(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
略水平面を有する水平部材及び略鉛直面を有する鉛直部材を含み、前記略鉛直面が前記略水平面に対して略垂直になるように近接して前記水平部材と前記鉛直部材とが配置される施設において、前記水平部材の端部と前記鉛直部材の略鉛直面との間の目地に跨って設置される大沈下用可撓止水継手であって、
可撓止水継手部と嵩上げ部材とを含み、
前記可撓止水継手部は、前記目地を独自に止水可能な可撓継手であって、
伸縮性及び止水性を有する帯状の部材であって、幅方向の一方の側縁は前記水平部材の前記略水平面側に設置され、幅方向の他方の側縁は前記鉛直部材の前記略鉛直面側に設置される伸縮止水部材と、
前記伸縮止水部材の前記一方の側縁を前記水平部材に固定する水平部材用固定部材と、
前記伸縮止水部材の前記他方の側縁を前記鉛直部材に固定する鉛直部材用固定部材と、を含み、
前記鉛直部材用固定部材は、前記鉛直部材の沈下に対して、前記略水平面により鉛直部材用固定部材より低い位置へと移動することができない構造であり、
前記嵩上げ部材は、前記可撓止水継手部の嵩を上げる部材であって、前記水平部材の略水平面の端部と前記止水部材の水平部材側に設置された側縁との間に設置され、前記水平部材用固定部材で固定される、沈下許容量を増加させる平板状の嵩上げ部材を含む、
大沈下用可撓止水継手。
前記嵩上げ部材は、前記鉛直部材が前記水平部材よりも沈下した際に、前記鉛直部材用固定部材及び前記伸縮止水部材と前記嵩上げ部材とが干渉しない距離を前記略鉛直面から開けて設置される、
請求項1に記載の大沈下用可撓止水継手。
前記嵩上げ部材を、前記鉛直部材が前記水平部材よりも沈下した際に、前記鉛直部材用固定部材及び前記伸縮止水部材と前記嵩上げ部材とが干渉しない距離を前記略鉛直面から開けて設置する、
請求項3に記載の目地の耐震補強方法。
【背景技術】
【0002】
上下水処理施設の管廊、洞道、共同溝等、地中に構築されるコンクリート施設の壁部分の目地は、内外を止水すると共に、目地の両側のコンクリート構造物の不等沈下や地震時変位、温度変化に起因する壁部分の伸縮等を許容する必要がある。そのため、目地では、ゴムや合成樹脂製の止水板等を有する可撓性の伸縮継手をコンクリート施設の内側に設けた可撓止水構造が採られている。
【0003】
このような可撓止水構造として、例えば、特許文献1の
図7には、垂直面を有する既設躯体と水平面を有する新設躯体との間の目地に設置する継手構造が記載されている。この継手構造は、新設躯体の水平面に設置されるアンカーボルト付き鋼製枠材と、既設躯体の垂直面と新設躯体の水平面とを連結するゴム製止水板と、そのゴム製止水板の一方の側縁を既設躯体の垂直面とで挟むようにして押える垂直面用の押え板と、ゴム製止水板のもう一方の側縁を新設躯体の水平面とで挟むようにして押える水平面用の押え板とを備えている。また、特許文献1には、躯体工事完了後に、新設側及び既設側にそれぞれ埋め込まれたアンカーボルトでゴム製止水板を固定し、押え板をナットで締め付けて、ゴムの圧縮復元力で止水することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような可撓止水構造に対し、1995年の兵庫県南部地震以降、より大きな不等沈下を吸収できる構造が求められている。可撓止水構造の許容可能な沈下量を増加させるためには、例えば、特許文献1の
図7に記載の継手構造では、ゴム製止水板の張力を高めることがまず考えられる。それには、横断面が略M字状となっているゴム製止水板の中央部を長くしたり、より凹凸の多い波形状断面となるように、ゴム製止水板の横幅を増やしたりといった構造改良を行うことが考えられる。この場合、ゴム製止水板の強度を維持するために、ゴム製止水板を厚くしたり、補強布を用いたりする等の改良を行う必要がある。更に、鋼製枠材やアンカーボルトについても、改良したゴム製止水板に合わせて強度を上げるために、大きさや形状、材質を改良する必要が生じる。こうした改良を行うためには、開発コストや時間が掛かり、材料コストも増えるという問題がある。また、ゴム製止水板等が大きな不等沈下により構造物と接触するのを避けるために、そのゴム製止水板等が接触する構造物の部分を削ることも考えられるが、この場合には、コストや時間が掛かるといった問題の他に、構造物の強度が弱まるという問題がさらに生じる。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するため、既存規格の可撓止水継手の止水板や固定部材の構造や材質を変えることなく許容可能な沈下量を増加させた大沈下用可撓止水継手及びそれを用いた目地の耐震補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る大沈下用可撓止水継手は、
略水平面を有する水平部材及び略鉛直面を有する鉛直部材を含み、前記略鉛直面が前記略水平面に対して略垂直になるように近接して前記水平部材と前記鉛直部材とが配置される施設において、前記水平部材の端部と前記鉛直部材の略鉛直面との間の目地に跨って設置される大沈下用可撓止水継手であって、
可撓止水継手部と嵩上げ部材とを含み、
前記可撓止水継手部は、前記目地を独自に止水可能な可撓継手であって、
伸縮性及び止水性を有する帯状の部材であって、幅方向の一方の側縁
は前記水平部材
の前記略水平面側に設置され、幅方向の他方の側縁は前記鉛直部材の前記略鉛直面
側に設置される伸縮止水部材と、
前記伸縮止水部材の前記一方の側縁を前記水平部材に固定する水平部材用固定部材と、
前記伸縮止水部材の前記他方の側縁を前記鉛直部材に固定する鉛直部材用固定部材と、を含
み、
前記鉛直部材用固定部材は、前記鉛直部材の沈下に対して、前記略水平面により鉛直部材用固定部材より低い位置へと移動することができない構造であり、
前記嵩上げ部材は、前記可撓止水継手部の嵩を上げる部材であって、前記水平部材の略水平面の端部と前記止水部材の水平部材側に設置された側縁との間に設置され、前記水平部材用固定部材で固定される、沈下許容量を増加させる平板状の嵩上げ部材を含む。
【0008】
前記嵩上げ部材は、前記鉛直部材が前記水平部材よりも沈下した際に、前記鉛直部材用固定部材及び前記伸縮止水部材と前記嵩上げ部材とが干渉しない距離を前記略鉛直面から開けて設置されることが好ましい。
【0009】
本発明に係る前記大沈下用可撓止水継手を用いた目地の耐震補強方法は、
前記大沈下用可撓止水継手を使用し、
略水平面を有する水平部材及び略鉛直面を有する鉛直部材を含み、前記略鉛直面が前記略水平面に対して略垂直になるように近接して前記水平部材と前記鉛直部材とが配置される施設において、前記水平部材の端部と前記鉛直部材の略鉛直面との間の目地を耐震補強する、目地の耐震補強方法であって、
前記水平部材の略水平面の端部に平板状の嵩上げ部材を設置して沈下許容量を増加させる工程と、
伸縮性及び止水性を有する帯状の伸縮止水部材の幅方向の一方の側縁を前記嵩上げ部材の前記水平部材との反対面に設置し、幅方向の他方の側縁を前記鉛直部材の前記略鉛直面に設置する工程と、
前記嵩上げ部材及び前記伸縮止水部材の前記一方の側縁を水平部材用固定部材で前記水平部材に固定し、前記伸縮止水部材の前記他方の側縁を鉛直部材用固定部材で前記鉛直部材に固定する工程と、を含む。
【0010】
前記嵩上げ部材は、前記鉛直部材が前記水平部材よりも沈下した際に、前記鉛直部材用固定部材及び前記伸縮止水部材と前記嵩上げ部材とが干渉しない距離を前記略鉛直面から開けて設置することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、既存規格の可撓止水継手の止水板や固定部材の構造や材質を変えることなく許容可能な沈下量を増加させた大沈下用可撓止水継手及びそれを用いた目地の耐震補強方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図を参照して説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。また、方向の説明として、図中に示したX方向を左右方向、Y方向を前後方向、Z方向を上下方向とし、右側面、左側面といった用語を用いて説明する。
【0014】
本発明の大沈下用可撓止水継手は、略水平面を有する水平部材及び略鉛直面を有する鉛直部材を含み、前記略鉛直面が前記略水平面に対して略垂直になるように近接して前記水平部材と前記鉛直部材とが配置される施設において、前記水平部材の端部と前記鉛直部材の略鉛直面との間の目地に跨って設置される継手である。水平部材は、床、天井等の、略水平面を有する部材である。また、鉛直部材は、その略水平面に略垂直に配置された略鉛直面を有する、壁、柱、梁等である。水平部材および鉛直部材は、地盤の不等沈下や地震等の際に、それぞれ独立して水平方向や垂直方向に変位する。目地は、多くの場合、シーリング剤が充填されているが、充填されていなくてもよい。ここで、略水平面とは、水平面及び傾斜角45度未満の面を含み、好ましくは傾斜角20度未満、より好ましくは10度未満の面である。また、略鉛直面とは、鉛直面及び傾斜角45度以上の面を含み、好ましくは傾斜角70度以上、より好ましくは80度以上の面である。また、略垂直とは、面と面の角度が0度より大きく180度未満であり、好ましくは45度より大きく135度未満、より好ましくは70度より大きく110度未満、特に好ましくは80度より大きく100度未満である。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る大沈下用可撓止水継手を示す横断面図である。大沈下用可撓止水継手Aは、水平部材C1の右端部と鉛直部材C2の左側面との間の目地Mを跨ぐようにして設けられている。目地Mは、合成樹脂、モルタル等のシーリング剤が充填されている場合を示している。大沈下用可撓止水継手Aは、施設外からの水の流入を防止すると共に、地盤の不等沈下や地震等に伴う水平部材C1及び鉛直部材C2の相対変位の吸収を向上させる。
【0016】
大沈下用可撓止水継手Aは、伸縮止水部材1、嵩上げ部材2、水平部材用固定部材3a、及び鉛直部材用固定部材3bを含む。伸縮止水部材1、水平部材用固定部材3a、及び鉛直部材用固定部材3bは、既存規格の一例である。そのため、大沈下用可撓止水継手Aは、新たに施工する場合だけでなく、既設の伸縮止水部材1、水平部材用固定部材3a、及び鉛直部材用固定部材3bをそのまま再利用して耐震補強する場合にも適用することができる。
【0017】
伸縮止水部材1は、止水材4a及び4b、伸縮部材5、並びに補強布6を含む。伸縮止水部材1は、幅方向(
図1のX及びZ方向)の一方の側縁が嵩上げ部材2と共に水平部材用固定部材3aで水平部材C1に固定され、もう一方の幅方向の側縁が鉛直部材用固定部材3bで鉛直部材C2に固定される。
【0018】
伸縮止水部材1を構成する止水材4a及び4bは、板状部材であり、ブチルゴム製が好ましい。
図1に示すように、止水材4aは、嵩上げ部材2の上面に、止水材4bは、鉛直部材C2の左側面にそれぞれ設置され、水平部材C1及び鉛直部材C2を含んで構成される施設内への水の流入を防止する。
【0019】
伸縮止水部材1を構成する伸縮部材5は、帯状弾性部材であり、クロロプレンゴム製が好ましい。伸縮部材5の幅方向(
図1のX及びZ方向)の両側縁は、
図1に示すように、それぞれ止水材4a及び止水材4bに重ねるようにして設置される。また、伸縮部材5の幅方向の中央部5aは、
図1に示すように、突出した山型構造となっている。この伸縮部材5の幅方向の伸縮により、地盤の不等沈下や地震等に伴う水平部材C1と鉛直部材C2との間の相対変位が吸収される。また、止水材4a、止水材4b、及び伸縮部材5を設置する代わりに、伸縮部材5と同様の形状を有し、かつ止水材としての機能を併せ持った伸縮部材を使用してもよい。
【0020】
伸縮止水部材1を構成する補強布6は、布状部材であり、ポリエステル製が好ましい。
図1に示すように、伸縮部材5の施設内側の表面全体を覆うように設けられる。補強布6の中央部6aは、伸縮部材5の伸縮に耐えられるように、伸縮部材5よりも施設内側へと突出した形状となっている。補強布6は、伸縮部材5を圧力等による過度の膨出や損傷等から保護し、伸縮止水部材1の強度を高める。この他の形態として、補強布6は、伸縮部材5内に埋設されていてもよい。
【0021】
水平部材用固定部材3aは、押え部材7a、アンカーボルト8a、及びアンカーボルト8aに螺合するナット9aを含む。同様に、鉛直部材用固定部材3bは、押え部材7b、アンカーボルト8b、及びアンカーボルト8bに螺合するナット9bを含む。
【0022】
押え部材7aは、伸縮止水部材1の一方の側縁及び嵩上げ部材2を、押え部材7aと水平部材C1とで挟むようにして押える。同様に、押え部材7bは、伸縮止水部材1のもう一方の側縁を押え部材7bと鉛直部材C2とで挟むようにして押える。押え部材7a及び7bは、鋼製であるのが好ましい。
図1に示すように、押え部材7aは、内側向き垂直部7c、平板部7d、及び外側向き垂直部7eからなる。平板部7d及び外側向き垂直部7eと嵩上げ部材2とで形成される略凹状部分に、止水材4a、伸縮部材5、及び補強布6を含む伸縮止水部材1の側縁が収まるように設置される。押え部材7bも同様に、内側向き垂直部7f、平板部7g、及び外側向き垂直部7hからなり、平板部7g及び外側向き垂直部7hと鉛直部材C2とで形成される略凹状部分に、止水材4b、伸縮部材5、及び補強布6を含む伸縮止水部材1の側縁が収まるように設置される。内側向き垂直部7c及び7fは、伸縮部材5の中央部5a及び補強布6の中央部6aが圧力等により施設内側へとさらに膨出した時等に、伸縮部材5の中央部5a及び補強布6の中央部6aが固定部材3a及び3bと干渉するのを防ぐものである。また、外側向き垂直部7e及び7hは、伸縮部材5及び補強布6の側縁を損傷等から保護するものである。この他、押え部材7a及び7bは、それぞれ平板部7d及び7gのみからなるもの等、様々な形態を取ることができる。
【0023】
アンカーボルト8a及び8bは、ケミカルアンカーであっても、打ち込みアンカーであってもよい。
図1に示すように、アンカーボルト8aは、水平部材C1の上面に対して垂直な向きで水平部材C1に固定される。アンカーボルト8bは、鉛直部材C2の左側面に対して垂直な向きで鉛直部材C2に固定される。止水材4a、伸縮部材5、補強布6、及び押え部材7aは、アンカーボルト8aを挿通するための挿通孔をそれぞれ有しており、挿通されたアンカーボルト8aにナット9aを締め付けることにより水平部材C1に固定される。鉛直部材C2においても同様に、アンカーボルト8b及びナット9bにより、止水材4b、伸縮部材5、補強布6、及び押え部材7bが鉛直部材C2に固定される。
【0024】
嵩上げ部材2は、コンクリート、ゴム、合成樹脂等からなる板状部材であり、水平部材C1の上面に設置され、継手の沈下許容量を増加させる。ここで、嵩上げ部材2を使用せず、従来通りに伸縮止水部材1のみを設置した場合、伸縮止水部材1による沈下吸収が限界を迎えると、伸縮止水部材1は、押え部材7bの内側向き垂直部7fと水平部材C1とで伸縮部材5を挟みこむ状態となり、押え部材7bの内側向き垂直部7fは押え部材7aの平板部7dよりも低い位置へと移動することができないため、沈下許容量を超える不等沈下に対応することができない。しかし、嵩上げ部材2を設置すると、伸縮部材5及び押え部材7bの内側向き垂直部7fが押え部材7aの平板部7dよりも低い位置へと下方向に移動できるようになるため、沈下許容量を超える不等沈下にも対応できるようになる。従って、嵩上げ部材2の上下方向Zの高さHは、許容可能な沈下量を、伸縮止水部材1の従来の沈下許容量よりもどれだけ増加させたいかにより決定される。即ち、許容可能な沈下量が、嵩上げ部材2の高さHの分だけ増加することになる。例えば、沈下許容量が100mmである従来規格の伸縮止水部材1と高さ50mmの嵩上げ部材2とを用いた大沈下用可撓止水継手Aは、沈下量150mmの不等沈下に対応することができる。
【0025】
図2及び
図3は、不等沈下が生じた場合の、
図1の大沈下用可撓止水継手を示す横断面図である。嵩上げ部材2は、
図2及び
図3に示すように、嵩上げ部材2の右側面と鉛直部材C2の左側面との距離Dが、止水材4bの厚みと、伸縮部材5の厚みの約3倍と、押え部材7bの内側向き垂直部7fの左右方向Xの幅とを足した和Eよりも大きくなるように設置される。これにより、鉛直部材C2と水平部材C1との相対沈下量が伸縮止水部材1の従来の許容可能な沈下量を超える場合、即ち、沈下により押え部材7bの内側向き垂直部7fが押え部材7aの平板部7dよりも低い位置まで移動しようとする場合でも、伸縮部材5及び押え部材7bの内側向き垂直部7fが嵩上げ部材2に接触する等といった干渉が起こることはない。よって、大沈下用可撓止水継手Aは、目地の左右方向Xの幅の大小に関係なく使用できるが、
図2及び
図3に示すように、目地の左右方向Xの幅が距離Eよりも狭い場合でも許容可能な沈下量を増加させることができるため、目地の幅が狭い場合に好適である。
【0026】
図1において鉛直部材C2に固定される伸縮止水部材1の側縁は、既存規格である伸縮止水部材1のみを使用した従来の固定位置に比べて、嵩上げ部材2の高さHの分だけ上方向にずれた位置に固定される。即ち、
図1において、伸縮止水部材1、水平部材用固定部材3a、及び鉛直部材用固定部材3bは、従来の固定構造における相対位置関係は維持したままで従来よりも上方向に距離Hだけ移動した位置に固定された状態となる。このように各部材が従来の固定構造における相対位置関係を維持した状態となっているため、
図1の構造においても、既存規格の伸縮止水部材1を水平部材用固定部材3a及び鉛直部材用固定部材3bで固定した状態が従来と同様に安定したものとなり、各部材を構造や材質を変えることなく使用することができる。
【0027】
また、嵩上げ部材2の高さが大きく、アンカー強度が不足する場合には、固定部材は、
図4に示す水平部材用固定部材10a及び鉛直部材用固定部材10bのような形態であってもよい。水平部材用固定部材10aは、押え部材11a、アンカーボルト12a、及びアンカーボルト12aに螺合するナット13aの他に、さらに抜け防止部材14aを備える。同様に、鉛直部材用固定部材10bは、押え部材11b、アンカーボルト12b、アンカーボルト12bに螺合するナット13b、及び抜け防止部材14bを備える。押え部材11a及び11bは、
図4に示すように、それぞれ抜け防止部材14a及び14bに嵌合する形態をとる。また、押え部材11a及び11bは、伸縮部材5及び補強布6の側縁に前後方向Yに設けられた凹状部分と嵌合する形態をとる。伸縮部材5がこのような形態をとることにより、例えば、鉛直部材C2の沈下により、伸縮部材5及び補強布6が引っ張られて水平部材用固定部材10aから外れようとする力が働いたとしても、伸縮部材5及び補強布6の凹状部分の縁が押え部材11aに引っ掛かるため、伸縮部材5及び補強布6が水平部材用固定部材10aから外れて抜けるのを防止することができる。抜け防止部材14aは、止水材4a、伸縮部材5、補強布6、及び押え部材7aを嵩上げ部材2とで挟むように押え、アンカーボルト12a及びナット13aでこの抜け防止部材14aを水平部材C1に固定する。そのため、この形態の場合は、止水材4a、伸縮部材5、補強布6、及び押え部材7aに、アンカーボルト12aを挿通するための挿通孔は必要ない。同様に、抜け防止部材14bは、止水材4b、伸縮部材5、補強布6、及び押え部材7bを鉛直部材C2とで挟むように押え、アンカーボルト12b及びナット13bでこの抜け防止部材14bを鉛直部材C2に固定する。
【0028】
また、嵩上げ部材2の高さHを、増加させたい許容沈下量と等しくなる高さに設けることができない場合は、伸縮部材5を可能な限り伸張した状態で設置することにより、嵩上げ部材2の高さHを抑えることもできる。
【0029】
また、大沈下用可撓止水継手Aの止水性をさらに向上するために、
図5に示すように、嵩上げ部材2の左右方向Xの側面を止水モルタルやシーリング剤でシールするシール部15a及び15bが設けられていてもよい。この時、シール部15a及び15bの左右方向Xの両端部は、テーパー形状にして水平部材C1の上面に擦り付けられていてもよい。また、
図6に示すように、水平部材C1の上面に接する嵩上げ部材2の下面の一部を、ブチルゴム、水膨張ゴム等のシール材16で構成することで、止水性を向上させてもよい。
【0030】
また、大沈下用可撓止水継手Aは、
図6に示すように、嵩上げ部材2の右側の、水平部材C1の上面に、伸縮部材5を保護するためのクッション材17が設置されていてもよい。
【0031】
図7(a)及び
図7(b)は、それぞれ本発明に係る大沈下用可撓止水継手が適用される前の施設を示す部分断面斜視図及び適用された後の施設を示す部分断面斜視図である。大沈下用可撓止水継手Aは、水平部材C1の右端部と鉛直部材C2の左側面との間の目地Mを跨ぐようにして設けられる。水平部材C1及び鉛直部材C2は、例えば鉄筋コンクリートで造られており、上下水処理施設の管廊、洞道、共同溝等の施設を構成するのに用いられる。水平部材C1及び鉛直部材C2は、平板状であっても、柱状であってもよい。
【0032】
また、本発明に係る大沈下用可撓止水継手は、
図8に示すような、水平部材C1の右端部と鉛直部材C2の左側面との間から、水平部材C1の右端部と水平部材C3の左端部との間へと切り替わる部分の目地Mにおいても適用することができる。この場合、水平部材C3には、水平部材C1に設置された嵩上げ部材2と上下方向Zの高さが等しい嵩上げ部材18が設置される。嵩上げ部材18は、水平部材C3の左側面と嵩上げ部材18の左側面とが面一になるように、水平部材C3の左端と嵩上げ部材18の左端とを合わせて設置される。また、嵩上げ部材18は、
図8において嵩上げ部材2が水平部材C1の右端から左方向に所定の距離を設けて設置されるのと同様に、水平部材C3の左端から右方向に所定の距離を設けて設置されていてもよい。また、嵩上げ部材2及び18の前後方向Yの端部は、
図9に示すように前記の切り替わる部分から一定の距離をおいた位置でテーパー形状にして、それぞれ水平部材C1及びC3の上面に擦り付けられていてもよい。これにより、前後方向Yの嵩上げ部材のある部分とない部分の境界での止水性を保つことができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態に係る大沈下用可撓止水継手について説明した。
以下、本発明に係る大沈下用可撓止水継手を用いた目地の耐震補強方法の一例として、既設の伸縮止水部材1、水平部材用固定部材3a、及び鉛直部材用固定部材3bに対して適用する場合を説明する。
【0034】
まず、ナット9a及び9bを外して、既設の伸縮止水部材1、並びに押え部材7a及び7bを取り外す。水平部材C1に固定されたアンカーボルト8aはそのままの状態とし、嵩上げ部材2の挿通孔にアンカーボルト8aを挿通して嵩上げ部材2を設置する。この時、嵩上げ部材2の右側面と鉛直部材C2の左側面との距離Dは、止水材4bの厚みと、伸縮部材5の厚みの約3倍と、押え部材7bの内側向き垂直部7fの左右方向Xの幅とを足した和Eよりも大きくなっている。
【0035】
次に、鉛直部材C2に固定されたアンカーボルト8bを外し、元の固定位置よりも嵩上げ部材2の高さH分だけ上方向に移動した位置に固定し直す。
【0036】
最後に、取り外してあった伸縮止水部材1、並びに押え部材7a及び7bのそれぞれの挿通孔にアンカーボルト8a及び8bを元の通りに挿通し、ナット9a及び9bをそれぞれ締め付けて、伸縮止水部材1、並びに押え部材7a及び7bを固定すれば完成である。
【0037】
本実施形態の大沈下用可撓止水継手によれば、既存規格の伸縮止水部材及び固定部材を使用できるため、各部材の構造や材質を変えることなく、許容可能な沈下量が増加した可撓止水継手を、容易に、低コストかつ短期間で実現することができる。
【0038】
また、本実施形態の耐震補強方法によれば、構造物の一部を削る等、構造物に変形を施す必要がなく取り付けることができるため、構造物の形状や強度を保持したままで、可撓止水構造の許容可能な沈下量を増加させて、耐震補強できる。
【0039】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。