特許第6390842号(P6390842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390842
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】複合材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20180910BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20180910BHJP
   B29C 43/00 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K7/00
   B29C43/00
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-225575(P2014-225575)
(22)【出願日】2014年11月5日
(65)【公開番号】特開2016-89052(P2016-89052A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慈
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
【審査官】 長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−169461(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/080743(WO,A1)
【文献】 特開2004−239426(JP,A)
【文献】 特開2006−301462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00−101/14
C08K 7/00− 7/28
C08K 3/00− 3/40
B29C 43/00− 43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の熱伝導性フィラーを含む熱伝導性フィラーにより形成されているマトリクス相と、該マトリクス相中に分散しているエラストマー相と、前記マトリクス相に接触している、前記エラストマー相を形成しているエラストマー以外のその他の樹脂からなる樹脂相とを備えており、
前記その他の樹脂からなる樹脂相が前記マトリクス相中に独立した島状で分散していることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記エラストマー相を形成するエラストマーが熱可塑性エラストマーを含むものであり、前記その他の樹脂が熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
エラストマー粒子の表面を平板状の熱伝導性フィラーを含む熱伝導性フィラーで被覆して表面被覆粒子を得る被覆工程と、
前記表面被覆粒子と該表面被覆粒子を形成しているエラストマー以外のその他の樹脂との混合物を用いて、前記平板状の熱伝導性フィラーを含む熱伝導性フィラーにより形成されているマトリクス相と該マトリクス相中に分散している前記エラストマーからなる相と前記マトリクス相に接触している前記その他の樹脂からなる相とを備えており、前記その他の樹脂からなる相が前記マトリクス相中に独立した島状で分散している複合材料を作製する成形工程と、
を含むことを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記成形工程において、圧縮成形により前記複合材料を作製することを特徴とする請求項3に記載の複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記エラストマー相を形成するエラストマーが熱可塑性エラストマーを含むものであり、前記その他の樹脂が熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることを特徴とする請求項3又は4に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性フィラー及びエラストマーを含有する複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性フィラーと樹脂とを混合した熱伝導性を有する複合材料については、従来から数多く開発されている。例えば、グラファイトは、単結晶に近い状態では800W/mKの高い熱伝導率を示すが、グラファイトと樹脂とを均一に混合して複合材料を作製しても、熱伝導性が十分なものは得られず、例えば、グラファイトを50質量%含有する複合材料であっても熱伝導率が10W/mKを超えるものは得られず(特開2011−16937号公報(特許文献1))、パワーデバイスの放熱といった高い熱伝導率が要求される用途に適用できる複合材料が求められてきた。
【0003】
また、熱伝導性を向上させるために、複合材料中の熱伝導性フィラーの連結点を増加させることが検討されている。例えば、特開2000−91485号公報(特許文献2)では、炭素繊維などの熱伝導性の配合材を内包する樹脂材が開示されており、前記配合材が接触したり、繊維状の配合材を配向させることにより高い熱伝導性が得られることも開示されている。しかしながら、この樹脂材では、樹脂からなるマトリクス相に前記配合材が分散しているため、前記熱伝導性の配合材は必ずしも十分な熱伝導パスを形成しておらず、樹脂材の熱伝導性も十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−16937号公報
【特許文献2】特開2000−91485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、優れた熱伝導性を有する複合材料、並びに、このような複合材料において、確実に熱伝導パスを形成することが可能な複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、熱伝導性フィラー及びエラストマーを含有する複合材料を製造する際に、表面が熱伝導性フィラーで被覆されているエラストマー粒子を用いることによって、熱伝導性フィラーにより形成されたマトリクス相中に分散しているエラストマーからなる相が形成されることを見出し、さらに、このような相構造を有する複合材料が熱伝導性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の複合材料は、平板状の熱伝導性フィラーを含む熱伝導性フィラーにより形成されているマトリクス相と、該マトリクス相中に分散しているエラストマー相と、前記マトリクス相に接触している、前記エラストマー相を形成しているエラストマー以外のその他の樹脂からなる樹脂相とを備えており、前記その他の樹脂からなる樹脂相が前記マトリクス相中に独立した島状で分散していることを特徴とするものである。また、本発明の複合材料においては、前記エラストマー相を形成するエラストマーが熱可塑性エラストマーを含むものであり、前記その他の樹脂が熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることが好ましい。
【0008】
本発明の複合材料の製造方法は、エラストマー粒子の表面を平板状の熱伝導性フィラーを含む熱伝導性フィラーで被覆して表面被覆粒子を得る被覆工程と、
前記表面被覆粒子と該表面被覆粒子を形成しているエラストマー以外のその他の樹脂との混合物を用いて、前記平板状の熱伝導性フィラーを含む熱伝導性フィラーにより形成されているマトリクス相と該マトリクス相中に分散している前記エラストマーからなる相と前記マトリクス相に接触している前記その他の樹脂からなる相とを備えており、前記その他の樹脂からなる相が前記マトリクス相中に独立した島状で分散している複合材料を作製する成形工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0009】
前記成形工程においては、圧縮成形により前記複合材料を作製することが可能である。また、本発明の複合材料の製造方法においては、前記エラストマー相を形成するエラストマーが熱可塑性エラストマーを含むものであり、前記その他の樹脂が熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることが好ましい。
【0010】
なお、本発明の複合材料の製造方法によって優れた熱伝導性を有する複合材料が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の複合材料の製造方法においては、表面が熱伝導性フィラーで被覆されているエラストマー粒子(以下、「表面被覆粒子」という)を使用して複合材料を成形する。このとき、表面被覆粒子同士が接触して隣接する表面被覆粒子の熱伝導性フィラー同士が接触することによってマトリクス相が形成される。また、前記エラストマーからなる相は周囲をこのマトリクス相で覆われており、前記マトリクス中に分散して存在している。そして、エラストマー相の内部応力によりエラストマー相からマトリクス相に応力が印加され、熱伝導性フィラーからなる被覆層が互いに押付け合って面接触或いは点接触することにより効率的に熱伝導パスが形成され、さらに、マトリクス相内の熱伝導性フィラー同士の密着性が向上するため、高い熱伝導率を有する複合材料が得られると推察される。また、本発明に用いられる熱伝導性フィラーが平板状又は繊維状であるため、熱伝導性フィラーは、表面被覆粒子の作製時に、被覆層の面方向(エラストマー粒子の表面に平行な方向)に板面又は繊維軸を揃えて配向する。このため、マトリクス相形成時に、マトリクス相の熱伝導方向と熱伝導性フィラーの熱伝導方向とが一致し、より高い熱伝導性が発現すると推察される。
【0011】
一方、従来の複合材料は、熱伝導性フィラーとエラストマー等の樹脂とが均一に混合されている混合物を用いて成形される。このようにして得られる複合材料においては、樹脂相がマトリクス相となり、該マトリクス相に熱伝導性フィラーが分散しているため、複合材料を横断する熱伝導パスが形成されにくく、さらに、複合材料の熱流方向と熱伝導性フィラーの熱伝導方向が自発的に一致するメカニズムが存在しないため、本発明の複合材料に比べて熱伝導率が低くなると推察される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複合材料中に確実に熱伝導パスを形成することができ、熱伝導性に優れた複合材料を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例及び比較例4〜5で作製した圧縮成形体(熱伝導率測定用試料)を示す模式図である。
図2】実施例1で調製した表面がグラファイトで被覆されたスチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)粒子の断面のX線CT断面像を示すX線写真である。
図3】実施例1で得られた圧縮成形体のxy平面のX線CT断面像を示すX線写真である。
図4】実施例2で得られた圧縮成形体のxy平面のX線CT断面像を示すX線写真である。
図5】実施例3で得られた圧縮成形体のxy平面のX線CT断面像を示すX線写真である。
図6】実施例4で得られた圧縮成形体のxy平面のX線CT断面像を示すX線写真である。
図7】実施例5で得られた圧縮成形体のxy平面のX線CT断面像を示すX線写真である。
図8】比較例4で得られた圧縮成形体のxy平面のX線CT断面像を示すX線写真である。
図9】比較例5で得られた圧縮成形体のxy平面のX線CT断面像を示すX線写真である。
図10】グラファイト含有率と熱伝導率との関係を示すグラフである。
図11】表面被覆エラストマー粒子含有率と熱伝導率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
先ず、本発明の複合材料について説明する。本発明の複合材料は、熱伝導性フィラーにより形成されているマトリクス相と該マトリクス相中に分散しているエラストマー相とを備えるものである。本発明の複合材料においては、熱伝導性フィラーによりマトリクス相が形成されているため、このマトリクス相が熱伝導パスとなり、優れた熱伝導性を得ることができる。また、熱伝導性フィラーにより形成されているマトリクス相中にエラストマー相が分散して存在しているため、マトリクス相が補強され、熱伝導性フィラーのみからなる成形体の脆さを改善することができる。
【0016】
本発明にかかるマトリクス相を形成する熱伝導性フィラーとしては、例えば、板状グラファイト、板状窒化アルミニウム、板状窒化ホウ素、板状アルミナ、アルミフレーク、銅フレーク等の平板状の熱伝導性フィラー、SiC繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属めっきを施した繊維、金属繊維等の繊維状の熱伝導性フィラーが挙げられる。これらの熱伝導性フィラーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このような熱伝導性フィラーのうち、より高い熱伝導率が得られるという観点から、板状グラファイト、板状窒化ホウ素、炭素繊維、カーボンナノチューブが好ましい。
【0017】
このような熱伝導性フィラーの平均長軸長さとしては0.5μm〜10mmが好ましく、1μm〜1000μmがより好ましい。熱伝導性フィラーの平均長軸長さが前記下限未満になると、熱伝導性フィラー間の熱伝導が起こりにくくなり、かつ粒界抵抗が増大するため、複合材料の熱伝導性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる複合材料の均一性が低下する傾向にある。また、本発明に用いる熱伝導性フィラーとしては、高い熱伝導性が得られるという観点から、熱伝導性フィラーにおける熱伝導性の最も高い方向が熱伝導性フィラーの長軸方向と一致しているものが特に好ましいが、熱伝導性フィラーの入手可能性や熱伝導性フィラーの異方性の程度によって必ずしもそれに限定されるものではない。また、本発明の複合材料においては、より高い熱伝導性が得られるという観点から、このような熱伝導性フィラーの熱伝導性が高い方向と複合材料の熱流方向が一致していることが好ましい。
【0018】
また、前記熱伝導性フィラーの平均厚さ(平板状の場合)又は平均直径(繊維状の場合)としては1nm〜1mmが好ましく、10nm〜100μmがより好ましい。熱伝導性フィラーの平均厚さ又は平均直径が前記下限未満になると、熱伝導界面の増加により熱抵抗が増大したり、熱伝導性フィラーそのものの熱伝導性が低下したりする傾向にあり、他方、前記上限を超えると、熱伝導性フィラーが過度に粗大となり、エラストマーとの複合化が困難となる傾向にある。
【0019】
さらに、前記熱伝導性フィラーの平均アスペクト比(平板状の場合:平均長軸長さ/平均厚さ、繊維状の場合:平均長軸長さ/平均直径)としては、1より大きければ特に制限はないが、熱伝導性フィラーの配向によって高い熱伝導性が得られるという観点から、2以上が好ましく、10以上がより好ましい。なお、熱伝導性フィラーの平均アスペクト比の上限として特に制限はないが、10000以下が好ましい。
【0020】
また、本発明においては、熱伝導性フィラー間の熱伝達を促進するために、低融点金属(例えば、はんだ、ウッドメタル、ガリンスタン、ローズ合金、Uアロイ、金属ナノ粒子)を添加して使用してもよい。
【0021】
本発明にかかるエラストマー相を形成するエラストマーは、成形温度範囲においてゴム弾性を有する高分子であり、例えば、熱可塑性エラストマーや架橋型エラストマー(架橋ゴム)、成形温度においてゴム状態(ゴム領域)を示す熱可塑性樹脂等である。熱可塑性エラストマーとしては、加熱により軟化して流動性を発現し、冷却によりゴム状弾性体に戻る性質を有するものであれば特に制限はなく、例えば、スチレン系エラストマー(例えば、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS))、ポリオレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アミド系エラストマー、フッ素ゴム等が挙げられる。また、架橋型エラストマー(架橋ゴム)としては、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、天然ゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、ポリイソプレン等が挙げられる。このような架橋型エラストマーは成形時の圧力により変形、圧着し、この圧着状態を固定(例えば、後述する、前記エラストマー相を形成しているエラストマー以外のその他の樹脂からなる樹脂相によって固定)することによってネットワーク構造が保持される。これらのエラストマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このようなエラストマーのうち、高温で流動変形し、その変形状態が室温で固定されやすいという観点においては、スチレン系エラストマー(より好ましくは、SEBS)、ポリオレフィン系エラストマーが好ましい。また、球状粒子を作製しやすいという観点においては、スチレン系エラストマー(より好ましくは、SEBS)、アクリルゴムが好ましい。
【0022】
本発明の複合材料中のエラストマー相の形状としては、熱伝導性フィラーにより形成されるマトリクス相の熱伝導パスの伝導性が損なわれない限り、特に制限はないが、球状粒子同士を圧着した場合に隣接する球状粒子との接触部分が平面となっている形状(以下、「略球状」という)が好ましい。エラストマー相が前記略球状を有することにより、熱伝導性フィラーにより形成されるマトリクス相同士の密着を等方的に生じさせることができ、前記マトリクス相の熱伝導パスが迂回するために起こる複合材料の熱伝導性の低下を等方的に抑制することが可能となる。このような略球状のエラストマー相はマトリクス相中に必ずしも配向した状態で存在している必要はない。一方、複合材料の熱伝導性に異方性を付与したい場合には、前記エラストマー相の形状に異方性を付与することによって前記エラストマー相を配向させてもよい。これにより、前記熱伝導パスの形成が阻害されにくくなり、複合材料の熱伝導性を更に向上させることが可能となるだけでなく、少ない熱伝導性フィラー量で高い熱伝導率を得ることができる。
【0023】
前記エラストマー相の平均長軸長さ(球状の場合には平均直径)としては、マトリクス相を形成する熱伝導性フィラーの平均長軸長さの1倍以上であれば特に制限はないが、2〜1000倍が好ましく、2〜100倍がより好ましい。エラストマー相の平均長軸長さが前記下限未満になると、得られる複合材料の熱伝導性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、熱伝導パスが形成されにくくなる傾向にある。
【0024】
また、前記エラストマー相の平均厚さ(平板状の場合)、平均直径(繊維状の場合)又は平均短軸長さ(その他の形状(球状を除く)の場合)としては0.5μm〜10mmが好ましく、1μm〜5mmがより好ましい。特に、複合材料に高熱伝導性を発現させるためには、エラストマー相の大きさ(特に、平均厚さ)が熱伝導性フィラーの大きさ(特に、平均厚さ(平板状の場合)又は平均直径(繊維状の場合))より大きいことが重要であり、前記エラストマー相の大きさが前記熱伝導性フィラーの大きさの1.1〜200倍であることが好ましく、2〜100倍であることがより好ましい。また、エラストマー相の平均厚さ又は平均直径が前記下限未満になると、熱伝導性フィラー同士が接触しにくく、十分な熱伝導パスが形成されず、複合材料の熱伝導性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、複合材料そのものを作製しにくい傾向にある。
【0025】
また、前記エラストマー相の平均アスペクト比(平板状の場合:平均長軸長さ/平均厚さ、繊維状の場合:平均長軸長さ/平均直径、その他の形状(球状を除く)の場合:平均長軸長さ/平均短軸長さ)としては、2以上が好ましく、5以上がより好ましい。エラストマー相の平均アスペクト比が前記下限未満になると、熱伝導性フィラーにより形成されるマトリクス相の熱伝導パスが迂回するため、複合材料の熱伝導性が低下する傾向にある。なお、エラストマー相の平均アスペクト比の上限として特に制限はないが、10000以下が好ましい。
【0026】
本発明の複合材料において、前記エラストマー相の割合としては、複合材料全体に対して5〜98体積%が好ましく、10〜95体積%がより好ましく、20〜90体積%が特に好ましく、40〜70体積%が最も好ましい。また、熱伝導性フィラー(マトリクス相)の割合としては、複合材料全体に対して95〜2体積%が好ましく、90〜5体積%がより好ましく、80〜10体積%が特に好ましく、60〜30体積%が最も好ましい。エラストマー相の割合が前記下限未満になる(熱伝導性フィラーの割合が前記上限を超える)と、得られる複合材料が脆くなる傾向にあり、他方、エラストマー相の割合が前記上限を超える(熱伝導性フィラーの割合が前記下限未満になる)と、熱伝導パスが形成されにくくなる傾向にある。
【0027】
また、本発明の複合材料において、隣接するエラストマー相の一部が接触していてもよいが、熱伝導パスを確実に形成するためには、隣接するエラストマー相同士が接触していないこと(すなわち、独立した島状で分散していること)が好ましく、隣接するエラストマー相間の平均距離が前記熱伝導性フィラーの平均厚さより大きいことがより好ましい。さらに、隣接するエラストマー相間の平均距離が長いほど、複合材料の熱伝導性が向上する傾向にある。このような観点から、複合材料中の隣接するエラストマー相間の平均距離としては、1〜10000μmが好ましく、10〜10000μmがより好ましい。また、隣接するエラストマー相間の距離を均等にすることによって、複合材料の熱伝導性を向上させることができる。なお、このような隣接するエラストマー相間の平均距離は、マトリクス相を形成する熱伝導性フィラーとエラストマー相を形成するエラストマーの配合比を調整することによって制御することができ、熱伝導性フィラーの配合量を多くすることによって、隣接するエラストマー相間の平均距離を長くすることが可能となる。
【0028】
さらに、本発明の複合材料においては、熱伝導性フィラーが連続してマトリクス相を形成すること(すなわち、マトリクス相の連続性)が損なわれない範囲において、前記マトリクス相に接触している、前記エラストマー相を形成しているエラストマー以外のその他の樹脂からなる相(その他の樹脂相)を更に備えていてもよい。これにより、マトリクス相同士の密着性が向上する傾向にある。また、前記その他の樹脂相は、前記マトリクス相に隣接していてもよいし、前記マトリクス中に存在(分布)していてもよいが、マトリクス相の連続性が損なわれにくいという観点から、前記マトリクス中に分散(より好ましくは、独立した島状で分散)していることが好ましい。
【0029】
前記その他の樹脂相を形成する樹脂成分としては、例えば、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂、シリコーン樹脂等の硬化性樹脂;ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ABS樹脂、ポリアミドイミド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。また、前記エラストマー相を形成するエラストマーとして例示したエラストマーのうち、前記エラストマー相を形成しているエラストマー以外のエラストマーを前記その他の樹脂相を形成する樹脂成分(その他の樹脂)として使用することができる。これらのその他の樹脂は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明の複合材料において、前記その他の樹脂相の割合としては、複合材料全体に対して50体積%以下が好ましく、40体積%以下がより好ましい。その他の樹脂相の割合が前記上限を超えると、その他の樹脂相が連続相となり、熱伝導性フィラーによるマトリクス相が形成されにくくなる傾向にある。
【0031】
次に、本発明の複合材料の製造方法について説明する。本発明の複合材料の製造方法は、エラストマー粒子の表面を熱伝導性フィラーで被覆して表面被覆粒子を得る被覆工程と、前記表面被覆粒子を用い、近接する前記表面被覆粒子の表面を接触させることによって、前記熱伝導性フィラーにより形成されているマトリクス相と該マトリクス相中に分散している前記エラストマーからなる相とを備えている複合材料を作製する成形工程と、を含むものである。
【0032】
また、前記成形工程においては、前記表面被覆粒子と、この表面被覆粒子を形成しているエラストマー以外のその他の樹脂との混合物を用いることによって、前記熱伝導性フィラーにより形成されているマトリクス相と、前記マトリクス相中に分散している前記エラストマーからなる相と、前記マトリクス相の連続性を損なわない範囲で前記マトリクス相に接触している前記その他の樹脂からなる相とを備えている複合材料を作製することも可能である。
【0033】
本発明の複合材料の製造方法に用いられるエラストマー粒子の形状としては、特に制限はないが、マトリクス相が補強されやすいという観点においては、繊維状が好ましく、また、複合材料中に空隙が形成されにくいという観点においては、粒状が好ましい。また、このようなエラストマー粒子の平均長軸長さ(球状粒子の場合には平均直径)としては、0.001〜10mmが好ましく、0.01〜10mmがより好ましく、0.1〜10mmが特に好ましい。エラストマー粒子の平均長軸長さが前記下限未満になると、エラストマー粒子の表面を熱伝導性フィラーで被覆しにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、複合材料を成形しにくくなる傾向にある。さらに、このようなエラストマー粒子の平均長軸長さ(球状粒子の場合には平均直径)は、前記熱伝導性フィラーの平均長軸長さより長いことが好ましく、前記エラストマー粒子の平均長軸長さが前記熱伝導性フィラーの平均長軸長さの大きさの1.1〜200倍であることが好ましく、2〜100倍であることがより好ましい。エラストマー粒子の平均長軸長さが熱伝導性フィラーの平均長軸長さより短くなると、エラストマー粒子の表面を熱伝導性フィラーで被覆しにくくなる傾向にある。
【0034】
本発明の複合材料の製造方法においては、先ず、前記エラストマーからなる粒子の表面を前記熱伝導性フィラーで被覆して表面被覆粒子を作製する(被覆工程)。前記エラストマー粒子の表面を前記熱伝導性フィラーで被覆する方法としては特に制限はないが、前記エラストマー粒子と前記熱伝導性フィラーとを、必要に応じてバインダー樹脂とともに溶媒中で混合した後、溶媒を除去する方法;前記熱伝導性フィラーを、必要に応じてバインダー樹脂とともに溶媒に分散させ、前記エラストマー粒子の表面に得られた分散液を噴霧、造粒、塗布、含浸等によりコーティングし、加熱、減圧等によりエラストマー粒子を乾燥する方法等が挙げられる。バインダー樹脂を使用しない場合には、得られる表面被覆粒子にエラストマー粒子及び熱伝導性フィラー以外の成分が含まれないため、高い熱伝導率を有する複合材料を得ることができ、他方、バインダー樹脂を使用する場合には、エラストマー粒子表面からの熱伝導性フィラーの剥離を抑制することができる。
【0035】
また、前記エラストマー粒子の表面を前記熱伝導性フィラーで被覆する方法においては、下記式:
k=〔Aave×n〕/〔4π(rave×N
(式中、kはエラストマー粒子表面における熱伝導性フィラーの被覆率を表し、Aaveは熱伝導性フィラーの吸着面の面積の個数平均値(m/個)を表し、nは熱伝導性フィラーの個数を表し、raveはエラストマー粒子の平均半径(m)を表し、Nはエラストマー粒子の個数を表す)
により求められる被覆率kが、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上、特に好ましくは1.0以上となるように、エラストマー粒子と熱伝導性フィラーとの比率を決定し、この比率となるように、前記エラストマー粒子と前記熱伝導性フィラーとを混合したり、前記エラストマー粒子に前記熱伝導性フィラーをコーティングしたりする。
【0036】
前記溶媒としては特に制限はないが、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール)、トルエン、アルカン(例えば、ヘキサン、ペンタン)、エーテル、ジオキサン等が挙げられる。
【0037】
また、前記バインダー樹脂としては熱伝導性フィラーの熱伝導性を阻害しないものであれば特に制限はないが、例えば、ポリビニルブチラールやポリイソブチレン、ポリ酢酸ビニルのほか、前記その他の樹脂相を形成する樹脂成分として例示した樹脂(エラストマーを含む)が挙げられる。このようなバインダー樹脂の配合量としては、熱伝導性フィラー100質量部に対して50質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、10質量部以下が特に好ましい。バインダー樹脂の配合量が前記上限を超えると、マトリクス相を形成している熱伝導性フィラー間にバインダー樹脂が存在しやすく、マトリクス相における熱伝導パスの形成が阻害され、複合材料の熱伝導性が低下する傾向にある。
【0038】
次に、このようにして得られた前記表面被覆粒子を用いて、前記熱伝導性フィラーにより形成されているマトリクス相と前記エラストマーにより形成されている相(エラストマー相)とを備えている本発明の複合材料を成形する(成形工程)。このとき、前記表面被覆粒子同士を接触させることによって、隣接する表面被覆粒子の熱伝導性フィラー同士が接触し、前記マトリクス相が形成される。また、前記エラストマー相は、周囲をこのようなマトリクス相で覆われており、前記マトリクス相中に分散(好ましくは、独立した島状として分散)して存在している。
【0039】
前記成形工程においては、前記エラストマー相の内部応力を利用して前記エラストマー相から前記マトリクス相に応力を印加することができ、これにより、前記マトリクス相内の熱伝導性フィラー同士を接触させることができるため、大きな外力を印加せずに前記表面被覆粒子を配置、固定する(場合によっては加熱過程を含む)ことによって、確実な熱伝導パスが形成された本発明の複合材料を成形することが可能であるが、大きな外力を印加して本発明の複合材料を成形してもよい。大きな外力を印加した場合には、前記エラストマー相の内部応力により前記エラストマー相から前記マトリクス相に応力が印加され、前記マトリクス相内の熱伝導性フィラー同士の密着性が向上し、より確実な熱伝導パスを形成することができる。大きな外力を印加せずに成形する方法としては射出成形や延伸成形、トランスファー成形等が挙げられ、大きな外力を印加して成形する方法としては圧縮成形が挙げられる。
【0040】
また、前記成形工程においては、前記表面被覆粒子に前記その他の樹脂を配合した混合物を用いることによって、前記その他の樹脂からなる相(その他の樹脂相)を更に備えている本発明の複合材料を成形することができる。このような複合材料において、前記その他の樹脂相は、前記マトリクス相に接触して存在(すなわち、前記マトリクス相に隣接して存在、或いは前記マトリクス相中に存在(分布))しており、好ましくは前記マトリクス相中に分散(より好ましくは、独立した島状として分散)して存在している。また、このような複合材料は、隣接する表面被覆粒子間の熱伝導性フィラー同士の密着性に優れている。
【0041】
前記混合物におけるその他の樹脂の含有量としては、前記混合物全体に対して50体積%以下が好ましく、40体積%以下がより好ましい。前記その他の樹脂の含有量が前記上限を超えると、その他の樹脂により連続相が形成され、熱伝導性フィラーによるマトリクス相が形成されにくくなる傾向にある。
【0042】
本発明の複合材料の製造方法においては、成形工程で必ずしも圧縮する必要はないが、圧縮成形する場合には一軸圧縮又は二軸圧縮のいずれを採用してもよい。また、静水圧で等方的に圧縮してもよい。さらに、圧縮は室温で行なってもよいが、より効率的に成形できるという観点から、下記式(1a)で表される条件を満たす温度(より好ましくは、下記式(2a)又は(3a)で表される条件を更に満たす温度)に加熱しながら行うことが好ましく、より高い熱伝導性を有する複合材料が得られるという観点から、下記式(1b)で表される条件を満たす温度(より好ましくは、下記式(2b)又は(3b)で表される条件を更に満たす温度)に加熱しながら行うことがより好ましく、下記式(1c)で表される条件を満たす温度(より好ましくは、下記式(2c)又は(3c)で表される条件を更に満たす温度)に加熱しながら行うことが特に好ましい。
【0043】
Tg−10℃≦T (1a)
Tm−10℃≦T (2a)
Td−10℃≦T (3a)
Tg≦T≦Tg+40℃ (1b)
Tm≦T≦Tg+40℃ (2b)
Td≦T≦Tg+40℃ (3b)
Tg+10℃≦T≦Tg+20℃ (1c)
Tm+10℃≦T≦Tg+20℃ (2c)
Td+10℃≦T≦Tg+20℃ (3c)
なお、前記式中、Tは加熱温度(単位:℃)を表し、Tgはエラストマーのガラス転移温度又は軟化温度(単位:℃)を表し、Tmはエラストマーの融点(単位:℃)を表し、Tdはエラストマーの熱変形温度(単位:℃)を表す。
【0044】
また、圧縮時の圧力としては0.1〜10000kg/cmが好ましい。このような圧力で圧縮することにより、表面被覆粒子同士を確実に接触させることができる。一方、圧縮時の圧力が前記上限を超えると、表面被覆粒子の構造が保持されず、熱伝導性フィラーによるマトリクス相が形成されにくい傾向にある。
【0045】
このようにして得られる圧縮成形体を固化させることによって本発明の複合材料を得ることができる。固化の方法としては特に制限はなく、加熱により成形した場合には放冷などの公知の冷却方法を採用することができる。また、このような固化は、圧縮成形時又は圧縮成形後のいずれにおいて実施してもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
<熱伝導率測定>
実施例及び比較例4〜5においては、得られた圧縮成形体をそのまま熱伝導率測定用試料として使用した(図1)。一方、比較例1〜3においては、得られた圧縮成形体から熱伝導率測定用試料(厚さ(図1のx軸方向長さに相当):2.5mm、幅(図1のy軸方向長さに相当):10mm、長さ(図1のz軸方向長さに相当):10mm)を切出して使用した。
【0048】
前記試料の厚さ方向(x軸方向)又は圧縮方向(z軸方向)を熱流方向としてキセノンフラッシュアナライザー(NETZSCH社製「LFA 447 NanoFlash」)を用いて圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)及び平行な方向(z軸方向)の熱拡散率を測定した。また、前記試料の比熱を熱振動型示差走査熱量測定装置(ティー・エイ・インスツル社製)を用いて測定した。さらに、前記試料の密度を水中置換法により求めた。これらの結果から次式:
熱伝導率(W/(m・K))=比熱(J/(kg・K))×密度(kg/m
×熱拡散率(m/秒)
により、圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を算出した。
【0049】
<電子顕微鏡観察>
電子顕微鏡観察は、走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製「S−4300」)を用いて行なった。
【0050】
<X線CT観察>
X線CT観察は、X線CT装置(ヤマト科学(株)製「TDM−1000H−II」)を用いて行なった。
【0051】
(実施例1)
ポリイソブチレン(アルドリッチ社製、数平均分子量:4200)2.20gをヘキサン100mlに溶解し、これにグラファイト(日本黒鉛工業(株)製「CMX−40」、平均長軸長さ:約40μm、平均厚さ:2μm、密度:2.2g/cm)12.3gを添加して攪拌混合した。得られた混合物に、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体粒子(Kraton社製「G1645」、平均粒子径:3mm、以下「SEBS粒子」と略す)24.26gを添加して攪拌混合した。得られた混合物を200mlのフラスコに入れ、エバポレーターを用いてフラスコを回転させながら、常圧下で約30分間かけてヘキサンを蒸発させた。得られた固体を真空乾燥した後、電子顕微鏡観察を行なったところ、図2に示すように、SEBS粒子の表面はほぼ完全かつ均一にグラファイトで被覆されていることがわかった。また、グラファイト層の厚みは約0.1〜0.3mmであった。
【0052】
この表面被覆SEBS粒子0.56gを、高さ可変式の直方体容器(幅10mm、厚さ5mm、)中に充填し、120℃で加熱しながらプランジャを介して直方体の高さ方向(図1のz軸方向)に1kg/cmの圧力で圧縮した後、放冷して、表面被覆SEBS粒子含有率100体積%の圧縮成形体(厚さ(x軸方向長さ):4.95mm、幅(y軸方向長さ):10mm、圧縮方向長さ(z軸方向長さ):10.2mm)を得た。
【0053】
得られた圧縮成形体中のグラファイトの含有率をSEBS粒子とグラファイトの仕込質量比から算出した。その結果を表1に示す。また、前記圧縮成形体の圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。その結果を表1に示す。さらに、前記圧縮成形体の圧縮方向(z軸方向)に垂直な面(xy平面)のX線CT観察を行なった。その結果を図3に示す。
【0054】
図3のX線CT断面像から、得られた圧縮成形体において、グラファイトが熱可塑性エラストマー相(暗部)を取り囲むように網目状にマトリックス相(明部)を形成していることが確認された。また、グラファイト相は圧縮方向(z軸方向)に垂直な面(xy平面)においても連続したパスを形成していることが確認された。
【0055】
(実施例2)
実施例1と同様にして表面被覆SEBS粒子を得た。この表面被覆SEBS粒子0.56gに、得られる圧縮成形体における表面被覆SEBS粒子の含有率が89.9体積%となるようにエポキシ樹脂(コニシ(株)製「ボンドクイック5」)を混合した。得られた混合物を、圧縮治具に装着された高さ可変式の直方体容器(幅10mm、厚さ5mm、)中に充填し、室温でプランジャを介して直方体の高さ方向(図1のz軸方向)に1kg/cmの圧力で圧縮し、圧縮状態を保持してエポキシ樹脂を固化させ、さらに、圧縮状態を保持したまま、100℃で30分間加熱した後、放冷して、表面被覆SEBS粒子含有率89.9体積%(エポキシ樹脂含有率:10.1体積%)の圧縮成形体(厚さ(x軸方向長さ):5.10mm、幅(y軸方向長さ):10mm、圧縮方向長さ(z軸方向長さ):11mm)を得た。
【0056】
得られた圧縮成形体中のグラファイトの含有率をSEBS粒子とグラファイトとエポキシ樹脂の仕込質量比から算出した。その結果を表1に示す。また、前記圧縮成形体の圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。その結果を表1に示す。さらに、前記圧縮成形体の圧縮方向(z軸方向)に垂直な面(xy平面)のX線CT観察を行なった。その結果を図4に示す。
【0057】
図4のX線CT断面像から、得られた圧縮成形体において、グラファイトが熱可塑性エラストマー相(暗部)を取り囲むように網目状にマトリックス相(明部)を形成していることが確認された。また、前記マトリックス相中には更に明部のエポキシ樹脂相が形成されていることも確認された。さらに、グラファイト相は圧縮方向(z軸方向)に垂直な面(xy平面)においても連続したパスを形成していることが確認された。
【0058】
(実施例3)
得られる圧縮成形体における表面被覆SEBS粒子の含有率が76.8体積%となるように、表面被覆SEBS粒子0.56gにエポキシ樹脂を混合した以外は実施例2と同様にして、表面被覆SEBS粒子含有率76.8体積%(エポキシ樹脂含有率:23.2体積%)の圧縮成形体(厚さ(x軸方向長さ):5.05mm、幅(y軸方向長さ):10mm、圧縮方向長さ(z軸方向長さ):13mm)を得た。
【0059】
得られた圧縮成形体中のグラファイトの含有率をSEBS粒子とグラファイトとエポキシ樹脂の仕込質量比から算出した。その結果を表1に示す。また、前記圧縮成形体の圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。その結果を表1に示す。さらに、前記圧縮成形体の圧縮方向(z軸方向)に垂直な面(xy平面)のX線CT観察を行なった。その結果を図5に示す。
【0060】
図5のX線CT断面像から、得られた圧縮成形体において、グラファイトが熱可塑性エラストマー相(暗部)を取り囲むように網目状にマトリックス相(明部)を形成していることが確認された。また、前記マトリックス相中には更に明部のエポキシ樹脂相が形成されていることも確認された。さらに、グラファイト相は圧縮方向(z軸方向)に垂直な面(xy平面)においても連続したパスを形成していることが確認された。
【0061】
(実施例4)
得られる圧縮成形体における表面被覆SEBS粒子の含有率が68.2体積%となるように、表面被覆SEBS粒子0.56gにエポキシ樹脂を混合した以外は実施例2と同様にして、表面被覆SEBS粒子含有率68.2体積%(エポキシ樹脂含有率:31.8体積%)の圧縮成形体(厚さ(x軸方向長さ):5.10mm、幅(y軸方向長さ):10mm、圧縮方向長さ(z軸方向長さ):14.5mm)を得た。
【0062】
得られた圧縮成形体中のグラファイトの含有率をSEBS粒子とグラファイトとエポキシ樹脂の仕込質量比から算出した。その結果を表1に示す。また、前記圧縮成形体の圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。その結果を表1に示す。さらに、前記圧縮成形体の圧縮方向(z軸方向)に垂直な面(xy平面)のX線CT観察を行なった。その結果を図6に示す。
【0063】
図6のX線CT断面像から、得られた圧縮成形体において、グラファイトが熱可塑性エラストマー相(暗部)を取り囲むように網目状にマトリックス相(明部)を形成していることが確認された。また、前記マトリックス相中には更に明部のエポキシ樹脂相が形成されていることも確認された。さらに、グラファイト相は圧縮方向(z軸方向)に垂直な面(xy平面)においても連続したパスを形成していることが確認された。
【0064】
(実施例5)
得られる圧縮成形体における表面被覆SEBS粒子の含有率が60.5体積%となるように、表面被覆SEBS粒子0.56gにエポキシ樹脂を混合した以外は実施例2と同様にして、表面被覆SEBS粒子含有率60.5体積%(エポキシ樹脂含有率:39.5体積%)の圧縮成形体(厚さ(x軸方向長さ):5.05mm、幅(y軸方向長さ):10mm、圧縮方向長さ(z軸方向長さ):16.5mm)を得た。
【0065】
得られた圧縮成形体中のグラファイトの含有率をSEBS粒子とグラファイトとエポキシ樹脂の仕込質量比から算出した。その結果を表1に示す。また、前記圧縮成形体の圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。その結果を表1に示す。さらに、前記圧縮成形体の圧縮方向(z軸方向)に垂直な面(xy平面)のX線CT観察を行なった。その結果を図7に示す。
【0066】
図7のX線CT断面像から、得られた圧縮成形体において、グラファイトが熱可塑性エラストマー相(暗部)を取り囲むように網目状にマトリックス相(明部)を形成していることが確認された。また、前記マトリックス相中には更に明部のエポキシ樹脂相が形成されていることも確認された。さらに、グラファイト相は圧縮方向(z軸方向)に垂直な面(xy平面)においても連続したパスを形成していることが確認された。
【0067】
(比較例1〜3)
液状エポキシ樹脂(日新レジン(株)製「クリスタルレジンIISP−C」、密度:1.0g/cm)及びグラファイト(日本黒鉛工業(株)製「CMX−40」)を表1に示すグラファイト含有率となるように混合した。得られた混合物を、圧縮治具に装着された直径14mmの円筒容器に充填し、室温でプランジャを介して円筒容器の高さ方向(z軸方向)に14kg/cmの圧力で圧縮し、圧縮状態を保持したまま、約12時間放冷してエポキシ樹脂を固化させ、表1に示すグラファイト含有率及びエポキシ樹脂含有率を有する円筒状の圧縮成形体(直径:14mm、圧縮方向長さ(z軸方向長さ):30mm)を得た。得られた円筒状の圧縮成形体から熱伝導率測定用試料(厚さ(x軸方向長さ):2.5mm、幅(y軸方向長さ):10mm、長さ(z軸方向長さ):10mm)を切出して圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。その結果を表1に示す。
【0068】
(比較例4)
得られる圧縮成形体における表面被覆SEBS粒子の含有率が46.9体積%となるように、表面被覆SEBS粒子0.56gにエポキシ樹脂を混合した以外は実施例2と同様にして、表面被覆SEBS粒子含有率46.9体積%(エポキシ樹脂含有率:53.1体積%)の圧縮成形体(厚さ(x軸方向長さ):5.00mm、幅(y軸方向長さ):10mm、圧縮方向長さ(z軸方向長さ):21.5mm)を得た。
【0069】
得られた圧縮成形体中のグラファイトの含有率をSEBS粒子とグラファイトとエポキシ樹脂の仕込質量比から算出した。その結果を表1に示す。また、前記圧縮成形体の圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。その結果を表1に示す。さらに、前記圧縮成形体の圧縮方向(z軸方向)に垂直な面(xy平面)のX線CT観察を行なった。その結果を図8に示す。
【0070】
図8のX線CT断面像から、得られた圧縮成形体において、グラファイトが熱可塑性エラストマー相(暗部)を取り囲んでいるものの、マトリックス相(明部)を形成していないことが確認された。また、得られた圧縮成形体においては、更に明部のエポキシ樹脂が、グラファイトで被覆された熱可塑性エラストマー相(暗部)を取り囲むように網目状に連続相を形成していることが確認された。
【0071】
(比較例5)
得られる圧縮成形体における表面被覆SEBS粒子の含有率が36.6体積%となるように、表面被覆SEBS粒子0.56gにエポキシ樹脂を混合した以外は実施例2と同様にして、表面被覆SEBS粒子含有率36.6体積%(エポキシ樹脂含有率:63.4体積%)の圧縮成形体(厚さ(x軸方向長さ):5.20mm、幅(y軸方向長さ):10mm、圧縮方向長さ(z軸方向長さ):26.5mm)を得た。
【0072】
得られた圧縮成形体中のグラファイトの含有率をSEBS粒子とグラファイトとエポキシ樹脂の仕込質量比から算出した。その結果を表1に示す。また、前記圧縮成形体の圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率を求めた。その結果を表1に示す。さらに、前記圧縮成形体の圧縮方向(z軸方向)に垂直な面(xy平面)のX線CT観察を行なった。その結果を図9に示す。
【0073】
図9のX線CT断面像から、得られた圧縮成形体において、グラファイトが熱可塑性エラストマー相(暗部)を取り囲んでいるものの、マトリックス相(明部)を形成していないことが確認された。また、得られた圧縮成形体においては、更に明部のエポキシ樹脂が、グラファイトで被覆された熱可塑性エラストマー相(暗部)を取り囲むように網目状に連続相を形成していることが確認された。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示した結果に基づいて、グラファイト含有率に対して圧縮成形体の圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率をプロットした結果を図10に示す。図10に示した結果から明らかなように、グラファイトがマトリックス相を形成している本発明の複合材料(実施例1〜5)は、グラファイトが同じ含有率でエポキシ樹脂中に均一に分散している圧縮成形体(比較例1〜3)及びグラファイトがマトリックス相を形成していない圧縮成形体(比較例4〜5)に比べて熱伝導率が著しく高くなることがわかった。
【0076】
また、表1に示した結果に基づいて、表面被覆熱可塑性エラストマー粒子の含有率に対して圧縮成形体の圧縮方向に垂直な方向(x軸方向)の熱伝導率をプロットした結果を図11に示す。なお、図11中の点線は、表面被覆熱可塑性エラストマー粒子を構成するグラファイトがロスなく熱伝導パスを形成していると仮定した場合の計算上の熱伝導率(上限値)を表す。図11に示した結果から明らかなように、本発明の複合材料は、前記計算上の熱伝導率(上限値)と同程度或いはそれを超える熱伝導率を有するものであり、高熱伝導性を発揮する上で極めて理想的な相構造を有するものであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上説明したように、本発明によれば、複合材料中に確実に熱伝導パスを形成することが可能となる。したがって、本発明の複合材料は、熱伝導性に優れているため、例えば、自動車用放熱材料、ヒーター材料、熱輸送(熱伝達)材料等として有用である。
【符号の説明】
【0078】
1:圧縮成形体(熱伝導率測定用試料)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11