特許第6391141号(P6391141)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6391141-外部制御式ファン・クラッチ装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391141
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】外部制御式ファン・クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 35/02 20060101AFI20180910BHJP
【FI】
   F16D35/02 K
   F16D35/02 G
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-17033(P2014-17033)
(22)【出願日】2014年1月31日
(65)【公開番号】特開2015-143547(P2015-143547A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2016年12月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000120249
【氏名又は名称】臼井国際産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】久保田 智
(72)【発明者】
【氏名】菅原 大樹
【審査官】 星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第07886886(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ディスクを固着した回転軸体上に、軸受を介して支承された非磁性体のケースと該ケースに取着されたカバーとからなる密封器匣の内部に、駆動ディスクを内装するトルク伝達室を備え、前記駆動ディスクの内部を中空となして設けた環状の油溜り室の側壁面にトルク伝達間隙に通ずる少なくとも一つの油循環流通孔を有し、前記油循環流通孔を開閉する磁性を有する弁部材を備え、前記弁部材は駆動ディスクに取着された板バネにアーマチャーが取付けられた構成となし、前記回転軸体に軸受を介して支持した電磁石、同回転軸体の外周にリング形状の非磁性部材を介して配置したリング形状の磁性部材を備え、前記電磁石により前記弁部材を作動させて前記油循環流通孔を開閉制御する仕組みとなし、駆動側と被駆動側とのなすトルク伝達間隙部での油の有効接触面積を増減させて駆動側から被駆動側への回転トルク伝達を制御するようにしてなる外部制御式ファン・クラッチ装置において、前記環状の油溜り室内に当該油溜り室と同心の円弧状壁からなる仕切壁と該円弧状の仕切壁の一端を遮蔽する板状仕切壁とによって形成される油供給室を設け、該油供給室に前記油循環流通孔と油回収口を配置した構成とし、かつ該油供給室の円周方向領域を当該駆動ディスクの中心点Oと前記円弧状壁からなる仕切壁の両端部とを結ぶ線とにより形成される角度θが150度〜200度の範囲とし、又は該油供給室の容積を油溜り室の30〜40%の範囲とすることを特徴とする外部制御式ファン・クラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に自動車等における機関冷却用のファン回転を外部周囲の温度変化あるいは回転変化に追従して制御する方式の外部制御式ファン・クラッチ装置に係り、より詳しくは冷却用ファンが停止状態から回転状態へ移行する際に発生する当該冷却用ファンの不要な連れ回りを抑えることが可能な外部制御式ファン・クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のファン・クラッチ装置としては、車両の冷却ファンを駆動する粘性摩擦クラッチが知られている(特許文献1参照)。この粘性摩擦クラッチは、駆動ディスク及びハウジングと、環状の供給チャンバ(環状供給室)及び作業チャンバ(作動室)と、供給チャンバからのせん断流体(オイル)を作業チャンバに供給する供給装置及び作業チャンバからのせん断流体を供給チャンバに還流する還流装置を備え、供給チャンバの一部にせん断流体の貯蔵チャンバ(貯蔵室)を含み、この貯蔵チャンバは供給チャンバの他の部分により作業チャンバから離間されている構成となしたもので、前記供給チャンバは駆動ディスク内に配置され、前記貯蔵チャンバは環状セグメントからなり、又、貯蔵チャンバの環状セグメントが補充容器として形成され、供給チャンバが少なくとも1つの供給口と少なくとも1つの還流口(回収口)を含み、その供給口と還流口はそれぞれ前記供給装置と還流装置の一部を形成する等の特徴を有するものである。そして、このような構成を有する外部制御式ファン・クラッチ装置は、オイル供給室にオイル貯蔵室を設け、冷却用ファン停止時にオイルが供給口及び回収口よりオイル貯蔵室側から作動室側へ漏れるオイル量を減らすことにより、冷却用ファンが停止状態から回転状態へ移行する際に発生する当該冷却用ファンの不要な連れ回りを抑制する方式がとられている。
しかしながら、上記した従来の外部制御式ファン・クラッチ装置の場合は、冷却用ファン停止時にオイル貯蔵室にオイルを貯蔵できるため、作動室側へのオイルの漏れ量を減らすことはできるが、冷却用ファン停止時のオイル供給口及びオイル回収口の停止位置によっては、停止時にオイル貯蔵室内に貯蔵できないオイル量がオイル回収口及びオイル供給口から漏れるため、始動時の連れ回り抑制効果が十分に得られないという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US7,886,886B2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した従来の外部制御式ファン・クラッチ装置の欠点を解決するためになされたもので、冷却用ファン停止時のオイル供給口及びオイル回収口の停止位置に関わらず、始動時の連れ回りをより効果的に抑制することができる外部制御式ファン・クラッチ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る外部制御式ファン・クラッチ装置は、電磁石の磁束を効率よく弁部材のアーマチャーに伝えるためのリング形状の磁性体を電磁石と回転軸体との間に組込んだ構成となしたもので、その要旨は、駆動ディスクを固着した回転軸体上に、軸受を介して支承された非磁性体のケースと該ケースに取着されたカバーとからなる密封器匣の内部に、駆動ディスクを内装するトルク伝達室を備え、前記駆動ディスクの内部を中空となして設けた環状の油溜り室の側壁面にトルク伝達間隙に通ずる少なくとも一つの油循環流通孔を有し、前記油循環流通孔を開閉する磁性を有する弁部材を備え、前記弁部材は駆動ディスクに取着された板バネにアーマチャーが取付けられた構成となし、前記回転軸体に軸受を介して支持した電磁石、同回転軸体の外周にリング形状の非磁性部材を介して配置したリング形状の磁性部材を備え、前記電磁石により前記弁部材を作動させて前記油循環流通孔を開閉制御する仕組みとなし、駆動側と被駆動側とのなすトルク伝達間隙部での油の有効接触面積を増減させて駆動側から被駆動側への回転トルク伝達を制御するようにしてなる外部制御式ファン・クラッチ装置において、前記環状の油溜り室(オイル貯蔵室)内に当該油溜り室と同心の円弧状壁からなる仕切壁と該円弧状の仕切壁の一端を遮蔽する板状仕切壁とによって形成される油供給室を設け、該油供給室に前記油循環流通孔(油供給口)と油回収口を配置した構成とし、かつ該油供給室の円周方向領域を当該駆動ディスクの中心点Oと前記円弧状壁からなる仕切壁の両端部とを結ぶ線とにより形成される角度θが150度〜200度の範囲とし、又は該油供給室の容積を油溜り室の30〜40%の範囲とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る外部制御式ファン・クラッチ装置は、環状の油溜り室(オイル貯蔵室)内に円弧状仕切壁と板状仕切壁とによって形成される油供給室を設け、該油供給室に油循環流通孔(油供給口)と油回収口を配置することにより、冷却用ファン停止時に油溜り室側の油循環流通孔(油供給口)と油回収口からの作動室(トルク伝達室)側への油漏れ(オイル漏れ)を減少できるのみならず、油供給口及び油回収口の停止位置に関わらず、作動室への漏れオイル量を減少もしくは皆無にできるので始動時の連れ回りをより効果的に抑制することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係る外部制御式ファン・クラッチ装置の一実施例を示す縦断面図である。
図2】同上の外部制御式ファン・クラッチ装置の駆動ディスクを示す平面図である。
図3図2のA−A線上の縦断面図である。
図4】同上の外部制御式ファン・クラッチ装置の駆動ディスクに設けられた環状の油溜り室(オイル貯蔵室)を示す概略図である。
図5】同上の外部制御式ファン・クラッチ装置の駆動ディスクに設けられた環状の油溜り室の油供給口及び油回収口の停止位置別の油溜り状態を示す概略図で、(a)は油供給口及び油回収口が真下に位置する場合、(b)は油供給口及び油回収口が真上に位置する場合、(c)は油供給口及び油回収口が真横(左側)に位置する場合、(d)は油供給口及び油回収口が真横(右側)に位置する場合をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1図4に示す外部制御式ファン・クラッチ装置は、駆動部(エンジン)の駆動によって回転する回転軸体(駆動軸)1に、軸受13、14を介してケース2−1とカバー2−2とからなる密封器匣2が支承され、この密封器匣2内のトルク伝達室6内に回転軸体1に固着された駆動ディスク3が内装されている。この駆動ディスク3は、図2図4に示すように、内部を中空となして設けた環状の油溜り室(オイル貯蔵室)5の一端部にトルク伝達室6に通ずる略三角形状の窓孔7が設けられ、さらに前記略三角形状の窓孔7と反対側のディスク裏面側に後述する弁部材10の取付部11と、ディスク中央の軸孔9の外側に当該軸孔と同心円上に相対向する位置に円弧状のディスク支持脚部12が突出して設けられ、回転軸体1に密封器匣2を支承する軸受13、14間の回転軸体1に固着されている。そして又、前記駆動ディスク3には、前記環状の油溜り室5内に当該油溜り室と同心の円弧状壁からなる仕切壁5−2と該円弧状仕切壁の一端を遮蔽する板状仕切壁5−3とによって形成される油供給室5−1が設けられ、該油供給室の前記窓孔7の端部側の側壁面にトルク伝達間隙に通ずる少なくとも一つの油循環流通孔(油供給口)8と油回収口8−1が設けられている。なお、前記環状の油溜り室5内に設ける油供給室5−1の円周方向領域を角度θ(図4)で示すと、150度〜200度の範囲が好ましい。その理由としては、150度未満では油循環流通孔(油供給口)8及び油回収口8−1が真下に位置する場合、油溜り室内に貯蔵できない油のトルク伝達室内への漏れ量を効果的に減少させることができず、他方、200度を超えると油供給口及び油回収口が真下に位置する場合、油溜り室からのトルク伝達室側への油漏れ量は角度によっては油溜り室内に貯蔵できない油のトルク伝達室内への漏れ量を減少させることはできても、その角度が大きくなり過ぎると逆に油の流れが悪くなり油供給口に油がスムースに入らなくなるという支障をきたすためである。又、油供給室5−1を容積で規定すると、油溜り室5の30〜40%の範囲が好ましい。その理由は、前記角度で規定した場合と同様に、30%未満では油供給口及び油回収口が真下に位置する場合、油溜り室内に貯蔵できない油のトルク伝達室内への漏れ量を効果的に減少させることができず、他方、40%を超えると油の流れが悪くなり油供給口に油がスムースに入らなくなるという支障をきたすためである。図中、4はセパレートプレート、8−2は油回収経路である。
【0009】
駆動ディスク3に設けられた油循環流通孔8を開閉する油供給用の弁部材10は、板バネ10−1とアーマチャー10−2とからなり、当該弁部材のアーマチャー10−2が回転軸体1近傍に位置するように板バネ10−1基端部をディスク裏面側に設けた取付部11に捩子等により固着する。なお、弁部材10の板バネ10−1の基端部と反対側は駆動ディスク3に設けられた略三角形状の窓孔7からカバー2−2側に露出してその先端部が油循環流通孔8と相対向する位置にあることはいうまでもない。
【0010】
他方、密封器匣2の駆動部側には、回転軸体1に軸受15を介して支承されたリング状の電磁石支持体17にリング状の電磁石16が支持され、この電磁石16と前記弁部材10間の回転軸体1の外周に固定された筒状の非磁性体リング19の外周に第1磁性体リング18が配置され、さらに電磁石16の電磁石支持体17と回転軸体1との間に第2磁性体リング20が電磁石支持体17に略接するように回転軸体1に外嵌固定されている。なお、第2磁性体リング20は、電磁石16の磁束を効率よく弁部材のアーマチャー10−2に伝えるために設けたものである。
【0011】
上記構成のファン・クラッチ装置において、電磁石16がOFF(非励磁)の時はアーマチャー10−2が当該板バネ10−1の作用により駆動ディスク3の油循環流通孔8より離間することにより油供給室5−1内に設けられた該油循環流通孔8が開き、油溜り室5とトルク伝達室6が連通し、油溜り室5内の油が当該油溜り室5内に設けられた油供給室5−1よりトルク伝達室6内へ供給され、冷却用ファン(図示せず)が停止状態から回転状態へ移行する際に発生する冷却用ファンの不要な連れ回りが抑制される。他方、電磁石16がON(励磁)の時はアーマチャー10−2が当該板バネ10−1に抗して吸引されることにより、当該板バネ10−1が駆動ディスク3に圧接して油循環流通孔8が閉じられ、油溜り室5内の油がトルク伝達室6内へ供給されない。
【0012】
ここで、環状の油溜り室5内に設ける油供給室5−1内に油循環流通孔(油供給口)8と油回収口8−1を配置することにより、始動時の連れ回りをその油循環流通孔8と油回収口8−1の位置にかかわらず防止できる理由を図5に基づいて説明する。なお、図5中、斜線部は冷却用ファン停止時の油貯蔵量を示す。
図5(a)は油循環流通孔(油供給口)8と油回収口8−1が真下に位置する場合で、この場合油供給室5−1内には油が溜まっていないことから、冷却用ファン停止時に環状の油溜り室5内に貯蔵できない油のトルク伝達室6内への漏れ油量を減少させることができる。図5(b)は油循環流通孔(油供給口)8と油回収口8−1が真上に位置する場合で、この場合も図5(a)の場合と同様に、冷却用ファン停止時に環状の油溜り室5内に貯蔵できない油のトルク伝達室6内への漏れ油量を減少させることができる。図5(c)は油循環流通孔(油供給口)8と油回収口8−1が真横(左側)に位置する場合で、この場合も図5(a)(b)の場合と同様に、冷却用ファン停止時に環状の油溜り室5内に貯蔵できない油のトルク伝達室6内への漏れ油量を減少させることができる。さらに、図5(d)は油循環流通孔(油供給口)8と油回収口8−1が真横(右側)に位置する場合で、この場合も図5(a)(b)(c)の場合と同様に、冷却用ファン停止時に環状の油溜り室5内に貯蔵できない油のトルク伝達室6内への漏れ油量を減少させることができる。
なお、電磁石16がON(励磁)の時、磁気回路は電磁石16、第1磁性体リング18、アーマチャー10−2、回転軸体1及び第2磁性体リング20で構成され、磁束は電磁石16→第1磁性体リング18→アーマチャー10−2→回転軸体1→第2磁性体リング20の順に流れるので、電磁石16の磁束が効率よく弁部材10のアーマチャー10−2に伝えられ消費電力を低減できる。
【符号の説明】
【0013】
1 回転軸体(駆動軸)
2 密封器匣
2−1 ケース
2−2 カバー
3 駆動ディスク
4 セパレートプレート
5 油溜り室
5−1 油供給室
5−2 円弧状壁からなる仕切壁
5−3 板状仕切壁
6 トルク伝達室
7 窓孔
8 油循環流通孔
8−1 油回収口
8−2 油回収経路
9 軸孔
10 弁部材
10−1 板バネ
10−2 アーマチャー
11 弁部材取付部
12 ディスク支持脚部
13、14、15 軸受
16 電磁石
17 電磁石支持体
18 第1磁性体リング
19 非磁性体リング
20 第2磁性体リング
O 駆動ディスクの中心点
図1
図2
図3
図4
図5