特許第6390723号(P6390723)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6390723オーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390723
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】オーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/10 20060101AFI20180910BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20180910BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20180910BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20180910BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20180910BHJP
【FI】
   C22F1/10 H
   C22C19/05 F
   B23K35/30 320Q
   B23K9/23 G
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 641A
   !C22F1/00 641Z
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
【請求項の数】8
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-574855(P2016-574855)
(86)(22)【出願日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】JP2016054094
(87)【国際公開番号】WO2016129666
(87)【国際公開日】20160818
【審査請求日】2017年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-25548(P2015-25548)
(32)【優先日】2015年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-25553(P2015-25553)
(32)【優先日】2015年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】平田 弘征
(72)【発明者】
【氏名】浄徳 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】小川 英範
(72)【発明者】
【氏名】小野 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】田中 克樹
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−140884(JP,A)
【文献】 特開2013−094827(JP,A)
【文献】 特開2014−145109(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/130441(WO,A1)
【文献】 特開2000−160313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/10
B23K 9/23−9/235
C22C 19/05
C22C 30/00−30/02
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.04〜0.12%、
Si:1.0%以下、
Mn:2.0%以下、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
Ni:42.0〜54.0%、
Cr:20.0〜33.0%、
W:3.0〜10.0%、
Ti:0.05〜1.0%、
Al:0.3%以下、
B:0.0001〜0.01%、
N:0.02%以下、
O:0.01%以下、
Ca:0〜0.05%、
Mg:0〜0.05%、
REM:0〜0.5%、
Co:0〜1.0%、
Cu:0〜4.0%、
Mo:0〜1.0%、
V:0〜0.5%、
Nb:0〜0.5%、
Zr:0〜0.05%、
残部:Feおよび不純物であり、かつ、
下記(i)式および(ii)式を満足する条件で使用された合金母材を、
下記(iii)式および(iv)式を満足する条件で熱処理を施した後、溶接する、オーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
600≦T≦850 ・・・(i)
2100≦T×(1.0+logt) ・・・(ii)
1050≦T≦1300 ・・・(iii)
−0.1×(T/50−30)≦t≦−0.1×(T/10−145) ・・・(iv)
ただし、上式中の各記号の意味は下記の通りである。
:使用時の加熱保持温度(℃)
:使用時の加熱保持時間(h)
:熱処理保持温度(℃)
:熱処理保持時間(h)
【請求項2】
化学組成が、質量%で、
C:0.04〜0.12%、
Si:1.0%以下、
Mn:2.0%以下、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
Ni:42.0〜48.0%、
Cr:20.0〜26.0%、
W:4.0〜10.0%、
Ti:0.05〜0.15%、
Nb:0.1〜0.4%、
Al:0.3%以下、
B:0.0001〜0.01%、
N:0.02%以下、
O:0.01%以下、
Ca:0〜0.05%、
Mg:0〜0.05%、
REM:0〜0.1%、
Co:0〜1.0%、
Cu:0〜4.0%、
Mo:0〜1.0%、
V:0〜0.5%、
残部:Feおよび不純物であり、かつ、
下記(i)式および(ii)式を満足する条件で使用された合金母材を、
下記(iii)式および(iv)式を満足する条件で熱処理を施した後、溶接する、オーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
600≦T≦850 ・・・(i)
2800≦T×(1.0+logt) ・・・(ii)
1050≦T≦1300 ・・・(iii)
−0.1×(T/50−30)≦t≦−0.1×(T/10−145) ・・・(iv)
ただし、上式中の各記号の意味は下記の通りである。
:使用時の加熱保持温度(℃)
:使用時の加熱保持時間(h)
:熱処理保持温度(℃)
:熱処理保持時間(h)
【請求項3】
前記合金母材の化学組成が、質量%で、
Ca:0.0001〜0.05%、
Mg:0.0001〜0.05%、
REM:0.0005〜0.1%、
Co:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜4.0%、
Mo:0.01〜1.0%、および
V:0.01〜0.5%、
から選択される1種以上を含有する、請求項または請求項に記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
【請求項4】
化学組成が、質量%で、
C:0.04〜0.12%、
Si:0.5%以下、
Mn:1.5%以下、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
Ni:46.0〜54.0%、
Cr:27.0〜33.0%、
W:3.0〜9.0%、
Ti:0.05〜1.0%、
Zr:0.005〜0.05%、
Al:0.05〜0.3%、
B:0.0001〜0.005%、
N:0.02%以下、
O:0.01%以下、
Ca:0〜0.05%、
Mg:0〜0.05%、
REM:0〜0.5%、
Co:0〜1.0%、
Cu:0〜4.0%、
Mo:0〜1.0%、
V:0〜0.5%、
Nb:0〜0.5%、
残部:Feおよび不純物であり、かつ、
下記(i)式および(ii)式を満足する条件で使用された合金母材を、
下記(iii)式および(iv)式を満足する条件で熱処理を施した後、溶接する、オーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
600≦T≦850 ・・・(i)
2100≦T×(1.0+logt) ・・・(ii)
1050≦T≦1250 ・・・(iii)
−0.1×(T/50−30)≦t≦−0.1×(T/10−145) ・・・(iv)
ただし、上式中の各記号の意味は下記の通りである。
:使用時の加熱保持温度(℃)
:使用時の加熱保持時間(h)
:熱処理保持温度(℃)
:熱処理保持時間(h)
【請求項5】
前記合金母材の化学組成が、質量%で、
Ca:0.0001〜0.05%、
Mg:0.0001〜0.05%、
REM:0.0005〜0.5%、
Co:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜4.0%、
Mo:0.01〜1.0%、
V:0.01〜0.5%、および
Nb:0.01〜0.5%、
から選択される1種以上を含有する、請求項または請求項に記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理において、冷却過程における500℃までの平均冷却速度が50℃/h以上である、請求項1から請求項までのいずれかに記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理は、少なくとも被溶接部から30mm以内の範囲すべてに施す、請求項1から請求項までのいずれかに記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
【請求項8】
化学組成が、質量%で、
C:0.06〜0.18%、
Si:1.0%以下、
Mn:2.0%以下、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
Ni:40.0〜60.0%、
Cr:20.0〜33.0%、
MoおよびWから選択される1種以上:合計6.0〜13.0%
Ti:0.05〜1.5%、
Co:0〜15.0%、
Nb:0〜0.5%、
Al:1.5%以下、
B:0〜0.005%、
N:0.18%以下、
O:0.01%以下、
残部:Feおよび不純物である溶接材料を使用して溶接する、請求項1から請求項までのいずれかに記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電用ボイラの主蒸気管または再熱蒸気管などの高温部材として長期使用されたオーステナイト系耐熱合金を用いた溶接継手の製造方法およびそれを用いて得られる溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷軽減の観点から発電用ボイラ等では運転条件の高温および高圧化が世界的規模で進められており、過熱器管または再熱器管の材料として使用されるオーステナイト系耐熱合金またはNi基耐熱合金には、より優れた高温強度および耐食性を有することが求められている。
【0003】
また、従来、フェライト系耐熱鋼が使用されていた、主蒸気管または再熱蒸気管等の厚肉の部材を含む種々の部材においても、高強度化が求められており、高強度オーステナイト系耐熱合金またはNi基耐熱合金の適用が検討されている。
【0004】
このような技術的背景のもと、例えば、特許文献1には、Wを活用し高温強度を高めるとともに、有効B量を規定することにより、熱間加工性を改善したNi基合金製品が開示されている。また、特許文献2には、Cr、TiおよびZrの活用により、クリープ破断強度を高めたオーステナイト系耐熱合金が開示されている。特許文献3には、多量のWを含有させるとともに、AlおよびTiを活用し、固溶強化とγ’相による析出強化とによりクリープ破断強度を高めたNi基耐熱合金が開示されている。
【0005】
これらオーステナイト系耐熱合金またはNi基耐熱合金を構造物として使用する場合、一般には溶接により組み立てられる。その際、溶接部には、主として冶金的要因に起因した様々な割れが発生しやすくなることが知られている。特に、高温環境で長時間使用した際に、いわゆる応力緩和割れが発生することが問題となる。応力緩和割れとは、溶接により生じた残留応力が緩和してゆく過程で発生する割れのことである。
【0006】
そのため、特許文献4には、Al、TiおよびNbを活用し、クリープ強度を高めると同時に、PおよびBの含有量の管理ならびにNdの含有により耐液化割れ性を高めたオーステナイト系耐熱合金が開示されている。また、特許文献5には、MoおよびWを活用し、クリープ強度を高めるとともに、不純物元素、ならびに、TiおよびAlの含有量を規定し、溶接時の耐液化割れおよび使用時の耐応力緩和割れ性を改善したオーステナイト系耐熱合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4631986号公報
【特許文献2】国際公開第2009/154161号
【特許文献3】国際公開第2010/038826号
【特許文献4】国際公報第2011/071054号
【特許文献5】特開2010−150593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4および5で開示されているオーステナイト系耐熱合金を主蒸気管または再熱蒸気管などの厚肉の部材に適用し、溶接により組み立てた場合、確かに溶接時の液化割れおよび使用時の応力緩和割れを防止することができる。
【0009】
しかしながら、これら高温で使用されるオーステナイト系耐熱合金の構造物は、経年劣化に伴う部分的な損傷により、構造物の一部を溶接補修する必要が生じる場合がある。そして、これら高温で使用されたオーステナイト系耐熱合金を用いて溶接すると、溶接熱影響部に割れが生じる場合があることが新たに判明した。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、火力発電用ボイラの主蒸気管または再熱蒸気管などの高温部材として長期使用されたオーステナイト系耐熱合金を用いて、オーステナイト系耐熱合金溶接継手を製造する方法およびそれを用いて得られる溶接継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、まず、高温に長時間晒されたオーステナイト系耐熱合金を用いた溶接継手の溶接熱影響部の割れ発生現象について、詳細な調査を行った。その結果、下記〈1〉〜〈3〉が確認された。
【0012】
〈1〉溶接熱影響部の割れは、高温で使用された際の温度および時間の増大とともに発生しやすくなり、ある条件を超えると生じやすくなる傾向にあることが分かった。具体的には、使用時の加熱保持温度Tが600〜850℃である場合、使用時の加熱保持温度Tおよび加熱保持時間tから決まるパラメーター(以下、Pともいう。)が2100以上であると、溶接熱影響部の割れが生じやすくなる傾向にあることが分かった。ただし、P=T×(1.0+logt)である。
【0013】
〈2〉溶接熱影響部の割れは、溶融境界から数百μm離れた位置で発生した。そして、その割れ破面を観察した結果、溶融痕は認められず、延性に乏しい破面を呈していた。さらに、割れ破面上には、濃化したSおよびPが検出された。
【0014】
〈3〉さらに、溶接熱影響部の組織観察の結果、割れが発生した溶融境界から数百μm離れた溶接熱影響部の粒内には、溶融線近傍の溶接熱影響部に比べて、微細な析出物が数多く観察された。
【0015】
これらの結果から、高温で長期使用されたオーステナイト系耐熱合金を用いて溶接した場合に溶接熱影響部に発生する割れは、以下の機構により発生したものと推定された。
【0016】
すなわち、高温での長期使用とともに、オーステナイト系耐熱合金の結晶粒内には析出物が微細に析出するが、使用温度が高いほど短時間で析出し、使用時間が長くなるとその量が増大する。さらに、使用中には、不純物元素であるSおよびPの粒界偏析も併せて生じる。
【0017】
このように、粒内に析出相が存在し、不純物が粒界偏析したオーステナイト系耐熱合金を溶接した場合、溶融境界近傍の溶接熱影響部では、最高到達温度が高いため、粒内析出物は再び母相に固溶するとともに、粒界偏析が解消される。しかしながら、溶融境界から少し離れた溶接熱影響部では、最高到達温度が低いため、粒内析出物の再固溶および粒界偏析の解消は生じない。ここで、溶接時には、溶接に伴う膨張収縮により溶接熱影響部に熱応力が生じる。そのため、粒内に多量に析出相が存在する領域、すなわち溶融境界から少し離れた溶接熱影響部では、粒内の変形抵抗が高く、粒内が変形できなくなり、熱応力による変形が粒界に集中する。加えて、粒界にSおよびP等の不純物元素も多量に偏析しており、脆化が生じる。その結果、変形に耐えきれず粒界が開口し、割れに至ったものと考えられる。
【0018】
そして、鋭意検討を繰り返した結果、これを防止するためには以下の方法が有効であることが明らかとなった。すなわち、溶接時の割れを防止するためには、高温での使用中に過剰に粒内に析出が生じている場合、その析出物を再固溶させるとともに、不純物の粒界偏析を軽減させることが有効であることが分かった。
【0019】
具体的には、下記〔1〕および〔2〕に示すことが分かった。
【0020】
〔1〕オーステナイト系耐熱合金において、使用時の加熱保持温度Tが600〜850℃であり、かつ、使用時の加熱保持温度Tおよび加熱保持時間tから決まるパラメーター(以下、Pともいう。)が2100以上となる場合、溶接前に熱処理を施すことが有効である。ただし、P=T×(1.0+logt)である。
【0021】
〔2〕溶接前に施す熱処理は、熱処理保持温度Tが1050〜1300℃であり、熱処理保持時間tが[−0.1×(T/50−30)]以上であることが有効である。ただし、熱処理保持時間tが[−0.1×(T/10−145)]を超えると、効果がないどころか、むしろ悪影響を与える。
【0022】
本発明は、上記の知見を基礎としてなされたものであり、下記のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法およびそれを用いて得られる溶接継手を要旨とする。
【0023】
(1)下記(i)式および(ii)式を満足する条件で使用された合金母材を、
下記(iii)式および(iv)式を満足する条件で熱処理を施した後、溶接する、オーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
600≦T≦850 ・・・(i)
2100≦T×(1.0+logt) ・・・(ii)
1050≦T≦1300 ・・・(iii)
−0.1×(T/50−30)≦t≦−0.1×(T/10−145) ・・・(iv)
ただし、上式中の各記号の意味は下記の通りである。
:使用時の加熱保持温度(℃)
:使用時の加熱保持時間(h)
:熱処理保持温度(℃)
:熱処理保持時間(h)
【0024】
(2)前記合金母材の化学組成が、質量%で、
C:0.04〜0.12%、
Si:1.0%以下、
Mn:2.0%以下、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
Ni:42.0〜54.0%、
Cr:20.0〜33.0%、
W:3.0〜10.0%、
Ti:0.05〜1.0%、
Al:0.3%以下、
B:0.0001〜0.01%、
N:0.02%以下、
O:0.01%以下、
Ca:0〜0.05%、
Mg:0〜0.05%、
REM:0〜0.5%、
Co:0〜1.0%、
Cu:0〜4.0%、
Mo:0〜1.0%、
V:0〜0.5%、
Nb:0〜0.5%、
Zr:0〜0.05%、
残部:Feおよび不純物である、上記(1)に記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
【0025】
(3)化学組成が、質量%で、
C:0.04〜0.12%、
Si:1.0%以下、
Mn:2.0%以下、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
Ni:42.0〜48.0%、
Cr:20.0〜26.0%、
W:4.0〜10.0%、
Ti:0.05〜0.15%、
Nb:0.1〜0.4%、
Al:0.3%以下、
B:0.0001〜0.01%、
N:0.02%以下、
O:0.01%以下、
Ca:0〜0.05%、
Mg:0〜0.05%、
REM:0〜0.1%、
Co:0〜1.0%、
Cu:0〜4.0%、
Mo:0〜1.0%、
V:0〜0.5%、
残部:Feおよび不純物であり、かつ、
下記(i)式および(ii)式を満足する条件で使用された合金母材を、
下記(iii)式および(iv)式を満足する条件で熱処理を施した後、溶接する、オーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
600≦T≦850 ・・・(i)
2800≦T×(1.0+logt) ・・・(ii)
1050≦T≦1300 ・・・(iii)
−0.1×(T/50−30)≦t≦−0.1×(T/10−145) ・・・(iv)
ただし、上式中の各記号の意味は下記の通りである。
:使用時の加熱保持温度(℃)
:使用時の加熱保持時間(h)
:熱処理保持温度(℃)
:熱処理保持時間(h)
【0026】
(4)前記合金母材の化学組成が、質量%で、
Ca:0.0001〜0.05%、
Mg:0.0001〜0.05%、
REM:0.0005〜0.1%、
Co:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜4.0%、
Mo:0.01〜1.0%、および
V:0.01〜0.5%、
から選択される1種以上を含有する、上記(2)または(3)に記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
【0027】
(5)化学組成が、質量%で、
C:0.04〜0.12%、
Si:0.5%以下、
Mn:1.5%以下、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
Ni:46.0〜54.0%、
Cr:27.0〜33.0%、
W:3.0〜9.0%、
Ti:0.05〜1.0%、
Zr:0.005〜0.05%、
Al:0.05〜0.3%、
B:0.0001〜0.005%、
N:0.02%以下、
O:0.01%以下、
Ca:0〜0.05%、
Mg:0〜0.05%、
REM:0〜0.5%、
Co:0〜1.0%、
Cu:0〜4.0%、
Mo:0〜1.0%、
V:0〜0.5%、
Nb:0〜0.5%、
残部:Feおよび不純物であり、かつ、
下記(i)式および(ii)式を満足する条件で使用された合金母材を、
下記(iii)式および(iv)式を満足する条件で熱処理を施した後、溶接する、オーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
600≦T≦850 ・・・(i)
2100≦T×(1.0+logt) ・・・(ii)
1050≦T≦1250 ・・・(iii)
−0.1×(T/50−30)≦t≦−0.1×(T/10−145) ・・・(iv)
ただし、上式中の各記号の意味は下記の通りである。
:使用時の加熱保持温度(℃)
:使用時の加熱保持時間(h)
:熱処理保持温度(℃)
:熱処理保持時間(h)
【0028】
(6)前記合金母材の化学組成が、質量%で、
Ca:0.0001〜0.05%、
Mg:0.0001〜0.05%、
REM:0.0005〜0.5%、
Co:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜4.0%、
Mo:0.01〜1.0%、
V:0.01〜0.5%、および
Nb:0.01〜0.5%、
から選択される1種以上を含有する、上記(2)または(5)に記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
【0029】
(7)前記熱処理において、冷却過程における500℃までの平均冷却速度が50℃/h以上である、上記(1)から(6)までのいずれかに記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
【0030】
(8)前記熱処理は、少なくとも被溶接部から30mm以内の範囲すべてに施す、上記(1)から(7)までのいずれかに記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
【0031】
(9)化学組成が、質量%で、
C:0.06〜0.18%、
Si:1.0%以下、
Mn:2.0%以下、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
Ni:40.0〜60.0%、
Cr:20.0〜33.0%、
MoおよびWから選択される1種以上:合計6.0〜13.0%
Ti:0.05〜1.5%、
Co:0〜15.0%、
Nb:0〜0.5%、
Al:1.5%以下、
B:0〜0.005%、
N:0.18%以下、
O:0.01%以下、
残部:Feおよび不純物である溶接材料を使用して溶接する、上記(1)から上記(8)までのいずれかに記載のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法。
【0032】
(10)上記(1)から上記(9)までのいずれかに記載の製造方法を用いて得られる、オーステナイト系耐熱合金溶接継手。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る製造方法によれば、火力発電用ボイラの主蒸気管または再熱蒸気管などの高温部材として長期使用されたオーステナイト系耐熱合金を用いて、オーステナイト系耐熱合金溶接継手を安定して得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0035】
1.合金母材の化学組成
本発明に係るオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造に使用する合金母材に含有される各元素の限定理由は下記のとおりである。
【0036】
C:0.04〜0.12%
Cは、オーステナイトを安定化させる作用を有するとともに、微細な炭化物を形成し、高温使用中のクリープ強度を向上させる効果を有する元素である。この効果を充分に得るためには、0.04%以上のC含有量が必要である。しかしながら、C含有量が過剰であると、炭化物が粗大となり、かつ、多量に析出するため、クリープ強度への寄与が飽和する。そればかりでなく、延性を低下させて、長時間使用した材料において溶接性を低下させる。したがって、C含有量は0.12%以下とする。C含有量は、0.05%以上であることが好ましく、0.06%以上であることがより好ましい。また、C含有量は、0.11%以下であることが好ましく、0.08%以下であることがより好ましい。
【0037】
Si:1.0%以下
Siは、脱酸作用を有するとともに、高温での耐食性および耐酸化性の向上に有効な元素である。しかしながら、Siが過剰に含有された場合にはオーステナイトの安定性が低下して、靱性およびクリープ強度の低下を招く。そのため、Siの含有量に上限を設けて1.0%以下とする。Si含有量は、0.8%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0.3%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
なお、Siの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端に低減させると脱酸効果が充分に得られず合金の清浄性が劣化するとともに、高温での耐食性および耐酸化性の向上効果が得難くなり、製造コストも大きく上昇する。そのため、Si含有量は、0.02%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましい。
【0039】
Mn:2.0%以下
Mnは、Siと同様、脱酸作用を有する元素である。また、Mnは、オーステナイトの安定化にも寄与する。しかしながら、Mnの含有量が過剰になると脆化を招き、さらに、靱性およびクリープ延性の低下も生じる。そのため、Mnの含有量に上限を設けて2.0%以下とする。Mnの含有量は、1.8%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1.3%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
なお、Mnの含有量についても特に下限を設ける必要はないが、極端に低減させると脱酸効果が充分に得られず合金の清浄性が劣化するとともに、オーステナイト安定化効果が得難くなり、さらに製造コストも大きく上昇する。そのため、Mn含有量は、0.02%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましい。
【0041】
P:0.03%以下
Pは、不純物として合金中に含まれ、溶接中に溶接熱影響部の結晶粒界に偏析して、液化割れ感受性を高める元素である。さらに、高温で長時間使用した際に粒界に偏析し、クリープ延性を低下させるとともに、長時間使用した材料において溶接性を低下させる。そのため、Pの含有量に上限を設けて0.03%以下とする。Pの含有量は、0.025%以下であることが好ましく、0.02%以下であることがより好ましい。
【0042】
なお、Pの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製造コストの増大を招く。そのため、P含有量は、0.0005%以上であることが好ましく、0.0008%以上であることがより好ましい。
【0043】
S:0.01%以下
Sは、Pと同様に不純物として合金中に含まれ、溶接中に溶接熱影響部の結晶粒界に偏析して、液化割れ感受性を高める元素である。さらに、高温で長時間使用した際に粒界に偏析して脆化を招き、長時間使用した材料において溶接性を低下させる。そのため、Sの含有量に上限を設けて0.01%以下とする。Sの含有量は、0.008%以下であることが好ましく、0.005%以下であることがより好ましい。
【0044】
なお、Sの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製造コストの増大を招く。そのため、S含有量は、0.0001%以上であることが好ましく、0.0002%以上であることがより好ましい。
【0045】
Ni:42.0〜54.0%
Niは、オーステナイトを得るために有効な元素であり、高温での長時間使用時における組織安定性を確保するために必須の元素である。本発明のCr含有量の範囲で充分な効果を得るためには、42.0%以上のNi含有量が必要である。しかしながら、Niは高価な元素であり、多量に含有させるとコストの増大を招く。そのため、上限を設けて、Niの含有量を54.0%以下とする。Ni含有量は、42.5%以上であることが好ましく、43.0%以上であることがより好ましい。また、Ni含有量は、53.0%以下であることが好ましく、52.0%以下であることがより好ましい。
【0046】
Cr:20.0〜33.0%
Crは、高温での耐酸化性および耐食性の確保のために必須の元素である。また、Crは、微細な炭化物またはさらにCr富化相を形成してクリープ強度の確保にも寄与する。本発明のNi含有量の範囲で、上記の効果を得るためには、20.0%以上のCr含有量が必要である。しかしながら、Crの含有量が33.0%を超えると、高温でのオーステナイトの安定性が劣化してクリープ強度の低下を招く。さらに、多量の炭化物またはさらにCr富化相の析出を招き、変形抵抗を高め、長時間使用した材料において溶接性を低下させる。したがって、Crの含有量を33.0%以下とする。Cr含有量は、20.5%以上であることが好ましく、21.0%以上であることがより好ましい。また、Cr含有量は、32.5%以下であることが好ましく、32.0%以下であることがより好ましい。
【0047】
W:3.0〜10.0%
Wは、マトリックスに固溶し、または、微細な金属間化合物相を形成して、高温でのクリープ強度および引張強さの向上に大きく寄与する元素である。この効果を充分に得るためには、3.0%以上のW含有量が必要である。しかしながら、Wを過剰に含有させても効果は飽和し、却ってクリープ強度を低下させる。さらに、多量の金属間化合物の析出を招き、変形抵抗を高め、長時間使用した材料において溶接性を低下させる場合もある。また、高価な元素であるため、過剰に含有させるとコストの増大を招く。そのため上限を設けて、Wの含有量を10.0%以下とする。
【0048】
W含有量は、3.5%以上であることが好ましく、4.0%以上であることがより好ましく、4.5%以上であることがさらに好ましく、5.0%以上であることが特に好ましい。また、W含有量は、9.5%以下であることが好ましく、9.0%以下であることがより好ましく、8.5%以下であることがさらに好ましく、8.0%以下であることが特に好ましい。
【0049】
Ti:0.05〜1.0%
Tiは、微細な炭窒化物または金属間化合物相として粒内に析出し、高温でのクリープ強度および引張強さの向上に寄与する。その効果を充分に得るためには、0.05%以上のTi含有量が必要である。しかしながら、Tiの含有量が過剰になると、炭窒化物が多量に析出し、クリープ延性および靱性の低下を招くとともに、長時間使用した材料において溶接性を低下させる。そのため、上限を設けて、Tiの含有量を1.0%以下とする。Ti含有量は、0.06%以上であることが好ましく、0.07%以上であることがより好ましい。また、Ti含有量は、0.9%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましい。
【0050】
Al:0.3%以下
Alは、脱酸作用を有するとともに、使用中に金属間化合物相として析出し、クリープ強度の向上にも寄与する元素である。しかしながら、Alの含有量が過剰になると合金の清浄性が著しく劣化して、熱間加工性および延性が低下する。そのため、上限を設けて、Alの含有量を0.3%以下とする。Al含有量は、0.2%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。
【0051】
なお、Alの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端に低減させると脱酸効果が充分に得られず、合金の清浄性が却って劣化するとともに、製造コストも大きく上昇する。そのため、Al含有量は、0.0005%以上であることが好ましく、0.001%以上であることがより好ましい。また、クリープ強度の向上効果を得たい場合は、Al含有量は、0.05%以上であることが好ましく、0.06%以上であることがより好ましく、0.07%以上であることがさらに好ましい。
【0052】
B:0.0001〜0.01%
Bは、粒界炭化物を微細分散させることにより、クリープ強度を向上させるとともに、粒界に偏析して粒界を強化するのに有効な元素である。この効果を得るためには、B含有量を0.0001%以上とする必要がある。しかしながら、Bの含有量が過剰になると、溶接中の溶接熱サイクルにより溶融境界近傍の熱影響部にBが多量に偏析して粒界の融点が低下し、液化割れ感受性が高まる。そのため、上限を設けて、Bの含有量を0.01%以下とする。B含有量は、0.0005%以上であることが好ましく、0.001%以上であることがより好ましい。また、B含有量は、0.008%以下であることが好ましく、0.006%以下であることがより好ましい。
【0053】
N:0.02%以下
Nは、オーステナイトを安定にするのに有効な元素であるものの、過剰に含有されると、高温での使用中に多量の微細窒化物が粒内に析出して、クリープ延性および靱性の低下を招く。さらには、長時間使用した材料の溶接性を低下させる。そのため、Nの含有量に上限を設けて0.02%以下とする。Nの含有量は、0.018%以下であることが好ましく、0.015%以下であることがより好ましい。
【0054】
なお、Nの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端に低減させるとオーステナイトを安定にする効果が得難くなり、製造コストも大きく上昇する。そのため、N含有量は、0.0005%以上であることが好ましく、0.0008%以上であることがより好ましい。
【0055】
O:0.01%以下
O(酸素)は、不純物として合金中に含まれ、その含有量が過剰になると熱間加工性が低下し、さらに靱性および延性の劣化を招く。このため、Oの含有量に上限を設けて0.01%以下とする。Oの含有量は、0.008%以下であることが好ましく、0.005%以下であることがより好ましい。
【0056】
なお、Oの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は製造コストの上昇を招く。そのため、O含有量は、0.0005%以上であることが好ましく、0.0008%以上であることがより好ましい。
【0057】
Ca:0〜0.05%
Caは、熱間加工性を改善する作用を有する元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、Caの含有量が過剰になると、Oと結合して、清浄性を著しく低下させ、却って熱間加工性を劣化させる。したがって、Caを含有させる場合には、その含有量を0.05%以下とする。Ca含有量は、0.03%以下であることが好ましい。
【0058】
なお、上記の効果を得たい場合は、Ca含有量を0.0001%以上とすることが好ましく、0.0005%以上とすることがより好ましい。
【0059】
Mg:0〜0.05%
Mgは、Caと同様、熱間加工性を改善する作用を有する元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、Mgの含有量が過剰になると、Oと結合して、清浄性を著しく低下させ、却って熱間加工性を劣化させる。したがって、Mgを含有させる場合には、その含有量を0.05%以下とする。Mg含有量は、0.03%以下であることが好ましい。
【0060】
なお、上記の効果を得たい場合は、Mg含有量を0.0001%以上とすることが好ましく、0.0005%以上とすることがより好ましい。
【0061】
REM:0〜0.5%
REMは、Sとの親和力が強く、熱間加工性を改善する作用を有する元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、REMの含有量が過剰になると、Oと結合して、清浄性を著しく低下させ、却って熱間加工性を劣化させる。したがって、REMを含有させる場合には、その含有量を0.5%以下とする。REM含有量は、0.2%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましく、0.06%以下であることがさらに好ましい。
【0062】
なお、上記の効果を得たい場合は、REM含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.001%以上とすることがより好ましい。
【0063】
なお、「REM」とは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量は、REMのうちの1種または2種以上の元素の合計含有量を指す。また、REMについては、一般的にミッシュメタルに含有される。このため、例えば、ミッシュメタルの形で添加して、REMの量が上記の範囲となるように含有させてもよい。
【0064】
上記のCa、MgおよびREMは、いずれも熱間加工性を向上させる作用を有するため、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、0.5%以下であることが好ましい。
【0065】
Co:0〜1.0%
Coは、Niと同様に、オーステナイトを得るために有効な元素であり、相安定性を高めてクリープ強度の向上に寄与するため、含有させてもよい。しかしながら、Coは極めて高価な元素であるため、Coの過剰の含有は大幅なコスト増を招く。したがって、Coを含有させる場合には、その含有量を1.0%以下とする。Co含有量は、0.8%以下であることが好ましく、0.4%以下であることがより好ましい。
【0066】
なお、上記の効果を得たい場合は、Co含有量を0.01%以上とすることが好ましく、0.03%以上とすることがより好ましい。
【0067】
Cu:0〜4.0%
Cuは、クリープ強度を向上させる作用を有する元素である。すなわち、Cuは、NiおよびCoと同様に、オーステナイトを得るために有効な元素であり、相安定性を高めてクリープ強度の向上に寄与する。このため、Cuを含有させてもよい。しかしながら、Cuが過剰に含有された場合には、熱間加工性の低下を招く。したがって、Cuを含有させる場合には、その含有量を4.0%以下とする。Cu含有量は、3.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。
【0068】
なお、上記の効果を得たい場合は、Cu含有量を0.01%以上とすることが好ましく、0.03%以上とすることがより好ましい。
【0069】
Mo:0〜1.0%
Moは、クリープ強度を向上させる作用を有する元素である。すなわち、Moは、マトリックスに固溶して高温でのクリープ強度を向上させる作用を有するため、含有させてもよい。しかしながら、Moが過剰に含有された場合、オーステナイトの安定性が低下して、却ってクリープ強度の低下を招く。したがって、Moを含有させる場合には、その含有量を1.0%以下とする。Mo含有量は、0.8%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。
【0070】
なお、上記の効果を得たい場合は、Mo含有量を0.01%以上とすることが好ましく、0.03%以上とすることがより好ましい。
【0071】
V:0〜0.5%
Vは、クリープ強度を向上させる作用を有する元素である。すなわち、Vは、CまたはNと結合して微細な炭化物または炭窒化物を形成し、クリープ強度を向上させる作用を有するため、含有させてもよい。しかしながら、Vが過剰に含有された場合、炭化物または炭窒化物として多量に析出し、クリープ延性の低下を招くとともに、長時間使用した材料において溶接性を低下させる。したがって、Vを含有させる場合には、その含有量を0.5%以下とする。V含有量は、0.4%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましい。
【0072】
なお、上記の効果を得たい場合は、Vの含有量を0.01%以上とすることが好ましく、0.02%以上とすることがより好ましい。
【0073】
Nb:0〜0.5%
Nbは、TiおよびVと同様に、CまたはNと結合して微細な炭化物または炭窒化物として粒内に析出し、高温でのクリープ強度向上に寄与するため、含有させてもよい。しかしながら、Nbの含有量が過剰になると、炭化物および炭窒化物として多量に析出し、クリープ延性および靱性の低下を招くとともに、長時間使用した材料において溶接性を低下させる。そのため、上限を設けて、Nbの含有量を0.5%以下とする。Nb含有量は、0.4%以下であることが好ましく、0.38%以下であることがより好ましく、0.35%以下であることがさらに好ましい。
【0074】
なお、上記の効果を得たい場合は、Nb含有量は、0.01%以上であることが好ましく、0.02%以上であることがより好ましく、0.05%以上であることがさらに好ましい。
【0075】
上記のCo、Cu、Mo、VおよびNbは、いずれもクリープ強度を向上させる作用を有するため、そのうちのいずれか1種のみ、または、2種以上の複合で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、6.0%以下であることが好ましい。
【0076】
Zr:0〜0.05%
Zrは、Tiと同様に、マトリックスに固溶して高温でのクリープ強度を向上させる。また、Zrは、Sとの親和力が強く、Sの固定によりクリープ延性も向上させる。しかしながら、Zrの含有量が過剰になると、クリープ延性の低下を招く。そのため、上限を設けて、Zrの含有量を0.05%以下とする。Zr含有量は、0.04%以下であることが好ましく、0.03%以下であることがより好ましい。
【0077】
なお、上記の効果を得たい場合は、Zr含有量は、0.005%以上であることが好ましく、0.008%以上であることがより好ましく、0.01%以上であることがさらに好ましい。
【0078】
本発明に係るオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造に使用する合金母材は、上述の各元素を含み、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するものである。
【0079】
なお、「不純物」とは、合金を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップまたは製造環境などから混入するものを指す。
【0080】
上記合金母材の組成として代表的なものは、以下の二種類である。
【0081】
(a)化学組成が、質量%で、C:0.04〜0.12%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:42.0〜48.0%、Cr:20.0〜26.0%、W:4.0〜10.0%、Ti:0.05〜0.15%、Nb:0.1〜0.4%、Al:0.3%以下、B:0.0001〜0.01%、N:0.02%以下、O:0.01%以下、Ca:0〜0.05%、Mg:0〜0.05%、REM:0〜0.1%、Co:0〜1.0%、Cu:0〜4.0%、Mo:0〜1.0%、V:0〜0.5%、残部:Feおよび不純物である合金母材。
【0082】
(b)化学組成が、質量%で、C:0.04〜0.12%、Si:0.5%以下、Mn:1.5%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:46.0〜54.0%、Cr:27.0〜33.0%、W:3.0〜9.0%、Ti:0.05〜1.0%、Zr:0.005〜0.05%、Al:0.05〜0.3%、B:0.0001〜0.005%、N:0.02%以下、O:0.01%以下、Ca:0〜0.05%、Mg:0〜0.05%、REM:0〜0.5%、Co:0〜1.0%、Cu:0〜4.0%、Mo:0〜1.0%、V:0〜0.5%、Nb:0〜0.5%、残部:Feおよび不純物である合金母材。
【0083】
上記(a)の化学組成においては、Si含有量は0.6%以下であることが好ましい。Ni含有量は、48.0%以下であることが好ましく、47.5%以下であることがより好ましく、47.0%以下であることがさらに好ましい。また、Cr含有量は、25.5%以下であることが好ましく、25.0%以下であることがより好ましい。さらに、Ti含有量は、0.14%以下であることが好ましく、0.13%以下であることがより好ましい。そして、Nb含有量は、0.12%以上であることが好ましく、0.15%以上であることがより好ましい。
【0084】
上記(b)の化学組成においては、Mn含有量は1.1%以下であることが好ましい。Ni含有量は46.0%以上であることが好ましく、47.0%以上であることがより好ましく、48.0%以上であることがさらに好ましい。Cr含有量は、27.5%以上であることが好ましく、28.0%以上であることがより好ましい。さらに、Nb含有量は、0.2%以下であることが好ましい。
【0085】
2.合金母材の使用条件
本発明のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造に使用する合金母材は、使用時の加熱保持温度Tが下記(i)式を満足し、かつ、使用時の加熱保持温度Tおよび加熱保持時間tから決まるパラメーター(以下、Pともいう。)が下記(ii)式を満足する条件で使用されたものである。
【0086】
使用時の加熱保持温度T(℃):600≦T≦850 ・・・(i)
:2100≦T×(1.0+logt) ・・・(ii)
本発明のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造に使用する合金母材は、600〜850℃に加熱された場合、結晶粒内に析出物が微細に析出する。特に、合金母材が上記(a)に記載される化学組成を有する場合においては、M23炭化物および金属間化合物であるラーベス相が析出し、上記(b)に記載される化学組成を有する場合においては、M23炭化物およびCrが富化したbcc相が析出する傾向にある。
【0087】
また、SおよびPの粒界偏析も同時に生じる。析出物が粒内に析出する量、および、不純物の粒界偏析する量が所定の量を超えると、粒内の変形抵抗が大きくなるとともに、粒界が弱化するため、長時間使用後の材料を溶接すると溶接割れが生じる。本発明のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造に使用する合金母材は、Pが2100以上になると、析出による粒内変形抵抗の増大と偏析による粒界の弱化とが顕著になるため、溶接前に熱処理を施すことが必要となる。なお、合金母材が上記(a)に記載される化学組成を有する場合においては、Pが2800以上になった際に、溶接前に熱処理を施すこととしてもよい。
【0088】
3.熱処理条件
本発明のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法では、前記合金母材を溶接する前に熱処理を施す。上記熱処理は、溶接割れを防止するため、熱処理保持温度Tおよび熱処理保持時間tが下記(iii)式および(iv)式を満足する条件で行う必要がある。
【0089】
熱処理保持温度T(℃):1050≦T≦1300 ・・・(iii)
溶接割れを防止するためには、熱処理により、高温での使用中に過剰に粒内に析出した析出物を再度基地に固溶させるとともに、粒界に偏析した不純物元素を軽減させることが有効である。そのためには、熱処理保持温度Tを少なくとも1050℃以上にする必要がある。しかしながら、熱処理保持温度Tが1300℃を超えると、粒界の局部溶融が開始される。そのため、熱処理保持温度Tは1300℃以下とする。
【0090】
さらに、後述する通り、熱処理に際しては、熱処理保持温度Tに応じて、熱処理保持時間tを所定の範囲に管理する必要がある。熱処理保持温度Tは、1080℃以上であることが好ましく、1100℃以上であることがより好ましい。また、熱処理保持温度Tは、1280℃以下であることが好ましく、1250℃以下であることがより好ましい。特に、合金母材が上記(b)に記載される化学組成を有する場合においては、熱処理保持温度Tは1250℃以下であることが好ましく、1230℃以下であることがより好ましく、1200℃以下であることがさらに好ましい。
【0091】
熱処理保持時間t(h):−0.1×(T/50−30)≦t≦−0.1×(T/10−145) ・・・(iv)
溶接割れを防止するためには、熱処理の実施が有効であるが、その熱処理保持時間tは−0.1×(T/50−30)以上とする必要がある。これは、熱処理保持時間tがこの値を下回ると、析出物の基地への再固溶および粒界偏析の軽減を達成するための合金元素の拡散に要する時間が不充分となるためである。しかしながら、熱処理保持時間tが−0.1×(T/10−145)を超えると、結晶粒径の粗大化が著しくなり、溶接の際、溶融線近傍に液化割れが生じやすくなる。そのため、熱処理保持時間tは、−0.1×(T/10−145)以下とする必要がある。
【0092】
なお、熱処理において、その冷却の過程では、500℃までの平均冷却速度が50℃/h以上であることが好ましい。この理由は、平均冷却速度が50℃/hを下回ると、冷却の過程で再び粒内に炭化物等が析出するとともに、不純物の粒界偏析が生じる場合があるからである。
【0093】
また、熱処理は、少なくとも被溶接部から30mm以内の範囲すべてに施すことが好ましい。これは、溶接中に生じる熱応力により生じる歪が、この領域で大きくなるためである。
【0094】
4.溶接材料の化学組成
本発明に係るオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造に使用する溶接材料の化学組成については特に制限は設けない。しかしながら、下記に示す範囲の化学組成を有する溶接材料を用いることが好ましい。各元素の限定理由は下記のとおりである。
【0095】
C:0.06〜0.18%
Cは、溶接後の溶接金属中のオーステナイトを安定化させる作用を有するとともに、微細な炭化物を形成し、高温使用中のクリープ強度を向上させる効果を有する元素である。さらには、溶接凝固中にCrと共晶炭化物を形成することで、凝固割れ感受性の低減にも寄与する。この効果を充分に得るためには、0.06%以上のC含有量が必要である。しかしながら、C含有量が過剰であると、炭化物が多量に析出するため、却ってクリープ強度および延性を低下させる。したがって、C含有量は0.18%以下とする。C含有量は0.07%以上であることが好ましく、0.08%以上であることがより好ましい。また、C含有量は0.16%以下であることが好ましく、0.14%以下であることがより好ましい。
【0096】
Si:1.0%以下
Siは、溶接材料の製造時において脱酸に有効であるとともに、溶接後の溶接金属の高温での耐食性および耐酸化性の向上に有効な元素である。しかしながら、Siが過剰に含有された場合にはオーステナイトの安定性が低下して、靱性およびクリープ強度の低下を招く。そのため、Siの含有量に上限を設けて1.0%以下とする。Si含有量は0.8%以下であることが好ましく、0.6%以下であることがより好ましい。
【0097】
なお、Siの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端に低減させると脱酸効果が充分に得られず合金の清浄性が劣化するとともに、高温での耐食性および耐酸化性の向上効果が得難くなり、製造コストも大きく上昇する。そのため、Si含有量は0.02%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましい。
【0098】
Mn:2.0%以下
Mnは、Siと同様、溶接材料の製造時において脱酸に有効な元素である。また、Mnは、溶接後の溶接金属中のオーステナイトの安定化にも寄与する。しかしながら、Mnの含有量が過剰になると脆化を招き、さらに、靱性およびクリープ延性の低下も生じる。そのため、Mnの含有量に上限を設けて2.0%以下とする。Mnの含有量は1.8%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましい。
【0099】
なお、Mnの含有量についても特に下限を設ける必要はないが、極端に低減させると脱酸効果が充分に得られず合金の清浄性が劣化するとともに、オーステナイト安定化効果が得難くなり、さらに製造コストも大きく上昇する。そのため、Mn含有量は0.02%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましい。
【0100】
P:0.03%以下
Pは、不純物として溶接材料中に含まれ、溶接中に凝固割れ感受性を高める元素である。さらに、高温で長時間使用した後の溶接金属のクリープ延性を低下させる。そのため、Pの含有量に上限を設けて0.03%以下とする。Pの含有量は、0.025%以下であることが好ましく、0.02%以下であることがより好ましい。
【0101】
なお、Pの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製造コストの増大を招く。そのため、P含有量は0.0005%以上であることが好ましく、0.0008%以上であることがより好ましい。
【0102】
S:0.01%以下
Sは、Pと同様に不純物として溶接材料中に含まれ、溶接中に凝固割れ感受性を高める元素である。さらに、Sは、溶接金属において長時間使用中に柱状晶粒界に偏析して脆化を招き、応力緩和割れ感受性を高める。そのため、Sの含有量に上限を設けて0.01%以下とする。Sの含有量は、0.008%以下であることが好ましく、0.005%以下であることがより好ましい。
【0103】
なお、Sの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製造コストの増大を招く。そのため、S含有量は、0.0001%以上であることが好ましく、0.0002%以上であることがより好ましい。
【0104】
Ni:40.0〜60.0%
Niは、溶接後の溶接金属中のオーステナイトを安定化させるのに有効な元素であり、長時間使用時のクリープ強度を確保するために必須の元素である。その効果を得るためには、溶接材料のNi含有量を40.0%以上とする必要がある。しかしながら、Niは高価な元素であり、小規模製造の溶接材料においても、多量に含有させるとコストの増大を招く。そのため、上限を設けて、Niの含有量を60.0%以下とする。Ni含有量は、40.5%以上であることが好ましく、41.0%以上であることがより好ましい。また、Ni含有量は、59.5%以下であることが好ましく、59.0%以下であることがより好ましい。
【0105】
Cr:20.0〜33.0%
Crは、溶接後の溶接金属の高温での耐酸化性および耐食性の確保のために有効な元素である。また、Crは、微細な炭化物またはCrが富化したbcc相を形成してクリープ強度の確保にも寄与する。さらに、溶接中にCと共晶炭化物を形成することで、凝固割れ感受性の低減にも寄与する。これらの効果を得るためには、20%以上のCr含有量が必要である。しかしながら、Crの含有量が33.0%を超えると、上記40〜60%のNi量範囲において高温でのオーステナイトの安定性が劣化してクリープ強度の低下を招く。したがって、Crの含有量を33.0%以下とする。
【0106】
Cr含有量は、20.5%以上であることが好ましく、21.0%以上であることがより好ましい。また、Cr含有量は、32.5%以下であることが好ましく、32.0%以下であることがより好ましい。なお、合金母材が上記(a)に記載される化学組成を有する場合においては、Crの含有量は、26.0%以下であることが好ましく、25.5%以下であることがより好ましく、25.0%以下であることがさらに好ましい。
【0107】
MoおよびWから選択される1種以上:合計6.0〜13.0%
MoおよびWは、溶接金属においてマトリックスに固溶し、または、微細な金属間化合物相を形成して、高温でのクリープ強度および引張強さの向上に大きく寄与する元素である。この効果を充分に得るためには、MoおよびWから選択される1種以上を合計で6.0%以上含有させる必要である。しかしながら、これらの元素を過剰に含有させても効果は飽和し、却ってクリープ強度を低下させる。さらに、MoおよびWは高価な元素であるため、過剰に含有させるとコストの増大を招く。そのため上限を設けて、MoおよびWから選択される1種以上の合計含有量を13.0%以下とする。合計含有量は、6.5%以上であることが好ましく、7.0%以上であることがより好ましい。また、合計含有量は、12.5%以下であることが好ましく、12.0%以下であることがより好ましい。
【0108】
Ti:0.05〜0.6%
Tiは、溶接金属中に微細な炭窒化物として、さらに、Niとの金属間化合物相として、粒内に析出し、高温でのクリープ強度および引張強さの向上に寄与する元素である。その効果を充分に得るためには、Ti含有量を0.05%以上とする必要がある。しかしながら、Tiの含有量が過剰になると炭窒化物が多量に析出し、クリープ延性および靱性の低下を招く。そのため、上限を設けて、Tiの含有量を1.5%以下とする。
【0109】
Ti含有量は、0.06%以上であることが好ましく、0.07%以上であることがより好ましい。また、Ti含有量は、1.3%以下であることが好ましく、1.1%以下であることがより好ましい。なお、合金母材が上記(a)に記載される化学組成を有する場合においては、Ti含有量は、0.6%以下であることが好ましく、0.58%以下であることがより好ましく、0.55%以下であることがさらに好ましい。
【0110】
Co:0〜15.0%
Coは、Niと同様に、オーステナイトを得るために有効な元素であり、相安定性を高めてクリープ強度の向上に寄与するため、含有させてもよい。しかしながら、Coは極めて高価な元素であるため、溶接材料といえども過剰の含有は大幅なコスト増を招く。したがって、Coを含有させる場合には、その含有量を15.0%以下とする。Co含有量は、14.0%以下であることが好ましく、13.0%以下であることがより好ましい。
【0111】
なお、上記の効果を得たい場合は、Co含有量を0.01%以上とすることが好ましく、0.03%以上とすることがより好ましい。
【0112】
Nb:0〜0.5%
Nbは、Tiと同様に、CまたはNと結合して微細な炭化物または炭窒化物として粒内に析出し、高温でのクリープ強度向上に寄与するため、含有させてもよい。しかしながら、Nbの含有量が過剰になると、炭化物または炭窒化物として多量に析出し、クリープ延性および靱性の低下を招く。そのため、Nbを含有させる場合には、その含有量を0.5%以下とする。Nb含有量は、0.48%以下であることが好ましく、0.45%以下であることがより好ましい。
【0113】
なお、上記の効果を得たい場合は、Nb含有量を0.01%以上とすることが好ましく、0.03%以上とすることがより好ましい。
【0114】
Al:1.5%以下
Alは、溶接材料の製造時において脱酸に有効な元素である。また、溶接金属において微細な金属間化合物相を形成して、クリープ強度の向上に寄与する。しかしながら、Alの含有量が過剰になると合金の清浄性が著しく劣化して、溶接材料の熱間加工性および延性が低下するため、製造性が低下する。加えて、溶接金属中で多量の金属間化合物相を形成し、高温で長時間使用した際の応力緩和割れ感受性を著しく高める。そのため、上限を設けて、Alの含有量を1.5%以下とする。Al含有量は、1.4%以下であることが好ましく、1.3%以下であることがより好ましい。
【0115】
なお、Alの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端に低減させると脱酸効果が充分に得られず合金の清浄性が却って劣化するとともに、製造コストも大きく上昇する。そのため、Al含有量は0.0005%以上であることが好ましく、0.001%以上であることがより好ましい。
【0116】
B:0〜0.005%
Bは、溶接金属のクリープ強度の向上に有効な元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、Bの含有量が過剰になると、溶接中の凝固割れ感受性が著しく高くなる。そのため、上限を設けて、Bの含有量を0.005%以下とする。B含有量は、0.004%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましい。
【0117】
なお、上記の効果を得たい場合は、B含有量を0.0001%以上とすることが好ましく、0.0005%以上とすることがより好ましい。
【0118】
N:0.18%以下
Nは、溶接金属中のオーステナイトを安定化させ、クリープ強度を向上させるとともに、固溶して引張強さの確保に寄与する元素である。しかしながら、過剰に含有されると、高温での使用中に多量の微細窒化物が粒内に析出してクリープ延性および靱性の低下を招く。そのため、N含有量に上限を設けて0.18%以下とする。N含有量は、0.16%以下であることが好ましく、0.14%以下であることがより好ましい。
【0119】
なお、Nの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端に低減させるとオーステナイトを安定にする効果が得難くなり、製造コストも大きく上昇する。そのため、N含有量は、0.0005%以上であることが好ましく、0.0008%以上であることがより好ましい。
【0120】
O:0.01%以下
O(酸素)は、不純物として溶接材料中に含まれ、その含有量が過剰になると熱間加工性が低下し、製造性の劣化を招く。このため、Oの含有量に上限を設けて0.01%以下とする。Oの含有量は、0.008%以下であることが好ましく、0.005%以下であることがより好ましい。
【0121】
なお、Oの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は製造コストの上昇を招く。そのため、O含有量は、0.0005%以上であることが好ましく、0.0008%以上であることがより好ましい。
【0122】
本発明に係るオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造に使用する溶接材料は、上述の各元素を含み、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するものである。
【0123】
5.その他
本発明のオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造方法では、前記合金母材に熱処理を施した後、溶接する。溶接方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ガスタングステンアーク溶接、ガスメタルアーク溶接、被覆アーク溶接などを用いることができる。
【0124】
本発明に係るオーステナイト系耐熱合金溶接継手の製造に使用する合金母材および溶接材料の形状または寸法について、特に制限は設けない。ただし、本発明に係る製造方法は、特に、厚さが30mm以上の合金母材を用いた場合に効果を発揮する。したがって、合金母材の厚さは、30mm以上であることが好ましい。
【0125】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0126】
表1に示す化学組成を有する合金を溶解してインゴットを作製した。上記インゴットを用いて、熱間鍛造により成形した後、溶体化熱処理を行い、厚さ30mm、幅50mm、長さ100mmのオーステナイト系耐熱合金板を作製した。
【0127】
【表1】
【0128】
さらに、表2に示す化学組成を有する合金を溶解してインゴットを作製した後、熱間鍛造、熱間圧延および機械加工により、外径1.2mmの溶接材料を作製した。
【0129】
【表2】
【0130】
高温での使用を模擬するため、オーステナイト系耐熱合金板を、表3に示す加熱保持温度および加熱保持時間で加熱した。その後、試験番号A3およびA22の溶接継手以外は、表3に示す熱処理保持温度、熱処理保持時間および平均冷却速度で熱処理を行った。
【0131】
【表3】
【0132】
上述した合金板の長手方向に、開先角度30°、ルート厚さ1mmのV開先を加工した。その後、厚さ50mm、幅200mm、長さ200mmのJIS G3160 (2008)に規定のSM400B鋼板上に、JIS Z3224 (1999)に規定の被覆アーク溶接棒DNiCrFe−3を用いて、四周を拘束溶接した。
【0133】
その後、上述した溶接材料を用いて、TIG溶接により、開先内に入熱12〜18kJ/cmで積層溶接を行い、溶接継手を作製した。
【0134】
(割れ観察試験)
得られた溶接継手の5か所から採取した試料の横断面を鏡面研磨、腐食し、光学顕微鏡により検鏡を行い、溶接熱影響部の割れ有無を調査した。そして、5個の試料のうち、全ての試料で割れが認められなかった溶接継手を「○」、1〜2個の試料で割れが認められた溶接継手を「△」とし、「合格」と判定した。また、5個の試料全てで割れが認められた溶接継手を「×」とし、「不合格」と判定した。
【0135】
表3の結果から分かるように、熱処理条件が本発明の規定を満足する試験番号A1、A2、A5〜A8、A10〜A16、A18、A20、A21、A23〜A26、B2〜B6、C1およびD1の溶接継手は、割れ観察試験の結果が合格であり、厚さが30mmであっても、健全な溶接継手が得られたことが分かる。
【0136】
これに対して、試験番号A3およびA22の溶接継手は、合金板に熱処理を施さなかったことから、溶接熱影響部に割れが発生した。
【0137】
試験番号A4の溶接継手は、溶接前に施した熱処理保持温度が1000℃と低かったことから、析出物の再固溶が不充分であるため、粒内の変形抵抗が高く、かつ、粒界偏析の解消も不充分であった。そのため、溶接時に溶融線から少し離れた位置に溶接割れが生じた。
【0138】
試験番号A19の溶接継手は、熱処理保持温度が1350℃と高かったため、粒界の局部溶融が生じ、溶接時にその部分が開口し、割れが生じた。
【0139】
試験番号A9およびB1の溶接継手は、熱処理保持時間が、本発明で規定する範囲を下回ったため、析出物の再固溶および粒界偏析の解消が不充分であり、溶接時に溶融線から少し離れた位置に溶接割れが生じた。
【0140】
試験番号A17およびB7の溶接継手は、熱処理保持時間が、本発明で規定する範囲を超えたため、結晶粒の粗大化が著しく、溶接の際、溶融線に隣接する部分に液化割れが発生した。
【0141】
試験番号A11の溶接継手は、熱処理における平均冷却速度が50℃/hを下回ったため、冷却中に析出物の再析出および粒界偏析が生じた。そのため、割れ観察試験の結果が合格であるものの、1個の試料で溶接熱影響部に割れが発生した。
【実施例2】
【0142】
表4に示す化学組成を有する合金を溶解してインゴットを作製した。上記インゴットを用いて、熱間鍛造により成形した後、溶体化熱処理を行い、厚さ30mm、幅50mm、長さ100mmのオーステナイト系耐熱合金板を作製した。
【0143】
【表4】
【0144】
さらに、表5に示す化学組成を有する合金を溶解してインゴットを作製した後、熱間鍛造、熱間圧延および機械加工により、外径1.2mmの溶接材料を作製した。
【0145】
【表5】
【0146】
高温での使用を模擬するため、オーステナイト系耐熱合金板を、表6に示す加熱保持温度および加熱保持時間で加熱した。その後、試験番号AA3およびAA22の溶接継手以外は、表6に示す熱処理保持温度、熱処理保持時間および平均冷却速度で熱処理を行った。
【0147】
【表6】
【0148】
上述した合金板の長手方向に、開先角度30°、ルート厚さ1mmのV開先を加工した。その後、厚さ50mm、幅200mm、長さ200mmのJIS G3160 (2008)に規定のSM400B鋼板上に、JIS Z3224 (1999)に規定の被覆アーク溶接棒DNiCrFe−3を用いて、四周を拘束溶接した。
【0149】
その後、上述した溶接材料を用いて、TIG溶接により、開先内に入熱12〜18kJ/cmで積層溶接を行い、溶接継手を作製した。そして、得られた溶接継手について、実施例1と同様の方法で割れ観察試験を行った。
【0150】
表6の結果から分かるように、熱処理条件が本発明の規定を満足する試験番号AA1、AA2、AA5〜AA7、AA9〜AA14、AA16、AA17、AA19〜AA21、AA23〜AA26、BB2〜BB5、CC1およびDD1の溶接継手は、割れ観察試験の結果が合格であり、厚さが30mmであっても、健全な溶接継手が得られたことが分かる。
【0151】
これに対して、試験番号AA3およびAA22の溶接継手は、合金板に熱処理を施さなかったことから、溶接熱影響部に割れが発生した。
【0152】
試験番号AA4の溶接継手は、溶接前に施した熱処理保持温度が1000℃と低かったことから、析出物の再固溶が不充分であるため、粒内の変形抵抗が高く、かつ、粒界偏析の解消も不充分であった。そのため、溶接時に溶融線から少し離れた位置に溶接割れが生じた。
【0153】
試験番号AA18の溶接継手は、熱処理保持温度が1320℃と高かったため、粒界の局部溶融が生じ、溶接時にその部分が開口し、割れが生じた。
【0154】
試験番号AA8およびBB1の溶接継手は、熱処理保持時間が、本発明で規定する範囲を下回ったため、析出物の再固溶および粒界偏析の解消が不充分であり、溶接時に溶融線から少し離れた位置に溶接割れが生じた。
【0155】
試験番号AA15およびBB6の溶接継手は、熱処理保持時間が、本発明で規定する範囲を超えたため、結晶粒の粗大化が著しく、溶接の際、溶融線に隣接する部分に液化割れが発生した。
【0156】
試験番号AA10の溶接継手は、熱処理における平均冷却速度が50℃/hを下回ったため、冷却中に析出物の再析出および粒界偏析が生じた。そのため、割れ観察試験の結果が合格であるものの、1個の試料で溶接熱影響部に割れが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明に係る製造方法によれば、火力発電用ボイラの主蒸気管または再熱蒸気管などの高温部材として長期使用されたオーステナイト系耐熱合金を用いて、オーステナイト系耐熱合金溶接継手を安定して得ることができる。