(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6390976
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】酸素検知多層体、並びにそれを用いた酸素検知包装材及び脱酸素剤包装体
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20180910BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20180910BHJP
G01N 21/77 20060101ALI20180910BHJP
B65D 81/26 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
G01N31/00 L
G01N31/22 121C
G01N21/77 A
B65D81/26 R
【請求項の数】20
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-522964(P2015-522964)
(86)(22)【出願日】2014年6月18日
(86)【国際出願番号】JP2014066198
(87)【国際公開番号】WO2014203942
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2017年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2013-130923(P2013-130923)
(32)【優先日】2013年6月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】杉 戸 健
【審査官】
三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−307513(JP,A)
【文献】
特許第4742879(JP,B2)
【文献】
特開2006−096394(JP,A)
【文献】
特開2008−224391(JP,A)
【文献】
特開2003−322648(JP,A)
【文献】
特開2003−227797(JP,A)
【文献】
特開2007−176650(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/059902(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
B65D 81/26
G01N 21/77
G01N 31/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂層と、
ヒートシール層と、
前記透明樹脂層および前記ヒートシール層の間の一部に設けられた、酸素検知成分を含む酸素検知層と、
を備えた酸素検知多層体であって、
前記酸素検知層が設けられていない部分の少なくとも一部を埋めて前記酸素検知多層体の厚みを補うように、前記透明樹脂層および前記ヒートシール層の間の一部にスペーサが設けられてなり、
前記酸素検知層の厚さが、4〜40μmであり、
前記酸素検知層の厚さと前記スペーサの厚さの比が、15:1〜1:10である、酸素検知多層体。
【請求項2】
前記透明樹脂層と前記酸素検知層の間には、スペーサが設けられていない、請求項1に記載の酸素検知多層体。
【請求項3】
前記酸素検知多層体全体の表面積に対する前記スペーサの表面積の割合が、10〜99.7%である、請求項1または2に記載の酸素検知多層体。
【請求項4】
前記スペーサの表面積と前記酸素検知層の表面積の比が、0.6:1〜332:1である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸素検知多層体。
【請求項5】
前記酸素検知多層体全体の表面積に対する酸素検知層の表面積の割合が、0.3〜15%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸素検知多層体。
【請求項6】
前記透明樹脂層と前記酸素検知層との間に、前記酸素検知成分を透過しない第1封止層を備えてなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載に記載の酸素検知多層体。
【請求項7】
前記酸素検知層と前記ヒートシール層との間に、前記酸素検知成分を透過しない第2封止層を備えてなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載に記載の酸素検知多層体。
【請求項8】
第2封止層と前記ヒートシール層との間に、接着層を備えてなる、請求項7に記載の酸素検知多層体。
【請求項9】
前記スペーサが、前記酸素検知成分を透過しない、請求項1〜8のいずれか一項に記載の酸素検知多層体。
【請求項10】
前記スペーサが、酸素透過性である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の酸素検知多層体。
【請求項11】
前記酸素検知成分が、チアジン染料、アジン染料、オキサジン染料、インジゴイド染料、およびチオインジゴイド染料からなる群より選択される少なくとも1種を含んでなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の酸素検知多層体。
【請求項12】
前記透明樹脂層が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、およびナイロンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含んでなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の酸素検知多層体。
【請求項13】
前記ヒートシール層が、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、およびエチレン−(メタ)アクリレート共重合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の酸素検知多層体。
【請求項14】
前記酸素検知層が、セルロース樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂、およびポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含んでなる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の酸素検知多層体。
【請求項15】
第1封止層および/または第2封止層が、それぞれ、ポリウレタン、ポリオレフィン、ニトロセルロース樹脂、およびアクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含んでなる、請求項6〜14のいずれか一項に記載の酸素検知多層体。
【請求項16】
前記スペーサが、前記酸素検知層に接している、請求項1〜15のいずれか一項に記載の酸素検知多層体。
【請求項17】
前記スペーサが、前記酸素検知層から離間している、請求項1〜15のいずれか一項に記載の酸素検知多層体。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の酸素検知多層体が少なくとも一部に用いられてなる、酸素検知包装材。
【請求項19】
脱酸素剤組成物を請求項18に記載の酸素検知包装材で包装した、脱酸素剤包装体。
【請求項20】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の酸素検知多層体の製造方法であって、
透明樹脂層上に、酸素検知成分を含む酸素検知層をグラビア印刷により積層する工程と、
前記透明樹脂層上の酸素検知層が設けられていない部分に、スペーサをグラビア印刷により積層する工程と、
前記酸素検知層およびスペーサ上に、ヒートシール層を積層する工程と、
を備えてなる、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素検知機能を有する酸素検知多層体に関する。詳しくは、酸素検知層の変色を判別し易く、酸素検知層のひび割れを防止できる酸素検知多層体に関する。さらに、酸素検知多層体を用いた酸素検知包装材および該酸素検知包装材で包装された脱酸素剤包装体にも関する。
【背景技術】
【0002】
酸素の影響を受けて変質あるいは劣化し易い、食品、飲料、医薬品、医療品、化粧品、金属製品、および電子製品等の各種物品には、酸化劣化を防止して長期に保存する目的で、これらを収納した密封容器内の酸素除去を行う脱酸素剤が使用されている。
【0003】
脱酸素剤の種類の一つとして、酸素検知剤付きの脱酸素剤がある。酸素検知剤付き脱酸素剤とは、小袋状又はシート状の脱酸素剤に酸素検知剤を添付したものであり、密封容器内が脱酸素状態となった際、酸素検知剤の変色により密封容器内の酸素濃度を視認できる。
【0004】
従来、酸素検知剤には、メチレンブルー等の酸化還元色素が用いられてきた。しかし、メチレンブルー等の酸化還元色素は光照射によって劣化し易い。そこで、酸化還元色素を用いた酸素インジケーター層の隣に、遮光性を付与したアンカーコート層やオーバーコート層を設けることが提案されている(特許文献1参照)。また、メチレンブルーは染色性が著しく強いため、内容物に密着した状態では内容物に移行することがあった。そこで、酸素検知層の上にメチレンブルー非透過な透明樹脂層を設けることが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−227797号公報
【特許文献2】特開2006−017650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記の背景技術を鋭意検討した結果、特許文献2のように酸素検知層をグラビア印刷により設ける場合、工程の簡略化により製造コストが削減できる一方で、酸素検知層が一定以上の厚みとならずに、酸素検知層の変色を判別し難くなることが判明した。そこで、酸素検知層の厚みを従来よりも厚くすることで、酸素検知層の変色を判別し易くすることができた。しかし、酸素検知層を設けた部分が他の箇所よりも厚くなることで、例えば搬送のためにロール状に巻き取った酸素検知多層体において、酸素検知層を設けた厚い部分に負荷が掛かり、酸素検知層にひび割れが起こるという新たな課題を見出した。
【0007】
本発明は、上記の背景技術および新たに見出した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、酸素検知層の変色を判別し易く、酸素検知層のひび割れを防止できる酸素検知多層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、酸素検知層が設けられていない部分の少なくとも一部を埋めて酸素検知多層体の厚みを補うように、スペーサを設けることで、上記課題を解決できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下の(1)〜(20)の発明が提供される。
(1) 透明樹脂層と、
ヒートシール層と、
前記透明樹脂層および前記ヒートシール層の間の一部に設けられた、酸素検知成分を含む酸素検知層と、
を備えた酸素検知多層体であって、
前記酸素検知層が設けられていない部分の少なくとも一部を埋めて前記酸素検知多層体の厚みを補うように、前記透明樹脂層および前記ヒートシール層の間の一部にスペーサが設けられてなり、
前記酸素検知層の厚さが、0.5〜40μmであり、
前記酸素検知層の厚さと前記スペーサの厚さの比が、15:1〜1:10である、酸素検知多層体。
(2) 前記透明樹脂層と前記酸素検知層の間には、スペーサが設けられていない、(1)に記載の酸素検知多層体。
(3) 前記酸素検知多層体全体の表面積に対する前記スペーサの表面積の割合が、10〜99.7%である、(1)または(2)に記載の酸素検知多層体。
(4) 前記スペーサの表面積と前記酸素検知層の表面積の比が、0.6:1〜332:1である、(1)〜(3)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体。
(5) 前記酸素検知多層体全体の表面積に対する酸素検知層の表面積の割合が、0.3〜15%である、(1)〜(4)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体。
(6) 前記透明樹脂層と前記酸素検知層との間に、前記酸素検知成分を透過しない第1封止層を備えてなる、(1)〜(5)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体。
(7) 前記酸素検知層と前記ヒートシール層との間に、前記酸素検知成分を透過しない第2封止層を備えてなる、(1)〜(6)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体。
(8) 第2封止層と前記ヒートシール層との間に、接着層を備えてなる、(7)に記載の酸素検知多層体。
(9) 前記スペーサが、前記酸素検知成分を透過しない、(1)〜(8)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体。
(10) 前記スペーサが、酸素透過性である、(1)〜(9)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体。
(11) 前記酸素検知成分が、チアジン染料、アジン染料、オキサジン染料、インジゴイド染料、およびチオインジゴイド染料からなる群より選択される少なくとも1種を含んでなる、(1)〜(10)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体。
(12) 前記透明樹脂層が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、およびナイロンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含んでなる、(1)〜(11)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体。
(13) 前記ヒートシール層が、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、およびエチレン−(メタ)アクリレート共重合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含んでなる、(1)〜(12)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体。
(14) 前記酸素検知層が、セルロース樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂、およびポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含んでなる、(1)〜(13)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体。
(15) 第1封止層および/または第2封止層が、それぞれ、ポリウレタン、ポリオレフィン、ニトロセルロース樹脂、およびアクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含んでなる、(6)〜(14)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体。
(16) 前記スペーサが、前記酸素検知層に接している、(1)〜(15)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体。
(17) 前記スペーサが、前記酸素検知層から離間している、(1)〜(15)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体。
(18) (1)〜(17)のいずれか一つに記載の酸素検知多層体が少なくとも一部に用いられてなる、酸素検知包装材。
(19) 脱酸素剤組成物を(18)に記載の酸素検知包装材で包装した、脱酸素剤包装体。
(20) (1)〜(17)のいずれかに記載の酸素検知多層体の製造方法であって、
透明樹脂層上に、酸素検知成分を含む酸素検知層をグラビア印刷により積層する工程と、
前記透明樹脂層上の酸素検知層が設けられていない部分に、スペーサをグラビア印刷により積層する工程と、
前記酸素検知層およびスペーサ上に、ヒートシール層を積層する工程と、
を備えてなる、製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明による酸素検知多層体は、酸素検知層の変色を判別し易く、酸素検知層のひび割れを防止することができる。さらに、本発明による酸素検知多層体においてはスペーサを設けることで、高価な酸素検知成分の使用量を削減する為に酸素検知多層体全体の表面積に対する酸素検知層の表面積の割合を小さくした場合でも、酸素検知層のひび割れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明による酸素検知多層体の一実施形態を示した模式断面図である。
【
図2】本発明による酸素検知多層体の一実施形態を示した模式断面図である。
【
図3】本発明による酸素検知多層体の一実施形態を示した模式断面図である。
【
図4】本発明による酸素検知多層体の一実施形態を示した模式断面図である。
【
図5】比較例1および3の酸素検知多層体の一実施形態を示した模式断面図である。
【
図6】本発明による酸素検知多層体の一実施形態を示した模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
酸素検知多層体
本発明による酸素検知多層体は、透明樹脂層と、ヒートシール層と、透明樹脂層およびヒートシール層の間の一部に設けられた酸素検知層とを備えてなり、酸素検知層が設けられていない部分の少なくとも一部を埋めて酸素検知多層体の厚みを補うように、透明樹脂層およびヒートシール層の間の一部にスペーサが設けられてなる。本発明による酸素検知多層体は、透明樹脂層と酸素検知層との間に第1封止層をさらに備えてもよく、酸素検知層とヒートシール層との間に第2封止層をさらに備えてもよく、第2封止層とヒートシール層との間に接着層を備えてもよい。
【0013】
本発明による酸素検知多層体の一実施形態の断面図を
図1に示す。本発明の一態様によれば、透明樹脂層11と、第1封止層12と、酸素検知層13と、第2封止層14と、ヒートシール層15とがこの順に積層されてなり、透明樹脂層11とヒートシール層15の間の酸素検知層13が設けられていない部分に、酸素検知層13から離間してスペーサ16が設けられた、酸素検知多層体10が提供される、以下、本発明による酸素検知多層体の各層およびその成分について、詳細を説明する。
【0014】
透明樹脂層
本発明における透明樹脂層は、酸素検知多層体からなる酸素検知包装材において外面側に位置する層であり、酸素透過性を有し、かつ酸素検知層の視認性に優れる材料により形成されることが好ましい。透明樹脂層の酸素透過度は、1mL/(m
2・atm・day)以上が好ましく、10mL/(m
2・atm・day)以上がより好ましい。このような材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、およびナイロンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を用いることが好ましい。また、透明樹脂層は、酸素検知成分の外部への溶出を防ぐために、酸素検知成分を透過しないことが好ましい。透明樹脂層の厚さは、通常、5〜100μmであり、好ましくは10〜50μmである。
【0015】
ヒートシール層
本発明におけるヒートシール層は、酸素検知多層体からなる酸素検知包装材において内面側に位置する層であり、酸素透過性を有する材料で形成されることが好ましい。透明樹脂層の酸素透過度は、1×10
3mL/(m
2・atm・day)以上が好ましく、2×10
3mL/(m
2・atm・day)以上がより好ましい。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、およびエチレン−(メタ)アクリレート共重合樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を用いることが好ましい。また、ヒートシール層は、酸素検知成分の内容物への移行を防ぐために、酸素検知成分を透過しないことが好ましい。ヒートシール層の厚さは、通常、5〜100μmであり、好ましくは10〜80μmである。
【0016】
酸素検知層
本発明における酸素検知層は、酸素検知機能を有するものであり、酸素検知成分を含むものである。酸素検知成分には、可変性有機色素が用いられる。可変性有機色素は、分子内に動きやすいπ電子を有する長い共役二重結合系を含んでいる芳香族化合物であって、酸化還元により可逆的に色彩が変わる化合物である。可変性有機色素としては、酸化還元指示薬、あるいはチアジン染料、アジン染料、オキサジン染料、インジゴイド染料、およびチオインジゴイド染料などが好適に用いられる。例えば、メチレンブルー、ニューメチレンブルー、メチレングリーン、バリアミンブルーB、ジフェニルアミン、フェロイン、カプリブルー、サフラニンT、インジゴ、インジゴカルミン、インジゴ白、およびインジルビンなどが挙げられる。好ましくは、メチレンブルーに代表されるチアジン染料である。
【0017】
さらに、酸素検知組成物とは別の無変色性の着色剤を前記酸素検知組成物に別個に添加しておくことにより、色彩の変化を明瞭にすることができる。この様な色素としては、酸化還元反応を受けにくく、かつ可変性有機色素の有酸素状態を表示する色及び無酸素状態を表示する色とは対照的な色を有する顔料や染料が使用できる。可変性有機色素に青色のメチレンブルーを用いた場合には、好適な無変色性の着色剤として、赤色の食品添加物であるアシッドレッドやフロキシンBがあげられる。
【0018】
酸素検知層の厚さは、0.5〜40μmであり、好ましくは1〜30μmであり、より好ましくは2〜25μmであり、更に好ましくは4〜20μmである。酸素検知層の厚さを上記範囲程度にすることで、酸素検知層の変色を判別し易くすることができる。
【0019】
酸素検知層は、酸素検知成分をバインダー樹脂や溶媒と混合したインキを用いて、公知の印刷方法により形成することができる。印刷法としては、例えば、グラビア印刷法やスクリーン印刷法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
酸素検知層は、透明樹脂層およびヒートシール層の間の少なくとも一部に設けられるものである。酸素検知成分は高価である為、酸素検知多層体全体の表面積に対する酸素検知層の表面積の割合(以下、単に「酸素検知層の表面積比」とも表記する)を小さくすることが求められるが、通常、酸素検知層の表面積比が小さくなるほど酸素検知層に負荷がかかりひび割れの発生する可能性が高くなる。そこで、下記のスペーサを設けることで、酸素検知層の表面積比を、好ましくは0.3〜15%、より好ましくは0.5〜10%、特に好ましくは2〜5%の範囲に調節できる。上記好ましい範囲とすることで、酸素検知層のひび割れを防止できると共に、高価な酸素検知成分の使用量を削減することができる。本発明において表面積とは、酸素検知多層体の平面図(積層方向から見た図)における表面積を表す。ここで、本発明による酸素検知多層体の一実施形態の模式平面図を
図6に示す。
図6において酸素検知多層体全体の表面積は、酸素検知多層体60の面積であり、酸素検知層の表面積は、酸素検知層61の面積である。
【0021】
スペーサ
本発明におけるスペーサは、酸素検知層が設けられていない部分の少なくとも一部を埋めて酸素検知多層体の厚みを補うためのものである。スペーサは、酸素検知多層体の厚みを補うものであれば、透明樹脂層、ヒートシール層、および封止層のいずれと接するように形成されてもよい。また、透明樹脂層と酸素検知層の間には、スペーサが設けられていないことが好ましい。外側の透明樹脂層と酸素検知層の間にスペーサを設けないことで、酸素検知層の視認性を向上することができる。
【0022】
スペーサは、酸素検知層に接していてもよいし、酸素検知層から離間していてもよい。スペーサが酸素検知層から離間している場合、スペーサと酸素検知層の間隔は、好ましくは0.05〜25mmであり、より好ましくは0.1〜20mmである。スペーサと酸素検知層の間隔が上記範囲程度であれば、酸素検知多層体全体が平坦化することで、酸素検知多層体をロール状に巻き取っても、酸素検知層に掛かる負荷が軽減されて、酸素検知層のひび割れを防止することができる。
【0023】
酸素検知層の厚さとスペーサの厚さの比は、15:1〜1:10であり、好ましくは13:1〜1:5、更に好ましくは10:1〜1:2であり、特に好ましくは5:1〜1:1である。酸素検知層の厚さとスペーサの厚さの比が上記範囲程度であれば、酸素検知層が設けられていない部分において酸素検知多層体の厚みを補うことができる。その結果、酸素検知層が設けられた部分と酸素検知層が設けられていない部分の厚みの差を緩和して酸素検知多層体全体が平坦化することで、酸素検知多層体をロール状に巻き取っても、酸素検知層に掛かる負荷が軽減されて、酸素検知層のひび割れを防止することができる。さらに、フィルム巻き取り時の印刷物の剥がれをも防止することができる。
【0024】
酸素検知多層体全体の表面積に対するスペーサの表面積の割合(以下、単に「スペーサの表面積比」とも表記する)は、好ましくは10〜99.7%、より好ましくは30〜99.5%、更に好ましくは50〜99%である。スペーサの表面積比を上記範囲程度とすることで、酸素検知層のひび割れを防止すると共にコストを低減することができる。なお、スペーサが、複数箇所に設けられている場合、スペーサの表面積とは、全てのスペーサの合計の表面積である。
図6において酸素検知多層体全体の表面積は、酸素検知多層体60の面積であり、スペーサの表面積は、スペーサ62Aとスペーサ62Bの面積の合計である。
【0025】
スペーサの表面積と酸素検知層の表面積の比は、好ましくは0.6:1〜332:1であり、より好ましくは5:1〜100:1であり、更に好ましくは10:1〜50:1である。スペーサの表面積と酸素検知層の表面積の比を上記範囲程度とすることで、酸素検知層のひび割れを防止すると共にコストを低減することができる。
【0026】
スペーサを形成する材料は、特に限定されず、透明樹脂層、ヒートシール層、および封止層等の他の層と同様の材料を用いることができる。例えば、スペーサを封止層と同様の材料を用いて形成することで、スペーサが酸素検知成分を透過しないため好ましい。また、スペーサをヒートシール層と同様の材料を用いて形成することで、スペーサが酸素透過性となるため好ましい。
【0027】
スペーサは、着色インキを含んでもよい。スペーサを着色することで、酸素検知層の変色をより判別し易くすることができる。着色インキとしては、酸素検知層の視認性を向上させるために、淡色であることが好ましい。淡色としては、例えば、灰色、白色、黄色、ベージュ、および桃色等が挙げられ、特に灰色や白色が好ましい。着色インキに用いる着色剤としては、無機顔料、有機顔料、金属顔料、蛍光顔料、および染料等が挙げられ、これらを1種または2種以上を混合して用いることができる。白色インキに用いる着色剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニア、アルミナ粉末、酸化マグネシウム、および硫化亜鉛等の白色顔料が好ましく用いられる。灰色は白色インキに墨インキを混合することで調製することができる。
【0028】
封止層
本発明における第1封止層は、酸素検知成分の外部への溶出を防ぐための層であり、第2封止層は、酸素検知成分の内容物への移行を防ぐための層である。第1封止層と第2封止層は、それぞれ、ポリウレタン、ポリオレフィン、ニトロセルロース樹脂およびアクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂により形成されることが好ましい。第1封止層と第2封止層は、それぞれ異なる樹脂により形成されてもよいし、同一の樹脂により形成されてもよい。封止層の厚さは、通常、0.1〜3μmであり、好ましくは0.2〜2μmである。
【0029】
第2封止層には、酸素検知層の変色をより際立たせるために、白色顔料や黄色顔料等の着色インキを含有させてもよい。あるいは、酸素検知層と第2封止層の間に、着色インキを含有させた層をさらに設けてもよい。
【0030】
接着層
本発明における接着層は、いずれか2層、例えば第2封止層とヒートシール層をラミネートにより貼合するために形成される、接着剤層または接着樹脂層である。ラミネート用接着剤としては、例えば、1液あるいは2液型の硬化ないし非硬化タイプのビニル系、(メタ)アクリル系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリウレタン系、エポキシ系、ゴム系、その他等の溶剤型、水性型、あるいは、エマルジョン型等のラミネート用接着剤を使用することができる。上記の接着剤のコーティング方法としては、例えば、グラビアロールコート法、キスコート法、リバースロールコート法、フォンテン法、トランスファーロールコート法、その他の公知の方法で塗布することができる。
【0031】
また、接着樹脂層としては、熱可塑性樹脂層からなる樹脂層が使用される。具体的には、接着樹脂層の材料としては、低密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、メタロセン触媒を利用して重合したエチレン・αオレフィンとの共重合体樹脂、エチレン・ポリプロピレン共重合体樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン・アクリル酸共重合体樹脂、エチレン・アクリル酸エチル共重合体樹脂、エチレン・メタクリル酸共重合体樹脂、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体樹脂、エチレン・マレイン酸共重合体樹脂、アイオノマー樹脂、ポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、エステル単量体をグラフト重合、または、共重合した樹脂、無水マレイン酸をポリオレフィン樹脂にグラフト変性した樹脂等を使用することができる。これらの材料は、一種ないしそれ以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
柄層
本発明による酸素検知多層体は、柄層をさらに有してもよい。柄層は、透明樹脂層よりも内容物側に設けることが好ましく、例えば、透明樹脂層と第1封止層の間や透明樹脂層とスペーサの間に設けることができる。柄層としては、印刷インキにより形成した文字やマーク等が挙げられる。
【0033】
酸素検知多層体の製造方法
本発明による酸素検知多層体の製造方法は、透明樹脂層上に酸素検知成分を含む酸素検知層をグラビア印刷により積層する工程と、透明樹脂層上の酸素検知層が設けられていない部分にスペーサをグラビア印刷により積層する工程と、酸素検知層およびスペーサ上に、ヒートシール層を積層する工程と、を備えてなる。本発明による製造方法は、酸素検知層の積層前に、透明樹脂層上に第1封止層上をグラビア印刷により積層する工程をさらに備えてもよい。また、本発明による製造方法は、ヒートシール層の積層前に、酸素検知層上に第2封止層上をグラビア印刷により積層する工程をさらに備えてもよく、第2封止層上に接着層を積層する工程をさらに備えてもよい。
【0034】
酸素検知包装材
本発明による酸素検知包装材は、上記の酸素検知多層体が少なくとも一部に用いられたものである。酸素検知包装材は、酸素検知多層体のヒートシール層同士を重ね合わせてヒートシールすることで作製することができる。酸素検知包装材は、食品等の各種物品の包装材料として、公知の酸素濃度低減手段(脱酸素剤、窒素置換、減圧脱気など)と組み合わせて用いることができる。また、以下に示すように、酸素検知包装材を用いて脱酸素剤組成物を包装して脱酸素剤包装体とすることができる。
【0035】
脱酸素剤包装体
本発明による脱酸素剤包装体は、脱酸素剤組成物を上記の酸素検知包装材で包装したものである。脱酸素剤組成物は特に限定されず、公知の物を用いることができる。被酸化物質としては、鉄粉等の金属粉、アスコルビン酸等の有機化合物、炭素−炭素二重結合を有する高分子化合物、が例示できる。従来は、包装材の中に脱酸素剤組成物を封入し、包装材の上に、別途、酸素検知剤を貼り付けたもの(いわゆる、酸素検知剤付き脱酸素剤)が用いられてきた。本発明による脱酸素剤包装体においては、脱酸素剤の包装材の中に酸素検知層が組み込まれているため、別途、酸素検知剤を貼り付ける必要がなく、製造工程の減少およびコストの低減を図ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例で用いた物質のうち、メチレンブルー、D−フルクトース、水酸化マグネシウム、エチレングリコール、イソプロピルアルコール(以下、IPAと表記する)及び酢酸エチルは、和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
【0037】
実施例1
透明樹脂層として厚さ12μmのPETフィルム(商品名:E5100、東洋紡株式会社製)を用意した。該PETフィルム上に、第1封止層として厚さ1μmのウレタン系樹脂(商品名:CLIOSメジウム、DICグラフィックス株式会社製)をグラビア印刷により積層した。第1封止層上に、下記の酸素検知層用インキをグラビア印刷により2回に分けて印刷して、厚さ20μmの酸素検知層を形成した。酸素検知層の表面積は該PETフィルムの表面積に対し4%とした。また、透明樹脂層上の第1封止層を設けていない箇所で、かつ、酸素検知層から離間する位置に、スペーサ用インキ(灰色(墨+白)商品名:ラミックSR)をグラビア印刷により印刷して厚さ10μmのスペーサを設けた。スペーサと酸素検知層の間隔は2mmであった。また、スペーサの表面積は該PETフィルムの表面積に対し85%とし、スペーサの表面積と酸素検知層の表面積の比は85:4であった。続いて、該酸素検知層上に、第2封止層として第1封止層と同じ厚さ1μmのウレタン系樹脂をグラビア印刷により積層した。第2封止層上に、接着剤を介して、ヒートシール層として厚さ30μmのLLDPEフィルム(商品名:TUX−TCS、三井化学東セロ株式会社製)をドライラミネートした。得られた酸素検知多層体の模式断面図は、
図1に示す通りであった。
【0038】
酸素検知層用インキの組成を以下の通りとした。フロキシンBは、保土谷化学株式会社製食用赤色104号を、セルロースアセテートプロピオネート樹脂には、商品名「CAP504−0.2」(EASTMAN CHEMICAL社製)を用いた。
・メチレンブルー 0.5質量部
・フロキシンB 0.4質量部
・D−フルクトース 5質量部
・水酸化マグネシウム 15質量部
・エチレングリコール 5質量部
・セルロースアセテートプロピオネート樹脂 5質量部
・IPA50質量%・酢酸エチル50質量%混合溶液 70質量部
【0039】
実施例2
スペーサの厚さを20μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、酸素検知多層体を作製した。
【0040】
実施例3
スペーサの厚さを5μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、酸素検知多層体を作製した。
【0041】
実施例4
酸素検知層の厚さを5μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、酸素検知多層体を作製した。
【0042】
実施例5
酸素検知層の厚さを10μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、酸素検知多層体を作製した。
【0043】
実施例6
スペーサを、第1封止層上で、かつ、酸素検知層から離間する位置に、下記のスペーサ用インキをグラビア印刷により印刷して厚さ10μmのスペーサを設けた以外は、実施例1と同様にして、酸素検知多層体を作製した。得られた酸素検知多層体の模式断面図は、
図2に示す通りであった。
【0044】
実施例7
酸素検知層およびスペーサ上に、第2封止層を積層した以外は、実施例6と同様にして、酸素検知多層体を作製した。得られた酸素検知多層体の模式断面図は、
図3に示す通りであった。
【0045】
実施例8
スペーサを、第1封止層上で、かつ、酸素検知層に接する位置に設けた以外は、実施例7と同様にして、酸素検知多層体を作製した。得られた酸素検知多層体の模式断面図は、
図4に示す通りであった。
【0046】
比較例1
スペーサを設けなかった以外は、実施例1と同様にして、酸素検知多層体を作製した。
【0047】
比較例2
スペーサの厚さを1μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、酸素検知多層体を作製した。
【0048】
比較例3
酸素検知層の厚さを0.4μmに変更し、スペーサを設けなかった以外は、実施例1と同様にして、酸素検知多層体を作製した。
【0049】
【表1】
【0050】
評価試験
上記で作製した酸素検知多層体を用いて、以下の評価試験を行った。
【0051】
巻き取り評価
上記で作製した酸素検知多層体をロール状に巻き取り、酸素検知層の外観を下記の基準で目視評価した。評価結果を表2に示す。
評価基準
○:酸素検知層にひび割れが発生していなかった。
×:酸素検知層にひび割れが発生していた。
【0052】
視認性評価
上記で作製した酸素検知多層体を大気中に放置し、酸素検知層の変色を下記の基準で目視評価した。評価結果を表2に示す。
評価基準
○:酸素検知層の変色が判別し易かった。
×:色彩の変化は視認できるが、インキ割れによる剥がれが認められた。
××:酸素検知層の変色が判別し難かった。
【0053】
【表2】
【符号の説明】
【0054】
10 酸素検知多層体
11 透明樹脂層
12 第1封止層
13 酸素検知層
14 第2封止層
15 ヒートシール層
16 スペーサ
20 酸素検知多層体
21 透明樹脂層
22 第1封止層
23 酸素検知層
24 第2封止層
25 ヒートシール層
26 スペーサ
30 酸素検知多層体
31 透明樹脂層
32 第1封止層
33 酸素検知層
34 第2封止層
35 ヒートシール層
36 スペーサ
40 酸素検知多層体
41 透明樹脂層
42 第1封止層
43 酸素検知層
44 第2封止層
45 ヒートシール層
46 スペーサ
50 酸素検知多層体
51 透明樹脂層
52 第1封止層
53 酸素検知層
54 第2封止層
55 ヒートシール層
60 酸素検知多層体
61 酸素検知層
62A スペーサ
62B スペーサ