特許第6390481号(P6390481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6390481めっき付きパワーモジュール用基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390481
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】めっき付きパワーモジュール用基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/32 20060101AFI20180910BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20180910BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20180910BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20180910BHJP
   H05K 3/24 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   C23C18/32
   H01L23/36 C
   H01L23/12 J
   H05K3/18 M
   H05K3/24 D
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-56143(P2015-56143)
(22)【出願日】2015年3月19日
(65)【公開番号】特開2016-176098(P2016-176098A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】中林 明
(72)【発明者】
【氏名】西川 仁人
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−117833(JP,A)
【文献】 特開2013−214541(JP,A)
【文献】 特開2012−094754(JP,A)
【文献】 特開2003−096573(JP,A)
【文献】 特開平06−330332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に直接又はアルミニウム接合層を介して銅回路層を有する回路層が接合されるとともに、前記セラミックス基板の他方の面にアルミニウム金属層及び銅金属層の積層体が接合されてなるパワーモジュール用基板の前記回路層にめっきを施して、めっき付きパワーモジュール用基板を製造する方法であって、前記パワーモジュール用基板の前記積層体に0.1V以上6V以下の正電位を印加した状態で前記パワーモジュール用基板をニッケルめっき液中に浸漬して前記回路層上に無電解ニッケルめっき被膜を形成するめっき処理工程を有することを特徴とするめっき付きパワーモジュール用基板の製造方法。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板であって、回路層に無電解ニッケルめっきを施しためっき付きパワーモジュール用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパワーモジュール基板として、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム又は銅からなる回路層が積層されるとともに、他方の面にアルミニウムからなる金属層が積層されたものが知られている。また、このパワーモジュール用基板の金属層に放熱板が接合され、回路層の上に半導体チップ等の電子部品がはんだ付けされ、パワーモジュールが製造される。
【0003】
この種のパワーモジュール用基板においては、はんだ濡れ性を向上させて電子部品との接合性を高めるために、回路層の表面にめっき処理が施される。このように、セラミックス基板を挟んで配置される回路層と金属層のうちの一方の層だけにめっきを行うために、めっきを形成したくない部分には部分的にマスキング処理を行い、マスキング部分へのめっきの形成を防止して部分的にめっきをすることが行われている。
【0004】
このようなマスキング技術としては、めっきの形成を防止する部分に半導体レジスト等のマスキング材を形成しておく方法が一般的であるが、特許文献1及び特許文献2に記載されているように、マスキング材を使用せずに通電を利用した方法が知られている。
特許文献1には、金属板(I)の主面の少なくとも片面に、絶縁層を介して別の金属板(II)が配置された板状金属に、めっき液と逆極性の電流を流し、金属板(II)に部分的に無電解めっきを施すことが記載されている。
また、特許文献2には、絶縁層を挟む第1、第2アルミニウム電極層のうち、第1アルミニウム電極板にのみ部分的にめっきを行うために、第2アルミニウム電極層に亜鉛析出防止用の電位を印加した状態でジンケート処理を行うことにより、第1アルミニウム電極層のみに亜鉛置換膜を形成することが記載されており、その後に無電解めっき処理を施すことによって、第1アルミニウム電極層のみに無電解ニッケル被膜を形成することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003‐183842号公報
【特許文献2】特開2012‐237038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、回路層にニッケルめっきを形成する場合には、パワーモジュール用基板を無電解ニッケルめっき液に浸漬させる。この際、アルミニウムに銅が接合されている場合は、局部電池の形成によりアルミニウムが溶出し、放出された電子が銅に移動することによりニッケルが析出し、無電解めっき反応が開始する。
そのため、回路層とは反対側の金属層にアルミニウム層及び銅層の積層体が用いられていると、その金属層を冷却器に接合するためにめっきを付けたくない場合でも、その金属層の表面にもめっきが形成されてしまう。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、セラミックス基板を介して回路層とは反対側の金属層がアルミニウム層及び銅層の積層体である場合も、この積層体へのめっき形成を防止して銅の回路層への部分的なめっきを可能にするめっき付きパワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のめっき付きパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に直接又はアルミニウム接合層を介して銅回路層を有する回路層が接合されるとともに、前記セラミックス基板の他方の面にアルミニウム金属層及び銅金属層の積層体が接合されてなるパワーモジュール用基板の前記回路層にめっきを施して、めっき付きパワーモジュール用基板を製造する方法であって、前記パワーモジュール用基板の前記積層体に0.1V以上6V以下の正電位を印加した状態で前記パワーモジュール用基板をニッケルめっき液中に浸漬して前記回路層上に無電解ニッケルめっき被膜を形成するめっき処理工程を有する。
【0009】
積層体に0.1V以上6V以下の正電位を印加した状態で、パワーモジュール用基板をNiP等のニッケルめっき液中に浸漬させることで、積層体へのめっき反応を抑制することができる。したがって、積層体へのマスキング処理を行う等の煩雑な作業を必要とせずに積層体へのめっき形成を防止することができ、簡素化された工程により、回路層のみに無電解ニッケルめっき被膜を形成することができる。また、回路層がアルミニウム接合層を介して接合される場合には、そのアルミニウム接合層の側面では無電解めっき反応が生じることもあるが、ごく僅かであり、使用上の問題を生ずることはない。
【0010】
この場合、積層体への印加電位が0.1V未満では、積層体への無電解ニッケルめっきの析出を完全に防止することが難しい。一方、積層体への印加電圧が6Vを超えると、アルミニウム金属層がめっき液に溶出する。
また、積層体に電位を印加する方法は、定電流、定電圧のどちらでも構わないが、定電圧で行うことが好ましい。定電流で行う場合は、電流密度を一定にするために、積層体のサイズごとにその表面積を考慮して行う必要があり、作業が煩雑となるからである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マスキング処理による煩雑な作業を必要とせずに積層体へのめっき形成を防止することができ、簡素化された工程により回路層への部分的なめっきを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態の製造方法におけるめっき処理工程を説明する模式図である。
図2】本発明の第1実施形態の製造方法により製造されるめっき付きパワーモジュール用基板の断面図である。
図3】本発明の第2実施形態の製造方法により製造されるめっき付きパワーモジュール用基板の断面図である。
図4】本発明の第3実施形態の製造方法により製造されるめっき付きパワーモジュール用基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図2は、本発明の第1実施形態の製造方法により製造されるめっき付きパワーモジュール用基板を示しており、このめっき付きパワーモジュール用基板1は、セラミックス基板2の一方の面に銅回路層を備える回路層3が接合され、他方の面に複数のアルミニウム金属層及び銅金属層の積層体4が接合されており、回路層3の表面に無電解ニッケルめっき被膜5が形成されている。
【0014】
このめっき付きパワーモジュール用基板1では、回路層3は、セラミックス基板2に接合されたアルミニウム接合層11と、このアルミニウム接合層11の上に接合された銅回路層12とからなり、積層体4は、セラミックス基板2に接合された第1アルミニウム金属層15と、この第1アルミニウム金属層15のセラミックス基板2とは反対の面に接合された銅金属層16と、この銅金属層16の第1アルミニウム金属層15とは反対の面にさらに接合された第2アルミニウム金属層17とにより構成されている。
【0015】
セラミックス基板2は、回路層3と積層体4との間の電気的接続を防止するものであって、AlN(窒化アルミニウム)、Si(窒化珪素)、Al(アルミナ)等のセラミックス材料により矩形状に形成され、例えば0.2mm〜1mmの厚みとされる。
回路層3のアルミニウム接合層11及び積層体4の第1アルミニウム金属層15は、純度99.00質量%以上の純アルミニウム又はアルミニウム合金により形成され、例えば0.1mm〜5mmの厚みとされ、通常はセラミックス基板11より小さい矩形状に形成される。これらアルミニウム接合層11及び第1アルミニウム金属層15は、セラミックス基板2に、Al−Si系、Al−Ge系、Al−Cu系、Al−Mg系またはAl−Mn系等の合金のろう材により、ろう付け接合される。
また、これらアルミニウム接合層11及び第1アルミニウム金属層15は、それぞれプレス加工により所望の外形に打ち抜いたものをセラミックス基板2に接合するか、あるいは平板状のものをセラミックス基板2に接合した後に、エッチング加工により所望の外形に形成するか、いずれかの方法を採用することができる。
【0016】
また、銅回路層12及び銅金属層16は、無酸素銅やタフピッチ銅等の純銅又は銅合金により形成され、例えば0.1mm〜5mmの厚みで平板状に形成される。そして、これら銅回路層12及び銅金属層16は、それぞれアルミニウム接合層11又は第1アルミニウム金属層15に固相拡散接合により接合される。
さらに、銅金属層16に接合される第2アルミニウム金属層17は、ヒートシンクとして機能するもので、A3003等のアルミニウム合金により形成される。この第2アルミニウム金属層17と銅金属層16とは固相拡散接合により接合される。
なお、この第2アルミニウム金属層17の形状は特に限定されるものではなく、平板状や、平板の表面にフィンが形成されたもの等の適宜の形状のものが含まれ、その平板部分の厚みは例えば0.4mm〜6mmとされる。
【0017】
なお、各部材の好ましい組み合わせ例としては、セラミックス基板2が厚み0.635mmのAlN、アルミニウム接合層11が厚み0.4mmの純アルミニウム板(純度99.99質量%以上の4N‐Al)、第1アルミニウム金属層15が厚み0.4mmの純アルミニウム板(純度99.99質量%以上の4N‐Al)で構成される。さらに、銅回路層12及び銅金属層16が厚み0.3mmの無酸素銅板、第2アルミニウム金属層17が厚み3mmのA3003アルミニウム合金板で構成される。
【0018】
そして、このめっき付きパワーモジュール用基板1の回路層3には、所望の回路パターンが形成されており、その表面に無電解ニッケルめっき被膜5が形成されている。この無電解ニッケルめっき被膜5は、NiPめっきにより、例えば厚み1μm〜9μmに形成される。
【0019】
次に、本実施形態のめっき付きパワーモジュール用基板1の製造方法について説明する。
(パワーモジュール用基板形成工程)
まず、セラミックス基板2の各面にろう材を介してアルミニウム接合層11及び第1アルミニウム金属層15となるアルミニウム板を積層し、これらの積層構造体を積層方向に加圧した状態で加熱し、ろう材を溶融させることによってアルミニウム接合層11及び第1アルミニウム金属層15となるアルミニウム板をそれぞれセラミックス基板2にろう付け接合し、アルミニウム接合層11及び第1アルミニウム金属層15を形成する。具体的には、ろう材としてAl−7%Siろう材を用い、真空雰囲気中で610℃以上650℃以下のろう付け温度で1分〜60分加熱することにより、セラミックス基板2にアルミニウム接合層11及び第1アルミニウム金属層15となるアルミニウム板をろう付け接合する。
【0020】
そして、このセラミックス基板2とアルミニウム接合層11及び第1アルミニウム金属層15との接合体のアルミニウム接合層11のセラミックス基板2とは反対の面に銅回路層12となる銅板、及び第1アルミニウム金属層15のセラミックス基板2とは反対の面に銅金属層16となる銅板をそれぞれ重ね、さらに銅金属層16の第1アルミニウム金属層15とは反対の面に第2アルミニウム金属層17となるアルミニウム板を重ねた状態とし、これらの積層構造体を積層方向に加圧した状態で銅とアルミニウムの共晶温度未満で加熱することにより、銅とアルミニウムとを相互に拡散させて固相拡散接合により接合する。具体的には、真空雰囲気中で、加熱温度400℃以上548℃未満で、5分〜240分保持することにより固相拡散接合することができる。
【0021】
(ソフトエッチング処理工程)
次に、めっき処理工程の前に、回路層3の銅回路層12とニッケルめっきとの密着性を確保するため、回路層3にソフトエッチング処理を行い、回路層3の表面の酸化膜を除去する。具体的には、過硫酸塩水溶液(例えば、過硫酸ナトリウムの5wt%〜30wt%水溶液等)、過酸化水素水と硫酸(例えば、過酸化水素濃度:5wt%、硫酸:10wt%)などからなるエッチング液に30秒から2分浸漬させることにより、ソフトエッチング処理を行う。
【0022】
(めっき処理工程)
そして、図1に示すように、ソフトエッチング処理後の接合体Sを、NiPめっき液M中に浸漬することによって回路層3に無電解ニッケルめっき被膜5を形成する。このめっき処理は、NiPめっき液M中でアルミニウム接合層11と銅回路層12との間で局部電池が形成され、アルミニウム接合層11が溶出し、これにより放出された電子が銅回路層12に移動することで銅回路層12上にもニッケルが析出する。このニッケルを触媒としてめっき反応を進行させることにより、銅回路層12上に無電解ニッケルめっき被膜5が形成されるものである。この際、回路層3とは反対側の積層体4もアルミニウムと銅との積層構造とされていることより、その状態でめっき処理すると、回路層3と同様にめっき反応が生じる。
【0023】
そこで、この積層体4へのめっき反応を抑制するために、積層体4に0.1V以上6V以下の正電位を印加した状態で、接合体SをNiPめっき液M中に浸漬する。具体的には、図1に示すように、電源21の正極に接合体Sの積層体4を接続するとともに、電源21の負極にステンレス鋼等からなる電極22を接続した状態とし、これら接合体Sと電極22とをNiPめっき液Mが貯留されためっき漕23に浸漬することにより、積層体4に正電位を印加した状態とする。これにより、正電位が印加された積層体4へのめっき反応を抑制することができる一方で、回路層3上には無電解ニッケルめっき被膜5を形成することができる。
【0024】
この場合、積層体4への印加電位が0.1V未満では、積層体4へのめっき析出を完全に防止することが難しくなる。一方、積層体4への印加電圧が6Vを超えると、両アルミニウム金属層15,17の溶解が生じる。
なお、積層体4に電位を印加する方法は、定電流、定電圧のどちらでも構わないが、定電圧で行うことが好ましい。定電流で行う場合は、電流密度を一定にするために、積層体4のサイズごとにその表面積を考慮して行う必要があり、作業が煩雑となるからである。
【0025】
なお、回路層3上に無電解ニッケルめっき被膜5が形成されためっき付きパワーモジュール用基板1には、その回路層3の上面に電子部品25がはんだ付けされ、電子部品25と回路層3との間がボンディングワイヤ等で接続されて、パワーモジュールが製造される。
【0026】
このように、本実施形態のめっき付きパワーモジュール用基板1の製造方法においては、積層体4に0.1V以上6V以下の正電位を印加した状態で、接合体SをNiPめっき液M中に浸漬させることで、積層体4へのめっき反応を抑制することができる。したがって、積層体4へのマスキング処理を行う等の煩雑な作業を必要とせずに積層体4へのめっき形成を防止することができ、簡素化された工程により回路層3のみに無電解ニッケルめっき被膜5を形成することができる。したがって、めっき付きパワーモジュール用基板1を効率的に製造することができ、生産性を向上させることができる。
【0027】
なお、本発明においては、銅回路層12はセラミックス基板2にアルミニウム接合層11を介さずに直接接合されていてもよい。図3に示す第2実施形態は、セラミックス基板2の一方の面に銅回路層12が直接接合され、他方の面にも銅金属層16が直接接合した、いわゆるDBC基板に本発明を適用した実施形態である。この第2実施形態のめっき付きパワーモジュール用基板31の銅金属層16に、ヒートシンクとしてアルミニウム金属層17が接合されており、銅回路層12(この場合はこの銅回路層12のみが回路層となる)の表面に無電解ニッケルめっき被膜5が形成されている。
【0028】
この第2実施形態のめっき付きパワーモジュール用基板31を製造する場合、セラミックス基板2の両面にAg−Cu−Ti又はAg−Tiからなる活性金属を含有するペーストを印刷し、その上に銅回路層12及び銅金属層16となる銅板をそれぞれ積層し、その積層構造体を積層方向に加圧し、真空雰囲気下で800℃以上930℃以下に1分以上60分以下加熱してセラミックス板2に銅回路層12及び銅金属層16となる銅板を活性金属ろう付け法によって接合し、銅回路層12と銅金属層16を形成する。
【0029】
次に、銅金属層16のセラミックス基板2とは反対の面にアルミニウム金属層17を重ねて、これらを固相拡散接合する。これにより、セラミックス基板2の銅回路層12とは反対側が、銅金属層16とアルミニウム金属層17との積層体32となる。固相拡散接合は第1実施形態に記載した方法で行うことができる。
そして、第1実施形態と同様に、銅回路層12に対するソフトエッチング処理を経た後、めっき処理工程を実施する。
【0030】
このめっき処理工程においては、積層体32を陽極として、0.1V以上6V以下の正電位を印加した状態でめっき液中に浸漬させるが、回路層は銅回路層12のみからなるので、そのままではめっきすることができず、既にめっき液中でめっき反応が起きている陰極又は鉄や銅などめっきが可能な金属に予めめっきを析出させたダミー陰極を銅回路層12に接触することにより、あるいは別途用意した乾電池などの微小電源から微電流を流すことにより、銅回路層12にめっき反応を開始させる。
【0031】
この第2実施形態においても、積層体32へのマスキング処理を行う等の煩雑な作業を必要とせずに積層体32へのめっき形成を防止することができ、銅回路層12のみに無電解ニッケルめっき被膜5を形成することができる。
【0032】
また、図4は第3実施形態を示しており、セラミックス基板2の一方の面に銅回路層12が直接接合され、他方の面に第1アルミニウム金属層15を介して銅金属層16が接合され、その銅金属層16にヒートシンクとしての第2アルミニウム金属層17が接合されている。そして、銅回路層12に無電解ニッケルめっき被膜5が形成されている。
このめっき付きパワーモジュール用基板35を製造する場合は、セラミックス基板2の一方の面に銅回路層12となる銅板をまず活性金属ろう材を用いてろう付け接合した後、セラミックス基板2の他方の面に第1アルミニウム金属層15となるアルミニウム板をAl−7%Si等のろう材を用いてろう付け接合する
【0033】
次いで、その第1アルミニウム金属層15のセラミックス基板2とは反対の面に銅金属層16となる銅板を介して第2アルミニウム金属層17となるアルミニウム板を重ねて、これらを固相拡散接合することにより一体化する。
そして、銅回路層12に対するソフトエッチング処理を行った後、めっき処理工程を実施する。
このめっき処理工程においても、積層体4を陽極として、0.1V以上6V以下の正電位を印加した状態でめっき液中に浸漬させ、銅回路層12に対して、既にめっき液中でめっき反応が起きている陰極又は鉄や銅などめっきが可能な金属に予めめっきを析出させたダミー陰極を接触することにより、あるいは別途用意した乾電池などの微小電源から微電流を流すことにより、銅回路層12にめっき反応を開始させる。
【0034】
この第3実施形態においても、積層体4へのマスキング処理を行う等の煩雑な作業を必要とせずに積層体4へのめっき形成を防止することができ、銅回路層12のみに無電解ニッケルめっき被膜5を形成することができる。
【0035】
なお、本発明は、上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態ではNiPめっき液を用いたが、これに限らず、NiBめっき液や、他の無電解ニッケルめっき液を用いることが可能である。
また、ソフトエッチング処理工程後に硫酸などによる酸洗浄を行ってもよい。酸洗浄は、例えば100g/L硫酸に、室温で30秒から1分程度浸漬することで行うことができる。
【実施例】
【0036】
本発明の効果を確認するために、めっき付きパワーモジュール用基板を作製してめっき試験を行った。
まず、AlNからなるセラミックス基板(60mm×60mm×0.635mmt)の両面に純度99.99質量%以上のアルミニウム(4N‐Al)からなるアルミニウム接合層及び第1アルミニウム金属層(いずれも58mm×58mm×0.4mmt)をAl‐Si系ろう材によりろう付け接合することにより形成した。また、アルミニウム金属層及び第1アルミニウム金属層に、それぞれ無酸素銅からなる銅回路層及び銅金属層(いずれも58mm×58mm×0.4mmt)を重ね、銅金属層にJIS3003アルミニウム合金からなる第2アルミニウム金属層(120mm×80mm×3mmt)を重ねて、これらを固相拡散接合によって接合し、各試料の接合体を作製した。
【0037】
各試料への無電解ニッケルめっき被膜は、以下に示す手順で作製した。
まず、銅回路層の表面に付着している油分を除去するため、銅洗浄剤ACL−007(上村工業製)を用い、50℃で5分浸漬させることにより脱脂を行った。
次に、脱脂処理後の接合体について、ソフトエッチング処理を行った。ソフトエッチング処理は、接合体を過硫酸ナトリウム100g/Lの溶液に室温で2分浸漬させることにより行った。
そして、ソフトエッチング処理を終えた接合体に、めっき被膜と回路層との密着性を確保するため、硫酸100g/Lの溶液を用い、室温にて1分浸漬して酸洗浄を行った。
【0038】
酸洗浄後の接合体について、第2アルミニウム金属層にアルミニウム線で作られたラックを接触させて定電圧電源の正極に接続した。また、定電圧電源の負極には、SUS304製の直径5mmの棒を接続して陰極とし、予めめっき液に浸漬した。そして、第2アルミニウム金属層に通電した状態で、定電圧電源に接続された接合体をめっき液に浸漬することにより、無電解ニッケルめっき被膜を形成した。
めっき液は、低リンタイプ(メルテックス製エンプレート:NI‐246、Ni5.7g/L、pH6.7、80℃)、中リンタイプ(上村工業製ニムデン:NPR‐4、Ni5.0g/L、pH4.6、80℃)、NiBタイプ(上村工業製ベルニッケル、Ni6.7g/L、pH6.6、60℃)を用いて、めっき処理を行った。また、めっき膜厚はいずれも5μmを目途にめっき時間を設定し、低リンタイプでは16分、中リンタイプでは26分、NiBタイプでは60分とした。
【0039】
そして、このようにして作製した各試料について、「アルミニウム金属層の溶出」と「アルミニウム金属層へのめっき析出」とを評価した。
「アルミニウム金属層の溶出」の評価は、各試料へのめっき処理工程後のめっき液中のAl濃度を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Perkin Elmer社製のOptima 3000XL)により測定して行った。そして、めっき液中のAl濃度が0.1mg/L以下とされるものについては、アルミニウム金属層(第1アルミニウム金属層及び第2アルミニウム金属層)からのAl溶出がないものとして「◎」と評価し、Al濃度が0.1mg/Lを超え0.3mg/L未満については「○」、0.3mg/L以上については「×」と評価した。
【0040】
「アルミニウム金属層へのめっき析出」の評価は、第2アルミニウム金属層の表面(セラミックス基板側とは反対側)を走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製S‐3400N、10kV)で25倍の視野でEDS(Energy Dispersive X−Ray Spectrometry)観察することにより行った。そして、EDSでNiのピークが確認されなかったものをめっき析出がないものとして「○」と評価し、Niのピークが確認されたものを「×」と評価した。
表1に結果を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1からわかるように、印加電圧が0.1V以上の範囲では、第2アルミニウム金属層へのめっき析出が発生しなかった。また、めっき液が低リンタイプ又はNiBタイプの場合、印加電圧が6V以下の範囲では、第2アルミニウム金属層のAl溶出が発生しないことを確認できた。めっき液が中リンタイプの場合、印加電圧6Vではアルミニウム金属層の溶出が若干認められるが、問題となる量ではない。めっき液として中リンタイプを用いる場合、印加電圧が5V以下の範囲ではAl溶出が発生しないことから、印加電圧が5V以下の範囲で用いることがより好ましい。
【符号の説明】
【0043】
1 めっき付パワーモジュール用基板
2 セラミックス基板
3 回路層
4 積層体
5 無電解ニッケルめっき被膜
11 アルミニウム接合層
12 銅回路層
15 第1アルミニウム金属層
16 銅金属層
17 第2アルミニウム金属層
21 電源
22 電極
23 めっき槽
25 電子部品
31 めっき付きパワーモジュール用基板
32 積層体
35 めっき付きパワーモジュール用基板
S 接合体
M めっき液
図1
図2
図3
図4