特許第6390622号(P6390622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6390622蓄電デバイス用ポリイミドバインダー、それを用いた電極シート及び蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390622
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用ポリイミドバインダー、それを用いた電極シート及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20180910BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20180910BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20180910BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20180910BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180910BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20180910BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20180910BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20180910BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20180910BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20180910BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20180910BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/133
   H01M4/134
   H01M4/131
   H01M10/052
   H01M10/0568
   H01M10/0569
   H01M10/0567
   H01G11/38
   H01G11/64
   H01G11/62
   C08G73/10
【請求項の数】14
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-539301(P2015-539301)
(86)(22)【出願日】2014年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2014075380
(87)【国際公開番号】WO2015046304
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2017年7月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-200389(P2013-200389)
(32)【優先日】2013年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】安部 浩司
(72)【発明者】
【氏名】高祖 修一
(72)【発明者】
【氏名】中山 剛成
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/114788(WO,A1)
【文献】 特開2002−260668(JP,A)
【文献】 特開2012−204203(JP,A)
【文献】 特開2012−207196(JP,A)
【文献】 特開2000−297152(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/042610(WO,A1)
【文献】 特開2011−137063(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/021236(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/035806(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/134
H01M 10/0562
H01M 10/0567−10/0569
H01G 11/38
H01G 11/62
H01G 11/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸の水溶液をイミド化反応させて得られるポリイミドバインダーであって、該ポリイミドの引張弾性率が1.5GPa以上2.7GPa以下であることを特徴とする蓄電デバイス用ポリイミドバインダー。
【化1】

(式中、Aは、フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、脂肪族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、及びフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基から選ばれる一種以上であり、
Bは、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるフッ素基を含有しない芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、分子量が500以下である脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、及びフッ素基を含有する芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基から選ばれる一種以上である。
但し、前記繰返し単位総量中のBの55モル%以上が、分子量が500以下である脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基である。)
【請求項2】
ポリアミック酸が、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とからなるものである、請求項1に記載の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー。
【請求項3】
ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分が、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,2:4,5−二無水物、及びジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物から選ばれる一種以上である、請求項2に記載の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー。
【請求項4】
ポリアミック酸のジアミン成分が、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、trans−1,4−ジアミノシクロへキサン、cis−1,4−ジアミノシクロへキサン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、及び1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから選ばれる一種以上である、請求項2又は3に記載の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー。
【請求項5】
ポリアミック酸の水溶液が、ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分に対して1.6倍モル以上のイミダゾール類を溶解している、請求項2〜のいずれかに記載の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー。
【請求項6】
イミダゾール類が、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、4−エチル−2−メチルイミダゾール、及び1−メチル−4−エチルイミダゾールから選ばれる一種以上である、請求項に記載の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー、ケイ素含有負極活物質、及び炭素材料からなる負極活物質層を銅集電体表面に形成したことを特徴とする蓄電デバイス用負極シート。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー、炭素材料、及びリチウム遷移金属酸化物からなる正極活物質層をアルミニウム集電体表面に形成した正極シートであって、該リチウム遷移金属酸化物が、リチウム原子以外の全金属元素中にニッケル原子及びマンガン原子が占める割合が50原子%以上100原子%以下であることを特徴とする蓄電デバイス用正極シート。
【請求項9】
正極、負極、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイスであって、負極が請求項に記載の負極シートであることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項10】
非水電解液が少なくともフッ素含有化合物を含む、請求項に記載の蓄電デバイス。
【請求項11】
フッ素含有化合物が、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、トランス又はシス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、及びビニルスルホニルフロリドから選ばれる一種以上である、請求項10に記載の蓄電デバイス。
【請求項12】
電解質塩としてLiPFを含み、更にLiPO、LiSOF、CSOLi、LiN(SOF)、ジフルオロ[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウム、ジフルオロビス[オキサレート−O,O’]リン酸リチウム、及びテトラフルオロ[オキサレート−O,O’]リン酸リチウムから選ばれる一種以上を非水電解液中に0.001M以上0.4M以下の濃度で含有する、請求項9〜11のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項13】
ビニレンカーボネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルカーボネート、及び1,3−ジオキサンから選ばれる少なくとも一種を非水電解液中に0.001質量%以上5質量%以下の濃度で含有する、請求項9〜12のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項14】
請求項1に記載の一般式(I)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸を含む蓄電デバイス用ポリアミック酸水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広い温度範囲での蓄電デバイスの特性を向上できる蓄電デバイス用ポリイミドバインダー、それを用いた電極シート及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電デバイス、特にリチウム二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の小型電子機器の電源、電気自動車や電力貯蔵用の電源として広く使用されている。これらの電子機器や自動車は、真夏の高温下や極寒の低温下等の広い温度範囲で使用される可能性があるため、広い温度範囲でバランス良く電池特性を向上させることが求められている。
【0003】
リチウム二次電池のエネルギー密度の向上のため、リチウムを吸蔵及び放出可能な理論容量が、現在、最も広く用いられている負極活物質である黒鉛に比べて非常に大きいシリコンや錫等を含む合金系の負極活物質が盛んに研究されている。しかしながら、これらの合金系の材料は、リチウムを吸蔵した際に大きく体積膨張するため、活物質が割れて微粉化するために、集電性が低下したり、電極が膨張しやすいという課題がある。また、活物質のヒビ割れにより発生する活性な新生面において、非水電解液が分解されやすいため、非水電解液の分解物が活物質表面に沈着して抵抗が増加したり、ガス発生により電池が膨れやすいという課題があった。
【0004】
また、このような合金系負極活物質を電極にする際、ポリイミド等の高強度の樹脂を用いるとサイクル特性が向上することが知られているが、通常、1−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒に溶解させたポリアミック酸(ポリイミド前駆体)を用いる必要があり、電極作製時に有機溶媒を回収したり、十分にイミド化させるため200℃以上の高温に加熱する設備の導入によりコストアップが避けられないといった課題があった。
【0005】
特許文献1には、陽イオンを吸蔵放出可能な炭素粉末を結着剤にて一体化してなる負極を備える二次電池において、前記結着剤が実質的にポリイミド樹脂からなる二次電池が記載されている。
特許文献2〜4には、ケイ素合金やスズを含む合金等からなる活物質とバインダーを含む活物質層を有する負極を備える二次電池において、バインダーが引張弾性率等の機械的特性が特定範囲にあるポリイミド樹脂を用いるリチウム二次電池が開示されている。しかしながら、特許文献2〜4には、用いるポリイミド樹脂の具体的な化学構造についての記載はない。
特許文献5には、ケイ素及び/又はケイ素合金粒子を含む負極活物質粒子を含む負極活物質層が負極集電体の表面上に形成された負極、正極、及びセパレータからなる電極体を有するリチウム二次電池において、前記バインダーが特定の化学構造を有するポリイミド樹脂を含むリチウム二次電池が開示されている。このポリイミド樹脂は、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸残基を有するポリイミドである。
特許文献6には、負極及び正極の少なくともいずれかの活物質の結着剤がポリイミド樹脂であり、かつ、該ポリイミド樹脂の弾性率が500〜3,000MPaである非水電解液二次電池が開示されており、サイクル特性や充電保存後の容量保存率が改善されることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−163031号
【特許文献2】国際公開第2004/004031号
【特許文献3】特開2007−149604号
【特許文献4】国際公開第2010/150513号
【特許文献5】特開2008−034352号
【特許文献6】特開2000−021412号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、広い温度範囲での蓄電デバイスの特性を向上できる蓄電デバイス用ポリイミドバインダー、それを用いた電極シート及び蓄電デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術のリチウム二次電池用ポリイミドバインダーの性能について詳細に検討した結果、高温保存後の低温特性改善やガス発生抑制等の広い温度範囲で電池特性を向上させるという課題に対しては十分な効果を発揮できないのが実情であった。
また、上記特許文献は何れも、リチウム二次電池用ポリイミドバインダーを用いた電極を作製する際、ポリアミック酸を溶解する溶媒として1−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒を用いていた。
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、特定構造のポリアミック酸の水溶液をイミド化反応させて得られるポリイミドであって、該ポリイミドの引張弾性率が1.5GPa以上2.7GPa以下である蓄電デバイス用ポリイミドバインダーを用いることで、広い温度範囲でリチウム二次電池等の蓄電デバイスの特性を改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の(1)〜(6)を提供するものである。
(1)下記一般式(I)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸の水溶液をイミド化反応させて得られるポリイミドバインダーであって、該ポリイミドの引張弾性率が1.5GPa以上2.7GPa以下であることを特徴とする蓄電デバイス用ポリイミドバインダー。
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、Aは、フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、脂肪族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、及びフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基から選ばれる一種以上であり、
Bは、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるフッ素基を含有しない芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、分子量が500以下である脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、及びフッ素基を含有する芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基から選ばれる一種以上である。
但し、前記繰返し単位総量中のBの55モル%以上が、分子量が500以下である脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基である。)
【0012】
(2)前記(1)に記載の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー、ケイ素含有負極活物質、及び炭素材料からなる負極合剤を銅集電体表面に流延又は塗布して負極活物質層を形成したことを特徴とする蓄電デバイス用負極シート。
(3)前記(1)に記載の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー、炭素材料、及びリチウム遷移金属酸化物からなる正極合剤をアルミニウム集電体表面に流延又は塗布して正極活物質層を形成した正極シートであって、該リチウム遷移金属酸化物が、リチウム原子以外の全金属元素中にニッケル原子及びマンガン原子が占める割合が50原子%以上100原子%以下であることを特徴とする蓄電デバイス用正極シート。
(4)正極、負極、及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイスであって、負極が前記(2)に記載の負極シートであることを特徴とする蓄電デバイス。
(5)上記一般式(I)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸の水溶液をイミド化反応させて得られるポリイミドバインダーであって、該ポリイミドの引張弾性率が1.5GPa以上2.7GPa以下であるポリイミドバインダーの蓄電デバイスとしての使用。
(6)上記一般式(I)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸の水溶液をイミド化反応させて得られるポリイミドバインダーであって、該ポリイミドの引張弾性率が1.5GPa以上2.7GPa以下であるポリイミドバインダーを用いて蓄電デバイスの電気特性を向上させる方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、広い温度範囲での蓄電デバイスの特性、特に高温保存後の低温放電特性やガス発生抑制を改善できる蓄電デバイス用ポリイミドバインダー、それを用いた電極シート及び蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、以下の3つの態様に関する。
[態様1]蓄電デバイス用ポリイミドバインダー
[態様2]上記ポリイミドバインダーを用いた電極シート
[態様3]上記電極シートを備えた蓄電デバイス
【0015】
[態様1:蓄電デバイス用ポリイミドバインダー]
本発明の蓄電デバイス用、特にリチウム二次電池用ポリイミドバインダーは、下記一般式(I)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸の水溶液をイミド化反応させて得られるポリイミドバインダーであって、該ポリイミドの引張弾性率が1.5GPa以上2.7GPa以下であることを特徴とする。
前記ポリアミック酸の水溶液は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて得られる下記一般式(I)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸(ポリイミド前駆体)が水に溶解したものである。
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、Aは、フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、脂肪族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基、及びフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基から選ばれる一種以上であり、
Bは、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるフッ素基を含有しない芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、分子量が500以下である脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基、及びフッ素基を含有する芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基から選ばれる一種以上である。
但し、前記繰返し単位総量中のBの55モル%以上が、分子量が500以下である脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基である。)
【0018】
本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーが、広い温度範囲での蓄電デバイスの特性、特に高温保存後の低温放電特性やガス発生抑制を改善できる理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
表面が極性を有する電極活物質とポリアミック酸の水溶液は馴染みが良いため、200℃以下という比較的低い温度での加熱乾燥条件であっても、得られるバインダーが効率よく電極活物質表面と強固に接着すると考えられる。しかも、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーは、適度な柔軟性を有しているため、電極活物質の充電及び放電に伴い膨張及び収縮に対して追従して伸縮できため、充放電中の電極活物質と非水電解液との副反応を効率良く抑制することができる。このため、高温保存後の低温特性やガス発生抑制等の広い温度範囲での蓄電デバイスの特性を著しく向上させることができると推測される。
【0019】
本発明で用いられるポリイミドは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を製造し、このポリアミック酸を加熱、又は触媒を用いて脱水、環化(イミド化)反応を行うことにより製造することができる。本発明で用いられるポリイミドは、好ましくは、水を反応溶媒として、イミダゾール類の存在下に、テトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸二無水物)とジアミン成分とを反応させて、ポリアミック酸の水溶液を製造し、このポリアミック酸の水溶液を加熱して、イミド化反応を行うことにより製造することができる。
以下、本発明で用いられるポリアミック酸、ポリイミド等について説明する。
【0020】
〔テトラカルボン酸成分〕
本発明で用いられるポリアミック酸のテトラカルボン酸成分は、フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、及びフッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸二無水物から選ばれる一種以上が好ましい。
【0021】
(フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物)
フッ素基を含有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、m−ターフェニルテトラカルボン酸二無水物等の2〜3個の芳香環を有する化合物を好適に挙げることができる。中でも、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物がより好ましい。
【0022】
(脂肪族テトラカルボン酸二無水物)
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,2:4,5−二無水物、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、又はビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3;5,6−テトラカルボン酸二無水物を好適に挙げることができる。中でも、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,2:4,5−二無水物、又はジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物がより好ましい。
【0023】
(フッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸二無水物)
フッ素基を含有する芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、5,5’−[2,2,2−トリフルオロ−1−[3−(トリフルオロメチル)フェニル]エチリデン]ジフタル酸無水物、5,5’−[2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−(トリフルオロメチル)プロピリデン]ジフタル酸無水物、1H−ジフロ[3,4−b:3’,4’−i]キサンテン−1,3,7,9(11H)−テトロン、5,5’−オキシビス[4,6,7−トリフルオロ−ピロメリット酸無水物]、3,6−ビス(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、4−(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、1,4−ジフルオロピロメリット酸二無水物、又は1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン二無水物等の2〜3個の芳香環を有する化合物を好適に挙げることができる。中でも、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物がより好ましい。
【0024】
上記のテトラカルボン酸二無水物は、それぞれ一種単独である必要はなく、複数種の混合物であってもよい。
上記のテトラカルボン酸二無水物の中でも、二つのカルボン酸無水物を連結する置換基の少なくとも一部に、エーテル結合(−O−)及びアルキレン鎖(−CH−)から選ばれる2価の連結鎖を有しているものが、ポリイミドの柔軟性を向上させることができるので好ましい。テトラカルボン酸に無水物中に、上記のエーテル結合(−O−)及びアルキレン鎖(−CH−)から選ばれる2価の連結基を有するテトラカルボン酸二無水物が占める割合は、55モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上が更に好ましく、80モル%以上が特に好ましい。
具体的には、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,2:4,5−二無水物、及びジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物から選ばれる一種以上が好ましく、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、又は1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,2:4,5−二無水物が特に好ましい。
テトラカルボン酸二無水物を上記の構成で用いる場合、本願発明のバインダーは、適度な柔軟性を備えることができ、高温保存後の低温特性やガス発生抑制等の広い温度範囲での蓄電デバイスの特性を著しく向上させることができる。
【0025】
〔ジアミン成分〕
本発明で用いられるポリアミック酸のジアミン成分は、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上であるフッ素基を含有しない芳香族ジアミン、分子量が500以下である脂肪族ジアミン、及びフッ素基を含有する芳香族ジアミンから選ばれる一種以上である。但し、分子量が500以下、好ましくは400以下、より好ましくは300以下である脂肪族ジアミンが、55モル%以上であり、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上であることが更に好ましく、80モル%以上が特に好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
本発明で用いられるポリアミック酸は、一般式(I)で表される繰返し単位総量中のBの55モル%以上が、分子量が500以下である脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基であるが、この意義は、上記と同様である。すなわち、前記繰返し単位総量中のBの好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは100モル%が、分子量が好ましくは400以下、より好ましくは300以下である脂肪族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基であることが好ましい。
脂肪族ジアミンを上記の構成で用いる場合、本願発明のバインダーは、適度な柔軟性を備えることができ、高温保存後の低温特性やガス発生抑制等の広い温度範囲での蓄電デバイスの特性を著しく向上させることができる。
【0026】
(フッ素基を含有しない芳香族ジアミン)
フッ素基を含有しない芳香族ジアミンとしては、25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上であれば特に限定されないが、1〜2個の芳香族環を有する芳香族ジアミンが好ましい。25℃の水に対する溶解度が0.1g/L未満の芳香族ジアミンを用いた場合には、均一なポリアミック酸の水溶液を得るのが難しくなる場合がある。また、芳香族ジアミンが2個を越える芳香族環を持つ場合には、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L未満になる場合があり、その結果、均一なポリアミック酸の水溶液を得るのが難しくなる場合がある。
フッ素基を含有しない芳香族ジアミンの好適例としては、p−フェニレンジアミン(25℃における水に対する溶解度は120g/L、以下同様)、m−フェニレンジアミン(77g/L)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.19g/L)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.24g/L)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(0.54g/L)、2,4−トルエンジアミン(62g/L)、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(1.3g/L)、ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン(200g/L)、又は2,4−ジアミノトルエン(62g/L)を挙げることができるが、水溶性が高く、得られるポリイミドが優れた特性を有するので、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、又はそれらの混合物がより好ましく、p−フェニレンジアミン、及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから選ばれる一種以上が更に好ましい。
【0027】
(脂肪族ジアミン)
脂肪族ジアミンとしては、分子量(モノマーの場合は分子量、ポリマーの場合は重量平均分子量を示す)が500以下であれば特に限定されないが、25℃の水に対する溶解度が0.1g/L以上である脂肪族ジアミン、及び1〜2個の脂環を有する脂環式ジアミンから選ばれる一種以上が好ましい。分子量が500を超える脂肪族ジアミンを用いた場合には、均一なポリアミック酸の水溶液を得るのが難しくなる場合がある。
脂肪族ジアミンの好適例としては、trans−1,4−ジアミノシクロへキサン(1000g/L、分子量:114)、cis−1,4−ジアミノシクロへキサン(1000g/L、分子量:114)、1,6−ヘキサメチレンジアミン(1000g/L、分子量:116)、1,10−デカメチレンジアミン(1000g/L、分子量:172)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1000g/L、分子量:142)、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(999g/L、分子量:142)、重量平均分子量が500以下のポリオキシプロピレンジアミン等を挙げることができる。中でも、trans−1,4−ジアミノシクロへキサン、cis−1,4−ジアミノシクロへキサン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、及び1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから選ばれる一種以上がより好ましい。
【0028】
(フッ素基を含有する芳香族ジアミン)
フッ素基を含有する芳香族ジアミンとしては、特に限定されないが、1〜2個の芳香族環を有するフッ素基を含有する芳香族ジアミンが好ましい。フッ素基を含有する芳香族ジアミンが2個を越える芳香族環を持つ場合には、均一なポリアミック酸の水溶液を得るのが難しくなる場合がある。
フッ素基を含有する芳香族ジアミンの好適例としては、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−ジアミノベンゼン、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−ジアミノベンゼン、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−ベンゼン(ジメタンアミン)、2,2’−ジフルオロ−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、2,2’,6,6’−テトラフルオロ−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、4,4’−ジアミノオクタフルオロビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−オキシビス(2,3,5,6−テトラフルオロアニリン)等を挙げることができる。
上記のジアミン成分の中では、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、trans−1,4−ジアミノシクロへキサン、cis−1,4−ジアミノシクロへキサン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、及び1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから選ばれる一種以上が好ましい。
【0029】
上記のジアミン成分は、それぞれ一種単独である必要はなく、複数種の混合物であってもよいが、分子量が500以下である脂肪族ジアミンが、55モル%以上である。
フッ素基を含有しない芳香族ジアミンは、これらの水に対する溶解度が高いジアミンと他のジアミンとを組み合わせて、ジアミン成分全体として25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上になるようにして用いることもできる。
なお、25℃における水に対する溶解度(25℃の水に対する溶解度)が0.1g/L以上のジアミンとは、当該ジアミンが25℃の水1L(1000ml)に0.1g以上溶解することを意味する。25℃における水に対する溶解度は、当該物質が25℃の水1L(リットル)に溶解する限界量(g)を意味する。この値は、ケミカル・アブストラクト等のデータベースに基づいた検索サービスとして知られるSciFinder(登録商標)によって容易に検索することができる。ここでは、種々の条件下での溶解度のうち、Advanced Chemistry Development(ACD/Labs)Software V11.02(Copyright 1994-2011 ACD/Labs)によって算出されたpHが7における値を採用した。
【0030】
〔イミダゾール類〕
本発明においては、均一なポリアミック酸の水溶液を得るために、イミダゾール類の存在下に、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させることが好ましい。
イミダゾール類(化合物)としては、下記一般式(II)で表される化合物を好適に挙げることができる。
【0031】
【化3】
【0032】
一般式(II)において、X〜Xは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1〜5のアルキル基である。
本発明で用いるイミダゾール類としては、25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上、特に1g/L以上であることが好ましい。
さらに、一般式(II)のイミダゾール類においては、X〜Xが、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1〜5のアルキル基であって、X〜Xのうち少なくとも2個が、炭素数が1〜5のアルキル基であるイミダゾール類、すなわち置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類がより好ましい。
【0033】
置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類は水に対する溶解性が高いので、それらを用いることによって、均一なポリアミック酸の水溶液を容易に製造することができる。これらのイミダゾール類としては、1,2−ジメチルイミダゾール(25℃における水に対する溶解度は239g/L、以下同様)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(1000g/L)、4−エチル−2−メチルイミダゾール(1000g/L)、及び1−メチル−4−エチルイミダゾール(54g/L)から選ばれる一種以上が好適に挙げられる。
なお、25℃における水に対する溶解度は、当該物質が25℃の水1L(リットル)に溶解する限界量(g)を意味する。この値は、ケミカル・アブストラクト等のデータベースに基づいた検索サービスとして知られるSciFinder(登録商標)によって容易に検索することができる。ここでは、種々の条件下での溶解度のうち、Advanced Chemistry Development(ACD/Labs)Software V11.02(Copyright 1994-2011 ACD/Labs)によって算出されたpHが7における値を採用した。
なお、用いるイミダゾール類は一種単独であっても、複数種の混合物であってもよい。
【0034】
本発明で用いるイミダゾール類の使用量は、原料のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応によって生成するポリアミック酸のカルボキシル基に対して、好ましくは0.8倍当量以上、より好ましくは1.0倍当量以上、更に好ましくは1.2倍当量以上である。イミダゾール類の使用量がポリアミック酸のカルボキシル基に対して0.8倍当量未満では、均一なポリアミック酸の水溶液を得るのが容易でなくなる場合がある。また、イミダゾール類の使用量の上限は、特に限定されないが、通常は10倍当量未満、好ましくは5倍当量未満、より好ましくは3倍当量未満である。イミダゾール類の使用量が多過ぎると、非経済的になるし、且つポリアミック酸の水溶液の保存安定性が悪くなることがある。
本発明において、イミダゾール類の量を規定するポリアミック酸のカルボキシル基に対する倍当量とは、ポリアミック酸のアミド酸基を形成するカルボキシル基1個に対して何個(何分子)の割合でイミダゾール類を用いるかを表す。なお、ポリアミック酸のアミド酸基を形成するカルボキシル基の数は、原料のテトラカルボン酸成分1分子当たり2個のカルボキシル基を形成するものとして計算される。
したがって、本発明で用いるイミダゾール類の使用量は、原料のテトラカルボン酸二無水物に対して(ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分に対して)、好ましくは1.6倍モル以上、より好ましくは2.0倍モル以上、更に好ましくは2.4倍モル以上である。
【0035】
本発明で用いるイミダゾール類の特徴は、原料のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応によって生成するポリアミック酸(ポリイミド前駆体)のカルボキシル基と塩を形成して水に対する溶解性を高めるだけでなく、さらにポリイミド前駆体をイミド化(脱水閉環)してポリイミドにする際に、極めて高い触媒的な作用を有することにある。この結果、本発明に係るポリアミック酸の水溶液を用いると、例えば、より低温且つ短時間の加熱処理によっても、容易に、極めて高い物性を有する蓄電デバイス用ポリイミドバインダーを得ることが可能になる。
【0036】
〔ポリアミック酸の水溶液の製造〕
前述の通り、水を反応溶媒として、イミダゾール類の存在下に、好ましくは置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類の存在下に、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させることによって、ポリアミック酸の水溶液(以下、「ポリアミック酸水溶液組成物」ともいう)を極めて簡便に、直接的に製造することができる。
ここで、「水を反応溶媒として」とは、溶媒の主成分が水であることを意味する。水以外の有機溶媒は、全溶媒中50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下であり、実質的に含まないことが特に好ましい。また、ここで言う有機溶媒には、テトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸成分、ジアミン成分、ポリアミック酸、及びイミダゾール類は含まれない。
このような有機溶媒の含有量が極めて少ないポリアミック酸水溶液組成物を用いることが、本発明の特徴の1つである。
【0037】
この反応は、テトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸二無水物)とジアミン成分とを略等モル用い、イミド化反応を抑制するために100℃以下、好ましくは80℃以下の比較的低温で行なう。反応温度は、通常25℃〜100℃、好ましくは40℃〜80℃、より好ましくは50℃〜80℃であり、反応時間は、0.1〜24時間程度、好ましくは2〜12時間程度である。反応温度及び反応時間を前記範囲内とすることによって、生産効率よく高分子量のポリアミック酸水溶液組成物を容易に得ることができる。なお、反応は、空気雰囲気下でも行うことができるが、通常は不活性ガス雰囲気下、好ましくは窒素ガス雰囲気下で好適に行われる。
また、テトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸二無水物)とジアミン成分とを略等モルとは、具体的にはモル比[テトラカルボン酸成分/ジアミン成分]で0.90〜1.10程度、好ましくは0.95〜1.05程度である。
【0038】
本発明に用いるポリアミック酸水溶液組成物は、ポリアミック酸に起因する固形分濃度が、水とポリアミック酸との合計量に対して5質量%超〜45質量%、好ましくは10質量%超〜40質量%、より好ましくは15質量%超〜30質量%の組成物として好適に用いることができる。ポリアミック酸に起因する固形分濃度が5質量%より低いと溶液の粘度が低くなりすぎ、45質量%より高いと溶液の流動性がなくなることがある。また溶液粘度は、30℃における溶液粘度が、好ましくは1000Pa・sec以下、より好ましくは0.5〜500Pa・sec、更に好ましくは1〜300Pa・sec、特に好ましくは3〜200Pa・secである。
溶液粘度が1000Pa・secを超えると、電極活物質粉末の混合や集電体上への均一な塗布が困難となり、また、0.5Pa・secよりも低いと、電極活物質粉末の混合や集電体上への塗布時にたれ等が生じ、加熱乾燥、イミド化後のポリイミド樹脂の靭性が低くなる恐れがある。
【0039】
〔ポリイミドバインダーの製造〕
前記のポリアミック酸水溶液組成物は、通常は加熱処理によって水を除去するとともにイミド化(脱水閉環)することによって好適に蓄電デバイス用ポリイミドバインダーを得ることができる。
イミド化反応の加熱処理条件は、特に限定されないが、概ね100℃以上、好ましくは120℃〜200℃、より好ましくは150℃〜190℃で、0.01時間〜10時間、好ましくは0.01時間〜2時間である。
本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーは、比較的低温(例えば120℃〜200℃、好ましくは150℃〜190℃)で加熱処理しただけで、通常の有機溶媒を用いたポリアミック酸水溶液組成物により得られるポリイミドに較べて機械的特性が遜色なく、高温保存後の低温特性やガス発生等の広い温度範囲での蓄電デバイスの特性を向上させるという優れた効果を発揮することができる。
【0040】
本発明に用いるポリアミック酸水溶液組成物は、加熱処理又はイミド化剤等の化学的処理によって、容易にポリイミド樹脂、即ち、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーになる。例えば、ポリアミック酸水溶液組成物を基材上に流延又は塗布して120℃〜200℃の範囲で加熱乾燥後、自己支持性となったフィルムを基材から剥離することによりポリイミド樹脂フィルムが得られる。
【0041】
〔蓄電デバイス用ポリイミドバインダー〕
本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーは、ASTM D882に準拠した引張試験によって得られる引張弾性率が、1.5GPa以上2.7GPa以下である。前記引張弾性率は1.7GPa以上が好ましく、1.9GPa以上が更に好ましい。上限は、2.5GPa以下が好ましく、2.3GPa以下が更に好ましい。
本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーは、ASTM D882に準拠した引張試験によって得られる破断エネルギーが10MJ/m以上であることが好ましく、30MJ/m以上であると更に好ましい。破断エネルギーが上記の範囲であると、電極活物質の充電及び放電に伴い膨張及び収縮に対して蓄電デバイス用ポリイミドバインダーが破断されることなく、長期にわたって結着性を保持することができる。
【0042】
本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーは、銅箔上に塗布して成膜したポリイミドフィルムについて、IPC−TM650に準拠して90°ピール強度試験を行って求められるピール強度(銅箔接着性)が、0.5N/mm以上であることが好ましく、0.6N/mm以上であることが更に好ましく、0.7N/mm以上であることが特に好ましい。
【0043】
[態様2:電極シート]
本発明の電極シートは、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー、負極活物質及び正極活物質から選ばれる電極活物質、並びに適宜導電剤を混合した電極合剤ペーストを集電体上に流延又は塗布して活物質層を形成したものである。正極活物質を混合して正極として使用するものを正極シート、負極活物質を混合して負極として使用するものを負極シートと称する。
すなわち、本発明の蓄電デバイス用負極シートは、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー、ケイ素含有活物質、及び炭素材料からなる負極合剤を銅集電体表面に流延又は塗布して負極活物質層を形成した負極シートである。
また、本発明の蓄電デバイス用正極シートは、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー、炭素材料、及びリチウム遷移金属酸化物からなる正極合剤をアルミニウム集電体表面に流延又は塗布して正極活物質層を形成した正極シートであって、該リチウム遷移金属酸化物が、リチウム原子以外の全金属元素中にニッケル原子及びマンガン原子が占める割合が50原子%以上100原子%以下である正極シートである。
【0044】
〔電極シートの製造〕
電極シートは、負極活物質又は正極活物質とポリアミック酸水溶液組成物を混合して電極合剤ペーストを調製し、アルミニウム箔や銅箔等の導電性の集電体上に流延又は塗布し、加熱処理して溶媒を除去して、集電体上に活物質層を形成すると共に、イミド化反応することにより好適に製造することができる。
具体的には、まず、前記ポリアミック酸水溶液組成物に、好ましくは10℃〜60℃の温度範囲で電極活物質を混合することにより、電極合剤ペーストを調製する。リチウム含有金属複合酸化物、炭素粉末、ケイ素粉末、スズ粉末、ケイ素又はスズを含む合金粉末等の電極活物質は公知のものを用いることができる。
電極合剤ペースト中の電極活物質の量は、格別限定されないが、通常、ポリアミック酸に起因する固形分質量に対して、質量基準で0.1〜1000倍、好ましくは1〜1000倍、より好ましくは5〜1000倍、更に好ましくは10〜1000倍である。電極活物質の量が少なすぎると、集電体に形成された活物質層に不活性な部分が多くなり、電極としての機能が不十分になることがある。また、電極活物質の量が多すぎると活物質が集電体に十分に結着されずに脱落しやくなる。
なお、電極合剤ペースト中には、必要に応じて界面活性剤や粘度調整剤や導電剤等の添加剤を加えることができる。かかる添加剤は、ポリアミック酸がペーストの全固形分中の1〜20質量%となるよう混合することが好ましい。添加剤の量がこの範囲外では電極の性能が低下することがある。
【0045】
次に、充放電により可逆的にリチウムイオンを吸蔵及び放出できる電極活物質を用いて得られる電極合剤ペーストを、アルミニウム箔や銅箔等の導電性の集電体上に流延又は塗布して、120〜200℃、より好ましくは150〜190℃、特に好ましくは160〜180℃の温度範囲で加熱処理して、溶媒を除去するとともにイミド化反応することにより電極シートを得ることができる。
加熱処理温度が上記の範囲外の場合、イミド化反応が十分に進行しなかったり、電極成形体の物性が低下したりすることがある。加熱処理は発泡や粉末化を防ぐために多段で行ってもよい。また、加熱処理時間は0.01〜10時間が好ましく、0.1〜5時間がより好ましい。10時間以上は生産性の点から好ましくなく、0.01時間より短いとイミド化反応や溶媒の除去が不十分となることがあり好ましくない。
【0046】
<蓄電デバイス用負極シート>
〔負極活物質〕
蓄電デバイス用、特にリチウム二次電池用負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、及びリチウムを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料〔易黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛等〕、スズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、ケイ素化合物、又はLiTi12等のチタン酸リチウム化合物等を一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。本発明においては、負極活物質として、少なくともスズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、又はケイ素化合物等のケイ素含有負極活物質を含むことが好ましい。特に、ケイ素(単体)、又はケイ素化合物等のケイ素含有負極活物質は、黒鉛に比べ理論容量が極めて大きい反面、充電時の負極活物質自身の体積膨張率も極めて大きい。
本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー用いると、体積膨張に伴う負極活物質の劣化を著しく抑制できるため、高温保存後の低温特性やガス発生等の広い温度範囲での蓄電デバイスの特性を顕著に向上させることができる。
【0047】
ケイ素含有活物質の種類は特に限定されないが、例えば、ケイ素(単体)、ケイ素化合物、ケイ素の部分置換体、ケイ素化合物の部分置換体、ケイ素化合物の固溶体等が挙げられる。ケイ素化合物の具体例としては、SiOx(0.05<x<1.95)で表されるケイ素酸化物、式:SiCy(0<y<1)で表されるケイ素炭化物、式:SiNz(0<z<4/3)で表されるケイ素窒化物、ケイ素と異種元素Mとの合金であるケイ素合金等が好適に挙げられる。ケイ素合金において、異種元素M1としては、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素が好適に挙げられる。
また、ケイ素の部分置換体は、ケイ素(単体)及びケイ素化合物に含まれるケイ素の一部を異種元素M2で置換した化合物である。異種元素M2の具体例としては、例えば、B、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、N及びSn等が好適に挙げられる。これらのケイ素含有活物質の中でも、ケイ素(単体)、ケイ素酸化物、又はケイ素合金が好ましく、ケイ素(単体)又はケイ素酸化物が更に好ましい。
ケイ素含有負極活物質の量としては、負極合剤中の正味のケイ素の質量として、高容量化のため、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、サイクル特性向上の観点から、95質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、45質量%以下が更に好ましい。
【0048】
また、リチウム一次電池用の負極活物質としては、リチウム金属又はリチウム合金が挙げられる。
【0049】
〔負極導電剤〕
負極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はないが、銅、ニッケル、チタン、又はアルミニウム等の金属粉末や炭素材料等を用いることが好ましい。導電剤や負極活物質として用いられる炭素材料としては、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、及びサーマルブラックから選ばれる一種以上のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等の繊維状炭素粉末が好適に挙げられる。
また、負極導電剤として、グラファイトとカーボンブラック、グラファイトと繊維状炭素粉末、又はカーボンブラックと繊維状炭素粉末のように適宜混合して用いることがより好ましい。特に、繊維状炭素粉末を使用すると、導電性を確保するため、比表面積の大きな導電剤の使用が少なくて済むという効果を有するので好ましい。
炭素材料は、導電剤や負極活物質として用いられるが、該炭素材料の負極合剤への添加量は、1〜90質量%が好ましく、10〜70質量%が更に好ましい。
【0050】
負極導電剤として、ケイ素含有負極活物質と炭素材料とを混合して使用する場合、ケイ素含有負極活物質と炭素材料との比率は、炭素材料との混合による電子伝導性向上効果に基づくサイクル改善の観点から、負極合剤中のケイ素含有負極活物質正味のケイ素の全質量に対して、炭素材料が、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。また、ケイ素含有負極活物質と混合する炭素材料の比率が多すぎると、負極合剤層中のケイ素含有負極活物質量が低下し、高容量化の効果が小さくなる虞があることから、炭素材料の全質量に対して、ケイ素含有負極活物質の正味のケイ素の質量は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましい。
また、上記の導電剤は、ケイ素含有活物質と予め混合し適宜熱処理することにより、複合化されたものであるとより好ましい。
【0051】
黒鉛を使用する場合、黒鉛の格子面(002)の面間隔(d002)が0.340nm(ナノメータ)以下、特に0.335〜0.337nmである黒鉛型結晶構造を有する炭素材料を使用することが更に好ましい。
特に複数の扁平状の黒鉛質微粒子が互いに非平行に集合又は結合した塊状構造を有する人造黒鉛粒子や、圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を繰り返し与え、鱗片状天然黒鉛を球形化処理した粒子を用いることが好ましい。
負極の集電体を除く部分の密度を1.5g/cm以上の密度に加圧成形したときの負極シートのX線回折測定から得られる黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I(110)と(004)面のピーク強度I(004)の比I(110)/I(004)が0.01以上となると一段と広い温度範囲での電気化学特性が向上するので好ましく、0.05以上となることがより好ましく、0.1以上となることが更に好ましい。また、過度に処理し過ぎて結晶性が低下し電池の放電容量が低下する場合があるので、ピーク強度の比I(110)/I(004)の上限は0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。
また、高結晶性の炭素材料(コア材)はコア材よりも低結晶性の炭素材料によって被膜されていると、広い温度範囲での電気化学特性が一段と良好となるので好ましい。被覆の炭素材料の結晶性は、TEMにより確認することができる。
高結晶性の炭素材料を使用すると、充電時において非水電解液と反応し、界面抵抗の増加によって高温保存後の低温特性やガス発生等の広い温度範囲での蓄電デバイスの特性を低下させる傾向があるが、本発明に係る蓄電デバイス用ポリイミドバインダーを用いた場合ではこれらの蓄電デバイスの特性が良好となる。
【0052】
〔負極バインダー〕
負極用バインダーとしては、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーを用いる。
また、水に溶解するか、コロイド状に分散可能なその他のバインダーと併用して用いるとより好ましい。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及びエチレンプロピレンジエンターポリマーから選ばれる少なくとも一種のバインダーと併用することが好ましい。中でも、SBR及びCMCから選ばれる少なくとも一種のバインダーと併用することが更に好ましい。
本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーとその他のバインダーを併用する場合、バインダーの総質量に対するその他のバインダーの質量の割合は1〜95質量%が好ましく、5〜45質量%が更に好ましい。
【0053】
<蓄電デバイス用正極シート>
〔正極活物質〕
蓄電デバイス用、特にリチウム二次電池用正極活物質としては、コバルト、マンガン及びニッケルから選ばれる一種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiCo1−xNi(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn3/2、及びLiCo0.98Mg0.02から選ばれる一種以上が挙げられる。また、LiCoOとLiMn、LiCoOとLiNiO、LiMnとLiNiOのように併用してもよい。
【0054】
また、過充電時の安全性やサイクル特性を向上したり、4.3V以上の充電電位での使用を可能にするために、リチウム複合金属酸化物の一部は他元素で置換してもよい。例えば、コバルト、マンガン、ニッケルの一部をSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cu、Bi、Mo、La等の少なくとも一種以上の元素で置換したり、Oの一部をSやFで置換したり、又はこれらの他元素を含有する化合物を被覆することもできる。
これらの中では、LiCoO、LiMn、LiNiOのような満充電状態における正極の充電電位がLi基準で4.3V以上で使用可能なリチウム複合金属酸化物が好ましく、LiCo1−x(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、及びCuから選ばれる一種以上の元素、0.001≦x≦0.05)等の異種元素置換リチウムコバルト酸化物、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi1/2Mn3/2、又はLiMnOとLiMO(Mは、Co、Ni、Mn、又はFe等の遷移金属)との固溶体のようなリチウム原子以外の全金属元素中にニッケル原子及びマンガン原子が占める割合が50原子%以上100原子%以下のリチウム複合金属酸化物等、4.4V以上で使用可能なリチウム複合金属酸化物がより好ましい。高充電電圧で動作するリチウム複合金属酸化物を使用すると、充電時における電解液との反応により広い温度範囲で使用した場合における蓄電デバイスの特性が低下しやすいが、本発明に係る蓄電デバイス用ポリイミドバインダーを用いるとこれらの蓄電デバイスの特性の低下を抑制することができる。
【0055】
更に、正極活物質として、リチウム含有オリビン型リン酸塩を用いることもできる。特に鉄、コバルト、ニッケル及びマンガンから選ばれる一種以上を含むリチウム含有オリビン型リン酸塩が好ましい。その具体例としては、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、及びLiMnPOから選ばれる一種以上が好適に挙げられる。
これらのリチウム含有オリビン型リン酸塩の一部は他元素で置換してもよく、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの一部をCo、Mn、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W、及びZr等から選ばれる一種以上の元素で置換したり、又はこれらの他元素を含有する化合物や炭素材料で被覆することもできる。これらの中では、LiFePO又はLiMnPOが好ましい。
また、リチウム含有オリビン型リン酸塩は、例えば前記の正極活物質と混合して用いることもできる。
【0056】
また、リチウム一次電池用正極としては、CuO、CuO、AgO、AgCrO、CuS、CuSO、TiO、TiS、SiO、SnO、V、V12、VO、Nb、Bi、BiPb,Sb、CrO、Cr、MoO、WO、SeO、MnO、Mn、Fe、FeO、Fe4、Ni2、NiO、CoO、CoO等の、一種以上の金属元素の酸化物又はカルコゲン化合物、SO、SOCl等の硫黄化合物、又は一般式(CFnで表されるフッ化炭素(フッ化黒鉛)等が挙げられる。中でも、MnO、V、フッ化黒鉛等が好ましい。
【0057】
〔正極導電剤〕
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、及びサーマルブラックから選ばれる一種以上のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等の繊維状炭素粉末が好適に挙げられる。また、グラファイトとカーボンブラック、グラファイトと繊維状炭素粉末、又はカーボンブラックと繊維状炭素粉末の様に適宜混合して用いることがより好ましい。導電剤の正極合剤への添加量は、1〜10質量%が好ましく、特に2〜5質量%が好ましい。
【0058】
〔正極バインダー〕
正極用バインダーとしては、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーを用いるが、その他のバインダーとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、又はエチレンプロピレンジエンターポリマーを用いることもできる。
また、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーとその他のバインダーを併用することもできるが、その際の好ましい態様は、〔負極バインダー〕に記載の態様と同様である。
【0059】
[態様3:蓄電デバイス]
本発明において、蓄電デバイスとは、リチウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスを包含する。これらの中でも電解質塩にリチウム塩を使用するリチウム電池が好ましく、リチウム二次電池が最も適している。
【0060】
<第1の蓄電デバイス(リチウム電池)>
本明細書においてリチウム電池とは、リチウム一次電池及びリチウム二次電池の総称である。また、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。本発明のリチウム電池は、正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている前記非水電解液からなる。正極及び負極は、前記態様2に記載の電極シートを使用する。
【0061】
〔非水電解液〕
本発明のリチウム電池において、態様2の電極シートを、以下に述べる非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液と組み合わせることにより、蓄電デバイスの高温保存後の低温特性やガス発生等の広い温度範囲での蓄電デバイスの特性を向上させることができるという特異な効果を発現する。
【0062】
〔非水溶媒〕
本発明のリチウム電池の非水電解液に使用される非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状エステル、ラクトン、エーテル、及びアミドから選ばれる一種以上が挙げられる。広い温度範囲で電気化学特性を相乗的に向上させるため、非水溶媒として鎖状エステルが含まれることが好ましく、鎖状カーボネートが含まれることが更に好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートの両方が含まれることがもっとも好ましい。
なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
前記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2−ブチレンカーボネート、及び2,3−ブチレンカーボネートから選ばれる一種以上がより好適である。
非水溶媒がエチレンカーボネート及び/又はプロピレンカーボネートを含むと電極上に形成される被膜の抵抗が小さくなるので好ましく、エチレンカーボネート及び/又はプロピレンカーボネートの含有量は、非水溶媒の総体積に対し、好ましくは3体積%以上、より好ましくは5体積%以上、更に好ましくは7体積%以上であり、また、その上限としては、好ましくは45体積%以下、より好ましくは35体積%以下、更に好ましくは25体積%以下である。
【0063】
鎖状エステルとしては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソプロピルカーボネート(MIPC)、メチルブチルカーボネート、及びエチルプロピルカーボネートから選ばれる一種以上の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、及びジブチルカーボネートから選ばれる一種以上の対称鎖状カーボネート、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、ピバリン酸プロピル等のピバリン酸エステル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸メチル、及び酢酸エチルから選ばれる一種以上の鎖状カルボン酸エステルが好適に挙げられる。
前記鎖状エステルの中でも、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸エチル、及び酢酸エチルから選ばれるエチル基を有する鎖状エステルが好ましく、特にエチル基を有する鎖状カーボネートが好ましい。
また、鎖状カーボネートを用いる場合には、二種以上を用いることが好ましい。さらに対称鎖状カーボネートと非対称鎖状カーボネートの両方が含まれるとより好ましく、対称鎖状カーボネートの含有量が非対称鎖状カーボネートより多く含まれると更に好ましい。
【0064】
前記鎖状エステルの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積に対して、60〜90体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60体積%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、90体積%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下して広い温度範囲での電気化学特性が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
鎖状カーボネート中に対称鎖状カーボネートが占める体積の割合は、51体積%以上が好ましく、55体積%以上がより好ましい。その上限としては、95体積%以下がより好ましく、85体積%以下であると更に好ましい。対称鎖状カーボネートにジメチルカーボネートが含まれると特に好ましい。また、非対称鎖状カーボネートはメチル基を有するとより好ましく、メチルエチルカーボネートが特に好ましい。
上記の場合に一段と広い温度範囲での電気化学特性が向上するので好ましい。
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、広い温度範囲での電気化学特性向上の観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(体積比)が10:90〜45:55が好ましく、15:85〜40:60がより好ましく、20:80〜35:65が特に好ましい。
【0065】
非水電解液中にフッ素含有化合物を含ませると本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーを用いて形成された電極を使用した蓄電デバイスの高温サイクル特性を一段と高めることができるので好ましい。フッ素含有化合物が、ごく僅かにイミド化せずに残ってしまうカルボン酸に作用し、残留カルボン酸が電気化学的に非水電解液と反応して蓄電デバイスの特性低下の要因となるのを防ぐと考えられる。
【0066】
フッ素含有化合物の具体例としては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、トランス又はシス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、及び4−(トリフルオロメチル)−1,3−ジオキソラン−2−オンから選ばれる少なくとも一種のフッ素含有環状カーボネート、フルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、2−フルオロエチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルフルオロメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(2−フルオロエチル)カーボネート(DFDEC)、エチル−(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、エチル−(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、及びビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネートから選ばれる少なくとも一種のフッ素含有鎖状カーボネート、HCFCFCHOCFCFH、CFCFCHOCFCFH、HCFCFCHOCFCFHCF、及びCFCFCHOCFCFHCFから選ばれる一種以上のフッ素含有エーテル、メタンスルホニルフロリド及びビニルスルホニルフロリド(VFS)から選ばれるフッ素含有S=O化合物が好ましい。
中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、トランス又はシス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、ジフルオロメチルフルオロメチルカーボネート、2−フルオロエチルメチルカーボネート、ビス(2−フルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、HCFCFCHOCFCFH、及びビニルスルホニルフロリドから選ばれる一種以上が更に好ましく、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、トランス又はシス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、及びビニルスルホニルフロリドから選ばれる一種以上が特に好ましい。
【0067】
フッ素含有化合物の含有量は、非水溶媒の総体積に対して、好ましくは0.07体積%以上、より好ましくは4体積%以上、更に好ましくは7体積%以上であり、また、その上限は、好ましくは35体積%以下、より好ましくは25体積%以下、更に15体積%以下であると、低温でのLiイオン透過性を損なうことなく一段と高温保存時の被膜の安定性を増すことができるので好ましい。
【0068】
その他の非水溶媒としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等の鎖状エーテル、ジメチルホルムアミド等のアミド、スルホラン等のスルホン、及びγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、α−アンゲリカラクトン等のラクトンから選ばれる一種以上が好適に挙げられる。
上記の非水溶媒は通常、適切な物性を達成するために、混合して使用される。その組合せは、例えば、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カルボン酸エステルとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとラクトンとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとエーテルとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートと鎖状カルボン酸エステルとの組み合わせ等が好適に挙げられる。
【0069】
〔添加剤〕
一段と広い温度範囲での蓄電デバイスの特性を向上させる目的で、非水電解液中にさらに添加剤を加えることが好ましい。その他の添加剤の具体例としては、(a)不飽和結合含有環状カーボネート、(b)イソシアネート化合物、(c)フェニルカーボネート化合物、(d)環状アセタール化合物が好適に挙げられる。これらの添加剤が、ごく僅かにイミド化せずに残ってしまうカルボン酸に作用し、残留カルボン酸が電気化学的に非水電解液と反応して蓄電デバイスの特性低下の要因となるのを防ぐと考えられる。
【0070】
(a)不飽和結合含有環状カーボネート
不飽和結合含有環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、4−エチニル−1,3−ジオキソラン−2−オン(EEC)、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、及び4−エチニル−1,3−ジオキソラン−2−オン(EEC)から選ばれる一種以上の炭素−炭素二重結合又は炭素−炭素三重結合含有環状カーボネート等が挙げられるが、中でも、VC、VEC、EECが好ましく、VC、EECがより好ましい。
【0071】
(b)イソシアネート化合物
イソシアネート化合物としては、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2−イソシアナトエチル アクリレート、及び2−イソシアナトエチル メタクリレートから選ばれる一種以上のイソシアネート化合物等が挙げられるが、中でも、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2−イソシアナトエチル アクリレート、及び2−イソシアナトエチル メタクリレートから選ばれる一種以上が好ましい。
【0072】
(c)フェニルカーボネート化合物
フェニルカーボネート化合物としては、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、又はジフェニルカーボネート等が挙げられるが、中でも、メチルフェニルカーボネート又はジフェニルカーボネートが好ましい。
(d)環状アセタール化合物
環状アセタール化合物としては、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、又は1,3,5−トリオキサン等が挙げられるが、中でも、1,3−ジオキソラン又は1,3−ジオキサンが好ましく、1,3−ジオキサンが更に好ましい。
【0073】
前記(a)〜(d)の化合物の含有量は、非水電解液中に0.001〜5質量%が好ましい。この範囲では、被膜が厚くなり過ぎずに十分に形成され、広い温度範囲での蓄電デバイスの特性の改善効果が高まる。該含有量は、非水電解液中に0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、その上限は、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
【0074】
〔電解質塩〕
本発明のリチウム電池の非水電解液に使用される電解質塩としては、下記のリチウム塩が好適に挙げられる。
〔Li塩−1類〕
LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(iso−C7、及びLiPF(iso−C7)から選ばれる一種以上の「ルイス酸とLiFの錯塩」が好適に上げられ、中でもLiPF、LiBF、LiAsFが好ましく、LiPF、LiBFが更に好ましい。
〔Li塩−2類〕
LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SO、(CF(SONLi(環状)、(CF(SONLi(環状)、及びLiC(SOCFから選ばれる一種以上の「イミド又はメチドリチウム塩」が好適に挙げられ、中でもLiN(SOF)(LiFSI)、LiN(SOCF、又はLiN(SOが好ましく、LiN(SOF)又はLiN(SOCFが更に好ましい。
〔Li塩−3類〕
LiSOF、LiCFSO、CHSOLi、CSOLi、CFCHSOLi、及びCSOLiから選ばれる一種以上の「S(=O)O構造含有リチウム塩」が好適に挙げられ、中でもLiSOF、CHSOLi、CSOLi又はCFCHSOLiが更に好ましい。
〔Li塩−4類〕
LiPO、LiPOF、及びLiClOから選ばれる一種以上の「P=O又はCl=O構造含有リチウム塩」が好適に挙げられ、中でもLiPO、LiPOFが好ましい。
〔Li塩−5類〕
ビス[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウム(LiBOB)、ジフルオロ[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウム、ジフルオロビス[オキサレート−O,O’]リン酸リチウム(LiPFO)、及びテトラフルオロ[オキサレート−O,O’]リン酸リチウムから選ばれる一種以上の「オキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩」が好適に挙げられ、中でもLiBOB、LiPFOが更に好ましい。
リチウム塩としては、これらの一種以上を混合して使用することができる。
【0075】
これらの中でも、LiPF、LiPO、LiPOF、LiBF、LiSOF、CHSOLi、CSOLi、CFCHSOLi、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SO、ビス[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウム、ジフルオロビス[オキサレート−O,O’]リン酸リチウム、及びテトラフルオロ[オキサレート−O,O’]リン酸リチウムから選ばれる一種以上が好ましく、LiPF、LiPO、LiSOF、CSOLi、CFCHSOLi、LiN(SOF)、ビス[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウム、及びジフルオロビス[オキサレート−O,O’]リン酸リチウムから選ばれる一種以上が更に好ましく、LiPFが特に好ましい。
リチウム塩の濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.7M以上がより好ましく、1.1M以上が更に好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.6M以下が更に好ましい。
【0076】
また、これらのリチウム塩の好適な組み合わせとしては、LiPFを含み、更にLiPO、LiSOF、CSOLi、CFCHSOLi、LiN(SOF)、ビス[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウム、ジフルオロ[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウム、ジフルオロビス[オキサレート−O,O’]リン酸リチウム、及びテトラフルオロ[オキサレート−O,O’]リン酸リチウムから選ばれる一種以上が好ましく、LiPFを含み、更にLiPO、LiSOF、CSOLi、LiN(SOF)、ジフルオロ[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウム、ジフルオロビス[オキサレート−O,O’]リン酸リチウム、及びテトラフルオロ[オキサレート−O,O’]リン酸リチウムから選ばれる一種以上がより好ましい。
LiPF以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合は、0.001M以上であると、高温での電気化学特性の向上効果発揮されやすく、0.005M以下であると高温での電気化学特性の向上効果が低下する懸念が少ないので好ましい。好ましくは0.01M以上、特に好ましくは0.03M以上、最も好ましくは0.04M以上である。その上限は、好ましくは0.4M以下、特に好ましくは0.2M以下である。
【0077】
〔非水電解液の製造〕
本発明の蓄電デバイスに用いられる非水電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質塩及び該非水電解液に対して添加剤を添加することにより得ることができる。
この際、用いる非水溶媒及び非水電解液に加える化合物は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
本発明の非水電解液は、液体状のものだけでなくゲル化されているものも使用し得る。更に本発明の非水電解液は固体高分子電解質用としても使用できる。
【0078】
〔リチウム電池〕
本発明のリチウム電池の構造には特に限定はなく、単層又は複層のセパレータを有するコイン型電池、円筒型電池、角型電池、ラミネート電池等を適用できる。電池用セパレータとしては、特に制限はされないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンの単層又は積層の微多孔性フィルム、織布、又は不織布等を使用できる。
本発明におけるリチウム電池は、充電終止電圧が4.2V以上、特に4.3V以上の場合にも広い温度範囲での電気化学特性に優れ、更に、4.4V以上においても特性は良好である。放電終止電圧は、通常2.8V以上、更には2.5V以上とすることができるが、本発明におけるリチウム二次電池は、2.0V以上とすることができる。電流値については特に限定されないが、通常0.1〜30Cの範囲で使用される。また、本発明におけるリチウム電池は、−40〜100℃、好ましくは−10〜80℃で充放電することができる。
本発明のリチウム電池においては、リチウム電池の内圧上昇の対策として、電池蓋に安全弁を設けたり、電池缶やガスケット等の部材に切り込みを入れる方法も採用することができる。また、過充電防止の安全対策として、電池の内圧を感知して電流を遮断する電流遮断機構を電池蓋に設けることができる。
【0079】
<第2の蓄電デバイス(電気二重層キャパシタ)>
本発明の第2の蓄電デバイスは、本発明の非水電解液を含み、電解液と電極界面との電気二重層容量を利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスである。本発明の一例は、電気二重層キャパシタである。この蓄電デバイスに用いられる最も典型的な電極活物質は、活性炭である。二重層容量は概ね表面積に比例して増加する。
【0080】
<第3の蓄電デバイス>
本発明の第3の蓄電デバイスは、本発明の非水電解液を含み、電極のドープ/脱ドープ反応を利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスである。この蓄電デバイスに用いられる電極活物質として、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化銅等の金属酸化物や、ポリアセン、ポリチオフェン誘導体等のπ共役高分子が挙げられる。これらの電極活物質を用いたキャパシタは、電極のドープ/脱ドープ反応に伴うエネルギー貯蔵が可能である。
【0081】
<第4の蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ)>
本発明の第4の蓄電デバイスは、本発明の非水電解液を含み、負極であるグラファイト等の炭素材料へのリチウムイオンのインターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスであり、リチウムイオンキャパシタ(LIC)と呼ばれる。正極は、例えば活性炭電極と電解液との間の電気二重層を利用したものや、π共役高分子電極のドープ/脱ドープ反応を利用したもの等が好適に挙げられる。電解液には少なくともLiPF6等のリチウム塩が含まれる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0083】
〔蓄電デバイス用ポリアミック酸水溶液組成物の作製〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の425gを加え、これに1,6−ヘキサメチレンジアミンの20.44g(0.176モル)と、1,2−ジメチルイミダゾ−ルの42.28g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液に4,4’−オキシジフタル酸二無水物の54.56g(0.176モル)を加え、70℃で6時間撹拌して、固形分濃度12.4質量%、溶液粘度0.5Pa・sec、対数粘度0.49の表1に記載のバインダーNo.A−1〜A−4の蓄電デバイス用ポリアミック酸水溶液組成物を得た。
バインダーNo.C−1、C−2については、表1に記載の条件で蓄電デバイス用ポリアミック酸水溶液組成物を得た。
また、バインダーNo.C−3〜C−4については、溶媒として1−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いたこと、1,2−ジメチルイミダゾ−ルは使用しなかったこと以外は上記と同様に蓄電デバイス用ポリアミック酸水溶液組成物を得た。バインダーNo.C−5は、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)の1−メチル−2−ピロリドン溶液を使用して作製した。
【0084】
〔蓄電デバイス用バインダーの機械的特性〕
上記で得られた蓄電デバイス用ポリアミック酸水溶液組成物を用いて、表1に記載の熱硬化条件でポリマーを作製し、引張弾性率、破断エネルギー、銅箔接着性を測定した。結果を表1に示す。機械的特性の測定方法を以下に示す。
<機械的特性(引張試験)>
蓄電デバイス用ポリアミック酸水溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、熱風乾燥器に入れて、80℃で30分間、120℃で30分間、最大温度(150℃〜200℃)で所定の保持時間(0.5〜1時間)加熱処理して、厚さが25μmのポリイミドフィルムを作製した。
上記の方法で作製したポリイミドフィルムについて、引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して引張試験を行い、引張弾性率(GPa)、破断エネルギー(MJ/m)を求めた。
【0085】
<銅箔接着性(90°ピール強度試験)>
蓄電デバイス用ポリアミック酸水溶液組成物を、基材の銅箔上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、熱風乾燥器に入れて、80℃で30分間、120℃で30分間、最大温度(150℃〜200℃)で所定の保持時間(0.5〜1時間)加熱処理して、厚さが25μmのポリイミドフィルムを作製した。
上記の方法で作製したポリイミドフィルムについて、万能試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、IPC−TM650に準拠して90°ピール強度(N/mm)試験を行い、銅箔接着性を評価した。
【0086】
【表1】
【0087】
〔電極シート及びリチウム二次電池の作製、並びに電池特性の評価〕
以下、蓄電デバイス用ポリイミドバインダーを用いた電極シート及びそれを用いたリチウム二次電池の実施例を示すが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
実施例1〜8、比較例1〜6
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
LiNi0.5Mn0.3Co0.2;93質量%、アセチレンブラック(導電剤)3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(バインダー)4質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜き、正極No.1の正極シートを作製した。
また、表1に記載の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー、ケイ素単体(Si)、ケイ素酸化物(SiO)、人造黒鉛(d002=0.335nm)、アセチレンブラック、繊維状炭素粉末(直径;12nm、繊維長;114nm)を用い、表2に記載の組成で、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の片面に塗布し、表1に記載の熱硬化条件で加熱、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜き負極シートを作製した。そして、正極シート、微多孔性ポリエチレンフィルム製セパレータ、負極シートの順に積層し、表3の実施例2として記載の組成の非水電解液を加えて、実施例1〜8、比較例1〜6の2032型コイン電池を作製した。なお、実施例8では、バインダーとしてA−2とSBRを混合して負極合剤ペーストを作製した以外は、実施例2と同様に負極シートを作製した。
【0089】
〔高温充電保存後の低温特性の評価〕
<初期の放電容量>
上記の方法で作製したコイン電池を用いて、25℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で、終止電圧4.2Vまで3時間充電し、1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電した。このサイクルを10回繰り返した後、もう一度、終止電圧4.2Vまで3時間充電し、0℃に恒温槽の温度を下げ、1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電して、初期の0℃の放電容量を求めた。
<高温充電保存試験>
次に、このコイン電池を85℃の恒温槽中、1Cの定電流及び定電圧で終止電圧4.2Vまで3時間充電し、4.2Vに保持した状態で3日間保存を行った。その後、25℃の恒温槽に入れ、一旦1Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電した。
<高温充電保存後の放電容量>
更にその後、初期の放電容量の測定と同様にして、高温充電保存後の0℃の放電容量を求めた。
<高温充電保存後の0℃放電容量維持率>
高温充電保存後の低温特性を下記の0℃放電容量維持率より求めた。
高温充電保存後の0℃放電容量維持率(%)=(高温充電保存後の0℃の放電容量/初期の0℃の放電容量)×100
<充電保存後のガス発生量>
上記試験後のコイン電池を用いて、アルキメデス法によりガス発生量を測定した。ガス発生量は、比較例3のガス発生量を100%としたときを基準とし、相対的なガス発生量を求めた。電池特性を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
実施例9〜14
実施例2で用いた非水電解液に変えて表3に記載の非水電解液を使用した以外は、実施例2と同様にコイン電池を作製し、電池評価を行った。結果を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
実施例15〜16、及び比較例7
実施例1で用いた正極活物質に変えて、LiNi0.5Mn1.5(正極活物質)を用いて、正極No.2の正極シートを作製した。LiNi0.5Mn1.5;92質量%、アセチレンブラック(導電剤)3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(バインダー)5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに打ち抜き、正極シートを作製した。
更には、実施例2の負極シート作製に用いたポリイミドバインダーを正極No.2のポリフッ化ビニリデン(PVdF)に替えて用いたことの他は正極No.2と同様にして正極No.3の正極シートを作製した。
電極の組合せを表4に記載のものに変更し、電池評価の際の充電終止電圧を4.9V、放電終止電圧を3.4Vとしたこと、非水電解液の組成を1M LiPF+0.05M LiBOBを溶解させたEC/PC/FEC/DEC(10/10/10/70体積比)に変えたことの他は、実施例1と同様にコイン電池を作製し、電池評価を行った。結果を表4に示す。
但し、充電保存後のガス発生量に関しては、比較例7のガス発生量を100%としたときを基準とし、相対的なガス発生量を求めた。
【0094】
【表4】
【0095】
表2〜4から、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダー(A−1〜A−4)をリチウム二次電池の負極シートに使用した実施例1〜16のリチウム二次電池は、何れも、比較例のバインダー(C−1〜C−5)を用いた比較例1〜7のリチウム二次電池に比べ、いずれも広い温度範囲での電池特性が顕著に向上している。上記の効果は、一般式(I)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸の水溶液を用いて得られた蓄電デバイス用ポリイミドバインダーによる特有の効果であることが判明した。
また、表3において、実施例14に対して、実施例2、実施例9〜13は電池特性が向上していることから、非水電解液中に、特定のリチウム塩の組合せや、溶媒にフッ素含有化合物用いることにより、また、特定の添加剤を使用することにより、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーによる効果が一段と高められることが分かる。
更には、表4において、実施例16と実施例15の比較から、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーは正極用として使用した場合にも広い温度範囲での電池特性が顕著に向上する効果を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーを使用すれば、広い温度範囲における電気特性に優れた蓄電デバイスを得ることができる。特にハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、バッテリー電気自動車、タブレット端末やウルトラブック等の高温下で使用される可能性が高い機器等に搭載される蓄電デバイス用のポリイミドバインダーとして使用すると、広い温度範囲で電気特性が低下しにくい蓄電デバイスを得ることができる。
また、本発明の蓄電デバイス用ポリイミドバインダーは、特定構造のポリアミック酸の水溶液をイミド化反応させて得られるため、環境適応性が優れている。
さらに、蓄電デバイス用ポリイミドバインダーは、一次電池用非水電解液、電気分解用非水電解液、電気めっき用非水電解液等の蓄電デバイス以外のバインダーとしても利用することができる。