(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸方向に延びる軸孔と、前記軸孔の周りに設けられた複数のシリンダボアと、径方向に延在し前記軸孔と複数の前記シリンダボアの各々とを連通させる複数の吸入通路と、斜板室と、を有するシリンダブロックと、
前記斜板室内に配置された斜板と、
前記シリンダボア内に配置され、前記シリンダボアの内部の前記軸方向における一方側および他方側に圧縮室を区画する両頭ピストンと、
前記軸孔内に配置され、前記斜板と一体的に回転する回転軸と、
前記斜板を前記軸方向に挟むように設けられた一対のスラスト軸受と、を備え、
前記回転軸には、前記圧縮室に冷媒を導入するための連通路を有するロータリバルブが設けられており、前記ロータリバルブが回転することにより、前記ロータリバルブの外周面が前記吸入通路を封止することと前記連通路が前記吸入通路に連通することとが交互に繰り返され、
前記斜板は、
前記回転軸が挿通されている挿通孔を有し、前記一対のスラスト軸受に当接する一対の受け面が前記軸方向における一端側および他端側にそれぞれ設けられた基部と、
前記基部から前記径方向の外側に向かって延出し、前記軸方向に対して傾斜し、前記両頭ピストンに往復移動を付与する傾斜部と、を含み、
前記傾斜部のうちの前記径方向の外側に位置し、かつ前記一方側に位置する前記両頭ピストンの上死点位置に対応する端部を斜板頂部とし、
前記斜板に固定された前記回転軸の前記一方側の端部が前記斜板頂部に近づく方向を特定方向とし、
前記一対の受け面に対して垂直な方向に延びる仮想直線を基準軸とすると、
前記回転軸は、前記基準軸に対して前記特定方向に傾斜するように前記斜板に固定されている、
両頭斜板式圧縮機。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態について、以下、図面を参照しながら説明する。同一の部品および相当部品には同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0015】
[両頭斜板式圧縮機100]
図1は、実施の形態における両頭斜板式圧縮機100を示す断面図である。
図2は、
図1中のII−II線に沿った矢視断面図である。
図3は、
図2中の一部を拡大して示す断面図である。
図4は、
図1中のIV−IV線に沿った矢視断面図である。
図5は、
図4中の一部を拡大して示す断面図である。
【0016】
図1を主として参照して、両頭斜板式圧縮機100は、シリンダブロック11,12、フロントハウジング13、リヤハウジング14、回転軸21、軸シール部材22、斜板23、スラスト軸受25,26、両頭ピストン29を備える。
【0017】
(シリンダブロック11、スラスト軸受25)
シリンダブロック11には、軸孔112が貫設される。軸孔112は、シリンダブロック12に設けられる軸孔122とともに、軸方向110に沿って延びる一つの軸孔を形成する。軸孔112の内周面のうち、後述するロータリバルブ35に対向する部分には、シール周面113が形成される(
図1,
図3)。シール周面113の内径は、軸孔112のうちのシール周面113以外の部分の内径よりも小さい。回転軸21(後述)は、シール周面113を介してシリンダブロック11に支持される。
【0018】
シリンダブロック11の中の軸孔112の周りには、軸孔112から離れた位置に、複数のシリンダボア27が周方向に並ぶように設けられる(
図2)。シリンダブロック11の中の軸孔112の周りには、複数の吸入通路33が設けられる。吸入通路33は、径方向に延在し、軸孔112とシリンダボア27とを連通させる。吸入通路33の入口331は、シール周面113上に開口している(
図2,
図3)。
【0019】
シリンダブロック11のシリンダブロック12側に位置する端面には、環状の突条111(
図1)が形成される。スラスト軸受25は、突条111上に設けられる。スラスト軸受25および後述するスラスト軸受26は、軸方向110において斜板23(基部231)を挟むように設けられる。
【0020】
(シリンダブロック12、スラスト軸受26)
シリンダブロック12には、軸孔122が貫設される。軸孔122は、シリンダブロック11に設けられる軸孔112とともに、軸方向110に沿って延びる一つの軸孔を形成する。軸孔122の内周面のうち、後述するロータリバルブ36に対向する部分には、シール周面123が形成される(
図1,
図5)。シール周面123の内径は、軸孔122のうちのシール周面123以外の部分の内径よりも小さい。回転軸21(後述)は、シール周面123を介してシリンダブロック12に支持される。
【0021】
シリンダブロック12の中の軸孔122の周りには、軸孔122から離れた位置に、複数のシリンダボア28が周方向に並ぶように設けられる(
図4)。シリンダブロック12の中の軸孔122の周りには、複数の吸入通路34が設けられる。吸入通路34は、径方向に延在し、軸孔122とシリンダボア28とを連通させる。吸入通路34の入口341は、シール周面123上に開口している(
図4,
図5)。
【0022】
シリンダブロック12のシリンダブロック11側に位置する端面には、環状の突条121(
図1)が形成される。スラスト軸受26は、突条121上に設けられる。スラスト軸受25,26は、軸方向110において斜板23(基部231)を挟むように設けられる。斜板23に固着される回転軸21は、スラスト軸受25,26によって斜板23が軸方向110に挟まれることで、同方向における位置決めがなされる。
【0023】
(両頭ピストン29)
図1に示すように、シリンダブロック11,12は、軸方向110において互いに接合されることで、これらの内側に斜板室24を形成する。前後(フロントハウジング13側を前側、リヤハウジング14側を後側としている)で対となるシリンダボア27,28は一つのシリンダボアを構成する。両頭ピストン29は、このシリンダボアの中に配置され、シリンダボアの内部の軸方向110における一方側および他方側に、圧縮室271,281をそれぞれ区画する。
【0024】
(フロントハウジング13)
フロントハウジング13には、吐出室131が形成される。フロントハウジング13は、シリンダブロック11に接合され、これらの間にはバルブプレート15、弁形成プレート16、リテーナ形成プレート17が設けられる。バルブプレート15には吐出ポート151が形成され、弁形成プレート16には吐出弁161が形成され、リテーナ形成プレート17にはリテーナ171が形成される。
【0025】
(リヤハウジング14)
リヤハウジング14には、吐出室141、吸入室142が形成される。リヤハウジング14は、シリンダブロック12に接合され、これらの間にはバルブプレート18、弁形成プレート19、リテーナ形成プレート20が設けられる。バルブプレート18には吐出ポート181が形成され、弁形成プレート19には吐出弁191が形成され、リテーナ形成プレート20にはリテーナ201が形成される。
【0026】
(回転軸21、軸シール部材22)
図1に示すように、回転軸21は、軸方向110における一方側に位置する端部213と、同方向における他方側に位置する他端214とを有する。回転軸21は、軸孔112,122内に配置され、シリンダブロック11,12のうちの軸孔112,122を形成している内周面部分(具体的には、シール周面113,123)によって回転可能に支持される。軸シール部材22は、回転軸21のうち、シール周面113によって支持されている部分よりも一方側(端部213の側)に位置する部分の周囲を囲むように設けられる。シール周面113,123および/または回転軸21の外周面には、耐摩耗性のある摺動膜が施されている。
【0027】
回転軸21および斜板23が両頭斜板式圧縮機100として組み立てられていない状態においては(換言すると、両頭斜板式圧縮機100の中から回転軸21および斜板23を取り外した状態においては)、回転軸21は、特定方向に向けて傾斜するように斜板23に固定されている(詳細は
図7を参照して後述する)。回転軸21および斜板23が両頭斜板式圧縮機100として組み立てられた状態においては、回転軸21がシール周面113,123によって傾斜した状態で支持され、回転軸21の中心軸21Gが延びる方向は、軸孔112,122の軸方向110に対して僅かに傾斜している。
【0028】
図1に示すように、回転軸21には、ロータリバルブ35,36が回転軸21と一体的に設けられる(回転軸21そのものが、ロータリバルブ35,36を構成している)。具体的には、回転軸21は、中空部212、連通路31、連通路32を有する。
【0029】
回転軸21の回転に伴い、連通路31の出口311は、吸入通路33の入口331に間欠的に連通する。すなわち、回転軸21の回転に伴いロータリバルブ35が回転することにより、ロータリバルブ35の外周面35Sが吸入通路33を封止することと、連通路31が吸入通路33に連通することとが交互に繰り返される。
【0030】
回転軸21の回転に伴い、連通路32の出口321は、吸入通路34の入口341に間欠的に連通する。すなわち、回転軸21の回転に伴いロータリバルブ36が回転することにより、ロータリバルブ36の外周面36Sが吸入通路34を封止することと、連通路32が吸入通路34に連通することとが交互に繰り返される。
【0031】
(斜板23)
斜板23は、基部231、傾斜部235を含み、斜板室24内に配置される。斜板23は、アルミニウムやアルミニウム合金から構成される。基部231は、回転軸21が挿通されている挿通孔23Hを有する。回転軸21は、挿通孔23Hに挿通(たとえば圧入)され、斜板23に固着される。
【0032】
スラスト軸受25は、シリンダブロック11と基部231との間に設けられる。基部231の軸方向110における一端側には、スラスト軸受25に当接する受け面236が設けられる。斜板23が回転軸21とともに斜板室24内に組み込まれた状態においては、受け面236は、軸孔112,122の軸方向110に対して直交する。
【0033】
スラスト軸受26は、シリンダブロック12と基部231との間に設けられる。基部231の軸方向110における他端側には、スラスト軸受26に当接する受け面237が設けられる。本実施の形態においては、斜板23の基部231の軸方向110における他端側に、環状の突条234が形成されている。突条234の径は、突条121の径よりも大きい。突条234は、スラスト軸受26に当接している。すなわち、突条234の表面によって、受け面237が構成されている。斜板23が回転軸21とともに斜板室24内に組み込まれた状態においては、受け面237は、軸孔112,122の軸方向110に対して直交する。
【0034】
傾斜部235は、板状の形状を有し、基部231から径方向23C(
図1)の外側に向かって斜めに延出している。傾斜部235の中心線23Lは、軸方向110および径方向23Cに対して傾斜している。傾斜部235は、シュー301,302を介して両頭ピストン29に係留される。斜板23は、回転軸21と一体的に回転することで、両頭ピストン29に往復移動を付与することができる。
【0035】
(シリンダボア27の吸入行程)
シリンダボア27が吸入行程の状態を形成しているときには、換言すると、両頭ピストン29が
図1の左側から右側へ移動する吸入行程(復動動作)にあるときには、回転軸21に設けられた連通路31の出口311と、シリンダブロック11に設けられた吸入通路33の入口331とが連通する。回転軸21の中空部212内の冷媒は、連通路31および吸入通路33を経由して、シリンダボア27の圧縮室271に吸入される。
【0036】
(シリンダボア27の圧縮・吐出行程)
シリンダボア27が圧縮または吐出行程の状態を形成しているときには、換言すると、両頭ピストン29が
図1の右側から左側へ移動する圧縮または吐出行程(往動動作)にあるときには、回転軸21に設けられた連通路31の出口311と、シリンダブロック11に設けられた吸入通路33の入口331との連通が遮断される。圧縮室271内の冷媒は、吐出ポート151、吐出弁161を通して吐出室131へ吐出される。吐出室131へ吐出された冷媒は、図示しない外部冷媒回路へ流出する。外部冷媒回路へ流出した冷媒は、吸入室142へ還流する。
【0037】
(シリンダボア28の吸入行程)
シリンダボア28が吸入行程の状態を形成しているときには、換言すると、両頭ピストン29が
図1の右側から左側へ移動する吸入行程(復動動作)にあるときには、回転軸21に設けられた連通路32の出口321と、シリンダブロック12に設けられた吸入通路34の入口341とが連通する。回転軸21の中空部212内の冷媒は、連通路32および吸入通路34を経由してシリンダボア28の圧縮室281に吸入される。
【0038】
(シリンダボア28の圧縮・吐出行程)
シリンダボア28が圧縮または吐出行程の状態を形成しているときには、換言すると、両頭ピストン29が
図1の左側から右側へ移動する圧縮または吐出行程(往動動作)にあるときには、回転軸21に設けられた連通路32の出口321と、シリンダブロック12に設けられた吸入通路34の入口341との連通が遮断される。圧縮室281内の冷媒は、吐出ポート181、吐出弁191を通して吐出室141へ吐出される。吐出室141へ吐出された冷媒は、図示しない外部冷媒回路へ流出する。外部冷媒回路へ流出した冷媒は、吸入室142へ還流する。
【0039】
(圧縮反力について)
図1に示すシリンダボア27(27A)が圧縮または吐出行程の状態にあるとする。この場合、
図4に示す2つのシリンダボア28(28B)も圧縮または吐出行程の状態にある。圧縮または吐出行程の状態にあるシリンダボア27(27A)内の両頭ピストン29(29A)は、シリンダボア27(27A)内の冷媒を圧縮しつつ、吐出室131へ冷媒を吐出する際に圧縮反力を受ける。この圧縮反力は、両頭ピストン29(29A)、シュー301、斜板23を介して回転軸21に伝達される。
【0040】
両頭ピストン29(29A)を介して斜板23に伝達される圧縮反力は、
図1に矢印F1で示す力として斜板23に作用する。シリンダボア28(28B)内の両頭ピストン29(29B)を介して斜板23に伝達される圧縮反力も、同様の力F2(
図1に矢印F2で示す)として斜板23に作用する。
【0041】
斜板23の傾斜部235のうちの軸方向110および径方向23Cにおける中心に位置する部分を中心部CTとすると、力F1,F2は、斜板23と一体化された回転軸21を、中心部CTを中心として回転させようとする。回転軸21は、軸孔112,122の内周面に対して接離可能に支持されており、軸孔112,122の内周面に対する回転軸21の変位は、ロータリバルブ35,36に伝達される。
【0042】
即ち、圧縮または吐出行程の状態にあるシリンダボア27(27A,28B)内の両頭ピストン29(29A,29B)を介して回転軸21に伝達される圧縮反力は、圧縮または吐出行程の状態にあるシリンダボア27(27A)に向けてロータリバルブ35を付勢する(
図6中の矢印AR1参照)。同様に、ロータリバルブ36も圧縮反力によってシリンダボア28(28B)に向けて付勢される(
図6中の矢印AR2参照)。
【0043】
圧縮または吐出行程にあるシリンダボア27(27A)に向けて付勢されるロータリバルブ35の外周面35Sは、圧縮または吐出行程にあるシリンダボア27(27A)に連通する吸入通路33の入口331付近のシール周面113に押接される。圧縮または吐出行程にあるシリンダボア27(27A)における圧縮室271内の冷媒は、吸入通路33から洩れ難くなり、圧縮機における体積効率が向上する。
【0044】
圧縮または吐出行程にあるシリンダボア28(28B)に向けて付勢されるロータリバルブ36の外周面36Sは、圧縮または吐出行程にあるシリンダボア28(28B)に連通する吸入通路34の入口341付近のシール周面123に押接される。圧縮または吐出行程にあるシリンダボア28(28A)における圧縮室281内の冷媒は、吸入通路34から洩れ難くなり、圧縮機における体積効率が向上する。
【0045】
図6は、両頭斜板式圧縮機100の中に配置された回転軸21および斜板23を示す断面図である。
図6に示す回転軸21および斜板23は、両頭斜板式圧縮機100として組み立てられた状態を形成している。
図7は、両頭斜板式圧縮機100に用いられる回転軸21および斜板23の、両頭斜板式圧縮機100の中から取り外した状態を示す断面図である。上述のとおり、回転軸21および斜板23が両頭斜板式圧縮機100として組み立てられていない状態においては(換言すると、両頭斜板式圧縮機100の中から回転軸21および斜板23を取り外した状態においては)、回転軸21は、特定方向に向けて傾斜するように斜板23に固定されている。
図6で明確には図示されていないが、上述のとおり、回転軸21および斜板23が両頭斜板式圧縮機100として組み立てられた状態においては、回転軸21がシール周面113,123によって傾斜した状態で支持され、回転軸21の中心軸21Gが延びる方向は、軸孔112,122の軸方向110に対して特定方向に向けて僅かに傾斜している。
【0046】
図1、
図6および
図7を参照して、ここで、斜板23の傾斜部235の一方側の端部を、斜板頂部238とする。斜板頂部238は、傾斜部235のうち、径方向23Cの外側に位置し、かつ軸方向110の一方側(回転軸21の端部213の側)に位置する圧縮室271(
図1)に吐出状態を形成させる部分であり、ピストン29Aの上死点位置に対応する部分である。さらに、斜板23に固定された回転軸21の一方側の端部213が、斜板頂部238に近づく方向を特定方向ARとする。
【0047】
図7を参照して、斜板23の基部231に設けられた受け面236に対して垂直な方向に延びる仮想直線を、基準軸236Gとする。回転軸21および斜板23が軸孔112,122および斜板室24内に配置されていない状態においては(両頭斜板式圧縮機100の中から回転軸21および斜板23を取り外した状態においては)、回転軸21は、基準軸236Gに対して特定方向ARに傾斜するように斜板23に固定されている。
【0048】
すなわち、従来の圧縮機においては、回転軸21および斜板23が両頭斜板式圧縮機100として組み立てられた状態において、回転軸21の中心軸21Gは、基準軸236Gに対して平行であった。一方で、本実施の形態では、回転軸21および斜板23が両頭斜板式圧縮機100として組み立てられた状態において(
図6,
図7に示す状態において)、回転軸21の中心軸21Gは、基準軸236Gに対して平行ではなく、回転軸21は、基準軸236Gに対して特定方向ARに傾斜している。回転軸21および斜板23が両頭斜板式圧縮機100として組み立てられた状態においては(
図6に示す状態においては)、回転軸21がシール周面113,123によって傾斜した状態で支持され、回転軸21の中心軸21Gが延びる方向は、軸孔112,122の軸方向110に対して僅かに傾斜している。なお、
図7に示す回転軸21の傾斜の程度については、説明の便宜上、誇張して図示されている。実施の形態における両頭斜板式圧縮機100は、以上のように構成される。
【0049】
(作用および効果)
冒頭で述べたように、特開2003−222075号公報(特許文献1)に開示された圧縮機は、吐出行程にあるシリンダボア内で発生する圧縮力(圧縮反力)を活用し、ロータリバルブに対して押し付け力(
図6中に示す矢印AR1,AR2)を付与することによって、ロータリバルブの吸入通路に対するシール性を確保している。
【0050】
圧縮機の負荷が低い場合、吐出行程にあるシリンダボア内で発生する圧縮力も小さくなる。圧縮反力によって得られる押し付け力も小さくなり、ロータリバルブの吸入通路に対するシール性は、高負荷の場合に比べて弱くなりやすい。
【0051】
本実施の形態の回転軸21は、回転軸21および斜板23が両頭斜板式圧縮機100として組み立てられていない状態において、基準軸236Gに対して特定方向ARに傾斜している。特定方向ARとは、斜板23に固定された回転軸21の一方側の端部213が、斜板頂部238に近づく方向である。
【0052】
回転軸21および斜板23が両頭斜板式圧縮機100として組み立てられた状態では、回転軸21は、シール周面113,123によって支持される。この状態においても、回転軸21の中心軸21Gが延びる方向は、軸孔112,122の軸方向110に対して僅かに傾斜している(
図1,
図6)。
【0053】
その結果、回転軸21は、吐出行程の状態にあるシリンダボア27(27A)に向けてロータリバルブ35を付勢させるとともに(
図6中の矢印AR1参照)、圧縮または吐出行程の状態にあるシリンダボア28(28B)に向けてロータリバルブ36を付勢させることが可能となる(
図6中の矢印AR2参照)。圧縮反力の効果を受けにくい低負荷の使用環境においても、吐出行程にあるシリンダボア(圧縮室)内の冷媒がこのシリンダボアに連通する吸入通路からロータリバルブの外周面に沿ってシリンダボア外に漏れることは、効果的に抑制可能となる。
【0054】
(傾斜角度θ)
図8を参照して、回転軸21に設けられた連通路31に関して、軸方向110における連通路31の中心31Gの位置を含み、軸方向110に対して垂直な平面を基準平面31Kとしたとする。斜板23の傾斜部235のうちの軸方向110および径方向23Cにおける中心に位置する部分を中心部CTとし、中心部CTと基準平面31Kとの間の軸方向における距離をLとしたとする。
【0055】
基準平面31K内における、ロータリバルブ35の外周面35Sの回転半径をR1とし、基準平面31K内における、軸孔112の内周面112S(すなわちシール周面113)の半径をR2としたとする。
【0056】
基準平面31K内において、ロータリバルブ35の外周面35Sと軸孔112の内周面112S(すなわちシール周面113)との間の隙間をCLとしたとする。回転軸21および斜板23が両頭斜板式圧縮機100として組み立てられた状態では、この隙間CLの値(すなわち、R2−R1の値)は、たとえば5μm以上50μm以下に設定することができる。
【0057】
回転軸21および斜板23が両頭斜板式圧縮機100として組み立てられていない状態において、この隙間CLに相当する値がゼロとなるように、回転軸21の傾斜角度θを設定することが好ましい。
【0058】
すなわち、ロータリバルブ35の外周面35Sの回転半径R1を規定する部分P1と、中心部CTとを結ぶ直線をT1とし、この直線T1の軸方向110に対する角度をαとする。この場合、α=tan
−1(R1/L)の関係が成り立つ。
【0059】
軸孔112の内周面112S(すなわちシール周面113)の半径R2を規定する部分P2と中心部CTとを結ぶ直線をT2とし、この直線T2の軸方向110に対する角度をβとする。この場合、β=tan
−1(R2/L)の関係が成り立つ。
【0060】
回転軸21および斜板23が軸孔112,122および斜板室24内に配置されていない状態において、回転軸21が基準軸236Gに対して特定方向ARに傾斜している角度をθとする。好ましくは、0<θ≦〔β−α〕の関係、すなわち、
0<θ≦〔tan
−1(R2/L)−tan
−1(R1/L)〕の関係を満足しているとよい。さらに好ましくは、5μm≦(R2−R1)≦50μmの関係を満足しているとよい。
【0061】
図9は、軸孔112,122の軸方向110に対して平行な方向から回転軸21および斜板23を見た際の様子を示す平面図である。
図9に示す回転軸21の傾斜の程度についても、説明の便宜上、誇張して図示されている。上述のとおり、斜板23に固定された回転軸21の一方側の端部213が斜板頂部238に近づく方向を特定方向ARとし、斜板23の基部231に設けられた受け面236に対して垂直な方向に延びる仮想直線を基準軸236G(図示せず)とすると、回転軸21は、基準軸236Gに対して特定方向ARに傾斜するように斜板23に固定されている。
【0062】
軸孔112,122の軸方向110に対して平行な方向から回転軸21および斜板23を見た場合に、軸孔112,122の軸方向110(軸心)の位置と斜板頂部238とを結ぶ直線をY1(
図9)とすると、上述の実施の形態においては、回転軸21の端部213の中心位置213aが直線Y1上に位置するように、回転軸21は基準軸236Gに対して特定方向ARに傾斜している。回転軸21が基準軸236Gに対して特定方向ARに傾斜しているという場合には、次のような場合も含まれる。
【0063】
すなわち、軸孔112,122の軸方向110に対して平行な方向から回転軸21および斜板23を見た場合に、上記の直線Y1に対して直交し且つ軸方向110(軸心)を通る直線をX1とすると、回転軸21は、回転軸21の端部213の中心位置213aが直線X1よりも斜板頂部238に近い側に位置するように、基準軸236Gに対して傾斜していてもよい。このような場合も、回転軸21が基準軸236Gに対して特定方向ARに傾斜しているという場合に含まれる。たとえば、
図9中の二点鎖線で示す回転軸21の端部213の中心位置213bが、このような場合に該当する。
【0064】
換言すると、軸孔112,122の軸方向110に対して平行な方向から回転軸21および斜板23を見た場合に、斜板23を直線X1によって2つの領域に分けたとすると(
図9紙面内では、直線X1を挟んで分けられる斜板23内の上下の領域)、回転軸21の端部213の中心位置213aや中心位置213bが直線X1よりも斜板頂部238に近い側の領域内に位置するように、回転軸21は基準軸236Gに対して傾斜していてもよい。
図9中の二点鎖線で示すように、回転軸21の端部213の中心位置213bが上記の直線Y1上に位置していない場合であっても、回転軸21の端部213が基準軸236G(図示せず)に対して斜板頂部238に近づく方向(すなわち、特定方向AR)に傾斜していることによって、上記と同様の作用および効果を得ることができる。
【0065】
[固定方法]
図10を参照して、回転軸21を斜板23に固定するための一般的な手法としては、加工台300が準備され、その表面300S上に斜板23が載置される。加工台300の表面300Sは、斜板23の挿通孔23Hの中心軸23Jに対して垂直であり、回転軸21は、挿通孔23Hの中心軸23Jに対して平行な方向に沿って(表面300Sに対して垂直な方向に沿って)、挿通孔23Hの中に圧入される(AR23)。当該手法では、基準軸236G(
図7)に対して回転軸21を特定方向ARに傾斜させることは難しい。
【0066】
(固定方法1)
図11を参照して、基準軸236G(
図7)に対して回転軸21を特定方向ARに傾斜させるためには、たとえば、加工台300の表面300Sを、傾斜面とすることが考えられる。この場合、斜板23が加工台300の表面300S上に載置された状態で、基準軸236Gや、斜板23の挿通孔23Hの中心軸23Jは、
図10に示す場合とは異なるものとなる。回転軸21は、基準軸236Gや、斜板23に設けられた挿通孔23Hの中心軸23Jが延びる方向とは異なる方向に沿って、挿通孔23Hの中に圧入される。当該手法により、基準軸236G(
図7)に対して回転軸21を特定方向ARに傾斜させることが可能となる。
【0067】
(固定方法2)
図12を参照して、基準軸236G(
図7)に対して回転軸21を特定方向ARに傾斜させるためには、予め、挿通孔23Hを基準軸236Gに対して斜めになるように設けておいてもよい。この場合、回転軸21は、挿通孔23Hの中心軸23Jに対して平行な方向(基準軸236Gが延びる方向とは異なる方向)に沿って、挿通孔23Hの中に圧入される。当該手法によっても、基準軸236G(
図7)に対して回転軸21を特定方向ARに傾斜させることが可能となる。
【0068】
(固定方法3)
図13を参照して、基準軸236G(
図7)に対して回転軸21を特定方向ARに傾斜させるためには、基準軸236Gを斜めにするべく、斜板23の基部231を構成する部材の軸方向における一対の端面400,401を削ることで、一対の受け面236,237を形成してもよい。
【0069】
(固定方法4)
図14を参照して、基準軸236G(
図7)に対して回転軸21を特定方向ARに傾斜させるためには、予め、斜板23に脆弱部236Jを形成しておいてもよい。脆弱部236Jは、基部231のうちの挿通孔23Hの位置からみて斜板頂部238に近い側に位置し、脆弱部237Jは、基部231のうちの挿通孔23Hの位置からみてもう一方の斜板頂部239に近い側に位置する。回転軸21を挿通孔23Hに圧入させた際に、脆弱部236J,237Jの存在によって、基準軸236G(
図7)に対して回転軸21を特定方向ARに傾斜させることが可能となる。
【0070】
以上、実施の形態について説明したが、上記の開示内容はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。