特許第6390280号(P6390280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390280
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】自動二輪車
(51)【国際特許分類】
   B62K 25/20 20060101AFI20180910BHJP
   B62M 9/08 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   B62K25/20
   B62M9/08 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-179838(P2014-179838)
(22)【出願日】2014年9月4日
(65)【公開番号】特開2016-52845(P2016-52845A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾関 久志
【審査官】 畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−185055(JP,A)
【文献】 特開2008−183925(JP,A)
【文献】 特開2014−104791(JP,A)
【文献】 特開平01−232121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 25/20
B62M 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクシャフトを支持するクランクケースと、前記クランクシャフトと駆動輪との中間位置に配設されて前記クランクシャフトの回転力を前記駆動輪へ伝達する駆動伝達装置と、前記駆動輪を揺動自在に支持するスイングアームとを有し、
前記クランクシャフトの回転力は、前記クランクシャフトに設けられたドライブギアと駆動プーリの回転軸であるカウンタシャフトに設けられたドリブンギアとが噛み合うことで前記駆動伝達装置へ伝達される自動二輪車において、
前記駆動伝達装置は、無端可撓部材が前記駆動プーリと被動プーリに巻き掛けられて構成される無段変速機と、この無段変速機を覆う無段変速機ケースとを備えてなり、前記被動プーリの回転中心軸が、車両側面視で、前記駆動プーリの回転中心軸よりも後方且つ上方になるように配置され、
前記スイングアームは、一端側にあって車体フレームまたは前記クランクケースに揺動自在に取り付けられるピボット部と、他端側にあって前記駆動輪を回転可能に支持する駆動輪支持部とを備えると共に、前記ピボット部が車両側面視で、前記無段変速機ケースの下側面よりも下方に位置して、前記スイングアームの少なくとも一部が前記無段変速機ケースの一部に対し上下方向に重なるように構成され、
前記クランクシャフトと前記ピボット部は、車両側面視で、前記駆動プーリの前記回転中心軸を通る水平線と前記被動プーリの前記回転中心軸を通る水平線との間に配置され、前記ピボット部は、車両側面視で、前記クランクシャフトを通る水平線より低い位置に配置されたことを特徴とする自動二輪車。
【請求項2】
前記無段変速機は、車両幅方向の中心線に対して左右いずれか一方側に配置され、スイングアームは、車両下面視にて、前記一方側のピボット部の少なくとも一部が無段変速機ケースの外側端よりも、車両幅方向で内側になるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車。
【請求項3】
前記スイングアームは、車両下面視にて、前記一方側のピボット部の外側端が無段変速機ケースの外側端よりも、車両幅方向で内側になるよう構成されたことを特徴とする請求項2に記載の自動二輪車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動二輪車に係り、特に駆動伝達装置における無段変速機の配置を改善した自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スクータ型自動二輪車における動力伝達装置が開示されている。この動力伝達装置は、クランク軸の回転力をVベルト式無段変速機構及びクラッチ機構を経て、スイングアーム内のチェーン式伝動機構へ伝達し、このスイングアームに軸支された後輪を駆動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−19682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述の特許文献1に記載の動力伝達装置では、クランク軸、無段変速機構の駆動プーリの回転中心軸(クランク軸と同軸)、被動プーリの回転中心軸(メイン軸)、スイングアームのピボット軸(ドライブ軸)が、車両前後方向に略直線状に配置されている。
【0005】
このため、無段変速機構の駆動プーリ及び被動プーリを大径化して車両の走行性能を向上させるためには、クランク軸からスイングアームのピボット軸までの寸法を拡張しなければならず、この結果、車両の操作性などが低下してしまう。
【0006】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、駆動伝達装置における無段変速機の配置を工夫することにより、車両の操作性及び快適性と共に走行性能を向上できる自動二輪車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自動二輪車は、エンジンのクランクシャフトを支持するクランクケースと、前記クランクシャフトと駆動輪との中間位置に配設されて前記クランクシャフトの回転力を前記駆動輪へ伝達する駆動伝達装置と、前記駆動輪を揺動自在に支持するスイングアームとを有し、前記クランクシャフトの回転力は、前記クランクシャフトに設けられたドライブギアと駆動プーリの回転軸であるカウンタシャフトに設けられたドリブンギアとが噛み合うことで前記駆動伝達装置へ伝達される自動二輪車において、前記駆動伝達装置は、無端可撓部材が前記駆動プーリと被動プーリに巻き掛けられて構成される無段変速機と、この無段変速機を覆う無段変速機ケースとを備えてなり、前記被動プーリの回転中心軸が、車両側面視で、前記駆動プーリの回転中心軸よりも後方且つ上方になるように配置され、前記スイングアームは、一端側にあって車体フレームまたは前記クランクケースに揺動自在に取り付けられるピボット部と、他端側にあって前記駆動輪を回転可能に支持する駆動輪支持部とを備えると共に、前記ピボット部が車両側面視で、前記無段変速機ケースの下側面よりも下方に位置して、前記スイングアームの少なくとも一部が前記無段変速機ケースの一部に対し上下方向に重なるように構成され、前記クランクシャフトと前記ピボット部は、車両側面視で、前記駆動プーリの前記回転中心軸を通る水平線と前記被動プーリの前記回転中心軸を通る水平線との間に配置され、前記ピボット部は、車両側面視で、前記クランクシャフトを通る水平線より低い位置に配置されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、無段変速機の被動プーリの回転中心軸が、車両側面視で、駆動プーリの回転中心軸よりも後方且つ上方になるように配置されて、無段変速機が斜め後上がりに構成されたので、車両前後方向長さの拡張を抑制しつつ、駆動プーリ及び被動プーリを大径化できる。従って、無段変速機の減速比の設定可能範囲を拡大できるので、加速及び最高速性能が高められて車両の走行性能を向上させることができる。
【0009】
また、無段変速機の被動プーリの回転中心軸が、車両側面視で、駆動プーリの回転中心軸よりも後方且つ上方になるように配置されて、無段変速機が斜め後上がりに構成されたので、車両側面視において、被動プーリの下側に空間を形成できる。この結果、この空間にスイングアームのピボット部を配置することで、このピボット部の位置を車両前方に設定でき、従って、車両前後方向長さを短縮できるので、車両の操作性が向上する。と同時に、スイングアームの長さも十分に確保できるので、後輪の上下方向可動範囲が拡大して車両の乗り心地が良好になり、車両の快適性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る自動二輪車の一実施形態を示す右側面図。
図2図1の自動二輪車におけるエンジンユニット及び車体フレーム等を示す右側面図。
図3図1の自動二輪車におけるエンジンユニット及び車体フレーム等を示す左側面図。
図4図2のエンジンユニットを示す平面図。
図5図2のエンジンユニットを示す底面図。
図6図2の駆動伝達装置における無段変速機の周囲を示す側面図。
図7図3の駆動伝達装置におけるクラッチの周囲を示す側面図。
図8図4の一部を拡大して示す部分平面図。
図9図5の一部を拡大して示す部分底面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る自動二輪車の一実施形態を示す右側面図である。また、図2は、図1の自動二輪車におけるエンジンユニット及び車体フレーム等を示す右側面図である。更に、図3は、図1の自動二輪車におけるエンジンユニット及び車体フレーム等を示す左側面図である。本実施形態において、前後、左右、上下の表現は、車両乗車時の運転者を基準にしたものである。
【0012】
本実施形態の自動二輪車10は、2人乗り用の大型スクータである。この自動二輪車10の車両前部11は、左右に突出するレッグシールド12とスクリーン13とハンドルバー14とを備える。ハンドルバー14は、図1及び図2に示す車体フレーム15のヘッドパイプ16に枢支されるステアリングシャフト17に回転一体に連結される。このステアリングシャフト17に、左右一対のフロントフォーク18を介して前輪19が懸架される。ステアリングシャフト19がヘッドパイプ16に左右に回動自在に枢支されることで、ハンドルバー14の操作により前輪19が左右に操舵される。
【0013】
図1に示すように、自動二輪車10は、車両前部11の後方に2人乗り用のダブルシート20が配置されている。そして、この車両前部11からダブルシート20へ至る範囲に、ダブルシート20に着座した乗員(運転者、同乗者)が両足をそれぞれ載置可能な左右一対の板状のフットボート21が、車両前後方向に延設されると共に、これらのフットボード21間に、上方へ膨出するセンタートンネル形成部22が形成される。
【0014】
図2に示す車体フレーム15の中央下部には、エンジン23と駆動伝達装置24とが一体化されたエンジンユニット25が搭載され、このエンジンユニット25の後部に、駆動輪としての後輪26を保持するスイングアーム27が枢支される。このスイングアーム27は、エンジンユニット25からの動力を後輪26へ伝達する図示しないギア列を内蔵すると共に、後輪26を揺動自在に支持する。
【0015】
ここで、車体フレーム15は、図1及び図2に示すように、前端部に前記ヘッドパイプ16を備え、このヘッドパイプ16の下部、上部から、それぞれ左右一対のダウンチューブ28、29が下方へ延出されている。前側のダウンチューブ28は、下部が下方へ屈曲して形成され、左右一対のロアチューブ30に連続する。更に、前側のダウンチューブ28における上下方向の略中央位置から、左右一対のメインチューブ31が後方へ延設される。このメインチューブ31に、後側のダウンチューブ29の下端部が接続されると共に、ロアチューブ30の後端部分も接続される。更に、メインチューブ31の後部に、後方へ延在されるシートレール32が接続されている。
【0016】
図1に示すように、後輪26の上方に図示しない物品収納室が配置され、この物品収納室の上方に、物品収納室の蓋として機能する前記ダブルシート20が開閉自在に設置される。車体フレーム15、エンジンユニット25及び物品収納室等は、合成樹脂製の車体カバー33によって覆われる。
【0017】
エンジンユニット25におけるエンジン23は、図2図5に示すように、クランクシャフト35等を収容して軸支するクランクケース36と、このクランクケース36の前部に略水平に設置されたシリンダアッセンブリ37とを有して構成される。シリンダアッセンブリ37は、シリンダ38、シリンダヘッド39及びヘッドカバー40が、クランクケース36の側から順次積み重ねされて構成される。シリンダヘッド39には、上部に図示しない吸気管が、下部に排気管41(図1)がそれぞれ接続される。この排気管41の下端部に排気マフラ42が接続される。
【0018】
クランクケース36は、車両前後方向における合せ面43(図4図5)を備えて、車両幅方向に分割可能な左側クランクケース36A及び右側クランクケース36Bから構成される。このクランクケース36内に収容されたクランクシャフト35の片側(本実施形態では右側)に、図8に示すようにプライマリドライブギア45が設けられる。また、クランクケース36には、クランクシャフト35の後方にカウンタシャフト46が、クランクシャフト35と平行に軸支される。このカウンタシャフト46に、プライマリドライブギア45に噛み合うプライマリドリブンギア47が設けられて、クランクシャフト35の回転力がカウンタシャフト46へ伝達される。
【0019】
エンジンユニット25における駆動伝達装置24は、図2及び図3に示すように、クランクシャフト35と後輪26の中間に配設されて、クランクシャフト35からプライマリドライブギア45、プライマリドリブンギア47及びカウンタシャフト46へ伝達された回転力を後輪26へ伝達する。この駆動伝達装置24は、図6及び図7に示すように、無段変速機48、無段変速機ケース49、クラッチ50及びクラッチケース51を有して構成される。
【0020】
図8に示す車両側面視で、車幅方向中心線Mに対し無段変速機48が一方側(例えば右側)に、クラッチ50が他方側(例えば左側)にそれぞれ配置される。尚、無段変速機48が左側に、クラッチ50が右側にそれぞれ配置されてもよい。
【0021】
無段変速機48は、図6及び図8に示すように、無端可撓部材としてのVベルト52が駆動プーリ53及び被動プーリ54に巻き掛けられて構成されるベルト式無段変速機である。駆動プーリ53がドライブシャフト55に、被動プーリ54がドリブンシャフト56にそれぞれ設けられる。ドライブシャフト55は、カウンタシャフト46に例えばスプライン結合されて、このカウンタシャフト46と回転一体に構成される。
【0022】
従って、カウンタシャフト46に伝達されたクランクシャフト35の回転力は、ドライブシャフト55、駆動プーリ53、Vベルト52、被動プーリ54を経てドリブンシャフト56へ伝達される。このとき、無段変速機48における駆動プーリ53のベルト巻き掛け有効径が変化することで、駆動プーリ53に対する被動プーリ54の回転数、つまり変速比が無段階に変更される。ここで、駆動プーリ53のベルト巻き掛け有効径は、遠心力またはモータ駆動力等により変化する。
【0023】
無段変速機ケース49は、図8に示すように、無段変速機48のVベルト52、駆動プーリ53、被動プーリ54、ドライブシャフト55及びドリブンシャフト56等を覆うものである。この無段変速機ケース49は、左側クランクケース36に一体成形された左側無段変速機ケース49Aと、右側クランクケース36Bに一体成形された右側無段変速機ケース49Bとが接合されて構成される。
【0024】
駆動伝達装置24のクラッチ50は湿式遠心クラッチであり、図7及び図8に示すように、クランクシャフト35からプライマリドライブギア45、プライマリドリブンギア47及び無段変速機48へ伝達された回転力を伝達または遮断するクラッチ本体部を備える。このクラッチ本体部は、クラッチシャフト57に回転一体に設けられたクラッチハウジング58と、このクラッチハウジング58内に配設されてクラッチハウジング58に摺接可能なクラッチプレート59とを有して構成される。クラッチシャフト57は、ドリブンシャフト56と同軸でこのドリブンシャフト56に回転一体に設けられる。また、クラッチプレート59は、クラッチハブ60及び図示しない減速ギア機構を介して、スイングアーム27内のギア列に連結される。
【0025】
従って、クラッチプレート59がクラッチハウジング58に摺接して係合したときには、クランクシャフト35からプライマリドライブギア45、プライマリドリブンギア47、無段変速機48へ伝達された回転力は、無段変速機48のドリブンシャフト56からクラッチ50のクラッチシャフト57、クラッチハウジング58、クラッチプレート59及びクラッチハブ60を経て、減速ギア機構及びスイングアーム27内のギア列に伝達され、後述のアクスルシャフト65へ伝達されて後輪26を駆動する。クラッチ50のクラッチシャフト57、クラッチハウジング58、クラッチプレート59及びクラッチハブ60は、左側無段変速機ケース49Aに接合されるクラッチケース51により車両外側から覆われる。
【0026】
スイングアーム27は、図4及び図5に示すように、左側スイングアーム27Aと右側スイングアーム27Bとが車両幅方向に接合されて構成される。また、このスイングアーム27は、図2及び図3に示すように、ピボット軸64が挿入されることによりクランクケース36に揺動自在に取り付けられる前端側のピボット部61と、アクスルシャフト65が配設されることで後輪26を回転可能に支持する駆動輪支持部としての後端側の後輪支持部62と、ピボット部61と後輪支持部62とを連結するアーム部63と、を有して構成される。駆動伝達用のギア列は、左側スイングアーム27A側のアーム部63に内蔵される。
【0027】
ところで、本実施形態における無段変速機48では、図6に示すように、被動プーリ54の回転中心軸であるドリブンシャフト56が、駆動プーリ53の回転中心軸であるドライブシャフト55よりも後方且つ上方になるように配置される。これにより、ドライブシャフト55とドリブンシャフト56とを結ぶ直線Lが斜め後上りとなって、無段変速機46が斜め後上りに構成される。更に、被動プーリ54は、この図6に示す車両側面視において、下端点Aがスイングアーム27を支持するピボット軸64の下端点Bよりも上方になるように配置される。
【0028】
また、無段変速機ケース49は、図6に示す車両側面視において、後端点Cがスイングアーム27を支持するピボット軸64の前端点Dよりも後方になるように構成される。また、スイングアーム27における右側のピボット部61(右側ピボット部61B)が、図6に示す車両側面視で、無段変速機ケース49(右側無段変速機ケース49B)下側面66の下方に位置して、このスイングアーム27の少なくとも一部、つまり右側ピボット部61B部を含む前側部分が、無段変速機ケース49(右側無段変速機ケース49B)の後部に対して上下方向に重なるように構成される。
【0029】
無段変速機48は、図8及び図9に示すように車幅方向中心線Mに対して本実施形態では右側に配置される。そして、スイングアーム27は、図9に示す車両下面視において、右側ピボット部61Bの少なくとも一部、本実施形態では右側ピボット部61Bの外側端67が、無段変速機ケース49(右側無段変速機ケース49B)の外側端68を含む延長線68Aよりも車両幅方向の内側になるように構成されている。
【0030】
本実施形態におけるクラッチ50では、図7に示す車両側面視において、回転中心軸であるクラッチシャフト57がクランクシャフト35よりも後方且つ上方に配置される。更に、このクラッチ50では、クラッチ本体部のうち大径のクラッチハウジング58の下端点Eは、クランクケース36内に貯溜される潤滑油70の油面Hに対して上方に位置するように構成される。具体的には、クラッチハウジング58の直径をKとしたとき、クラッチハウジング58の下端点Eと潤滑油70の油面Hとは、K/3以上離間して設定される。
【0031】
また、図7に示す車両側面視において、スイングアーム27の左側のピボット部61(左側ピボット部61A)は、クラッチ50を収容するクラッチケース51の下面71によりも下方に位置して、スイングアーム27の少なくとも一部、つまりスイングアーム27における左側ピボット部61を含む前側部分が、クラッチケース51に対して上下方向に重なるように構成される。
【0032】
図8及び図9に示すように、クラッチ50は、本実施形態では、車幅方向中心線Mに対して左側に配置される。そして、スイングアーム27は、図9に示す車両下面視において、左側ピボット部61Aの少なくとも一部、本実施形態では左側ピボット部61Aの外側端72が、クラッチケース51の外側端73を含む延長線73Aよりも車両幅方向の内側になるように構成される。
【0033】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)〜(8)を奏する。
(1)無段変速機48の被動プーリ54のドリブンシャフト56が、図6に示す車両側面視で、駆動プーリ53のドライブシャフト55よりも後方且つ上方になるように配置されて、無段変速機48が斜め後上りに構成されたので、無段変速機48の車両前後方向長さの拡張を抑制しつつ、駆動プーリ53及び被動プーリ54を大径化できる。従って、無段変速機48の減速比の設定可能範囲を拡大できるので、加速及び最高速性能が高められて車両の走行性能を向上させることができる。
【0034】
(2)無段変速機46の被動プーリ54のドリブンシャフト56が、図6に示す車両側面視で、駆動プーリ13のドライブシャフト55よりも後方且つ上方になるように配置されて、無段変速機48が斜め後上りに構成されたので、車両側面視において、被動プーリ54の下側に空間を形成できる。この結果、この空間にスイングアーム27のピボット部61(右側ピボット部61B)を配置することで、このピボット部61(右側ピボット部61B)の位置を車両前方に設定できる。
【0035】
従って、後述の如く、ピボット部61(左側ピボット部61A)の位置を車両前方に設定できることと相俟って、自動二輪車10の車両前後方向長さを短縮できるので、車両の操作性が向上する。と同時に、スイングアームの長さも十分に確保できるので、後輪26の上下方向可動範囲が拡大して車両の乗り心地が良好となり、車両の快適性を向上させることができる。
【0036】
(3)図6及び図9に示すように、スイングアーム27の右側ピボット部61Bの少なくとも一部は、無段変速機48を収容する無段変速機ケース49(右側無段変速機ケース49B)の外側端68を含む延長線68Aよりも内側に位置づけられて、この無段変速機ケース49の下方空間内に収まる。このため、無段変速機ケース49の周辺空間を有効に利用できるので、部品レイアウトを容易化できる。
【0037】
(4)図6及び図9に示すように、スイングアーム27の右側ピボット部61Bは、その外側端67が無段変速機ケース49の外側端68を含む延長線68Aよりも車両幅方向の内側に位置づけられて、無段変速機ケース49から車両幅方向外方へ突出することがない。このため、自動二輪車10の車両下部の幅を抑制できるので、車両の傾斜角度(バンク角)を確保でき、車両の操作性を向上させることができる。
【0038】
(5)図7及び図8に示すように、駆動伝達装置24のクラッチ50はクランクケース36内において、このクランクケース36内の潤滑油70の油面Hよりも上方に位置づけられることで、クランクケース36内の潤滑油70に浸り難くなる。このため、クラッチ50の係脱(クラッチハウジング58とクラッチプレート59との係合、離脱)の応答性が良好になって、車両の操作性が向上する。
【0039】
また、クラッチ50がクランクケース36内の潤滑油70に浸り難くなるので、クランクケース36に潤滑油排出装置(不図示)を設置しなくても、クラッチの係脱の応答性を確保できる。この結果、潤滑油排出装置の作動時の損失がなくなって自動二輪車10の出力性能が向上すると共に、自動二輪車10の構造が簡素化されて車両の整備性が向上する。
【0040】
(6)図7に示すように、クラッチ50のクラッチシャフト57がクランクシャフト35よりも上方に配置され、スイングアーム27の左側ピボット部61Aがクラッチケース51の下面71よりも下方に位置して、スイングアーム27の左側ピボット部61Aを含む前側部分が、クラッチケース51に対して上下方向に重なるように構成されている。このため、スイングアーム27のピボット部61(左側ピボット部61A)をクラッチケース51の下方空間に配置することで、このピボット部61(左側ピボット部61A)の位置を車両前方に設定できる。
【0041】
従って、前述の如く、ピボット部61(右側ピボット部61B)の位置を車両前方に設定できることと相俟って、自動二輪車10の車両前後方向長さを短縮できるので、車両の操作性が向上する。と同時に、スイングアーム27長さも十分に確保できるので、後輪26の上下方向可動範囲が拡大して、自動二輪車10の乗り心地が良好になり、車両の快適性を向上させることができる。
【0042】
(7)図7及び図9に示すように、スイングアーム27の左側ピボット部61Aの少なくとも一部は、クラッチ50を収容するクラッチケース51の外側端73よりも内側に位置づけられて、このクラッチケース51の下方空間内に収まる。このため、クラッチケース51の周辺空間を有効に利用できるので、部品レイアウトを容易化できる。
【0043】
(8)図7及び図9に示すように、スイングアーム27の左側ピボット部61Aは、その外側端72がクラッチケース51の外側端73を含む延長線73Aよりも車両幅方向の内側に位置づけられて、クラッチケース51から車両幅方向外方へ突出することがない。このため、自動二輪車10の車両下部の幅を抑制できるので、車両の傾斜角度(バンク角)を確保でき、車両の操作性を向上させることができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0045】
例えば、クラッチ50は、湿式多板クラッチまたは湿式単板クラッチであってもよい。また、クラッチ50は、クランクシャフト35から無段変速機48へ伝達された回転力を伝達または遮断するものを述べたが、クランクシャフト35からの回転力を無段変速機48へ伝達または遮断するものでもよい。更に、スイングアーム27は、ピボット軸64によりクランクケース36に揺動自在に取り付けられるものを述べたが、ピボット軸64により車体フレーム15に揺動自在に取り付けられるものでもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 自動二輪車
23 エンジン
24 駆動伝達装置
26 後輪(駆動輪)
27 スイングアーム
35 クランクシャフト
36 クランクケース
48 無段変速機
49 無段変速機ケース
50 クラッチ
51 クラッチケース
52 Vベルト(無端可撓部材)
53 駆動プーリ
54 被動プーリ
58 クラッチハウジング(クラッチ本体部)
59 クラッチプレート(クラッチ本体部)
61 ピボット部
62 後輪支持部(駆動輪支持部)
66 下側面
67、68 外側端
70 潤滑油
71 下面
72、73 外側端
E 下端点
H 油面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9