(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390912
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】防蟻用樹脂発泡体
(51)【国際特許分類】
C08J 9/22 20060101AFI20180910BHJP
E04B 1/72 20060101ALI20180910BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20180910BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20180910BHJP
【FI】
C08J9/22CES
E04B1/72
B29C44/00 G
B29K23:00
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-24262(P2015-24262)
(22)【出願日】2015年2月10日
(65)【公開番号】特開2016-147933(P2016-147933A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000196750
【氏名又は名称】西本 孝一
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100076484
【弁理士】
【氏名又は名称】戸川 公二
(72)【発明者】
【氏名】西本 孝一
(72)【発明者】
【氏名】小谷 佐知
【審査官】
大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−316645(JP,A)
【文献】
特開2011−001545(JP,A)
【文献】
特開2000−248649(JP,A)
【文献】
特開2012−184298(JP,A)
【文献】
特開平11−236736(JP,A)
【文献】
米国特許第06256937(US,B1)
【文献】
特開平10−331257(JP,A)
【文献】
特開2000−302909(JP,A)
【文献】
特開2011−099101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
B29C 44/00−44/60;67/20
E04B 1/62− 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防蟻剤および防蟻効果を有する添加剤や塗布剤が製造時から含まれない、直鎖状低密度ポリエチレンを主材料としてビーズ法により発泡成形された樹脂発泡体であって、発泡倍率が20倍から70倍であり、かつ、樹脂発泡体のレオメーターによる硬さ測定値が1〜10Nであることを特徴とする防蟻用樹脂発泡体。
【請求項2】
樹脂発泡体の発泡倍率が30倍から50倍の範囲に含まれることを特徴とする請求項1記載の防蟻用樹脂発泡体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防蟻性樹脂発泡体の改良、詳しくは、住宅等の床断熱や基礎断熱に用いられる断熱材や、ガスや水道等の配管と床等の隙間や構造物の穴や隙間を埋める充填材、床下等に設置される防音材として好適に使用でき、更に防蟻剤を使用せずに製造できる防蟻性樹脂発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅等の建築施工において、樹脂発泡体から成る断熱材や充填材、防音材を使用するのが一般的となっている。特に床下や壁面、屋根裏など熱の流入出を防ぎたい場所には、その断熱性、機械的強度、取扱い容易性、廉価などの点から発泡ポリスチレン製または発泡ポリオレフィン製のものが多く用いられている。
【0003】
ところが、上記従来の断熱材等は、簡単に白アリに食害されるばかりでなく、その内部が好んで蟻道に利用される上、外気温の影響を受けず無風であり温度変化が少ない点が土壌環境と近いため白アリの巣として利用される等の問題点を有する。そのため、従来においては、シロアリ等の食害を防止するために、成形材料に防蟻剤を混入したり、成形後の発泡体表面に防蟻剤を塗布したりするなどの防蟻対策が採られている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記従来の防蟻対策では、防蟻処理(成形材料中への防蟻剤の添加や発泡体表面への防蟻剤の塗布など)の際に、防蟻剤として用いるクロルピリホス等の有機リン系化合物やシラフルオフェン等のピレスロイド系化合物、石油エーテル等の低級炭化水素溶剤、ホウ酸塩等が作業者の健康に悪影響を及ぼす危険があった。
【0005】
そのため、防蟻剤の取り扱いには厳重な注意が必要となり、安全対策に多くの労力を割く必要があった。また従来においては、人体への影響が小さい防蟻剤や防蟻剤の処理方法なども開発されているが、これらも少なからず人体に悪影響を及ぼすため、特に高気密化された住宅等において、居住者の健康を害する恐れがあった。
【0006】
しかも、上記防蟻剤に関しては、薬剤の耐熱温度が低いため、防蟻剤を含む樹脂発泡体が高温環境に晒された際に、薬剤が分解して防蟻効果が消失する懸念があった。更に防蟻剤を含む樹脂発泡体は、再び溶融してリサイクルすることも困難であったため、環境に対する配慮も十分とはいえなかった。
【0007】
一方、従来においては、防蟻剤を含まない防蟻性発泡体を、ポリカーボネート樹脂や高密度ポリエチレンから製造する方法も公知となっているが(特許文献2,3参照)、これらの防蟻性発泡体は、柔軟性に欠けていたため、住宅等のリフォーム時に断熱材を床下に取り付ける際、根太や床を貫通する給排水管等を避けて施工し難いという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−184298号公報
【特許文献2】特開平11−236736号公報
【特許文献3】特開平10−331257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の如き問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、優れた防蟻効果が得られるだけでなく、人体に悪影響を及ぼす心配もなく、また防蟻効果の消失や環境面の問題も解消でき、しかも、柔軟な材質でリフォーム時の施工性にも優れた防蟻性樹脂発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために試行錯誤的に試作と実験を重ねた結果、直鎖状低密度ポリエチレンからなる所定発泡倍率の樹脂発泡体に防蟻特性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明に至った経緯についてもう少し詳細に説明する。独立気泡をもった発泡断熱材は一つ一つの粒の中に独立した気泡構造を持ち、水や湿気を通し難く、軽量で加工性と施工性に優れるのが特徴であるが、異なる発泡倍率(例えば、15倍と30倍)のポリプロピレン樹脂発泡体を食害試験した結果、発泡倍率が高い方が白アリの食害を受け易いことが分かった。
【0012】
これは、発泡体の気泡膜厚(セル壁の厚み)が、低発泡倍率になるほど大きく、高発泡倍率になるほど小さくなるためだと考えられる。また、このような理由から、発泡倍率が約30倍から80倍と大きい一般的な発泡断熱材では、白アリの食害を防ぐことができないというのが本発明者を含む当業者の認識である。
【0013】
一方、樹脂発泡体は、低発泡倍率のものほど硬く、高発泡倍率のものほど柔らかくなるため、上記食害の受け易さと発泡体の硬さの間には何らかの因果関係があるようにも見える。そのため、当業者においては、白アリによる食害を受け難くするために、発泡体がより硬くなる樹脂材料を優先的に使用することが予測される。
【0014】
本発明の発明者は、鋭意研究を進める中で、材質的に直鎖状低密度ポリエチレン樹脂よりも硬いにも関わらず食害を受けるポリスチレン発泡体やポリプロピレン発泡体に対し、これらよりも柔らかく食害が予想される高発泡倍率の直鎖状低密度ポリエチレン発泡体に防蟻効果があることを見出し、発明を完成させるに至った。
【0015】
即ち、本発明は、防蟻剤および防蟻効果を有する添加剤や塗布剤が製造時から含まれない、直鎖状低密度ポリエチレンを主材料
としてビーズ法により発泡成形された樹脂発泡体から防蟻
用樹脂発泡体を構成すると共に、その発泡倍率を20倍から70倍
とし、かつ、樹脂発泡体のレオメーターによる硬さ測定値を1〜10Nとした点に特徴がある。なお、樹脂発泡体の発泡倍率に関しては、防蟻効果だけでなく断熱性および経済性も考慮すると30倍〜50倍の範囲とするのがより好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、発泡倍率が20倍から70倍の直鎖状低密度ポリエチレン発泡体が持つ防蟻特性を利用して防蟻性樹脂発泡体を構成したことにより、防蟻剤を使用してなくても防蟻効果を得ることができるため、居住者や作業者が健康被害を引き起こす危険性を解消することができる。例えば、屋外で貯蔵されるような、食品などの災害用備蓄品の梱包材など、断熱が必要であるが防蟻も求められるために今まで使用ができなかった用途でも使用することが可能となる。
【0018】
また、上記本発明の効果に関しては、高圧法低密度ポリエチレンにはない直鎖状低密度ポリエチレン特有の分子構造に起因する結晶性が防蟻効果の発現に寄与していると推測される。
【0019】
また更に、本発明に係る防蟻性樹脂発泡体は、熱等によって防蟻効果が消失する心配もないため、様々な場所に使用することができる。そして更に、本発明では、防蟻剤を使用せずに樹脂発泡体の製造を行ったことにより、使用後の製品を問題なくリサイクルすることができるため、環境にも優しい。
【0020】
したがって、本発明により、優れた防蟻性能を付与できるだけでなく、自然環境や建築物の居住者、施工者にも安全で、また柔軟な材質によりリフォームを含む住宅施工時において板状やテープ状の断熱材、防音材、隙間や孔を埋める充填材としても好適に使用できる新規の防蟻素材を提供できることから、本発明の実用的利用価値は頗る高い。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明を実施するための具体的態様及び好ましい条件について説明する。
【0022】
[防蟻性樹脂発泡体の材料]
本発明では、樹脂発泡体の主材料に、直鎖状低密度ポリエチレンを使用する。なお直鎖状低密度ポリエチレンは、メタロセン触媒等のシングルサイト触媒により共重合して得られるエチレン−α−オレフィン共重合体もあるが、本発明では、特に共重合されるα−オレフィンが5mol%程度までのものを直鎖状低密度ポリエチレンとして用いる。
【0023】
また、本発明で使用する直鎖状低密度ポリエチレンの発泡前の密度は、O.910〜0.930g/cm
3とする。なお、上記触媒に関しては、重合活性が高く重合効率が優れている点、より有効な防蟻効果が発揮される点でシングルサイト触媒を用いることが好ましい。また、上記重合法としては、塊状重合や溶液重合、懸濁重合、気相重合等を採用できる。
【0024】
そしてまた、上記直鎖状低密度ポリエチレンを発泡成形する際には、2種類以上の直鎖状低密度ポリエチレンをブレンドして成形することもできる。また、防蟻効果が失われない程度に、高圧法低密度ポリエチレン(HPLDPE)をブレンドして成形することもでき、これによって成形温度を下げることもできる。
【0025】
また本発明では、上記樹脂発泡体に、防蟻剤および防蟻効果を有する添加剤や塗布剤を材料として使用しない。特に本発明では、防蟻剤等が揮発して抜けた既存の樹脂発泡体を含まず、製造時の段階から防蟻剤等が含まれない樹脂発泡体のみに限定される。但し、必要に応じて樹脂発泡体に、滑剤や酸化チタン、顔料等を添加することはできる。
【0026】
[樹脂発泡体の形態]
一方、上記樹脂発泡体の形態に関しては、板状やテープ状、ブロック状など、用途に合わせて自由に選択できる。具体的には、上記樹脂発泡体を板状に成形する場合には、床下、壁および屋根裏断熱材や防音材等として好適に使用することができ、またテープ状に成形する場合には、水道やガス等の配管に巻き付けて断熱性や気密性を高める被覆材として使用できる。また板状やブロック状に成形して梱包材としても使用でき、また隙間や孔に合わせた形状で充填材としても使用できる。
【0027】
[樹脂発泡体の成形方法]
また、上記樹脂発泡体の発泡成形法に関しては、注型発泡成形法や溶融発泡成形法などの非ビーズ法でもよいが、発泡ビーズを型内で発泡させて所定形状に成形するビーズ法(固相発泡成形法)を採用するのが好ましい。これは、ビーズを構成している外膜が複数重なり合うことによって、強固に白アリの食害を防いでいるものと推察されるためである。また樹脂発泡体の発泡倍率が、20倍から70倍となるように成形する。更に発泡倍率に関しては、30倍から50倍の範囲となるようにするのがより好ましい。
【実施例】
【0028】
『防蟻性樹脂発泡体の調製例』
まず、この調製例では、下記の実施例1および比較例A〜比較例Fの条件で7種の樹脂発泡体を調製し、これらの樹脂発泡体を一辺の長さ14.5cm×5.0cm×5.0cmの立方体に加工して試験体とした。
【0029】
「実施例1」
この実施例1では、主材料に直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を使用し、これを発泡倍率38倍でビーズ法により発泡させて樹脂発泡体を調製した。
「比較例A」
この比較例Aでは、主材料にポリスチレン(PS)を使用し、これを発泡倍率33倍でビーズ法により発泡させて樹脂発泡体を調製した。
「比較例B」
この比較例Bでは、主材料にポリプロピレン(PP)を使用し、これを発泡倍率15倍でビーズ法により発泡させて樹脂発泡体を調製した。
「比較例C」
この比較例Cでは、主材料にポリプロピレン(PP)を使用し、これを発泡倍率30倍でビーズ法により発泡させて樹脂発泡体を調製した。
【0030】
「比較例D」
この比較例Dでは、主材料に高圧法低密度ポリエチレン(HPLDPE)を使用し、これを発泡倍率15倍でビーズ法により発泡させて樹脂発泡体を調製した。
「比較例E」
この比較例Eでは、主材料に高圧法低密度ポリエチレン(HPLDPE)を使用し、これを発泡倍率25倍でビーズ法により発泡させて樹脂発泡体を調製した。
「比較例F」
この比較例Fでは、主材料にフェノール樹脂(PF)を使用し、これを発泡倍率40倍で溶融法により発泡させて樹脂発泡体を調製した。
【0031】
「樹脂発泡体の硬さ試験」
この硬さ試験では、上記実施例1および比較例A〜比較例Fの試験体について以下の方法によって試験を行った。まず硬さ測定装置としてレオメーター(弾力測定機、(株)山電製クリープメータRE2-3305S)を使用し、一辺が2cm角の立方体を試験体とし、装置のプランジャ(直径3mmの円柱形を成す押し込み部品)を1mm/sの速度で押し込んで、試験体の表面から内側に3mm押し込んだ時の荷重(N)を測定した。
【0032】
その結果、各試験体の硬さ測定値は、実施例1が3.4N、比較例Aが10.2N、比較例Bが16.1N、比較例Cが5.5N、比較例Dが12.2N、比較例Eが11.8N、比較例Fが3.4Nであった。そして、この結果から、硬さ測定値が10Nを超える比較例A、B、D及びEよりも実施例1が柔軟な材質であることが確認できた。なお本試験では、硬さ測定値が1〜10Nの範囲に収まるものを柔軟な材質とする。
【0033】
また本試験において、比較例Fについては、柔軟な材質であったものの、プランジャを戻した後(荷重を取り除いた後)、試験体が塑性変形してしまい形状が潰れた状態から戻らなかった。それに対し、他の試験体については、プランジャを戻した後、弾性復元力によって形状がほぼ復元した。
【0034】
「シロアリに対する防蟻効果の確認試験」
この確認試験では、上記実施例1および比較例A〜比較例Fの試験体について、シロアリの巣の中に2〜3ヶ月放置して食害の状態を観察し、重量減少率が3%を超えたものを食害あり、3%以下のものを食害なしと判断した。その結果、以下の表1に示すように、実施例1の試験体は、比較例A、C、E及びFと比較して優れた防蟻効果を有していることが確認できた。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る「防蟻性樹脂発泡体」は、断熱材や防音材、充填材を製造する建材メーカーだけでなく、梱包材を製造するメーカーにおいても大きな需要が見込まれ、特に従来の防蟻素材と比較して防蟻性能を損なわずに人体への悪影響を排除できリサイクルも容易というメリットがあることから、産業上の利用可能性は非常に大きい。