特許第6390888号(P6390888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6390888FeOを主成分として含むナノ粒子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390888
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】FeOを主成分として含むナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/04 20060101AFI20180910BHJP
【FI】
   C01G49/04
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-18773(P2014-18773)
(22)【出願日】2014年2月3日
(65)【公開番号】特開2014-208569(P2014-208569A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2017年1月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-65451(P2013-65451)
(32)【優先日】2013年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【弁理士】
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120363
【弁理士】
【氏名又は名称】久保田 智樹
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100170601
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 孝
(72)【発明者】
【氏名】田上 智也
(72)【発明者】
【氏名】謝 剛
(72)【発明者】
【氏名】中島 英二
(72)【発明者】
【氏名】山室 佐益
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 直幸
(72)【発明者】
【氏名】西川 充
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0140951(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/001579(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0165086(US,A1)
【文献】 特開2009−215146(JP,A)
【文献】 特表2011−509233(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101538068(CN,A)
【文献】 CHENG, C.-J. et al,Synthesis of Monodisperse Magnetic Iron Oxide Nanoparticles from Submicrometer Hematite Powders,Cryst. Growth Des.,2008年 2月14日,Vol.8, No.3,pp.877-883,DOI:10.1021/cg0706013
【文献】 HOU, Y. et al,Controlled Synthesis and Chemical Conversions of FeO Nanoparticles,Angewandte Chemie International Edition,2007年 7月23日,Vol.46, No.33,p.6329-6332,DOI:10.1002/anie.200701694
【文献】 KHURSHID, H. et al,Synthesis and magnetic properties of core/shell FeO/Fe3O4 nano-octopods,Journal of Applied Physics,2013年 3月15日,Vol.113, No.17B508,p.1-3,DOI:10.1063/1.4794978
【文献】 BRONSTEIN, L. M. et al,Influence of Iron Oleate Complex Structure on Iron Oxide Nanoparticle Formation,Chem. Mater.,2007年 6月30日,Vol.19, No.15,p.3624-3632,DOI:10.1021/cm062948j
【文献】 KWON, S. G. et al,Kinetics of Monodisperse Iron Oxide Nanocrystal Formation by “Heating-Up” Process,J. Am. Chem. Soc.,2007年 9月22日,Vol.129, No.41,pp.12571-12584,DOI:10.1021/ja074633q
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00−49/04
B01J 21/00−38/74
C01B 32/00−32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄、前記酸化鉄を溶解させ且つ酸化鉄ナノ粒子表面に付着する界面活性剤の機能を有する長鎖不飽和脂肪酸である有機酸、及び210℃以上の沸点を有する無極性溶媒である第1溶媒を含む溶液を、100℃以上130℃以下の温度である第1温度に昇温し、前記溶液の水分を除去する水分除去ステップと、
前記溶液を、前記第1温度から280℃以上360℃以下の温度である第2温度に昇温し、前記第2温度を保持する第2温度保持ステップと、を有し、
前記第2温度保持ステップにおいて、前記有機酸と中和反応し且つ前記酸化鉄ナノ粒子表面に付着する界面活性剤の機能を有するアミン系溶媒である第2溶媒を投入するステップを有し、
前記有機酸はオレイン酸であり、前記第2溶媒はオレイルアミンである、FeOを主成分として含むナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記有機酸と前記酸化鉄とのモル比(有機酸/酸化鉄)は、18以上であり、
前記第2温度を保持する時間は、前記第2温度保持ステップ後に抽出される粒子の平均粒径が20nm以上となる時間である、FeOを主成分として含むナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FeOナノ粒子の製造方法及びカーボンナノチューブの形成方法、並びにFeOナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、Feのナノ粒子を化学的に製造し、Feのナノ粒子を触媒として用いてカーボンナノチューブを製造する技術が知られている。例えば、金属前駆体、界面活性剤、溶媒を原料に用いて、10nm以下の粒子径(粒径)を有するFeのナノ粒子(Fe)を製造する技術が知られている(特許文献1)。また、酸化鉄、オレイン酸及び1−オクタデセン中の酸化鉄とオレイン酸との投入割合比を調整することにより、20nm以下の粒径のFeのナノ粒子(Fe)を製造する技術が知られている(特許文献2)。液相法は、Feのナノ粒子を大量に製造するのに適した方法であるが、従来の液相法では、FeOのナノ粒子を製造することは困難であった。
また、従来より、酸化鉄粒子を用いたカーボンナノチューブの形成プロセスは、初期段階の急速な成長過程と、その後の緩慢な成長過程とを含んでいることが知られている(非特許文献1)。さらに、外径の大きいカーボンナノチューブを製造するために粒径の大きいFeのナノ粒子を触媒として用いると、カーボンナノチューブの成長性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−215146号公報
【特許文献2】特開2009−227470号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「ヘマタイト粉末を用いて酸化鉄磁性ナノ粒子の液相合成」、社団法人日本セラミック協会 第22回秋季シンポジウム予稿集、p402
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、液相法によりFeOを主成分として含むナノ粒子を製造することを目的とする。また、本発明は、FeOを主成分として含むナノ粒子を用いて、カーボンナノチューブの成長性を向上させつつ、外径の大きいカーボンナノチューブを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、酸化鉄、酸化鉄を溶解させ且つ酸化鉄ナノ粒子表面に付着する界面活性剤の機能を有する長鎖不飽和脂肪酸である有機酸、及び210℃以上の沸点を有する無極性溶媒である第1溶媒を含む溶液を、100℃以上130℃以下の温度である第1温度に昇温し、溶液の水分を除去する水分除去ステップと、溶液を、第1温度から280℃以上360℃以下の温度である第2温度に昇温し、第2温度を保持する第2温度保持ステップと、を有し、第2温度保持ステップにおいて、有機酸と中和反応し且つ酸化鉄ナノ粒子表面に付着する界面活性剤の機能を有するアミン系溶媒である第2溶媒を投入するステップを有し、前記有機酸はオレイン酸であり、前記第2溶媒はオレイルアミンである、FeOを含むナノ粒子の製造方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、液相法により製造されたFeO構造を主成分とする17nm以上の粒子径を有するFeOナノ粒子を基板に付着させた触媒基板を作製するステップと、触媒基板上にカーボンナノチューブを形成するステップと、を備えるカーボンナノチューブの形成方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、液相法により製造され、FeO構造を主成分とする17nm以上の粒子径を有するFeOナノ粒子を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、液相法によるFeOを主成分として含むナノ粒子の製造ができる。また、このFeOを主成分として含むナノ粒子を触媒として用いることにより、本発明は、カーボンナノチューブの成長性を向上させつつ、外径の大きいカーボンナノチューブを形成することができる。

【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係るFeOナノ粒子の模式図である。
図2A】本発明の第1実施形態に係る製造方法のフロー図である。
図2B】本発明の第1実施形態に係る製造方法に係る模式図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る製造装置の模式図である。
図4A】本発明の実施例1に係るX線回折パターンである。
図4B】本発明の実施例1に係る透過型電子顕微鏡像である。
図4C】本発明の実施例1に係る走査型電子顕微鏡像である。
図4D】本発明の実施例1に係る透過型電子顕微鏡像である。
図5A】本発明の比較例1に係るX線回折パターンである。
図5B】本発明の比較例1に係る透過型電子顕微鏡像である。
図5C】本発明の比較例1に係る走査型電子顕微鏡像である。
図5D】本発明の比較例1に係る透過型電子顕微鏡像である。
図6】本発明の比較例2に係るX線回折パターンと透過型電子顕微鏡像である。
図7】本発明の実施例2に係るX線回折パターンと透過型電子顕微鏡像である。
図8】本発明の実施例3に係るX線回折パターンと透過型電子顕微鏡像である。
図9】本発明の実施例4に係るX線回折パターンと透過型電子顕微鏡像である。
図10】本発明の実施例5に係る走査型電子顕微鏡像と透過型電子顕微鏡像である。
図11】本発明の第2実施形態に係る製造方法のフロー図である。
図12】本発明の第2実施形態に係る製造方法に係る模式図である。
図13A】本発明の実施例6に係るX線回折パターンである。
図13B】本発明の実施例6に係る透過型電子顕微鏡像である。
図13C】本発明の実施例6に係る走査型電子顕微鏡像である。
図13D】本発明の実施例6に係る透過型電子顕微鏡像である。
図14A】本発明の実施例7に係るX線回折パターンである。
図14B】本発明の実施例7に係る透過型電子顕微鏡像である。
図15A】本発明の実施例8に係るX線回折パターンである。
図15B】本発明の実施例8に係る透過型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態で説明する寸法、材料、形状、構成要素の相対的な位置等は任意であり、本発明が適用される装置の構造又は様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に説明される実施形態で具体的に記載された形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るFeOナノ粒子の模式図である。本実施形態に係るFeOナノ粒子100は、複数の鉄(Fe)原子及び複数の酸素(O)原子を含み、ウスタイト(FeO)構造を主成分とするFeOコア101を備える。FeOナノ粒子100は、さらに、FeOコア101を構成する少なくとも1つの原子に付着した界面活性剤102を備えていてもよい。
【0013】
<FeOナノ粒子の製造方法>
図2Aは、本実施形態に係るFeOナノ粒子の製造方法のフロー図であり、図2Bは、本実施形態に係るFeOナノ粒子の製造方法に係る模式図である。本実施形態及び以下に記載の実施例に係るFeOナノ粒子の製造方法は、いわゆる液相法を用いる。
【0014】
工程S201において、フラスコ210(例えば3つ口フラスコ又は4つ口フラスコ)に、FeOコア101の原料である酸化鉄211と、有機酸212と、溶媒213とを投入する。酸化鉄211は、FeO、α−Fe、γ−Fe、Fe、α−FeOOH等である。有機酸212は、酸化鉄211を溶かし、FeOコア101の表面に付着する界面活性剤である。界面活性剤は、FeOナノ粒子100どうしの凝集を防ぎ、その表面を安定化させる。例えば、有機酸212は、オレイン酸、及びリノール酸等の長鎖不飽和脂肪酸、並びにステアリン酸等の長鎖飽和脂肪酸である。溶媒213は、好ましくは210℃以上の沸点を有する無極性溶媒であり、1−オクタデセン、ドデカン等である。
【0015】
ここで、フラスコ210に投入する有機酸212と酸化鉄211との間のモル比(有機酸/酸化鉄)は、経験的に求められるものである。酸化鉄211に比べ有機酸212の量が多すぎると生成されたFeOナノ粒子が溶解し、酸化鉄211に比べ有機酸212の量が少なすぎるとFeOナノ粒子の核が形成されないことがある。そのため、有機酸212と酸化鉄211との間のモル比(有機酸/酸化鉄)は、好ましくは6〜100である。また、溶媒213の量は、反応に影響を与えない量の濃度範囲が好ましい。例えば、溶媒213の量が酸化鉄211及び有機酸212の量に比べ多すぎると、FeOナノ粒子の核が形成されない場合がある。
【0016】
次に、工程S202において、フラスコ210内をアルゴンや窒素等の不活性ガス214で置換した後、フラスコ210内の溶液を第1温度まで昇温させて当該溶液内の水分を除去する。ここで、第1温度は、水の沸点以上の温度であり、好ましくは100℃〜130℃程度である。
【0017】
工程S203において、フラスコ210内の溶液を撹拌しながら第1温度より高い第2温度まで昇温させ、第2温度を保持したまま所定の合成時間撹拌を続ける。この間、フラスコ210の上部に取り付けられたコンデンサー(不図示)により、蒸発する溶媒を冷却し、溶媒をフラスコ210に還流して戻すようにしてもよい。その後、フラスコ210内の溶液の温度を室温まで降温させ、フラスコ210からFeOナノ粒子が分散した反応溶液を取り出す。
【0018】
ここで、当該第2温度は、溶媒の沸点以下の経験的に求められる温度である。当該第2温度が低すぎるとFeOコアが生成しないことがあるため、当該第2温度は、FeOコアが生成する温度から溶媒213の沸点を考慮した温度であり、好ましくは280〜360℃である。また、当該所定の合成時間は、フラスコ210内の溶液の温度が第2温度になってから当該溶液の色変化が生じるまでの第1保持時間と、当該液色変化時間から撹拌を終了(即ち、反応を終了)するまでの第2保持時間との和である。当該第1保持時間は有機酸の量により変わる。例えば、有機酸にオレイン酸を使用している場合には、当該第1保持時間は、当該溶液の温度を第2温度にした後当該溶液の色が赤色から黒色へと変化するまでの時間である。
【0019】
そして、工程S204において、FeOナノ粒子が分散した反応溶液を遠沈管215に入れ、エタノールやヘキサン等及び遠心分離器を用いて、当該反応溶液から未反応物質を取り除き(「精製処理」)、ペースト状のFeOナノ粒子100を抽出する。このとき、抽出されたFeOナノ粒子100を乾燥させて、粉末状にしてもよい。なお、FeOナノ粒子100の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)や光吸収測定等により求められる。
【0020】
<カーボンナノチューブの形成装置>
図3は、本実施形態に係るカーボンナノチューブの形成装置の模式図である。なお、本実施形態では、図3に表された形成装置に限定されるものではない。
【0021】
製造装置300は、原料ガス源301と、キャリアガス源302と、ガス導入管304を介して原料ガス源301及びキャリアガス源302に接続された流量調整器303と、ガス導入管304に接続されたチャンバ305とを備える。チャンバ305は、ガス導入管304に接続されたシャワープレート306と、シャワープレート306の周囲に配置されたヒータ307と、基板309を保持するための基板ホルダ308とを含む。原料ガス源301は、カーボンナノチューブを製造する炭素源として、アルカン等の脂肪族炭化水素や、アルコール等の脂肪族化合物等を含む原料ガスを充填する。キャリアガス源302は、アルゴンや窒素等の不活性ガスを含むキャリアガスを充填する。流量調整器(MFC)303は、所定の割合で混合された原料ガスとキャリアガスとの混合ガスがシャワープレート306に供給されるように、原料ガスとキャリアガスの流量を調整する。シャワープレート306は、基板ホルダ308に配置された基板に、混合ガスを均一に供給する。ヒータ307は、チャンバ305内を加熱し、基板309の表面の温度を調整する。
【0022】
<カーボンナノチューブの形成方法>
本実施形態に係るカーボンナノチューブの形成方法は、基板(金属基板、セラミックス基板、シリコン基板又は金属ホイル)上に担持されたFeOナノ粒子を触媒として、カーボンナノチューブを製造する方法である。
【0023】
まず、カーボンナノチューブの形成にあたり、触媒基板を作製する。ヘキサン等にFeOナノ粒子を分散させ、可視光度計で測定したときの吸光度が所定の値になるように当該液体中のFeOナノ粒子の濃度を調整する。FeOナノ粒子が分散している液体中に、基板(又は金属ホイル)を浸し、所定の引き上げ速度で基板を引き上げる。例えば、当該引き上げ速度を遅くすると基板上に担持されるFeOナノ粒子の密度は比較的大きくなり、当該引き上げ速度を早くすると基板上に担持されるFeOナノ粒子の密度は比較的小さくなる。基板を引き上げた後、ヘキサン等を基板上から蒸発させる。このようにして、FeOナノ粒子が担持された触媒基板を作製することができる。なお、FeOナノ粒子が分散した液体を、スプレーで基板上に吹き付けても良く、また、スピンコーティングにより基板上に塗布しても良い。
【0024】
そして、FeOナノ粒子が担持された触媒基板309を、チャンバ305内の基板ホルダ308に配置する。チャンバ305内を真空にした後、チャンバ305内を所定の温度まで加熱する。所定の割合で混合された原料ガスとキャリアガスとの混合ガスをシャワープレート306から触媒基板309に向けて供給する。混合ガスを供給しながら、触媒基板309表面の温度を調整することにより、カーボンナノチューブが触媒基板309上に製造される。
【実施例1】
【0025】
<FeOナノ粒子の製造>
本発明の実施例1では、酸化鉄としてFe粉末、有機酸としてオレイン酸、及び溶媒として1−オクタデセンを用いて、FeOナノ粒子を製造した。
【0026】
まず、4つ口フラスコに、酸化鉄(Fe粉末)3mmol、オレイン酸90mmol、1−オクタデセン20mlを投入し(工程S201)、当該フラスコ内をアルゴンガスで60分間置換し、その後当該フラスコ内の溶液の温度を130℃に昇温させて30分間当該溶液内の水分を除去した(工程S202)。そして、加熱器(例えばマントルヒータ)を用いて当該フラスコ内の溶液を320℃に昇温させ、当該溶液の温度を320℃に保持しつつ撹拌しながら8時間(合成時間)反応させた(工程S203)。その後、当該フラスコ内の溶液の温度を室温まで降温させ、Feのナノ粒子が分散した反応溶液を取り出した。なお、130℃(第1温度)から320℃(第2温度)までの昇温は20分間で実施した。
【0027】
未反応物質を取り除くために、当該反応溶液を遠沈管に入れ、回転速度1500rpmで20分間遠心分離を行った。その後、Feのナノ粒子が含まれる上澄み液だけを取り出し、当該上澄み液、ヘキサン及びエタノールを「1:1:2」の割合で別の遠沈管に入れ、回転速度5800rpmで30分間遠心分離にかけた。これらの処理を3〜4回行い、沈殿したペースト状のFeのナノ粒子を抽出した(工程S204)。
【0028】
図4Aは、本実施例に係るFeのナノ粒子のX線回折パターンである。当該X線回折パターン中に、マグネタイト(Fe)構造に起因する比較的弱い強度の回折ピーク(☆)と、ウスタイト(FeO)構造に起因する比較的強い強度の回折ピーク(◎)とが見られた。そのため、本実施例で抽出されたFeのナノ粒子の多くはFeOナノ粒子であった。
【0029】
図4Bは、本実施例に係るFeOナノ粒子のTEM像である。当該TEM像から、本実施例に係るFeOナノ粒子の平均粒径は30nmであった。
【0030】
<カーボンナノチューブの形成>
本実施例に係るFeOナノ粒子を触媒として、カーボンナノチューブを形成した。まず、FeOナノ粒子をヘキサン中に分散させ、可視光度計(WPA社製C07500)にて波長680nmの測定条件で、吸光度が0.74になるようにFeOナノ粒子の濃度を調整した。濃度調整されたFeOナノ粒子の分散液中にシリコン基板(サムコ社製)を浸し、大気中、常温下で、3mm/minの速度でシリコン基板を引き上げた。その後、自然乾燥により、ヘキサンを蒸発させ、FeOナノ粒子が担持された触媒基板を作製した。
【0031】
FeOナノ粒子が担持された触媒基板を製造装置300のチャンバ305内に配置し、チャンバ305内を10Paになるまで真空引きを行った。その後、チャンバ305内に、キャリアガスとしての窒素ガスを流速2.5L/minで導入し、チャンバ305内の圧力を96kPaに調整した。それから、触媒基板の表面の温度を10分間で850℃に昇温させ、原料ガスとしてのアセチレンガスを流速0.5L/minで窒素ガスに加え、25分間チャンバ305に導入した。その結果、触媒基板上にカーボンナノチューブが形成された。
【0032】
図4Cは、本実施例に係るFeOナノ粒子が担持された触媒基板を用いて形成されたカーボンナノチューブのSEM像である。本実施例に係るFeOナノ粒子(平均粒径30nm)が担持された触媒基板401上に形成されたカーボンナノチューブ402の長さは、約38.7μmであった。
【0033】
図4Dは、本実施例に係るFeOナノ粒子が担持された触媒基板を用いて形成されたカーボンナノチューブのTEM像である。当該カーボンナノチューブは、外径が約29nmであり、層数が約26であった。当該カーボンナノチューブの外径(約29nm)は、触媒として使用したFeOナノ粒子の粒径(約30nm)と同程度であった。
【0034】
[比較例1]
比較例1として、実施例1と同じ物質(即ち、Fe粉末、オレイン酸、及び1−オクタデセン)及び同じ製造条件下でFeのナノ粒子を製造した。但し、実施例1に比べ粒径の小さいFeのナノ粒子を製造するために、合成時間を5時間にした。
【0035】
まず、4つ口フラスコに、酸化鉄(Fe)3mmol、オレイン酸18mmol、1−オクタデセン20mlを投入し、当該フラスコ内をアルゴンガスで60分間置換し、その後当該フラスコ内の溶液の温度を130℃に昇温させて30分間当該溶液内の水分を除去した。そして、当該フラスコ内の溶液を320℃に昇温させ、当該溶液を320℃に保持しつつ撹拌しながら5時間反応させた。その後、当該フラスコ内の溶液の温度を室温まで降温させ、Feのナノ粒子が分散した反応溶液を取り出した。実施例1と同じ方法で、当該反応溶液の精製処理を行い、沈殿したFeのナノ粒子を抽出した。なお、130℃(第1温度)から320℃(第2温度)までの昇温は20分間で実施した。
【0036】
図5Aは、比較例1に係る抽出したFeのナノ粒子のX線回折パターンである。当該X線回折パターン中に、マグネタイト(Fe)構造に起因する回折ピーク(☆)が見られ、ウスタイト(FeO)構造に起因する回折ピークはほとんど見られなかった。そのため、本比較例で抽出されたFeのナノ粒子はFeナノ粒子であった。
【0037】
図5Bは、本比較例に係るFeナノ粒子のTEM像である。当該TEM像から、本比較例に係るFeナノ粒子の平均粒径は15nmであった。
【0038】
実施例1と同じ方法により本比較例に係るFeナノ粒子を担持する触媒基板を作製し、実施例1と同じ条件で当該触媒基板を用いてカーボンナノチューブを形成した。
【0039】
図5Cは、本比較例に係るFeナノ粒子が担持された触媒基板を用いて形成されたカーボンナノチューブのSEM像である。本比較例に係るFeナノ粒子(平均粒径15nm)が担持された触媒基板501上に形成されたカーボンナノチューブ502の長さは、約11.6μmであった。
【0040】
図5Dは、本比較例に係るFeナノ粒子を用いて製造されたカーボンナノチューブのTEM像である。当該カーボンナノチューブは、外径が約16nmであり、層数が11であった。当該カーボンナノチューブの外径(約16nm)は、触媒として使用したFeナノ粒子の粒径(約15nm)と同程度であった。
【0041】
<実施例1と比較例1との対比>
製造されたFeのナノ粒子を対比すると、約30nm粒径のFeのナノ粒子(実施例1)はウスタイト(FeO)構造を主成分とするFeOナノ粒子であるが、約15nm粒径のFeのナノ粒子(比較例1)はヘマタイト(Fe)構造を主成分とするFeナノ粒子であった。このことから、Feのナノ粒子は粒径に応じて、ウスタイト(FeO)構造又はヘマタイト(Fe)構造を主成分とすることが分かった。
【0042】
さらに、異なる粒径のFeのナノ粒子が担持された触媒基板を用いて同じ条件で形成されたカーボンナノチューブの成長性(長さ)を対比すると、FeOナノ粒子が担持された触媒基板を用いた場合のカーボンナノチューブの成長性(長さ約38.7μm)は、Feナノ粒子が担持された触媒基板を用いた場合のカーボンナノチューブの成長性(長さ約11.6μm)に比べて約3倍大きいことが分かった。このことから、FeO構造を主成分とするFeのナノ粒子(即ち、FeOナノ粒子)はカーボンナノチューブの成長性を向上させることが分かった。
【0043】
以下に記載する比較例2および実施例2〜4において、有機酸(オレイン酸)と酸化鉄(Fe粉末)とのモル比及び合成時間を調整することにより、粒径の異なる複数のFeのナノ粒子を製造した。Feのナノ粒子の製造方法は、有機酸(オレイン酸)と酸化鉄(Fe粉末)とのモル比及び合成時間以外の点で実施例1と同一である。そのため、重複する説明は省略する。
【0044】
[比較例2]
比較例2では、オレイン酸とFe粉末とのモル比を15に調整し、合成時間を4時間にして、Feのナノ粒子を製造した。図6は、比較例2に係るFeのナノ粒子のX線回折パターンとTEM像を示す。当該X線回折パターン601及びTEM像602から、比較例2に係るFeのナノ粒子は、Fe構造を主成分とするFeナノ粒子であり、その平均粒径は、14nm(粒径分布12〜15nm)であった。
【実施例2】
【0045】
実施例2では、オレイン酸とFe粉末とのモル比を18に調整し、合成時間を5時間にして、Feのナノ粒子を製造した。図7は、実施例2に係るFeのナノ粒子のX線回折パターンとTEM像を示す。当該X線回折パターン701及びTEM像702から、実施例2に係るFeのナノ粒子はFe構造を主成分とするFeナノ粒子であり、その平均粒径は20nm(粒径分布18〜21nm)であった。
【実施例3】
【0046】
実施例3では、オレイン酸とFe粉末とのモル比を30に調整し、合成時間を7時間にして、Feのナノ粒子を製造した。図8は、実施例3に係るFeのナノ粒子のX線回折パターンとTEM像を示す。当該X線回折パターン801及びTEM像802から、実施例3に係るFeのナノ粒子はFeO構造を主成分とするFeOナノ粒子であり、その平均粒径は28nm(粒径分布26〜29nm)であった。
【実施例4】
【0047】
実施例4では、オレイン酸とFe粉末とのモル比を45に調整し、合成時間を10時間にして、Feのナノ粒子を製造した。図9は、実施例4に係るFeのナノ粒子のX線回折パターンとTEM像を示す。当該X線回折パターン901及びTEM像902から、実施例4に係るFeのナノ粒子はFeO構造を主成分とするFeOナノ粒子であり、その平均粒径は45nm(粒径分布43〜46nm)であった。
【0048】
【表1】
【0049】
上記表1の結果から、FeOナノ粒子を製造するためには、粒径が17nm以上、好ましくは18nm以上、さら好ましくは20nm以上であると良い。
【実施例5】
【0050】
本発明の実施例5では、実施例1に係るFeOナノ粒子の分散液の吸光度が2.00以上になるようにFeOナノ粒子の濃度を調整して、触媒基板を作製した。そのため、実施例1に比べて単位面積あたり4倍以上密にFeOナノ粒子が触媒基板上に担持されたと考えられる。当該触媒基板を用いて、実施例1と同じ方法によりカーボンナノチューブを形成した。
【0051】
図10は、本実施例に係る平均粒径30nmのFeOナノ粒子の触媒基板を用いて形成したカーボンナノチューブのSEM像とTEM像である。SEM像1001から、平均粒径30nmのFeOナノ粒子が担持された触媒基板1003上に形成されたカーボンナノチューブ1004の長さは、約99.5μmであった。また、TEM像1002から、カーボンナノチューブ1004の外径は約32nmであり、その層数は27層であった。本実施例に係る平均粒径30nmのFeOナノ粒子の触媒基板を用いて形成したカーボンナノチューブの長さは、実施例1に係るカーボンナノチューブの長さの約2.6倍であった。このことから、触媒基板に担持されたFeOナノ粒子の濃度を濃くすることにより、カーボンナノチューブの成長性を向上できることが分かった。
【0052】
[第2実施形態]
<FeOナノ粒子の製造方法>
図11は、本発明の第2実施形態に係るFeOナノ粒子の製造方法のフロー図であり、図12は、本実施形態に係るFeOナノ粒子の製造方法に係る模式図である。なお、本実施形態におけるカーボンナノチューブの形成装置及び形成方法は、第1実施形態と同様であり説明を省略する。
【0053】
工程S1101において、フラスコ210に、FeOコア101の原料である酸化鉄211、有機酸212、及び第1溶媒213を投入する。酸化鉄211、有機酸212及び第1溶媒213は、第1実施形態と同じであり説明を省略する。
【0054】
工程S1102において、フラスコ210内をアルゴンや窒素等の不活性ガス214で置換した後、フラスコ210内の溶液を第1温度まで昇温させて当該溶液内の水分を除去する。第1温度は、水の沸点以上の温度であり、好ましくは100℃〜130℃程度である。
【0055】
工程S1103において、フラスコ210内の溶液を撹拌しながら第1温度よりも高い第2温度まで昇温させる。ここで、第2温度は、第1溶媒213の沸点以下の温度であって、経験的に求められる温度である。第2温度が低すぎるとFeOコアが生成しないことがあるため、第2温度は、FeOコアが生成する温度から第1溶媒213の沸点を考慮した温度であり、好ましくは280〜360℃の範囲の温度である。
【0056】
工程S1104において、フラスコ210内の溶液の温度を第2温度に保持しつつ撹拌を続けながら、当該溶液に第2溶媒1201を投入する。ここで、第2溶媒1201は、アミン系溶媒や、アルキル鎖の付いた高沸点のアルコール等であり、フラスコ210内の溶液中のFeOコアに付着した界面活性剤(有機酸)と反応し、有機酸に比べFeOコアに弱く配位する界面活性剤である。例えば、第2溶媒1201は、オレイルアミン、ステアリルアミン、1−ヘキサデカノール、1−オクタデカノール、又は1,2−ヘキサデカンジオールである。第2溶媒1201がFeOコアに付着した界面活性剤(有機酸)と反応し、界面活性剤が取り除かれたFeOコアどうしが互いに凝集及び融合するため、第2溶媒1201を投入して製造されるFeOナノ粒子の粒径は、第2溶媒1201を投入しない場合の粒径に比べて大きくなる。第2溶媒はFeOナノ粒子の粒径を増大させるための溶媒であるため、本実施形態では第2溶媒を「粒径増大溶媒」とも称する。
【0057】
工程S1105において、フラスコ210内の溶液の温度を第2温度に保持しながら所定の合成時間撹拌を続ける。その後、フラスコ210内の溶液の温度を室温まで降温させ、フラスコ210からFeOナノ粒子が分散した反応溶液を取り出す。
【0058】
そして、工程S1106において、取り出したFeOナノ粒子が分散した反応溶液を遠沈管215に入れ、エタノールやヘキサン等及び遠心分離器を用いて、当該反応溶液から未反応物質を取り除き(精製処理)、ペースト状のFeOナノ粒子1200を抽出する。なお、抽出されたFeOナノ粒子1200を乾燥させて、粉末状にしてもよい。また、FeOナノ粒子1200の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)又は光吸収測定等を用いて求められる。
【実施例6】
【0059】
<FeOナノ粒子の製造>
本発明の実施例6では、酸化鉄としてFe粉末、有機酸としてオレイン酸、第1溶媒として1−オクタデセン、及び第2溶媒(粒径増大溶媒)としてオレイルアミンを用いて、FeOナノ粒子を製造した。
【0060】
まず、実施例1と同様に、4つ口フラスコに、酸化鉄(Fe粉末)3mmol、オレイン酸90mmol、及び1−オクタデセン20mlを投入し(工程S1101)、当該フラスコ内をアルゴンガスで60分間置換し、その後当該フラスコ内の溶液の温度を130℃(第1温度)に昇温させて30分間当該溶液内の水分を除去した(工程S1102)。加熱器(例えばマントルヒータ)を用いて当該溶液を撹拌しながら320℃(第2温度)に昇温させた(工程S1103)。当該溶液の温度を320℃に保持しつつ撹拌を続けながら、当該溶液の温度が320℃に到達してから30分後にオレイルアミン18mmolを当該フラスコ内に投入した(工程S1104)。その後、当該溶液の温度を320℃に保持しつつ撹拌を続けながら15時間(合成時間)反応させた(工程S1105)。そして、当該フラスコ内の溶液の温度を室温まで降温させ、Feのナノ粒子が分散した反応溶液を取り出した。なお、130℃(第1温度)から320℃(第2温度)までの昇温は20〜30分で実施した。
【0061】
未反応物質を取り除くために、当該反応溶液を遠沈管に入れ、回転速度1500rpmで20分間遠心分離を行った。その後、Feのナノ粒子が含まれる上澄み液だけを取り出し、当該上澄み液、ヘキサン及びエタノールを「1:1:2」の割合で別の遠沈管に入れ、回転速度5800rpmで30分間遠心分離にかけた。これらの処理を3〜4回行い、沈殿したペースト状のFeのナノ粒子を抽出した(工程S1106)。
【0062】
図13Aは、本実施例に係るFeのナノ粒子のX線回折パターンである。当該X線回折パターン中に、マグネタイト(Fe)構造に起因する比較的弱い強度の回折ピーク(☆)と、ウスタイト(FeO)構造に起因する比較的強い強度の回折ピーク(◎)とが見られた。そのため、本実施例で抽出されたFeのナノ粒子の多くはFeOナノ粒子であった。
【0063】
図13B(a)は、本実施例に係るFeOナノ粒子のTEM像であり、図13B(b)は、その中で最も大きな粒径を有するFeOナノ粒子のTEM像である。当該TEM像から、本実施例に係るFeOナノ粒子の平均粒径は75nmであり、粒径分布は68nm〜83nmであった。また、図13B(b)に示すように、最も大きな粒径を有するFeOナノ粒子の粒径は87nmであった。
【0064】
このように、本実施例は、粒径増大溶媒としての第2溶媒を投入する以外の点で共通する条件で製造された実施例1のFeOナノ粒子(平均粒径30nm)に比べ、粒径の大きいFeOナノ粒子(平均粒径75nm)を製造することができた。
【0065】
<カーボンナノチューブの形成>
本実施例に係るFeOナノ粒子を触媒として、カーボンナノチューブを形成した。まず、FeOナノ粒子をヘキサン中に分散させ、可視光度計(WPA社製C07500)にて波長680nmの測定条件で、吸光度が0.74になるようにFeOナノ粒子の濃度を調整した。濃度調整されたFeOナノ粒子の分散液中にシリコン基板(サムコ社製)を浸し、大気中、常温下で、3mm/minの速度でシリコン基板を引き上げた。その後、自然乾燥により、ヘキサンを蒸発させ、FeOナノ粒子が担持された触媒基板を作製した。
【0066】
FeOナノ粒子が担持された触媒基板を製造装置300のチャンバ305内に配置し、チャンバ305内を10Paになるまで真空引きを行った。その後、チャンバ305内に、キャリアガスとしての窒素ガスを流速2.5L/minで導入し、チャンバ305内の圧力を96kPaに調整した。それから、触媒基板の表面の温度を10分間で850℃に昇温させ、原料ガスとしてのアセチレンガスを流速0.5L/minで窒素ガスに加え、25分間チャンバ305に導入した。その結果、触媒基板上にカーボンナノチューブが形成された。
【0067】
図13Cは、本実施例に係るFeOナノ粒子が担持された触媒基板を用いて形成されたカーボンナノチューブのSEM像である。本実施例に係るFeOナノ粒子(平均粒径75nm)が担持された触媒基板1301上に形成されたカーボンナノチューブ1302の長さは、約106μmであった。
【0068】
図13Dは、本実施例に係るFeOナノ粒子が担持された触媒基板を用いて形成されたカーボンナノチューブのTEM像である。当該カーボンナノチューブの外径は、約69nmであり、触媒である本実施例に係るFeOナノ粒子の平均粒径(75nm)に近い値であった。
【0069】
本実施例に係るFeOナノ粒子が担持された触媒基板を用いて形成されたカーボンナノチューブの成長性(長さ約106μm)を実施例1のもの(長さ約38.7μm)に比べて約3倍大きいことが分かった。このことから、本実施例に係るFeOナノ粒子は、カーボンナノチューブの成長性をよりいっそう向上させることが分かった。
【実施例7】
【0070】
本発明の実施例7として、実施例6と同じ物質(即ち、Fe粉末、オレイン酸、1−オクタデセン、及びアレイルアミン)を用い、実施例1及び6とほぼ同じ製造条件下でFeOナノ粒子を製造した。但し、オレイルアミンは、最初から(即ち、工程S1101において)投入しておいた。
【0071】
まず、4つ口フラスコに、酸化鉄(Fe)3mmol、オレイン酸18mmol、1−オクタデセン20ml、及びオレイルアミン18mmolを投入し、当該フラスコ内をアルゴンガスで60分間置換し、その後当該フラスコ内の溶液の温度を130℃に昇温させて30分間当該溶液内の水分を除去した。そして、当該溶液を320℃に昇温させ、当該溶液の温度を320℃に保持しつつ撹拌を続けながら10時間反応させた。その後、当該溶液の温度を室温まで降温させ、Feのナノ粒子が分散した反応溶液を取り出した。実施例6と同じ方法で、当該反応溶液の精製処理を行い、沈殿したFeのナノ粒子を抽出した。
【0072】
図14Aは、本実施例に係る抽出したFeのナノ粒子のX線回折パターンである。当該X線回折パターン中に、マグネタイト(Fe)構造に起因する比較的弱い強度の回折ピーク(☆)と、ウスタイト(FeO)構造に起因する比較的強い強度の回折ピーク(◎)とが見られた。そのため、本実施例で抽出したFeのナノ粒子の多くは、FeOナノ粒子であった。
【0073】
図14Bは、本実施例に係るFeOナノ粒子のTEM像である。当該TEM像から、本実施例に係るFeOナノ粒子の平均粒径は34nmであり、粒径分布は23nm〜43nmであった。
【0074】
本実施例で製造されたFeOナノ粒子の平均粒径(34nm)は、実施例1で製造されたもの(30nm)よりは大きかったが、実施例6で製造されたもの(75nm)に比べて小さかった。その原因としては、オレイルアミンを当初から投入しておくと、オレイルアミンと有機酸であるオレイン酸とが中和していまい、有機酸であるオレイン酸による酸化鉄(Fe)の溶解が円滑に進まないためであると考えられる。
【実施例8】
【0075】
<FeOナノ粒子の製造>
本発明の実施例8では、実施例6と同様に、酸化鉄としてFe粉末、有機酸としてオレイン酸、第1溶媒として1−オクタデセン、及び第2溶媒としてオレイルアミンを用いて、FeOナノ粒子を製造した。但し、実施例6に比べて、オレイルアミンの量を0.5倍に減らし、合成時間を10時間に設定した。
【0076】
まず、4つ口フラスコに、酸化鉄(Fe粉末)3mmol、オレイン酸90mmol、及び1−オクタデセン20mlを投入し(工程S1101)、当該フラスコ内をアルゴンガスで60分間置換し、その後当該フラスコ内の溶液の温度を130℃(第1温度)に昇温させて30分間当該溶液内の水分を除去した(工程S1102)。加熱器(例えばマントルヒータ)を用いて当該溶液を撹拌しながら320℃(第2温度)に昇温させた(工程S1103)。当該溶液の温度を320℃に保持しつつ撹拌を続けながら、当該溶液の温度が320℃に到達してから30分後にオレイルアミン9mmolを当該フラスコ内に投入した(工程S1104)。その後、当該溶液の温度を320℃に保持しつつ撹拌を続けながら10時間(合成時間)反応させた(工程S1105)。そして、当該フラスコ内の溶液の温度を室温まで降温させ、Feのナノ粒子が分散した反応溶液を取り出した。なお、130℃(第1温度)から320℃(第2温度)までの昇温は20〜30分で実施した。
【0077】
未反応物質を取り除くために、当該反応溶液を遠沈管に入れ、回転速度1500rpmで20分間遠心分離を行った。その後、Feのナノ粒子が含まれる上澄み液だけを取り出し、当該上澄み液、ヘキサン及びエタノールを「1:1:2」の割合で別の遠沈管に入れ、回転速度5800rpmで30分間遠心分離にかけた。これらの処理を3〜4回行い、沈殿したペースト状のFeのナノ粒子を抽出した(工程S1106)。
【0078】
図15Aは、本実施例に係るFeのナノ粒子のX線回折パターンである。当該X線回折パターン中に、マグネタイト(Fe)構造に起因する比較的弱い強度の回折ピーク(☆)と、ウスタイト(FeO)構造に起因する比較的強い強度の回折ピーク(◎)とが見られた。そのため、本実施例で抽出されたFeのナノ粒子の多くはFeOナノ粒子であった。
【0079】
図14Bは、本実施例に係るFeOナノ粒子のTEM像である。当該TEM像から、本実施例に係るFeOナノ粒子の平均粒径は40nmであり、粒径分布は30nm〜52nmであった。実施例8に係るFeOナノ粒子の平均粒径(40nm)は、実施例6の平均粒子径(75nm)よりも小さいものの、実施例1の平均粒子径(30nm)と比較して大きく、粒径増大溶媒としてのオレイルアミンの効果が確認できた。
【0080】
以上、本発明の実施例及び比較例をまとめると以下の表2のとおりである。
【表2】
【0081】
(その他の実施例)
本発明のその他の実施例では、カーボンナノチューブの形成のための触媒作用を向上させるためのシェル層(例えばFeとTiとの合金)がFeOコアの周囲にさらに形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0082】
100:FeOナノ粒子、101:FeOコア、102:界面活性剤
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B
図15A
図15B