【実施例1】
【0017】
実施例1の排水調整部材は、排水溝ユニット内に排水の流れ込んだ量に応じて流路幅が段階的に変わる構成であり、したがって泥が溜まる等メンテナンスが必要となる事態を防ぐことができるものである。さらに、排水溝ユニットにおいて鋼材のリブを底面に溶接する必要がないため、歪みが出ず、既存の排水溝にも設置可能で、軽くて安価で、設置する排水溝の形に合わせて形状の修正が容易であるものである。
【0018】
{構成}
図1は、本発明の排水調整部材の実施例1の斜視図である。また、
図2は、本発明の排水調整部材の実施例1の右側面図である。本発明の実施例1の排水調整部材50は、樹脂製の長尺状の部材である。排水調整部材50は、長手方向と略並行に凸凹が表面側に形成してある。具体的には、排水調整部材50は、長手方向と略並行に凸部51及び凹状流路52が表面側に交互に形成してある。
【0019】
排水調整部材50は、長辺側両縁が表面側上方に屈曲した壁部53となっており、より具体的には、壁部53a、凹状流路52a、凸部51a、凹状流路52b、凸部51b、凹状流路52c、壁部53cの順に並んでいる。凸部51は各流路の仕切体となる。実施例1の排水調整部材50においては、凸部51は、凸部51a、凸部51bの2本であるが、1本でも3本でも本数に制限はない。また、実施例1の排水調整部材50において、凸部51は上面が平らな断面視縦長長方形のリブ状であるが、凸状となっていれば、上面が丸く盛り上がっていても鋭角に尖っていても左右非対称でもよく、断面視の形状は問わない。また、壁部53の内壁側は、本実施例では根元まで同じ太さであるが、根元側が太くなったゆるやかなカーブや傾斜でもよい。また、凹状流路52は、本実施例では、凹部上面が平らな断面視横長長方形の平板状であって、流路断面は四角形であるが、円弧状又は多角形状の流路断面であることが好ましく、凹状となっていれば、凹部上面が丸く湾曲して窪んでいても鋭角に窪んでいても左右非対称でもよい。凸部51が複数の場合、それぞれ同一でも相違する高さでもよい。
【0020】
本発明の実施例1の排水調整部材50は、ABS樹脂製であって、射出成形で加工して形成するが、樹脂の種類は、PS(ポリスチレン)樹脂、PP(ポリプロピレン)樹脂、PE(ポリエチレン)樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)樹脂、PMMA(アクリル)樹脂、AS樹脂等、他の樹脂でもよいし、加工方法も、押出成形、ブロー成形、真空成形等、他の方法でもよい。
【0021】
図3は、本発明の排水調整部材の実施例1設置前の流水プレートの右側面図である。流水プレート20は、鋼板を直角なL字に曲げてさらに正面側先端を上方に直角に曲げて、背面側を背面部25、下面側を底面部24、正面側先端の立ち上がった壁部分を立ち上がり部23としてある。本発明の実施例1の排水調整部材50の底面は平らである。
【0022】
図4は、本発明の排水調整部材の実施例1設置後の流水プレートの右側面図である。実施例1の排水調整部材50は、流水プレート20の底面部24の上に戴置して嵌め込む。排水調整部材50の長手方向は流水プレート20の長手方向と同じ方向である。
【0023】
図5は、本発明の排水調整部材の実施例1の取り付け例を示す排水溝ユニットの断面図である。実施例1の排水調整部材50は、流水孔14が設けられた上蓋体10を備えた排水溝ユニット1の底面上、すなわち流水プレート20の底面部24の上に嵌め込む部材であって、さらに、凸部51が排水溝ユニット1内に複数の凹状流路を区画形成する。
【0024】
排水溝ユニット1は、鋼製であって、背面側を歩道側に、正面側を車道側にして、路肩等に連続して並べて、路面の雨水等を排水マスに導いて排水する中空のユニットであり、橋梁上、交差点内、トンネル内道路、線路内等の設置に特に適している。排水溝ユニット1は縁石としての役割も兼ね備え、歩道は、排水溝ユニットの背面側にアスファルト等を流し入れて、車道より高い位置に作られる。
【0025】
排水溝ユニット1は、(a)排水を流す底面部24と、底面部24の端部から立ち上がり正面側の壁となる立ち上がり部23と、立ち上がり部23と反対側の底面部24の端部から立ち上がる背面部25とを有する流水プレート20と、(b)流水プレート20の上に載せて蓋として着脱可能に設けられ流水孔14を穿設した上蓋体10とを有するものであり、流水プレート20の底面部24の上面側に、実施例1の排水調整部材50を嵌め込むことができる。
【0026】
以下、詳細に示す。上蓋体10は、鋼板をクランク状に連続して3面に屈曲させて、直角なS字状の形状としたガードプレートである。すなわち、上蓋体10は、上面部11と、上端が上面部の一端に連続しており上面部11に対し下方に直角な面となる前面部12と、前面部12の下端に連続しており上面部と反対側に向けて直角な面となる受面部12とを構成する。前面部12と受面部13のなす角部分に雨水が入る流水孔14が複数穿設してある。本実施例においては、流水孔14は8つであるが、流水孔の数はこれに限られない。以下、前面部12側を排水溝ユニット1の正面側として説明する。なお、本実施例では、前面部12と、受け面部13や上面部11とのなす角度は90度であるが、これに限られず、前面部下部が正面側にせり出す方向に斜めであってもよいし、前面部上部が正面側にせり出す方向に斜めであってもよい。
【0027】
排水溝ユニット1は、車道の端に一列に直列して並べ、受面部13の上面が車道面に対してフラットになるように埋め込んであり、隣り合う排水溝ユニットは接続されている。上蓋体10と、流水プレート20とは、曲げ加工又は、ロールフォーミング加工で作成され各面を形成している。
【0028】
上蓋体10の裏側には、前面部12と受面部13のなす角の裏側部分に、流水孔14と重ならないように、補強プレート60が溶接して設けられている。また、前面部12と上面部11の裏面側に、排水溝ユニット1の長手方向に垂直となるようにリブプレート30が設けられている。受面部13に車のタイヤ等が載ったり、前面部12に車のタイヤや車体等が当たったり、上面部11に車のタイヤや車体等が乗り上げたりする事態でも、補強プレート60やリブプレート30によって中空である排水溝ユニットが潰れないように保護する役割を果たす。また、リブプレート30の縁は、上面部11と前面部12の裏側に溶接されており、上蓋体10を閉じたときに流水プレートの背面に一辺が当たる大きさとなっている。
【0029】
上蓋体10は、上述のように、ガードプレートを折り曲げて形成する。上蓋体10の下方に上蓋体10の背面側から正面側下部に向かって中空領域を形成するように配置されており、正面側先端の高さは、上蓋体10の受面部13と同じ高さにしてある。すなわち、上蓋体10は、上方が開いた流水プレート20の蓋の役目を果たす。流水プレート20の正面側の屈曲部分である立ち上がり部23の外側には、L字型の補強アングル73が、流水プレート20の正面側下部の角部を保護するように設けてある。
【0030】
流水プレート20の底面部24の上面側に設けられた排水調整部材50の凸部51も凹状流路52も壁部53も、それぞれ排水溝ユニットの長手方向全長に渡って並列に設けられており、排水調整部材50を流れる排水は、長手方向に連続して接続される複数の排水溝ユニット内にそれぞれ設置された排水調整部材50を通って排水マスへと導かれる。
【0031】
L字型の流水プレート20の立ち上がり部23の内側、すなわち、正面側から見て裏面側には、L字型の前面受アングル71が溶接されている。排水調整部材50の壁部53aの高さは前面受アングル71の下部に入る高さとなっている。排水調整部材50は樹脂製であるため、壁部53aの高さが高すぎる場合は切削や金型の調整等で、容易にあるいは鋼材より比較的安価に高さを低くすることができる。前面受アングル71は、ガードプレート10を閉じたときに受面部13の端部を載せる一辺と、流水プレート20の正面側先端裏面側に溶接したもう一辺を有する。また、流水プレート20の背面の上部内側、すなわち正面側から見て表面側には、L字型の背面受アングル72が溶接されている。背面受アングル72は、ガードプレート10を閉じたときに上面部11の端部を載せる一辺と、流水プレート20の背面部25の上部表面側に溶接したもう一辺を有する。
【0032】
上蓋体10と流水プレート20とは、上蓋体10の上面部11裏側と流水プレート20背面内壁側にそれぞれ設けられた連結プレート40を接続するチェーン(図示なし)で繋がれている。流水プレート20の背面部25の表面側左右端には、左右に並べた排水溝ユニットを接続するボルト止めに用いる接続プレート(図示なし)が設けられている。なお、流水プレート20側に接続された連結プレート40の上部には、上蓋体10を上方に開いて上げた際に上蓋体の端部を挟み込んで保持するための切欠きが設けられている。
【0033】
上蓋体10は、上面部11を背面受アングル72の上に載せてリブプレート30の背面側の辺を流水プレート20の背面で支え受面部13を前面受アングル71の上に載せることで安定して保持される。
【0034】
上に上蓋体10を被せた流水プレート20の下部は補強アングル73でカバーされている。
流水プレート20の背面部25の裏側には、アンカーパイプ90が設けられている。
図5においては、アンカーパイプ90a、bは図示してあるが、チェーンは図示を省略してある。上蓋体10の上面部11と前面部12の交わる部分の裏側にあたるリブプレート30の上部角は、上蓋体10とリブプレート30を溶接で接続しているため、スカラップ31が設けられている。リブプレート30の下端は、凸部51の上端とは離れている。本実施例では、凸部51aの高さは、凸部51bより低く設けられているが、これに限られない。流水プレート20の背面部25及び底面部24とリブプレート30の下端と上蓋体10の受面部13とで作られる空間は、正面側に壁部53aと凸部51aとで区画形成された凹状流路52aは第1の流路となり、凸部51aと凸部51bとで区画形成された凹状流路52bは第2の流路となり、凸部51bと壁部53bとで区画形成された凹状流路52cは第3の流路となる。各凹状流路は、上部空間を共有して分けられている。
【0035】
流水プレート20の背面部25の裏側、すなわち排水溝ユニット1の背面側には、上部に3つ、下部に4つのアンカーパイプ90が並べて溶接してある。各アンカーパイプ90は筒状であり、中には、L字型のアンカーバーを通す。
【0036】
排水溝ユニット1は、受面部13の上面を車道の路面と同じ高さとして路肩に敷設される。アンカーバーは、アンカーパイプ90内に通した一端と直角をなす他端を排水ユニット1の背面と直角に突き出す形にして歩道側のアンカー鉄筋と固定する。
【0037】
排水溝ユニット1は、地面の上に、流水プレート20の底面部24と補強アングル73の底面が、地面に接するように設置する。流水孔14から排水溝ユニット1の内部に取り込まれた大半の排水は、まず、第1の流路へと導かれる。排水量が多くなると、第1の流路からあふれた分は、凸部51a上端と上蓋体10の底部である受面部13の裏面との間の隙間から排水が第2の流路にオーバーフローして導かれる。さらに排水量が多くなると、第2の流路からあふれた分は、凸部51b上端を乗り越えて排水が第3の流路にオーバーフローして導かれる。かかる構成により、本実施例によれば、雨量に合わせて排水が流れる空間量を調整できる。排水調整部材50は、樹脂製であるため、設置する場所で予測される雨量や土砂量に応じて、凸部51及び凹状流路52の断面形状や表面形状を切削や金型の調整等で、容易にあるいは鋼材より比較的安価に変更しうる。
【0038】
排水能力は通水断面積に平均流速を乗じた値となる。流速が高すぎると表面の摩耗等が生じる可能性があるが、流速が小さすぎると土砂が堆積する問題が生じる。雨量について標準降雨強度(3年確率10分間降雨強度)を70〜100mm/hと想定して排水溝の強度計算をするが、日常ではそれほど大雨は多くなく、5〜20mm/hの雨が降ることが多い。しかし、70〜100mm/hの雨量を想定した従来の排水溝では、5〜20mm/h程度の雨では、排水に含まれる土砂も一緒に流すために十分に流速が確保できず、内部に土砂が溜まりやすい。土砂が溜まるとやがて草が生え、排水機能が低下する。本実施例によれば、少ない雨量(およそ20mm/h以下)では第1の流路で排水するため、流速を十分確保でき、強い雨が降った場合(およそ20mm/h〜60mm/h)には、第2の流路、さらに大雨が降った場合(およそ60mm/h以上)には、第3の流路をも自動的に利用して排水されるため、大雨にも対応しつつ、少雨でも土砂の堆積を防ぐことができる。
【0039】
なお、本実施例において、排水溝の長手方向の長さは1.2m、受面部の奥行は150mm、上面部の奥行は200mm、流水プレートの底面下側から正面側の立ち上がり端までの高さは70mm、各鋼板の厚さが5mm、凹状流路52部分の排水調整部材50の厚さが5mm、流水プレート20の底面上側からリブプレート30の下端までの高さは60mm、凸部51aの高さは底面から35mm、凸部51bの高さは底面から40mmである。上蓋体10の受面部13の下部に溶接した補強プレート60の下面から排水調整部材50の凹状流路52部分の上面までの高さは60mmである。凸部51aの上部の隙間は15mmはある。本実施例では、第1の凹状流路の集水幅は150mm、第2の流路と第3の流路の集水幅はともに100mmとなるが、これに限らない。本実施例では、排水流量は、少なくとも0.004m
3/s〜0.03m
3/sの範囲で対応できる。50m長の道路において、雨量が20mm/hのときの流出流量が0.003m
3/s、雨量が50mm/hのときの流出流量が0.006m
3/s、雨量が110mm/hのときの流出流量が0.0138m
3/sと算出されるから、上記排水流量から安全率等を加味して算出される流速は、雨量が20mm/hのとき0.595m/s、雨量が50mm/hのとき0.774m/s、雨量が110mm/hのとき0.622m/sとなる。したがって、本実施例によれば、雨量に応じて通水断面積を自動的に変えられるので、流速が大きくなりすぎることも小さくなりすぎることも防止できる。
【0040】
凸部の数は2本に限らず、3本以上でもよいが、排水スペースが狭いので、2本であることが好ましい。凸部51aより凸部51bの方が高さが低くても、流れ込んだ水量によって2段階の調整が可能であるが、本実施例では、凸部51aより凸部51bの方が高いので、3段階で調整できるので、より好ましい。凸部の数が3本以上の場合、背面部25に近い凸部の方が高くなるように設けることが好ましい。
【0041】
なお、本実施例では、流水プレート20は、土中に埋めるため、JIS規格でいえば、JIS H 8641の種類2種55(記号HDZ55)の過酷な腐食環境下で使用される鋼材が適用される環境であるが、6mmの厚さがなくても、成分調整して5mm厚でも、通常は6mm厚にしないと付着しない量である550g/m
2の亜鉛を鋼板に付着させることができるため、耐食性を保ちつつ軽量化できる。また、HDZ55より耐性が高い、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金メッキ鋼鈑を使用することにより、3.2mmまで薄くても耐食性を保つことができる。
【0042】
{効果}
本実施例によれば、流水孔から入ってくる水量が少なければ、調節しなくても自動的に排水を流す範囲を狭くし、流水孔から入ってくる水量が多ければ、調節しなくても自動的に排水を流す範囲を広くできるので、土砂等が堆積しにくくなり、また、軽くて、既設の排水溝ユニットに嵌め込むだけで溶接しなくても設置でき、排水調整部材が壊れたり劣化したとき等の取り替えが容易であり、したがって、本実施例によれば、メンテナンスをしなくても排水機能の低下が生じにくくすることを可能とし、かつ既設の排水溝にも容易に取り付け可能で、工数も少なく、安価で、持ち運びしやすい。また、樹脂を流し込む型を変えたり、一部を切削するだけで、既設の鋼製排水溝の形状に合わせた排水調整部材を製作することも容易である。さらに、本実施例では凸部51aより凸部51bの方が高いので、流水孔から入ってくる水量による流路の幅を3段階で調整することができる。
【0043】
本実施例によれば、新しい鋼製排水溝を作らずに、既設の鋼製排水溝に直接嵌め込むことができるので、嵌め込みに溶接技術が必要なく、溶接熱による影響で発生する歪みが出ず、歪みを取るための矯正が不要となり、技術力が必要な工数が増えることを防止でき、工事期間も短くてすみ、工事費があまり係らず、労力も少なくて済む。メッキ後の溶接が不要なため、鋼製排水溝の腐食の問題も生じにくい。排水調整部材は軽いため、持ち運びしやすく運搬コストや作業負担が軽く、追加設置の場合でも各種強度の再検討が不要となる。また、サイズの制約が少なくてすむ。
【0044】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、その発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々と変形実施が可能である。また、上記各実施の形態の構成要素を発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に組み合わせることができる。