(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、高層建築では、設備や躯体の老朽化を理由として、建築物の解体が行われる場合がある。
建築物を解体する方法としては、以下のような方法がある。
例えば、地表面から既存建物に沿ってマストを設置し、このマストにタワークレーンを取り付けて、このタワークレーンにより解体材を荷下ろしする方法がある。この場合、マストを既存建物の構造体に仮固定しておき、建物の解体に伴って、クライムダウンさせる(特許文献1参照)。
【0003】
また、開存建物の外側の地上面にクローラークレーンを配置し、このクローラークレーンにより解体材を荷下ろしする方法がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、地表面から既存建物に沿ってタワークレーンを用いた場合では、大型のマストを既存建物の構造体に固定するので、構造体を補強する必要があり、解体工事が大掛かりとなって、施工費用が増大する、という問題があった。
また、既存構造物の内部に途中階から上方に延びるタワークレーンを設置する場合、このタワークレーンのベースを設置するフロア、および、クライムダウン時にタワークレーンの全自重を預けるフロアには、全て大規模な補強工事が発生してしまう。
【0006】
また、既存構造物の内部に1階床面から上方に延びるタワークレーンを設置する場合、既存構造物にマストが挿通する開口を形成する必要がある。このとき、開口近傍のアスベストを撤去する必要がある場合には、工程管理が厳しくなる。さらに、マストが長くなるので、マストのリース料金を増大する。
【0007】
また、以上のタワークレーンのクライムダウンは、解体のサイクル工程とは別に、2日程度の日数が必要となるため、工程管理が厳しくなる。
【0008】
また、クローラークレーンを用いた方法では、1台のクローラークレーンの作業半径内に既存建物の全体を収めることができないため、既存建物の周囲にクローラークレーンを複数台配置する必要があり、施工費用が増大する、という問題があった。
【0009】
本発明は、解体作業にかかるコストを低減できる解体方法および解体システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の解体方法は、既存構造物(例えば、後述の既存建物1)を解体する解体方法であって、既存構造物の所定のフロア(例えば、後述の屋上階)における既存床(例えば、後述の既存床14)の一部を含んでクレーン設置床(例えば、後述のクレーン設置床20)とし、当該クレーン設置床を支持する既存柱(例えば、後述の既存柱11)を支持柱(例えば、後述の支持柱11A)として、前記クレーン設置床上にクレーン(例えば、後述のクレーン30)を設置する第1工程(例えば、後述のステップS1、S2)と、当該クレーンを用いて、前記所定のフロアのうち前記クレーン設置床および前記支持柱を除いた部分を解体する第2工程(例えば、後述のステップS3)と、
前記クレーン設置床を、前記支持柱に沿って下降させる第3工程(例えば、後述のステップS4、S5)と、前記支持柱の上部を撤去する第4工程(例えば、後述のステップS6)と、前記第2工程から第4工程までを繰り返す第5工程(例えば、後述のステップS7、S8、S9)と、を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の解体システム(例えば、後述の解体システム2)は、既存構造物を解体する解体システムであって、既存構造物の所定のフロアにおける既存床の一部を含むクレーン設置床と、当該クレーン設置床を支持する既存柱である支持柱と、前記クレーン設置床上に設置されたクレーンと、前記クレーン設置床を前記支持柱に沿って下降させる昇降装置(例えば、後述の昇降装置40)と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、既存構造物の所定のフロアにおける既存床の一部を含んでクレーン設置床とし、このクレーン設置床を支持する既存柱を支持柱として、クレーン設置床上にクレーンを設置する。次に、クレーンを用いて、所定のフロアのうちクレーン設置床および支持柱を除いた部分を解体する。次に、クレーン設置床を支持柱に沿って下降させて、その後、支持柱の上部を撤去する。これらの工程を繰り返すことで、既存構造物の既存床や既存柱を利用しながらクレーンをリフトダウンして、既存構造物を解体する。
【0013】
したがって、クレーン用の補強を所定のフロアの構造体のみに実施すればよいので、タワークレーンを用いた場合のように、大型のマストを支持するために複数のフロアに亘って構造体を補強する必要がない。
また、既存構造物にタワークレーンのマストを挿通する開口を形成する必要がなく、工程管理が容易である。また、タワークレーンのように長いマストが不要となるので、マストのリース料金を低減できる。
【0014】
また、1台のクレーンを既存構造物の中央部に配置することで、このクレーンの作業半径内に既存構造物の全体を収めることができるから、クローラークレーンを用いた場合のように、既存構造物の周囲に複数台のクローラークレーンを配置する必要がない。
また、クレーンが既存構造物の中央部に配置されているので、クレーンの作業半径が小さくなり、楊重可能な荷重が大きくなる。
したがって、解体作業にかかるコストを低減できる。
【0015】
また、走行ジブクレーンのような走行可能なクレーンを設けた場合には、クレーン設置床上をクレーンが移動することにより、楊重作業効率をさらに向上できる。特に、解体対象となる既存構造物の平面的な面積が大きい場合には、このようにクレーンを走行させることが有効となる。
【0016】
また、既存建物の中央部は、階段やエレベータが配置されるコア部となることが多いが、このコア部は耐震壁を含む壁が多数配置されているので、解体に手間がかかるうえに、粉塵の発生量が多くなる。
本発明によれば、中央部(コア部)にクレーン設置床として既存床を残すことにより、粉塵や騒音の拡散を防止できるうえに、大型のクレーンで効率良く荷下ろしできる。なお、既存建物の周縁部は、居室となることが多いので、壁が少なく、クレーン設置床で上を覆う必要はない。
【0017】
なお、クレーンを所定のフロアに配置するとともに、この所定のフロアの全体を、解体対象となる空間を覆う仮設屋根としてもよい。このようにすれば、仮設屋根をジャッキダウンすることで、クレーンもクライムダウンできるので、解体工事の効率を向上できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、解体作業にかかるコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る解体システムが適用された構造物としての既存建物の平面図である。
【
図2】前記実施形態に係る既存建物の縦断面図である。
【
図3】前記実施形態に係る解体システムの拡大平面図である。
【
図4】前記実施形態に係る解体システムの拡大縦断面図である。
【
図5】前記実施形態に係る解体システムにより既存建物を解体する手順のフローチャートである。
【
図6】前記実施形態に係る解体システムにより既存建物を解体する手順を説明するための図(その1)である。
【
図7】前記実施形態に係る解体システムにより既存建物を解体する手順を説明するための図(その2)である。
【
図8】前記実施形態に係る解体システムにより既存建物を解体する手順を説明するための図(その3)である。
【
図9】前記実施形態に係る解体システムにより既存建物を解体する手順を説明するための図(その4)である。
【
図10】前記実施形態に係る解体システムにより既存建物を解体する手順を説明するための図(その5)である。
【
図11】前記実施形態に係る解体システムにより既存建物を解体する手順を説明するための図(その6)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1および
図2は、本発明の一実施形態に係る解体システム2が適用された構造物としての既存建物1の平面図および縦断面図である。
既存建物1は、n(nは自然数)階の建物であり、平面視で正方形状である。以下、この既存建物1の一側面に沿った方向をX方向とし、このX方向に略直交する方向をY方向とする。
【0021】
既存建物1は、複数の鉄骨造の既存柱11と、これら既存柱11同士を連結する複数の鉄骨造の既存梁12と、これら既存梁12同士の間に架設された複数の鉄骨造の既存小梁13と、既存梁12および既存小梁13に支持される鉄筋コンクリート造の既存床14と、を備える。
この既存建物1を、以下の手順で解体システム2を用いて解体する。
【0022】
図3および
図4は、解体システム2の拡大平面図および拡大縦断面図である。
解体システム2は、既存建物1の屋上階の既存床14の一部を含むクレーン設置床20と、このクレーン設置床20を支持する既存柱11である支持柱11Aと、クレーン設置床20上に設置されたクレーン30と、クレーン設置床20を支持柱11Aに沿って下降させる昇降装置40と、既存建物1の周囲に架設された外部足場50(
図1、
図2参照)と、を備える。
【0023】
クレーン設置床20は、既存建物1の屋上階中央部の2スパン×2スパンの大きさの部分である。
具体的には、クレーン設置床20は、2スパン×2スパンの大きさの既存床14Aと、この既存床14Aを支持する既存梁12Aと、この既存梁12Aから延びて既存床14Aを支持する既存小梁13Aと、を備える。
【0024】
支持柱11Aは、既存柱11の一部の柱であり、クレーン設置床20を支持する。具体的には、支持柱11Aは、クレーン設置床20の四隅に位置している。
【0025】
クレーン30は、基部31と、この基部31に旋回可能に支持されたクレーン本体32と、このクレーン本体32に起伏可能に支持されたジブ33と、このジブ33の先端に吊り下げ支持されたフック34と、クレーン本体32に設けられてフック34を昇降させる巻上装置35と、を備える(
図1参照)。
このクレーン30の作業半径(
図1中実線Pで示す)には、既存建物1の全体が収まっている。
【0026】
クレーン設置床20の上には、H形鋼である一対の大引材21が載置され、これら一対の大引材21同士の間には、一対の大引材21に略直交して一対の根太材22が載置されている。
具体的には、一対の大引材21は、X方向に沿って互いに略平行に延びており、支持柱11A同士を連結する既存梁12A同士の間に架設されている。
一対の根太材22は、Y方向に沿って互いに略平行に延びており、これら一対の大引材21同士の間に架設されている。
クレーン30の基部31は、これら一対の根太材22の上に設置されている。
【0027】
昇降装置40は、
図4にも示すように、支持柱11Aの上端に取り付けられた反力治具41と、この反力治具41に取り付けられた吊り材42と、クレーン設置床20に設けられて支持柱11Aに係止させる係止装置43と、係止装置43に設けられて吊り材42を引っ張る油圧ジャッキ44と、を備える。
【0028】
クレーン設置床20の既存床14Aの支持柱11Aの周囲(パネルゾーン)には、貫通孔23が形成されている。
係止装置43は、クレーン設置床20の貫通孔23に設けられており、支持柱11Aを囲む矩形枠状である。この係止装置43は、支持柱11Aに取り合う既存梁12Aの上側に位置する上側部材45と、支持柱11Aに取り合う既存梁12Aの下側に位置しかつ上側部材45に連結される下側部材46と、を備える。
【0029】
このように、係止装置43は、上側部材45と下側部材46とで、クレーン設置床20の既存梁12Aを挟み込むことで、クレーン設置床20に固定される。
【0030】
以上の昇降装置40によれば、油圧ジャッキ44を駆動して、吊り材42を所定の力で引っ張ることにより、クレーン設置床20を支持柱11Aから吊り下げ支持した状態で、この支持柱11Aに沿って昇降できる。
【0031】
外部足場50は、地表面から複数段積層された枠組足場であり、既存建物1を囲んで架設されている。
【0032】
以下、既存建物1を解体する手順について、
図5のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1では、
図6に示すように、クレーン30を屋上階に設置する。
具体的には、まず、既存建物1の周囲に外部足場50を架設する。次に、既存建物1の屋上階の既存のペントハウス3を解体し、屋上階の既存床14の上に、大引材21および根太材22を載置して、この根太材22の上にクレーン30を設置する。
【0033】
ステップS2では、
図7に示すように、昇降装置40を屋上階に取り付ける。
具体的には、
図4にも示すように、支持柱11Aとなる既存柱11の周囲の既存床14に貫通孔23を形成し、この貫通孔23に、係止装置43、油圧ジャッキ44を取り付ける。
また、支持柱11Aとなる既存柱11の直上に、所定高さの仮設柱61を設置し、この仮設柱61の上に反力治具41を取り付けて、この反力治具41と油圧ジャッキ44とを吊り材42で連結する。
【0034】
ステップS3では、
図8に示すように、クレーン設置床20および支持柱11Aを除いて、既存建物1を屋上階から2層分を解体する。
具体的には、屋上階に解体重機62を揚重して、この解体重機62で解体しながら、解体材をクレーン30で荷下ろしする。このとき、n階の支持柱11Aから突出する梁継手部15を残しておく。また、解体工事の進捗に応じて、外部足場50を適宜解体する。
【0035】
ステップS4では、クレーン設置床20を支持柱11Aで支持する。
具体的には、支持柱11Aに取り合うクレーン設置床20の既存梁12Aを切断して、クレーン設置床20と支持柱11Aとの縁を切る。これにより、クレーン設置床20は、昇降装置40を介して、支持柱11Aから吊り下げ支持される。
【0036】
ステップS5では、
図9に示すように、クレーン設置床20をリフトダウンする。具体的には、昇降装置40の油圧ジャッキ44を駆動して、クレーン設置床20を支持柱11Aに沿って下降させて、支持柱11Aのn階の梁継手部に係止装置43を係止させる。これにより、クレーン設置床20は、支持柱11Aのn階床レベルに支持される。
【0037】
ステップS6では、
図10に示すように、反力治具41を1層分だけ下方に移設する。
具体的には、反力治具41をクレーン30で吊り上げて取り外して、次に、仮設柱61および支持柱11Aの上部を切断して撤去し、その後、反力治具41を残った支持柱11Aの上に取り付ける。
【0038】
ステップS7では、
図11に示すように、支持柱11Aを除いて、既存建物1を1層分解体する。
具体的には、解体重機62で解体しながら、解体材をクレーン30で荷下ろしする。このとき、(n−1)階の支持柱11Aから突出する梁継手部15を残しておく。また、解体工事の進捗に応じて、外部足場50を適宜解体する。
【0039】
ステップS8では、
図11に示すように、クレーン設置床20を支持柱11Aで支持する。
具体的には、油圧ジャッキ44を駆動して、クレーン設置床20を支持柱11Aに沿ってわずかに上昇させて、クレーン設置床20を支持柱11Aから吊り下げ支持する。この状態で、n階の梁継手部15を支持柱11Aの面一で切断する。
【0040】
ステップS9では、ステップS5からステップS8を繰り返す。
【0041】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)既存建物1の屋上階における既存床14の一部を含んでクレーン設置床20とし、このクレーン設置床20を支持する既存柱11を支持柱11Aとして、クレーン設置床20上にクレーン30を設置する。次に、クレーン30を用いて、既存建物1の所定のフロアのうちクレーン設置床20および支持柱11Aを除いた部分を解体する。次に、クレーン設置床20を支持柱11Aに沿って下降させて、その後、支持柱11Aの上部を撤去する。これらの工程を繰り返すことで、既存建物1の既存床14や既存柱11を利用しながらクレーン30をリフトダウンして、既存建物1を解体する。
【0042】
したがって、クレーン用の補強を所定のフロアの構造体のみに実施すればよいので、タワークレーンを用いた場合のように、大型のマストを支持するために複数のフロアに亘って構造体を補強する必要がない。
また、1台のクレーン30を既存建物1の中央部に配置することで、このクレーン30の作業半径P内に既存建物1の全体を収めることができるから、クローラークレーンを用いた場合のように、既存建物の周囲に複数台のクローラークレーンを配置する必要がない。また、クレーン30が既存建物1の中央部に配置されているので、クレーン30の作業半径が小さくなり、楊重可能な荷重が大きくなる。したがって、解体作業にかかるコストを低減できる。
【0043】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、クレーン設置床20の上に大引材21および根太材22を介して、直接、クレーン30の基部31を設置したが、これに限らず、クレーン設置床20の上に小型のマストを設置し、この小型のマストの頂部にクレーン30の基部31を設置してもよい。
【0044】
また、本実施形態では、ステップS3において、既存建物1を屋上階から2層分を解体し、ステップS4において、クレーン設置床20を支持柱11Aで支持したが、これに限らない。例えば、ステップS3において、既存建物1を屋上階から1層分を解体し、ステップS4において、クレーン設置床20支持柱11Aで支持し、さらに既存建物1を1層分解体してもよい。あるいは、ステップS3において、クレーン設置床20を支持柱11Aで支持し、ステップS4において、既存建物1を屋上階から2層分を解体してもよい。