特許第6390711号(P6390711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390711
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】燃料タンク用めっき鋼板及び燃料タンク
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/12 20060101AFI20180910BHJP
   B60K 15/03 20060101ALI20180910BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20180910BHJP
   C23C 22/08 20060101ALI20180910BHJP
   C23C 22/34 20060101ALI20180910BHJP
   C23C 22/56 20060101ALI20180910BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20180910BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20180910BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20180910BHJP
   C23C 2/20 20060101ALN20180910BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20180910BHJP
【FI】
   C23C2/12
   B60K15/03 B
   C21D9/46 J
   C23C22/08
   C23C22/34
   C23C22/56
   C23C28/00 C
   C22C38/00 301B
   C22C38/00 301T
   C22C38/14
   !C23C2/20
   !C22C21/02
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-553779(P2016-553779)
(86)(22)【出願日】2014年10月14日
(86)【国際出願番号】JP2014077366
(87)【国際公開番号】WO2016059678
(87)【国際公開日】20160421
【審査請求日】2017年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】真木 純
(72)【発明者】
【氏名】山口 伸一
(72)【発明者】
【氏名】西村 邦夫
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−029270(JP,A)
【文献】 特開昭62−081261(JP,A)
【文献】 特開平11−138095(JP,A)
【文献】 特開平10−176287(JP,A)
【文献】 特開2014−210954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00−2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板の第1の主面上の第1のめっき層と、
前記鋼板の第2の主面上の第2のめっき層と、
を有し、
前記鋼板は、
質量%で、
C :0.0005%〜0.0800%、
Si:0.003%〜0.500%、
Mn:0.05%〜0.80%、
P :0.005%〜0.050%、
S :0.100%以下、
Al:0.080%以下、
N :0.0050%以下、
Ti:0.000%〜0.100%、
Nb:0.000%〜0.050%、
B :0.000%〜0.0100%、
残部:Fe及び不純物
で表される化学組成を有し、
前記第1のめっき層は、
前記第1の主面上の第1のAl−Fe−Si合金層と、
前記第1のAl−Fe−Si合金層上の第1のAl−Si合金層と、
を有し、
前記第2のめっき層は、前記第2の主面上の第2のAl−Fe−Si合金層を有し、
前記第1のめっき層のめっき付着量は31g/m2〜60g/m2であり、
前記第2のめっき層のめっき付着量は5g/m2〜29g/m2であることを特徴とする燃料タンク用めっき鋼板。
【請求項2】
前記第2のめっき層は、前記第2のAl−Fe−Si合金層上の第2のAl−Si合金層を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料タンク用めっき鋼板。
【請求項3】
前記化学組成において、
Ti:0.001〜0.100%、
Nb:0.001〜0.050%、若しくは
B :0.0003%〜0.0100%、
又はこれらの任意の組み合わせが成り立つことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料タンク用めっき鋼板。
【請求項4】
前記第1のめっき層のめっき付着量をX(g/m2)、前記第2のめっき層のめっき付着量をY(g/m2)、前記鋼板の厚さをT(mm)としたとき、「(X−Y)−(26.7−13.3T)>0」の関係が成り立つことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の燃料タンク用めっき鋼板。
【請求項5】
前記第2のめっき層上の、Cr、Zr、Ti、Si若しくはV又はこれらの任意の組み合わせの化合物を含有する化成処理皮膜を有し、
前記化成処理皮膜の付着量は、50mg/m2〜1000mg/m2であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の燃料タンク用めっき鋼板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料タンク用めっき鋼板からなるタンク本体を有し、
前記第1のめっき層が前記タンク本体の内側に、前記第2のめっき層が前記タンク本体の外側にあることを特徴とする燃料タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラック及びバス等の燃料タンク等に適した燃料タンク用めっき鋼板及び燃料タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
普通自動車の燃料タンクは車体のデザインに合わせて最終段階で設計されることが多く、その形状は複雑なことが多い。このため、普通自動車の燃料タンクの材料には、一般に、深絞り成形性、成形後の耐衝撃性、耐燃料、耐食性、塩害耐食性、シーム溶接性、スポット溶接性等が要求される。
【0003】
これに対し、トラック及びバスの燃料タンクの形状は比較的単純である。従って、トラック及びバスの燃料タンクの材料には、普通自動車の燃料タンクの材料に要求されるほどの複雑な形状への成形性は必要とされない。また、多くのトラック及びバスは軽油を燃料としており、軽油はガソリンと比較して酸化劣化し難い。従って、ガソリン用の燃料タンクほどの耐燃性や耐食性も必要とされない。その一方で、トラック及びバスの燃料タンク用の材料には、燃料タンクの生産効率の向上、つまり、より低コストで燃料タンクを製造できるようにすることが要求されている。特に溶接性の向上が要求されており、シーム溶接性及びスポット溶接性に優れた材料が希求されている。そして、自動車の燃料タンク用の材料が特許文献1及び特許文献2に記載されている。しかしながら、これら材料によっても十分なシーム溶接性及びスポット溶接性を得ることはできない。
【0004】
また、コモンレール方式とよばれる燃料噴射技術では、非常に微細な燃料を噴出させるため、金属石鹸の影響で噴射孔の目詰まりが生じることがある。例えば特許文献3に、脂肪酸亜鉛が目詰まりの原因となり得ることが記載されている。従って、亜鉛を含むめっき鋼板は、コモンレール方式の燃料噴射技術に適していない。
【0005】
更に、Alめっき鋼板が特許文献4〜7に記載されているが、これら特許文献に記載されたAlめっき鋼板によっても十分なシーム溶接性及びスポット溶接性を得ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−72641号公報
【特許文献2】国際公開第2007/004671号
【特許文献3】特開2006−306018号公報
【特許文献4】特開昭62−161944号公報
【特許文献5】特開平10−265928号公報
【特許文献6】特開2008−223084号公報
【特許文献7】特開平10−176287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、燃料タンクに用いられた場合の燃料に対する耐食性を確保しながら溶接性を向上することができるめっき鋼板及び燃料タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来のめっき鋼板では十分なシーム溶接性及びスポット溶接性が得られない原因を究明すべく鋭意検討を行った。
【0009】
Alめっき鋼板のシーム溶接で生じる問題の一つとして、ブローホール欠陥が挙げられる。ブローホール欠陥の発生原因は以下と考えられる。上下の電極輪を用いたシーム溶接において、熱により電極輪に含まれるCuとめっき層に含まれるAlとが反応し、反応生成物が電極輪とめっき層との界面に生成する。この結果、反応生成物を介して電極輪とめっき鋼板との間に密着力が作用するようになり、電極輪がめっき鋼板から離れる際にめっき鋼板が電極輪に引っ張られ、ブローホール欠陥が生じる。Alめっき鋼板のシーム溶接で生じる問題の他の一つに、電極輪にめっき層との反応に伴う反応生成物が付着し、この反応生成物が電極輪から欠落することで生じる溶接品位の低下が挙げられる。
【0010】
これらの問題はいずれも、電極輪に含まれるCuとめっき層に含まれるAlとの反応が原因である。このような事項に着目し、本願発明者らは、めっき鋼板の電極輪と接触する面、つまり燃料タンクの外面となる面におけるめっき付着量を低下させることが極めて有効であることを見出した。その一方で、めっき鋼板の他方の面は燃料タンクの内面となり、燃料と接することになる。このため、めっき鋼板の他方の面におけるめっき付着量は、燃料に対する耐食性を確保できるようにすることが重要である。そして、本願発明者らは、燃料タンクの外面となる面におけるめっき付着量を、内面となる面におけるめっき付着量よりも低くすることで、従来のものよりも、溶接性及び内面の耐食性のバランスのとれた特性を得ることができることに想到した。
【0011】
本願発明者らは、鋼板中のリン(P)によりシーム溶接性が向上するとの知見を得た。特にめっき付着量が低い場合にPによるシーム溶接性の向上が顕著であることが判明した。Alを含むめっき層中の合金層に鋼板中のPが拡散し、めっき層の表面にAlPが形成されて電極輪に含まれるCuとの反応が抑制されているものと推定している。
【0012】
本願発明者らは、鋼板の厚さがシーム溶接性及びスポット溶接性に大きく影響するとの知見も得た。特に、鋼板が薄い場合にめっき付着量の影響が大きく出やすい。従って、鋼板が薄い場合に、めっき鋼板の両面の間にめっき付着量の差を設けることが好適である。その一方で、めっき鋼板が厚い場合は、めっき付着量の差が小さくても大きな問題は生じない。
【0013】
そして、本願発明者らは、これらの知見に基づいて、以下に示す発明の諸態様に想到した。
【0014】
(1)
鋼板と、
前記鋼板の第1の主面上の第1のめっき層と、
前記鋼板の第2の主面上の第2のめっき層と、
を有し、
前記鋼板は、
質量%で、
C :0.0005%〜0.0800%、
Si:0.003%〜0.500%、
Mn:0.05%〜0.80%、
P :0.005%〜0.050%、
S :0.100%以下、
Al:0.080%以下、
N :0.0050%以下、
Ti:0.000%〜0.100%、
Nb:0.000%〜0.050%、
B :0.000%〜0.0100%、
残部:Fe及び不純物
で表される化学組成を有し、
前記第1のめっき層は、
前記第1の主面上の第1のAl−Fe−Si合金層と、
前記第1のAl−Fe−Si合金層上の第1のAl−Si合金層と、
を有し、
前記第2のめっき層は、前記第2の主面上の第2のAl−Fe−Si合金層を有し、
前記第1のめっき層のめっき付着量は31g/m2〜60g/m2であり、
前記第2のめっき層のめっき付着量は5g/m2〜29g/m2であることを特徴とする燃料タンク用めっき鋼板。
【0015】
(2)
前記第2のめっき層は、前記第2のAl−Fe−Si合金層上の第2のAl−Si合金層を有することを特徴とする(1)に記載の燃料タンク用めっき鋼板。
【0016】
(3)
前記化学組成において、
Ti:0.001〜0.100%、
Nb:0.001〜0.050%、若しくは
B :0.0003%〜0.0100%、
又はこれらの任意の組み合わせが成り立つことを特徴とする(1)又は(2)に記載の燃料タンク用めっき鋼板。
【0017】
(4)
前記第1のめっき層のめっき付着量をX(g/m2)、前記第2のめっき層のめっき付着量をY(g/m2)、前記鋼板の厚さをT(mm)としたとき、「(X−Y)−(26.7−13.3T)>0」の関係が成り立つことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の燃料タンク用めっき鋼板。
【0018】
(5)
前記第2のめっき層上の、Cr、Zr、Ti、Si若しくはV又はこれらの任意の組み合わせの化合物を含有する化成処理皮膜を有し、
前記化成処理皮膜の付着量は、50mg/m2〜1000mg/m2であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の燃料タンク用めっき鋼板。
【0019】
(6)
(1)〜(5)のいずれかに記載の燃料タンク用めっき鋼板からなるタンク本体を有し、
前記第1のめっき層が前記タンク本体の内側に、前記第2のめっき層が前記タンク本体の外側にあることを特徴とする燃料タンク。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、適切なめっき層が含まれるため、燃料タンクに用いられた場合の燃料に対する耐食性を確保しながら溶接性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、第1の実施形態に係るめっき鋼板を示す断面図である。
図2図2は、第2の実施形態に係るめっき鋼板を示す断面図である。
図3図3は、第3の実施形態に係るめっき鋼板を示す断面図である。
図4図4は、第4の実施形態に係るめっき鋼板を示す断面図である。
図5図5は、第3の実施形態の変形例を示す断面図である。
図6図6は、第4の実施形態の変形例を示す断面図である。
図7図7は、めっき鋼板の断面を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
先ず、第1の実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態に係るめっき鋼板を示す断面図である。
【0024】
第1の実施形態に係るめっき鋼板1には、図1に示すように、鋼板30と、鋼板30の第1の主面31上の第1のめっき層10と、鋼板30の第2の主面32上の第2のめっき層20と、が含まれる。第1のめっき層10には、第1の主面31上の第1のAl−Fe−Si合金層11と、第1のAl−Fe−Si合金層11上の第1のAl−Si合金層12と、が含まれる。第2のめっき層20には、第2の主面32上の第2のAl−Fe−Si合金層21と、第2のAl−Fe−Si合金層21上の第2のAl−Si合金層22と、が含まれる。第1のめっき層10のめっき付着量は31g/m〜60g/mであり、第2のめっき層20のめっき付着量は5g/m〜29g/mである。
【0025】
ここで、鋼板30及びその製造に用いる鋼スラブの化学組成について説明する。以下の説明において、鋼板30及びその製造に用いる鋼スラブに含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。本実施形態に係る鋼板30及びその製造に用いる鋼スラブは、C:0.0005%〜0.0800%、Si:0.003%〜0.500%、Mn:0.05%〜0.80%、P:0.005%〜0.050%、S:0.100%以下、Al:0.080%以下、N:0.0050%以下、Ti:0.000%〜0.100%、Nb:0.000%〜0.050%、B:0.000%〜0.0100%、残部:Fe及び不純物で表される化学組成を有している。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの(Cu、Cr、Sn、Ni等)、製造工程において含まれるもの(Ce等のREM、Ca等)、が例示される。
【0026】
(C:0.0005%〜0.0800%)
Cは、鋼板の強度に寄与する元素である。C含有量が0.0005%未満では、十分な強度が得られない。従って、C含有量は0.0005%以上とする。より高い強度を得るために、C含有量は好ましくは0.0010%以上である。C含有量が0.0800%超では、十分な延性が得られない。トラック及びバス等の燃料タンク用めっき鋼板を複雑な形状に成形することは少ないが、延性が低すぎる場合には部位によっては成形が困難になる。従って、C含有量は0.0800%以下とする。より優れた延性を得るために、C含有量は好ましくは0.0500%である。
【0027】
(Si:0.003%〜0.500%)
Siは、鋼板の強度に寄与する元素である。Si含有量が0.003%未満では、十分な強度が得られない。従って、Si含有量は0.003%以上とする。Si含有量が0.500%超では、十分なめっき性が得られない。従って、Si含有量は0.500%以下とする。
【0028】
(Mn:0.05%〜0.80%)
Mnは、鋼板の強度に寄与する元素である。Mnは、熱延時におけるSに起因する熱間脆性の抑制にも寄与する。Mn含有量が0.05%未満では、上記作用による効果が十分には得られない。従って、Mn含有量は0.05%以上とする。Mn含有量が0.80%超では、十分な加工性が得られない。従って、Mn含有量は0.80%以下とする。
【0029】
(P:0.005%〜0.050%)
Pは、固溶強化により鋼板の強度を高める元素である。また、上記のように、Pは、めっき付着量が少ない場合にシーム溶接性の向上に寄与する元素でもある。P含有量が0.005%未満では、上記作用による効果が十分には得られない。従って、P含有量は0.005%以上とする。P含有量が0.050%超では、十分な靱性が得られない。Pは、粒界に偏析しやすく、特に鋼板の強度が高い場合に低温脆化を引き起こす。従って、P含有量は0.050%以下とする。
【0030】
(S:0.100%以下)
Sは、必須元素ではなく、例えば鋼板中に不純物として含有される。Sは、熱間加工性を劣化させ、また、鋼板の加工性を劣化させる元素である。このため、S含有量は低ければ低いほどよい。特にS含有量が0.100%超で、これらの悪影響が顕著となる。従って、S含有量は0.100%以下とする。なお、S含有量の低減にはコストがかかり、0.001%未満まで低減しようとすると、コストが著しく上昇する。このため、S含有量は0.001%以上としてもよい。
【0031】
(Al:0.080%以下)
Alは、必須元素ではなく、例えば鋼板中に不純物として含有される。Alは、鋼板中にアルミナを主体とする酸化物を形成して局部変形能を劣化させる。このため、Al含有量は低ければ低いほどよい。特にAl含有量が0.080%超で、これらの悪影響が顕著となる。従って、Al含有量は0.080%以下とする。なお、Alは脱酸に有効な元素であり、Al含有量が0.005%未満では、製鋼時の脱酸が不十分で、鋼板中に酸化物が多量に残存して十分な局部変形能が得られないことがある。このため、Al含有量は0.005%以上としてもよい。
【0032】
(N:0.0050%以下)
Nは、必須元素ではなく、例えば鋼板中に不純物として含有される。Nは、析出物を生成し、溶接熱影響部の靭性を劣化させる。このため、N含有量は低ければ低いほどよい。特にN含有量が0.0050%超で、溶接熱影響部の靭性の劣化が顕著となる。従って、N含有量は0.0050%以下とする。なお、N含有量の低減にはコストがかかり、0.0010%未満まで低減しようとすると、精錬コストが著しく上昇する。このため、N含有量は0.0010%以上としてもよい。
【0033】
Ti、Nb及びBは、必須元素ではなく、めっき鋼板及び鋼スラブに所定量を限度に適宜含有されていてもよい任意元素である。
【0034】
(Ti:0.000%〜0.100%、Nb:0.000%〜0.050%、B:0.000%〜0.0100%)
Ti及びNbは、微細な炭化物を形成して鋼板の加工性の向上に寄与する元素である。Bは、鋼板の二次加工性を向上させる元素である。従って、これらの元素からなる群から選択された1種又は任意の組み合わせが含有されていてもよい。しかし、Ti含有量が0.100%超では、上記作用による効果が飽和し、徒にコストが上昇するだけであり、Nb含有量が0.050%超では、上記作用による効果が飽和し、徒にコストが上昇するだけであり、B含有量が0.0100%超では、十分な加工性が得られない。従って、Ti含有量は0.100%以下とし、Nb含有量は0.050%以下とし、B含有量は0.0100%以下とする。上記作用による効果を確実に得るために、Ti含有量及びNb含有量は、いずれも好ましくは0.001%以上であり、B含有量は、好ましくは0.0003%以上である。つまり、「Ti:0.001〜0.100%」、「Nb:0.001〜0.050%」、若しくは「B:0.0003%〜0.0100%」、又はこれらの任意の組み合わせが満たされることが好ましい。
【0035】
次に、第1のめっき層10及び第2のめっき層20の付着量について説明する。
【0036】
上述のように、第1のめっき層10には、第1のAl−Fe−Si合金層11及び第1のAl−Si合金層12が含まれ、第2のめっき層20には、第2のAl−Fe−Si合金層21及び第2のAl−Si合金層22が含まれる。これらAl−Fe−Si合金層の厚さは特に限定されないが、Al−Fe−Si合金層は硬質で脆いため、厚過ぎると良好な加工性が得られないことがある。従って、第1のAl−Fe−Si合金層11及び第2のAl−Fe−Si合金層21の厚さはいずれも好ましくは4μm以下である。また、第1のAl−Si合金層12の厚さは、耐食性及び加工性の確保等の観点から好ましくは3μm以上である。
【0037】
詳細は後述するが、第1のめっき層10及び第2のめっき層20は、例えばAl及びSiを含有するめっき浴を用いた溶融めっき法により形成される。その場合、めっき浴の組成と実質的に同一の組成の第1のAl−Si合金層12が第1のめっき層10に含まれ、めっき浴の組成と実質的に同一の組成の第2のAl−Si合金層22が第2のめっき層20に含まれる。第1のAl−Si合金層12及び第2のAl−Si合金層22は耐食性の向上に寄与する。
【0038】
上述のように、第1のめっき層10のめっき付着量は31g/m〜60g/mであり、第2のめっき層20のめっき付着量は5g/m〜29g/mである。
【0039】
めっき鋼板を用いて燃料タンクを製造する場合、めっき鋼板の一方の主面が内面となり、他方の主面が外面となる。そして、内面となる主面は燃料に晒され、外面となる主面は溶接環境に晒される。従って、内面となる主面と外面となる主面とを比較すると、めっき付着量は内面となる主面で高くなっていることが好ましい。そこで、本実施形態では、第1のめっき層10と第2のめっき層20との間でめっき付着量を異ならせている。本実施形態に係るめっき鋼板1を用いて燃料タンクを製造する場合、厚目付の第1のめっき層10が内面側、薄目付の第2のめっき層20が外面側になるように成形を行えばよい。
【0040】
上述のように、めっき鋼板1は第2のめっき層20が燃料タンクの外側となるように成形される。従って、第2のめっき層20はシーム溶接性及びスポット溶接性に大きな影響を与える。また、第2のめっき層20は、塩害等に対する耐食性の向上に寄与する。第2のめっき層20のめっき付着量が29g/m超では、良好なシーム溶接性及びスポット溶接性が得られない。従って、第2のめっき層20のめっき付着量は29g/m以下とする。後述のように、第2のめっき層20は、例えば溶融めっき法により形成されるものであるところ、第2のめっき層20のめっき付着量を5g/m未満とすることが困難である。従って、第2のめっき層20のめっき付着量は5g/m以上とする。
【0041】
上述のように、めっき鋼板1は第1のめっき層10が燃料タンクの内側となるように成形される。従って、第1のめっき層10は軽油及びガソリン等の燃料に対する耐食性、及び燃料の酸化や劣化に伴って生成する蟻酸、酢酸等の有機酸に対する耐食性に大きな影響を与える。第1のめっき層10のめっき付着量が31g/m未満では、十分な耐食性が得られない。従って、第1のめっき層10のめっき付着量は31g/m以上とする。後述のように、第1のめっき層10は溶融めっき法により第2のめっき層20と並行して形成されるところ、第2のめっき層20のめっき付着量が29g/m以下であるため、第1のめっき層10のめっき付着量を60g/m超とすることは困難である。従って、第1のめっき層10のめっき付着量は60g/m以下とする。
【0042】
めっき付着量は通常の方法により測定することができる。例えば、重量法でめっき付着量を測定し、蛍光X線強度との間に検量線を作成して蛍光X線で付着量を測定することが望ましい。これら測定は、めっき鋼板の板幅方向の中央部及び両端部(例えば両端面から50mmだけ中央よりの位置)で行い、これら3点での測定値の平均値をその面の代表値とする。
【0043】
第1のめっき層10のめっき付着量と第2のめっき層20のめっき付着量との差と鋼板30の厚さとの間に所定の関係が成り立つことが好ましい。具体的には、第1のめっき層10のめっき付着量をX(g/m)、第2のめっき層20のめっき付着量をY(g/m)、鋼板30の厚さをT(mm)としたとき、「(X−Y)−(26.7−13.3T)>0」の関係が成り立つことが好ましい。この関係は、鋼板30が薄いほど、めっき付着量の差が大きいことが好ましいことを意味している。シーム溶接及びスポット溶接のいずれにおいても、溶接電極に含まれる銅とめっき層に含まれる金属との反応が、溶接性の低下の根本の原因である。従って、鋼板が薄いほど、溶融部からめっき鋼板の溶接電極と接する表面までの距離が短く、その影響を顕著に受けるものと考えられる。
【0044】
次に、第1の実施形態に係るめっき鋼板1の製造方法について説明する。
【0045】
この製造方法では、上記化学組成の溶鋼から鋼スラブを取得する。鋼スラブは、例えば連続鋳造により取得することができる。厚さが100mm以下の薄スラブを鋳造し、これを鋼スラブとしてもよい。
【0046】
次いで、鋼スラブの熱間圧延を行う。熱間圧延の条件は特に限定されない。加熱温度は、例えば1400℃以下とし、好ましくは1250℃以下とする。また、最終圧延の終了温度は好ましくはAr3点以上とし、巻き取り温度は好ましくは600℃〜750℃とする。このようにして熱延鋼板が得られる。
【0047】
次いで、熱延鋼板のめっき処理を行う。このとき、本実施形態では、熱延鋼板の表裏間でめっき付着量を異ならせる。めっき処理は、例えばAl及びSiを含むめっき浴を用いた溶融めっき法により行う。
【0048】
溶融めっき法によるめっき処理を行う場合、めっき付着量の制御は、例えばガスワイピング法により行う。めっき付着量は、ガス圧、ラインスピード、鋼板−ノズル間距離、ノズルギャップ、ノズル形状等により制御することができる。本実施形態では、熱延鋼板の表裏間でめっき付着量を異ならせるために、例えば表裏面間でガス圧、鋼板−ノズル間距離若しくはノズルギャップ又はこれらの任意の組み合わせを異ならせる。工業的には、本実施形態に係るめっき鋼板を製造するために用いるめっき製造ラインでは、鋼板の表裏面間でめっき付着量を同一とする鋼板も製造することが想定される。このため、鋼板−ノズル間距離及び/又はガス圧の調整によりめっき付着量を表裏面間で異ならせることが好ましい。
【0049】
そして、Al及びSiを含むめっき浴を用いてめっき処理を行う場合、めっき浴に含まれるAl及びSiが熱延鋼板中Feと反応して、熱延鋼板の表層部に金属間化合物からなるAl−Fe−Si合金層が形成される。また、Al−Fe−Si合金層上に、めっき浴と実質的に同一の組成のAl―Si合金層が形成される。
【0050】
このようにして、鋼板30、第1のAl−Fe−Si合金層11、第1のAl−Si合金層12、第2のAl−Fe−Si合金層21及び第2のAl−Si合金層22を含むめっき鋼板1を製造することができる。
【0051】
なお、熱延鋼板にめっき処理を行うのではなく、熱延鋼板の冷間圧延を行うことによって冷延鋼板を形成し、冷延鋼板にめっき処理を行うことによってもめっき鋼板1を製造することができる。冷延鋼板の再結晶焼鈍を行い、その後にめっき処理を行うことによってもめっき鋼板1を製造することができる。冷間圧延の条件は特に限定されない。例えば、冷延圧下率は、例えば一般的な40%〜80%としてもよい。再結晶焼鈍の条件も特に限定されない。
【0052】
なお、めっき処理の方法は溶融めっき法に限定されない。例えば、溶融塩電解法又は蒸着法によりめっき処理を行ってもよい。但し、溶融めっき法は、工業的なコストの面で溶融塩電解法及び蒸着法よりも優れている。従って、溶融めっき法によりめっき処理を行うことが好ましい。
【0053】
めっき処理を溶融めっき法により行う場合、めっき浴はAlを85質量%以上含有することが好ましい。また、めっき浴のSi含有量が質量%未満では、めっき処理後にAl−Fe−Si合金層が成長し過ぎて加工性が低下することがある。従って、めっき浴のSi含有量は好ましくは質量%以上であり、より好ましくは質量%以上である。めっき浴のSi含有量が15質量%超では、十分な耐食性が得られないことがある。従って、めっき浴のSi含有量は好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは12質量%以下である。
【0054】
めっき処理を溶融めっき法により行う場合、Al−Fe−Si合金層の厚さは、浴温、浴組成、侵入板温、冷却速度及びラインスピードにより調整することができ、例えば2μm〜5μmとする。めっき鋼板を薄く製造する場合ほどラインスピードを高くすることができ、ラインスピードが高いほどAl−Fe−Si合金層が薄くなる。上記のように、Al−Fe−Si合金層は硬質で脆いため、厚過ぎると良好な加工性が得られないことがある。従って、第1のAl−Fe−Si合金層11及び第2のAl−Fe−Si合金層21の厚さはいずれも好ましくは4μm以下とする。
【0055】
第1の実施形態によれば、優れた溶接性が得られると共に、燃料に対する良好な耐食性を得ることもできる。従って、トラック又はバス用の燃料タンクの生産性の向上に寄与し、トラック又はバス用の燃料タンクの材料として好適である。
【0056】
なお、めっき層には亜鉛が含まれていないことが好ましい。金属石鹸の生成に伴う噴射孔の目詰まりを回避するためである。
【0057】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。図2は、第2の実施形態に係るめっき鋼板を示す断面図である。
【0058】
第2の実施形態に係るめっき鋼板2では、図2に示すように、鋼板30の第2の主面32側の表層にAl−Si合金層22がない。他の構成は第1の実施形態に係るめっき鋼板1と同様である。第2の実施形態によれば、第2の主面32側で外部に露出する層がAl−Fe−Si合金層21であるため、より優れたシーム溶接性及びスポット溶接性を得ることができ、外面塗装(塗料膜)との密着性がより良好なものとなる。
【0059】
第2の実施形態に係るめっき鋼板2は、例えば次の2種類の方法により製造することができる。第1の製造方法では、第1の実施形態と同様の処理を行った後にめっき層20を再加熱する。第2の製造方法では、めっき付着量をできるだけ小さくし、めっき浴の浴温を高目にしておき、めっき浴の予熱でAl及びSiとFeとの反応を促進させる。
【0060】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。図3は、第3の実施形態に係るめっき鋼板を示す断面図である。
【0061】
第3の実施形態に係るめっき鋼板3には、図3に示すように、第2のめっき層20上の化成処理皮膜23が含まれる。他の構成は第1の実施形態と同様である。第3の実施形態によれば、化成処理皮膜23が含まれているため、より優れたシーム溶接性及びスポット溶接性を得ることができ、外面塗装(塗料膜)との密着性がより良好なものとなる。
【0062】
化成処理皮膜23は、例えばCr、Zr、Ti、Si若しくはV又はこれらの任意の組み合わせの化合物を含有する。化成処理皮膜23の付着量が50mg/m未満では、シーム溶接性及びスポット溶接性を向上させる効果を十分には得られないことがある。従って、化成処理皮膜23の付着量は好ましくは50mg/m以上である。化成処理皮膜23の付着量が1000mg/m超では、めっき鋼板3の表面抵抗が大きくなりすぎてシーム溶接性及び/又はスポット溶接性が逆に低下することがある。従って、化成処理皮膜23の付着量は好ましくは1000mg/m以下である。
【0063】
化成処理皮膜の付着量は、めっき付着量の測定と同様に、例えば、重量法でめっき付着量を測定し、蛍光X線強度との間に検量線を作成して蛍光X線で付着量を測定することが望ましい。これら測定は、めっき鋼板の板幅方向の中央部及び両端部(例えば両端面から50mmだけ中央よりの位置)で行い、これら3点での測定値の平均値をその面の代表値とする。
【0064】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。図4は、第4の実施形態に係るめっき鋼板を示す断面図である。
【0065】
第4の実施形態に係るめっき鋼板4には、図4に示すように、第2のめっき層20上の化成処理皮膜23が含まれる。他の構成は第2の実施形態と同様である。第4の実施形態によれば、第2の実施形態の効果及び第3の実施形態の効果を得ることができる。
【0066】
図5に示すように、第3の実施形態に係るめっき鋼板3に、第1のめっき層10上の化成処理皮膜13が含まれていてもよく、図6に示すように、第4の実施形態に係るめっき鋼板4に、第1のめっき層10上の化成処理皮膜13が含まれていてもよい。化成処理皮膜13は、化成処理皮膜23と並行して形成することができる。
【0067】
なお、Al−Si合金層及びAl−Fe−Si合金層は、断面検鏡より確認することができる。図7は、めっき鋼板の断面を示す光学顕微鏡写真である。図7に示すように、Al−Si合金層及びAl−Fe−Si合金層は、光学顕微鏡による観察で明確に区別できる。SEM(scanning electron microscope)−EDS(energy dispersion X-ray spectroscopy)、EPMA(electron probe micro-analyzer)等の元素分析によって確認することも可能である。
【0068】
次に、本発明の実施形態に係るめっき鋼板を用いて燃料タンクを製造する方法について説明する。まず、めっき鋼板に曲げ加工を施して四角筒とし、この四角筒の両端開口部に鏡板を突合せ溶接してタンク本体を製造する。四角筒を製造する際は、薄目付の第2のめっき層を外面側とする。次いで、タンク本体の内部に燃料の流通孔を複数有する複数の仕切板を配置し、仕切板とタンク本体とをスポット溶接してタンク本体の内部を複数の分割室に仕切る。その後、タンク本体の上面に給油口を設ける。燃料タンクの内面(第1のめっき層が露出する面)は通常無塗装とし、外面には塗装することが多い。外面の塗装種、塗装膜厚については特に限定されない。例えば、メラミン系の水溶性樹脂を用いて、厚さが10μm〜100μm程度の塗装膜を形成することが望ましい。このようにして燃料タンクを製造することができる。塗装膜が厚いほど外面の防錆性は優れるがコストも増大するため、燃料タンクが置かれる車体の位置等に応じて適正な厚さを選定することが好ましい。このような燃料タンクはトラックやバスの燃料タンクとして好適である。
【0069】
なお、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【実施例】
【0070】
次に、本発明の実施例について説明する。実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0071】
(第1の実験)
第1の実験では、表1に示す化学組成の溶鋼(鋼種A〜N)を転炉から出鋼して鋼スラブを取得し、1220℃の加熱温度、870℃の仕上げ温度、630℃の巻取温度で熱間圧延を行った。表1中の空欄は、当該元素の含有量が検出限界未満であったことを示す。次いで、冷延圧下率を70%として熱延鋼板の冷間圧延を行って厚さが1.4mmの冷延鋼板を取得した。その後、連続溶融めっきラインにて焼鈍及びめっき処理を行った。このとき、焼鈍温度を780℃とし、めっき浴温を660℃とし、めっき浴の組成を91質量%Al−9質量%Siとした。めっき処理後にめっき付着量の調整をガスワイピング法にて行った。このとき、冷延鋼板の表裏面におけるガスワイピングの条件を独立に制御して、表2に示すように、それぞれのめっき付着量を調整した。このようにして、めっき層を備えた種々のめっき鋼板を製造した。なお、表裏面に形成されためっき層のうちで、めっき付着量が多いものを第1のめっき層、めっき付着量が少ないものを第2のめっき層という。試料No.4では、表裏面のめっき付着量が等しいため、便宜的に、一方を第1のめっき層、他方を第2のめっき層とする。表2に示す試料No.1〜No.23に形成されためっき層は、いずれも、Fe−Si−Al合金層及びSi−Al合金層を含んでいた。なお、めっき浴には冷延鋼板等から溶解したFeが約2.5質量%混入していた。表1中の下線は、その数値が本発明の範囲から外れていることを示す。
【0072】
【表1】
【0073】
その後、めっき鋼板のシーム溶接性及びスポット溶接性の評価を行った。また、有機酸に対する耐食性の評価も行った。これらの結果も表2に示す。表2中の下線は、その項目が本発明の範囲から外れていることを示す。
【0074】
シーム溶接性の評価では、サイズが100mm×500mmの2枚の試験片を、第2のめっき層が外側になるようにして重ね合わせてシーム溶接を行った。このとき、電極径は250mm、電極先端Rは8mm、加圧力は500kgf、溶接電流は15kA、2on−1offとし(60Hz)、溶接速度は4m/分とした。そして、連続的に100組の溶接を行い、100組目のナゲットの形成状況を観察した。溶接線100mm当たりで発生したブローホールの最大径をX線法により計測した。シーム溶接性の評価はブローホールの最大径に基づいて行い、ブローホールの最大径が0.1mm以下のものを◎、0.1mm超0.5mm以下のものを○、0.5mm超のものを×とした。一般に、電極とめっき鋼板との反応が激しい場合には、電極及びめっき鋼板が互いに溶着気味となり、めっき鋼板を引き剥がす力が生じる。このため、反応が激しいほどブローホールが大きくなる。
【0075】
スポット溶接性の評価では、サイズが230mm×320mmの2枚の試験片を、第2のめっき層が外側になるようにして重ね合わせてスポット溶接を行った。このとき、先端6φ−40RのDR電極を使用し、加圧力は250kgf、通電12サイクル(60Hz)、溶接電流は8kAとした。そして、1000点のスポット溶接を行い、1000点目のナゲットの形成状況を観察した。スポット溶接性の評価はナゲット径に基づいて行い、ナゲット径が4mm以上のものを○、4mm未満のものを×とした。
【0076】
耐食性の評価では、水中の蟻酸が約100ppm、酢酸が約200ppmの腐食液を作製した。この腐食液は、JIS K2287に従って酸化させたガソリンと酸化させていないガソリンとの混合物に水を10体積%混合して調整した。次いで、この腐食液500mL中に、サイズが30mm×40mmで端面シールを施した試験片を1000時間、浸漬させた。腐食液の温度は45℃とした。耐食性の評価は、第1のめっき層における最大腐食深さに基づいて行い、最大腐食深さが0.2mm超のものを×、0.2mm以下のものを○とした。
【0077】
【表2】
【0078】
表2に示すように、発明例では、良好な溶接性及び内面の耐食性を得ることができた。
【0079】
一方、試料No.4では、第2のめっき層のめっき付着量が過剰であったため、十分なシーム溶接性及びスポット溶接性が得られなかった。試料No.5では、第1のめっき層のめっき付着量が過少であったため、十分な内面の耐食性が得られなかった。試料No.9では、第1のめっき層のめっき付着量が過剰であり、これに伴って第2のめっき層のめっき付着量も過剰であったため、十分なシーム溶接性及びスポット溶接性が得られなかった。試料No.12では、鋼板のP含有量が過少であったため、十分なシーム溶接性及びスポット溶接性が得られなかった。試料No.15では、鋼板のP含有量が過剰であったため、シーム溶接及びスポット溶接のいずれにおいてもナゲット内に割れが生じてしまった。
【0080】
(第2の実験)
第2の実験では、鋼種Bを用い、上述のようにして厚さが1.4mmの冷延鋼板を取得し、第1の実験と同様に、この冷延鋼板に連続溶融めっきラインにて焼鈍及びめっき処理を行った。このとき、第1のめっき層のめっき付着量は40g/mとし、第2のめっき層のめっき付着量は19g/mとした。このようにして、めっき層を備えためっき鋼板を作製した。更に、表3に示す薬液をめっき鋼板の両面に塗布し、80℃で焼き付けて化成処理皮膜を形成した。そして、化成処理皮膜を備えためっき鋼板のスポット溶接性を評価した。この結果を表3に示す。スポット溶接性の評価では、打点数を1500点とし、1500点目のナゲットの形成状況を観察したことを除き、第1の実験と同様の条件でスポット溶接を行った。スポット溶接性の評価はナゲット径に基づいて行い、ナゲット径が4mm以上のものを○、4mm未満のものを△とした。
【0081】
【表3】
【0082】
表3に示すように、試料No.31〜No.38では、1500点目のスポット溶接でも4mm以上のナゲット径を得ることができ、特に優れたスポット溶接性が得られた。すなわち、連続打点が1500点以上となることが示された。これらによれば、スポット溶接を1500点以上連続して行っても良好なナゲットが得られる。試料No.39では、化成処理皮膜の厚さが好ましい範囲を超えていたため、1000点目のスポット溶接では4mm以上のナゲット径が得られたものの、1500点目のスポット溶接ではナゲット径が4mm未満となっていた。試料No.40では、化成処理皮膜が形成されていなかったため、1000点目のスポット溶接では4mm以上のナゲット径が得られたものの、1500点目のスポット溶接ではナゲット径が4mm未満となっていた。
【0083】
(第3の実験)
第3の実験では、鋼種Mを用い、上述のようにして種々の厚さの冷延鋼板を取得し、第1の実験と同様に、この冷延鋼板に連続溶融めっきラインにて焼鈍及びめっき処理を行った。このとき、冷延鋼板の表裏面におけるガスワイピングの条件を独立に制御して、表4に示すように、それぞれのめっき付着量を調整した。このようにして、めっき層を備えた種々のめっき鋼板を製造した。表4に示すように、冷延鋼板の厚さは0.5mm〜1.8mmとした。そして、めっき鋼板のシーム溶接性及び内面の耐食性の評価を行った。この結果を表4に示す。シーム溶接性及び内面の耐食性の評価は第1の実験と同様にして行った。
【0084】
【表4】
【0085】
表4に示すように、パラメータPA(=(X−Y)−(26.7−13.3T))が0超の試験No.51、No.53、No.55、No.56及びNo.59〜No.62において、特に優れたシーム溶接性を得ることができた。試料No.51と試料No.52とを比較し、試料No.53と試料No.54とを比較すると明らかなように、特に鋼板が0.5mm又は0.8mmと薄い場合には、第1のめっき層と第2のめっき層との間でめっき付着量の差が大きいほど、優れたシーム溶接性が得られるといえる。
【0086】
(第4の実験)
第4の実験では、鋼種Fを用い、上述のようにして厚さが1.6mmの冷延鋼板を取得し、第1の実験と同様に、この冷延鋼板に連続溶融めっきラインにて焼鈍及びめっき処理を行った。このとき、第1のめっき層のめっき付着量は33g/mとし、第2のめっき層のめっき付着量は8g/mとした。めっき浴の温度を690℃とし、めっき処理後の冷却を空冷により行ったところ、第2のめっき層では、Al−Si合金層が消失し、外観は黒色を呈するようになった。そして、めっき鋼板のスポット溶接性の評価を行った。スポット溶接性の評価では、打点数を2000点とし、2000点目のナゲットの形成状況を観察したことを除き、第1の実験と同様の条件でスポット溶接を行った。この結果、2000点目のスポット溶接でも5.1mm以上のナゲット径を得ることができ、特に優れたスポット溶接性が得られた。すなわち、Al−Si合金層の消失に伴って、連続打点が2000点以上となることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、例えば、トラックやバスの燃料タンク等に用いられるめっき鋼板の製造産業及び利用産業に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7