレーキディスク5を、インホイールモータ駆動ユニット2に取着した図示しないブレーキキャリパにより軸線方向両側から挟圧することで車両を制動可能にする。
【0015】
サスペンション機構は、
図1に示すように、アッパーアーム6と、ロアアーム7と、サードリンク8と、ショックアブシャフト9と、インシュレータ10と、ナックル11と、を備えている。このサスペンション機構によりユニットケース3を介して車体に懸架されたモータ駆動転舵輪1は、ショックアブシャフト9により上下振動を減衰しながら、インホイールモータ駆動ユニット2と共に上下方向へバウンド/リバウンド可能である。
【0016】
前記アッパーアーム6は、ユニットケース3の上方において車幅方向へ延在する上側サスペンションアームであり、車体側支持部6aとサードリンク側支持部6bを有する。つまり、アッパーアーム6は、サードリンク8の上端部を車体に対し揺動可能に支持する。
【0017】
前記ロアアーム7は、ユニットケース4の下方において車幅方向へ延在する下側サスペンションアームであり、車体側支持部7aとナックル側支持部7bを有する。つまり、ロアアーム7は、ユニットケース3に固定されたナックル11のナックル下端部11bを車体に対し揺動可能に支持する。
【0018】
前記サードリンク8は、アッパーアーム6とショックアブシャフト9とナックル11に連結される第3のサスペンション部材である。アッパーアーム6とは、サードリンク側支持部6bを介して揺動可能に支持される。ショックアブシャフト9とは、ピストンロッド9aの下端部に揺動可能に支持される。ナックル11とは、ナックル上端部11aを介して回動可能(回動軸は、キングピン軸Kpを中心とする軸)に支持される。
【0019】
前記ショックアブシャフト9は、ショックアブソーバとコイルスプリングを同軸配置したストラットタイプであり、ピストンロッド9aとシリンダ9bを有する。ピストンロッド9aの下端部は、サードリンク8に揺動可能に支持される。シリンダ9bの上端部は、インシュレータ10を介して車体に弾性支持される。
【0020】
前記ナックル11は、ユニットケース3に一体に固定された車輪転舵部材であり、ユニットケース3から上方に延設されたナックル上端部11aと、ユニットケース3から下方に延設されたナックル下端部11bを有する。ナックル上端部11aは、サードリンク8に連結されると共に、転舵軸12(キングピン軸Kpと同軸配置)を介して後述する転舵機構S1の不等速フェースギヤ23に連結される。ナックル下端部11bは、ナックル側支持部7bを介してロアアーム7に連結される。ナックル上端部11aとナックル下端部11bを結ぶ軸がキングピン軸Kpであり、モータ駆動転舵輪1及びインホイールモータ駆動ユニット2は、このキングピン軸Kpの周りに転舵可能であり、車両の操向を行うことができる。
【0021】
[転舵機構の詳細構成]
図2〜
図7は実施例1のインホイールモータ車用ステアリング装置における転舵機構S1を示す。以下、
図2〜
図7に基づき、実施例1の転舵機構S1の詳細構成を説明する。
【0022】
前記転舵機構S1は、
図2及び
図3に示すように、ギヤケース21と、ピニオンギヤシャフト22と、不等速フェースギヤ23(交差軸ギヤ)と、押し付けバネ24(押し付け部材)と、押し付け力調整プレート25(押し付け力調整部材)と、を備えている。この転舵機構S1は、キングピン軸Kpの軸線上の上部位置に配置され、不等速フェースギヤ23の回転によりキングピン軸Kpの周りにモータ駆動転舵輪1を転舵させる。
【0023】
前記ギヤケース21は、ギヤ支持ケース部21aと、シャフト支持ケース部21bと、ケース蓋部21cと、を有して構成される。ギヤ支持ケース部21aは、サードリンク8に固定され、不等速フェースギヤ23をキングピン軸Kpの周りに回転可能で、かつ、キングピン軸Kpの軸方向に変位可能に支持する。シャフト支持ケース部21bは、ギヤ支持ケース部21aに固定され、ピニオンギヤシャフト22を、キングピン軸Kpからオフセットした位置であり、かつ、キングピン軸Kpと直交するシャフト軸SAの周りに回転可能に支持する。ケース蓋部21cは、シャフト支持ケース部21bにボルト等により固定され、ギヤ室26を上面から塞ぐ。
【0024】
前記ピニオンギヤシャフト22は、ギヤケース21のシャフト支持ケース部21bに回転可能に支持されたピニオンギヤ付き軸部材であり、ピニオンギヤ部22aと、第1ケース支持部22bと、第2ケース支持部22cと、操舵系連結部22dと、を有する。ピニオンギヤ部22aは、不等速フェースギヤ23のギヤ部23aに対し噛み合う。第1ケース支持部22bと第2ケース支持部22cは、シャフト支持ケース部21bに対し第1ベアリングシール27と第2ベアリングシール28を介して回転可能なシール状態で両端支持される。操舵系連結部22dは、運転者が車両の操向に当たって操作する図示しないステアリングホイールに機械的に連結され、ステアリングホイールから回転する操舵力を入力する。
【0025】
前記不等速フェースギヤ23は、キングピン軸Kpと同軸配置であり、ギヤケース21の軸穴21dに挿通配置される転舵軸12に対してキー固定により連結されたもので、ギヤ歯部23aと、ギヤ背面部23bと、軸穴部23cと、キー溝23dと、を有する。ギヤ歯部23aは、ピニオンギヤ部22aとの噛み合い(ギヤ噛み合い部29)により回転すると共に歯形状を回転位相によって変化させている。ギヤ背面部23bは、ギヤケース21への弾性支持面である。軸穴部23c及びキー溝23dは、転舵軸12をキー固定するための構成である。
【0026】
前記押し付けバネ24は、
図2及び
図3に示すように、不等速フェースギヤ23のギヤ噛み合い部29の下方位置に、ギヤ噛み合い力を増す方向の押し付け力を与える押し付け部材として配置されたコイルバネ部材である。この押し付けバネ24は、押し付け力調整プレート25に対して球面接触する中間部材30を有し、押し付けバネ力を、中間部材30→押し付け力調整プレート25→ギヤ背面部23bを介してギヤ噛み合い部29に与えるようにしている。
【0027】
前記押し付け力調整プレート25は、不等速フェースギヤ23の背面位置に固定され、不等速フェースギヤ23の回転位相に応じて、押し付けバネ24による押し付けバネ力を変える押し付け力調整部材である。この押し付け力調整プレート25は、キングピン軸方向のプレート高さを回転位相により変化させることで押し付けバネ力を設定するようにしている。例えば、
図2に示す回転位相Aの場合は、キングピン軸方向のプレート高さを低くし、押し付けバネ力を低く設定している。一方、
図3に示す回転位相Bの場合は、キングピン軸方向のプレート高さを高くし、押し付けバネ力を高く設定している。
【0028】
前記不等速フェースギヤ23の詳細構成を、
図4〜
図6に基づき説明する。自動車の転舵時には、旋回外輪よりも旋回内輪の転舵角が大きくなることが望ましい。それに対応するため、
図4に示すように、不等速フェースギヤ23のギヤ歯部23aの形状や、半径方向(内端〜外端)の歯位置を回転位相によって変化させている。すなわち、ギヤ歯部23aが外端側にある回転位相Aの領域では、
図5に示すように、小さな圧力角αによる歯形状としている。一方、ギヤ歯部23aが内端側にある回転位相Bの領域では、
図6に示すように、大きな圧力角αによる歯形状としている。
これにより、同じピニオンギヤ部22aの回転角速度でも、不等速フェースギヤ23の回転角速度は連続的に変化する(バリアブルギヤ比)。しかし、不等速フェースギヤ23のギヤ噛み合い部29の位置は、軸心(キングピン軸Kp)から離れた位置にあるため、ギヤ噛み合い部29に力が作用する負荷時には、不等速フェースギヤ23をキングピン軸Kpに対して倒そうとするモーメントが発生する。
【0029】
図7に不等速フェースギヤ23に作用する接線力Ftとラジアル力Frの関係と、回転位相(フェースギヤ回転角)による圧力角αの関係の一例を示す。不等速フェースギヤ23の回転位相Aの領域(例えば、フェースギヤ回転角が0°〜60°)では、圧力角αは小さいのに対し、不等速フェースギヤ23の回転位相Bの領域(例えば、フェースギヤ回転角が0°〜-60°)の場合、圧力角αは回転位相Aに比べて大きくなる。そして、接線力Ftとラジアル力Frと圧力角αの関係は、
Fr=Ft×tanα …(1)
となる。
このため、接線力Ftに対するラジアル力Frは、回転位相(圧力角α)によって異なる。このラジアル力Frが、不等速フェースギヤ23の倒れモーメントの要因となるため、これをキャンセルする押し付け力が必要となる。これに対し、押し付け力調整プレート25を、不等速フェースギヤ23の歯面に加わる噛み合い接線力Ftと圧力角αにより得られるラジアル力Frの変化に合わせて押し付けバネ力を変えるようにしている。
【0030】
次に、作用を説明する。
実施例1のインホイールモータ車用ステアリング装置における作用を、「不等速フェースギヤの剛性ガタ性能向上作用」、「他の特徴作用」に分けて説明する。
【0031】
[不等速フェースギヤの剛性ガタ性能向上作用]
キングピン軸の軸線上に配置され、交差軸ギヤの回転によりキングピン軸の周りにタイヤを転舵させる転舵機構を備えた自動車用ステアリング装置では、高剛性でありガタが無いことが求められる。このため、交差軸ギヤのバックラッシュを除去するために交差軸ギヤの軸方向から押し付け力を与えることが望ましい。しかし、交差軸ギヤのギヤ噛み合い部は軸中心からずれた位置にあるため、負荷によって交差軸ギヤにモーメントが発生し、倒れてしまう。これにより剛性ガタ性能が悪化してしまう。
【0032】
これに対し、実施例1では、不等速フェースギヤ23のギヤ噛み合い部29の下方位置に、ギヤ噛み合い力を増す方向の押し付け力を与える押し付けバネ24を配置する構成とした。
よって、キングピン軸Kpの周りにモータ駆動転舵輪1を転舵させるとき、不等速フェースギヤ23のギヤ噛み合い部29の下方位置に配置した押し付けバネ24により、ギヤ噛み合い押し付け力が与えられた状態で不等速フェースギヤ23が回転する。
すなわち、転舵時等において不等速フェースギヤ23に噛み合い負荷が生じたとき、ギヤ噛み合い部29に与えられた押し付け力が、ギヤ歯面間の隙間を縮める方向に作用(バックラッシュ除去作用)するだけでなく、噛み合い負荷を低減する方向、つまり、モーメントの発生をキャンセルする方向に作用する。この結果、モーメントの発生による不等速フェースギヤ23の軸倒れを抑制することで、不等速フェースギヤ23の噛み合い剛性ガタ性能を向上することができる。
【0033】
[他の特徴作用]
上記のように、交差軸ギヤのギヤ噛み合い部に押し付け力を与えるとき、不等速フェースギヤ23のように歯の形状が変化するにもかかわらず、押し付け力を変化させない場合を比較例とする。この比較例の場合、最も大きい押し付け力が必要な回転位相に合わせて押し付け力を設定すると、それ以外の回転位相では、過渡な押し付け力が発生し、フリクションが増大してしまう。逆に、最も小さい押し付け力でよい回転位相に合わせて押し付け力を設定すると、他の回転位相のときに押し付け力が不足し、剛性ガタ性能が悪化してしまう。
【0034】
これに対し、実施例1では、歯形状が変化する不等速フェースギヤ23の回転位相に応じて、押し付けバネ24による押し付けバネ力を変える押し付け力調整プレート25を配置する構成とした。
これにより、不等速フェースギヤ23の歯形状変化によって変化する噛み合いラジアル力に対応して、最適な押し付けバネ力を与えることができる。つまり、
図2に示す回転位相Aよりも
図3に示す回転位相Bの方が、圧力角αが大きく、ラジアル力Frも大きくなるため、押し付けバネ24のバネ縮み量も大きくなっている。このように、ラジアル力Frはtanαに比例して変化するため、バネ縮み量も同様にtanαに比例して変化させることが望ましい。
したがって、歯形状が変化する不等速フェースギヤ23のいずれの回転位相でも、フリクション増大や剛性ガタ性能悪化が抑制される。
【0035】
実施例1では、押し付け力調整プレート25を、不等速フェースギヤ23の歯面に加わる噛み合い接線力Ftと圧力角αにより得られるラジアル力Frの変化に合わせて押し付けバネ力を変える部材とする構成とした。
すなわち、不等速フェースギヤ23のギヤ噛み合い部29に作用するラジアル力Frに対し、逆方向で同じ力の押し付けバネ力を与えると、狙いとするモーメントの発生をキャンセルする作用が得られる。
これに対し、ラジアル力Frの変化に合わせて押し付けバネ力を変えることで、具体的な押し付けバネ力の最適値に設定できる。
【0036】
実施例1では、押し付け力調整プレート25を、キングピン軸方向のプレート高さを回転位相により変化させることで押し付けバネ力を設定する構成とした。
すなわち、押し付け力調整プレート25のキングピン軸方向のプレート高さを変化させるだけで、押し付けバネ力が回転位相により変化する。
したがって、押し付けバネ力を回転位相により変化させるための新たな部品を必要としないので、コスト増を抑制できる。
【0037】
次に、効果を説明する。
実施例1のインホイールモータ車用ステアリング装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0038】
(1) キングピン軸Kpの軸線上に配置され、交差軸ギヤ(不等速フェースギヤ23)の回転によりキングピン軸Kpの周りにタイヤ(モータ駆動転舵輪1)を転舵させる転舵機構S1を備えた車両用ステアリング装置(インホイールモータ車用ステアリング装置)において、
交差軸ギヤ(不等速フェースギヤ23)のギヤ噛み合い部29の下方位置に、ギヤ噛み合い力を増す方向の押し付け力を与える押し付け部材(押し付けバネ24)を配置した(
図2)。
このため、交差軸ギヤ(不等速フェースギヤ23)の噛み合い剛性ガタ性能を向上することができる。
【0039】
(2) 押し付け部材を、交差軸ギヤ(不等速フェースギヤ23)のギヤ噛み合い部29に押し付けバネ力を与えるバネ部材(押し付けバネ24)により構成した(
図2)。
このため、(1)の効果に加え、押し付け部材をバネ部材(押し付けバネ24)により構成するため、簡単で安価な押し付け機構を構成することができる。
【0040】
(3) 交差軸ギヤを、転舵入力により回転するピニオンギヤ(ピニオンギヤ部22a)との噛み合いにより回転すると共に、歯形状を回転位相によって変化させた不等速フェースギヤ23とし、
不等速フェースギヤ23の回転位相に応じて、バネ部材(押し付けバネ24)による押し付けバネ力を変える押し付け力調整部材(押し付け力調整プレート25)を配置した(
図3)。
このため、(2)の効果に加え、歯形状が変化する不等速フェースギヤ23のいずれの回転位相でも、フリクション増大や剛性ガタ性能悪化を抑制することができる。
【0041】
(4) 押し付け力調整部材(押し付け力調整プレート25)を、不等速フェースギヤ23の歯面に加わる噛み合い接線力Ftと圧力角αにより得られるラジアル力Frの変化に合わせて押し付けバネ力を変える部材とした(
図7)。
このため、(1)の効果に加え、ラジアル力Frの変化に合わせて押し付けバネ力を変えることで、具体的な押し付けバネ力の最適値に設定することができる。
【0042】
(5) 押し付け力調整部材を、不等速フェースギヤ23の背面位置に固定した押し付け力調整プレート25とし、
押し付け力調整プレート25は、キングピン軸方向のプレート高さを回転位相により変化させることで押し付けバネ力を設定した(
図2)。
このため、(1)の効果に加え、回転位相により押し付けバネ力を変化させるに際、新たな部品を必要としないので、コスト増を抑制することができる。
【実施例2】
【0043】
実施例2は、不等速フェースギヤの半径方向の2箇所位置に2つのバネ部材を配置した例である。
【0044】
まず、構成を説明する。
図8は実施例2のインホイールモータ車用ステアリング装置における転舵機構S2を示す。以下、
図8に基づき、実施例2の転舵機構S2の詳細構成を説明する。
【0045】
前記転舵機構S2は、
図8に示すように、ギヤケース21と、ピニオンギヤシャフト22と、不等速フェースギヤ23(交差軸ギヤ)と、第1バネ24a(第1バネ部材)と、第2バネ24b(第2バネ部材)と、押し付け力調整プレート25(押し付け力調整部材)と、を備えている。この転舵機構S2は、実施例1と同様に、キングピン軸Kpの軸線上の上部位置に配置され、不等速フェースギヤ23の回転によりキングピン軸Kpの周りにモータ駆動転舵輪1を転舵させる。
【0046】
前記第1バネ24a及び第2バネ24bは、
図8に示すように、不等速フェースギヤ23の半径方向の2箇所位置であって、不等速フェースギヤ23に形成されているギヤ歯部23aの径方向位置変化の範囲よりも内径側位置と外径側位置にそれぞれ配置される。この第1バネ24a及び第2バネ24bは、押し付け力調整プレート25に対して球面接触する第1中間部材30a及び第2中間部材30bを有する。そして、2点からの押し付けバネ力を、両中間部材30a,30b→押し付け力調整プレート25→ギヤ背面部23bを介してギヤ噛み合い部29に与えるようにしている。なお、全体構成及び他の構成は、実施例1と同様であるので図示並びに説明を省略する。
【0047】
次に、作用を説明すると、実施例2では、回転位相によって変化するギヤ歯部23aの半径方向位置(内端〜外端)の範囲よりも外側に2つの第1バネ24a及び第2バネ24bを配置する構成としている。
したがって、ギヤ噛み合い部29をキングピン軸方向に支持するとき、2点支持構成となるため、ギヤ噛み合い部29の噛み合い傾きが抑えられ、軸方向支持が安定する。
したがって、不等速フェースギヤ23のギヤ歯部23aの半径方向位置が変わっても、不等速フェースギヤ23の軸倒れモーメントを安定してキャンセルさせる。なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0048】
次に、効果を説明する。
実施例2のインホイールモータ車用ステアリング装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0049】
(6) バネ部材として、不等速フェースギヤ23の半径方向の2箇所位置に配置した第1バネ24aと第2バネ24bを備え、
第1バネ24aと第2バネ24bを、不等速フェースギヤ23に形成されている歯(ギヤ歯部23a)の径方向位置変化の範囲よりも内径側位置と外径側位置にそれぞれ配置した(
図8)。
このため、(1)〜(5)の効果に加え、不等速フェースギヤ23の歯(ギヤ歯部23a)の半径方向位置が変わっても、不等速フェースギヤ23の軸倒れモーメントを安定してキャンセルすることができる。
【実施例3】
【0050】
実施例3は、バネ部材として、不等速フェースギヤの周方向に沿った複数箇所に設けたバネ群を備えた例である。
【0051】
まず、構成を説明する。
図9〜
図12は実施例3のインホイールモータ車用ステアリング装置における転舵機構S3を示す。以下、
図9〜
図12に基づき、実施例3の転舵機構S3の詳細構成を説明する。
【0052】
前記転舵機構S3は、
図9〜
図12に示すように、ギヤケース21と、ピニオンギヤシャフト22と、不等速フェースギヤ23(交差軸ギヤ)と、バネ群24-1〜24-5(バネ部材)と、押し付け力調整プレート25’(押し付け力調整部材)と、を備えている。この転舵機構S3は、実施例1と同様に、キングピン軸Kpの軸線上の上部位置に配置され、不等速フェースギヤ23の回転によりキングピン軸Kpの周りにモータ駆動転舵輪1を転舵させる。
【0053】
前記バネ群24-1〜24-5は、不等速フェースギヤ23の周方向に沿った5箇所に埋め込み状態にて設けられ、バネ群24-1〜24-5の各バネ定数を、回転位相に応じて押し付けバネ力が変化するようにコイル線径を変えることで異ならせている。バネ群24-1〜24-5は、ケース固定の押し付け力調整プレート25’に対して球面接触する中間部材30-1〜30-5をそれぞれ有する。そして、押し付けバネ力を、押し付け力調整プレート25’→中間部材30-1〜30-5→ギヤ背面部23bを介してギヤ噛み合い部29に与えるようにしている。そして、バネ群24-1〜24-5の各バネの配置は、
図10及び
図11に示すように、不等速フェースギヤ23に形成されたギヤ歯部23aの位置の半径方向の変化に合わせて変えている。
【0054】
前記押し付け力調整プレート25’は、
図9に示すように、ギヤケース21のギヤ支持ケース部21a(転舵機構ケース)に固定され、不等速フェースギヤ23の背面位置に配置している。この押し付け力調整プレート25’は、
図12に示すように、噛み合い位置近傍(矢印E)で押し付けバネ力が大きくなり、回転によって噛み合い位置から外れるほど押し付けバネ力が小さくなるようにプレート高さを設定している。なお、全体構成及び他の構成は、実施例1と同様であるので図示並びに説明を省略する。
【0055】
次に、作用を説明する。
バネ群24-1〜24-5及び中間部材30-1〜30-5は、不等速フェースギヤ23に埋め込まれ、不等速フェースギヤ23とともに回転する。このとき、バネ群24-1〜24-5のそれぞれは、回転位相ごとに必要な押し付け力に応じて異なるばね定数が設定される。また、バネ群24-1〜24-5の半径方向の位置は、不等速フェースギヤ23のギヤ歯部23aの位置に応じて変化させている。したがって、不等速フェースギヤ23のギヤ歯部23aとバネ群24-1〜24-5の軸方向位置を略一致させることで、不等速フェースギヤ23を回転させるとき、軸倒れモーメントをキャンセルすることができる。
【0056】
また、実施例3では、ケース固定の押し付け力調整プレート25’を備える。不等速フェースギヤ23の噛み合い位置近傍で、バネが最も縮むように、押し付け力調整プレート25’の厚さを設定し、噛み合い位置から離れるにつれて、薄くなるように設定している。これにより、噛み合い位置近傍では押し付けバネ力が発生し、噛み合い位置から離れるにつれてバネが自由長に戻るため、押し付けバネ力が働かなくなる。
【0057】
さらに、実施例3では、バネ群24-1〜24-5が不等速フェースギヤ23とともに回転するため、噛み合い位置近傍のみで押し付けバネ力が作用して軸倒れを抑制し、噛み合い位置から離れた位置では作用しない。このため、意図しない軸倒れモーメントが発生しない。なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0058】
次に、効果を説明する。
実施例3のインホイールモータ車用ステアリング装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0059】
(7) バネ部材として、不等速フェースギヤ23の周方向に沿った複数箇所に設けたバネ群24-1〜24-5を備え、
バネ群24-1〜24-5の各バネ定数を、回転位相に応じて押し付けバネ力が変化するように異ならせた(
図9)。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、バネ群24-1〜24-5を不等速フェースギヤ23に埋め込んで配置できることで、転舵機構S3の軸方向寸法を短縮して小型化を図ることができる。
【0060】
(8) バネ群24-1〜24-5の各バネの配置を、不等速フェースギヤ23に形成された歯(ギヤ歯部23a)の位置の半径方向の変化に合わせて変えた(
図10、
図11)。
このため、(7)の効果に加え、押し付けバネ力の発生位置をギヤ噛み合い部29に合わせて設定できることで、効果的に軸倒れを抑制することができる。
【0061】
(9) 押し付け力調整部材を、転舵機構ケース(ギヤ支持ケース部21a)に固定され、不等速フェースギヤ23の背面位置に配置した押し付け力調整プレート25’とし、
押し付け力調整プレート25’は、噛み合い位置近傍で押し付けバネ力が大きくなり、回転によって噛み合い位置から外れるほど押し付けバネ力が小さくなるようにプレート高さを設定した(
図12)。
このため、(8)の効果に加え、意図しない軸倒れモーメントが発生しないことで、不等速フェースギヤ23の回転に対し安定して軸倒れを抑制することができる。
【0062】
以上、本発明の車両用ステアリング装置を実施例1〜実施例3に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0063】
実施例1,2では、不等速フェースギヤ23と押し付け力調整プレート25を別部品とした例を示した。しかし、不等速フェースギヤと押し付け力調整プレートは、一部品として構成してもよい。
【0064】
実施例3では、ギヤケース21(ギヤ支持ケース部21a)と押し付け力調整プレート25’を別部品とした例を示した。しかし、ギヤケースと押し付け力調整プレートは、一部品として構成してもよい。
【0065】
実施例1〜3では、押し付け部材として、バネ部材(押し付けバネ24、第1バネ24a、第2バネ24b、バネ群24-1〜24-5)を用いる例を示した。しかし、押し付け部材としては、ギヤ噛み合い部に押し付け力を付与できる部材であれば、ゴム等による弾性部材、弾性部材とバネ部材の複合部材等を用いても良い。
【0066】
実施例1〜3では、交差軸ギヤとして、転舵入力により回転するピニオンギヤとの噛み合いにより回転すると共に、歯形状を回転位相によって変化させた不等速フェースギヤの例を示した。しかし、交差軸ギヤとしては、歯形状を回転位相にかかわらず一定とした等速フェースギヤであっても良い。
【0067】
実施例1〜3では、本発明の車両用ステアリング装置をインホイールモータ車に適用する例を示した。しかし、本発明の車両用ステアリング装置は、インホイールモータ車に限らず、エンジン車、ハイブリッド車、電気自動車等の他の車両のステアリング装置として適用することができる。要するに、キングピン軸の軸線上に配置され、交差軸ギヤの回転によりキングピン軸の周りにタイヤを転舵させる転舵機構を備えた車両用ステアリング装置であれば適用できる。