(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1や特許文献2に記載されたような、管状構造体の充填材では、充填材の重量が増加しやすく、装置全体が重量化又は大型化してしまうという問題があった。また、充填材に対するガス(気体)の流路が狭くなりやすいことから、ガス流路面積を確保するために装置全体が大型化してしまうという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載されたような板状体の充填材では、金網や立体編物等の網状体の剛性が低いことから単体で自立させたり、板状体の間隔を均一に形成したりすることが難しく、板状体等の支持部材が必要となり充填材の重量が増加してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、液膜破断し難く、軽量化を図ることができる、充填材の製造方法及び充填材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、気液接触面を構成する液膜を形成する主板と、前記液膜の流れ方向に沿って配置されたリブとを備えた充填材の製造方法において、前記リブの表面における前記液膜の接触角と前記主板の流れ方向長さに対する前記液膜が破断するまでの液膜長さの比率を示す液膜長さ比との関係を算出し、前記接触角と前記液膜長さ比との相関関係に基づいて、前記接触角に対する前記液膜長さが、強度要求を満たす前記リブの流れ方向長さの最小値よりも大きい条件を決定
し、前記条件に基づき、前記接触角が前記液膜長さ比の所定の基準値を満たすように材質又は表面形状が調整された前記リブを前記主板に配置する、ことを特徴とする充填材の製造方法が提供される。
【0010】
本発明によれば、気液接触面を構成する液膜を形成する主板と、前記液膜の流れ方向に沿って配置されたリブとを備えた充填材の製造方法において、
前記リブの表面における前記液膜の接触角と前記主板の流れ方向長さに対する前記液膜が破断するまでの液膜長さの比率を示す液膜長さ比との関係を算出し、
前記接触角と前記液膜長さ比との相関関係に基づいて、前記接触角に対する前記液膜長さが、強度要求を満たす前記リブの流れ方向長さの最小値よりも大きい条件を決定し、
前記強度要求を満たす流れ方向長さの前記最小値から前記接触角に対する液膜長さまでの範囲内で前記リブの流れ方向長さを決定し、前記決定された前
記流れ方向長さ
に調整され
た前記リブを前記主板に配置する、ことを特徴とする充填材の製造方法が提供される。
【0011】
また、前記充填材の製造方法は、気液接触させる気体及び液体の種類及び前記主板の条件を決定する主条件決定工程と、前記接触角と前記液膜長さ比との関係を算出する数値解析工程と、前記リブの配置を決定するリブ配置決定工程と、前記リブの材質及び表面形状を決定するリブ条件決定工程と、前記接触角及び強度要求を満たす前記リブの流れ方向長さの最小値を決定するリブ特性決定工程と、前記接触角に対する液膜長さが前記強度要求を満たす流れ方向長さの最小値より大きいか否かを確認する最小値条件確認工程と
、を有していてもよい。
【0012】
また、本発明によれば、気液接触面を構成する液膜を形成する主板を備えた充填材において、前記液膜の流れ方向に沿って配置される複数のリブを有し、前記リブは、前記リブの表面における前記液膜の接触角
に対する前記液膜が破断するまでの液膜長さ
が、強度要求を満たす前記リブの流れ方向長さの最小値よりも大きい条件を満たすように設計されている、ことを特徴とする充填材が提供される。
【0013】
前記リブは、前記液膜長さ比が所定の基準値を満たすように前記接触角が調整され
た材質若しくは表面形状を有していてもよいし、前記液膜が破断しないように
調整された前記リブの流れ方向長さ
を有していてもよい。また、前記リブは、千鳥状に配置された金具であってもよい。
【0014】
前記リブは、前記充填材を複数並列に配置した際に、隣接する充填材の裏面に接触するように構成されていてもよい。さらに、前記リブは、前記主板に対する垂直方向に一列に整列するように配置されていてもよい。また、前記主板は、エキスパンドメタルにより構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明者らは、充填材について鋭意研究した結果、充填材の主板にリブを配置した場合、リブの濡れ性が液膜破断に影響することを解明した。例えば、リブの濡れ性が良すぎると主板表面に形成されたリブ近傍の液膜がリブの表面に持って行かれ、リブと主板との境界部近傍において液膜の薄い部分が形成され、液膜が破断する要因となってしまう。また、リブの濡れ性が悪いと主板表面に形成されたリブ近傍の液膜がリブの表面に載らず、リブと主板との境界部において液膜の薄い部分が形成され、液膜が破断する要因となってしまう。本発明者らは、かかる知見に基づいて上述した発明を創案した。
【0016】
上述した本発明の充填材の製造方法及び充填材によれば、リブの接触角と液膜長さ比との相関関係に基づいてリブの設計条件を決定するようにしたことから、リブの接触角を液膜破断し難い数値に調整したり、液膜破断が生じ難い長さに調整したりすることができる。また、主板の表面にリブを配置することにより、リブにより主板を補強することができ、充填材の軽量化を図ることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について
図1〜
図7を用いて説明する。ここで、
図1は、本実施形態に係る充填材を使用したガス分離装置を示す図であり、
図1(a)は全体構成図、
図1(b)は充填材の断面図、を示している。
図2は、本実施形態に係る充填材の製造方法を示すフロー図である。
【0019】
本実施形態に係る充填材1を使用したガス分離装置2は、
図1(a)に示したように、反応容器3内に配置された板状の充填材1の表面に反応液Rを流下させ、且つ、反応容器3内に分離対象ガスを含む処理ガスを供給する。反応液Rが充填材1の表面を流下している間、この表面には反応液Rの液膜が形成される。反応容器3内の処理ガスはこの液膜に接触し(いわゆる気液接触が生じ)、これにより分離対象ガスが化学反応して、処理ガスから分離し、分離した処理ガスは回収される。充填材1は、例えば、
図2に記載されたフロー図に基づいて製造されている。
【0020】
反応容器3は、略筒状の形状を有し、ガス分離装置2の外殻を形成する。反応容器3の上部には、反応液Rをガス分離装置2内に供給する反応液供給ライン31が配置されている。反応液Rは、化学プラントや火力発電所等の設備内で精製して後に、反応液供給ライン31に供給するようにしてもよい。或いは、反応液Rは、精製された反応液Rを貯留する貯液槽から反応液供給ライン31に供給するようにしてもよい。
【0021】
また、反応液供給ライン31は、充填材1の上部に配置された散布管4に接続されている。散布管4は、充填材1の上部に並列して又は格子状に配置されている。各散布管4の下部には、反応液Rを放出する開口部が形成されている。なお、散布管4は図示した構造に限定されるものではなく、散布ノズル等、従来から一般に使用されている散布手段を適宜使用することができる。
【0022】
また、反応容器3の下部には、処理ガスをガス分離装置2内に供給する処理ガス供給管32が配置されている。処理ガスは、例えば、化学プラントや火力発電所等の設備内で発生した廃ガス(排ガス)や反応ガスであり、前工程の設備から処理ガス供給管32に供給される。なお、ここでは、反応液Rを反応容器3の上方から下方に流下させ、処理ガスを反応容器3の下方から上方に送流するように構成しているが、かかる構成に限定されるものではなく、例えば、処理ガスも反応容器3の上方から下方に送流するようにしてもよい。
【0023】
また、反応容器3の底部には、充填材1を通過して処理ガスと化学反応した使用済みの反応液(廃液)Rを回収するための廃液排出ライン33が接続されている。使用済みの反応液R(廃液)は、反応容器3の底部に一時的に貯留され、適宜、廃液排出ライン33から外部に排出され回収される。
【0024】
また、反応容器3の天井部には、充填材1を通過して反応液Rと化学反応し、分離対象ガスが除かれた処理ガス(廃処理ガス)を排出する廃処理ガス排出ライン34が接続されている。処理済みの処理ガス(廃処理ガス)は、煙突から大気中に放出されたり、次工程の処理設備に搬送されたりする。
【0025】
なお、反応容器3には、従来のガス分離装置2と同様に、必要に応じて、廃処理ガスを冷却する冷却装置やドレンを排出するドレン回収装置等を配置するようにしてもよい。
【0026】
充填材1は、例えば、
図1(b)に示したように、気液接触面を構成する反応液Rの液膜を形成する主板11と、反応液Rの液膜の流れ方向に沿って配置されるリブ12と、を有している。主板11は、例えば、エキスパンドメタルによって構成される。しかしながら、主板11は金属薄板によって構成されてもよい。主板11の材質や形状(長さ×幅)は、反応容器3の大きさ、処理ガス及び反応液Rの種類や濃度等によって、予め決定(選定)される。
【0027】
エキスパンドメタルは、ステンレス製板、アルミニウム製板、鋼板等の金属板に千鳥状の切れ目(スリット)を入れ、当該切れ目の延伸方向と略直交する方向に金属板を引き伸ばして網目状に加工した板材である。主板11としてエキスパンドメタルを採用することにより、エキスパンドメタルの網目構造によって、一定の強度を保ったまま重量を軽くすることができ、エキスパンドメタル単体で自立させることも可能である。また、エキスパンドメタルを使用することにより、主板11の表面に複数の開口部や凹凸を容易に形成することができ、液膜の保持性能を向上させることができ、反応効率を向上させることができる。
【0028】
ところで、
図1(b)に示したように、主板11及びリブ12を有する充填材1では、リブ12の濡れ性によって、主板11に形成された液膜の一部がリブ12の表面に持って行かれ、リブ12の近傍に液膜の薄い部分(以下、薄肉部Rt)が形成される。本発明者らは、この薄肉部Rtが液膜破断に影響を与えることを解明し、本発明を創案した。
【0029】
本実施形態に係る充填材の製造方法は、
図2に示したように、気液接触面を構成する液膜を形成する主板11を備えた充填材1の製造方法である。この製造方法は、液膜の流れ方向に沿ってリブ12を配置する際に、リブ12の表面における液膜の接触角θsと主板11の流れ方向長さLtに対する液膜が破断するまでの液膜長さLwの比率を示す液膜長さ比Lw/Ltとの関係を算出し、接触角θsと液膜長さ比Lw/Ltとの相関関係に基づいてリブ12の設計条件を決定する。
【0030】
具体的には、本実施形態に係る充填材1の製造方法は、気液接触させる気体(処理ガス)及び液体(反応液R)の種類及び主板11の条件を決定する主条件決定工程Step1と、リブ12の接触角θsと液膜長さ比Lw/Ltとの関係を算出する数値解析工程Step2と、リブ12の配置を決定するリブ配置決定工程Step3と、リブ12の材質及び表面形状を決定するリブ条件決定工程Step4と、リブ12の接触角θs及び強度要求を満たすリブ12の流れ方向長さの最小値Lrminを決定するリブ特性決定工程Step5と、リブ12の接触角θsに対する液膜長さLw(θs)が強度要求を満たすリブ12の流れ方向長さの最小値Lrminより大きいか否かを確認する最小値条件確認工程Step6と、リブ12の流れ方向長さの最小値Lrminからリブ12の接触角θsに対する液膜長さLw(θs)までの範囲内でリブ12の流れ方向長さLrを決定するリブ長さ決定工程Step7と、を有している。
【0031】
主条件決定工程Step1は、数値解析に必要な条件(以下、「主条件」と称する。)を決定する工程である。対象となる処理ガス(気体)とそれを処理する反応液R(液体)及び使用する主板11の条件を決定することにより、例えば、気体の密度ρg[kg/m
3]及び粘度μg[Pa・s]、液体の密度ρl[kg/m
3]、粘度μl[Pa・s]、表面張力[N/m]、主板11に対する接触角θm[°(deg)]、流量Ql[m
3/s]、主板11の幅W[m]、流れ方向長さLt[m]、水平面に対する主板11の傾斜角α[°(deg)]等の主条件に関する数値を決定することができる。
【0032】
数値解析工程Step2は、数値流体力学 (Computational Fluid Dynamics)に基づいて液膜の流れを解析する工程である(いわゆる、CFD解析)。この解析では、一流体モデルにおける質量保存式(連続の式)及び運動量保存式(Navier-Stokes方程式)を解くことで、三次元非定常流れの数値的な解析結果を得る。なお、この解析には、例えば、汎用熱流体解析ソフトウェアであるFLUENT(登録商標、ANSYS社)を用いてもよい。また、気液界面の挙動は、界面追跡法の一つであるVOF(Volume of Fluid)モデルを用いて予測している。また、乱流モデルは使用せず、液体の流入境界は液膜厚さ一定で規定し、一様流速で流入する条件を与え、主板11及びリブ12はNo-slip条件とし、その他の境界面は静圧規定の流出境界としている。かかるCFD解析は、既知の解析手法であることから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0033】
この数値解析工程Step2では、リブ12の接触角θsと液膜長さ比Lw/Ltとの相関関係を示すθs−Lw図(相関関係図)を作成し、液膜長さLwが最大となるときの接触角θsmaxを算出する。
【0034】
ここで、
図3は、リブの接触角と液膜長さ比との相関関係を示す図であり、(a)は相関関係図、(b)は解析モデル、を示している。
図3(b)に示したように、数値解析工程Step2において使用される充填材1の解析モデルは、幅W、流れ方向長さLt、傾斜角αを有する主板11に対して、両側部に流れ方向長さLrのリブ12を配置し、上述した条件で主板11の上端部から液体を流入させたものである。また、図示したように、液膜破断を生じた位置までの距離(液膜が破断するまでの液膜長さ)をLwとしている。
【0035】
図3(a)は、CFD解析によって得られたリブ12の接触角θsと液膜長さ比Lw/Ltとの相関関係図である。この解析では、気体として空気、液体として水、主板11としてステンレス鋼を想定している。また、傾斜角αを60°、雰囲気温度を20℃とした。このCFD解析結果は、接触角θsが90〜100°の範囲で液膜長さ比Lw/Ltが1.0となっていることを示している。つまり、液膜長さLwが最大となるときの接触角θsmaxの範囲は90〜100°と算出される。
【0036】
また、液膜長さ比Lw/Ltは、接触角θsが0°から90°に接近するに連れて二次関数的に大きくなる。また、接触角θsが100°を超えると急激に低下する。ここで、
図4は、リブの接触角と液膜長さ比との関係示す概念図である。
図4は、接触角θs=20°,50°,70°,90°,120°の場合における充填材1の様子を図示しており、同図の上段は接触角θsのイメージ図、同図の下段は液膜流れの平面図である。
【0037】
接触角θs=20°,50°,70°の場合には、リブ12の濡れ性が良いことから、リブ12の近傍の液膜がリブ12の表面に持って行かれやすく、
図1(b)に示したように、液膜に薄肉部Rtが形成されやすい。したがって、接触角θsが小さいほど(濡れ性が良いほど)、液膜長さLwは短くなる。
【0038】
接触角θs=90°の場合には、主板11に形成された液膜の表面がリブ12に対して垂直に接触することから、リブ12の表面に持って行かれる液膜の量が少なく、液膜に薄肉部Rtが形成され難い。したがって、液膜破断し難く、図示したように、主板11の表面を全面濡れの状態(液膜長さ比Lw/Lt=1.0)にすることができる。
【0039】
接触角θs=120°の場合には、リブ12の濡れ性が悪いことから、リブ12の表面に液膜が載らず、リブ12の表面で液膜の薄肉部が形成されやすい。したがって、液膜は容易にリブ12から離脱し、図示したように、液膜破断することとなる。
【0040】
このように、リブ12の接触角θsと液膜破断(すなわち、液膜長さLw)とは相関関係を有し、
図3(a)に示したθs−Lw図を作成することにより、リブ12の設計条件や特性を決定することができる。
【0041】
リブ配置決定工程Step3は、充填材1の設計条件に見合うリブ12の流れ方向長さLrを決定する工程である。本実施形態では、リブ12の間隔を固定した上で、強度要求と濡れ性とのバランスに基づいてリブ12の流れ方向長さLrを決定する場合を図示している。なお、リブ12の配置(間隔)を変更する場合は、実質的にスタートからやり直すこととなる。
【0042】
リブ条件決定工程Step4は、少なくともリブ12の材質や表面形状(例えば、表面粗さ)等の設計条件(以下、「リブ条件」と称する。)を決定する工程である。
図3(a)に示したθs−Lw図は、どの気体や液体を選択した場合、どの主板11を使用した場合であっても、概ね同様の相関関係を有するものと推察される。したがって、例えば、リブ12に対する液体の接触角θsが90°となるようにリブ12の材質や表面形状を調整すれば、液膜長さLwを長くすることができ、液膜破断を抑制することができる。
【0043】
なお、リブ12の製作時に表面形状を変更する手段としては、リブ12の材質を変更する、表面粗さを変更する(やすりがけ、サンドブラスト処理等)、表面にコーティングを施す、表面に微細凹凸を形成する、表面に紫外線オゾン処理やプラズマ処理を施す等の手段が考えられる。
【0044】
また、接触角θsは、主板11の表面に流れる液体の物性(密度、表面張力、粘度等)によっても変化することから、液体の吸収性能に影響しない範囲内で液体の物性を変更することにより、接触角θsを調整することもできる。したがって、リブ12の材質や表面形状の調整に替えて又は加えて、液体の物性を調整することによっても、接触角θsを所定の数値(例えば、90°)となるように調整することができる。
【0045】
このリブ条件決定工程Step4では、数値解析工程Step2で作成したθs−Lw図を参酌しながら、リブ12の材質及び表面形状を決定する。このとき、リブ12の接触角θsが、液膜長さLwが最大となるときの接触角θsmaxに近くなるように決定することが好ましい。また、例えば、接触角θsの数値を参照しながら、リブ12の液膜長さ比Lw/Ltが所定の基準値(例えば、0.8以上、0.9以上、1.0等)を満たす範囲内でリブ条件を決定するようにしてもよい。また、例えば、液膜長さ比Lw/Ltの数値を参照しながら、リブ12の接触角θsが所定の基準値(例えば、80〜110°、90〜100°、90°等)を満たす範囲内でリブ条件を決定するようにしてもよい。
【0046】
リブ特性決定工程Step5は、決定したリブ12の設計条件に基づいてリブ12の接触角θsや強度要求を満たすリブ12の流れ方向長さの最小値Lrmin等の特性(以下、「リブ特性」と称する。)を決定する工程である。リブ12の接触角θsは、リブ条件決定工程Step4において、θs−Lw図を参酌することにより決定される。強度要求を満たす流れ方向長さの最小値Lrminは、リブ12のFEM (有限要素法)解析により算出してもよいし、圧縮試験等の試験により算出してもよい。
【0047】
最小値条件確認工程Step6は、リブ特性決定工程Step5で決定されたリブ特性と数値解析工程Step2により作成されたθs−Lw図(相関関係図)とに基づいて、リブ12の接触角θsに対する液膜長さLw(θs)を算出し、この液膜長さLw(θs)がリブ特性決定工程Step5で算出した流れ方向長さの最小値Lrminより大きいか否かを確認する工程である。
【0048】
例えば、Lw(θs)≦Lrminの場合に、リブ12の流れ方向長さLrをLr≦Lw(θs)の範囲で設定すると、液膜破断を抑制することができても強度要求を満足することができない。また、Lw(θs)≦Lrminの場合に、リブ12の流れ方向長さLrをLw(θs)<Lr≦Lrminの範囲で設定すると、強度要求を満足することができないだけでなく、液膜破断を抑制することもできない。
【0049】
そこで、本実施形態では、リブ特性が少なくともLrmin<Lw(θs)の条件を満足するか否かを確認している。この条件を満足しない場合(N)には、リブ条件決定工程Step4に戻り、リブ条件の見直しを行う。一方、この条件を満足する場合(Y)には、リブ12の流れ方向長さLrを決定するリブ長さ決定工程Step7に移行する。
【0050】
リブ長さ決定工程Step7は、最終的にリブ12の流れ方向長さLrを決定する工程である。このとき、リブ12の流れ方向長さLrは、Lrmin<Lr<Lw(θs)の条件を満足するように決定される。リブ12の流れ方向長さLrは、充填材1の強度部材としても機能することから、強度要求を満足している必要がある。したがって、リブ12の流れ方向長さLrは、強度要求を満たすリブ12の流れ方向長さの最小値Lrminよりも大きいことが要求される。また、リブ12の流れ方向長さLrは、液膜破断を抑制する長さを有する必要がある。また、Lr=Lw(θs)に設定すると、液膜破断が不安定になる可能性がある。したがって、リブ12の流れ方向長さLrは、接触角θsにおける液膜長さLw(θs)より小さい数値であることが好ましい。
【0051】
例えば、リブ特性決定工程Step5において決定された、強度要求を満たすリブ12の流れ方向長さの最小値Lrminが、主板11の流れ方向長さLtに対する比率で表現した場合に、Lrmin/Ltが0.1であるとする。また、リブ特性決定工程Step5において決定された、リブ12の接触角θsが70°とした場合、
図3(a)に示した相関関係図より、リブ12の液膜長さ比Lw/Ltは0.3と算出される。したがって、リブ12の流れ方向長さLrは、主板11の流れ方向長さLtに対する比率で表現した場合に、0.1<Lr/Lt<0.3の範囲内で決定される。
【0052】
ところで、
図2に示したフロー図において、リブ12の材質、表面形状等の設計条件(リブ条件)が予め決定している場合には、リブの配置(間隔)を調整することで、θs−Lw図、すなわち、接触角θsにおける液膜長さLw(θs)を変えたり、液体の物性を変更することで接触角θsを調整したりすることができる。したがって、最小値条件確認工程Step6の条件を満足しない場合には、フロー図のスタートに戻って、主条件決定工程Step1及びリブ配置決定工程Step3からやり直すようにしてもよい。
【0053】
次に、上述した充填材の製造方法により製造された充填材1について説明する。ここで、
図5は、本実施形態に係る充填材を示す斜視図であり、(a)は第一例、(b)は第二例、(c)は第三例、(d)は第四例、を示している。
【0054】
図5(a)〜
図5(d)に示した各例は、上述した製造方法により製造された充填材1を示している。すなわち、充填材1は、気液接触面を構成する液膜を形成する主板11と、液膜の流れ方向に沿って配置される複数のリブ12とを有し、リブ12は、リブ12の表面における液膜の接触角θsと主板11の流れ方向長さLtに対する液膜が破断するまでの液膜長さLwの比率を示す液膜長さ比Lw/Ltとの関係を算出してから接触角θsと液膜長さ比Lw/Ltとの相関関係に基づいて設計されている。例えば、リブ12は、リブ12に対する反応液Rの接触角θsによって規定される、主板11上の反応液Rの液膜が破断しない状態が得られる最大値以下で、且つ、リブ12の機械的強度が確保される最小値以上に設定される流れ方向長さLrを有する。
【0055】
図5(a)に示した第一例に係る充填材1では、主板11の両側部に一対のリブ12が配置されている。ここで、主板11は、例えば、エキスパンドメタルにより構成されるが、金属薄板であってもよい。リブ12は、主板11に対して垂直に立てられ、液膜の流れ方向(即ち、主板11の上部から下部に向かう方向)に延伸している。リブ12は、例えば、金属板により構成されるが、エキスパンドメタルであってもよい。また、ここでは、リブ12が液膜長さ比Lw/Lt=1.0の場合を図示しているが、かかる構成に限定されるものではない。実際には、リブ12は、上述したフローによって決定されたリブ12の流れ方向長さLrとなるように形成される。なお、リブ12が液膜長さ比Lw/Ltが十分に小さい数値である場合には、リブ12を液膜の流れ方向に沿って複数配置するようにしてもよい。
【0056】
図5(b)に示した第二例に係る充填材1では、リブ12の本数が、第一例におけるリブ12の本数よりも増えている。ここでは、リブ12が四本の場合を図示しているが、三本であってもよいし、五本以上であってもよい。また、リブ12は、必ずしも両側部に配置されていなくてもよい。また、気液接触効率を均一にするためには、リブ12は全て同じ条件により設計され、均等な間隔で配置されていることが好ましい。
【0057】
図5(c)に示した第三例に係る充填材1では、リブ12が主板11の一部を、例えば折り曲げ加工で、変形させることで形成されている。ここでは、リブ12が液膜長さ比Lw/Lt=1.0の場合を図示しているが、かかる構成に限定されるものではない。実際には、リブ12は、上述したフローによって決定されたリブ12の流れ方向長さLrとなるように形成される。また、リブ12を液膜の流れ方向に沿って複数配置する場合には、主板11の一部分のみを切り起こしてリブ12を形成するようにしてもよい。
【0058】
図5(d)に示した第四例に係る充填材1では、主板11の表面に複数の短いリブ12が配置されている。リブ12は、例えば、千鳥状に配置された金具(金属製の部品)により形成され、スポット溶接により主板11に接続される。各リブ12の流れ方向長さLrは、上述したフローによって決定される。なお、リブ12の配置は、千鳥状に限定されるものではなく、例えば、格子状であってもよい。
【0059】
ここで、
図6は、リブ12の断面図であり、(a)は
図5(d)に示した第四例、(b)はリブ12の第一変形例、(c)はリブ12の第二変形例、(d)はリブ12の第三変形例、(e)はリブ12の第四変形例、(f)はリブ12の第五変形例、を示している。
図6(a)に示したように、
図5(d)に示した第四例におけるリブ12は、主板11に接続されるフランジ部12aと、フランジ部12a間で四角形状(例えば、矩形、台形等)に突出した凸部12bと、を有している。
【0060】
図6(b)に示したリブ12は角型の略C字形状断面を有しており、図の下側の面が主板11に接続される。
図6(c)に示したリブ12はL字形状断面を有している。
図6(d)に示したリブ12は内角が90°のZ字形状断面を有している。Z字の内角は90°未満であってもよい。
図6(e)に示したリブ12は四角形状断面を有している。リブ12は、三角形状断面を有していてもよい。
【0061】
図6(f)に示したリブ12は、充填材1の第四例におけるリブ12と同様に、フランジ部12a及び凸部12bを有し、凸部12bが滑らかに曲線状に突出するように形成されたものである。また、フランジ部12aの外側部を上側に湾曲させて、リブ12が波形断面を有するようにしてもよい。
【0062】
次に、反応容器3内に充填材1を配置した状態について説明する。ここで、
図7は、本実施形態に係る充填材を複数並列に配置した状態を示す図であり、(a)は配置の第一例、(b)は配置の第二例、を示している。
【0063】
反応容器3は、例えば、円筒形状を有しており、この内部に複数の充填材1が並列に配置されている。充填材1には、例えば、
図5(d)に示した第四例に係る充填材1が使用される。
図7(a)は、主板11にリブ12が接続された面を図の上向きにした状態で並列に配置された複数の充填材1を示している。したがって、全ての充填材1は、リブ12が図の矢印方向に突出した状態となるように配置されている。なお、図の最上部に配置される充填材1′は、表面側に隣接する充填材1が存在しないことから、主板11のみによって構成するようにしてもよい。
【0064】
また、リブ12の先端は、隣接する充填材1の裏面に密着するように配置される。かかる構成により、リブ12は、充填材1の強度部材として機能するとともに、充填材1の間隔を一定に保持するスペーサとしても機能する。
【0065】
また、リブ12は、主板11に対する垂直方向に一列に整列するように配置されていることが好ましい。かかる構成により、充填材1の集合体の強度を向上させることができ、主板11の歪みを効果的に抑制することができる。なお、ここでは、全てのリブ12が一列に整列する場合について図示したが、かかる配置に限定されるものではなく、部分的にリブ12を一列に整列するように配置してもよい。また、リブ12を整列させる際の中心線は直線状に限定されず、曲線状であってもよい。
【0066】
図7(b)は、図の上側と下側とで向きを異ならせた充填材1を示している。具体的には、主板11にリブ12が接続された面を図の上向きにした状態で、複数の充填材1を下から中央部まで並列に配置するとともに、主板11にリブ12が接続された面を図の下向きにした状態で、複数の充填材1を上から中央部まで並列に配置している。なお、図の中央部に配置される充填材1′には、両面にリブ12が密着していることから、主板11のみによって構成されるものを使用することが好ましい。
【0067】
上述した充填材1を用いたガス分離装置2(
図1(a)参照)は、例えば、火力発電所内の前処理塔や吸収塔に適用することができる。例えば、吸収塔に本実施形態に係るガス分離装置2を適用した場合、処理ガスは前処理塔から供給される排ガスであり、分離対象ガスは二酸化炭素であり、反応液Rはアミン化合物水溶液である。具体的には、反応液Rは、例えば、モノエタノールアミン(MEA)水溶液であり、二酸化炭素と反応して、カルバミン酸塩・アミン塩(カーバメート)、炭酸塩、重炭酸塩等を発生させる。
【0068】
なお、本実施形態に係る充填材1は、蒸留、精製、吸収等の化学プロセスを含む種々の化学プラントにおいて使用される装置(蒸留塔、精製塔、吸収塔等)に適用することができる。また、分離対象ガスは、二酸化炭素に限定されるものではなく、NOx、SOx等の酸化ガスであってもよいし、反応液Rは、アミン化合物水溶液に限定されるものではなく、分離対象ガスに適した反応液Rを任意に選択することができる。
【0069】
本発明は上述した実施形態に限定されない。例えば、
図7(a)及び
図7(b)に示した充填材1の各配置は、上述の各例に係る充填材1にも適用することができる等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。