(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390314
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】電動式パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20180910BHJP
F16H 1/16 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
B62D5/04
F16H1/16 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-199008(P2014-199008)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-68711(P2016-68711A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 徹
(72)【発明者】
【氏名】山本 武士
(72)【発明者】
【氏名】清田 晴彦
【審査官】
野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−223501(JP,A)
【文献】
特開2011−085182(JP,A)
【文献】
特開2009−174685(JP,A)
【文献】
特開2003−254342(JP,A)
【文献】
特開2002−327830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D5/00−5/32
F16H1/00−1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定の部分に支持されて回転しないハウジングと、
このハウジングに対し回転自在に設けられて、ステアリングホイールの操作により回転させられ、回転に伴って操舵輪に舵角を付与する回転軸と、
前記ハウジングの内部でこの回転軸の一部に、この回転軸と同心に支持されて、この回転軸と共に回転するウォームホイールと、
ウォーム軸の軸方向中間部にウォーム歯を設けて成り、このウォーム歯をこのウォームホイールと噛合させた状態で、前記ハウジングの内側に回転自在に支持されたウォームと、
このウォームを回転駆動する電動モータと
を備えた電動式パワーステアリング装置に於いて、
前記ハウジングが、中空筒状の本体部の開口部をカバーで塞ぐ事により構成されており、
前記ハウジングのうち、少なくとも前記ウォームホイールを収容する部分の内面、及び、前記本体部と前記カバーとのうちで互いに当接する部分、並びに、前記ウォームホイールの側面及び歯先面に、撥油性のコーティング層を形成している事を特徴とする電動式パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記コーティング層が、前記ウォームの表面のうちの歯先面にも形成されている、請求項1に記載の電動式パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記コーティング層が、前記ウォーム軸のうちで前記ウォーム歯から軸方向に外れた部分にも形成されている、請求項1又は2に記載の電動式パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記コーティング層がフッ素樹脂塗膜である、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載の電動式パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の操舵装置として利用するもので、電動モータを補助動力として利用する事により、運転者がステアリングホイールを操作する為に要する力の軽減を図る為の電動式パワーステアリング装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
操舵輪(フォークリフト等の特殊車両を除き、通常は前輪)に舵角を付与する際に、運転者がステアリングホイールを操作する為に要する力の軽減を図る為の装置として、パワーステアリング装置が広く使用されている。又、この様なパワーステアリング装置で、補助動力源として電動モータを使用する電動式パワーステアリング装置も、近年普及し始めている。電動式パワーステアリング装置は、油圧式のパワーステアリング装置に比べて、小型・軽量にでき、補助動力の大きさ(トルク)の制御が容易で、しかもエンジンの動力損失が少ない等の利点がある。
【0003】
電動式パワーステアリング装置の構造は、各種知られているが、何れの構造の場合でも、ステアリングホイールの操作によって回転させられ、回転に伴って操舵輪に舵角を付与する回転軸に、電動モータの補助動力を、減速機を介して付与する。この減速機として一般的には、ウォーム減速機が使用されている。ウォーム減速機を使用した電動式パワーステアリング装置の場合、前記電動モータにより回転駆動されるウォームと、前記回転軸と共に回転するウォームホイールとを噛合させて、前記電動モータの補助動力をこの回転軸に伝達自在とする。
【0004】
例えば特許文献1には、
図7〜8に示す様な、電動式パワーステアリング装置が開示されている。ステアリングホイール1により所定方向に回転させられる、回転軸であるステアリングシャフト2の前端部は、ハウジング3の内側に回転自在に支持しており、この部分にウォームホイール4を固定している。このウォームホイール4と噛合するウォーム歯5をウォーム軸6の軸方向中間部に設け、電動モータ7により回転駆動されるウォーム8の両端部は、深溝型玉軸受等の1対の転がり軸受9a、9bにより、前記ハウジング3内に回転自在に支持されている。そして、この状態で、前記ウォームホイール4と前記ウォーム歯5とを噛合させて、前記電動モータ7の補助動力を、このウォームホイール4に伝達可能としている。
【0005】
電動式パワーステアリング装置のより具体的な構造に就いて、
図9に示す。ウォームホイール4aは、この電動式パワーステアリング装置の出力部となる回転軸10のうち、1対の転がり軸受11a、11bの間部分に、締り嵌め等により外嵌固定し、この回転軸10と共に回転する様にしている。この回転軸10はハウジング3a内に、前記両転がり軸受11a、11bにより、回転のみ自在に支持した状態で、トーションバー12により、ステアリングシャフト2aの前端部と結合している。電動モータ7(
図7〜8参照)は、トルクセンサ13が検出する、前記ステアリングシャフト2aに加えられるトルクの方向及び大きさに応じてウォーム8aを回転駆動し、前記回転軸10に補助トルクを付与する。この回転軸10の回転は、1対の自在継手14a、14b及び中間シャフト15を介して、ステアリングギヤユニット16の入力軸に伝達し、操舵輪に所望の舵角を付与する。
【0006】
上述の様な従来の電動式パワーステアリング装置の場合、ウォームホイール4(4a)とウォーム歯5との噛合部の潤滑性を確保する為に、ハウジング3(3a)内にグリース(潤滑油)を充填している。但し、後述する様に、従来構造の場合には、前記ウォームホイール4(4a)と前記ウォーム歯5との噛合部に、長期間に亙ってグリースを供給し続ける面からは改良の余地がある。即ち、前記ハウジング3(3a)は、本体部17の開口部18にカバー19の嵌合筒部20を隙間嵌により内嵌し、これら本体部17とカバー19とをボルト21、21により結合固定する事で構成されている。そして、この本体部17の開口部18と、前記カバー19の嵌合筒部20の外周面との間には、前記ハウジング3(3a)の組み立て易さを確保する為、微小な隙間が設けられている。従って、前記開口部18と前記嵌合筒部20との嵌合部(接合部)付近に付着したグリース中の基油が増ちょう剤から離油(分離)すると、分離した基油が、毛細管現象により前記開口部18と前記嵌合筒部20の外周面との間から前記ハウジング3(3a)の外部へ漏出して、車室内に付着し染み汚れを生じてしまう等の可能性がある。この様な事情に鑑みて、図示の例の場合には、前記嵌合筒部20の基部と前記開口部18との間にOリング26を設けて、前記基油の漏出を防止している。
【0007】
又、前記ウォームホイール4(4a)と前記ウォーム歯5との噛み合いに伴って、これらウォームホイール4(4a)とウォーム歯5との噛合部に塗布されたグリースの一部は、この噛合部から押し出され、前記ハウジング3(3a)の内面に付着する(張り付いてその場に止まる)。グリースがこのハウジング3(3a)の内面に付着すると、前記噛合部に再び供給する事が難しくなり、この噛合部でグリースが不足する可能性がある。これに対し、ウォームホイールとウォーム軸のウォーム歯との噛合部に多量のグリースを塗布して、長期間に亙りこの噛合部の潤滑を確保する事が考えられる。但し、この噛合部に多量のグリースを塗布すると、低温状態でこのグリースの撹拌抵抗が増大して、前記ウォームホイール(ステアリングシャフト)に所望の大きさの補助動力を付与できなくなったり、製造コストが増大したりする可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−094763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、ウォームホイールと、ウォーム軸のウォーム歯との噛合部に、良質なグリースを長期間に亙り供給する事ができる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電動式パワーステアリング装置は、ハウジングと、回転軸と、ウォームホイールと、電動モータとを備える。
このうちのハウジングは、固定の部分に支持されて回転しない。この様なハウジングは、具体的には、本体部の開口部をカバーにより塞いで成る。
又、前記回転軸は、前記ハウジングに対し回転自在に設けられて、ステアリングホイールの操作により回転させられ、回転に伴って操舵輪に舵角を付与する。
又、前記ウォームホイールは、前記ハウジングの内部でこの回転軸の一部に、この回転軸と同心に支持されて、この回転軸と共に回転する。
又、前記ウォームは、ウォーム軸の軸方向中間部にウォーム歯を設けて成り、このウォーム歯を前記ウォームホイールと噛合させた状態で、前記ハウジングに対し回転自在に支持されている。
又、前記電動モータは、前記ウォームを回転駆動する。
【0011】
特に、本発明の電動式パワーステアリング装置に於いては、
前記ハウジングを、中空筒状の本体部の開口部をカバーで塞ぐ事により構成している。そして、前記ハウジングのうち、少なくとも前記ウォームホイールを収容する部分の内面
、及び、前記本体部と前記カバーとのうちで互いに当接する部分、並びに、前記ウォームホイールの側面及び歯先面に、撥油性のコーティング層を形成している。
【0012】
上述の様な本発明の電動式パワーステアリング装置を実施する場合に好ましくは
、前記コーティング層を、前記ウォームの表面のうちの歯先面にも形成する
。
又、本発明の電動式パワーステアリング装置を実施する場合、前記コーティング層を、前記ウォーム軸のうちで前記ウォーム歯から外れた部分に形成しても良い。
又、前記コーティング層を、前記ハウジングのうち、前記ウォームを収容する部分の内面にも形成しても良い。
【0013】
又、上述の様な本発明を実施する場合に、具体的には
、前記コーティング層を、フッ素樹脂をスプレーや刷毛により塗布する事で形成したフッ素樹脂塗膜とする。
【発明の効果】
【0014】
上述の様に構成する本発明の電動式パワーステアリング装置は、ウォームホイールと、ウォーム軸のウォーム歯との噛合部に、良質なグリースを長期間に亙り供給する事ができる。
即ち、ハウジングのうち、ウォームホイールを収容する部分の内面に、撥油性のコーティング層を形成している為、前記ハウジングの内部に封入したグリース中の基油が、このハウジングの内面に付着した際の接触角を大きくできる。この為、この基油が、このハウジングを構成する本体部とカバーとの接合部から毛細管現象により外部へ漏出するのを防止できる。この結果、グリースが車室内に付着する事による染み汚れの発生を抑えられる。又、前記ハウジングの内面にグリースが付着する事を抑えられる。従って、前記ウォームホイールと前記ウォーム軸のウォームとの噛合部に、良質なグリースを長期間に亙り供給する事ができ、前記電動式パワーステアリング装置の耐久性を向上させる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】ハウジングを構成する本体部を取り出して示す断面図(A)と、(A)の左方から見た状態を示す部分切断端面図(B)。
【
図4】ハウジングを構成するカバーを取り出して示す断面図(A)と、(A)の右方から見た状態を示す端面図(B)。
【
図5】ウォームホイールを取り出して示す側面図(A)と、このウォームホイールに歯切り加工を施す以前の状態で示す側面図(B)。
【
図7】従来構造のステアリング装置の1例を示す、部分切断側面図。
【
図9】より具体的構造を示す、
図8のZ−Z断面に相当する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜6は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例を含めて、本発明の特徴は、ウォームホイールと、ウォーム軸のウォームとの噛合部に、良質なグリースを長期間に亙り供給する点にある。本例の電動式パワーステアリング装置は、前述の
図7〜9に示した電動式パワーステアリング装置と基本的には同様の構成を有し、ステアリングホイール1により所定方向に回転させられるステアリングシャフト2aの前端部は、ハウジング3bの内側に回転自在に支持されており、このステアリングシャフト2aの前端部にトーションバー12を介して結合した回転軸10にウォームホイール4bが固定されている。本例の場合、前記ハウジング3bは、本体部17aの開口部18にカバー19aの嵌合筒部20を内嵌し、これら本体部17aとカバー19aとをボルト21、21により結合固定する事で構成されている。このうちの本体部17aは、全体を中空筒状に構成しており、電動モータ7により回転駆動される前記回転軸10の基半部(
図2の右半部)を収容する小径部22と、ウォームホイール4bの外周を囲む大径部23と、これら小径部22と大径部23とを連続させる円輪部24と、この大径部23に一部が開口した状態で設けられたウォーム収容部25とを備える。これら大径部23の中心軸とウォーム収容部25の中心軸とは、互いに捩れの位置関係にある。前記カバー19aは前記嵌合筒部20を、前記本体部17aを構成する大径部23の先端部に設けられた開口部18に内嵌する事で、この開口部18を塞ぐ。この様な本体部17a及びカバー19aは、何れもアルミニウム軽合金をダイキャスト成形する事により造られている。但し、これら本体部17a及びカバー19aは、合成樹脂製とする事もできる。尚、本例の場合には、前記嵌合筒部20の基部と前記開口部18との間にOリング26(
図9参照)等のシール材は設けていない。
【0017】
前記ウォームホイール4bは、前記電動式パワーステアリング装置の出力部となる前記回転軸10のうち、1対の転がり軸受11c、11dの間部分に、締り嵌め等により外嵌固定し、この回転軸10と共に回転する様にしている。前記ウォームホイール4bは、製造コストの低廉化と軽量化とを目的として、金属製のホイール部28の周囲に合成樹脂製の歯部29を結合固定する事で造られている。前記回転軸10は前記ハウジング3b内に、前記両転がり軸受11c、11dにより、回転のみ自在に支持している。即ち、前記回転軸10の軸方向中間部を、これら両転がり軸受11c、11dのうちの一方の転がり軸受11cにより、前記本体部17aを構成する円輪部24の内径側に設けた軸受保持部27aに回転自在に支持すると共に、前記回転軸10の先端寄り部分(
図2の左端寄り部分)を、他方の転がり軸受11dにより、前記カバー19aの内径側に設けた軸受保持部27bに回転自在に支持している。尚、本例の場合、前記両転がり軸受11c、11dのうちの一方の転がり軸受11cを、外輪の内周面と内輪の外周面との間の円筒状空間の両端部にシールを設けていない、開放型としている。
【0018】
前記ウォーム8bの両端部は、深溝型玉軸受である1対の転がり軸受9a、9bにより、前記ハウジング3bのウォーム収容部25内に回転自在に支持されている。前記ウォーム8bのウォーム軸6aの軸方向中間部にウォーム歯5aを設け、このウォーム歯5aを前記ウォームホイール4bと噛合させて、前記電動モータ7の補助動力を、このウォームホイール4bに伝達可能としている。この電動モータ7は、トルクセンサ13が検出する、前記ステアリングシャフト2aに加えられるトルクの方向及び大きさに応じてウォーム8bを回転駆動し、前記回転軸10の補助トルクを付与する。この回転軸10の回転は、1対の自在継手14a、14b及び中間シャフト15を介して、ステアリングギヤユニット16の入力軸に伝達し、操舵輪に所望の舵角を付与する。
【0019】
本例の電動式パワーステアリング装置は、前記ウォームホイール4bと前記ウォーム歯5aとの噛合部の潤滑性を確保する為に、前記ハウジング3b内にグリースを充填している。本例の場合、前記ハウジング3bの内面のうち、前記ウォームホイール4bを囲む部分である、前記本体部17aの大径部23の内周面及び円輪部24の片側面(
図3に斜格子を付して示した部分)、並びに前記カバー19aの他側面(
図4に斜格子を付して示した部分)に、撥油性のコーティング層を形成している。このコーティング層は、ポリ四フッ化エチレン樹脂(PTFE)等のフッ素樹脂を、スプレー(噴霧)或いは刷毛等により塗布する事で設けられている。更に、本例の場合、前記ウォームホイール4bの歯部29の側面及び歯先面(
図5に斜格子を付して示した部分)、並びに、ウォーム歯5aの歯先面にも、撥油性のコーティング層を形成している。又、前記ウォームホイール4bの歯部29の歯面には、親油性の高い材料を混入した合成樹脂を露出させても良い。即ち、前記ウォームホイール4bは、製造コストの低廉化及び軽量化の為、金属製のホイール部28の周囲に、ナイロン樹脂やポリアミド6(PA6)等の合成樹脂製の歯部29を結合固定する事で構成しているが、この歯部29を構成する合成樹脂に、この合成樹脂よりも親油性の高い材料を混入する事もできる。この場合、具体的には、
図5の(B)に示す様なホイール素材30のホイール部28の周囲に、親油性の高い材料を混入した合成樹脂を結合固定する。そして、この合成樹脂の表面(両側面及び外周面)にフッ素樹脂を塗布する事で、撥油性のコーティング層を形成しておく。その後、前記ホイール素材30の外周面に、ホブ盤による歯切り加工を施す事で、前記ウォームホイール4bの歯部29の側面及び歯先面に撥油性のコーティング層を設けると共に、前記ウォーム歯5aと噛合する歯面に親油性の高い材料を混入した合成樹脂材料を露出させる。又、前記ウォーム歯5aの歯先面にコーティング層を形成する為に、前記ウォーム軸6aの素材にこのウォーム歯5aを形成する以前の状態で、この合成樹脂材料の外周面にフッ素樹脂を塗布する事で、撥油性のコーティング層を形成しておく。その後、前記ウォーム歯5aを形成する(歯切りする)事で、このウォーム歯5aの表面のうちの歯先面に撥油性のコーティング層を設ける。尚、この歯先面に加え、前記ウォーム軸6aのうち、前記ウォーム歯5aから軸方向に外れた部分(
図6に斜格子を付して示した部分)にも撥油性のコーティング層を設けても良い。
【0020】
上述の様な本例の電動式パワーステアリング装置によれば、前記ウォームホイール4bと、前記
ウォーム歯5aとの噛合部に、良質なグリースを長期間に亙り供給する事ができる。
即ち、前記ハウジング3bの内面のうち、前記本体部17aの大径部23の内周面及び円輪部24の片側面、前記カバー19aの他側面、前記ウォームホイール4bの歯部29の側面及び歯先面、並びに前記ウォーム歯5aの歯先面に、撥油性のコーティング層を形成している。この為、これら各面の、前記ハウジング3bの内部に封入したグリース中の基油に対する接触角を大きくする(具体的には60°よりも大きく、好ましくは90°以上にする)事ができて、この基油が、前記本体部17aと前記カバー19aとの接合部(開口部18aと嵌合筒部20の外周面との間部分)から毛細管現象により外部へ漏出するのを防止できて、車室内に付着する事による染み汚れの発生を抑える事ができる。これと共に、前記ハウジング3bの内面にグリースが付着する(張り付いてその場に止まる)事を抑えられる。従って、前記ウォームホイール4bと前記ウォーム歯5aとの噛合部に、良質なグリースを長期間に亙り供給する事ができる。
【0021】
特に本例の場合、前記ハウジング3bを構成する前記本体部17a及び前記カバー19aを軽合金のダイキャスト成形により造っている為、これら本体部17a及びカバー19aの表面には微小な凹凸が多数形成されている。この為、これら本体部17a及びカバー19aを、切削加工や研削加工等の機械加工の様に、加工後に表面に形成される微小な凹凸部が少ない加工方法により造った場合と比較して、前記コーティング層の撥油性を良好にできる。更に、加工コストを抑えて、前記ハウジング3bの製造コストを抑える事ができる。又、本例の場合には、前記嵌合筒部20の基部と前記開口部18との間に、前述した従来構造の場合に設けていた様なOリング26(
図9参照)等のシール材を設ける必要がない為、この面からもコストの低減を図れる。
【0022】
更に本例の場合、前記ウォームホイール4bの歯部29の歯面に、親油性の高い材料を混入した合成樹脂材料を露出させている為、この歯面にグリースを付着させ易くできる。従って、前記噛合部を長期間に亙り潤滑させられ、前記電動式パワーステアリング装置の耐久性をより向上させる事ができる。
【0023】
尚、本例の場合には、前記回転軸10を回転自在に支持する1対の転がり軸受11c、11dのうちの一方の転がり軸受11cを、外輪の内周面と内輪の外周面との間の円筒状空間の両端部にシールを設けていない、開放型としている。この為、前記電動式パワーステアリング装置の運転時に、前記ハウジング3b内の温度が上昇する事に伴い、このハウジング3b内の圧力が上昇する事を防止できて、このハウジング3b内に充填したグリースの外部への漏出を防止する事ができる。
尚、本発明を実施する場合に、ハウジング3bの内面のうち、本体部17aの大径部23の内周面及び円輪部24の片側面、並びにカバー19aの他側面に加え、ウォーム収容部25の内周面や嵌合筒部20の先端面等、その他の部分にも撥油性のコーティング層を設けても良い。
【符号の説明】
【0024】
1 ステアリングホイール
2、2a ステアリングシャフト
3、3a、3b ハウジング
4、4a、4b ウォームホイール
5、5a ウォーム歯
6、6a ウォーム軸
7 電動モータ
8、8a、8b ウォーム
9a、9b 転がり軸受
10 回転軸
11a〜11d 転がり軸受
12 トーションバー
13 トルクセンサ
14a、14b 自在継手
15 中間シャフト
16 ステアリングギヤユニット
17、17a 本体部
18 開口部
19、19a カバー
20 嵌合筒部
21 ボルト
22 小径部
23 大径部
24 円輪部
25 ウォーム収容部
26 Oリング
27a、27b 軸受保持部
28 ホイール部
29 歯部
30 ホイール素材