(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391199
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】デコンプ装置を有したカムシャフト
(51)【国際特許分類】
F01L 13/08 20060101AFI20180910BHJP
F01L 1/04 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
F01L13/08 D
F01L1/04 B
F01L1/04 C
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-548101(P2017-548101)
(86)(22)【出願日】2016年1月27日
(65)【公表番号】特表2018-507983(P2018-507983A)
(43)【公表日】2018年3月22日
(86)【国際出願番号】EP2016051629
(87)【国際公開番号】WO2016146284
(87)【国際公開日】20160922
【審査請求日】2017年9月25日
(31)【優先権主張番号】102015204550.1
(32)【優先日】2015年3月13日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】エッキンガー・ローラント
【審査官】
首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭61−6614(JP,U)
【文献】
特開2000−257411(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第2177738(EP,A1)
【文献】
実開昭60−97308(JP,U)
【文献】
特開2008−64083(JP,A)
【文献】
特開2015−10492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 13/08
F01L 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのためのデコンプ装置を有したカムシャフト(1)であって、
回転により吸排気バルブと動作的に連係させることのできるカム(3)のベース円(2)内にバルブリフタ(4)が回転自在に支承されており、
バルブリフタは、カムシャフト(1)に対して同軸に設けられた回転自在に支承されたフライウェイト(5)と動作的に連係していることで、カムシャフト(1)が所定の回転数を超えるとバルブリフタ(4)が吸排気バルブとの動作領域にベース円(2)の輪郭を形成するようになるカムシャフトにおいて、
カムシャフト(1)が、潤滑剤の圧力を加えることのできる空室(6)をフライウェイト(5)の領域に有し、
カムシャフト(1)内には、半径方向の第一穴部(7)が空室(6)からフライウェイト(5)に向けて設けられており、
第一穴部(7)内に潤滑剤の圧力により動かすことのできるスライド移動自在の部材(8)が設けられていることを特徴とするカムシャフト。
【請求項2】
請求項1に記載のカムシャフトにおいて、空室(6)は、カムシャフト(1)の軸受部(9)の第二穴部(15)を介して潤滑剤が供給可能とされていることを特徴とするカムシャフト。
【請求項3】
請求項1または2に記載のカムシャフトにおいて、前記部材(8)は、バネ部材(10)の弾発力に抗して潤滑剤によりフライウェイト(5)に向かって移動可能とされていることを特徴とするカムシャフト。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のカムシャフトにおいて、フライウェイト(5)は、前記部材(8)のためのストッパ(11)を有していることを特徴とするカムシャフト。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のカムシャフトにおいて、前記部材(8)は、ニードルローラであることを特徴とするカムシャフト。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のカムシャフトにおいて、カムシャフト(1)は、エキゾーストカムシャフトであることを特徴とするカムシャフト。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のカムシャフトを有するエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載の特徴を持つデコンプ装置を有したカムシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
デコンプ装置(減圧装置)(Dekompressionsvorrichtung)付きカムシャフトに先行したのはデコンプレバー(Dekompressionshebel)であった。デコンプレバーは、より始動し易くするために筒内圧を下げるべく、特に単気筒2サイクルエンジンではシリンダヘッドにおけるいわゆる分離型のデコンプバルブを操作し、或いは4サイクルエンジンでは一または複数の排気バルブを開放する。この場合、デコンプレバーは、バルブ開放レバー(Ventilausheber−Hebel)とも称される。デコンプバルブは、エンジンの始動時にガスの一部をシリンダから逃がす。こうすることで、始動時にエンジンを空転するのに必要な力がかなり低減される。とりわけ、この種のデコンプ装置は古い自動車(特にオートバイ、原付バイク)の単気筒エンジンに使われ、時に小型車やディーゼル単気筒エンジン付きのトラクタでも用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1よりエンジン用オートデコンプ装置が公知である。それは、エンジンのカムシャフトとともに回転するフライウェイトを有するデコンプ装置であって、フライウェイトがプランジャリフト部材(Stoessel−Aushebeelement)を有し、このプランジャリフト部材が、低カムシャフト回転数時と停止状態時のスイングバック状態でバルブプランジャのカム接触面領域に突き出していて、バルブプランジャをバルブ開方向に移動させ、回転数増加時にスイングアウトするフライウェイトによりプランジャリフト部材がタペットのカム接触面との係合から外れた状態にされるというデコンプ装置である。
【0004】
さらに、特許文献2より、少なくとも一つの排気および吸気バルブを有するエンジン、特に単気筒ディーゼルエンジンのためのオートデコンプが公知とされており、このオートデコンプは、少なくとも一つのカムを有するカムシャフトによって制御され、エンジンの始動時における回転開始抵抗を減らすために排気バルブが通気される。オートデコンプは、減圧から圧縮に切り替えるためのスイッチング回転数未満で排気バルブを通気するために、完全自動型の、排気バルブのカムに係合するリフタ装置(持ち上げ装置)(Aushebevorrichtung)を有し、この装置が、弁座から排気バルブを外す働きをする。
【0005】
本発明に関連するさらに他のデコンプ装置付きカムシャフトが例えば特許文献3から公知とされている。
【0006】
これらの公知のデコンプ装置における欠点は、減圧機能が偶発的なクリック音を発生させる可能性があることであり、これがエンジンの騒音排出に関して不利に働く。このクリック音は、デコンプ装置の不安定なフライウェイトに起因するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第4221394号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第19636811号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0407699号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、耳障りなデコンプ装置のクリック音を無くす或いは少なくとも減らす手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1の特徴部に記載の特徴により解決される。
【0010】
カムシャフト内に組み込まれたスライド移動自在の部材に、潤滑回路から潤滑剤が供給される。エンジンがかかるとすぐに、このスライド移動自在の部材は遠心力によって半径方向外側に動かされる。同時に、スライド移動自在の部材は、潤滑剤の圧力によって支えられ、所望の位置に留まり、フライウェイトを外側に押す。このとき、フライウェイトは安定して開角位置(外方旋回位置)に保持され、本発明によればもはやクリック音が引き起こされることがない。従って、本発明に係る減圧機能の実施形態によりクリック音は防止されており、不快なエンジン騒音は発生しない。
【0011】
本発明のさらに有利な発展形態は従属請求項に記載されている。
【0012】
請求項2に係る実施形態を用いることで、スライド移動自在の部材をフライウェイト方向に押すのに十分な潤滑剤圧力を有する潤滑剤が常に十分存在することが保証される。
【0013】
請求項3に記載の手段は、デコンプ装置の全般的な安定化に役立つ。
【0014】
請求項4および5に記載の実施形態は、好ましい実施変形例である。
【0015】
請求項6に記載の実施形態は、特に好ましい実施変形例である。
【0016】
好ましくは、本発明による請求項7に記載のカムシャフトは、エンジンに組み込まれる。
【0017】
以下、三つの図を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明によるカムシャフトを立体的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、
図1乃至3において同一の部材には同一の符号を付すものとする。
【0020】
図1は、エンジン用のデコンプ装置付きのカムシャフト1を立体的に示す図である。カムシャフトは、それぞれベース円(短径部)2を持つ二つのカム3を有している。不図示の吸排気バルブとベース円2が動作的に連係している間は、吸排気バルブは閉じられている。それぞれのカム3は、吸排気バルブと直接的に又は間接的に不図示のバルブタペットを介して若しくはスイング・アーム式やシーソー式のロッカーアームを介して動作的に連係しており、カムシャフト1が回転することで、つまりはカム3も回転することで、吸排気バルブが操作可能になっている。
【0021】
一方のカム3のベース円2には、バルブリフタ(弁持上げ体)4(Ventilheber)が回転自在に支承されている。このバルブリフタは、カムシャフト1に対して同軸に配置されて回転自在に支承されたフライウェイト5と動作的に連係しており、カムシャフト1が所定回転数を超えてバルブリフタ4がフライウェイト5によって回されると、バルブリフタ4がベース円2の輪郭を呈するようになっている。これは、カムシャフト1が所定回転数を超えるとバルブリフタ4がほとんど働かない状態になり、吸排気バルブが全く正常に閉じたままになることを意味する。
【0022】
エンジンのスタート時若しくは規定回転数より低い回転数のときには、
図3から分かるように、フライウェイトはバネ部材10によって一姿勢位置に押さえられ、これによってバルブリフタ4が僅かに盛り上がった輪郭(0.1〜1.0mm)でカム3のベース円2よりも上に突出するようになっている。従って、吸排気バルブは、エンジンの始動から規定回転数まで、通常であれば閉鎖される位相にある間も僅かに開放され、これがエンジンのシリンダ内の減圧をもたらす。これにより、エンジンを遥かに容易に始動させることができる。
【0023】
本発明によるデコンプ装置付きのカムシャフト1は、当該カムシャフト1が、潤滑剤による圧力(潤滑剤圧)を加えることのできる空室6(
図2および
図3)をフライウェイト5の領域に有しており、カムシャフト1には、フライウェイト5の領域に空室6からの半径方向の第一穴部7が設けられており、この第一穴部7の中に、潤滑剤圧によって動かすことができるスライド移動自在の部材8が配置されていることを特徴とする。
【0024】
本実施形態では、カム3は、それぞれ軽量化のための凹部12を有している。
【0025】
図2は、本発明によるデコンプ装置付きのカムシャフト1を側面視して示している。
図2には、カム3のベース円側から視たカムシャフト1が示されている。看取できるのは、ここでもカム3の凹部12である。カム3同士の間には軸受部9が設けられており、そこに第三穴部15が設けられており、この第三穴部が空室6につながっている。エンジンが動いているときには、カムシャフト1を回転させて空室6に第三穴部15を介して潤滑剤を供給し、これにより空室6内に正圧が生じて、この圧力がスライド移動自在の部材8を第一穴部7内で半径方向外側に向かって押す。上記空室6は、例えばカムシャフト1を貫く軸線方向の穴部により形成することができる。この穴部は、カムシャフト1の端部において両側が閉鎖される。この閉鎖は、例えば封止蓋体によって、或いはカムシャフト端部において穴部に螺入されるネジによってなされるのでもよい。こうして、空室6を閉鎖することにより、空室6内に潤滑剤の圧力を蓄えて、スライド移動自在の部材8を所望の半径方向外側の開角位置に保持することができる。
【0026】
図2には、A−A線断面がスライド移動自在に設けられた部材8を通って紙面に垂直に描かれており、これが
図3に示されている。
【0027】
図3は、スライド移動自在の部材8とデコンプ装置とを通る
図2のA−A線断面を示す。
図3の中心に空室6が看取でき、第一穴部7内のスライド移動自在の部材8がその中に突き出ている。フライウェイト5は、回転軸14上に回転自在に支承されている。規定回転数を超えてからのカムシャフト1の回転時におけるフライウェイト5の回転方向が矢印により図示されており、それに連動したバルブリフタ4の回動も同じように示されている。同時に、スライド移動自在の部材8は、フライウェイト5のストッパ11上に当接している。
【0028】
バネ部材10は、押圧部材13を介し、カムシャフト1の停止状態において回転軸14を軸にしてフライウェイト5を押し、ストッパ11がスライド移動自在の部材8に当たっている。バネ部材10と反対の側では、フライウェイト5は、バルブリフタ4と動作的に連係している。
図3に示された状態、つまり、エンジンの停止状態では、バルブリフタ4は、カム3のベース円2の領域では、シリンダを減圧するためにバルブリフタがベース円2よりも0.1mm〜1.0mmほど突出するように形成されている。
【0029】
エンジンがかけられると、空室6内では潤滑剤の圧力が発生し、それと同時にスライド移動自在の部材8を同じく半径方向外側に押圧する潤滑剤の圧力に支えられてフライウェイト5が半径方向外側に回転する。このとき、フライウェイト5は、矢印に従って時計回りに回転してバルブリフタ4を回すことで、バルブリフタがベース円2においてベース円2そのものと同じ輪郭をとるようにする。こうして、規定回転数を超えた後は、減圧が確実に回避される。
【0030】
図3に示されているように、部材8は、好ましくは、バネ部材10の弾発力に抗して潤滑剤によりフライウェイト5の方に動かすことができる。さらに、フライウェイト5は、好ましくは、スライド移動自在の部材8のためのストッパ11を有する。さらに好ましい実施形態では、部材8はニードルローラである。デコンプ装置を有したカムシャフト1は、エンジンの動弁装置のエキゾーストカムシャフトとして特に好適に用いられる。
【0032】
カムシャフト1内に組み込まれたスライド移動自在の部材8には、潤滑回路の潤滑剤が供給される。エンジンがかけられるとすぐに、スライド移動自在の部材8(好適にはニードルローラ)は、空室6内に形成された潤滑剤の圧力によって半径方向外側に向かって動かされる。エンジンがかけられるとすぐに、スライド移動自在の部材8は、遠心力によって半径方向外側に向かって動かされる。それと同時に、スライド移動自在の部材8は、空室6内の潤滑剤の圧力によって支えられ、所望の半径方向外側の位置にとどまる。このとき、フライウェイト5は、安定して開角位置に保持され、音が気になることにはもはやならない。つまり、これは、本発明による方法ではデコンプ装置のクリック音がないということ、従って不快なエンジンの騒音がないということを意味する。
【符号の説明】
【0033】
1 カムシャフト
2 ベース円
3 カム
4 バルブリフタ
5 フライウェイト
6 空室
7 第一穴部
8 部材
9 軸受部
10 バネ部材
11 ストッパ
12 凹部
13 押圧体
14 回転軸
15 第二穴部