特許第6390819号(P6390819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390819
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】弾性波装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20180910BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20180910BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20180910BHJP
   H03H 9/64 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   H03H9/145 C
   H03H9/145 Z
   H03H3/08
   H03H9/25 Z
   H03H9/64 Z
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-514158(P2018-514158)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2017007829
(87)【国際公開番号】WO2017187768
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2018年6月22日
(31)【優先権主張番号】特願2016-86907(P2016-86907)
(32)【優先日】2016年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 健太郎
【審査官】 竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−232264(JP,A)
【文献】 特開2005−223876(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/027707(WO,A1)
【文献】 特開2008−79227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00−9/76
H03H 3/00−3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられている第1〜第3のIDT電極と、
前記第1〜第3のIDT電極を覆うように前記圧電基板上に設けられており、かつ前記第1のIDT電極を覆っている領域の厚みと、前記第2及び第3のIDT電極を覆っている領域の厚みとが異なる誘電体膜と、
を備え、
前記第1〜第3のIDT電極及び前記誘電体膜を含む第1〜第3の弾性波素子が構成されており、
前記第1〜第3のIDT電極をそれぞれ構成している材料の密度を全て同じ密度として換算した厚みを密度換算厚みとしたときに、前記第1,第2のIDT電極の前記密度換算厚みが等しく、前記第3のIDT電極の前記密度換算厚みは前記第1,第2のIDT電極の前記密度換算厚みと異なる、弾性波装置。
【請求項2】
前記第1〜第3のIDT電極は互いに電極指ピッチが異なる、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記誘電体膜の密度換算厚みを、前記誘電体膜及び前記第1〜第3のIDT電極をそれぞれ構成している材料の密度を全て同じ密度として換算した厚みとしたときに、前記第1のIDT電極上に位置している前記誘電体膜の前記密度換算厚み及び前記第1のIDT電極の前記密度換算厚みの合計の前記第1のIDT電極の電極指ピッチに対する比と、前記第2のIDT電極上に位置している前記誘電体膜の前記密度換算厚み及び前記第2のIDT電極の前記密度換算厚みの合計の前記第2のIDT電極の電極指ピッチに対する比と、前記第3のIDT電極上に位置している前記誘電体膜の前記密度換算厚み及び前記第3のIDT電極の前記密度換算厚みの合計の前記第3のIDT電極の電極指ピッチに対する比とが互いに異なる、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記第1〜第3の弾性波素子が第1〜第3の弾性波フィルタである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記第1,第2のIDT電極を構成している材料と、前記第3のIDT電極を構成している材料とが異なる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項6】
圧電基板を用意する工程と、
前記圧電基板上に、第1,第2のIDT電極を設ける工程と、
前記圧電基板上に、第3のIDT電極を設ける工程と、
前記圧電基板上に、前記第1〜第3のIDT電極を覆うように、かつ前記第1のIDT電極を覆う領域の厚みと、前記第2及び第3のIDT電極を覆う領域の厚みとが異なるように、誘電体膜を設ける工程と、
を備え、
前記第1〜第3のIDT電極及び前記誘電体膜を含む第1〜第3の弾性波素子を構成し、
前記第1〜第3のIDT電極を設ける工程において、前記第1〜第3のIDT電極をそれぞれ構成している材料の密度を全て同じ密度として換算した厚みを密度換算厚みとしたときに、前記第1,第2のIDT電極の前記密度換算厚みを等しくし、前記第3のIDT電極の前記密度換算厚みを前記第1,第2のIDT電極の前記密度換算厚みと異ならせる、弾性波装置の製造方法。
【請求項7】
前記第1〜第3のIDT電極を設ける工程において、前記第1〜第3のIDT電極の電極指ピッチを互いに異ならせる、請求項6に記載の弾性波装置の製造方法。
【請求項8】
前記誘電体膜を設ける工程において、前記第1〜第3のIDT電極を覆うように、前記誘電体膜と同じ誘電体からなる第1の誘電体膜を設けた後に、前記第1の誘電体膜上における、前記第1の誘電体膜が前記第1のIDT電極を覆っている領域にレジスト層を積層し、前記第1の誘電体膜をエッチングする、請求項6または7に記載の弾性波装置の製造方法。
【請求項9】
前記誘電体膜を設ける工程において、前記第1〜第3のIDT電極を覆うように、前記誘電体膜と同じ誘電体からなる第1の誘電体膜を設けた後に、前記第1の誘電体膜上における、前記第1の誘電体膜が前記第2,第3のIDT電極を覆っている領域にレジスト層を積層し、前記第1の誘電体膜上に、前記第1の誘電体膜と同じ誘電体からなる第2の誘電体膜をさらに形成した後に前記レジスト層を剥離する、請求項6または7に記載の弾性波装置の製造方法。
【請求項10】
前記誘電体膜の密度換算厚みを、前記誘電体膜及び前記第1〜第3のIDT電極をそれぞれ構成している材料の密度を全て同じ密度として換算した厚みとしたときに、前記第1〜第3のIDT電極を設ける工程及び前記誘電体膜を設ける工程において、前記第1のIDT電極上に位置している前記誘電体膜の前記密度換算厚み及び前記第1のIDT電極の前記密度換算厚みの合計の前記第1のIDT電極の電極指ピッチに対する比と、前記第2のIDT電極上に位置している前記誘電体膜及び前記第2のIDT電極の前記密度換算厚みの合計の前記第2のIDT電極の電極指ピッチに対する比と、前記第3のIDT電極上に位置している前記誘電体膜の前記密度換算厚み及び前記第3のIDT電極の前記密度換算厚みの合計の前記第3のIDT電極の電極指ピッチに対する比とを互いに異ならせる、請求項6〜9のいずれか1項に記載の弾性波装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1〜第3の弾性波素子が第1〜第3の弾性波フィルタである、請求項6〜10のいずれか1項に記載の弾性波装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1,第2のIDT電極を構成している材料と、前記第3のIDT電極を構成している材料とが異なる、請求項6〜11のいずれか1項に記載の弾性波装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性波装置が携帯電話機のフィルタなどに広く用いられている。例えば、下記の特許文献1では、同じ圧電基板において構成された2つの弾性波フィルタを有する弾性波装置が開示されている。2つの弾性波フィルタは、それぞれのIDT電極を覆うように設けられた絶縁膜を有する。一方の弾性波フィルタのIDT電極の膜厚及び絶縁膜の膜厚は、他方の弾性波フィルタのIDT電極の膜厚及び絶縁膜の膜厚よりも厚い。IDT電極の膜厚及び絶縁膜の膜厚を最適化することにより、弾性波フィルタの挿入損失を小さくし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−341068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、2つの弾性波フィルタのうち一方の弾性波フィルタのIDT電極及び絶縁膜と、他方の弾性波フィルタのIDT電極及び絶縁膜との膜厚を異ならせるため、それぞれのIDT電極が別の工程において形成される。同様に、3つの弾性波フィルタを有する弾性波装置を作製した場合、3つの弾性波フィルタのIDT電極及び絶縁膜の膜厚を異ならせることで、各弾性波フィルタの挿入損失を小さくし得る。しかしながら、この方法ではIDT電極を形成する工程を3回行う必要があるため、生産性を十分に高めることはできなかった。
【0005】
本発明の目的は、生産性を高めることができ、かつ挿入損失を小さくすることができる、弾性波装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る弾性波装置は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられている第1〜第3のIDT電極と、前記第1〜第3のIDT電極を覆うように前記圧電基板上に設けられており、かつ前記第1のIDT電極を覆っている領域の厚みと、前記第2及び第3のIDT電極を覆っている領域の厚みとが異なる誘電体膜とを備え、前記第1〜第3のIDT電極及び前記誘電体膜を含む第1〜第3の弾性波素子が構成されており、前記第1〜第3のIDT電極をそれぞれ構成している材料の密度を全て同じ密度として換算した厚みを密度換算厚みとしたときに、前記第1,第2のIDT電極の前記密度換算厚みが等しく、前記第3のIDT電極の前記密度換算厚みは前記第1,第2のIDT電極の前記密度換算厚みと異なる。
【0007】
本発明に係る弾性波装置のある特定の局面では、前記第1〜第3のIDT電極は互いに電極指ピッチが異なる。
【0008】
本発明に係る弾性波装置の他の特定の局面では、前記誘電体膜の密度換算厚みを、前記誘電体膜及び前記第1〜第3のIDT電極をそれぞれ構成している材料の密度を全て同じ密度として換算した厚みとしたときに、前記第1のIDT電極上に位置している前記誘電体膜の前記密度換算厚み及び前記第1のIDT電極の前記密度換算厚みの合計の前記第1のIDT電極の電極指ピッチに対する比と、前記第2のIDT電極上に位置している前記誘電体膜の前記密度換算厚み及び前記第2のIDT電極の前記密度換算厚みの合計の前記第2のIDT電極の電極指ピッチに対する比と、前記第3のIDT電極上に位置している前記誘電体膜の前記密度換算厚み及び前記第3のIDT電極の前記密度換算厚みの合計の前記第3のIDT電極の電極指ピッチに対する比とが互いに異なる。この場合には、第1〜第3の弾性波素子の挿入損失を効果的に小さくすることができる。
【0009】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の特定の局面では、前記第1〜第3の弾性波素子が第1〜第3の弾性波フィルタである。
【0010】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の特定の局面では、前記第1,第2のIDT電極を構成している材料と、前記第3のIDT電極を構成している材料とが異なる。
【0011】
本発明に係る弾性波装置の製造方法は、圧電基板を用意する工程と、前記圧電基板上に、第1,第2のIDT電極を設ける工程と、前記圧電基板上に、第3のIDT電極を設ける工程と、前記圧電基板上に、前記第1〜第3のIDT電極を覆うように、かつ前記第1のIDT電極を覆う領域の厚みと、前記第2及び第3のIDT電極を覆う領域の厚みとが異なるように、誘電体膜を設ける工程とを備え、前記第1〜第3のIDT電極及び前記誘電体膜を含む第1〜第3の弾性波素子を構成し、前記第1〜第3のIDT電極を設ける工程において、前記第1〜第3のIDT電極をそれぞれ構成している材料の密度を全て同じ密度として換算した厚みを密度換算厚みとしたときに、前記第1,第2のIDT電極の前記密度換算厚みを等しくし、前記第3のIDT電極の前記密度換算厚みを前記第1,第2のIDT電極の前記密度換算厚みと異ならせる。
【0012】
本発明に係る弾性波装置の製造方法のある特定の局面では、前記第1〜第3のIDT電極を設ける工程において、前記第1〜第3のIDT電極の電極指ピッチを互いに異ならせる。
【0013】
本発明に係る弾性波装置の製造方法の他の特定の局面では、前記誘電体膜を設ける工程において、前記第1〜第3のIDT電極を覆うように、前記誘電体膜と同じ誘電体からなる第1の誘電体膜を設けた後に、前記第1の誘電体膜上における、前記第1の誘電体膜が前記第1のIDT電極を覆っている領域にレジスト層を積層し、前記第1の誘電体膜をエッチングする。
【0014】
本発明に係る弾性波装置の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記誘電体膜を設ける工程において、前記第1〜第3のIDT電極を覆うように、前記誘電体膜と同じ誘電体からなる第1の誘電体膜を設けた後に、前記第1の誘電体膜上における、前記第1の誘電体膜が前記第2,第3のIDT電極を覆っている領域にレジスト層を積層し、前記第1の誘電体膜上に、前記第1の誘電体膜と同じ誘電体からなる第2の誘電体膜をさらに形成した後に前記レジスト層を剥離する。
【0015】
本発明に係る弾性波装置の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記誘電体膜の密度換算厚みを、前記誘電体膜及び前記第1〜第3のIDT電極をそれぞれ構成している材料の密度を全て同じ密度として換算した厚みとしたときに、前記第1〜第3のIDT電極を設ける工程及び前記誘電体膜を設ける工程において、前記第1のIDT電極上に位置している前記誘電体膜の前記密度換算厚み及び前記第1のIDT電極の前記密度換算厚みの合計の前記第1のIDT電極の電極指ピッチに対する比と、前記第2のIDT電極上に位置している前記誘電体膜及び前記第2のIDT電極の前記密度換算厚みの合計の前記第2のIDT電極の電極指ピッチに対する比と、前記第3のIDT電極上に位置している前記誘電体膜の前記密度換算厚み及び前記第3のIDT電極の前記密度換算厚みの合計の前記第3のIDT電極の電極指ピッチに対する比とを互いに異ならせる。この場合には、第1〜第3の弾性波素子の挿入損失を効果的に小さくすることができる。
【0016】
本発明に係る弾性波装置の製造方法の別の特定の局面では、前記第1〜第3の弾性波素子が第1〜第3の弾性波フィルタである。
【0017】
本発明に係る弾性波装置の製造方法のさらに別の特定の局面では、前記第1,第2のIDT電極を構成している材料と、前記第3のIDT電極を構成している材料とが異なる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生産性を高めることができ、かつ挿入損失を小さくすることができる、弾性波装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の模式的正面断面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態における第1の弾性波フィルタの回路図である。
図3図3(a)〜図3(d)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図4図4(a)〜図4(c)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の製造方法の変形例を説明するための模式的断面図である。
図5図5は、比較例の弾性波装置の模式的正面断面図である。
図6図6は、本発明の第1の実施形態及び比較例における第1の弾性波フィルタの減衰量周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0021】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0022】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る模式的正面断面図である。
【0023】
弾性波装置1は、圧電基板2を有する。圧電基板2は、LiNbOやLiTaOなどの圧電単結晶からなっていてもよく、適宜の圧電セラミックスからなっていてもよい。
【0024】
圧電基板2上には、第1〜第3のIDT電極4A〜4Cが設けられている。本実施形態のように、第1〜第3のIDT電極4A〜4Cは、互いに電極指ピッチが異なることが好ましい。第1〜第3のIDT電極4A〜4Cは、適宜の金属からなる。第1〜第3のIDT電極4A〜4Cは、単層の金属膜からなっていてもよく、あるいは、積層金属膜からなっていてもよい。
【0025】
第1,第2のIDT電極4A,4Bは同じ材料からなる。他方、本実施形態では、第3のIDT電極4Cは、第1,第2のIDT電極4A,4Bとは異なる材料からなる。なお、第1〜第3のIDT電極4A〜4Cは同じ材料からなっていてもよい。
【0026】
第1〜第3のIDT電極4A〜4Cを覆うように、圧電基板2上に誘電体膜5が設けられている。誘電体膜5は、第1のIDT電極4Aを覆っている領域である第1の領域Aを有する。誘電体膜5は、第2,第3のIDT電極4B,4Cを覆っている領域である第2,第3の領域B,Cも有する。弾性波装置1においては、誘電体膜5の第1の領域Aにおける厚みは、第2,第3の領域B,Cにおける厚みよりも厚い。なお、誘電体膜5の第1の領域Aにおける厚みと、第2,第3の領域B,Cにおける厚みとが異なっていればよい。例えば、誘電体膜5の第1の領域Aにおける厚みが、第2,第3の領域B,Cにおける厚みよりも薄くともよい。
【0027】
誘電体膜5はSiOからなる。なお、誘電体膜5の材料は上記に限定されない。
【0028】
ここで、誘電体膜5及び第1〜第3のIDT電極4A〜4Cをそれぞれ構成している材料の密度を全て同じ密度として換算した厚みを、誘電体膜5及び第1〜第3のIDT電極4A〜4Cのそれぞれの密度換算厚みとする。例えば、上記それぞれの材料の密度をAlCuの密度として換算した厚みを密度換算厚みとしてもよい。このとき、第1,第2のIDT電極4A,4Bの密度換算厚みは実質的に同じである。他方、本実施形態では、第3のIDT電極4Cの密度換算厚みは、第1,第2のIDT電極4A,4Bの密度換算厚みよりも薄い。なお、本明細書において、実質的に同じ厚みとは、フィルタ特性にほぼ影響を与えない程度にIDT電極などの厚みに差がないことを示す。
【0029】
第1,第2のIDT電極4A,4Bの密度換算厚みと第3のIDT電極4Cの密度換算厚みとは、異なっていればよい。第1,第2のIDT電極4A,4Bの密度換算厚みは、第3のIDT電極4Cの密度換算厚みより薄くともよい。
【0030】
弾性波装置1においては、第1のIDT電極4A及び誘電体膜5を含む第1の弾性波素子としての、第1の弾性波フィルタ3Aが構成されている。同様に、第2,第3のIDT電極4B,4C及び誘電体膜5を含む第2,第3の弾性波素子としての、第2,第3の弾性波フィルタ3B,3Cが構成されている。弾性波装置1は、第1〜第3の弾性波フィルタ3A〜3Cを有するトリプルフィルタである。
【0031】
本実施形態では、第1の弾性波フィルタ3Aは、Band3の受信帯域である1805MHz以上、1880MHz以下の通過帯域を有する受信フィルタである。第2の弾性波フィルタ3Bは、Band1の受信帯域である2110MHz以上、2170MHz以下の通過帯域を有する受信フィルタである。第3の弾性波フィルタ3Cは、Band7の受信帯域である2620MHz以上、2690MHz以下の通過帯域を有する受信フィルタである。
【0032】
なお、第1〜第3の弾性波フィルタ3A〜3Cの通過帯域は特に限定されない。また、第1〜第3の弾性波フィルタ3A〜3Cは送信フィルタであってもよく、受信フィルタであってもよい。
【0033】
図2は、第1の実施形態における第1の弾性波フィルタの回路図である。
【0034】
第1の弾性波フィルタ3Aは、入力端子6及び出力端子7を有する。入力端子6はアンテナ端子に接続される。なお、アンテナ端子はアンテナに接続される。入力端子6と出力端子7との間には、縦結合共振子型弾性波フィルタ8が接続されている。入力端子6と縦結合共振子型弾性波フィルタ8との間には、共振子S1が接続されている。縦結合共振子型弾性波フィルタ8と出力端子7との間の接続点とグラウンド電位との間には、共振子P1が接続されている。共振子S1,P1は特性調整用の共振子である。
【0035】
縦結合共振子型弾性波フィルタ8は、特に限定されないが、5IDT型の縦結合共振子型弾性波フィルタである。本実施形態では、第1の弾性波フィルタ3Aは図1に示した第1のIDT電極4Aを複数有する。複数の第1のIDT電極4Aは、縦結合共振子型弾性波フィルタ8のIDT電極である。
【0036】
第1の弾性波フィルタ3A及び第2,第3の弾性波フィルタは、上記アンテナ端子に共通接続されている。なお、第1の弾性波フィルタ3Aの回路構成は上記には限定されない。第2,第3の弾性波フィルタの回路構成も、特に限定されない。
【0037】
図1に戻り、本実施形態の特徴は、誘電体膜5の第1の領域Aの厚みと第2,第3の領域B,Cの厚みとが異なり、かつ第1,第2のIDT電極4A,4Bの密度換算厚みと第3のIDT電極4Cの密度換算厚みとが異なることにある。これにより、弾性波装置1の生産性を高めることができ、かつ挿入損失を小さくすることができる。これを、以下において、本実施形態の弾性波装置1の製造方法と共に説明する。
【0038】
図3(a)〜図3(d)は、第1の実施形態に係る弾性波装置の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【0039】
図3(a)に示すように、圧電基板2を用意する。次に、圧電基板2上に、互いに電極指ピッチが異なるように、第1,第2のIDT電極4A,4Bを設ける。第1,第2のIDT電極4A,4Bは同じ工程において設けられるため、同じ材料からなり、かつ実質的に同じ厚みである。
【0040】
次に、図3(b)に示すように、圧電基板2上に、第1,第2のIDT電極4A,4Bと電極指ピッチ及び上記密度換算厚みが異なるように、第3のIDT電極4Cを設ける。このとき、第1,第2のIDT電極4A,4Bの材料と、第3のIDT電極4Cの材料とを異ならせてもよい。これにより、上記第1,第2の弾性波フィルタ及び上記第3の弾性波フィルタのそれぞれに、より適したIDT電極の材料を用いることができる。よって、第1〜第3の弾性波フィルタのフィルタ特性を好適に高めることができる。
【0041】
次に、図3(c)に示すように、第1〜第3のIDT電極4A〜4Cを覆うように、第1の誘電体膜5Xを設ける。第1の誘電体膜5Xは、図1に示した誘電体膜5と同じ誘電体からなる。
【0042】
ここで、誘電体膜の密度換算厚み及びIDT電極の密度換算厚みの合計の、IDT電極の電極指ピッチに対する比を総膜厚−電極指ピッチ比とする。図3(c)に示す工程では、第1の誘電体膜5Xの厚みが、上記第1の弾性波フィルタの挿入損失が小さくなる厚みとなるように、第1の誘電体膜5Xを設ける。より具体的には、本実施形態の弾性波装置1の製造方法では、第1の誘電体膜5X及び第1のIDT電極4Aの総膜厚−電極指ピッチ比が10.7%となるように、第1の誘電体膜5Xを設ける。
【0043】
なお、好ましい総膜厚−電極指ピッチ比は、IDT電極及び誘電体膜の材料や、弾性波フィルタの通過帯域により異なる。総膜厚−電極指ピッチ比が、弾性波フィルタにおける最適な値となるように、誘電体膜の厚みを調整すればよい。
【0044】
次に、第1の誘電体膜5X上における、第1の誘電体膜5Xが第1のIDT電極4Aを覆っている第1の領域A1にレジスト層9を積層する。次に、第1の誘電体膜5Xにおける、第1の誘電体膜5Xが第2,第3のIDT電極4B,4Cを覆っている第2,第3の領域B1,C1をエッチングする。これにより、図3(d)に示すように、上記第1の領域Aにおける厚みと上記第2,第3の領域B,Cの厚みとが異なる、誘電体膜5を得る。
【0045】
次に、レジスト層9を剥離する。これにより、図1に示す第1〜第3の弾性波フィルタ3A〜3Cを有する弾性波装置1を得る。
【0046】
上述した製造方法により、第1,第2のIDT電極4A,4Bを同時に設けることができ、かつ第1の領域Aにおいて、誘電体膜5及び第1のIDT電極4Aの総膜厚−電極指ピッチ比を最適な値とすることができる。よって、生産性を高めることができ、かつ第1の弾性波フィルタ3Aの挿入損失を小さくすることができる。
【0047】
好ましくは、図3(c)に示す工程において、誘電体膜5及び第2のIDT電極4Bまたは誘電体膜5及び第3のIDT電極4Cの総膜厚−電極指ピッチ比が最適な値となるようにエッチングすることが望ましい。それによって、生産性を高めることができ、かつ第1の弾性波フィルタ3Aの挿入損失及び第2の弾性波フィルタ3Bまたは第3の弾性波フィルタ3Cの挿入損失を小さくすることができる。
【0048】
より好ましくは、誘電体膜5及び第2のIDT電極4Bの総膜厚−電極指ピッチ比と、誘電体膜5及び第3のIDT電極4Cの総膜厚−電極指ピッチ比とが最適な値となるようにエッチングすることが望ましい。なお、この場合には、図3(a)及び図3(b)に示す工程において、第2,第3のIDT電極4B,4Cの密度換算厚みを、上記の双方の総膜厚−電極指ピッチ比が最適な値となるものとすればよい。より具体的には、上記の双方の総膜厚−電極指ピッチ比が最適な値となるときの第2,第3の領域B,Cにおける誘電体膜5の厚みが同じ厚みとなるように、第2,第3のIDT電極4B,4Cの密度換算厚みを調整すればよい。それによって、生産性を高めることができ、かつ第1〜第3の弾性波フィルタ3A〜3Cの挿入損失を効果的に小さくすることができる。
【0049】
図3(c)に示した工程では、第1の誘電体膜5X上における第1の領域A1にレジスト層9が設けられていたが、図4(a)〜図4(c)に示す製造方法の変形例によっても弾性波装置1を得ることができる。より具体的には、図4(a)に示すように、第1の誘電体膜15X上における第2,第3の領域B2,C2にレジスト層19を設けてもよい。この場合には、次に、図4(b)に示すように、第1の誘電体膜15X上における第1の領域A2及びレジスト層19上に、第2の誘電体膜15Yを設ける。第2の誘電体膜15Yは、第1の誘電体膜15Xと同じ誘電体からなる。しかる後、レジスト層19を剥離し、図4(c)に示すように、弾性波装置1を得る。
【0050】
なお、図4(b)に示す第1の誘電体膜15Xの厚みを、第1の誘電体膜15X及び第2のIDT電極4Bの総膜厚−電極指ピッチ比が最適な値となる厚みとすることが好ましい。または、第1の誘電体膜15Xの厚みを、第1の誘電体膜15X及び第3のIDT電極4Cの総膜厚−電極指ピッチ比が最適な値となる厚みとすることが好ましい。第1,第2の誘電体膜15X,15Yの厚みを、第1,第2の誘電体膜15X,15Y及び第1のIDT電極4Aの総膜厚−電極指ピッチ比が最適な値となる厚みとすることが好ましい。
【0051】
以下において、第1の実施形態と比較例とを比較することにより、第1の弾性波フィルタ3Aにおいて挿入損失を小さくし得ることを示す。
【0052】
図5に示すように、比較例は、誘電体膜105の厚みが第1〜第3の領域A3〜C3において同じ厚みである点で、第1の実施形態と異なる。比較例では、誘電体膜105の第1の領域A3における厚みは、第1の実施形態よりも薄くされている。より具体的には、誘電体膜105の第1の領域A3における厚みは、図1に示した第1の実施形態における誘電体膜5の第2,第3の領域B,Cにおける厚みと同じ厚みである。比較例における第1の弾性波フィルタ103Aにおいては、誘電体膜105及び第1のIDT電極4Aの総膜厚−電極指ピッチ比は9.1%である。
【0053】
図6は、第1の実施形態及び比較例における第1の弾性波フィルタの減衰量周波数特性を示す図である。実線は第1の実施形態の結果を示し、破線は比較例の結果を示す。
【0054】
図6に示すように、第1の実施形態では、比較例よりも挿入損失を小さくすることができている。第1の実施形態では、誘電体膜の第1の領域における厚みと、第2,第3の領域における厚みとが異ならされており、かつ第1の弾性波フィルタにおける総膜厚−電極指ピッチ比が好適な値とされている。そのため、第1の弾性波フィルタの挿入損失を小さくすることができる。しかも、上述したように、生産性を高めることができる。
【0055】
図1では誘電体膜5は模式的に示されているが、本実施形態では、誘電体膜5の第2のIDT電極4B上に配置された部分の厚みと、第3のIDT電極4C上に配置された部分の厚みとは同じ厚みである。第2のIDT電極4Bの密度換算厚み及び誘電体膜5の密度換算厚みの合計と、第3のIDT電極4Cの密度換算厚み及び誘電体膜5の密度換算厚みの合計とは異なる。
【0056】
なお、第2,第3の領域B,Cにおいて、誘電体膜5が平坦化されていてもよい。これにより、第2のIDT電極4Bの密度換算厚み及び誘電体膜5の密度換算厚みの合計と、第3のIDT電極4Cの密度換算厚み及び誘電体膜5の密度換算厚みの合計とが同じとされていてもよい。この場合においても、第1〜第3の弾性波フィルタ3A〜3Cにおける総膜厚−電極指ピッチ比が互いに異なっていることが好ましい。より好ましくは、第1〜第3の弾性波フィルタ3A〜3Cのそれぞれにおいて、総膜厚−電極指ピッチ比が最適な値とされていることが望ましい。
【0057】
弾性波装置1においては、誘電体膜5の第1の領域Aにおける厚みは、第2,第3の領域B,Cにおける厚みよりも厚い。なお、誘電体膜5の第1の領域Aにおける厚みは、第2,第3の領域B,Cにおける厚みよりも薄くともよい。この場合には、例えば、図3(c)に示した工程において、第1の誘電体膜5X上の第2,第3の領域B1,C1にレジスト層9を設け、第1の誘電体膜5Xの第1の領域A1をエッチングすることにより、上記のような厚みの関係としてもよい。
【0058】
あるいは、図4(a)に示した工程において、第1の誘電体膜15Xの第1の領域A2にレジスト層19を設けてもよい。この場合には、次に、図4(b)に示した工程において、第1の誘電体膜15X上の第2,第3の領域B2,C2及びレジスト層19上に第2の誘電体膜15Yを設ける。
【0059】
本実施形態では、第1〜第3のIDT電極4A〜4Cを含む第1〜第3の弾性波素子は第1〜第3の弾性波フィルタ3A〜3Cである。なお、第1〜第3の弾性波素子は弾性波フィルタには限定されず、第1〜第3の弾性波素子のうち少なくとも1つの弾性波素子は、例えば、弾性波共振子などであってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…弾性波装置
2…圧電基板
3A〜3C…第1〜第3の弾性波フィルタ
4A〜4C…第1〜第3のIDT電極
5…誘電体膜
5X…第1の誘電体膜
6…入力端子
7…出力端子
8…縦結合共振子型弾性波フィルタ
9…レジスト層
15X,15Y…第1,第2の誘電体膜
19…レジスト層
103A…第1の弾性波フィルタ
105…誘電体膜
S1,P1…共振子
図1
図2
図3
図4
図5
図6