(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、次の式1で表される粉砕度Zdが2以上であるチタン酸リチウム造粒体である。
(式1) Zd=D50,1/D50,2
粉砕度Zdは、微粉化の難易度を示す指標であり、それが2以上であると微粉化し易いものである。この範囲のチタン酸リチウム造粒体は、仕上げ粉砕の程度を低くすることができ、あるいは、仕上げ粉砕を行わなくてもよく、結着剤と混合する際によく分散する。粉砕度Zdは2〜20が好ましく、3〜19の範囲がより好ましく、4〜18の範囲が更に好ましい。粉砕度Zdが2より小さいと、強い粉砕が必要となり、結着剤と十分に混合分散しない。
粉砕度Zdは、粉砕前後の累積50%粒径を測定し、それらの比D50,1/D50,2で表す。D50,1は、粉砕する前のチタン酸リチウム造粒体の累積50%粒径(μm)であり、D50,2は、試料1gを面積2cm
2の円形内に置き、その上に圧力35MPaとなる荷重を1分間加えて粉砕した後のチタン酸リチウムの累積50%粒径(μm)である。
粉砕に用いる装置は特に限定されず、公知の乾式粉砕機を用いることができ、例えば、フレーククラッシャ、ハンマーミル、ピンミル、バンタムミル、ジェットミル、サイクロンミル、フレットミル、パンミル、エッジランナー、ローラーミル、ミックスマーラー、振動ミル、サンプルミル、ライカイキなどが使用できる。
また造粒体の用語は粉砕後の粉体との区別のために用いたものであり、必ずしも何らかの造粒工程を経たことを意味しないが、造粒工程を経たものであることが好ましい。
【0010】
チタン酸リチウム造粒体の累積50%粒径(ここではD50で表し、D50,1と同じ粉砕前のものである。)は、0.5〜50μmの範囲が好ましく、0.5〜30μmがより好ましく、0.5〜10μmが更に好ましい。チタン酸リチウム造粒体の累積50%粒径が前記の範囲であると、取扱い性がよく、そのままで使用しても、大きな粒度の二次粒子が少ないため電極の集電体に強固に固着して剥離し難いため好ましい。また、チタン酸リチウム造粒体の粒度分布はより狭いのが好ましく、例えば累積10%粒径(D10)、累積90%粒径(D90)から式2で求められる粒度分布を示すパラメーターSD値で表すと2.0〜8.0μmが好ましく、3.0〜6.0μmがより好ましく、3.5〜4.5μmが更に好ましい。
(式2) SD(μm)=(D90−D10)/2
また、チタン酸リチウム造粒体は微粉化され易いため、330メッシュ篩残分を測定する際にも微粉化され、330メッシュ篩残分は0.1質量%以下になり易く、0.1質量%以下であると二次粒子が焼成の際に凝集した粗大粒が少ないため電極の集電体に強固に固着して剥離し難いため好ましい。330メッシュ篩残分は0.05質量%以下がより好ましく、0.02質量%以下が更に好ましい。
【0011】
また、本発明はチタン酸リチウム造粒体を粉砕したチタン酸リチウム粉体に関する。本発明のチタン酸リチウム粉体の累積50%粒径(D50)は、0.1〜5μmが好ましく、0.5〜5μmがより好ましい。チタン酸リチウム粉体の累積50%粒径が、0.1〜5μmの範囲であると取扱い性がよく、粗粒が少ないため電極の集電体に強固に固着して剥離し難いため好ましい。累積50%粒径は、0.5〜3μmがより好ましく、0.5〜2μmが更に好ましい。
また、チタン酸リチウム粉体の粒度分布はより狭いのが好ましく、例えば累積10%粒径(D10)、累積90%粒径(D90)から上記式2で求められる粒度分布を示すパラメーターSD値で表すと0.2〜3.0μmが好ましく、0.3〜2.5μmがより好ましく、0.5〜2.0μmが更に好ましい。
また、チタン酸リチウム粉体の330メッシュ篩残分が0.1質量%以下であると、二次粒子が焼成の際に凝集した粗大粒が少ないため電極の集電体に強固に固着して剥離し難いため好ましい。330メッシュ篩残分は0.05質量%以下がより好ましく、0.02質量%以下が更に好ましい。
【0012】
また、本発明のチタン酸リチウム(造粒体、粉体)は、いずれも(1)〜(3)に記載の次のような物性を有するのが好ましい。
(1)組成
本発明のチタン酸リチウムは、種々の組成の化合物があり、具体的には一般式LixTiyO
4で表されるチタン酸リチウムにおいて、0.8≦x≦1.4,1.6≦y≦2.2である化合物であり、代表的なものとして、LiTi
2O
4、Li
1.33Ti
1.66O
4(Li
4Ti
5O
12)あるいはLi
0.8Ti
2.2O
4など任意に調製することができる。
【0013】
(2)単相率
単相率とは、下記式3で表され、目的とするチタン酸リチウムの含有率を示す指標であり、90%以上が好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がより好ましく、97%以上が更に好ましく、98%以上が更に好ましい。
(式3) 単相率(%)=100×(1−Σ(Yi/X))
ここで、Xは、Cukα線を用いた粉末X線回折測定における、目的とするチタン酸リチウムのメインピーク強度、Yiは各副相のメインピーク強度である。Li
4Ti
5O
12の場合、Xは2θ=18°付近のピーク強度であり、アナタース型又はルチル型TiO
2やLi
2TiO
3が副相として存在し易いのでYiには2θ=25°付近のピーク強度(アナタース型TiO
2)、2θ=27°付近のピーク強度(ルチル型TiO
2)と2θ=44°付近のピーク強度(Li
2TiO
3)を用いる。
【0014】
(3)BET比表面積、嵩密度、吸油量等
チタン酸リチウムは、大きな比表面積を有すると電池特性がよいため好ましく、具体的には5〜50m
2/gが好ましく、5〜20m
2/gがより好ましく、5〜10m
2/gが更に好ましい。
また、チタン酸リチウムの嵩密度は、適宜設定することができ、嵩密度は0.1〜0.8g/cm
3が好ましく、0.2〜0.7g/cm
3がより好ましく、0.4〜0.6g/cm
3がより好ましく、0.4〜0.5g/cm
3がさらに好ましい。タップ密度も適宜設定することができ、タップ密度は、0.4〜1.2 g/cm
3が望ましく、0.5〜1.0 g/cm
3がより好ましく、0.6〜0.8 g/cm
3がさらに好ましい。
チタン酸リチウムの吸油量は、10〜50g/100gが好ましく、10〜40g/100gがより好ましく、15〜40g/100gがより好ましく、20〜40g/100gが更に好ましく、20〜35g/100gが更に好ましい。吸油量はチタン酸リチウムを練るのに必要な油の量であり、電極を作製する際に必要とする結着剤の量や電極の剥離強度を予想できる。吸油量が10〜50g/100g、特に10〜40g/100gの範囲であれば、結着剤の量も適量であり、その結着剤によってチタン酸リチウムを集電体上に強固に固着することができ、例えばクロスカット法JIS K5600−5−6(ISO2409)を用いた剥離強度の評価で3以下の好ましい数値を示す。
また、不純物は少ないことが好ましく、具体的には次の範囲がより好ましい。ナトリウム(1000ppm以下)、カリウム(500ppm以下)、ケイ素(1000ppm以下)、カルシウム(1000ppm以下)、鉄(500ppm以下)、クロム(500ppm以下)、ニッケル(500ppm以下)、マンガン(500ppm以下)、銅(500ppm以下)、亜鉛(500ppm以下)、アルミニウム(500ppm以下)、マグネシウム(500ppm以下)、ニオブ(0.3質量%以下)、ジルコニウム(0.2質量%以下)、SO
4(1.0質量%以下)、塩素(1.0質量%以下)。
【0015】
次に、チタン酸リチウムを製造するためのチタン原料は、BET比表面積が100〜400m
2/gであり、硫酸分(SO
4)の含有量がメタチタン酸のTiO
2換算量に対して0.01〜2.0質量%であるメタチタン酸を含む。硫酸分(SO
4)の含有量がメタチタン酸のTiO
2換算量に対して0.2〜2.0質量%であるのが好ましい。メタチタン酸は、TiO(OH)
2又はTiO
2・H
2Oで表される化合物や、それと同じような組成を有するTiO
2−n(OH)
2n又はTiO
2・nH
2O(0<n<1)で表される不定比の化合物を含み、四塩化チタンを中和して得られるTi(OH)
4又はTiO
2・2H
2Oで表されるオルトチタン酸とは異なるものであり、メタチタン酸、オルトチタン酸を500〜1000℃の温度で焼成して得られるTiO
2で表される二酸化チタンとも異なるものである。チタン原料は、メタチタン酸を主成分として好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上含むものであればよく、副成分として、後述する加水分解する際に添加したシード(核晶)や、オルトチタン酸又はその塩、チタン酸又はその塩、二酸化チタン、酸化チタン等を含んでいてもよい。
メタチタン酸のBET比表面積は、リチウム化合物との反応性が良いことから150〜400m
2/gが好ましく、250〜400m
2/gがより好ましく、300〜350m
2/gが更に好ましい。メタチタン酸のBET比表面積が100m
2/gより小さいと、リチウム化合物との反応性が悪くなるため好ましくない。一方、400m
2/gより大きいと、微細なため固液分離が難しくなり好ましくない。
メタチタン酸の硫酸分(SO
4)の含有量は、リチウム化合物と反応して硫酸リチウムを副成するため少ないのが好ましく、工業的な生産性を考慮すると、メタチタン酸のTiO
2換算量に対して0.2〜2.0質量%が好ましく、0.2〜1.5質量%がより好ましく、0.2〜0.7質量%がより好ましい。
また、メタチタン酸のアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア、アミン類等の窒素の含有量は合計量で表してメタチタン酸に対して2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%が更に好ましい。特に、アルカリ金属、アルカリ土類金属がそれぞれ0.2質量%以下であり、窒素の含有量は、1質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.5質量%が更に好ましい。メタチタン酸は、高純度のものが好ましく、通常純度90質量%以上が良く、99質量%以上がより好ましい。また、その他の元素の含有量は具体的にはメタチタン酸に対して次の範囲がより好ましい。ケイ素(1000ppm以下)、カルシウム(1000ppm以下)、鉄(1000ppm以下)、ニオブ(0.3質量%以下)、ジルコニウム(0.2質量%以下)。
【0016】
また、メタチタン酸は、リチウム化合物との反応性の点から微細なものが好ましく、平均一次粒子径(電子顕微鏡法)は0.001μm〜0.3μmの範囲が好ましく、0.005〜0.05μmがより好ましく、0.005μm〜0.03μmの範囲がより好ましい。
【0017】
チタン酸リチウム(造粒体、粉体)、メタチタン酸、チタン原料、リチウム化合物、混合物のそれぞれの特性の測定方法について説明する。
(1)BET比表面積
比表面積は、窒素吸着によるBET一点法にて測定したものである。装置はユアサアイオニクス社製モノソーブ又はQuantachrome Instruments社製Monosorb型番MS−22を用いた。
【0018】
(2)粒子径(メタチタン酸)
メタチタン酸の一次粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用い、画像中の一次粒子100個の粒子径を測定し、その平均値を取ったものである(電子顕微鏡法)。
また、メタチタン酸の累積50%粒径は、レーザー回折法で測定する。具体的には、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、分散媒に純水を使用し、屈折率を、純水については1.33とし、メタチタン酸の屈折率は2.52を使用する。レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置は、堀場製作所社製 LA−950を用いた。
【0019】
(3)粒子径(チタン酸リチウム)
チタン酸リチウムの累積10%粒径(D10)、累積50%粒径(D50)、累積90%粒径(D90)は、レーザー回折法で測定する。具体的には、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、分散媒に純水を使用し、屈折率を、水については1.33とし、チタン酸リチウムについては化合物種に応じて適宜設定して測定する。チタン酸リチウムがLi
4Ti
5O
12である場合、屈折率は2.70を使用する。また、本発明においてはレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置は、堀場製作所社製LA−950を用いた。
【0020】
(4)粒子径(リチウム化合物)
リチウム化合物の累積50%粒径は、レーザー回折法で測定する。具体的には、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、分散媒にエタノールを使用し、屈折率をエタノールについては1.36とし、リチウム化合物については化合物種に応じて適宜設定して測定したものである。例えば、リチウム化合物が炭酸リチウムである場合、屈折率は1.50を使用する。レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置としては、堀場製作所社製LA−950を用いた。
【0021】
(5)粒子径(混合物(乾燥物及び造粒物))
チタン原料とリチウム化合物との混合物が、乾燥物及び造粒物である場合、その累積50%粒径は、レーザー回折法で測定する。具体的には、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、分散媒に水を使用し、屈折率を、水については1.33とし、リチウム化合物が炭酸リチウムである場合は、混合物の屈折率は、炭酸リチウムよりも高いメタチタン酸の2.52を使用する。レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置は、堀場製作所社製 LA−950を用いた。
【0022】
(6)嵩密度、吸油量
嵩密度は、シリンダー式(シリンダーに試料を入れ、体積と質量から算出)により求める。また、タップ密度は、試料を入れたシリンダーを200回5cmの高さからタップして算出する。
吸油量は、JIS K−5101−13−2に準ずる。試料と煮アマニ油を少しずつ混ぜ、ヘラを用いてらせん状に巻くことができる状態になったときの試料100gあたりの煮アマニ油の使用量(式4)で表す。
(式4) 吸油量(g/100g)=煮アマニ油の量(g)/試料質量(g)×100
【0023】
(7)330メッシュ篩残分
JIS Z 8901「試験用粉体及び試験用粒子」に基づいて、330メッシュの標準篩を用いてオーバサイズ(330メッシュ篩に残る造粒体、粉体の全粉体量に対する質量百分率)で表す。
(8)剥離強度
クロスカット法JIS K 5600−5−6(ISO2409)を用いて0〜5の6段階で評価する。数値が小さいほど、剥離強度が強いことを示す。
(9)単相率
(式3) 単相率(%)=100×(1−Σ(Yi/X))で示す。
ここで、Xは、Cukα線を用いた粉末X線回折測定における、目的とするチタン酸リチウムのメインピーク強度、Yiは各副相のメインピーク強度である。粉末X線回折装置は、リガク社製、Ultima IVを用いた。
【0024】
(10)不純物
不純物である、ナトリウム、カリウムは原子吸光法により測定し、SO
4、塩素はイオンクロマトグラフィー法又は蛍光X線測定装置により測定し、ケイ素、カルシウム、鉄、クロム、ニッケル、マンガン、銅、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、ニオブ、ジルコニウムなどのその他の元素はICP法により測定する。SO
4ついては、蛍光X線測定装置(RIGAKU RIX−2200)を用いた。アンモニアは、強アルカリで遊離した後、中和滴定法により測定した。
【0025】
次に、本発明のチタン酸リチウムの製造方法は、次の工程を含む。
(1)硫酸チタニル又は硫酸チタンを加熱加水分解してメタチタン酸を製造する工程、
(2)前記のメタチタン酸を含むスラリーを調製し、前記のスラリーのpHを6.0〜9.0に中和した後、固液分離して、BET比表面積が100〜400m
2/gであり、硫酸分(SO
4)の含有量がメタチタン酸のTiO
2換算量に対して0.01〜2.0質量%、好ましくは0.2〜2.0質量%であるメタチタン酸を含むチタン原料を製造する工程、
(3)前記のチタン原料とリチウム化合物を混合した後、焼成する工程。
【0026】
まず、(1)の工程は、メタチタン酸を製造する工程であり、水等の溶媒に溶解した硫酸チタニル又は硫酸チタンを加熱加水分解する。加水分解の温度は80〜95℃が好ましく、87〜93℃がより好ましい。加水分解の際にシード(核晶)を0.1〜1.0質量%添加すると加水分解が進み易いため好ましい。製造したメタチタン酸はスラリー状態であるが、必要に応じて固液分離したり、洗浄したりしてもよく、この場合は、例えば、水、アルコール、ヘキサン、トルエン、塩化メチレン、シリコーン等の溶媒に再度懸濁してスラリーに戻す。
【0027】
次に、(2)の工程は、メタチタン酸に含有する硫酸分(SO
4)を除いてメタチタン酸を含むチタン原料を製造する工程であり、メタチタン酸を含むスラリーのpHを6.0〜9.0に中和した後、水溶性の硫酸塩と固液分離する。スラリーpHを6.0〜9.0の範囲に調整すると、硫酸分(SO
4)の含有量を所望の量とすることができ、また、中和剤の残存量も少なくできる。好ましいpHは6.5〜8.0であり、より好ましくは7.0〜7.5であり、更に好ましくは7.0〜7.4である。添加する中和剤はアルカリ化合物を用いるが、チタン酸リチウムに残存しないものが好ましく、例えば、アンモニア、水酸化アンモニウム等のアンモニウム化合物、アルカノールアミン等のアミン化合物等の化合物がより好ましい。
メタチタン酸を含むスラリーの固形分濃度は、特に制限されるものではないが、例えば、好ましくは固形分濃度10〜30質量%となるように調整する。スラリー温度は、特に制限されるものではないが、通常は10〜30℃の範囲である。固液分離には通常の装置、フィルターろ過機、真空ろ過機等を用いることができる。固液分離した後、必要に応じて洗浄したり乾燥してもよく、乾燥温度は50〜500℃が好ましく、50〜300℃がより好ましく、50〜250℃が更に好ましい。500℃より高い温度で乾燥すると、メタチタン酸のBET比表面積が低下したり、完全に二酸化チタン結晶に変化するため好ましくない。このようにして、BET比表面積が100〜400m
2/gであり、硫酸分(SO
4)の含有量がメタチタン酸のTiO
2換算量に対して0.01〜2.0質量%、好ましくは0.2〜2.0質量%であるメタチタン酸を製造することができる。また、このように製造したメタチタン酸には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア、アミン類等の窒素の含有量を少なくすることができ、合計量で表してメタチタン酸に対して2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%が更に好ましい。特に、アルカリ金属、アルカリ土類金属がそれぞれ0.2質量%以下であり、窒素の含有量は、1質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.5質量%が更に好ましい。
更に、乾燥した後、必要に応じて、乾式粉砕すると(3)の工程での湿式粉砕の負担が少なくてすむため好ましい。乾式粉砕機は通常のものを用いることができ、例えば、フレーククラッシャ、ハンマーミル、ピンミル、バンタムミル、ジェットミル、サイクロンミル、フレットミル、パンミル、エッジランナー、ローラーミル、ミックスマーラー、振動ミルなどが挙げられる。このようにして製造したメタチタン酸をチタン原料とすることができ、必要に応じてオルトチタン酸又はその塩、チタン酸又はその塩、二酸化チタン、酸化チタン等を混合してチタン原料としてもよい。
【0028】
次に、(3)の工程では、チタン原料とリチウム化合物を混合した後、焼成する。前工程(2)で製造したチタン原料はケーキのような湿潤状態、スラリー状態あるいは乾燥状態であるが、それとリチウム化合物とを混合することができ、湿潤状態、スラリー状態のチタン原料を用いるとリチウム化合物と接触し易くなり、チタン原料とリチウム化合物の反応性の高い混合物が得られ易くなるため好ましい。このような湿潤状態、スラリー状態で混合を行う方法を湿式法といい、いずれも乾燥状態のチタン原料とリチウム化合物とを混合する乾式法に比べてより好ましい。
湿潤状態あるいは乾燥状態のチタン原料とリチウム化合物とを混合するための混合機は特に制限はなく、通常の撹拌機、混合機、ミキサー、混練機、乾式粉砕機等を用いることができる。
リチウム化合物は、水酸化物、塩、酸化物等を特に制限なく用いることができ、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、酸化リチウム等が挙げられ、これらの1種を用いることができ、2種以上を併用してもよい。前記リチウム化合物の中でも、チタン酸リチウムへの酸性根の残存を避けるため、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酸化リチウムを用いるのが好ましく、水酸化リチウム、炭酸リチウムを用いるのがより好ましく、水酸化リチウムが更に好ましい。リチウム化合物は高純度のものが好ましく、通常、純度98.0質量%以上がよい。例えば、水酸化リチウム一水和物をリチウム化合物として用いる場合には、LiOHが56.0質量%以上、好ましくは57.0質量%以上であって、Na、Ca、K、Mg等の不純物金属元素が1000ppm以下、好ましくは500ppm以下で、Cl、SO
4が1000ppm以下、好ましくは500ppm以下がよい。本発明において酸性根とは、硫酸根(SO
4)及び塩素根(Cl)を意味する。
リチウム化合物とチタン原料の配合比は、目的とするチタン酸リチウムの組成に合わせればよい。例えば、チタン酸リチウムとしてLi
4Ti
5O
12を製造する場合には、Li/Ti比が0.79〜0.85となるように配合する。
【0029】
また、前工程(2)で製造したチタン原料とリチウム化合物の混合スラリーを調製するのが好ましい。混合スラリーは、例えば、水、アルコール、ヘキサン、トルエン、塩化メチレン、シリコーン等の溶媒にチタン原料と前記のリチウム化合物とを懸濁又は溶解してスラリーにする。リチウム化合物は溶媒に溶解するものでもよく、不溶性のものでもよい。リチウム化合物を溶解した溶液と、湿潤状態あるいは乾燥状態のチタン原料又はスラリー状態のチタン原料を混合するのが好ましい。混合スラリーを作製する装置には特に制限はなく、通常の撹拌機、混合機、ミキサー、湿式粉砕機等を用いることができる。スラリーの固形分濃度は、特に制限されるものではないが、例えば、固形分濃度10〜30質量%となるように調整する。スラリー温度は、特に制限されるものではないが、通常は10〜30℃の範囲に調整する。
次に、このチタン原料と前記のリチウム化合物を含む混合スラリーを湿式粉砕するのがより好ましい。湿式粉砕とは、強力剪断力を加えることができる粉砕機又は分散機を用い、スラリー成分のアグロメレーション(塊状化)を防ぎながら分散又は粉砕させる操作を意味する。湿式粉砕に使用する装置としては、本発明の目的を達成できるものであれば格別に限定されるものではないが、例えば、バスケットミル等のバッチ式ビーズミル、横型・縦型・アニュラー型の連続式のビーズミル、サンドグラインダーミル、ボールミル等の湿式媒体撹拌ミル(湿式粉砕機)が例示される。湿式媒体撹拌ミルに用いるビーズとしては、ガラス、アルミナ、ジルコニア、スチール、フリント石等を原料としたビーズが使用可能である。
本発明においては、湿式粉砕により混合スラリー中のチタン原料の累積50%粒径を0.5〜3.0μmの範囲にすることが好ましく、0.5〜2.0μmの範囲にするのがより好ましい。3.0μmより大きいと、リチウム化合物との反応性が悪くなるため好ましくない。
リチウム化合物が溶媒に溶解するものであればよいが、溶解しないものであれば、リチウム化合物も湿式粉砕により微細にするのが好ましく、リチウム化合物粒子の累積50%粒径を0.3〜3.0μmの範囲にすることが好ましく、2.0〜3.0μmの範囲にすることがより好ましい。
【0030】
前記の混合物が湿潤状態のケーキの場合は必要に応じて、乾燥してもよく、混合物がスラリーの状態の場合は必要に応じて、固液分離したり、乾燥したり、造粒したりしてもよく、焼成するために乾燥するのが好ましい。乾燥は、特に制限はなく通常の乾燥機を用いることができ、例えば加熱乾燥機、熱風乾燥機、減圧又は真空乾燥機等を用いることができる。乾燥するための試料は、湿潤状態のケーキや粘稠性のスラリー等を用いることができる。湿潤状態のケーキは、湿潤状態のチタン原料とリチウム化合物を直接混合したものでもよく、両者の混合スラリーを固液分離したものでもよい。具体的には、スピンフラッシュドライヤのように高温・高速の気流中でケーキ・スラリー状の含水粉体を瞬間的に分散・乾燥を行う方法が好ましい。
また、固液分離、乾燥、造粒を一つの方法で行える噴霧乾燥を行うのがより好ましい。混合スラリーの噴霧乾燥は、回転ディスク法、加圧ノズル法、2流体ノズル法、4流体ノズル法など従来公知の方法を採用することができる。特に、4流体ノズル法は、粒度分布の均一な球状微粒子集合体を得ることができ、また平均粒子径をコントロールすることが容易であるので好ましい。このときの乾燥温度は、混合スラリー濃度、処理速度等によっても異なるが、スプレードライヤーを使用する場合、例えば、スプレードライヤーの入口温度としては100〜300℃、出口温度40〜200℃などの条件が好ましい。噴霧速度については、格別に制限されるものではないが、通常は噴霧速度0.5〜3L/分の範囲で行われる。尚、アトマイザー式噴霧乾燥機を使用する場合は、例えば、10000〜40000rpm(回転数/分)で処理されるが、この範囲に限定されるものではない。
このように混合スラリーを噴霧乾燥等により造粒して二次粒子として用いる場合は、その累積50%粒径(レーザー回折法)は3〜15μmとすると好ましく、5〜12μmがより好ましく、7〜8μmが更に好ましい。
乾燥物又は造粒物の嵩密度は0.1〜0.8g/cm
3が好ましく、0.2〜0.7g/cm
3がより好ましく、0.4〜0.6g/cm
3がより好ましく、0.4〜0.5g/cm
3がより好ましい。嵩密度が前記範囲より低いと、焼成炉によっては、装置当たりの仕込み量が減少し、生産能力が低下する。加熱工程において反応中に発生するガスが抜けづらくなったり、熱伝導が阻害されるなどして、この場合も反応性が低下するため好ましくない。その結果、いずれの場合も得られるチタン酸リチウムの単相率が低下し易い。
【0031】
また、チタン原料とリチウム化合物とを混合した湿潤状態あるいは乾燥状態の混合物、乾燥物又は造粒物を必要に応じて乾燥したり、粉砕したり、圧力をかけてもよい。一般に、比表面積の大きい材料は嵩が高く(嵩密度が低い)、質量当たりの占有体積が大きいため、生産性、例えば、単位時間や設備当たりの処理量(材料投入量)が低下する。そこで、混合物を粉砕したり、圧力をかけたりして、適度な嵩密度とすることが好ましい。粉砕したり、圧力をかけたりすることによって、チタン原料とリチウム化合物が接触し易くなり、チタン原料とリチウム化合物の反応性の高い混合物が得られ易くなるため好ましい。
粉砕する手段としては、前記した公知の粉砕機、例えばジェットミル、サイクロンミルなどを用いることができる。圧力をかける手段としては、加圧(圧縮)する手段、加圧(圧縮)して粉砕する手段等を用いることができ、公知の加圧成形機、圧縮成形機を用いることができ、例えば、ローラーコンパクター、ローラークラッシャー、ペレット成型機などが挙げられる。圧力をかける場合、粉末への付加圧力を58.8MPa以下とすると、嵩密度が前記範囲の前駆体混合物が得られやすく、49.0MPa未満とするとより好ましく、14.7〜44.1MPaとすると更に好ましい。
【0032】
次に、前記のチタン原料とリチウム化合物とを混合した混合物等を加熱炉に入れ、所定の温度に昇温し、一定時間保持して焼成する。混合物は、混合スラリーの状態でもよく、湿潤状態であってもよく、乾燥したり、造粒したり、あるいは粉砕したり圧力をかけたものでもよい。混合スラリーの状態であれば、それを加熱炉に噴霧するなどして加熱炉に入れてもよく、その他の状態であれば、空気等のガス輸送やコンベアベルト、バケットエレベーター等の機械輸送で加熱炉に入れることができる。加熱炉としては、例えば、流動炉、静置炉、ロータリーキルン、トンネルキルン等を用いることができる。
焼成温度は、600℃以上の温度が好ましく、950℃以下が好ましい。例えばLi
4Ti
5O
12の場合、600℃より低いと、目的とするチタン酸リチウムの単相率が低くなり、未反応のチタン原料が多くなるため好ましくなく、一方、950℃より高くすると、不純物相(Li
2TiO
3やLi
2Ti
3O
7)が生成するため好ましくない。好ましい焼成温度は650℃〜800℃であり、より好ましくは680〜780℃であり、更に好ましくは700〜750℃である。この範囲であれば、前述の単相率を好ましい範囲とすることができ、且つ焼結や粒成長の抑制されたチタン酸リチウムを、安定して製造できる。
焼成時間は適宜設定することができ、3〜6時間程度が適当である。焼成雰囲気としては、制限がないが、大気、酸素ガスなどの酸化性雰囲気、窒素ガス、アルゴンガスなどの非酸化性雰囲気、水素ガス、一酸化炭素ガスなどの還元性雰囲気がよく、酸化性雰囲気が好ましい。仮焼は行ってもよいが、特に必要はない。
【0033】
このようにして得られたチタン酸リチウムは、焼結や粒成長が少なく微粉化が容易なため、冷却後、粉砕することなく電極を作製する工程に用いることができる。ただ、必要に応じて前記の(3)の工程において製造したチタン酸リチウムを更に乾式粉砕する工程(4)を行ってもよい。本発明で得られたチタン酸リチウムは、上記の通り微粉化が容易であるが、乾式粉砕を行うとより一層微粉化され易く、蓄電デバイスの電極を作製する際にペーストに分散し易い。粉砕には、公知の乾式粉砕機を用いることができ、例えば、フレーククラッシャ、ハンマーミル、ピンミル、バンタムミル、ジェットミル、サイクロンミル、フレットミル、パンミル、エッジランナー、ローラーミル、ミックスマーラー、振動ミルなどが挙げられる。また、焼成して得られたチタン酸リチウム、乾式粉砕を行ったチタン酸リチウムを、篩に通し分級して粗粒を少なくし粗大な不純物等を除去してもよく、あるいは、一定の大きさに整形して微粒を少なくしてもよい。
【0034】
次に、本発明は蓄電デバイス用電極であって、上述した乾式粉砕を行わないチタン酸リチウム又は乾式粉砕を行ったチタン酸リチウム、さらには、篩に通し分級したチタン酸リチウムを電極活物質として含むことを特徴とする。
また、本発明は蓄電デバイスであって、上述した本発明のチタン酸リチウムを用いることを特徴とする。この蓄電デバイスは、前記の電極、その対極及び電解質とからなり、必要に応じてセパレータを備える。電極は、本発明のチタン酸リチウムを電極活物質に用い、それに結着剤(バインダー)を加え、必要に応じて導電材を更に加え、適宜成形又は塗布し集電体に固着して得られる。結着剤(バインダー)としては、例えば、ポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等のフッ素樹脂や、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸等の水溶性樹脂が挙げられる。導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電助剤が挙げられる。リチウム電池の場合、前記電極活物質を正極に用い、対極として金属リチウム、リチウム合金など、又は黒鉛等の炭素含有物質を用いることができる。あるいは、前記電極活物質を負極として用い、正極にリチウム・マンガン複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物、リチウム・コバルト・マンガン・ニッケル複合酸化物、リチウム・バナジン複合酸化物等のリチウム・遷移金属複合酸化物、リチウム・鉄・複合リン酸化合物等のオリビン型化合物等を用いることができる。セパレータには、いずれにも、多孔性ポリプロピレンフィルムなどが用いられ、電解質には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチルラクトン、1,2−ジメトキシエタンなどの溶媒にLiPF
6、LiClO
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiBF
4等のリチウム塩を溶解させたものなど常用の材料を用いることができる。本発明のチタン酸リチウムは、リチウム二次電池の活物質としてだけでなく、他の種類の活物質の表面に付着させたり、電極に配合したり、セパレータに含有させたり、リチウムイオン伝導体として使用したりなどしてもよい。また、ナトリウムイオン電池の活物質として使用してもよい。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の実施例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0036】
実施例1
(1)メタチタン酸の作製
TiO
2換算で220g/Lの硫酸チタニルの硫酸水溶液にTiO
2換算で0.5質量%のメタチタン酸シード(核晶)を加え、90℃で4時間加熱を行い、メタチタン酸沈殿物と硫酸の混合物を得た。次いで、沈殿物を吸引濾過機によりろ過洗浄後、リパルプし、TiO
2濃度が220g/Lの水性スラリーを得た。
【0037】
(2)チタン原料の作製
次に、前記のメタチタン酸スラリー(濃度220g/L)10Lを撹拌しながら、スラリーのpHが7.3になるまでアンモニア水(16.5%)を25分かけ添加し、2時間の熟成後、吸引濾過機によりろ過洗浄し、150℃にて15時間乾燥し、得られた乾燥物をハンマーミルにより粉砕して、チタン原料(試料a)を作製した。
【0038】
(3)チタン酸リチウムの作製
純水13Lに水酸化リチウム一水和物1.9kgを溶解し、上記の方法で得たチタン原料を加え、30分撹拌し、チタン原料の濃度がTiO
2換算で23質量%の混合スラリーを調製した。その後、ビーズミルにて湿式粉砕を行い、チタン原料の累積50%粒径を1.1μmとした。粉砕後のスラリーの粘度は1200mPa・sであった。
次いで、スプレードライヤー(大河原化工機製L−8i型)の入り口温度を190℃、出口温度を90℃に調整し、前記混合スラリーを噴霧乾燥した。噴霧乾燥により得られた造粒体を加熱炉に入れ、大気中で700℃の温度で3時間加熱焼成を行い、本発明のチタン酸リチウム造粒体(試料A)を得た。
【0039】
実施例2
実施例1の(2)において中和pHを7.3に代えて6.9にすること以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸(試料b)、チタン酸リチウム造粒体(試料B)を得た。
【0040】
実施例3
実施例1の(2)において中和pHを7.3に代えて7.8にすること以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸(試料c)、チタン酸リチウム造粒体(試料C)を得た。
【0041】
実施例4
実施例1の(2)において乾燥温度を150℃に代えて300℃にすること以外は、実施例1と同様にして、メタチタン酸(試料d)、チタン酸リチウム造粒体(試料D)を得た。
【0042】
実施例5
実施例1の(3)において焼成温度を700℃に代えて740℃にすること以外は、実施例1と同様にして、本発明のチタン酸リチウム造粒体(試料E)を得た。
【0043】
実施例6
実施例1で得られた試料Aをフレットミル(粉砕ローラー40kg、ローラー回転数50rpm)にて粉砕し、粉砕物を目開き0.5mmのメッシュにて、粗砕しながら分級して、本発明のチタン酸リチウム粉体(試料F)を得た。
【0044】
実施例7
実施例1で得られた試料Aをハンマーミルにて粉砕して、本発明のチタン酸リチウム粉体(試料G)を得た。
【0045】
実施例8
実施例1で得られた試料Aをジェットミルにて粉砕して、本発明のチタン酸リチウム粉体(試料H)を得た。
【0046】
比較例1
実施例1の(2)において、乾燥温度を150℃に代えて550℃にすること以外は実施例1と同様にして、二酸化チタン(試料i)、チタン酸リチウム造粒体(試料I)を製造した。
【0047】
比較例2
チタン原料にメタチタン酸に代えて結晶性の二酸化チタンとオルトチタン酸を用いて以下の方法でチタン酸リチウムを製造した。
9.14モル/Lのアンモニア水溶液3Lと、純水1.5Lとを反応容器に入れ、撹拌しながら溶液の温度が50〜60℃になるように加熱して、1.25モル/Lの四塩化チタン水溶液4.5Lを2時間かけて加え、その後1時間熟成し、生成した沈殿物を濾過し、2Lの純水で洗浄してチタン酸化合物(オルトチタン酸)を得た。次いで、得られたオルトチタン酸を純水に分散させ、TiO
2換算で150g/Lのスラリーを得た。
次に、3.5モル/Lの水酸化リチウム水溶液1.6Lに結晶性酸化チタン(アナタース型とルチル型の回折ピークを有する)371gを添加し分散させた。このスラリーを撹拌しながら液温を80℃に保ち、前記のオルトチタン酸スラリー(150g/L)1.2Lを添加して二酸化チタンとオルトチタン酸とリチウム化合物を含む混合スラリーを得た。
次に、スプレードライヤー(大河原化工機製L−8i型)の入り口温度を190℃、出口温度を90℃に調整し、前記混合スラリーを噴霧乾燥した。得られた乾燥造粒物を大気中700℃の温度で3時間加熱焼成を行い、チタン酸リチウム造粒体(試料J)を得た。
【0048】
評価1 チタン原料の評価
実施例及び比較例で得られた試料a〜d、iのBET比表面積、メタチタン酸のTiO
2換算量に対するSO
4含有量、アンモニア含有量を調べた結果を表1に示す。メタチタン酸の乾燥温度を500℃以下であれば、BET比表面積が適度なものとなることがわかった。また、中和pHは6〜9の範囲であると、SO
4含有量、アンモニア由来の窒素含有量がいずれも適量であることがわかった。
【0049】
【表1】
【0050】
評価2 チタン酸リチウム造粒体の評価
実施例及び比較例で得られた試料のD10、D50,1、D90を測定し、また、D50,2を測定してZd、SDを求め、表2に示した。また、BET比表面積、未反応率、吸油量、嵩密度、タップ密度を測定し、その結果を表3に示した。実施例の試料はZdが2以上であり、粉砕し易いものであった。また、比表面積も比較的大きく、未反応率は低く、吸油量、嵩密度も適度であることがわかった。
尚、得られた試料の未反応率は次のようにして測定した。粉末X線回折装置を用いて粉末X線回折パターンを測定した。その結果、いずれの試料もLi
4Ti
5O
12を主成分とすることを確認した。また、測定されたピーク強度のうち、Xとして、2θ=18°付近のLi
4Ti
5O
12のピーク強度を、Yとして2θ=27°付近のルチル型TiO
2のピーク強度、2θ=25°付近のアナタース型TiO
2のピーク強度及び2θ=44°付近のLi
2TiO
3のピーク強度を用いて前述の単相率を算出し、未反応率=100−単相率とした。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
評価3 チタン酸リチウム粉体の評価
実施例で得られた粉砕した試料のD10、D50、D90、SD、比表面積、未反応率、吸油量と、剥離強度の結果を表4に示す。実施例の試料は、電極活物質として良好な粉体特性を有しており、しかも、剥離強度が強く、集電体に強固に固着することがわかった。
尚、剥離強度は、クロスカット法JIS K5600−5−6(ISO2409)を用いて0〜5の6段階で評価した。下記の評価試料をカッターナイフを用いて、25個の碁盤目を作り、碁盤目部分にセロテープ(登録商標)を強く圧着させ、テープの端を60°の角度で一気に引き剥がした後の碁盤目の状態を標準図と比較して評価する。0〜5の数値が小さいほど剥離強度が強いことを示す。評価試料は、実施例で得られた試料と、導電剤としてのアセチレンブラック粉末、及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン樹脂を質量比で100:5:8で混合し、練り合わせ、ペーストを調製し、このペーストをアルミ箔上に塗布し、120℃の温度で10分乾燥した後、17MPaでプレスして作製した。
【0054】
【表4】
【0055】
評価4 蓄電デバイスの作製
実施例及び比較例で得られた試料と、導電剤としてのアセチレンブラック粉末、及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン樹脂を質量比で100:5:7で混合し、練り合わせ、ペーストを調製した。このペーストをアルミ箔上に塗布し、120℃の温度で10分乾燥した後、直径12mmの円形に打ち抜き、17MPaでプレスして作用極とした。電極中に含まれる活物質量は、3mgであった。
【0056】
この作用極を120℃の温度で4時間真空乾燥した後、露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型セルに正極として組み込んだ。コイン型セルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。負極には厚み0.5mmの金属リチウムを直径12mmの円形に成形したものを用いた。非水電解液として1モル/Lとなる濃度でLiPF6を溶解したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液(体積比で1:2に混合)を用いた。
【0057】
作用極はコイン型セルの下部缶に置き、その上にセパレータとして多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上から非水電解液を滴下した。さらにその上に負極と、厚み調整用の0.5mm厚スペーサー及びスプリング(いずれもSUS316製)をのせ、ポリプロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封し、蓄電デバイスを得た。
【0058】
(1)レート特性の評価
上記で作製した蓄電デバイスについて、種々の電流量で放電容量を測定して容量維持率(%)を算出した。放電電流は1C〜30Cの範囲に設定して行った。環境温度は25℃とした。容量維持率は、1Cでの放電容量の測定値をX
1、10Cでの測定値をX
10とすると、(X
10/X
1)×100の式で算出した。尚、ここで1Cとは、1時間で満充電できる電流値を言い、本評価では、0.48mAが1Cに相当する。結果を表5に示す。実施例の試料を用いた蓄電デバイスは容量維持率が高く、レート特性がよいことがわかった。
【0059】
(2)低温特性の評価
上記で作製した蓄電デバイスについて、低温環境(−40℃)で電圧範囲を1〜3Vに、電流範囲を0.25C〜1.0Cとして上記と同様な充放電を行いった。25℃での放電時の容量X
nに対して低温環境下での放電時容量を比較したX
0.25(−40℃)/X
0.25(25℃)×100を低温特性とすると、この値が大きければ低温特性が優れている。結果を表5に示す。実施例の試料を用いた蓄電デバイスは低温特性がよいことがわかった。
【0060】
【表5】