特許第6391138号(P6391138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391138
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】内面螺旋溝付管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28F 1/40 20060101AFI20180910BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20180910BHJP
   F28F 1/32 20060101ALI20180910BHJP
   B21C 37/20 20060101ALI20180910BHJP
   B21C 23/08 20060101ALN20180910BHJP
   B21D 11/14 20060101ALN20180910BHJP
【FI】
   F28F1/40 D
   F28F21/08 A
   F28F1/32 A
   B21C37/20
   !B21C23/08 A
   !B21D11/14
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-273550(P2013-273550)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-142172(P2014-142172A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2016年11月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-285830(P2012-285830)
(32)【優先日】2012年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(72)【発明者】
【氏名】中浦 祐典
(72)【発明者】
【氏名】坂上 武
(72)【発明者】
【氏名】波照間 勇樹
【審査官】 伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−236225(JP,A)
【文献】 特開2008−241193(JP,A)
【文献】 特開2006−275346(JP,A)
【文献】 特開平05−141890(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/153972(WO,A1)
【文献】 特開平08−060313(JP,A)
【文献】 特開平10−166086(JP,A)
【文献】 特開昭54−083666(JP,A)
【文献】 実開昭58−089110(JP,U)
【文献】 特開昭58−167029(JP,A)
【文献】 特開昭62−240108(JP,A)
【文献】 特開2006−136898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/40
F28F 1/32
F28F 21/08
B21C 23/08
B21D 11/14
B21C 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に長さ方向に沿う複数のストレート溝が周方向に間隔をおいて形成され、これらストレート溝間にフィンが形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金製の素管を用い、
引抜ダイスのダイス孔の導入側に前記ダイス孔に向かって直線状に素管を供給する送出装置を設置し、前記引抜ダイスの導出側に前記素管の巻取装置を設置し、前記ダイス孔の中心を通過する中心線の延長線を中心軸としてその軸周り方向に回転するように前記送出装置を設け、前記送出装置から前記引抜ダイスのダイス孔に至る素管を直線状に維持しながら該素管に後方張力と回転力を付与し、前記引抜ダイスのダイス孔から前記巻取装置に至る管に前方張力を印加し、前記ダイス孔を通過する素管に引抜き加工と捻り加工を加えることにより、
内面に長さ方向に沿う複数の螺旋溝が間隔をおいて形成され、内面の螺旋溝間にフィンが形成され、該フィンの根元部コーナーRが0.1mm以下で、且つ、その結晶粒組織において平均結晶粒サイズが120μm以下である内面螺旋溝付管を製造することを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金製内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項2】
前記内面螺旋溝付管を製造するに際し、前記素管に予め形成されたフィンの根元部コーナーRが0.1mm以下、且つ、金属組織が全て管の長さ方向に沿う繊維状組織あるいは表層のみ外内周それぞれ肉厚の5%以下が再結晶組織であってそれ以外は全て繊維状組織または全面平均結晶粒サイズ80μm以下の結晶粒とされた押出素管を用いることを特徴とする請求項1に記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項3】
前記120μm以下の平均結晶粒径が、焼き鈍し後に達成された平均結晶粒径であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項4】
内面の螺旋溝に沿って形成されているフィンのフィン倒れ角が1゜以下の内面螺旋溝付管を製造することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項5】
外面に表面粗さ(Rmax)15μmを超える段差として定義されるオレンジピールが無い内面螺旋溝付管を製造することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器の伝熱管等に用いられる内面螺旋溝付管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に空調機や冷凍機のフィンチューブ式熱交換器には冷媒を流すための伝熱管が使用されている。その構造は、プレス加工後に積層されたアルミニウムフィンにU字形にヘアピン曲げされた伝熱管を挿入し、拡管工程を経て伝熱管が拡管されフィンと接合される。伝熱管に流す冷媒にはフロン系冷媒あるいはその代替冷媒等が使用されており、冷媒の相変化を利用して熱交換を行わせる。
熱交換器には省エネ化に向けた高効率化が要求されており、伝熱管には熱伝達特性の向上のために、管内面に断面形状を三角形あるいは台形としたフィンが溝間に形成されている。最近では、更なる熱特性の改善のために、溝を螺旋状に形成した伝熱管(内面螺旋溝付管)が使用されている。また、冷暖房機能のあるヒートポンプ式エアコンの普及により同一の伝熱管で蒸発性能と凝縮性能の両性能をともに高めた伝熱管が必要とされており、このような要求に応えるべく、フィン高さ、溝のリード角、フィン形状、フィン頂角等を規定した伝熱管が提案されている。
【0003】
また、螺旋溝付管の製造方法として、管の内面に捻れ溝を転造しながら引抜く溝転造法(特許文献1)が知られている。
現状において広く用いられている熱交換器用の銅の伝熱管は、一般に前述の溝転造法により製造されている。溝転造法は、加工対象の管内に保持プラグで溝付きプラグを保持し、管の外周側に設けた転造ボールが管を溝付きプラグに押し付けながら高速で自転および遊星回転し、溝付きプラグの形状を管の内面に転写しながら螺旋溝付管を製造する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−190476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで主に伝熱管には銅や銅合金などの銅系材料が使用されてきたが、ここ最近の銅地金の高騰により、銅伝熱管の価格が高くなり製品の価格を圧迫していることから、より安価で安定したアルミニウムやアルミニウム合金を用いた伝熱管が要求されている。アルミニウムを使用すれば、価格の安定の他にその比重が2.7g/cmと銅の8.9g/cmに比べ軽いことから、熱交換器の軽量化を図ることができる。また、リサイクルの際に、熱交換器を銅合金製の伝熱管とアルミニウム合金製のフィンとに解体・分別する手間が必要なくなり、熱交換器がオールアルミ化されることでリサイクルが容易になる。
【0006】
しかしながら、従来の溝転造法でアルミニウムおよびアルミニウム合金の伝熱管を製造するのは困難である。そもそも、アルミニウム合金は銅合金に比べて強度が低いことから、アルミニウム合金により製造される伝熱管は耐圧強度を得るために、銅伝熱管に比べ管の底肉厚を厚くする必要がある。その場合、管外周から転造ボールで管を管内周の溝付きプラグに押し当て、管底肉厚部の塑性流動で溝をその内周側に転写する溝転造法では、所定の高さを有する溝の形状が困難であると共に、溝欠けなどの塑性流動不良による欠陥を生じやすい。最近、伝熱管の溝形状は熱伝達性の改善のために高精度化される傾向にあるが、溝転造法でそれら溝形状を製造すると所定の形状が得られず、無理に加工すると管が断線したり、溝付きプラグと管に凝着による焼き付きが発生するなどの問題を生じる。また、アルミニウム合金による伝熱管では、溝転造時にアルミ滓が発生し、それらを取り除くのが困難で、溝つまりを生じる。以上の理由から、アルミニウム製の伝熱管を溝転造法で製造するのは困難であり、作製可能な溝形状に制限がある。
【0007】
更に、溝転造法で螺旋溝付の伝熱管を作製した場合、フィンの根元部コーナーRが大きくなるといった問題がある。コーナーRが大きくなると、実質の管内面側の表面積が設計に比べて小さくなり、熱伝達性能に影響を及ぼす。また、フィンの根元部コーナーRが大きいために、フィン間の谷部の容積が減少し、溶液である冷媒の谷部への溜めこみ量が少なくなる。
その結果、伝熱管の内容積の一部を占めるように収容されている液体の冷媒において、冷媒の液面から突出するフィントップ部の面積が減少する。冷媒から突出したフィントップ部は、溶媒の薄い液膜が表層に形成された状態であり、相変化が容易で熱伝達に寄与する効果が大きく、その部位の面積が大きい方が好ましい。また、伝熱管の内面において液体の冷媒に浸されずに伝熱管の内面に冷媒の環状流が生成する領域が存在する。この領域では、フィンの根元部コーナーRが大きいと、コーナーRの大きい部位において環状流化した冷媒により生成される液膜の厚さが厚くなり、冷媒が液体から気体へ相変化を生じ難くなり、熱特性が低下する。このことも含めてフィン根元のコーナーRをできるだけ小さくすることは伝熱管において重要な技術課題である。
【0008】
このため、アルミニウム合金の伝熱管製造には溝転造法以外の製法が必要であり、予め、ロール転造で表面に溝を転造した板材をロール成形で丸管状に加工し、その接合面を溶接する電縫管による製法が提案されているが、その場合、内面溶接部のビードが拡管の支障になり、拡管性を劣化させるだけでなく、溶接面の接合不良による冷媒漏れなどの問題を生じる。
本発明者は様々な製法について検討した結果、予め、ストレートの溝を有した素管に、直接捻じり加工を付与する方法がアルミニウムおよびアルミニウム合金による伝熱管の製造に適していると考えている。ストレート溝を有する素管の製造には押出が適しており、フィン頂角が狭くフィン高さの高いハイスリムフィンタイプの溝形状も容易で、フィンの根元部コーナーRを小さくすることができる。
しかしながら、素管の結晶粒組織について結晶粒サイズがある範囲以上では、製造した内面螺旋溝付管の結晶粒サイズが粗大化し、拡管時にその外周面にオレンジの皮のような肌荒れのオレンジピールを生じ、表面に凹凸が発生する。このため、オレンジピールを生じていると、表面の肌荒れでフィンの根部コーナーRが変形し、精度が得られない。
【0009】
また、伝熱管は熱交換器に組む際、伝熱管の内部に伝熱管よりも径が大きい拡管プラグを挿入して伝熱管の径を拡げ、アルミニウム合金製放熱フィンに機械的に接合されるが、この時に管外周の肌荒れによる凹凸で放熱フィンと伝熱管との接合面が減少し接合率が低下するため、熱特性が劣化する。もう一つの問題は、管内周側の肌荒れが原因で、伝熱管長手方向の垂直断面でみた場合、本来その円の中心方向に放心円状に形成されるフィンが、内周表面の凹凸の影響でフィン倒れとなることで、拡管プラグによる拡管時にそのフィン倒れが増幅されてしまう。その場合、フィン倒れで、拡管プラグからの外周方向に作用する力が吸収され底肉厚部に伝わり難くなるため、所定の拡管率が得られず、放熱フィンと伝熱管との十分な接合が得られず、熱特性の劣化を招く。また、フィン倒れの程度がひどい場合には、フィン倒れが大きくなり冷媒の流路を塞ぎ、熱特性が大きく劣化する。
【0010】
それらオレンジピールは拡管時に伝熱管の表面に発生するだけでなく、伝熱管の製造に使用する素管の結晶粒サイズが大きい場合には、伝熱管製造時に発生し、外周・内周表面に凹凸の肌荒れを生じた伝熱管になるため、好ましくは、製造した伝熱管結晶粒組織における結晶粒サイズだけでなく、用いる素管の結晶粒サイズを制限する必要性がある。
更に、製造した伝熱管は加工のままでは加工硬化しており、そのままでは拡管により溝のみが潰れやすい状態であるため、O材化のための焼鈍しによる熱処理が必要であり、その熱処理で結晶粒が成長することから、伝熱管に関しては、最終熱処理後の結晶粒サイズに制限を設ける必要がある。
【0011】
本発明は、内面にストレートの溝を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金製押出素管に直接捻り加工を施して得られる内面螺旋溝付管の製造方法に関し、そのコーナーRが小さいがために良好な熱特性が得られるとともに、内面螺旋溝付管加工時および拡管時にオレンジピールの発生がなく、フィンの根元部分のコーナーRの精度が良好で、且つ、拡管性に優れる内面螺旋溝付管の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の内面螺旋溝付管の製造方法は、内面に長さ方向に沿う複数のストレート溝が周方向に間隔をおいて形成され、これらストレート溝間にフィンが形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金製の素管を用い、引抜ダイスのダイス孔の導入側に前記ダイス孔に向かって直線状に素管を供給する送出装置を設置し、前記引抜ダイスの導出側に前記素管の巻取装置を設置し、前記ダイス孔の中心を通過する中心線の延長線を中心軸としてその軸周り方向に回転するように前記送出装置を設け、前記送出装置から前記引抜ダイスのダイス孔に至る素管を直線状に維持しながら該素管に後方張力と回転力を付与し、前記引抜ダイスのダイス孔から前記巻取装置に至る管に前方張力を印加し、前記ダイス孔を通過する素管に引抜き加工と捻り加工を加えることにより、内面に長さ方向に沿う複数の螺旋溝が間隔をおいて形成され、内面の螺旋溝間にフィンが形成され、該フィンの根元部コーナーRが0.1mm以下で、且つ、その結晶粒組織において平均結晶粒サイズが120μm以下である内面螺旋溝付管を製造することを特徴とする。
本発明において、前記内面螺旋溝付管を製造するに際し、前記素管に予め形成されたフィンの根元部コーナーRが0.1mm以下、且つ、金属組織が全て管の長さ方向に沿う繊維状組織あるいは表層のみ外内周それぞれ肉厚の5%以下が再結晶組織であってそれ以外は全て繊維状組織または全面平均結晶粒サイズ80μm以下の結晶粒とされた押出素管を用いることができる。
【0013】
本発明において、前記結晶粒組織を焼戻しによって平均結晶粒径120μm以下の結晶粒組織とすることができる。
本発明において、内面の螺旋溝に沿って形成されているフィンのフィン倒れ角が1゜以下の内面螺旋溝付管を得ることができる。
【0014】
本発明において、外面に表面粗さ(Rmax)15μmを超える段差として定義されるオレンジピールが無い内面螺旋溝付管を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内面にストレート溝を有する素管を出発材に、その素管に直接捻じりと引抜きを加える方法で内面螺旋溝付管を製造し、製造後または拡管時に外周面の肌あれがなく、拡管性に優れる内面螺旋溝付管を製造できる。
また、平均結晶粒径を120μm以下とすることでオレンジピールのような肌荒れを生じることが無く、表面性状に優れ、内面側の溝形状もフィンの根元部においてコーナーRが0.1mm以下であり、目的の形状にできる内面螺旋溝付管を製造できる。また、表面性状に優れるので、フィンとともに熱交換器に組む場合、フィンの接合不良やフィン倒れなどを生じ難い内面螺旋溝付管を製造できる。
また、上述の優れた特性の内面螺旋溝付管を備えた熱交換器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る内面螺旋溝付管を製造する装置の第1実施形態を示す模式図。
図2】内面に直線溝が複数形成された押出素管を示す図であり、図2(a)が正面図、図2(b)が縦断面図である。
図3】内面螺旋溝付管の一例を示す縦断面図である。
図4】内面螺旋溝付管の製造装置の一例を示す模式図である。
図5】内面螺旋溝付管の製造工程の一例を説明するフローチャートである。
図6】管の扁平率を説明する図である。
図7】本発明に係る内面螺旋溝付管を製造する装置の第2実施形態を示すもので、図7(a)は側面図、図7(b)は要部平面図。
図8】管の捻り周期を説明する図である。
図9】管の捻れ角の算出方法を説明する図である。
図10】巻き取りロール直径と捻れ角との関係を示すグラフである。
図11】実施例1で得られた内面螺旋溝付管を示すもので、図11(a)は内面螺旋溝付管の部分横断面の金属組織写真、図11(b)は内面螺旋溝付管の一部を切り開いて螺旋溝を示した状態を示す展開写真、図11(c)は内面螺旋溝付管の部分断面の溝形状を示す写真。
図12】比較例で得られた内面螺旋溝付管を示すもので、図12(a)は内面螺旋溝付管の部分断面の金属組織写真、図12(b)は内面螺旋溝付管の一部を切り開いて螺旋溝を示した状態を示す展開写真、図12(c)は内面螺旋溝付管の部分断面の溝形状を示す写真。
図13】実施例1と比較例の内面螺旋溝付管においてオレンジピール発生有無の状態を示すもので、図13(a)はオレンジピールが発生していない実施例1の内面螺旋溝付管の表面状態を示す写真、図13(b)はオレンジピールが発生している比較例の内面螺旋溝付管の表面状体を示す写真である。
図14】螺旋溝付管におけるフィン倒れ角を示す説明図。
図15】実施例において用いた内面螺旋溝付管保持治具と当該内面螺旋溝付管保持治具を用いた拡管試験の手順を示し、図15(a)は支持台とこれに固定された第1保持部材を示す斜視図であり、図15(b)は第1保持部材と第2保持部材を重ね合わせて固定した様子を示す斜視図であり、図15(c)は孔に内面螺旋溝付管を挿入した様子を示す斜視図であり、図15(d)は内面螺旋溝付管に拡管プラグを挿入した様子を示す斜視図。
図16】実施例2で得られた内面螺旋溝付管の横断面の一例を示す金属組織写真。
図17】実施例2で得られたオレンジピールの無い内面螺旋溝付管の外観を示す写真。
図18】比較例で得られたオレンジピールのある内面螺旋溝付管の外観を示す写真。
図19】本発明に係る熱交換器の一実施形態を示すもので、図19(a)は側面図、図19(b)は斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る内面螺旋溝付管およびその製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
第1実施形態の内面螺旋溝付管の製造装置100は、内面に長さ方向に沿う複数の直線溝11aが周方向に間隔をおいて形成された押出素管11(図2参照)に、一定の捻りを生じさせ、内面に螺旋溝11dを有する内面螺旋溝付管11R(図3参照)を製造する装置である。
【0020】
内面螺旋溝付管11Rは、例えば、国際アルミニウム合金規格3000番台などからなり、本発明において特に限定するものでは無く、いずれのアルミニウム合金あるいは純アルミニウムからなるものでも良い。本実施形態においてアルミニウム製とは、これらいずれのアルミニウム合金あるいは純アルミニウムからなるものであっても包含する概念とする。
内面螺旋溝付管11Rの形状について、外径10mm以下、例えば、3〜10mm、凸型の螺旋フィン11cを複数、例えば、30〜60個、凹型の螺旋溝11dを複数、例えば、30〜60個有する。また、内面螺旋溝付管11Rにおいて、螺旋フィン11cの高さ0.1〜0.4mm、フィン頂角10〜30゜、底肉厚(螺旋溝底の位置における管の肉厚)0.3〜0.6mm、捻れ角θ15〜40゜などである。なお、捻れ角θとは、図3に示すように内面螺旋溝付管11Rの縦断面を描いた場合、管の内側に表示される螺旋溝あるいは螺旋フィンの直線状に描かれる部分の延長線Sと管の外面とのなす角度を示す。
【0021】
押出素管11は、後述するように捻り加工と引き抜き加工が施されて内面螺旋溝付管11Rに加工されるので、内面螺旋溝付管11Rより5〜50%程度外径の大きな管体を用いることが好ましい。押出素管11は、内面螺旋溝付管11Rとほぼ同一断面形状を有し、かつ、押出素管11に予め形成されたフィンの根元部コーナーRが0.1mm以下、且つ、金属組織が全て管の長さ方向に沿う繊維状組織あるいは表層のみ外内周それぞれ肉厚の5%以下が再結晶組織であってそれ以外は全て繊維状組織または全面平均結晶粒径80μm以下の結晶粒とされたことを特徴とする。
このような押出素管11を押出により製造するには、材料投入時の押出装置のビレット温度を540〜560℃として、595℃×10時間程度の均質化処理、換言するとビレットホモ処理を行う。上述よりも材料投入温度を高くするか、押出速度を上げて加工発熱を増加させると、結晶粒が粗大化するので、望ましくない。
【0022】
押出素管11を内面螺旋溝付管11Rに加工するための製造装置100は、図1及び図4に示す構成である。この製造装置100は、内面にストレート溝11aによりフィン11bが形成された押出素管11を巻き取りロール21にコイル状に巻取る巻き取り手段20と、コイル状に形成されたコイル状管材11Cをそのコイル軸線26に沿って引き伸ばして、直管状に形成する引張り手段30と、引張り後の管体の断面形状を矯正する引抜き手段40と、矯正後の内面螺旋溝付管11Eを加熱する熱処理手段50とを有している。
なお、図1は製造装置100の1つの巻き取り手段20と引張り手段30の構成を主体として示すが、製造装置100は詳細には図4に示すように巻き取り手段20と引張り手段30が複数直列(図4の例では3つ直列)に配置され、終段に引抜き手段40と熱処理手段50が配置されている。
【0023】
巻き取り手段20は、押出素管11をコイル状に巻き取る巻き取りロール21と、この巻き取りロール21との間に押出管材11を挟持し、巻き取りロール21の表面に沿って押出管材11を連続的に送り出すモーター駆動の送りロール22と、その送り出される押出管材11を巻き取りロール21との間で挟持し、その巻き取りを案内する一定のピッチの溝が、巻き取りロール21の外周面に沿う螺旋の一部を構成するように形成された一対のガイド板23とを備えている。また、巻き取りロール21の外周部において送りロール22を設けた側と反対側には、巻き取りロール21との間に押出管材11を挟持するように、回転自在に軸支された押さえロール24が設けられている。前記送りロール22の中心軸には、駆動源であるモーター25が接続されている。
一対のガイド板23は、巻き取りロール21の外周面に対峙する円弧板状に形成され、その内面に巻き取りロール21の外周面に沿う溝23aが一定間隔で形成されており、これらガイド板23は、巻き取りロール21の両側に少なくとも2個以上配置されていることが好ましい。巻き取りロール21の表面とガイド板23の溝23aとの間に押出管材11を通すことにより、押出管材11を巻き取りロール21の外周に沿ってコイル状に巻き取り、且つ、その巻き取られたコイル状管材11Cを、巻き取りロール21の端部から螺旋の延長方向に送り出すことができる。
【0024】
巻き取りロール21および押さえロール24の表層には、それらロール円周方向に対し垂直にシーズヒーターが配置されている。ロール表面温度を高温にしておき、押出素管11が巻き取りロール21の表面に巻き取られ、送り出されている間に、押出素管11を高温に加熱することができる。これらロール21、24の表面温度は、RT(室温)〜300℃が好ましい。
【0025】
引張り手段30には、巻き取りロール21上から、巻き取りロール21の軸線の延長線(コイル状管材11Cのコイル軸線26)に沿って送り出された複数巻分のコイル状管材11Cをチャッキングし、そのコイル軸線26の延長線に沿って引き伸ばすストレッチャー31が設けられている。また、ストレッチャー31の後段側にはコイル軸線26の延長線に沿って間隔をおいて配置された二対のピンチロール32が設けられている。ストレッチャー31である程度引き伸ばされたコイル状管材11Cを、これらピンチロール32の間で挟持し、一定の張力を負荷しながら直管状に形成することができる。また、引張り手段30には、高速加熱が可能な高周波加熱炉または輻射熱を利用した加熱炉33が設けられており、コイル状管材11Cを加熱しながら引き伸ばすことができる。
【0026】
なお、コイル状管材11Cの軸線26の延長線に沿うとは、コイル軸線26の延長線に一致することのみをいうのではなく、多少のズレは許容される。もっとも、コイル状管材11Cの引き伸ばしは、コイル軸線26の延長線に一致するように行われることが好ましい。
また、引抜き手段40は、中空孔を有する引抜ダイスに管材を通して引抜くことにより、管材の断面形状を矯正する構成とされている。熱処理手段50は、真円度を矯正後の管材の中間焼鈍を行う。なお、本実施形態の加熱手段としては、巻き取りロール21および押さえロール24の表面を加熱するシーズヒーターや、引き伸ばし途中の管材を加熱する加熱炉33が相当する。
第1実施形態の製造装置100は、図4に詳細に示すように巻き取り手段20と引張り手段30とが3組直列に設けられ、その後段側に引き抜き手段40と熱処理手段50が設けられている。以下、第1実施形態の製造装置100において、便宜的に1組目の巻き取りロール21を巻き取りロール21aと表記し、2組目の巻き取りロール21を巻き取りロール21bと表記し、3組目の巻き取りロール21を巻き取りロール21cと表記することがある。
【0027】
次に、以上のように構成された製造装置100を用いて内面螺旋溝付管を製造する方法について説明する。
製造装置100を用いて内面螺旋溝付管を製造するには、押出成形法により内面に直線溝を形成した押出素管11を製造する。
本実施形態で用いる押出素管11は、押出素管に予め形成されたフィンの根元部コーナーRが0.1mm以下、且つ、金属組織が全て管の長さ方向に沿う繊維状組織あるいは表層のみ外内周それぞれ肉厚の5%以下が再結晶組織であってそれ以外は全て繊維状組織または全面平均結晶粒サイズ80μm以下の結晶粒とされたことを特徴とする。この金属組織と溝形状を有する押出素管11は、押出速度の制御と押出装置のビレット中の温度制御により実現できる。押出速度の制御は、通常材料において、40m/min程度の押出速度に制御した生産条件において、ビレット内へのアルミニウム材料の投入温度を540〜560℃に制御し、ビレット内の温度を580〜595℃程度の温度で数時間〜10時間程度加熱することを意味する。
上述の条件で押出加工することにより、押出素管11を構成するアルミニウム合金の金属の組織及び形状をフィンの根元部コーナーRが0.1mm以下、且つ、金属組織が全て管の長さ方向に沿う繊維状組織あるいは表層のみ外内周それぞれ肉厚の5%以下が再結晶組織であってそれ以外は全て繊維状組織または全面平均結晶粒径80μm以下の結晶粒組織に制御することができる。
【0028】
上述の平均結晶粒径となっている押出素管11を用い、一定速度で回転する送りロール22により、内面に直線溝が形成された押出素管11を送り出し、巻き取りロール21aの表面に、同一径のコイル状となるように押出素管11を巻き取る。このとき、押出素管11は、巻き取りロール21aの表面と、ガイド板23および押さえロール24との間で案内され、巻き取りロール21aの表面に沿って、その巻き取りロール21aの一端側から他端側に向けて巻き取りロール21aの軸線(コイル軸線26)に沿って巻き取られていく。このとき、巻き取りロール21aの他端側(図1では上側)から解放された管材は、コイル状管材11Cとされている。
【0029】
次に、巻き取りロール21aの他端側から解放されたコイル状管材11Cの複数巻分の一部を、ストレッチャー31でチャッキングし、コイル状管材11Cのコイル軸線26の延長線に沿って予備的な矯正を加える。直管状に近い状態まで矯正された管材は、二対のピンチロール32間を通過し、これらピンチロール32間で0.3kN以上の張力を負荷されながら、直管状に形成される。
ストレッチャー31はコイル状管材11Cに予備矯正を加えた後、図1に二点鎖線で示すように元の位置に移動し、順次送り出されてくるコイル状管材11Cの端部をチャッキングし、予備矯正を繰り返し行う。ピンチロール32で直管状に矯正された管材11Lは、巻き取りロール21bにコイル状に巻き取られる。
【0030】
このようにして巻き取られた管材11Lは、巻き取りロール21aの径と、この巻き取りロール21aにより巻き取られる管材の巻き取りピッチにより定まる捻れ角θを有する螺旋溝が形成される。この捻れ角θは、巻き取りロールの径(巻き取り径)を小さくする程大きくなり、また巻き取りピッチを小さくする程大きくなる。捻れ角は、巻き取りロールの径の大きさに依存するため、径の小さい巻き取りロールに巻き取れば、一度に大きな捻れ角を生じさせることが可能であるが、管材の材質によっては、小径に巻き取ることが難しい。
【0031】
この場合、径の大きい巻き取りロールに巻き取り、巻き取り工程と引張り工程とを複数回繰り返すことにより管材への捻れを加算して、大きい捻れ角θを有する管材を得ることができる。しかしながら、管材の材質によっては、捻れ角θを大きくするために巻き取り工程と引張り工程とを繰り返すことで、加工硬化により管材が捻れにくくなる。そのため、本実施形態の加熱炉33および巻き取りロール21のように、インラインで加熱する手段を設け、加熱された状態の管材に捻り加工を施すことや、各工程の途中で熱処理をすることにより、ひずみ除去を行うことが好ましい。なお、工程の途中で行われる熱処理は、例えば、管材に200〜350℃で0.5〜4時間の中間焼鈍を行う。
【0032】
また、より捻れ角θの大きい内面螺旋溝付管を製造する際には、例えば、図5のフローチャートに示すように、巻き取り工程および引張り工程を一定回数繰り返す毎に、引抜き工程および熱処理工程を行うことが好ましい。
図5のフローチャートでは、S101〜S103に示すように、巻き取り工程と引張り工程との組合せからなる工程を3回繰り返した後、引抜き工程(S104)と熱処理工程(S105)を挟み、合計8回の巻き取り工程と引張り工程とが行われる(S101〜S112)。そして、巻き取り工程と引張り工程とを繰り返す毎に、管材11には一定の捻りが加算され、捻れ角θを徐々に大きくしていくことができる。
【0033】
巻き取り工程と引張り工程とを複数回繰り返すと、巻き取りロール21aに管材が巻き取られる際に、巻き取りロール21の表面に押し当てられることから、図6に示すように、その管材の断面形状が徐々に扁平に潰される。断面形状の扁平率が大きくなった管材は、巻き取りの際に座屈を生じることがあり、その座屈を生じた管材に引張り工程を行うと、座屈した部分で局所的に折れ曲がり(ネッキング)、管材全体に均一な捻れ角が形成された管材を得ることができない。そのため、巻き取り工程と引張り工程とを繰り返す中で、少なくとも1回の引抜き工程と、矯正後の管材を加熱する熱処理工程とを行うことが好ましい。
【0034】
引抜き工程は、引抜き手段40により引抜ダイスの中空孔に管材を通して引抜くことにより行われ、1回の引抜き工程は、管材の扁平率が120%以内のうちに、もとの管材の径に対し5%以上の縮小が図れるように行う。そして、熱処理工程により、真円度の矯正後の管材を加熱し、ひずみを除去する。熱処理工程は、例えば前述と同様の熱処理が行われ、矯正された管材に200〜350℃で0.5〜4時間の中間焼鈍を行う。
このように、巻き取り工程と引張り工程とを繰り返して、管材の扁平率が大きくなった場合には、引抜き工程により真円度を回復させ、座屈が生じることを防止することができる。引張り工程後に、管材の断面形状を矯正する少なくとも1回の引抜き工程を設けることで、管材の潰れを抑制し、巻き取り工程と引張り工程とを複数回工程を繰り返すことが可能となり、管材の捻れ角を大きくすることができる。
なお、扁平率とは、図6に示す管材11の最小径Yに対する最大径Xの比率をいう。
【0035】
以上の説明により、製造した内面螺旋溝付管は、押出素管として、フィンの根元部コーナーRが0.1mm以下、且つ、金属組織が全て管の長さ方向に沿う繊維状組織あるいは表層のみ外内周それぞれ肉厚の5%以下が再結晶組織であってそれ以外は全て繊維状組織または全面平均結晶粒径80μm以下の結晶粒組織とした押出素管11を用いて製造するため、捻り加工と引き抜き加工により押出素管11からフィン形状の優れた内面螺旋溝付管11Rを得ることができる。この内面螺旋溝付管11Rは、フィン形状に優れ、押出素管11が有していたフィン形状をそのまま維持した状態の内面螺旋溝に加工されているので、寸法精度の高い内面螺旋溝付管11Rを得ることができる。
例えば、捻り加工と内面螺旋溝付管11Rとして、フィンの根元部コーナーRが0.1mm以下であり、かつ、オレンジピールの発生がなく、コーナーRの精度の高いものを提供できる。
【0036】
また、拡管の加工性を確保するためO材化処理するが、O材化のための焼き鈍ししても平均結晶粒径120μm以下であるため、拡管してもオレンジピールの発生がなく、フィン倒れなどを生じ難い、拡管性に優れた、放熱フィンとの接合率の高い内面螺旋溝付管を提供できる。
なお、加工後に得られた内面螺旋溝付管11Rは加工硬化されており、そのままでは硬度が高く、拡管プラグによる拡管に支障を生じるので、O材化のための焼き鈍しを行うことで軟化させ、拡管し易くする。この焼き鈍しによるO材化は、300〜420℃の温度範囲に内面螺旋溝付管11Rを0.5時間以上、4時間以内加熱後、徐冷する処理を意味する。
O材化の際の加熱温度が300℃未満では加工後の管の歪を完全に取ることができず、4時間を超える加熱処理では結晶粒が成長し過ぎてオレンジピールの発生に繋がるおそれがある。
【0037】
なお、螺旋フィン11cと螺旋溝11dを周方向に30〜60個程度有し、フィン高さ0.1〜0.3mm、フィン頂角10〜30゜、底肉厚(螺旋溝底の位置における管の肉厚)0.3〜0.6mm、捻れ角θ15〜30゜、フィンの根元部コーナーR0.1mm以下であって、上述の範囲に形状が規定された寸法精度の高い螺旋フィン11c並びに螺旋溝11dを有する内面螺旋溝付管11Rを得ることができる。フィンの根元部コーナーRについては、現状押出技術による押出成形時のコーナー部のRとして最小0.005mmまで形成可能であるので、本実施例の方法により最小0.005mmまで形成可能である。
【0038】
以下、本発明に係る内面螺旋溝付管の第2実施形態の製造装置および内面螺旋溝付管の製造方法の第2実施形態について図面を参照しながら説明する。
図7は、第2実施形態の内面螺旋溝付管の製造装置50を示す。この製造装置50は、第1実施形態の製造装置100と同様に、内面に長さ方向に沿うストレート溝11aを周方向に間隔をおいて複数形成した押出素管11(図2参照)に、一定の捻りを生じさせ、内面に螺旋溝11dを有する内面螺旋溝付管11R(図3参照)を製造する装置である。
【0039】
内面螺旋溝付管11Rの製造装置50は、内面にストレート溝を有する押出素管11を出発材として巻き出す巻出ドラム(送出装置)51と、その巻出ドラム51からの押出素管11を回転させて押出素管11に捻じりを与える回転手段52を有している。また、捻じりが付与される押出素管11を引抜くための引抜ダイス53と、引抜ダイス53から引抜かれた内面螺旋溝付管11Rを巻き取る巻取ドラム(巻取装置)55とを備えている。巻出ドラム51への押出素管11の装着は、予め、押出素管11をボビン56に巻き取り、押出素管11をボビン56ごと巻出ドラム51に装着して実施できる。
また、巻出ドラム51の内側にはドラムブレーキあるいはディスクブレーキ等のブレーキ装置54が内蔵されていて、巻出ドラム51の回転に対し一定の制動力を付加できるように構成されている。このブレーキ装置54が発生させる制動力を調節することにより巻出ドラム51から巻き出して引抜ダイス53を通過しようとする押出素管11に対し所定の後方張力(バックテンション)を付加することができる。
【0040】
巻出ドラム51はその中心の回転軸51aを矩形状の支持枠(支持体)57に支持させて軸回りに回転自在に支持されている。支持枠57の両端側には支持軸58、59が互いの中心軸を同軸とするように突出形成されていて、水平に設置した支持枠57の両端側を支持するための脚部60、60により支持枠57が支持軸58、59の軸回りに回転自在に支持されている。
【0041】
脚部60、60は製造装置50を設置する基台(土台)61上に互いに離間するように立設されていて、それらの上端部側に軸受部が形成され、これらの軸受部によって支持枠57の支持軸58と支持軸59が水平に支持されている。支持枠57の一方(図7において右側)の支持軸59は、中空構造とされていて、支持軸59の内部に引抜ダイス53が内蔵されている。
支持枠57において支持軸59を設けた側の端部には押出素管11を通過させる通過孔57aがダイス53のダイス孔に連通するように形成されていて、巻出ドラム51から巻き出した押出素管11について通過孔57aを介し引抜ダイス53側に導出し、引抜ダイス53を介し巻取ドラム55側に巻き取ることができるように構成されている。以上の構成により、巻出ドラム51は巻き出した押出素管11の周回り方向に回転することができ、ダイス53を通過しようとする押出素管11をその周回りに捻ることができる。
【0042】
巻取ドラム55はサーボモーターなどの巻取力調整機能付きの回転駆動装置を備えてその中心軸回りに回転自在に基台61上に水平に設置されている。巻取ドラム55の回転軸55aは駆動装置47に内蔵されているサーボモーター48により回転力が制御される。
巻取ドラム55のサーボモーター48はその回転駆動力を調節することで巻取ドラム55の巻取力を調節できるように構成されている。従って、引抜ダイス53を通過した内面螺旋溝付管11Rを引き抜く力を調節し、引抜ダイス53を通過しようとする押出素管11に対し任意の前方張力を付加できるようになっている。
支持枠57において支持軸58を設けた側の端部には延長軸部62が形成され、この延長軸部62が脚部60の外側に延出され、延長軸部62がその下方の基台61に設置された駆動装置63により伝導装置64を介し回転駆動されるようになっている。
第2実施形態の製造装置50において、駆動装置63と伝導装置64と脚部60、60と支持枠57により巻出ドラム51の回転手段52が構成されている。
【0043】
次に、第2実施形態の製造装置50によって内面螺旋溝付管11Rを製造する方法について説明する。
先ず、ボビン56に巻かれた内面ストレート溝付の押出素管11をボビン56ごと巻出ドラム51に装着し、押出素管11とボビン56を巻出ドラム51ごと回転させて、押出素管11に捻じりを付与する。巻出ドラム51の回転は、駆動装置63による伝導装置64を介した支持枠57の回転状態により制御できるので、押出素管11に対し必要な捻り力を付与することができる。
前述の捻りの付与と同時に押出素管11は引抜ダイス53を通り、捻り付与と同時に縮径されて内面螺旋溝付管11Rに成形され、巻取ドラム55に巻き取られる。
【0044】
この際、図7(a)に示すように押出素管11は、引抜ダイス53を支点としてその手前側が捻じられて引抜ダイス53内で縮径されながら捻じられる。この時、巻出ドラム51側は、装着したボビン56の押出素管巻き数とその巻き径を計測し、ブレーキ装置54によるブレーキ制御で常に所定の後方張力が巻き出される押出素管11に付与された状態であり、巻取ドラム55側は、サーボモーター制御で一定の前方張力が内面螺旋溝付管11Rに付与される。前方張力と後方張力が不適切であると、加工中の押出素管11にたるみが生じ、捻じり加工中に座屈を生じ、逆に前方張力が強すぎると押出素管11が破断する。
【0045】
第2実施形態の製造装置50によれば、前方張力と後方張力を調整して押出素管11に作用させる捻り力と縮径力をバランスさせることにより、座屈し易く、破断しやすい細径の押出素管11であっても、支障なく螺旋状に捻り加工し縮径できるので、押出素管11から内面螺旋溝付管11Rを製造できる。換言すると、捻り加工時の応力を縮径加工時の応力により開放してバランスさせることにより、押出素管11の破断や座屈を抑制しつつ捻り加工と縮径加工ができる。また、押出素管11の引き出し速度に応じて前方張力と後方張力を調整することで、押出素管11の破断や座屈を防止しながら、円滑な捻り加工と引抜加工ができる。
【0046】
なお、以上のような作用効果を奏するのは、支持枠57とともに回転される巻出ドラム51から引き出した押出素管11に捻りを加えつつ直に引抜ダイス53に供給して縮径できるように構成している点に特徴を有する。この点において、巻出ドラム51と引抜ダイス53との間にローラーなどの案内部材や支点部材を配置すると、案内部材や支点部材で支持する押出素管11に捻り力が作用するのに縮径力は作用しないので、これらの支持部分で押出素管が破断するか座屈する。
例えば、特許第3489359号(特開平10−166086号)に記載されている製造装置では、繰り出しドラムとダイスとの間に原管のパスラインを規制してダイスのダイス孔に原管を水平に導くための支点が必然的に存在するので、この特許に記載の製造装置では、その支点部分で原管の破断または座屈を生じやすい。
これに対し本実施形態の装置では、押出素管11に捻り力を付加する位置と押出素管11に縮径力を付加する位置を引抜ダイス53の内部で同一領域に設定し、前方張力と後方張力のバランスを取っているので、押出素管11の座屈と破断を生じない製造装置50とすることができる。このため、上述したような細径の押出素管11であっても支障なく内面螺旋溝付管11Rに成形できる。
【0047】
また、押出素管11を引き抜く速度を変更すると、押出素管11に捻り力を付加する位置と押出素管11に縮径力を付加する位置が微妙に変化するので、座屈と破断を生じるおそれがある。これに対し、前述の後方張力と前方張力を調整することにより、引抜速度を変えたとしても、押出素管11の座屈と破断を生じ難くすることができる。このため、生産性を向上させるために引抜速度を向上させたとしても、後方張力と前方張力を調節することにより、破断や座屈を引き起こすことなく内面螺旋溝付管11Rを製造することができ、生産性を向上できる効果がある。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
外径10mm、内径8.86mm、内面に直線溝が形成された3003アルミニウム合金の押出素管を用いて内面螺旋溝付管の製造を行った。押出素管においてフィンの根元部コーナーRは0.06mmであり、金属組織および平均結晶粒径を変量した。
押出素管は押出時の製造条件として、押出速度40m/min、アルミニウム材料投入時の押出装置ビレット温度550℃、ビレット中で595℃×10時間均熱処理を施すビレットホモ処理を行って製造した押出素管である。
押出素管は、内面の直線溝の数、36個(36条)、これら直線溝により形成されるフィンの高さが0.26mm、フィン頂角10゜であり、押出素管は平均結晶粒径80μmの結晶粒からなる。また、フィン形状等は同等であるが、平均結晶粒サイズが140μmの結晶粒組織を有する押出素管を比較例の押出素管として用いた。この比較例の押出素管は、押出速度40m/min、アルミニウム材料投入時の押出装置ビレット温度520℃、610℃で8時間均熱処理することで製造した押出素管である。
【0049】
これらの押出素管を用いて、巻き取りロールの径を直径20〜760mmの範囲で変量し、それぞれの巻き取りロールで、巻き取りピッチ15mmで巻き取った後に、そのコイル状に形成されたコイル状管材のコイル軸線上に沿って引き延ばした(引張り工程)。また、引張り工程は、巻き取りロールから3巻分送り出されたコイル状管材の下側端部を250℃に加熱された加熱炉内でストレッチャーにより矯正を加えた後、ある程度、直管状に伸ばした後に、常温まで温度の下がった管材を二対のピンチロール間で1〜2kNの張力を負荷しながら直管状に矯正した。また、管材の外周面には、予め、その長手方向に沿って直線状のマーキングを行い、図8に示すように、マーキングラインLが1周分捻れた時の長手方向の長さ(捻り周期B)を計測した。捻れ角θは、図9に示すように、管材の直径の長さAと捻り周期Bとにより算出した。図10に、以上のように実施して得られた巻き取りロール直径(巻き取り径)と捻れ角との関係を示す。
【0050】
図10に示すように、例えば、φ160mmの巻き取り径では、1回に約3°の捻れ角を生じさせることができる。巻き取り径が小さくなるにつれて捻れ角は増加し、巻き取り径に応じた捻れ角を有する内面螺旋溝付管の製造が可能である。また、製造された各内面螺旋溝付管について、管の長手方向に切り開いて内面に形成された螺旋溝の周期を確認したところ、内面の螺旋溝の周期と、マーキングラインの捻り周期Bとは一致していた。
【0051】
次に、前記管材と160mmの巻き取りロールを用いて、巻き取り工程と引張り工程とを7回繰り返すことにより内面螺旋溝付管の製造を行った。
先ず、巻き取りロール上に巻き取りピッチ15mmで巻き取りを行った後に、そのコイル状管材を引き伸ばし、これら巻き取り工程と引張り工程とを3回ずつ繰り返した後に、φ8mmの中空孔を有する引抜ダイスで引抜きし、扁平率118%まで潰れた管材を再び扁平率103%の真円に回復させた(引抜き工程)。その後、350℃で4時間の中間焼鈍を行い(熱処理工程)、再度、φ160mmの巻き取りロールにより巻き取りピッチ12mmで巻き取りを実施した。巻き取り工程と引張り工程とを3回ずつ行った後、φ7.5mmの中空孔を有する引抜ダイスで引抜きを行い、350℃で4時間の熱処理を行った。
次いで、φ160mmの巻き取りロールにて巻き取りピッチ11.25mmで巻き取りを実施し、巻き取り工程と引張り工程とを1回ずつ行った。最後にφ7.2mmの中空孔の引抜ダイスで引抜きを行い、最終的に捻れ角20°の内面螺旋溝付管を製造した。
巻き取り速度および抜取り速度は30m/minとした。また、引張り工程は、巻き取りロール上から送り出された3巻分のコイル状の管材の下側端部をストレッチャーにより矯正を加え、ある程度、直管状に伸ばした後、二対のピンチロール間で1〜2kNの張力を負荷しながら直管状に矯正した。
【0052】
巻き取り工程と引張り工程とを3回ずつ繰り返す毎に、引抜き工程を行うことで、扁平した管材の真円度を回復させ、また、真円度の矯正後の管材を加熱することで、ひずみを除去することができる。これにより、さらに繰り返して巻き取り工程と引張り工程とを実施することができ、最終的に外径7.2mm、内径6mm、フィン頂角10゜、フィン高さ0.26mm、底肉厚0.6mm、螺旋溝幅0.26mm、捻れ角20°の内面螺旋溝付管を製造することができた。
以上の工程により得られた内面螺旋溝付管において、平均結晶粒80μmの結晶粒組織を有する押出素管を用いて得られた内面螺旋溝付管の断面の金属組織の拡大を図11(a)に示し、同内面螺旋溝付管の一部を切り開いた状態を図11(b)に示し、同内面螺旋溝付管の横断面の溝形状を図11(c)に示す。また、平均結晶粒径140μmの結晶粒組織を有する押出素管を用いて得られた内面螺旋溝付管の断面の金属組織の拡大を図12(a)に示し、同内面螺旋溝付管の一部を切り開いた状態を図12(b)に示し、同内面螺旋溝付管の横断面の溝を図12(c)に示す。
【0053】
図11に示す実施例の内面螺旋溝付管は、得られた螺旋溝と溝間に形成されているフィンの形状が整っており、目的の形状のフィン及び螺旋溝を形成できた。また、内面螺旋溝付管の表面にオレンジピールなどの肌荒れは観察できなかった。また、図10に示す内面螺旋溝付管のフィンの根元部コーナー部Rは平均0.06mmであった。
これに対し、図12に示す比較例の内面螺旋溝付管は、フィンの形状が不揃いであり、フィンの一部が折れ曲がる等、フィン形状が崩れていた。また、図12(a)に示す組織写真のように結晶粒が大きく、溝とフィンの一部を結晶粒が形作っているので、結晶粒が一部脱落してフィンの形状が一部欠落している箇所を複数確認できた。また、表面にオレンジピールと表される肌荒れを確認できた。また、図12に示す内面螺旋溝付管のフィンの根元部コーナーRは平均0.12mmであった。
【0054】
図13は実施例の内面螺旋溝付管と比較例の内面螺旋溝付管について、表面の状態を対比して示す図であり、図13(a)に示すように実施例で得られた内面螺旋溝付管はオレンジピールの発生が見られず、滑らかな表面状態を示している。これに対し図13(b)に示すように比較例の内面螺旋溝付管はオレンジピールが発生し、表面に肌荒れが見られた。
以上の比較から、平均結晶粒80μmの結晶粒組織を有する押出素管を用いて得られた内面螺旋溝付管の方がフィン形状が整っていることが明かであり、表面性状にも優れていることが明かである。
【0055】
以下の表1にオレンジピール発生の有無について、試験に用いた3003アルミニウム合金の結晶粒径の大きさと、ホモ処理条件、押出条件との関係を示す。
オレンジピール発生の有無は、得られた螺旋溝付き管の長さ150cmの領域の外面を顕微鏡観察して1箇所もオレンジピールを観測できない場合は発生無し、1箇所でも確認できた場合は発生した、と判断した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示す結果から平均結晶粒径80μmの結晶組織を有する内面螺旋溝付管であるならば、オレンジピールの発生がなく、表面の滑らかな管とすることができる。表1の結果では、平均結晶粒径70〜80μmの押出素管を用いて得た内面螺旋溝付管においてオレンジピールの発生が無かった。
【0058】
次に、以下の表2に示す押出素管を用いて内面螺旋溝付管を上述と同様の製造方法により作製し、それぞれの試料の押出素管の状態での平均結晶粒径(μm)、内面螺旋溝付管の平均結晶粒径(μm)、オレンジピール発生の有無、加工後内周面の平均溝倒れ角度(゜)、拡管率(%)について測定し、評価した。拡管率は、拡管試験前後における外径拡管率(分母は拡管前)を示す。
また、内面螺旋溝付管の長手方向と垂直にカットした試料の断面をCCDカメラで観察し、フィンの倒れ角を計測した。フィンの倒れ角θは、図14に示すようにフィン付け根部両端に亘る直線L1を引き、直線L1の中央部bから円中心方向(内面螺旋溝付管中心方向)に垂線を作図し、それがフィン頂辺と交わる点をcとし、頂辺中央部aより、角abcを計測した。フィンの傾きの計測は任意に切り出したそれぞれの内面螺旋溝付管の断面3視野のそれぞれから適当に8か所を計測し、計24か所の平均値を求めた。
図14に示す4つのフィン11cにおいて、左側に記載した3つのフィン11cは変形していない状態を示し、右側に記載した1つのフィン11cが変形したフィンを例示している。図14の右側のフィン11cは変形しているので、倒れ角θを角abcから計測できるが、左側のフィン11cは変形していないので、直線L1の中央部bから円中心方向に形成した垂線上に頂辺中央部aが位置するので、この場合のフィン倒れ角θは0゜となる。なお、図14は、フィン頂角を例示するために作図したものであり、通常は複数のフィン11cにフィン倒れが生じる。また、図14に参考としてフィン頂角θを表記しておく。
【0059】
拡管試験は、100kN引張試験機を用い、その上チャック部に拡管プラグを取り付け、下ベース上に内面螺旋溝付管をプラグ挿入方向と平行に支持するための専用台を設置し圧縮試験モードで行なった。拡管試験を行った後に内面螺旋溝付管11Rを容易に取り出すことができる様に構成された拡管試験用の内面螺旋溝付管の保持治具70と、当該内面螺旋溝付管の保持治具70を用いた拡管試験の手順を図15(a)〜(d)に示す。
内面螺旋溝付管の保持治具70は、支持台74、第1保持部材71、並びに第2保持部材72から概略構成されている。図15(a)に示すように、支持台74は、この内面螺旋溝付管の保持治具70を設置する設置面に固定されており、当該支持台74に、ブロック状の第1保持部材71が固定されている。また、図15(b)に示すように、第2保持部材72は、第1保持部材71と同様にブロック状に形成され、第1保持部材71に着脱自在に重ね合わせ可能に構成されている。
【0060】
第1保持部材71及び第2保持部材72には、それぞれ断面形状が半円の溝71A、72Aが鉛直方向に延びるように形成されている。第1保持部材71と第2保持部材72を重ね合わせると、これらの溝71A、72Aが一つの孔73を構成する。
支持台74には、第1保持部材71及び、第2保持部材72の幅と一致するスライド溝74aが形成されており、このスライド溝上に第1保持部材71及び第2保持部材72を載置することによって、これらの幅方向の位置合わせが可能となる。即ち、第1保持部材71、及び第2保持部材72に設けられた溝71A、72A同士の位置合わせは、前記スライド溝74aにより容易に行うことができる。
図15(a)に示すように、第1保持部材71には、螺子孔71aが設けられている。図15(b)に示すように、第2保持部材72を重ね合わせた後に第2保持部材側から、前記螺子孔31aに固定ボルト32aを螺着することで、第1保持部材71と第2保持部材72を固定することができる。
【0061】
この拡管試験用の内面螺旋溝付管の保持治具70を用いて行う拡管試験の手順を説明する。まず、図15(a)、(b)に示すように、第1保持部材71と第2保持部材72を重ね合わせて固定する。これにより、第1保持部材71と第2保持部材72の境界部に孔73が形成される。
次に図15(c)に示すように、前記孔73に内面螺旋溝付管11Rを挿入する。なお、前記孔73の内径は、内面螺旋溝付管11Rの外径よりも十分に大きく形成されており、上方から容易に挿入することができる。
次に図15(d)に示すように、拡管プラグ76を挿入することで、内面螺旋溝付管11Rを拡管する。
最後に、固定ボルト72aを取り外し、第1保持部材71と第2保持部材72を開くことで、拡管された内面螺旋溝付管11Rを取り出し、これを観察する。
【0062】
上述した内面螺旋溝付管11R及び拡管プラグ76と、図15に示す内面螺旋溝付管の保持治具70を用いて、拡管試験を行った。なお、今回の拡管試験において用いる拡管プラグ76の最外径部の直径は、5.9mmのものを用いた。また、拡管プラグ76は、超硬合金からなるものを用いる。
また、拡管プラグ76の挿入速度は、285mm/minとした。
【0063】
内面螺旋溝付管11Rの内周面と拡管プラグ76との潤滑油として、エヌ・エスルブリカンツ株式会社製のRF−520を使用した。
拡管を行う内面螺旋溝付管11Rの長さは125mmであり、このうち95mmを拡管ストロークとして拡管試験を行った。尚、プラグを内面螺旋溝付管から抜く際、試料が付いてこないようにセットした内面螺旋溝付管の下から20mm位置に固定孔を設け、ホルダーにセット後、ホルダー側からピンを挿入し固定した。
以下の表2にオレンジピール発生の有無について、試験に用いた押出素管と加工熱処理後の内面螺旋溝付管の平均結晶粒径の大きさ等について示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示す結果から、平均結晶粒径80μm以下の押出素管(試料No.1、2、3)を用いるならば、加工後の内面螺旋溝付管について、平均結晶粒径120μm以下にすることができた。これらの試料はオレンジピールの発生も見られず、フィン倒れ角度も1゜以下に制御できた。
これらの試料に対し、No.4、5、6の試料は平均結晶粒径80μmを超えた試料であるが、オレンジピールの発生が見られ、フィン倒れ角も1゜を超えて大きくなった。
フィン倒れ角が大きい場合、内面螺旋溝付管を拡管プラグにより拡管して熱交換器を組み立てる場合、拡管プラグが作用させる拡管力が倒れた内面フィンを更に倒すように作用し易くなる。この状態になると、内面フィンが更に倒れるように変形する結果、内面螺旋溝付管の拡管不足となり、熱交換器の製造に支障を来す。例えば、熱交換器を内面螺旋溝付管と外部のフィンとで構成する場合、外部のフィンに形成した透孔に内面螺旋溝付管を挿通し、内面螺旋溝付管を拡管することにより熱交換器を組み立てるが、拡管不足となると、外部フィンと内面螺旋溝付管との密着性が劣ることとなり、熱交換性能が低下することとなる。
【0066】
(実施例2)
外径8.5mm、内径7.5mm、内面にストレート溝が周方向に一定間隔で36条形成された3003アルミニウム合金の押出素管を用い、図7に示す構造の製造装置50を用いて内面螺旋溝付管の製造を行った。
押出素管の内面溝形状は、溝の高さが0.22mm、フィンの根元部コーナーR0.06mm、フィン頂角10゜であり、押出素管の平均結晶粒径は、30〜140μmである。
【0067】
これらの押出素管を巻出ドラムに巻きつけ、ライン速度5m/minで巻き出しし、その巻出ドラムごと支持体を77rpmの回転速度で回転させて15°の捻じり角を素管に付与した。引抜ダイスは孔径7.0mmとし18%の引抜きを行った。捻じり、引抜きされた外径φ7.0mmの内面螺旋溝付管を巻取ドラムに巻き取った。前方、後方張力は20kgfで実施した。作製したそれぞれの内面螺旋溝付管に、O材化のための焼き鈍し(O材化処理)を目的に410℃×4hの熱処理を実施した。
【0068】
作製したそれぞれの内面螺旋溝付管について、目視で外周側にオレンジピールが発生しているか否かについて観察した。オレンジピール発生の有無は、得られた螺旋溝付き管の長さ30cmの領域の外面を顕微鏡観察して1箇所もオレンジピールを観測できない場合は発生無し、1箇所でも確認できた場合は発生した、と判断した。評価方法の詳細は前述の通り。各試料の試験結果を以下の表3に示す。
また、得られた内面螺旋溝付管の外周について、表面粗さ(Rmax)を二次元粗さ計(サーフコム1400D:株式会社東京精密)で測定した。パラメータ算出はJIS’94規格を選定し、最小二乗直線補正を入れ、試料の傾斜をキャンセルした上で、測定長4mm、測定速度を0.3mm/s、測定レンジ±400.0μmで計測した。
【0069】
【表3】
【0070】
表3に示す試料No.9の内面螺旋溝付管の断面の金属組織写真を図16に示し、同試料No.9の内面螺旋溝付管の外観であってオレンジピールを生じていない状態を図17に示す。図18に試料No.11の比較例で得られたオレンジピールのある内面螺旋溝付管の外観を示す。
【0071】
表3に示すようにフィンの根元部コーナーRを0.06mmとして製造した内面螺旋溝付管は、全面ファイバー組織、両面表層3〜5%再結晶組織であるいずれの試料においてもオレンジピールの発生が見られず、フィン倒れ角も小さくなった。
また、比較例において、押出素管の平均結晶粒径が大きい試料は、得られた内面螺旋溝付管の結晶粒径も大きくなり、フィン倒れ角も大きくなった。
次に、実施例で用いたコーナーR0.06mmの押出素管に替えて、コーナーR0.08mmの押出素管、0.04mmの押出素管を使用して同様に全面ファイバーの試料、両面表層3%再結晶組織の試料、両面表層5%再結晶組織の試料を作成してみたが、いずれの試料においてもフィン倒れ角が小さく、拡管率も優れていた。
【0072】
図16に示す実施例の内面螺旋溝付管は、得られた螺旋溝と溝間に形成されているフィンの形状が整っており、目的の形状のフィン及び螺旋溝を形成できた。また、図17に示すように内面螺旋溝付管の表面にオレンジピールなどの肌荒れは観察できなかった。
これに対し、図18に示す比較例の80μm超えの内面螺旋溝付管は、表面にオレンジピールと表される肌荒れを確認できた。
【0073】
図19は、本発明に係る内面螺旋溝付管を備えた熱交換器80の一例を示す概略図であり、冷媒を通過させるチューブとして内面螺旋溝付管81を蛇行させて設け、この内面螺旋溝付管81の周囲に複数のアルミニウム合金製フィン材82を平行に配設した構造である。内面螺旋溝付管81は、平行に配設したフィン材82を貫通するように設けた複数の透孔を通過するように設けられている。
図19に示す熱交換器の構造において内面螺旋溝付管81は、フィン材82を直線状に貫通する複数のU字状の主管81Aと、隣接する主管81Aの隣り合う端部開口どうしをU字形のエルボ管81Bで図19に示すように接続してなる。また、フィン材82を貫通している内面螺旋溝付管81の一方の端部側に冷媒の入口部86が形成され、内面螺旋溝付管81の他方の端部側に冷媒の出口部87が形成されることで図19に示す熱交換器80が構成されている。
【0074】
図19に示す熱交換器80は、フィン材82のそれぞれに形成した透孔を貫通するように内面螺旋溝付管81を設け、フィン材82の透孔に挿通後、拡管プラグにより内面螺旋溝付管81の外径を押し広げて内面螺旋溝付管81とフィン材82を機械的に一体化することで組み立てられている。
図19に示す熱交換器80に内面螺旋溝付管81を適用することで、熱交換効率の良好な熱交換器80を提供することができる。
【符号の説明】
【0075】
100…内面螺旋溝付管の製造装置、11…押出素管、11a…ストレート溝、11b…フィン、11E…矯正後の内面螺旋溝付管、11R…内面螺旋溝付管、20、28…巻き取り手段、21、21a、21b、21c…巻き取りロール、22…送りロール、23…ガイド板、24…押さえロール、25…モーター、26…軸線、30…引張り手段、31…ストレッチャー、32…ピンチロール、33…加熱炉(加熱手段)、40…引抜き手段、49…熱処理手段、50…製造装置、51…巻出ドラム、52…回転手段、53…引抜ダイス、54…ブレーキ装置、55…巻取ドラム(巻取装置)、56…ボビン、57…支持枠(支持体)、58、59…支持軸、60…脚部、80…熱交換器。
図1
図2
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