(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モータの複数の相それぞれに対応する複数の上下アームそれぞれが、2つのスイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b、D3a、D3b、D4a、D4b、D5a、D5b)を直列に接続することによって構成され、それによって形成された接続点(NU,NV,NW)それぞれから対応する前記相へ電圧を出力するモータ駆動装置であって、
商用電源(91)から出力される交流電圧を整流する整流部(21)と前記整流部(21)によって整流された電圧を平滑する平滑コンデンサ(22)とを有し、前記上下アームに直流電圧(Vdc)を供給する電源供給部(20)と、
前記電源供給部(20)から前記上下アームに供給される前記直流電圧を検出する電圧検出部(23)と、
前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオンオフ動作させる制御部(40)と、
を備え、
前記制御部(40)は、前記商用電源(91)の電源電圧の変動により過大電圧が発生し、前記電圧検出部(23)の検出値が所定の過大電圧の閾値を超えたとき、前記過大電圧が前記スイッチング素子の耐圧に至る前に全ての前記上下アームの両方の前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオフにすることによって、前記過大電圧を直列接続された前記スイッチング素子それぞれに分圧させる、
モータ駆動装置(10)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような負荷時タップ切換器付き変圧器は大規模な電気設備向けとしては適しているが、家電製品などのインバータ制御されるモータの駆動装置に適用することは容易ではない。
【0004】
また、電源電圧が過大となるのに要する時間は極めて短く、上記のようなタップ切換は時間がかかり過ぎるので、そのようなモータ駆動装置を確実に保護することは困難である。さらに、半導体素子のような、過電圧に耐えうる時間が短いものについては、リレーによる遮断では保護ができない。かといって瞬間的な過大電圧のためだけに半導体素子などの耐圧を高くすることは高コスト化、大型化を招来する。
【0005】
そこで、本発明の課題は、瞬間的な過大電圧から機器を保護する小型・低コストの過電圧保護手段を備えたモータ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係るモータ駆動装置は、モータの複数の相それぞれに対応する複数の上下アームそれぞれが、2つのスイッチング素子を直列に接続することによって構成され、それによって形成された接続点それぞれから対応する前記相へ電圧を出力するモータ駆動装置であって、電源供給部と、電圧検出部と、制御部とを備えている。電源供給部は、
商用電源から出力される交流電圧を整流する整流部と当該整流部によって整流された電圧を平滑する平滑コンデンサとを有し、上下アームに直流電圧Vdcを供給する。電圧検出部は、
電源供給部から上下アームに供給される直流電圧を検出する。制御部は、スイッチング素子をオンオフ動作させる。また、制御部は、
商用電源の電源電圧の変動により過大電圧が発生し、電圧検出部の検出値が所定の
過大電圧の閾値を超えたとき、
過大電圧がスイッチング素子の耐圧に至る前に全ての上下アームの両方のスイッチング素子をオフにする
ことによって、過大電圧を直列接続されたスイッチング素子それぞれに分圧させる。
【0007】
このモータ駆動装置では、上下アームのいずれかのスイッチング素子が動作している間は、直流電圧Vdcは上下アームのオフしているスイッチング素子にかかるので、過大電圧になったときはオフしている1つのスイッチング素子にその過大電圧がかかり破壊される可能性が高い。
【0008】
そこで、過大電圧発生時に上下アームの両方のスイッチング素子をオフすることによって、過大電圧は直列接続された2つのスイッチング素子それぞれの両端に分圧され、1つのスイッチング素子にかかる過大電圧はどちらか一方が動作していた時の半分に低減されるので、スイッチング素子を破壊から保護することができる。
【0009】
本発明の第2観点に係るモータ駆動装置は、第1観点に係るモータ駆動装置であって、
ブートストラップ回路をさらに備えている。ブートストラップ回路は、上下アームの上アーム側スイッチング素子の駆動電源のために、そのスイッチング素子の低電位側よりも高い電位を生成する。
【0010】
このモータ駆動装置では、過大電圧発生時に上下アームの両方のスイッチング素子をオフすることによって、過大電圧は直列接続された2つのスイッチング素子それぞれの両端に分圧され、1つのスイッチング素子にかかる過大電圧はどちらか一方が動作していた時の半分に低減されるので、スイッチング素子を破壊から保護することができる。言い換えれば、直列接続された2つのスイッチング素子のそれぞれが素子耐圧まで耐え得るため、直流電圧部(以下、DC部と略す)の電圧としては、一素子耐圧の倍の電圧まで耐え得ることになる。
【0011】
このとき、上下アームの中点電位は最大でも一素子耐圧程度である(それ以上であれば素子が破壊してしまうため考慮の必要がない)ので、ブートストラップ回路については、その回路構成上、DC部の通常の定格電圧(すなわち一素子耐圧)に耐え得る設計で十分である。
【0012】
本発明の第
3観点に係るモータ駆動装置は、第1観点
又は第2観点に係るモータ駆動装置であって、モータのブレーキ回路をさらに備えている。制御部は、上下アームの両方のスイッチング素子をオフした後、モータにブレーキをかける。
【0013】
このモータ駆動装置では、過大電圧発生時に上下アームの両方のスイッチング素子をオフすることによって、過大電圧は直列接続された2つのスイッチング素子それぞれの両端に分圧され、1つのスイッチング素子にかかる過大電圧はどちらか一方が動作していた時の半分に低減されるので、スイッチング素子を破壊から保護することができる。
【0014】
また、モータのインダクタンス成分が持つエネルギー及びモータの回転による誘起電圧によってスイッチング素子がオンする可能性が高いが、上下アームの両方のスイッチング素子をオフした後、モータに電気的ブレーキをかけて素早く停止させることによって、インダクタンス成分のエネルギーを素早く消費すると共に、モータの回転エネルギーを素早く減衰させ、スイッチング素子がオンしている時間を短くすることができる。
【0015】
本発明の第
4観点に係るモータ駆動装置は、第1観点
から第
3観点
のいずれか1つに係るモータ駆動装置であって、抵抗負荷と、抵抗負荷接続手段とをさらに備えている。抵抗負荷接続手段は、2つのスイッチング素子の接続点と抵抗負荷との間を接続又は遮断する。制御部は、上下アームの両方のスイッチング素子をオフした後、その接続点と抵抗負荷とを接続
し、モータにブレーキをかける。
【0016】
このモータ駆動装置では、過大電圧発生時に上下アームの両方のスイッチング素子をオフすることによって、過大電圧は直列接続された2つのスイッチング素子それぞれの両端に分圧され、1つのスイッチング素子にかかる過大電圧はどちらか一方が動作していた時の半分に低減されるので、スイッチング素子を破壊から保護することができる。
【0017】
また、モータのインダクタンス成分が持つエネルギー及びモータの回転による誘起電圧によってスイッチング素子がオンする可能性が高いが、上下アームの両方のスイッチング素子をオフした後、モータの各相に抵抗負荷を連結し、モータのインダクタンス成分がもつエネルギーを抵抗負荷で短時間に消費させることによって、スイッチング素子がオンしている時間を短くすることができる。
【0018】
本発明の第
5観点に係るモータ駆動装置は、第1観点から第
4観点のいずれか1つに係るモータ駆動装置であって、モータの回転軸に着脱可能な機械的ブレーキをさらに備えている。制御部は、上下アームの両方のスイッチング素子をオフした後、モータに機械的なブレーキをかける。
【0019】
このモータ駆動装置では、過大電圧発生時に上下アームの両方のスイッチング素子をオフすることによって、過大電圧は直列接続された2つのスイッチング素子それぞれの両端に分圧され、1つのスイッチング素子にかかる過大電圧はどちらか一方が動作していた時の半分に低減されるので、スイッチング素子を破壊から保護することができる。
【0020】
また、モータのインダクタンス成分が持つエネルギー及びモータの回転による誘起電圧によってスイッチング素子がオンする可能性が高いが、上下アームの両方のスイッチング素子をオフした後、モータに機械的ブレーキをかけて素早く停止させることによって、モータの回転エネルギーを減衰させ、スイッチング素子がオンしている時間を短くすることができる。
【0021】
本発明の第6観点に係るモータ駆動装置は、第
3観点から第5観点のいずれか1つに係るモータ駆動装置であって、制御部は、電圧検出部の検出値が閾値を超えたとき以外は、前記モータに前記ブレーキをかけない。
【0022】
このモータ駆動装置では、ブレーキの稼動を過電圧時のみに限定することによって、不必要なモータ停止を抑制する。
【0023】
本発明の第
7観点に係るモータ駆動装置は、第1観点から第6観点のいずれか1つに係るモータ駆動装置であって、絶縁電源をさらに備えている。絶縁電源は、上下アームの上アーム側スイッチング素子の駆動に利用される。
【0024】
このモータ駆動装置では、過大電圧発生時に上下アームの両方のスイッチング素子をオフすることによって、過大電圧は直列接続された2つのスイッチング素子それぞれの両端に分圧され、1つのスイッチング素子にかかる過大電圧はどちらか一方が動作していた時の半分に低減されるので、スイッチング素子を破壊から保護することができる。
【0025】
このとき、過大電圧発生時に上下アームの両方のスイッチング素子をオフすることによって、上下アームの中点電位は最大でも一素子耐圧程度までとなる(それ以上は素子が破壊する)ので、絶縁電源については、DC部の通常の定格電圧(すなわち一素子耐圧)に耐え得る設計で十分である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の第1観点に係るモータ駆動装置では、過大電圧発生時に上下アームの両方のスイッチング素子をオフすることによって、過大電圧は直列接続された2つのスイッチング素子それぞれの両端に分圧され、1つのスイッチング素子にかかる過大電圧はどちらか一方が動作していた時の半分に低減されるので、スイッチング素子を破壊から保護することができる。
【0027】
本発明の第2観点に係るモータ駆動装置では、過大電圧発生時に上下アームの両方のスイッチング素子をオフすることによって、上下アームの中点電位は最大でも一素子耐圧程度までとなるので、ブートストラップ回路については、DC部の通常の定格電圧(すなわち一素子耐圧)に耐え得る設計で十分である。
【0028】
本発明の第
3観点に係るモータ駆動装置では、上下アームの両方のスイッチング素子をオフしたとき、モータのインダクタンス成分が持つエネルギー及びモータの回転による誘起電圧によってスイッチング素子がオンする可能性が高いが、上下アームの両方のスイッチング素子をオフした後、モータに電気的ブレーキをかけて素早く停止させることによって、スイッチング素子がオンしている時間を短くすることができる。
【0029】
本発明の第
4観点に係るモータ駆動装置では、上下アームの両方のスイッチング素子をオフしたとき、モータのインダクタンス成分が持つエネルギー及びモータの回転による誘起電圧によってスイッチング素子がオンする可能性が高いが、上下アームの両方のスイッチング素子をオフした後、モータの各相に抵抗負荷を連結し、モータのインダクタンス成分がもつエネルギーを抵抗負荷で短時間に消費させることによって、スイッチング素子がオンしている時間を短くすることができる。
【0030】
本発明の第
5観点に係るモータ駆動装置では、上下アームの両方のスイッチング素子をオフしたとき、モータのインダクタンス成分が持つエネルギー及びモータの回転による誘起電圧によってスイッチング素子がオンする可能性が高いが、上下アームの両方のスイッチング素子をオフした後、モータに機械的ブレーキをかけて素早く停止させることによって、スイッチング素子がオンしている時間を短くすることができる。
【0031】
本発明の第6観点に係るモータ駆動装置では、ブレーキの稼動を過電圧時のみに限定することによって、不必要なモータ停止を抑制する。
【0032】
本発明の第
7観点に係るモータ駆動装置は、過大電圧発生時に上下アームの両方のスイッチング素子をオフすることによって、上下アームの中点電位は最大でも一素子耐圧程度までとなるので、絶縁電源については、DC部の通常の定格電圧(すなわち一素子耐圧)に耐え得る設計で十分である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の具体例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0035】
<第1実施形態>
(1)概要
図1は、本発明の第1実施形態に係るモータ駆動装置10が採用されているシステム100の全体構成と、モータ駆動装置10の内部構成とを示すブロック図である。
図1において、システム100は、モータ駆動装置10とモータ51とで構成されている。
【0036】
(1−1)モータ51
モータ51は、3相のブラシレスDCモータであって、ステータ52と、ロータ53とを備えている。ステータ52は、スター結線されたU相、V相及びW相の駆動コイルLu,Lv,Lwを含む。各駆動コイルLu,Lv,Lwの一方端は、それぞれインバータ25から延びるU相、V相及びW相の各配線の駆動コイル端子TU,TV,TWに接続されている。各駆動コイルLu,Lv,Lwの他方端は、互いに端子TNとして接続されている。これら3相の駆動コイルLu,Lv,Lwは、ロータ53が回転することによりその回転速度とロータ53の位置に応じた誘起電圧を発生させる。
【0037】
ロータ53は、N極及びS極からなる複数極の永久磁石を含み、ステータ52に対し回転軸を中心として回転する。
【0038】
なお、モータ51は、例えばヒートポンプ式空気調和機の圧縮機モータ、ファンモータである。
【0039】
(1−2)モータ駆動装置10
モータ駆動装置10は、
図1に示すように、整流部21と、平滑コンデンサ22と、電圧検出部23と、電流検出部24と、インバータ25と、ゲート駆動回路26と、制御部40とを備えている。これらは、例えば1枚のプリント基板上に実装されてもよい。
【0040】
(2)モータ駆動装置10の詳細構成
(2−1)整流部21
整流部21は、4つのダイオードD1a,D1b,D2a,D2bによってブリッジ状に構成されている。具体的には、ダイオードD1aとD1b、D2aとD2bは、それぞれ互いに直列に接続されている。ダイオードD1a,D2aの各カソード端子は、共に平滑コンデンサ22のプラス側端子に接続されており、整流部21の正側出力端子として機能する。ダイオードD1b,D2bの各アノード端子は、共に平滑コンデンサ22のマイナス側端子に接続されており、整流部21の負側出力端子として機能する。
【0041】
ダイオードD1a及びダイオードD1bの接続点は、商用電源91の一方の極に接続されている。ダイオードD2a及びダイオードD2bの接続点は、商用電源91の他方の極に接続されている。整流部21は、商用電源91から出力される交流電圧を整流して直流電源を生成し、これを平滑コンデンサ22へ供給する。
【0042】
(2−2)平滑コンデンサ22
平滑コンデンサ22は、一端が整流部21の正側出力端子に接続され、他端が整流部21の負側出力端子に接続されている。平滑コンデンサ22は、整流部21によって整流された電圧を平滑する。以下、説明の便宜上、平滑コンデンサ22による平滑後の電圧を直流電圧Vdcという。
【0043】
直流電圧Vdcは、平滑コンデンサ22の出力側に接続されるインバータ25へ印加される。つまり、整流部21及び平滑コンデンサ22は、インバータ25に対する電源供給部20を構成している。
【0044】
なお、コンデンサの種類としては、電解コンデンサやフィルムコンデンサ、タンタルコンデンサ等が挙げられるが、本実施形態においては、平滑コンデンサ22としてフィルムコンデンサが採用される。
【0045】
(2−3)電圧検出部23
電圧検出部23は、平滑コンデンサ22の出力側に接続されており、平滑コンデンサ22の両端電圧、即ち直流電圧Vdcの値を検出するためのものである。電圧検出部23は、例えば、互いに直列に接続された2つの抵抗が平滑コンデンサ22に並列接続され、直流電圧Vdcが分圧されるように構成される。それら2つの抵抗同士の接続点の電圧値は、制御部40に入力される。
【0046】
(2−4)電流検出部24
電流検出部24は、平滑コンデンサ22及びインバータ25の間であって、かつ平滑コンデンサ22の負側出力端子側に接続されている。電流検出部24は、モータ51の起動後、モータ51に流れるモータ電流Imを三相分の電流の合計値として検出する。
【0047】
電流検出部24は、例えば、シャント抵抗及び該抵抗の両端の電圧を増幅させるオペアンプを用いた増幅回路で構成されてもよい。電流検出部24によって検出されたモータ電流は、制御部40に入力される。
【0048】
(2−5)インバータ25
インバータ25は、モータ51のU相、V相及びW相の駆動コイルLu,Lv,Lwそれぞれに対応する3つの上下アームが互いに並列に、且つ平滑コンデンサ22の出力側に接続されている。
【0049】
図1において、インバータ25は、複数のIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ、以下、単にトランジスタという)Q3a,Q3b,Q4a,Q4b,Q5a,Q5b及び複数の還流用のダイオードD3a,D3b,D4a,D4b,D5a,D5bを含む。
【0050】
トランジスタQ3aとQ3b、Q4aとQ4b、Q5aとQ5bは、それぞれ互いに直列に接続されることによって各上下アームを構成しており、それによって形成された接続点NU,NV,NWそれぞれから対応する相の駆動コイルLu,Lv,Lwに向かって出力線が延びている。
【0051】
各ダイオードD3a〜D5bは、各トランジスタQ3a〜Q5bに、トランジスタのコレクタ端子とダイオードのカソード端子が、また、トランジスタのエミッタ端子とダイオードのアノード端子が接続されるよう、並列接続されている。このそれぞれ並列接続されたトランジスタとダイオードにより、スイッチング素子が構成される。
【0052】
インバータ25は、平滑コンデンサ22からの直流電圧Vdcが印加され、かつゲート駆動回路26により指示されたタイミングで各トランジスタQ3a〜Q5bがオン及びオフを行うことによって、モータ51を駆動する駆動電圧SU,SV,SWを生成する。この駆動電圧SU,SV,SWは、各トランジスタQ3aとQ3b、Q4aとQ4b、Q5aとQ5bの各接続点NU,NV,NWからモータ51の駆動コイルLu,Lv,Lwに出力される。
【0053】
なお、本実施形態のインバータ25は、電圧形インバータであるが、それに限定されるものではなく、電流形インバータでもよい。
【0054】
(2−6)ゲート駆動回路26
ゲート駆動回路26は、制御部40からの指令電圧Vpwmに基づき、インバータ25の各トランジスタQ3a〜Q5bのオン及びオフの状態を変化させる。具体的には、ゲート駆動回路26は、制御部40によって決定されたデューティを有するパルス状の駆動電圧SU,SV,SWがインバータ25からモータ51に出力されるように、各トランジスタQ3a〜Q5bのゲートに印加するゲート制御電圧Gu,Gx,Gv,Gy,Gw,Gzを生成する。生成されたゲート制御電圧Gu,Gx,Gv,Gy,Gw,Gzは、それぞれのトランジスタQ3a〜Q5bのゲート端子に印加される。
【0055】
(2−7)制御部40
制御部40は、電圧検出部23、電流検出部24、及びゲート駆動回路26と接続されている。本実施形態では、制御部40は、モータ51をロータ位置センサレス方式にて駆動させている。なお、ロータ位置センサレス方式に限定されるものではないので、センサ方式で行なってもよい。
【0056】
ロータ位置センサレス方式とは、モータ51の特性を示す各種パラメータ、モータ51起動後の電圧検出部23の検出結果、電流検出部24の検出結果、及びモータ51の制御に関する所定の数式モデル等を用いて、ロータ位置及び回転数の推定、回転数に対するPI制御、モータ電流に対するPI制御等を行い駆動する方式である。モータ51の特性を示す各種パラメータとしては、使用されるモータ51の巻線抵抗、インダクタンス成分、誘起電圧、極数などが挙げられる。なお、ロータ位置センサレス制御については多くの特許文献が存在するので、詳細はそれらを参照されたい(例えば、特開2013−17289号公報)。
【0057】
また、制御部40は、電圧検出部23の検出値を監視し、電圧検出部23の検出値が所定の閾値を超えたとき、トランジスタQ3a〜Q5bをオフにする保護制御も行っている。
【0058】
(2−8)ブレーキ回路61
図1において、ブレーキ回路61は、3つのトランジスタ61u、61v、61wで構成されている。トランジスタ61uは、U相の駆動コイルLuと共通接続点Nとを結ぶ配線途中に接続されている。トランジスタ61vは、V相の駆動コイルLvと共通接続点Nとを結ぶ配線途中に接続されている。トランジスタ61wは、W相の駆動コイルLwと共通接続点Nとを結ぶ配線途中に接続されている。また、トランジスタ61u〜61wには、それぞれ還流用のダイオードが接続されている。
【0059】
3つのトランジスタ61u、61v、61wの各ベースは信号線を介して制御部40に接続されている。
【0060】
モータ51が正常に回転している間、制御部40は3つのトランジスタ61u,61v,61wの各ベースに駆動信号を出力していないので、3つのトランジスタ61u,61v,61wの各コレクタ−エミッタ間は非導通状態である。
【0061】
しかし、制御部40が3つのトランジスタ61u,61v,61wの各ベースに駆動信号を出力すると、各コレクタ−エミッタ間が導通状態となり、駆動コイルLu,Lv,Lwが接続され、モータ51にブレーキがかかる。
【0062】
(3)モータ駆動装置10の動作
以下、モータ駆動装置10の動作について説明する。
図1において、制御部40は、ゲート駆動回路26への波形出力を行なうと共に、その波形出力状態を制御して、モータ51を所定回転数で駆動する。
【0063】
図2Aはモータ駆動装置10の運転時における上下アームへの電圧のかかり方を示す図であり、
図2Bはモータ駆動装置10の停止時における上下アームへの電圧のかかり方を示す図である。
【0064】
図2Aに示すように、運転中、駆動コイルLuに対応する上アームのトランジスタQ3a、駆動コイルLvに対応する下アームのトランジスタQ4b、及び駆動コイルLwに対応する下アームのトランジスタQ5bがオン動作している間は、直流電圧Vdcは各上下アームのオフしているスイッチング素子(トランジスタQ3b、Q4a、Q5a、ダイオードD3b、D4a、D5a)にかかっている。
【0065】
このとき、直流電圧Vdcが過大電圧になった場合、オフしているスイッチング素子のトランジスタとダイオードにその過大電圧がかかる。一つのスイッチング素子(トランジスタQ3a〜Q5b、及びダイオードD3a〜D5b)の素子耐圧をVrとすると、直流電圧Vdc>素子耐圧Vrとなったときにスイッチング素子のトランジスタQ3a〜Q5bもしくはダイオードD3a〜D5bが破壊される可能性が高い。
【0066】
そこで、制御部40は、電圧検出部23の検出値が所定の閾値を超えたと判断したとき、上下アームの両方のトランジスタQ3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5bをオフする。
【0067】
これによって、
図2Bに示すように、過大電圧は直列接続された2つのスイッチング素子(トランジスタQ3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b、ダイオードD3a,D3b,D4a,D4b,D5a,D5b)それぞれの両端に分圧される。例えば、上アームのスイッチング素子(トランジスタQ3a、Q4a、Q5a、ダイオードD3a,D4a,D5a)の両端には分圧値V1がかかり、下アームのスイッチング素子(トランジスタQ3b、Q4b、Q5b、ダイオードD3b,D4b,D5b)の両端には分圧値V2がかかる。理想的には各スイッチング素子のインピーダンスが等しければV1=V2となるので、1つのスイッチング素子にかかる過大電圧はどちらか一方が動作していた時の半分にまで低減され、各スイッチング素子を破壊から保護することができる。
【0068】
さらに、制御部40は、トランジスタQ3a〜Q5bをオフした後、ブレーキ回路61の3つのトランジスタ61u,61v,61wの各ベースに駆動信号を出力し、各コレクタ−エミッタ間を導通状態にする。その結果、モータ51にブレーキがかかる。
【0069】
モータ51にブレーキをかける目的は、モータ51のインダクタンス成分が持つエネルギー及びモータ51の回転による誘起電圧によってスイッチング素子のダイオードD3a〜D5bがオンする可能性が高いためである。仮に、ダイオードD3a〜D5bがオンしても、モータ51に電気的ブレーキをかけて素早く停止させることによって、ダイオードD3a〜D5bがオンしている時間を短くすることができる。
【0070】
なお、本実施形態では、制御部40は、電圧検出部23の検出値が閾値を超えたとき以外は、モータ51にブレーキをかけないようにしている。つまり、ブレーキの稼動を過電圧時のみに限定することによって、不必要なモータ停止を抑制している。
【0071】
(4)第1実施形態の特徴
(4−1)
モータ駆動装置10では、過大電圧発生時に上下アームの両方のトランジスタQ3a〜Q5bをオフすることによって、過大電圧は直列接続された2つのスイッチング素子それぞれの両端に分圧され、1つのスイッチング素子(トランジスタQ3a〜Q5b、ダイオードD3a〜D5b)にかかる過大電圧はどちらか一方が動作していた時の半分に低減されるので、スイッチング素子を破壊から保護することができる。
【0072】
(4−2)
モータ駆動装置10では、モータ51のインダクタンス成分が持つエネルギー及びモータ51の回転による誘起電圧によってダイオードD3a〜D5bがオンする可能性が高いが、上下アームの両方のトランジスタQ3a〜Q5bをオフした後、モータ51に電気的ブレーキをかけて素早く停止させることによって、ダイオードD3a〜D5bがオンしている時間を短くすることができる。
【0073】
<第2実施形態>
(1)概要
図3は、本発明の第2実施形態に係るモータ駆動装置10が採用されているシステム100の全体構成と、モータ駆動装置10の内部構成とを示すブロック図である。
【0074】
図3おいて、第2実施形態に係るモータ駆動装置10は、
図1で示された第1実施形態におけるブレーキ回路61に替えて、抵抗負荷71及びリレー回路73が設けられている。したがって、ここでは抵抗負荷71及びリレー回路73について説明し、それ以外の要素は第1実施形態(ブレーキ回路61を除いた構成)と同様であるので、同じ名称及び符号を付して詳細な説明を省略する。
【0075】
(2)モータ駆動装置10の詳細構成
(2−1)抵抗負荷71
図3において、抵抗負荷71は、3つの抵抗素子71u、71v、71wで構成されている。抵抗素子71uは、U相の駆動コイルLuと共通接続点Nとを結ぶラインの途中に接続されている。抵抗素子71vは、V相の駆動コイルLvと共通接続点Nとを結ぶラインの途中に接続されている。抵抗素子71wは、W相の駆動コイルLwと共通接続点Nとを結ぶラインの途中に接続されている。通常、上記各ラインはリレー回路73によって遮断されている。
【0076】
(2−2)リレー回路73
リレー回路73は、モータ51の各相の駆動コイルLu,Lv,Lwと、それらに対応する各抵抗素子71u,71v,71wを結ぶラインを電気的に開閉するリレー接点73aと、リレー接点73aを動作させるリレーコイル73bと、リレーコイル73bへの通電と非通電とを行うトランジスタ73cとを含んでいる。リレーコイル73bの一端は、駆動用電源Vbの正極に接続され、他端はトランジスタ73cのコレクタ側に接続されている。制御部40は、トランジスタ73cのベース電流の有無を切り換えて、コレクタとエミッタ間をオンオフし、リレーコイル73bへの通電と非通電を行う。
【0077】
(3)モータ駆動装置10の動作
以下、モータ駆動装置10の動作について説明する。なお、制御部40が、電圧検出部23の検出値が所定の閾値を超えたと判断したとき、上下アームの両方のトランジスタQ3a〜Q5bをオフするところまでは、第1実施形態と同じであるので、説明を省略する。
【0078】
制御部40は、トランジスタQ3a〜Q5bをオフした後、リレー回路73のトランジスタ73cのベースに駆動信号を出力し、各コレクタ−エミッタ間を導通状態にする。このとき、リレーコイル73bが励磁され、リレー接点73aが閉じて、抵抗素子71uとU相の駆動コイルLuとを、また抵抗素子71vとV相の駆動コイルLvとを、さらに抵抗素子71wとW相の駆動コイルLwとを結び、モータ51のインダクタンス成分がもつエネルギーを抵抗素子71u,71v,71wで短時間に消費させ、電気的ブレーキをかける。
【0079】
モータ51のインダクタンス成分が持つエネルギー及び誘起電圧によってダイオードD3a〜D5bがオンする可能性が高いが、仮に、ダイオードD3a〜D5bがオンしても、モータ51のインダクタンス成分がもつエネルギーを抵抗素子71u,71v,71wで短時間に消費させることによって、ダイオードD3a〜D5bがオンしている時間を短くすることができる。
【0080】
(4)第2実施形態の特徴
(4−1)
モータ駆動装置10では、過大電圧発生時に上下アームの両方のトランジスタQ3a〜Q5bをオフすることによって、過大電圧は直列接続された2つのスイッチング素子(トランジスタQ3a〜Q5b、ダイオードD3a〜D5b)それぞれの両端に分圧され、1つのスイッチング素子(トランジスタQ3a〜Q5b、ダイオードD3a〜D5b)にかかる過大電圧はどちらか一方が動作していた時の半分に低減されるので、スイッチング素子のトランジスタQ3a〜Q5b及びダイオードD3a〜D5bを破壊から保護することができる。
【0081】
(4−2)
モータ駆動装置10では、モータ51のインダクタンス成分が持つエネルギー及びモータの回転による誘起電圧によってダイオードD3a〜D5bがオンする可能性が高いが、上下アームの両方のトランジスタをオフした後、モータ51のインダクタンス成分がもつエネルギーを抵抗素子71u,71v,71wで短時間に消費させることによって、ダイオードD3a〜D5bがオンしている時間を短くすることができる。
【0082】
<第3実施形態>
(1)概要
図4は、本発明の第3実施形態に係るモータ駆動装置10が採用されているシステム100の全体構成と、モータ駆動装置10の内部構成とを示すブロック図である。
【0083】
図4おいて、第3実施形態に係るモータ駆動装置10は、
図1で示された第1実施形態における電気的なブレーキ回路61が取り外された構成において、モータ51の出力軸に着脱可能な機械的なブレーキ81が新たに設けられている。したがって、ここではブレーキ81について説明し、それ以外の要素は第1実施形態(ブレーキ回路61を除いた構成)と同様であるので、同じ名称及び符号を付して詳細な説明を省略する。
【0084】
(2)モータ駆動装置10の構成
ブレーキ81は、機械的ブレーキであって、電磁クラッチ83と、モータ51の回転軸に電磁クラッチ83を介して接続される負荷85とで構成されている。電磁クラッチ83は、制御部40からの駆動信号によって、モータ51の回転軸と負荷85とを連結又は解除する。
【0085】
負荷85は、ロータ53の回転力を減衰させるため、モータ51のロータ53よりも十分に大きい慣性モーメントを有する回転盤、或いは、ロータリーダンパで構成されている。もちろん、回転盤及びロータリーダンパに限定されるものではなく、負荷85はロータ53の回転力を減衰することができるものであればよい。
【0086】
(3)モータ駆動装置10の動作
以下、モータ駆動装置10の動作について説明する。なお、制御部40が、電圧検出部23の検出値が所定の閾値を超えたと判断したとき、上下アームの両方のトランジスタQ3a〜Q5bをオフするところまでは、第1実施形態と同じであるので、説明を省略する。
【0087】
制御部40は、トランジスタQ3a〜Q5bをオフした後、電磁クラッチ83を動作させて、モータ51の回転軸と負荷85とを連結する。
【0088】
このとき、モータ51のインダクタンス成分がもつエネルギーとモータ51の回転エネルギーとが、負荷85を回転させようとするエネルギーとして短時間に消費される。
【0089】
モータ51のインダクタンス成分が持つエネルギー及び回転による誘起電圧によってダイオードD3a〜D5bがオンする可能性が高いが、仮に、ダイオードD3a〜D5bがオンしても、モータ51のインダクタンス成分がもつエネルギーとモータ51の回転エネルギーとを負荷85を回転させようとするエネルギーとして短時間に消費させることによって、ダイオードD3a〜D5bがオンしている時間を短くすることができる。
【0090】
(4)第3実施形態の特徴
(4−1)
モータ駆動装置10では、過大電圧発生時に上下アームの両方のトランジスタQ3a〜Q5bをオフすることによって、過大電圧は直列接続された2つのスイッチング素子(トランジスタQ3a〜Q5b、ダイオードD3a〜D5b)それぞれの両端に分圧され、1つのスイッチング素子(トランジスタQ3a〜Q5b、ダイオードD3a〜D5b)にかかる過大電圧はどちらか一方が動作していた時の半分に低減されるので、スイッチング素子のトランジスタQ3a〜Q5b、及びダイオードD3a〜D5bを破壊から保護することができる。
【0091】
(4−2)
モータ駆動装置10では、モータ51のインダクタンス成分が持つエネルギー及び回転による誘起電圧によってダイオードD3a〜D5bがオンする可能性が高いが、上下アームの両方のトランジスタQ3a〜Q5bをオフした後、モータ51のインダクタンス成分がもつエネルギー及びモータ51の回転エネルギーを機械的なブレーキ81で短時間に消費させることによって、ダイオードD3a〜D5bがオンしている時間を短くすることができる。
【0092】
<その他>
(A)
第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態では、電気的ブレーキ又は機械的ブレーキを設けて、モータ51のインダクタンス成分がもつエネルギーとモータ51の回転エネルギーとをモータ51にブレーキをかけることによって短時間に消費させ、スイッチング素子(ダイオードD3a〜D5b)がオンしている時間を短くする、というものである。
【0093】
しかし、コスト的、構造的な観点からブレーキ回路又は機械的ブレーキを設けることができない場合もある。このような場合は、以下のような制御を行うと効果的である。
【0094】
例えば、制御部40が電圧検出部23の検出値が閾値を超えたと判断したとき、全ての上下アームの2つのトランジスタQ3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5bのいずれか片方のアームのトランジスタ全てをオンにした後、全てのトランジスタQ3a〜Q5bをオフにする。
【0095】
全ての上下アームの2つのトランジスタQ3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5bのいずれか片方のアームのトランジスタ全てをオンにすることによって、モータ51からの電流を還流させ、モータ51の回転エネルギーの回生による直流電圧の昇圧を防止しながら、モータ51内部インピーダンスで電流を減衰させて0とする。
【0096】
その後、全ての上下アームのトランジスタQ3a〜Q5bをオフにし、仮にモータ51のインダクタンス成分が持つエネルギー及びモータ51の誘起電圧によってダイオードD3a〜D5bがオンしても、そのオンしている時間を短くすることができる。
【0097】
(B)
(B−1)概要
図5は、本発明の他の実施形態に係るモータ駆動装置10が採用されているシステム100の全体構成と、モータ駆動装置10の内部構成とを示すブロック図である。
【0098】
図5おいて、本実施形態に係るモータ駆動装置10は、
図1で示された第1実施形態からブレーキ回路61を取り外した構成において、電源ラインを遮断するリレー回路75が新たに設けられている。また、平滑コンデンサを、電解コンデンサ77としている。したがって、ここではリレー回路75及び電解コンデンサ77について説明し、それ以外の要素は第1実施形態(ブレーキ回路61を除いた構成)と同様であるので、同じ名称及び符号を付して詳細な説明を省略する。
【0099】
(B−2)モータ駆動装置10の構成
(B−2−1)リレー回路75
図5において、リレー回路75は電源ライン801を開閉する。ここで、電源ライン801を開閉するとは、電源ライン801を導通又は遮断して非導通にすることである。
【0100】
図5に示すように、リレー回路75は、電源ライン801を開閉するリレー接点75aと、リレー接点75aを動作させるリレーコイル75bと、リレーコイル75bへの通電と非通電とを行うトランジスタ75cとを含んでいる。
【0101】
リレーコイル75bの一端は、駆動用電源Vbの正極に接続され、他端はトランジスタ75cのコレクタ側に接続されている。制御部40は、トランジスタ75cのベース電流の有無を切り換えて、コレクタとエミッタ間をオンオフし、リレーコイル75bへの通電と非通電を行う。
【0102】
通常、リレー回路75は電源ライン801を閉、つまり導通状態にしている。他方、過電圧時には、制御部40からの信号出力を受けて、リレー回路75が電源ライン801を遮断する。
【0103】
(B−2−2)電解コンデンサ77
電解コンデンサ77は、インバータ25と並列接続される、電解コンデンサである。ここで、リレー回路75が制御部40から信号出力を受けてから電源ライン801を遮断するまでに10msec程度の期間は、電解コンデンサ77に過電圧が印加された状態が継続する。つまり、電圧検出部23が過電圧を検出してからリレー回路75が電源ライン801を遮断するまでの間に、過電圧値が電解コンデンサ77の耐圧を超える可能性が想定される。
【0104】
図6は、電解コンデンサ77の両端にかかる電圧と電解コンデンサ77に流れる電流との関係を示す電圧・電流特性のグラフである。
【0105】
図6において、電解コンデンサであるコンデンサ77の場合、酸化皮膜の耐圧よりも高い電圧がかかると、酸化皮膜が形成される化成が行われ(このときの電圧を化成電圧という)、電解コンデンサ77内に流れる電流は増加する。
【0106】
但し、電解コンデンサ77が10msec程度で破壊されることはなく、その両端電圧が化成電圧でクランプされる。
【0107】
(B−3)モータ駆動装置10の動作
図7Aは、直流電圧Vdcの変化に対する制御を示すグラフである。
図5及び
図7Aにおいて、直流電圧Vdcが上昇し、電圧検出部23の検出値が過電圧閾値を超えたとき、制御部40はリレー回路75を介して電源ライン801を遮断する。
【0108】
リレー回路75のリレー接点75aが電源ライン801を遮断するまでの10msec程度の間に直流電圧Vdcはコンデンサ耐圧を超えるが、化成電圧(一般にコンデンサ耐圧の1.3〜1.5倍程度)にクランプされる。ここで、半導体スイッチング素子(トランジスタ、ダイオード)の素子耐圧を、コンデンサの化成電圧よりも高い値としておけば、その電圧クランプ期間中にリレー接点75aが電源ライン801を遮断するので、直流電圧Vdcは半導体素子耐圧まで至らない。
【0109】
したがって、電解コンデンサ77の両端電圧が化成電圧でクランプされている期間は、インバータ25に印加される過電圧を電解コンデンサ77の化成電圧に抑えることができ、その期間内にリレー回路75が電源ライン801を遮断することによって、電解コンデンサ77を破壊から防止し、且つ、インバータ25のトランジスタ(IGBT)のようなアバランシェ領域を持たない半導体素子へのストレスを低減することができる。
【0110】
なお、アバランシェ領域とは、半導体のある耐圧を超えてキャリアが急激に流れる現象を起す領域である。
【0111】
次に、
図7Bは、
図7Aの直流電圧Vdcの変化に対する制御を示すグラフに、アバランシェ領域を持つ半導体素子の両端の電圧Vdsの変化を載せたグラフである。
図7Bにおいて、例えば、インバータ25のトランジスタをIGBTに替えてMOSFETを採用した場合、MOSFET両端の電圧Vdsは配線インダクタンスによる発生サージもしくは昇圧動作などによって、一般に直流電圧Vdcよりも高くなる。そして、電圧Vdsは、電源電圧の上昇に伴う直流電圧Vdcの上昇に従って上昇する。
【0112】
この場合には、仮に、MOSFETの半導体素子耐圧が電解コンデンサの化成電圧よりも低い場合であって、電解コンデンサ77の両端電圧が化成電圧でクランプされる前に電圧Vdsが半導体素子耐圧を超えたときでも、アバランシェ電圧でクランプされるので、その間に電解コンデンサ77の両端電圧が化成電圧でクランプされ、その後、リレー接点75aが電源ライン801を遮断する。
【0113】
以上のように、電源ライン801が遮断されるまでの10msec程度の期間は、アバランシェ動作で過電圧に耐えるので、MOSFETを高耐圧品にする必要がなくなる。
【0114】
また、コンデンサ77(電解コンデンサ)の両端電圧が化成電圧でクランプされることにより、MOSFETのアバランシェエネルギーを抑制することもできる。
【0115】
(C)
第3実施形態では機械的ブレーキのみを用いているが、第1実施形態や第2実施形態のようなブレーキ(電気的ブレーキ)を併用してもよい。
【0116】
(D)
(D−1)チャージポンプ回路46採用時の課題
上記第1、第2及び第3実施形態では、上下アームのスイッチング素子の過電圧保護を重点に説明してきた。しかし、実使用においては、過電圧はスイッチング素子に限らず、ゲート駆動回路26の出力回路にも及ぶ。
【0117】
特に、上アーム側スイッチング素子の駆動用電源を作成する(変動する上下アーム接続点電位に対応してゲート電位を高める)方式として、チャージポンプ方式が採用されている場合、チャージポンプ回路を構成するスイッチ等の耐圧は一般に一スイッチング素子の耐圧程度(すなわち通常時の直流電圧Vdc程度)に設計されているため、最終的な耐圧実力がチャージポンプ回路(
図10参照)を構成するスイッチ等の耐圧実力に制限されてしまう。
【0118】
図10において、チャージポンプ回路46では、第1スイッチ素子465がオンし、第2スイッチ素子466がオフすることによって、第1コンデンサ461が充電される。その後、第1スイッチ素子465がオフし、第2スイッチ素子466がオンすることによって第1コンデンサ461に溜まった電荷が第2コンデンサ462に移される。この動作を繰り返すことで、上アーム駆動用電源(充電された第2コンデンサ462)を作成することができる。第1コンデンサ461及び第2コンデンサ462への充電は発振回路464によって行われる。
【0119】
第2コンデンサ462はVbまで充電されるが、第2コンデンサ462の低電位側がVdcに接続されているので、第2コンデンサ462の高電位側はVb+Vdcとなる。
【0120】
したがって、チャージポンプ回路46では、第1スイッチ素子465及び第2スイッチ素子466ともにVb+Vdc以上の耐圧が必要となり、通常はスイッチング素子一素子分程度の耐圧(すなわち通常時の直流電圧Vdc程度)で設計される。そのため、過電圧時の耐圧が第1スイッチ素子465及び第2スイッチ素子466の耐圧に制限されるという問題が残る。
【0121】
(D−2)ブートストラップ回路31の採用
それゆえ、上アーム側スイッチング素子の駆動用電源を作成する(変動する上下アーム接続点電位に対応してゲート電位を高める)方式としてブートストラップ方式を用いることが好ましい。
【0122】
図8は、ブートストラップ回路31を備えたモータ駆動装置10の主要部の回路図である。
図8において、上アーム側スイッチング素子のゲート電位を高めるため、ブートストラップ回路31が設けられている。ここでは、ゲート駆動回路26とブートストラップ回路31について説明する。
【0123】
(D−2−1)ゲート駆動回路26の構成
ゲート駆動回路26は、内部に、上アーム側のトランジスタQ3a,Q4a,Q5aを駆動する上アーム側駆動回路26aと、下アーム側のトランジスタQ3b,Q4b,Q5bを駆動する下アーム側駆動回路26bとを有し、外部にはVcc、Vdd、Hin、Lin、Vss、Vbo、Ho、Vs、LoおよびCOMの10個の端子を有している。
【0124】
ゲート駆動回路26では、トランジスタを駆動する駆動用電源Vbの正極が端子Vccに接続され、ロジック用電源Vcの正極が端子Vddに接続されている。制御部40からの信号線は端子Hin、端子Linに接続され、駆動用電源Vbおよびロジック用電源Vcの負極は端子Vssに接続されるとともに、モータ用電源(直流電圧Vdc)の負極と接続されている。
【0125】
また、ブートストラップ回路31のコンデンサ311の高電位側の極から分岐したラインは端子Vboと接続され、トランジスタQ3a,Q4a,Q5aの各エミッタが端子Vsに接続され、トランジスタQ3b,Q4b,Q5bの各エミッタが端子COMに接続されている。さらに、トランジスタQ3a,Q4a,Q5aのゲートは端子Hoに接続され、トランジスタQ3b,Q4b,Q5bのゲートは端子Loに接続されている。
【0126】
トランジスタQ3a,Q4a,Q5a,Q3b,Q4b,Q5bのオン/オフは、ゲート駆動回路26が端子Hoおよび端子Loを介してゲート電位を制御することによって行われる。ゲート駆動回路26の動作は、制御部40から端子Hinおよび端子Linに入力されるデューティ比制御信号に基づいて制御される。
【0127】
(D−2−2)ブートストラップ回路31の構成
ゲート駆動回路26は、上アーム側のトランジスタQ3a,Q4a,Q5aに適切にゲート電位を入力するために、端子Vccに接続された駆動用電源Vbの正極と、トランジスタQ3a,Q4a,Q5aの各エミッタとの間に、ブートストラップ回路31が設けられている。
【0128】
図8には、上下アームのトランジスタQ3a,Q3bに対応したゲート駆動回路26と、ゲート駆動回路26に対応するブートストラップ回路31とだけを記載しているが、実際には3組の上下アームそれぞれに対応してゲート駆動回路とブートストラップ回路とが設けられている。
【0129】
ブートストラップ回路31はコンデンサ311、抵抗312及びダイオード313で構成されている。コンデンサ311の一端は、上アーム側のトランジスタQ3aのエミッタと下アーム側のトランジスタQ3bのコレクタとの接続点NUに繋がっている。コンデンサ311の他端は、抵抗312とダイオード313を介して駆動用電源Vbの正極と繋がっている。
【0130】
抵抗312はコンデンサ311の充電電流を制限するために設けられ、ダイオード313は抵抗312を介してコンデンサ311が放電されないよう、また、Vs電位の変動時もVbに電流が流れないように、その順方向を駆動用電源Vbの正極側からコンデンサ311側へと向けている。
【0131】
ゲート駆動回路26内部の上アーム側駆動回路26aは、トランジスタQ3aのオンオフを制御するため、コンデンサ311から高電位を取り入れる。なお、ゲート駆動回路26内部の下アーム側駆動回路26bは、トランジスタQ3bのオンオフを制御するが、トランジスタQ3bのエミッタ側が接地されているので、端子Vccに接続された駆動用電源Vbの正極の電位だけで制御することができる。
【0132】
下アーム側駆動回路26bにより下アーム側のトランジスタQ3bをオンすることによって、駆動用電源Vb(正極)−ダイオード313−抵抗312−コンデンサ311−下アーム側トランジスタQ3b−駆動用電源Vb(負極)の経路で電流が流れる。このとき、コンデンサ311が充電されるので、上アーム側駆動用電源として用いることが可能となる。Vs電位は、上下アームのトランジスタのスイッチングによってVdc〜0の間で変化するが、ダイオード313により、Vb側に電流が流れることはない。ここでダイオード313の耐圧は、通常、DC部の通常の定格電圧(すなわち一素子耐圧)に耐え得る値に設計される。
【0133】
(D−3)ブートストラップ回路31採用時の効果
モータ駆動装置10では、過大電圧発生時に上下アームの両方のトランジスタQ3a〜Q5bをオフすることによって、過大電圧は直列接続された2つのスイッチング素子それぞれの両端に分圧され、1つのスイッチング素子(トランジスタQ3a〜Q5b、ダイオードD3a〜D5b)にかかる過大電圧はどちらか一方が動作していた時の半分に低減されるので、スイッチング素子を破壊から保護することができる。言い換えれば、直列接続された2つのスイッチング素子のそれぞれが素子耐圧まで耐え得るため、DC部の電圧としては、一素子耐圧の倍の電圧まで耐え得ることになる。
【0134】
このとき、上下アームの中点電位は最大でも一素子耐圧程度である(それ以上であれば素子が破壊してしまうため考慮の必要がない)ので、ブートストラップ回路31については、その回路構成上、DC部の通常の定格電圧(すなわち一素子耐圧)に耐え得る設計で十分である。
【0135】
(E)
上記(D)では、上アーム側スイッチング素子のゲート電位を高める方式として、チャージポンプ方式に替えてブートストラップ回路31(
図8参照)を推奨しているが、それに限定されるものではない。
【0136】
図9は、絶縁電源36を備えたモータ駆動装置10の主要部の回路図である。
図9において、上アームのゲートごとに絶縁電源36が設けられている。
図9には、上下アームのトランジスタQ3a,Q3bに対応したゲート駆動回路26と、ゲート駆動回路26に対応する絶縁電源36とだけを記載しているが、実際には3組の上下アームそれぞれに対応してゲート駆動回路と絶縁電源とが設けられている。
【0137】
上記、ブートストラップ回路で説明したのと同様に、モータ駆動装置10では、過大電圧発生時に上下アームの両方のトランジスタQ3a〜Q5bをオフすることによって、上下アームの中点電位は最大でも一素子耐圧程度までとなる(それ以上は素子が破壊する)ので、絶縁電源36については、DC部の通常の定格電圧(すなわち一素子耐圧)に耐え得る設計で十分である。