(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390279
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】ニーボルスター
(51)【国際特許分類】
B60R 21/045 20060101AFI20180910BHJP
【FI】
B60R21/045 332
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-178362(P2014-178362)
(22)【出願日】2014年9月2日
(65)【公開番号】特開2016-52802(P2016-52802A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】玉田 輝雄
(72)【発明者】
【氏名】船戸 隆文
【審査官】
森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/137892(WO,A1)
【文献】
特開2012−116438(JP,A)
【文献】
特開2014−069708(JP,A)
【文献】
特開2011−230739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00−21/038
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員の膝からの荷重の入力によって変形し、前記膝への衝撃を吸収するブロー成形体からなるニーボルスターであって、
前記ブロー成形体は、前記荷重が入力される荷重入力面と、前記荷重入力面に対向する背面と、前記荷重入力面と前記背面の間に設けられる右側面及び左側面を備え、且つ前記右側面及び前記左側面に1又は複数の横溝リブを有し、
前記横溝リブの少なくとも1つは、その側壁が前記荷重の入力方向に略平行になるように形成されており、且つ前記横溝リブの端部又は途中に段差が設けられるように構成され、
前記段差は、段状の高低の差である、ニーボルスター。
【請求項2】
前記横溝リブは、前記背面から前記荷重入力面に向かって途中まで延びており、前記横溝リブの前記荷重入力面側の端部に前記段差が設けられる、請求項1に記載のニーボルスター。
【請求項3】
前記横溝リブは、前記背面から前記荷重入力面に向かう途中でその深さが浅くなるように構成されている、請求項1又は請求項2に記載のニーボルスター。
【請求項4】
前記ブロー成形体は、前記右側面及び前記左側面に複数の横溝リブを有し、
前記複数の横溝リブのうち、前記荷重が最初に加わる初期打撃部に最も近接した横溝リブが前記段差を有する、請求項1〜請求項3の何れか1つに記載のニーボルスター。
【請求項5】
前記段差は、前記ブロー成形体の前記荷重入力面と前記背面の間の長さに対して、前記背面から30〜70%の位置に設けられる、請求項1〜請求項4の何れか1つに記載のニーボルスター。
【請求項6】
前記ブロー成形体の前記背面は、抜きテーパーを設けていない平坦領域の面積が前記背面の全体の35%以上である、請求項1〜請求項5の何れか1つに記載のニーボルスター。
【請求項7】
前記ブロー成形体の前記右側面及び前記左側面は、前記ブロー成形体の前記背面に対する角度が75〜88度である、請求項1〜請求項6の何れか1つに記載のニーボルスター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗員の膝からの荷重の入力によって変形し、前記膝への衝撃を吸収するニーボルスターに関する。
【背景技術】
【0002】
ニーボルスターは、車両の前部座席に座る乗員の膝の前方に配置され、車両が正面衝突した際にニーボルスターが塑性変形することによって乗員の膝を保護する機能を有する。特許文献1には、ブロー成形体からなるニーボルスターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2012/137892
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ニーボルスターの変形量と荷重の関係を示す波形は、
図1(a)に示すように、ニーボルスターの変形量が点Sに達するまでにニーボルスターが受ける荷重が徐々に上昇し、点Sから点Eまでに範囲内ではニーボルスターが受ける荷重がほぼ一定となり、点Eを超えるとニーボルスターが受ける荷重が再度上昇を始めるものが理想的である。このような波形であれば、膝に加わる衝撃を最小限にしつつ吸収可能なエネルギーの総量を最大化することができるからである。
【0005】
本発明者らが特許文献1のニーボルスターに対して強い打撃を加える実験を繰り返し行なったところ、
図1(b)に示すように初期荷重が過度に大きくなることによって初期打撃時に膝に加わる衝撃が過度に大きくなったり、荷重が一定になる点Sの位置がずれてしまって吸収可能なエネルギーの総量が変動したりするという問題があることが分かった。また、特許文献1のニーボルスターは、打撃が入力されたときに横倒れして、衝撃を適切に吸収できない場合があるという問題もあった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、膝に加わる衝撃を安定して吸収することができ且つ横倒れが抑制される、ニーボルスターを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、乗員の膝からの荷重の入力によって変形し、前記膝への衝撃を吸収するブロー成形体からなるニーボルスターであって、前記ブロー成形体は、前記荷重が入力される荷重入力面と、前記荷重入力面に対向する背面と、前記荷重入力面と前記背面の間に設けられる右側面及び左側面を備え、且つ前記右側面及び前記左側面に1又は複数の横溝リブを有し、前記横溝リブの少なくとも1つは、その側壁が前記荷重の入力方向に略平行になるように形成されており、且つ前記横溝リブの端部又は途中に段差が設けられるように構成される、ニーボルスターが提供される。
【0008】
本発明者らは特許文献1のニーボルスターでの上記課題の原因について詳細に検討したところ、特許文献1のニーボルスターではブロー成形体の両側面に横溝リブが形成されており、且つその横溝リブが荷重の入力方向の全体に渡って延びているために、安定したエネルギー吸収を示すための座屈現象である外形外折れ現象が起こりにくいことが原因であることが分かった。
【0009】
外形外折れ現象とは、
図2(a)に示すように、前面9f、右側面9m、左側面9lを有するブロー成形体9からなるニーボルスター1において、前面9fに荷重Fが加わった時に、
図2(b)に示すように右側面9m及び左側面9lが折れ位置Bにおいて折れ曲がりながら外側に広がる現象である。折れ位置Bの位置が安定するとエネルギー吸収が安定すると共に横倒れが起こりにくくなる。
【0010】
このような状況において、本発明者らは、荷重の入力方向に沿った途中に段差が設けられるように横溝リブを設けると、この段差において右側面及び左側面が折れ曲がりやすくなるために、ブロー成形体に荷重が加わったときに外形外折れ現象が安定して起こるようになる。このために、本発明のニーボルスターによれば、膝に加わる衝撃を安定して吸収することができ且つ横倒れが抑制されることが分かり、本発明の完成に到った。
【0011】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記横溝リブは、前記背面から前記前面に向かって途中まで延びており、前記横溝リブの前記前面側の端部に前記段差が設けられる。
好ましくは、前記横溝リブは、前記背面から前記前面に向かう途中でその深さが浅くなるように構成されている。
好ましくは、前記ブロー成形体は、前記右側面及び前記左側面に複数の横溝リブを有し、前記複数の横溝リブのうち、前記荷重が最初に加わる初期打撃部に最も近接した横溝リブが前記段差を有する。
好ましくは、前記段差は、前記ブロー成形体の前記荷重入力面と前記背面の間の長さに対して、前記背面から30〜70%の位置に設けられる。
好ましくは、前記ブロー成形体の前記背面は、抜きテーパーを設けていない平坦領域の面積が前記背面の全体の35%以上である。
好ましくは、前記ブロー成形体の前記右側面及び前記左側面は、前記ブロー成形体の前記背面に対する角度が75〜88度である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ニーボルスターの変形量と荷重との関係の一例を示すグラフである。
【
図2】外形外折れ現象について説明するための平面図である。
【
図3】本発明のニーボルスター1の取り付け例を示す。
【
図4】本発明の第1実施形態のニーボルスター1の斜視図である。
【
図5】
図4のニーボルスター1の別の角度から見た斜視図である。
【
図10】
図4のニーボルスター1の別の角度から見た斜視図である。
【
図11】本発明の第2実施形態のニーボルスター1の右側面図である。
【
図12】本発明の第3実施形態のニーボルスター1の右側面図である。
【
図13】本発明の第4実施形態のニーボルスター1の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0014】
<ニーボルスター1の取り付け例>
まず、
図3を参照しながら、本実施形態のニーボルスター1の取り付け例について説明する。
図3は、後述するニーボルスター1を衝撃吸収体として自動車100に取り付けた状態を示す。
【0015】
図3に示す自動車100は、ドライバー101を含む乗員のための前部座席102を備える乗員車室103を有して構成しており、メータ104がハンドル105の側面に位置している。ハンドル105は、ステアリングコラム(図示せず)と接続しており、そのステアリングコラムを支持するステアリングサポートメンバが車体内壁面に支持されて車幅方向に設けられる。本実施形態のニーボルスター1は、ステアリングコラムの両側にステアリングコラムを挟んで運転席側に取り付けられる。但し、ステアリングコラムの両脇のスペースは、他の車両構成部材(メータ104、ナビ装置、空調機器等)の設置スペースとの関係で、縦長となるため、その縦長のスペースにおいてドライバー101の各々の膝3に隣接するようにニーボルスター1が取り付けられる。これにより、自動車100が衝撃を受けた場合に、ドライバー101の膝3が各々のニーボルスター1に接触し、ニーボルスター1により衝撃を吸収し、膝3に加わる衝撃を低減することにしている。なお、
図3には、運転席側のニーボルスター1を示したが、助手席側にも運転席側と同様に、助手席に乗員した乗員者の膝に隣接するように肘受け部材が取り付けられることになる。
【0016】
<ニーボルスター1の構成>
1.第1実施形態
図4〜
図10を用いて、本発明の第1実施形態のニーボルスター1について説明する。
ニーボルスター1は、乗員の膝3からの荷重Fの入力によって変形し、膝3への衝撃を吸収するブロー成形体9からなる。ブロー成形体9は、ブロー成形によって形成される中空の構造体である。
【0017】
ブロー成形体9は、膝3に隣接し且つ荷重入力面となる前面9fと、それに対向する背面9rと、前面9fと背面9rを連結する上面9u、底面9b、右側面9m、及び左側面9lとで構成される。なお、本明細書においては、上下・左右・前後は、乗員からの視点で表記する。
【0018】
前面9fには、膝3からの荷重Fが最初に加わる初期打撃部5が設けられている。初期打撃部5は、平坦面になっており、これによって、ブロー成形体9が横倒れすることが抑制されている。また、初期打撃部5の周囲の領域は、初期打撃部5に対して傾斜していて、C面化又はR面化されている。初期打撃部5の周囲の領域を初期打撃部5に対して傾斜させることによって、初期荷重の増大を抑制することができる。
【0019】
ブロー成形体9は、
図7、
図9〜
図10に示す左右方向に開閉する分割金型を用いたブロー成形で形成されるため、前面9f、上面9u、背面9r、及び底面9bに渡ってパーティングラインPLが形成される。
図7、
図9〜
図10では、パーティングラインPLを強調して太線で表示している。
【0020】
ブロー成形体9は、右側面9m及び左側面9lに横溝リブ9cを有する。横溝リブ9cは、右側面9mと左側面9lのそれぞれからパーティングラインPLに向かって(つまり中空部側へ)凹んでいる。また、膝3からの荷重Fに対する耐力を高めるために、横溝リブ9cは、その側壁が荷重Fの入力方向に略平行になるように形成されている。横溝リブ9cは、右側面9mと左側面9lにそれぞれ3本ずつ形成されており、上下2本の横溝リブ9cは、背面9rから前面9fまでの全体に渡って延びるように形成されているのに対し、中央の横溝リブ9cは、背面9rには到達しているが、前面9fには到達していない。つまり、中央の横溝リブ9cは、背面9rから前面9fに向かって途中まで延びており、横溝リブ9cの前面9f側の端部に段差9dが設けられている。本実施形態では、複数の横溝リブ9cのうち、初期打撃部5に最も近接した横溝リブ9cのみに段差9dが設けられている。
【0021】
ブロー成形体9は、段差9dよりも背面9r側が横溝リブ9cで補強されているのに対し、段差9dよりも前面9f側が横溝リブ9cで補強されていない。このため、初期打撃部5に荷重Fが加わってブロー成形体9が変形すると、段差9dに隣接した位置が折れ位置Bとなって右側面9m及び左側面9lに外形外折れ現象が生じる。このように、本実施形態では、横溝リブ9cに段差9dが設けられているために、折れ位置Bの位置が安定し、その結果、ニーボルスター1によるエネルギー吸収が安定すると共に横倒れが起こりにくくなる。段差9dを設ける位置は、使用状況において適宜設定可能であるが、例えば、
図8に示すように、ブロー成形体9の前面9fと背面9rの間の長さ(奥行きD)に対して、背面9rから30〜70%の位置に設けられる。
【0022】
図7〜
図8に示すように、本実施形態のブロー成形体9は、幅Wが奥行きDよりも小さいので荷重Fに入力によって横倒れが起こりやすい。このようなブロー成形体9においては、横倒れを防ぐための手段を適用する必要性が特に大きい。高さHが奥行きDよりも小さい場合も同様である。
【0023】
ブロー成形体9の背面9rには、ブロー成形体9を、取付対象物に取り付けるための取付凸部9gが設けられる。取付対象物は、ステアリングサポートメンバに溶接したり、それ以外の部分にネジ止めや溶接などの方法で固定したりすることができる。ブロー成形体9を取付対象物に取り付けるための別の構成として、例えば特許文献1に開示されているものが挙げられる。
【0024】
ところで、
図9〜
図10に示すように左右方向に開閉する分割金型を用いてブロー成形体9を製造する場合、ブロー成形体9を金型から取り出しやすくするために、ブロー成形体9の前面9f、上面9u、背面9r、及び底面9bには、所謂「抜きテーパー」という1〜5度程度の傾斜が設けられるのが一般的である。しかし、背面9rに抜きテーパーを設けると、背面9rと取付対象物との接触面積が小さくなってブロー成形体9が横倒れしやすくなるという問題がある。そこで、本実施形態では、
図10に示すように、抜きテーパーを設けていない平坦領域FL1、FL2の面積を背面9r全体の35%以上(好ましくは50%以上又は65%以上)としている。平坦領域FL1は、分割金型の一方によって形成される面に設けられ、平坦領域FL2は、分割金型の他方によって形成される面に設けられ、両者は、互いに傾斜しておらず、同一平面上にある。このような構成によれば、ブロー成形体9は、平坦領域FL1、FL2において取付対象物に接触されるので、ブロー成形体9の横倒れが抑制される。
【0025】
図9に示すように、ブロー成形体9の右側面9m及び左側面9lは、ブロー成形体9の背面9rに対する角度α及びβが75〜88度となっている。角度α及びβがこれよりも大きいと、ブロー成形体9の横倒れが起こりやすいが、本実施形態のように、角度α及びβが75〜88度となっていると横倒れが抑制され、かつ右側面9m及び左側面9lが折れ位置Bで折れ曲がりやすくなって、外形外折れ現象が安定的に生じるようになる。
【0026】
2.第2実施形態
図11を用いて、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に類似しており、複数の横溝リブ9cに段差9dが設けられている点が主な相違点である。本実施形態では、
図11に示すように、各段差9dに近接する折れ位置Bで右側面9m及び左側面9lが折れ位置Bで折れ曲がって、外形外折れ現象が安定的に生じる。
【0027】
3.第3実施形態
図12を用いて、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態に類似しており、中央の横溝リブ9cは、背面9rから前面9fにまで荷重Fの入力方向の全体に渡って延びている。但し、荷重Fの入力方向に沿った途中に段差9dが設けられていて、段差9dよりも背面9r側の横溝リブ9crは、段差9dよりも前面9f側の横溝リブ9cfよりも深くなっている。つまり、横溝リブ9cは、背面9rから前面9fに向かう途中でその深さが浅くなるように構成されている。横溝リブ9crの強度は、横溝リブ9cfの強度よりも大きいので、本実施形態においても、第1及び第2実施形態と同様に、初期打撃部5に荷重Fが加わってブロー成形体9が変形すると、段差9dに隣接した位置が折れ位置Bとなって右側面9m及び左側面9lに外形外折れ現象が安定的に生じる。
【0028】
4.第4実施形態
図13を用いて、本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態に類似しており、中央の横溝リブ9cは、背面9rから前面9fに向かって荷重Fの入力方向にその途中まで延びる横溝リブ9crと、前面9fから背面9rに向かって荷重Fの入力方向にその途中まで延びる横溝リブ9cfを備え、横溝リブ9cr,9cfの間に中間部9iが設けられている。中間部9iには横溝リブが設けられておらず、中間部9iと横溝リブ9crに間に段差9dが設けられている。本実施形態においても、第1及び第2実施形態と同様に、初期打撃部5に荷重Fが加わってブロー成形体9が変形すると、段差9dに隣接した位置が折れ位置Bとなって右側面9m及び左側面9lに外形外折れ現象が安定的に生じる。
【0029】
本実施形態では、横溝リブ9cfの深さは、横溝リブ9crと同じであっても、これよりも深くても浅くてもよい。また、中間部9iには、横溝リブ9crよりも浅い横溝リブを形成してもよい。
【符号の説明】
【0030】
1:ニーボルスター
3:膝
5:初期打撃部
9:ブロー成形体
9c:横溝リブ
9d:段差