(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態について図面を参照して説明するが、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0027】
[橋梁]
まず、橋梁Bについて、
図1を参照して説明する。橋梁Bは、河川、海、渓谷、他の構造物等の上方に架け渡され、その端部間の交通を可能にする構造物である。橋梁Bは、複数の基礎1と、複数の補強橋脚2と、上部構造3とを備える。
【0028】
基礎1は、地面(地盤)内に埋め込まれており、橋梁全体の荷重を地盤に伝達する。補強橋脚2は、鉛直方向に沿って延びるように基礎1上にそれぞれ設けられている。上部構造3は、複数の補強橋脚2により支持されている。上部構造3は、例えば、車両や人が通過可能な橋桁部3aと、補強橋脚2と橋桁部3aとの間に配置される支承3bとを有する。
【0029】
[補強橋脚]
次に、補強橋脚2について、
図1〜
図3を参照してより詳しく説明する。補強橋脚2の大きさは、橋梁Bの設置場所や、上部構造3の大きさなど種々の設計条件に左右されるが、橋梁Bが流れのある河川に設置される場合には、補強橋脚2の河川幅方向における大きさが所定の河積阻害率を超えない大きさに制限される(国土技術研究センター編、「改訂解説・河川管理施設等構造」、山海堂、p295〜297)。補強橋脚2は、既存橋脚10と、補強部20とを有する。
【0030】
既存橋脚10は、鉄筋コンクリートによって構成されている。すなわち、既存橋脚10は、コンクリート柱12内に鉄筋14が配筋されて構成されている(
図2及び
図3参照)。鉄筋14は、複数の主筋14aと、複数のせん断補強筋14bとを有する。主筋14aは、鉛直方向に沿って延びるように基礎1内及びコンクリート柱12内を縦断している。主筋14aは、鉛直方向から見て、コンクリート柱12内において矩形を呈するように互いに離間して並んでいる。せん断補強筋14bは、矩形状を呈しており、主筋14aを取り囲むように主筋14aと接続されている。せん断補強筋14bと主筋14aとの接続は、例えば、溶接や、フック等の係合部材を用いた係合により行われてもよい。
【0031】
補強部20は、既存橋脚10の周囲に設けられている。補強部20は、補強部材22内に補強鉄筋24が配筋されて構成されている(
図2及び
図3参照)。補強部材22は、ポリマーセメントモルタルが硬化したモルタル硬化体である。ポリマーセメントモルタルは、ポリマーセメント組成物と水との混合物である。モルタル硬化体の圧縮強度は、同日の材齢で比較した場合、コンクリート硬化体の圧縮強度よりも大きい。
【0032】
補強鉄筋24は、複数の主筋24aと、複数のせん断補強筋24bとを有する。主筋24aは、鉛直方向に沿って延びるように補強部材22内を縦断している。主筋24aは、鉛直方向から見て、補強部材22内において矩形を呈するように互いに離間して並んでいる。主筋24aは、既存橋脚10の表面から離間した状態で既存橋脚10を取り囲んでいてもよいし(
図2参照)、既存橋脚10の表面に接した状態で既存橋脚10を取り囲んでいてもよいし(
図3参照)。図示していないが、主筋24aの基端部は、基礎1に形成された鉛直方向に延びる孔内に当該主筋の基端部を挿入して、エポキシ樹脂系の接着剤を当該孔内に充填することで、基礎1内に定着されている。主筋24aの基礎1に対する定着長さは、基礎1に対する十分な定着が図れる長さであれば特に限定はされないが、例えば主筋24aの直径の20倍に10mmを加えた長さ(20da+10mm)であってもよいし、270mm程度であってもよい。せん断補強筋24bは、矩形状を呈しており、主筋24aを取り囲むように主筋24aと接続されている。せん断補強筋24bと主筋24aとの接続は、例えば、溶接や、フック等の係合部材を用いた係合により行われてもよい。
【0033】
主筋24aの直径は6mm〜51mm程度であってもよい。すなわち、主筋24aの下限は、6mm程度であってもよいし、10mm程度であってもよいし、16mm程度であってもよい。主筋24aの直径の上限は、51mm程度であってもよいし、38mm程度であってもよいし、29mm程度であってもよい。
【0034】
主筋24aの耐力は、295N/mm
2以上であってもよいし、345N/mm
2以上であってもよいし、390N/mm
2以上であってもよいし、490N/mm
2以上であってもよい。主筋24aの引張強さは、440N/mm
2以上であってもよいし、490N/mm
2以上であってもよいし、560N/mm
2以上であってもよいし、620N/mm
2以上であってもよい。すなわち、主筋24aの種類として、JIS G 3112:2010「鉄筋コンクリート用棒鋼」が定めるSD295A(耐力295N/mm
2以上、且つ、引張強さ440N/mm
2〜600N/mm
2)を用いてもよいし、SD345(耐力345N/mm
2〜440N/mm
2、且つ、引張強さ490N/mm
2以上)を用いてもよいし、SD390(耐力390N/mm
2〜510N/mm
2、且つ、引張強さ560N/mm
2以上)を用いてもよいし、SD490(耐力490N/mm
2〜625N/mm
2、且つ、引張強さ620N/mm
2以上)を用いてもよい。主筋24aとしてSD390,SD490を用いる場合には、主筋24aの直径が6mm〜29mm程度であってもよい。なお、SD295A,SD345,SD390,SD490は、それぞれ異なる化学成分からなる。以下では、便宜的に、SD295A,SD345を「普通鉄筋」と呼び、SD390,SD490を「高強度鉄筋」と呼ぶことがある。
【0035】
せん断補強筋24bの直径は6mm〜16mm程度であってもよい。すなわち、せん断補強筋24bの下限は、6mm程度であってもよいし、8mm程度であってもよいし、9mm程度であってもよい。せん断補強筋24bの直径の上限は、16mm程度であってもよいし、14mm程度であってもよいし、12mm程度であってもよい。
【0036】
せん断補強筋24bの耐力は、295N/mm
2以上であってもよいし、345N/mm
2以上であってもよいし、390N/mm
2以上であってもよいし、490N/mm
2以上であってもよいし、785N/mm
2以上であってもよいし、1275N/mm
2以上であってもよい。せん断補強筋24bの引張強さは、440N/mm
2以上であってもよいし、490N/mm
2以上であってもよいし、560N/mm
2以上であってもよいし、620N/mm
2以上であってもよいし、930N/mm
2以上であってもよいし、1420N/mm
2以上であってもよい。
【0037】
[ポリマーセメント組成物]
本実施形態のポリマーセメント組成物は、補強工法用のポリマーセメント組成物であって、セメント、細骨材、流動化剤、再乳化形粉末樹脂、無機系膨張材、及び、合成樹脂繊維を含有する。
【0038】
セメントは、水硬性材料として一般的なものであり、いずれの市販品も使用することができる。それらの中でも、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定されるポルトランドセメントを含むことが好ましい。流動性と速硬性の観点から、早強ポルトランドセメントを含むことがより好ましい。
【0039】
強度発現性の観点からセメントのブレーン比表面積は、
好ましくは3000cm
2/g〜6000cm
2/gであり、
より好ましくは4000cm
2/g〜5000cm
2/gであり、
さらに好ましくは4200cm
2/g〜4800cm
2/gである。
【0040】
細骨材としては、珪砂、川砂、陸砂、海砂及び砕砂等の砂類を例示することができる。細骨材は、これらの中から選択される一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、ポリマーセメントモルタルの型枠への充填性を一層円滑にする観点から、珪砂を含むことが好ましい。
【0041】
細骨材をJIS A 1102:2014「骨材のふるい分け試験方法」に規定される方法でふるい分けた場合、連続する各ふるいの間にとどまる質量分率(%)が、ふるい目開き2000μmにおいて、0質量%であることが好ましい。ふるい目開き2000μmのふるいを細骨材がすべて通過する場合、上記質量分率は0質量%である。
【0042】
連続する各ふるいの間にとどまる質量分率(%)が、
ふるい目開き1180μmにおいて、5.0〜25.0であり、
ふるい目開き600μmにおいて、20.0〜50.0であり、
ふるい目開き300μmにおいて、20.0〜50.0であり、
ふるい目開き150μmにおいて、5.0〜25.0であり、
ふるい目開き75μmにおいて、0〜10.0であることが好ましく、
連続する各ふるいの間にとどまる質量分率(%)が、
ふるい目開き1180μmにおいて、10.0〜20.0であり、
ふるい目開き600μmにおいて、25.0〜45.0であり、
ふるい目開き300μmにおいて、25.0〜45.0であり、
ふるい目開き150μmにおいて、10.0〜20.0であり、
ふるい目開き75μmにおいて、0〜5.0であることがより好ましい。
【0043】
細骨材を上記規定でふるい分けた場合、連続する各ふるいの間にとどまる質量分率(%)が上述の範囲内であることにより、より良好な材料分離抵抗性及び流動性を有するモルタルや、より高い圧縮強度を有する硬化体を得ることができる。
【0044】
細骨材をJIS A 1102:2014「骨材のふるい分け試験方法」に規定される
方法でふるい分けた場合、細骨材の粗粒率が
好ましくは、1.60〜3.00であり、
より好ましくは、1.90〜2.80であり、
さらに好ましくは、2.10〜2.70であり、
特に好ましくは2.30〜2.60である。
【0045】
細骨材の粗粒率が上述の範囲であることにより、より良好な材料分離抵抗性や流動性を有するポリマーセメントモルタルや、より良好な強度特性を有する硬化体を得ることができる。
【0046】
上記ふるい分けは、JIS Z 8801−1:2006「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定される目開きの異なる数個のふるいを用いて行うことができる。
【0047】
細骨材の含有量は、セメント100質量部に対して、
80質量部〜130質量部であり、
好ましくは85質量部〜125質量部であり、
より好ましくは90質量部〜120質量部であり、
さらに好ましくは95質量部〜115質量部であり、
特に好ましくは100質量部〜110質量部である。
【0048】
細骨材の含有量を上述の範囲とすることにより、より高い圧縮強度を有する硬化体を得ることができる。
【0049】
流動化剤は、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、及びポリカルボン酸系のもの等を例示することができる。流動化剤は、これらの中から選択される一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。このうち、高い減水効果を得る観点から、ポリカルボン酸系の流動化剤を含むことが好ましい。ポリカルボン酸系の流動化剤を用いることによって、水粉体比を低減して、モルタル硬化体の強度発現性を一層良好にすることができる。
【0050】
流動化剤の含有量は、セメント100質量部に対して、
好ましくは0.04質量部〜0.55質量部であり、
より好ましくは0.11質量部〜0.38質量部であり、
さらに好ましくは0.13質量部〜0.32質量部であり、
特に好ましくは0.15質量部〜0.30質量部である。
【0051】
流動化剤の含有量を上述の範囲とすることにより、より良好な流動性を有するポリマーセメントモルタルを得ることができる。また、一層高い圧縮強度を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0052】
再乳化形粉末樹脂は、特にその種類及び製造方法は限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができる。再乳化形粉末樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸エステル樹脂系、スチレンブタジエン合成ゴム系、及び酢酸ビニルベオバアクリル共重合系のものが挙げられる。再乳化形粉末樹脂は、これらの中から選択される一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、再乳化形粉末樹脂は、表面にブロッキング防止剤を有していてもよい。モルタル硬化体の耐久性の観点から、再乳化形粉末樹脂は、アクリルを含有することが好ましい。さらに、接着性及び圧縮強度の観点から、再乳化形粉末樹脂のガラス転移温度(Tg)は、5〜20℃の範囲であることが好ましい。
【0053】
再乳化形粉末樹脂の含有量は、セメント100質量部に対して、
0.2質量部〜2.6質量部であり、
好ましくは0.5質量部〜2.2質量部であり、
より好ましくは0.7質量部〜2.0質量部であり、
さらに好ましくは0.9質量部〜1.8質量部であり、
特に好ましくは1.1質量部〜1.7質量部である。
【0054】
再乳化形粉末樹脂の含有量を上述の範囲とすることにより、ポリマーセメントモルタルの接着性と、モルタル硬化体の圧縮強度を一層高水準で両立することができる。
【0055】
無機系膨張材としては、生石灰−石膏系膨張材、石膏系膨張材、カルシウムサルフォアルミネート系膨張材、及び生石灰−石膏−カルシウムサルフォアルミネート系膨張材等を例示することができる。無機系膨張材は、これらの中から選択される一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。このうち、硬化体の圧縮強度をより向上する観点から、生石灰−石膏−カルシウムサルフォアルミネート系膨張材を含むことが好ましい。
【0056】
無機系膨張材の含有量は、セメント100質量部に対して、
好ましくは2.0質量部〜10.0質量部であり、
より好ましくは3.0質量部〜9.0質量部であり、
さらに好ましくは4.0質量部〜8.0質量部であり、
特に好ましくは5.0質量部〜7.0質量部である。
【0057】
無機系膨張材の含有量を上述の範囲とすることにより、一層適正な膨張性が発現され、モルタル硬化体の収縮を抑制することができると共に、モルタル硬化体の圧縮強度を一層高くすることができる。
【0058】
合成樹脂繊維としては、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ビニロン及びポリ塩化ビニル等を例示することができる。合成樹脂繊維は、これらの中から選択される一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
合成樹脂繊維の繊維長は、モルタル中での分散性、及びモルタル硬化体の耐クラック性向上の点から、
好ましくは4mm〜20mmであり、
より好ましくは6mm〜18mmであり、
さらに好ましくは8mm〜16mmであり、
特に好ましくは10mm〜14mmである。
【0060】
合成樹脂繊維の含有量は、セメント100質量部に対して、
好ましくは0.10質量部〜0.60質量部であり、
より好ましくは0.21質量部〜0.53質量部であり、
さらに好ましくは0.28質量部〜0.47質量部であり、
特に好ましくは0.32質量部〜0.43質量部である。
【0061】
合成樹脂繊維の繊維長及び含有量を上述の範囲にすることにより、モルタル中での分散性やモルタル硬化体の耐クラック性をより向上することができる。すなわち、合成樹脂繊維の存在により、モルタル硬化体のひび割れを抑制することができると共に、モルタル硬化体の曲げ耐力を向上することができる。また、硬化時の乾燥収縮が小さくなって、モルタル硬化体の強度が発現するまでの期間を短縮することができる。このため、工期の短期化を図ることができる。
【0062】
本実施形態のポリマーセメント組成物は、用途に応じて、凝結調整剤、増粘剤、金属系膨張材、及び消泡剤等を含有してもよい。例えば、凝結促進剤を含有してもよい。この凝結促進剤を含有することによって、工期の一層の短縮を図ることができる。
【0063】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることができる。例えば、凝結促進効果を有する塩化物、亜硝酸塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、アルミン酸塩、及び有機酸塩等を好適に用いることができ、これらを単独又は複数組み合わせて使用することができる。
【0064】
硫酸塩の一例としては、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、及び硫酸リチウムなどが挙げられ、炭酸塩の一例としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、及び炭酸リチウムなどが挙げられ、アルミン酸塩の一例としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、及びアルミン酸リチウムなどが挙げられ、有機酸塩の一例としては、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、及びアクリル酸カルシウムなどが挙げられる。これらの中でも、ギ酸カルシウムが、流動性を保持しつつ凝結促進効果(速硬性)を得られるので好ましい。また、ギ酸カルシウムとアルミン酸ナトリウムとを併用することで、流動性の低下を抑制しつつ、より優れた速硬性が得られるので好ましい。
【0065】
凝結促進剤の含有量は、セメント100質量部に対して、
好ましくは0.20質量部〜2.00質量部、
より好ましくは0.30質量部〜1.80質量部、
さらに好ましくは0.40質量部〜1.60質量部、
特に好ましくは0.50質量部〜1.50質量部である。
【0066】
凝結促進剤の含有量を上述の範囲とすることにより、流動性の低下を抑制しつつより優れた速硬性を有するポリマーセメント組成物を得ることができる。また、モルタル硬化体の初期硬化特性をより向上することができる。
【0067】
[ポリマーセメントモルタル]
ポリマーセメントモルタルは、上述のポリマーセメント組成物と水とを含む。ポリマーセメントモルタルは、上述のポリマーセメント組成物と水とを配合し混練することによって調製することができる。このようにして調製されるポリマーセメントモルタルは、優れた流動性(フロー値)を有する。このため、補強構造物を形成するための型枠内への充填を円滑に行うことができる。したがって、既存橋脚の補強構造物用のポリマーセメントモルタルとして好適に用いることができる。ポリマーセメントモルタルを調製する際に、水粉体比(水量/ポリマーセメント組成物量)を適宜変更することによって、ポリマーセメントモルタルのフロー値を調整することができる。
【0068】
水粉体比は、
好ましくは、0.135〜0.180であり、
より好ましくは、0.140〜0.175であり、
更に好ましくは、0.143〜0.172であり、
特に好ましくは、0.145〜0.170である。
【0069】
水粉体比を上述の範囲とすることにより、硬化前のポリマーセメントモルタルが良好な流動性を発現すると共に、ポリマーセメントモルタルが硬化したモルタル硬化体が十分な強度を発現する。従って、比較的大きな構造体である既存橋脚10に対してポリマーセメントモルタルを適用する場合でも流動性を維持したままポリマーセメントモルタルによって既存橋脚10全体を覆うことができると共に、硬化したモルタル硬化体によって既存橋脚10を十分に補強することができる。
【0070】
本明細書におけるフロー値は、以下の手順で測定する。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ100mmの円筒形状の塩化ビニル製パイプを配置する。このとき、塩化ビニル製パイプの一端がみがき板ガラスと接触し、他端が上向きとなるように配置する。他端側の開口からポリマーセメントモルタルを注入して、塩化ビニル製パイプ内にポリマーセメントモルタルを充填した後、塩化ビニル製パイプを垂直に引き上げる。モルタルの広がりが静止した後、互いに直交する2つの方向における直径(mm)を測定する。測定値の平均値をフロー値(mm)とする。
【0071】
ポリマーセメントモルタルのフロー値は、
好ましくは、170mm〜250mmであり、
より好ましくは、190mm〜245mmであり、
さらに好ましくは、210mm〜240mmである。
【0072】
フロー値が上述の範囲であることにより、材料分離抵抗性及び充填性に優れたポリマーセメントモルタルを得ることができる。また、硬化前のポリマーセメントモルタルの流動性を確保することができる。そのため、ポリマーセメントモルタルが流動性を維持したまま、比較的大きな構造体である既存橋脚をポリマーセメントモルタルで覆うことができる。
【0073】
本明細書における0打フロー値は、以下の手順で測定する。まず、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」の「11.フロー試験」に準拠して、上部内径70mm、下部内径100mm、高さ60mmのフローコーンを用いてフロー値(mm)を求める。落下運動0回で得られたフロー値を0打フロー値(mm)とする。
【0074】
ポリマーセメントモルタルの0打フロー値は、
好ましくは、290mm〜350mmであり、
より好ましくは、300mm〜340mmであり、
さらに好ましくは、315mm〜335mmである。
【0075】
0打フロー値が上述の範囲であることにより、材料分離抵抗性及び充填性に優れたポリマーセメントモルタルを得ることができる。また、硬化前のポリマーセメントモルタルの流動性を確保することができる。そのため、ポリマーセメントモルタルが流動性を維持したまま、比較的大きな構造体である既存橋脚をポリマーセメントモルタルで覆うことができる。
【0076】
[モルタル硬化体]
モルタル硬化体は、ポリマーセメントモルタルを硬化して形成することができる。このようにして形成されるモルタル硬化体は、既存橋脚をなすコンクリートと一体化するに際し、強度発現性に優れる。このため、補強工法の工期を短縮することができる。また、優れた強度特性及び優れた耐久性を有することから、既存橋脚の耐震性を向上することができる。
【0077】
本明細書における第1種圧縮強度は、圧縮強度の一つの指標であり、内径5cm、高さ10cmの円筒型枠にモルタルを充填し、24時間後に脱型した後、所定材齢まで水中養生した試験体をJIS A 1108:2006「コンクリートの圧縮試験方法」に準拠して測定される値(N/mm
2)である。
【0078】
上述の試験方法で測定されるモルタル硬化体の材齢3日における第1種圧縮強度は、
好ましくは、40N/mm
2以上であり、
より好ましくは、45N/mm
2以上であり、
さらに好ましくは、50N/mm
2以上である。
特に好ましくは、53N/mm
2以上である。
モルタル硬化体の材齢3日以降における第1種圧縮強度も、上述の範囲であることが好ましい。
【0079】
材齢3日で上述の第1種圧縮強度に到達できるような強度発現性を有するモルタル硬化体を用いることによって、補強工法の工期を一層短縮することができる。
【0080】
上述の試験方法で測定されるモルタル硬化体の材齢7日における第1種圧縮強度は、
好ましくは、60N/mm
2以上であり、
より好ましくは、64N/mm
2以上であり、
さらに好ましくは、70N/mm
2以上である。
特に好ましくは、73N/mm
2以上である。
モルタル硬化体の材齢7日以降における第1種圧縮強度も、上述の範囲であることが好ましい。
【0081】
材齢7日で上述の第1種圧縮強度に到達できるような強度発現性を有するモルタル硬化体を用いることによって、補強工法の工期を一層短縮することができる。
【0082】
上述の試験方法で測定されるモルタル硬化体の材齢28日の第1種圧縮強度は、
好ましくは、75N/mm
2以上であり、
より好ましくは、76N/mm
2以上であり、
さらに好ましくは、80N/mm
2以上である。
特に好ましくは、82N/mm
2以上である。
モルタル硬化体の材齢28日以降における第1種圧縮強度も、上述の範囲であることが好ましい。
【0083】
第1種圧縮強度が上述の範囲であることにより、既存橋脚をなすコンクリートと一体化した際に、一層優れた耐震性能を発揮することができる。
【0084】
本明細書における第2種圧縮強度は、第1種圧縮強度とは異なる圧縮強度の他の指標であり、JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」の「7.硬化したポリマーセメントモルタルの試験」に準拠して得られる値(N/mm
2)である。本明細書における曲げ強度は、JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」の「7.硬化したポリマーセメントモルタルの試験」に準拠して得られる値(N/mm
2)である。本明細書における引張強度は、JIS A 1113:2006「コンクリートの割裂引張強度試験方法」に準拠して得られる値である。なお、割裂引張強度試験の試験体の直径は100mm、長さは200mmである。
【0085】
上述の試験方法で測定されるモルタル硬化体の材齢28日における第2種圧縮強度は、
好ましくは、85N/mm
2以上であり、
より好ましくは、90N/mm
2以上であり、
さらに好ましくは、95N/mm
2以上である。
特に好ましくは、100N/mm
2以上である。
モルタル硬化体の材齢28日以降における第2種圧縮強度も、上述の範囲であることが好ましい。
【0086】
第2種圧縮強度が上述の範囲であることにより、既存橋脚をなすコンクリートと一体化した際に、一層優れた耐震性能を発揮することができる。
【0087】
上述の試験方法で測定されるモルタル硬化体の材齢28日における曲げ強度は、
好ましくは、7.5N/mm
2以上であり、
より好ましくは、8.0N/mm
2以上であり、
さらに好ましくは、9.0N/mm
2以上である。
特に好ましくは、10N/mm
2以上である。
モルタル硬化体の材齢28日以降における曲げ強度も、上述の範囲であることが好ましい。
【0088】
曲げ強度が上述の範囲であることにより、既存橋脚をなすコンクリートと一体化した際に、一層優れた耐震性能を発揮することができる。
【0089】
上述の試験方法で測定されるモルタル硬化体の材齢28日における引張強度は、
好ましくは、3.0N/mm
2以上であり、
より好ましくは、3.5N/mm
2以上であり、
さらに好ましくは、3.8N/mm
2以上である。
特に好ましくは、4.0N/mm
2以上である。
モルタル硬化体の材齢28日以降における引張強度も、上述の範囲であることが好ましい。
【0090】
引張強度が上述の範囲であることにより、既存橋脚をなすコンクリートと一体化した際に、一層優れた耐震性能を発揮することができる。
【0091】
本明細書における中性化深さは、JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」の「7.硬化したポリマーセメントモルタルの試験」に準拠して得られる値(mm)である。
【0092】
上述の試験方法で測定されるモルタル硬化体の材齢3カ月の中性化深さは、
好ましくは、0.03mm以下であり、
より好ましくは、0.02mm以下であり、
さらに好ましくは、0.01mm以下であり、
特に好ましくは、0mmである(中性化無し)。
【0093】
上述の試験方法で測定されるモルタル硬化体の材齢6カ月の中性化深さは、
好ましくは、0.20mm以下であり、
より好ましくは、0.15mm以下であり、
さらに好ましくは、0.10mm以下であり、
特に好ましくは、0mmである(中性化無し)。
【0094】
中性化深さが上述の範囲であることにより、既存橋脚をなすコンクリートと一体化した際に、一層優れた耐久性を発揮することができる。
【0095】
[既存橋脚の補強方法、補強橋脚の製造方法]
続いて、既存橋脚10に補強部20を施工して既存橋脚10を補強する方法、すなわち補強橋脚2の製造方法について説明する。まず、既存橋脚10を取り囲むように既存橋脚10の周囲に補強鉄筋24を配筋する。次に、既存橋脚10及び補強鉄筋24を取り囲むようにこれらの周囲に型枠を構成する。次に、型枠内にポリマーセメントモルタルを充填する。型枠内へのポリマーセメントモルタルの充填方法としては、例えば、型枠の上部から型枠内にポリマーセメントモルタルを流し込む方法や、型枠の下部からポリマーセメントモルタルを圧入する方法が挙げられる。次に、ポリマーセメントモルタルが硬化してモルタル硬化体(補強部材22)となった後に、型枠を取り外す。これにより、補強部20が得られる。以上により、既存橋脚10に補強部20が設けられ、補強橋脚2が完成する。
【0096】
[作用]
以上のような本実施形態では、ポリマーセメント組成物が所定の割合で細骨材を有する。そのため、流動性に優れるとともに、高い圧縮強度を有するモルタル硬化体を形成することができる。また、本実施形態では、上記ポリマーセメント組成物が、所定の割合で再乳化形粉末樹脂を含有する。そのため、既存橋脚10をなすコンクリート柱12や補強鉄筋24との良好な接着性を維持しつつ、短期間で高い強度を有するモルタル硬化体を形成することができる。さらに、本実施形態では、既存橋脚10及び補強鉄筋24をポリマーセメントモルタルで覆うことにより、既存橋脚10の補強を行っている。そのため、既存橋脚10に多数の溝を形成して、各溝内に補強用棒体を固定するといった労力を必要としない。以上により、補強橋脚に関して、十分な強度及び耐久性を確保しつつ、低コストで簡便な施工を実現することが可能となると共に、工期の短縮を図ることも可能となる。
【0097】
ところで、本実施形態とは異なり、補強鉄筋24の周囲に設けられる補強部材の強度が低い場合には、当該補強部材が補強鉄筋24に十分に付着しないことがある。そのため、補強鉄筋24として高強度鉄筋(SD390,SD490)を用いたとしても、外力が印加された場合に当該補強部材がこれらの鉄筋に対して滑ってしまいうる。従って、これらの鉄筋に外力が十分伝達されず、既存橋脚10を十分に補強できないおそれが生ずる。
【0098】
しかしながら、本実施形態では、上述のように高い圧縮強度を発現するモルタル硬化体によって補強部材22が構成されている。そのため、補強鉄筋24がモルタル硬化体と強固に付着してモルタル硬化体内においてずれ難い。従って、補強鉄筋24として高強度鉄筋を用いることができる。
【0099】
しかも、補強橋脚2を所定の強度とするために、補強鉄筋24として高強度鉄筋を用いる場合には、普通鉄筋を用いる場合と比較して細い直径のものを選択できる。このような細い補強鉄筋24を用いると、補強鉄筋24を覆うモルタル硬化体の厚さを薄くできるので、補強橋脚2の大型化を抑制できる。その結果、特に補強橋脚2が河川の中に存在する場合には、補強橋脚2が水から受ける力を小さくすることができると共に、補強橋脚2による河積阻害率を抑制することができる。
【0100】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の要旨の範囲内で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。例えば、既存橋脚10の周囲をポリマーセメントモルタルで覆う前に、既存橋脚10の表面(コンクリート柱12の表面)に対して前処理を行ってもよい。前処理としては、例えば、(i)コンクリート柱12の表面を清掃する処理、(ii)コンクリート柱12の表面に目荒らしを施工する処理、又は(iii)既存橋脚10のかぶり部を除去する処理が挙げられる。
【0101】
ここで、(i)コンクリート柱12の表面を清掃する処理とは、コンクリート柱12の表面に付着する埃や苔や汚れ等を取り除く処理をいう。この処理は、例えば、コンクリート柱12の表面に対して高圧水をジェット噴射することによって行われる。
【0102】
(ii)コンクリート柱12の表面に目荒らしを施工する処理とは、コンクリート柱12の表面を細かく傷つけて粗面化する処理をいう。この処理は、例えば、ブラスト工法、バキュームブラスト工法、又はその他の工法によって行うことができる。ブラスト工法は、コンクリート柱12の表面に対して超高圧水、砂、又は金属粒等を噴射する工法である。バキュームブラスト工法は、ブラスト工法の一形態であり、発生した粉塵をバキュームで回収することが可能である。その他の工法としては、空気工具(エアーピックハンマー、エアーブレイカー等)又は電動工具等を用いた粗面化処理が挙げられる。このうち、粉塵を回収できるバキュームブラスト工法が特に好ましい。
【0103】
(iii)既存橋脚10のかぶり部を除去する処理について、
図4を参照して説明する。まず、
図4の(a)に示される既存橋脚10のかぶり部16(コンクリート柱12のうち鉄筋14よりも外側の部分)を、
図4の(b)に示されるように除去する。この除去処理は、粗面化処理と同様に、例えば、ブラスト工法、バキュームブラスト工法、又はその他の工法によって行うことができる。このうち、粉塵を回収できるバキュームブラスト工法が特に好ましい。その後、
図4の(c)に示されるように、上記の実施形態と同様、かぶり部16が除去された後の既存橋脚10の周囲に補強鉄筋24を配筋し、既存橋脚10及び補強鉄筋24をポリマーセメントモルタルによって覆う。ポリマーセメントモルタルが硬化してモルタル硬化体となることで、補強橋脚2が完成する。ここで、ポリマーセメントモルタルの施工厚みを、既存橋脚10のかぶり部16の厚みと同等とする場合には、補強橋脚2を既存橋脚10と同等の径(同等の太さ)とすることが可能である。また、ポリマーセメントモルタルの施工厚みを、既存橋脚10のかぶり部16の厚みより薄くする場合には、補強橋脚2が既存橋脚10よりも小さい径となるので、補強橋脚2の小型化(小径化)が可能となる。
【0104】
既存橋脚10とポリマーセメントモルタルとの付着力を高める目的で、ポリマーセメントモルタルによって既存橋脚10を覆う前に、既存橋脚10の表面に下塗り材(プライマー)を適用してもよい。下塗り材としては、例えば、水溶性樹脂エマルションが挙げられる。下塗り材の適用方法としては、例えば、塗布や吹き付けが挙げられる。下塗り材の適用方法として塗布を採用する場合には、刷毛、ローラ等を用いてもよい。
【0105】
補強部20を雨等の酸性物質から保護する目的で、補強部20の形成後に、補強部20の表面(モルタル硬化体の表面)に上塗り材を適用してもよい。上塗り材としては、例えば、含浸材、表面被覆材等が挙げられる。上塗り材の適用方法としては、例えば、塗布や吹き付けが挙げられる。上塗り材の適用方法として塗布を採用する場合には、刷毛、ローラ等を用いてもよい。
【0106】
補強橋脚2の美装や上塗り材の保護の目的で、補強部20の形成後又は上塗り材の補強部20への適用後に、これらの表面に仕上げ材を適用してもよい。仕上げ材としては、例えば、河川や周囲環境に対して影響を与え難い成分を含有する塗料が挙げられる。仕上げ材の適用方法としては、例えば、塗布や吹き付けが挙げられる。仕上げ材の適用方法として塗布を採用する場合には、刷毛、ローラ等を用いてもよい。
【実施例】
【0107】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
(実施例1,2、比較例1〜4)
[ポリマーセメント組成物の調製]
以下の(1)〜(6)に示す原材料を準備した。
【0109】
(1)セメント
・早強ポルトランドセメント(JIS R 5210:2009、ブレーン比表面積:4600cm
2/g)
(2)細骨材
・珪砂(JIS A 1102:2014の試験結果を表1に示す。)
【0110】
(3)無機系膨張材
・生石灰−石膏−カルシウムサルフォアルミネート系膨張材
(4)流動化剤
・ポリカルボン酸系流動化剤
(5)合成樹脂繊維
・ビニロン繊維(繊維長:12mm)
(6)再乳化形粉末樹脂
・アクリル/酢酸ビニル/ベオバ共重合樹脂を主成分とする粉末樹脂(ガラス転移温度(Tg):14℃)
【0111】
【表1】
【0112】
上述のセメント、細骨材、無機系膨張材、流動化剤、合成樹脂繊維、及び再乳化形粉末樹脂を表2に示す質量割合で配合し、各実施例及び各比較例のポリマーセメント組成物を調製した。
【0113】
【表2】
【0114】
[ポリマーセメントモルタルの調製]
表2に示す質量割合で配合したポリマーセメント組成物1500gに対し、水を表3に示す水粉体比で配合して混練し、ポリマーセメントモルタルを調製した。混練は、温度20℃、相対湿度65%の条件下で、ホバートミキサーを用いて低速で3分間混練した。このようにして得られたポリマーセメントモルタルの物性を以下の方法で評価した。
【0115】
[物性の評価方法]
(1)フロー値の測定方法
温度20℃、相対湿度65%の条件下で、厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ100mmの円筒形状の塩化ビニル製パイプを配置した。このとき、塩化ビニル製パイプの一端がみがき板ガラスと接触し、他端が上向きとなるように配置した。他端側の開口からポリマーセメントモルタルを注入して、塩化ビニル製パイプ内にモルタルを充填した後、パイプを垂直に引き上げた。モルタルの広がりが静止した後、互いに直交する2つの方向における直径(mm)を、ノギスを用いて測定した。測定値の平均値をフロー値(mm)とした。求めたフロー値を表3に示す。
【0116】
(2)第1種圧縮強度及び曲げ強度の測定方法
温度20℃、相対湿度65%の条件下で、内径5cm、高さ10cmの円筒型枠に上記モルタルを充填し、温度20℃、相対湿度95%以上の条件下で24時間養生した。養生後、脱型し、表3に示す所定材齢(3日、7日又は28日)まで水中養生して試験体を作製した。所定材齢に達した各試験体の第1種圧縮強度(N/mm
2)を、JIS A 1108:2006「コンクリートの圧縮試験方法」に準拠して測定した。材齢3日、7日及び28日の第1種圧縮強度を表3に示す。
【0117】
【表3】
【0118】
表3に示すとおり、各実施例のポリマーセメントモルタルは、優れた流動性を有するとともに、高い第1種圧縮強度を有するモルタル硬化体を形成できることが確認された。各実施例1,2のポリマーセメントモルタルは、流動性が良好であることから、型枠等への充填性に優れる。また、各実施例1,2のモルタル硬化体は、短い材齢で十分に高い第1種圧縮強度を有する。したがって、短納期が要請される既存橋脚の補強工法に好適に用いることができる。
【0119】
(実施例1〜4)
実施例2に係るポリマーセメント組成物1500gに対し、水を表4に示す水粉体比で配合して混練し、ポリマーセメントモルタルを調製した。混練は、表4に示す温度、及び、相対湿度の条件下で、ホバートミキサーを用いて低速で3分間混練した。このようにして得られたポリマーセメントモルタル及びモルタル硬化体の物性を、養生温度を表4に示す大きさとした以外は、実施例2と同様にして評価した。フロー値及び第1種圧縮強度の結果を表4に示す。
【0120】
【表4】
【0121】
表3及び表4に示すとおり、各実施例1〜4のポリマーセメントモルタルは、季節を問わず、優れた流動性と高い第1種圧縮強度を有することが確認された。表3及び表4に示すように、各実施例1〜4のモルタル硬化体は、材齢28日において第1種圧縮強度が75N/mm
2以上になることが確認された。
【0122】
(実施例5)
セメント100質量部に対して流動化剤を0.26質量部配合したこと以外は、実施例2と同様にして実施例5のポリマーセメント組成物を調製した(表5参照)。
(比較例5)
[ポリマーセメント組成物の調製]
以下の(1)〜(6)に示す原材料を準備した。
【0123】
(1)セメント
・普通ポルトランドセメント(JIS R 5210:2009、ブレーン比表面積:3300cm
2/g)
(2)細骨材
・珪砂、寒水石
(3)無機系膨張材
・生石灰−石膏系膨張材
(4)流動化剤
・ポリカルボン酸系流動化剤
(5)合成樹脂繊維
・ビニロン繊維(繊維長:6mm)
(6)再乳化形粉末樹脂
・アクリル樹脂を主成分とする樹脂粉末(ガラス転移温度(Tg:8℃)
【0124】
上述のセメント、細骨材、無機系膨張材、流動化剤、合成樹脂繊維、及び再乳化形粉末樹脂を表5に示す質量割合で配合し、比較例5のポリマーセメント組成物を調製した。
【0125】
【表5】
【0126】
[ポリマーセメントモルタルの調製]
表5に示す質量割合で配合したポリマーセメント組成物1500gに対し、水を表6に示す水粉体比で配合して混練し、ポリマーセメントモルタルを調製した。混練は、温度20℃、相対湿度65%の条件下で、ホバートミキサーを用いて低速で3分間混練した。このようにして得られたポリマーセメントモルタルの物性を以下の方法で評価した。
【0127】
[物性の評価方法]
(1)0打フロー値及び15打フロー値の測定方法
温度20℃、相対湿度65%の条件下で、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」の「11.フロー試験」に準拠して、上部内径70mm、下部内径100mm、高さ60mmのフローコーンを用いて0打フロー値(mm)及び15打フロー値(mm)を求めた。0打フロー値(mm)は落下運動0回で得られた値であり、15打フロー値(mm)は15回の落下運動を与えて得られた値である。求めた0打フロー値及び15打フロー値を表6に示す。
【0128】
(2)第2種圧縮強度及び曲げ強度の測定方法
温度20℃の条件下で、JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」の「7.硬化したポリマーセメントモルタルの試験」に準拠して、所定材齢に達した各試験体の第2種圧縮強度(N/mm
2)及び曲げ強度(N/mm
2)を測定した。材齢28日の第2種圧縮強度及び曲げ強度を表6に示す。
【0129】
(3)引張強度の測定方法
温度20℃の条件下で、JIS A 1113:2006「コンクリートの割裂引張強度試験方法」に準拠して、所定材齢に達した各試験体の引張強度(N/mm
2)を測定した。なお、試験体の直径は100mm、長さは200mmとした。材齢28日の引張強度を表6に示す。
【0130】
(4)中性化深さ試験
温度20℃の条件下で、JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に準拠して、所定材齢に達した各試験体の中性化深さ(mm)を測定した。材齢3カ月及び6カ月の中性化深さ(mm)を表6に示す。
【0131】
【表6】
【0132】
表6に示すとおり、実施例5のポリマーセメントモルタルは、優れた流動性を有するとともに、優れた強度特性と優れた耐久性を有するモルタル硬化体を形成できることが確認された。実施例5のポリマーセメントモルタルは流動性が良好であることから、型枠等への充填性に優れる。また、実施例5のモルタル硬化体は、十分に高い圧縮強度、曲げ強度及び引張強度を有し、優れた耐久性(中性化深さの値が小さい)を有する。したがって、既存橋脚の補強工法において、薄い施工厚みでも好適に用いることができる。
【0133】
(実施例6、比較例6〜8)
[橋脚の強度試験]
(1)試験体の作製
実施例6及び比較例6〜8に係る試験体を、表7に示される諸元に従って、次の手順により準備した。
(ア)まず、基礎用及び既存橋脚用の鉄筋(主筋及びせん断補強筋)を配筋した。次に、基礎用の鉄筋の部分にコンクリート配合「21−18−20−N」のコンクリートを打設し、2週間養生することにより、比較例6に係る試験体の基礎を作製した。次に、基礎の上で且つ既存橋脚用の鉄筋の部分にコンクリート配合「21−18−20−N」のコンクリートを打設し、2カ月間養生することにより、比較例6に係る試験体の既存橋脚を作製した。これにより、比較例6に係る試験体を得た。
(イ)上記アと同様の工程を経て、比較例7に係る試験体の基礎を作成した。次に、基礎の上で且つ既存橋脚用の鉄筋の部分にコンクリート配合「21−18−20−N」のコンクリートを打設し、20日間養生することにより、比較例7に係る試験体の既存橋脚を作製した。次に、既存橋脚の外周面を覆うように補強部を構成した後、3カ月間養生することにより、比較例7に係る試験体の補強橋脚を作製した。具体的には、既存橋脚の周囲に補強鉄筋を構成した後、補強鉄筋が内部に位置するように既存橋脚の周囲に表7のコンクリートを打設することにより、補強部を構成した。なお、補強鉄筋の主筋は、基礎に形成された鉛直方向に延びる孔内に当該主筋の基端部を270mm(当該主筋の直径の20倍に10mmを加えた長さ(20da+10mm))挿入して、エポキシ樹脂系の接着剤を当該孔内に充填することで、基礎に定着させた。これにより、比較例7に係る試験体を得た。
(ウ)上記イと同様の工程を経て、比較例8に係る基礎及び既存橋脚を作製した。次に、既存橋脚の外周面を覆うように補強部(補強鉄筋及び補強部材)を構成した後、2カ月間養生することにより、比較例8に係る試験体の補強橋脚を作製した。具体的には、既存橋脚の周囲に補強鉄筋を構成した後、補強鉄筋が内部に位置するように既存橋脚の周囲に表7のポリマーセメントモルタルを打設することにより、補強部を構成した。なお、補強鉄筋の主筋は、基礎に形成された孔に当該主筋の基端部を270mm(当該主筋の直径の20倍に10mmを加えた長さ(20da+10mm))挿入して、エポキシ樹脂系の接着剤を当該孔内に充填することで、基礎に定着させた。これにより、比較例8に係る試験体を得た。
(エ)上記ウと同様の工程を経て、実施例6に係る試験体を得た。
【0134】
実施例6に係る試験体は、実施例5のポリマーセメントモルタルを用いて鉄筋コンクリート製の既存橋脚を補強した補強橋脚を模している。比較例6に係る試験体は、鉄筋コンクリート製の既存橋脚を模している。比較例7に係る試験体は、コンクリートを用いて鉄筋コンクリート製の既存橋脚を補強した補強橋脚を模している。比較例8に係る試験体は、比較例5のポリマーセメントモルタルを用いて鉄筋コンクリート製の既存橋脚を補強した補強橋脚を模している。
【0135】
【表7】
【0136】
(2)正負交番載荷試験の方法
各試験体の頂部に対し、下方に向かう軸力を160kNの大きさで印加した。続いて、基礎からの高さが1610mmの載荷点に正負の水平力を印加した。正負交番載荷は、載荷点である1610mmの約0.5%である8mmの整数倍で変位振幅を増加させながら、載荷点に印加した。主筋の破断を確認したときに、試験を終了した。
【0137】
なお、既存柱部及び補強部の主筋のそれぞれに鉛直方向(引く方向)のひずみを計測するためのひずみゲージを取り付けた。既存柱部の主筋に対するひずみゲージの取り付け箇所は、基点を0mmとしたときに、200mmの高さまでは50mm間隔とし、200mmから700mmまでは100mm間隔とした。補強部の主筋に対するひずみゲージの取り付け箇所は、基点を0mmとしたときに、−200mmの高さから200mmの高さまでは50mm間隔とし、200mmの高さから700mmの高さまでは100mm間隔とした。
【0138】
(3)最大耐力
実施例6及び比較例6〜8に係る各試験体について、正負交番載荷試験で得られた最大耐力の結果を表8に示す。
【表8】
【0139】
表8によれば、実施例6に係る試験体は、補強がなされていない比較例6に係る試験体と比較して、大幅に最大耐力が向上した。実施例6に係る試験体の最大耐力は、比較例7に係る試験体の最大耐力と同程度であり、比較例8に係る試験体の最大耐力よりも大きかった。以上より、実施例6に係る試験体によれば、コンクリートを用いて補強されている比較例7に係る試験体よりも小型であるにも関わらず、当該試験体と同程度の最大耐力が得られることが確認された。また、実施例6に係る試験体は、モルタル硬化体の圧縮強度が比較例5よりも高い実施例5に係るポリマーセメントモルタルを用いて補強されているので、圧縮強度が高いモルタル硬化体となるポリマーセメントモルタルを用いることで試験体の最大耐力が向上することが確認された。
(4)鉛直方向ひずみ
実施例6及び比較例8に係る各試験体について、主筋に生じた鉛直方向のひずみの結果を
図5に示す。
図5の(a)に示されるように、実施例6に係る試験体では、基点と200mmの高さとの間において補強部の主筋の降伏が確認された。一方、
図5の(b)に示されるように、比較例8に係る試験体では、100mmの高さにおいて既存柱部の主筋の降伏が確認されると共に、−100mm以下の高さにおいて補強部の主筋の降伏が確認された。以上より、実施例6に係る試験体では、比較例8に係る試験体と比較して、塑性ヒンジ領域が大きく、変形性能が向上したことが確認された。また、実施例6に係る試験体では、基点と200mmの高さとの間において既存柱部及び補強部の各主筋に歪みが生じていることから、比較例8に係る試験体と比較して、モルタル硬化体が補強部の主筋により強固に付着し、外力が既存柱部から補強部へと伝達しやすくなっていることが確認された。