(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、所定の気流条件で上下渦を揃えることができても、気流条件が変化したときにこれに合うように整流設定を変更する必要がある。この点について従来技術では、気流条件のどのような変更に対して、どのような整流設定の変更を行うかについて、明確な指針が与えられているとはいえない。そこで、本発明では、気流条件の変化に対応可能な車両用の整流装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、後面が略垂直に形成された車両の整流装置に関するものである。当該整流装置は、前記車両後面の天井端から車両後方に延伸可能な上部板と、前記車両後面の床端から車両後方に延伸可能な下部板と、前記上部板及び下部板の延伸長さを調整するアクチュエータと、前記車両後面の、相対的に天井側に設けられた上部圧力センサと、前記車両後面の、相対的に床側に設けられた下部圧力センサと、を備える。さらに、前記上部及び下部圧力センサが検出した圧力値を受信するとともに、前記上部圧力センサと下部圧力センサの圧力値の差を縮めるように、前記アクチュエータを介して前記上部板及び下部板の延伸長さを調整する制御部を備える。
【0007】
また、上記発明において、前記制御部は、前記上部圧力センサの圧力値が前記下部圧力センサの圧力値よりも高い場合、前記下部板を相対的に車両後方に延伸させることが好適である。
【0008】
また、上記発明において、前記制御部は、前記下部圧力センサの圧力値が前記上部圧力センサの圧力値よりも高い場合、前記上部板を相対的に車両後方に延伸させることが好適である。
【0009】
また、上記発明において、前記車両後面の両側に、車両後方に延伸する側部板を備えることが好適である。
【0010】
また、上記発明において、前記側部板は、車両の中心側に傾斜されていることが好適である。
【0011】
また、上記発明において、前記上部圧力センサは、前記車両後面を鉛直方向に3等分した際の、最上部領域に配置されることが好適である。
【0012】
また、上記発明において、前記下部圧力センサは、前記車両後面を鉛直方向に3等分した際の、最下部領域に配置されることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、気流条件の変化に対応可能な車両用の整流装置を提供可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<全体構成>
図1に、本実施形態に係る整流装置10を搭載した車両11の後方を例示する。車両11は、例えばトラックなどの貨物自動車やいわゆるワンボックスカーであって、車両後面12が略垂直に形成されている。このような車両は、セダンタイプなどの、後部形状が絞られる(尻すぼみになる)車両と比較して剥離領域が大規模になる傾向があることから、当該剥離領域の発生に伴う空気抵抗の影響も相対的に大きい。本実施形態では、剥離領域による影響が比較的大きい車両に対して、気流制御を行う。
【0016】
整流装置10は、上部板14、下部板16、上部板アクチュエータ18A、下部板アクチュエータ18B、上部圧力センサ20A、下部圧力センサ20B、右側部板22A、左側部板22B、及び制御部24を備える。
【0017】
上部圧力センサ20A及び下部圧力センサ20Bは、周囲の気圧を測定してその測定値を制御部24に送信する。制御部24では、受信した測定値に応じて上部板アクチュエータ18A、下部板アクチュエータ18Bの少なくとも一方を作動させて、上部板14及び下部板16の少なくとも一方の車両後方延伸長さを変更させる。
【0018】
延伸長さの変更に応じて上部圧力センサ20A及び下部圧力センサ20Bの測定値が変化する。制御部24は、上部圧力センサ20Aの測定値と下部圧力センサ20Bの測定値の差を縮めるように、上部板14及び下部板16の延伸長さを調整する。
【0019】
<各構成の詳細>
上部板アクチュエータ18A及び下部板アクチュエータ18Bは、それぞれ上部板14及び下部板16を車両後方(
図1のX軸方向)に沿って水平移動させることで、上部板14及び下部板16の延伸長さを調整する駆動装置である。両アクチュエータ18A,18Bは、例えば油圧シリンダやモータなどから構成される。
【0020】
上部板14は、車両後面12の天井端に設けられた板部材である。上部板14は、車両後面12の全幅(
図1のY軸方向長さ)に亘って設けられていてよい。上述したように、上部板14は、上部板アクチュエータ18Aの動作に応じて車両後方に水平移動(X軸方向に沿って移動)させられる。
【0021】
下部板16は、車両後面12の床端に設けられた板部材である。上部板14と同様に、下部板16は、車両後面12の全幅(
図1のY軸方向長さ)に亘って設けられていてよい。また下部板16は、下部板アクチュエータ18Bの動作に応じて車両後方に水平移動させられる。
【0022】
図2には、上部板14及び下部板16の車両後方延伸長さを変更させることによる、整流効果を示すシミュレーション結果が示されている。
図2上段及び下段とも、横軸は圧力係数Cpであり、縦軸は地面からの高さ(
図1のZ軸方向高さ)を表している。また、両段とも、車両後面12の幅方向中心部分(
図1のY軸方向中央)の圧力係数Cpの鉛直方向分布を示している。
【0023】
図2上段の実線は、上部板14及び下部板16の車両後方延伸長さをともに0(x1=0,x2=0)としたときの圧力係数Cpの分布を示すものである。圧力係数Cpは、0に近づくほど空気抵抗が低いことを表しており、この実線の例では、車両後面12の下部側の空気抵抗が相対的に高いことが示されている。
【0024】
図2上段の破線は、上部板14の車両後方延伸長さは0に維持する一方で、下部板16の車両後方に延伸させたときの圧力係数Cpの分布を示すものである。この分布に示されているように、実線の分布と比較して、車両後面12下方の圧力係数Cpは0側に寄せられており、空気抵抗が軽減されたことが理解される。
【0025】
図2下段の実線は、
図2上段の実線と同様、上部板14及び下部板16の車両後方延伸長さを0(x1=0,x2=0)としたときの圧力係数Cpの分布を示すものである。なお、上部板14と下部板16の延伸長さの条件は同じものの、
図2下段では気流の条件を
図2上段とは変更させているので、圧力係数の分布は
図2上段の実線とは異なるものとなっている。具体的には、
図2下段では、車両後面12の上部側の空気抵抗が相対的に高くなっている。
【0026】
図2下段の破線は、下部板16の車両後方延伸長さは0に維持する一方で、上部板14の車両後方に延伸させたときの圧力係数Cpの分布を示すものである。この分布に示されているように、実線の分布と比較して、車両後面12上方の圧力係数Cpは0側に寄せられており、空気抵抗が軽減されたことが理解される。
【0027】
このように、上部板14及び下部板16の車両後方延伸長さを変化させることで、車両後面12の圧力係数Cpを低減できることが理解される。具体的には、上部板14及び下部板16を車両後方に延伸させることで、圧力係数Cpは0側に寄せられる。
【0028】
加えて、上部板14の延伸による影響は、上部板14側の圧力係数Cpに相対的に大きく表れ、下部板16側の圧力係数Cpには相対的に小さく表れる。同様にして、下部板16の延伸による影響は、下部板16側の圧力係数Cpに相対的に大きく表れ、上部板14側の圧力係数Cpには相対的に小さく表れる。
【0029】
このことから、上下に表れた圧力係数CPのピークのうち相対的に負に大きい(0から離れている)一方に近い板を延伸させることで、他方への影響を抑えつつ、一方の圧力係数Cpのピークを0側に寄せることが可能となる。その結果、上部側ピークと下部側ピークとを揃えることが可能となる。
【0030】
圧力係数Cpのピークを揃えることで、車両後面12の上下に発生した剥離渦の大きさ(渦度)を揃えることが可能となる。ここで、圧力係数Cpは、下記数式(1)に基づいて求められる。
【0032】
数式(1)において、p
∞、ρ
∞、V
∞はそれぞれ一様流の圧力、密度、速度を表している。また、剥離領域は一様流よりも低圧であるため、一般的にp<p
∞となる。
【0033】
また、計算上はp
∞、ρ
∞、V
∞を定数として扱ってよく、上部板14側の圧力係数Cpに対しても、下部板16側の圧力係数Cpに対しても、同一の値を用いてもよい。このような仮定に基づくと、
図2における圧力係数Cpの横軸方向位置は、上部圧力センサ20A及び下部圧力センサ20Bにより測定される圧力pに依存するものとなる。圧力pは剥離渦の渦度に対応するものであり、圧力係数Cpのピーク位置が揃うということは、車両後面12の上部(天井側)に発生した剥離渦と下部(床側)に発生した剥離渦との大きさ(渦度)が揃っていることを表している。上述したように、上下渦が揃うことによって空気抵抗は軽減される。つまり、圧力pの上側ピークと下側ピークを揃える、すなわち、圧力係数Cpの上側ピークと下側ピークを揃える事で、空気抵抗を軽減させることができる。
【0034】
以上の検討を踏まえて、圧力係数のピークを揃えるためには、以下のように上部板14及び下部板16の車両後方延伸長さを調整すればよい。すなわち、
図2上段のように、車両後面12の上部側の圧力係数Cpが相対的に高く(0側に寄っており)、下部側の圧力係数Cpが相対的に低い(0から負に離れている)場合には、下部板16を上部板14に対して相対的に車両後方に延伸させればよい。例えば、上部板14の延伸長さx1を縮めるか、下部板16の延伸長さx2を伸ばせばよい。あるいはx1の短縮とx2の延長を同時に行ってもよい。
【0035】
図2下段のように、車両後面12の下部側の圧力係数Cpが相対的に高い場合には、上部板14を下部板16に対して相対的に車両後方に延伸させればよい。例えば、上部板14の延伸長さx1を伸ばすか、下部板16の延伸長さx2を縮めればよい。あるいはx1の延長とx2の短縮を同時に行ってもよい。
【0036】
図1に戻り、上部圧力センサ20Aは、車両後面12の、相対的に天井側に設けられ、その周囲の気圧を測定する。また、下部圧力センサ20Bは、車両後面12の、相対的に床側に設けられ、その周囲の気圧を測定する。これら圧力センサ20A,20Bの測定値は、制御部24に送られる。
【0037】
上部圧力センサ20Aは、圧力係数Cpの上側ピークにおける圧力値を検知可能な位置に配置されていればよく、また、下部圧力センサ20Bは、圧力係数Cpの下側ピークにおける圧力値を検知可能な位置に配置されていればよい。
【0038】
図3には、
図2の2つのグラフを横に並べた図が示されている。いずれのグラフにおいても、圧力係数Cpの上側ピークpp1は、車両後面12を鉛直方向(Z軸方向)に3等分した際の、最上部領域に表れていることが理解される。このことから、上部圧力センサ20Aは、当該最上部領域に配置されていることが好適である。例えば、最上部領域の鉛直方向中間位置に上部圧力センサ20Aを配置する。
【0039】
また同様にして、圧力係数Cpの下側ピークpp2は、車両後面12を鉛直方向(Z軸方向)に3等分した際の、最下部領域に表れていることが理解される。このことから、下部圧力センサ20Bは、当該最下部領域に配置されていることが好適である。例えば、最下部領域の鉛直方向中間位置に下部圧力センサ20Bを配置する。
【0040】
なお、上部圧力センサ20Aを複数設けることができる場合には、複数の上部圧力センサ20A,20A・・・を上記最上部領域に鉛直方向に沿って配列して、各センサが検出した圧力値の最小値を上部の圧力値として採用してよい。同様にして、下部圧力センサ20Bを複数設けることができる場合には、複数の下部圧力センサ20B,20B・・・を上記最下部領域に鉛直方向に沿って配列して、各センサが検出した圧力値の最小値を下部の圧力値として採用してよい。
【0041】
図4は、車両後面12の幅方向(水平方向、Y軸方向)における、圧力係数Cpの分布を示すものである。ここで、実線は車高Hを1としたときの鉛直方向高さ(Z軸方向高さ)が0.225(z=0.225)のときの圧力係数Cpの幅方向分布を示す。また、破線は車高Hを1としたときの鉛直方向高さが0.9(z=0.9)のときの圧力係数Cpの幅方向分布を示す。
【0042】
この図に示されているように、幅方向(水平方向)については圧力係数の変動は僅かなものであり、当該方向については任意の箇所に各圧力センサ20A,20Bを配置してもよいことが理解される。ただし、後述する両側部板22A,22Bの影響を考慮すると、各圧力センサ20A,20Bは、幅方向中央に配置されていることが好適である。
【0043】
図1に戻り、右側部板22A及び左側部板22Bは、車両後面12の側方端部から車両後方に延伸するようにしてそれぞれ設けられている。右側部板22A、左側部板22Bともに、上部板14と下部板16との間に、鉛直方向(Z軸方向)に亘って設けられていてよい。
【0044】
右側部板22A及び左側部板22Bは、車両の中心側に傾斜されている。つまり、車両後方から見たときに車両後面12の一部を覆うようにして、やや閉じ気味に右側部板22A及び左側部板22Bが設けられている。右側部板22A及び左側部板22Bは、この配置角度のまま固定されていてよい。配置角度は右側部板22Aと左側部板22Bで等しいことが好適である。
【0045】
図5には、右側部板22A及び左側部板22Bを設けた場合の、圧力係数Cpの分布が示されている。
図5のグラフは、
図2のグラフに、点線で示す分布線を追加したものである。当該分布線は、破線で示した分布線に、さらに右側部板22A及び左側部板22Bを設けたときの圧力係数Cpの分布を示している。
【0046】
破線の分布線と点線の分布線を比較すれば理解されるように、右側部板22A及び左側部板22Bを設けることで、圧力係数のピーク値が上下揃ったままの状態で、両ピーク値ともに0側に寄せられていることが理解される。このように、右側部板22A及び左側部板22Bを設けることで、上部板14及び下部板16による整流効果(剥離渦を揃える)を妨げることなしに、更なる整流効果(剥離領域を縮める)が得られる。
【0047】
図1に戻り、制御部24は、上部圧力センサ20A及び下部圧力センサ20Bが検出した圧力値pを受信するとともに、上部圧力センサ20Aと下部圧力センサ20Bの圧力値の差を縮めるように、上部板アクチュエータ18A及び下部板アクチュエータ18Bの少なくとも一方を介して、上部板14及び下部板16の延伸長さを調整する。
【0048】
制御部24は、コンピュータから構成されていてよく、例えば車両11の電子コントロールユニット(ECU)から構成されていてもよい。制御部24を構成するコンピュータは、後述する整流制御プログラムが記憶された記憶部と、当該プログラムを実行するCPUとを備えている。また、制御部24は、上部圧力センサ20A及び下部圧力センサ20Bからの信号を受信するとともに、上部板アクチュエータ18A及び下部板アクチュエータ18Bに駆動信号を送信する機器・センサインターフェースを備えている。
【0049】
図6には、制御部24による整流制御のフローチャートが例示されている。まず、制御部24は、上部圧力センサ20Aから送られた圧力値p1と下部圧力センサ20Bから送られた圧力値p2とが等しいか否かを判定する(S10)。両値が等しい場合は整流制御はスタートに戻り、圧力監視が継続される。
【0050】
両値が異なる場合は、制御部24は、上部圧力値p1が下部圧力値p2を上回っているか否かを判定する(S12)。上述したように、数式(1)においてp<p
∞であるから、p1>p2のとき、0>Cp(p1)>Cp(p2)となる。このとき、制御部24は、下部板16を上部板14に対して相対的に延伸させるように、上部板アクチュエータ18A及び下部板アクチュエータ18Bの少なくとも一方に駆動指令を出力する(S14)。
【0051】
上部圧力値p1が下部圧力値p2を上回っていない場合、両値が異なる原因は、下部圧力値p2が上部圧力値p1を上回っていることとなる。つまり、0>Cp(p2)>Cp(p1)となる。制御部24は、上部板14を下部板16に対して相対的に延伸させるように、上部板アクチュエータ18A及び下部板アクチュエータ18Bの少なくとも一方に駆動指令を出力する(S16)。