特許第6391314号(P6391314)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391314
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】香り卵の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20180910BHJP
【FI】
   A23L15/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-126870(P2014-126870)
(22)【出願日】2014年6月20日
(65)【公開番号】特開2015-23862(P2015-23862A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年12月22日
(31)【優先権主張番号】特願2013-130405(P2013-130405)
(32)【優先日】2013年6月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305027319
【氏名又は名称】山崎 吉恭
(74)【代理人】
【識別番号】100085648
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 幹人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 吉恭
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−047569(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3085874(JP,U)
【文献】 特開2001−238612(JP,A)
【文献】 特開2010−088348(JP,A)
【文献】 特開2010−268726(JP,A)
【文献】 特開平01−091760(JP,A)
【文献】 特開昭64−060355(JP,A)
【文献】 特開昭59−169470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産卵後24時間以内の鶏卵を、
1℃〜20℃の温度範囲に保持した密閉された領域内で、着香物質とともに冷風を循環させて着香物質の雰囲気内に所定時間保持し、
卵殻に存在する気孔を介して、卵白に含まれている炭酸ガスを排泄し、空気を取り入れるガス交換による鶏卵の呼吸作用によって、
着香物質の発散する香りを鶏卵の卵白に着香させることを特徴とする香り卵の製造方法。
【請求項2】
着香物質として、柑橘類を使用する請求項記載の香り卵の製造方法。
【請求項3】
着香物質として、果皮を粉砕して油胞を破壊した柑橘類を使用する請求項記載の香り卵の製造方法。
【請求項4】
柑橘類として、香酸柑橘類の柚子,レモン,直七,ライム,スダチ,ダイダイ,カボス,シークヮーサー,シトロン,ブッシュカンから選択した1又は複数を使用する請求項2又は3記載の香り卵の製造方法。
【請求項5】
着香物質として、果物,花,香草,茶葉その他の自然物から選択した1又は複数を使用する請求項記載の香り卵の製造方法。
【請求項6】
着香物質として、天然香料又は合成香料を使用する請求項記載の香り卵の製造方法。
【請求項7】
鶏卵として、産卵後に、洗卵,乾燥,殺菌の工程を経た鶏卵を使用する請求項1,2,3,4,5又は6記載の香り卵の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏卵に香りを付着させることによって、鶏卵特有の生臭さをなくすとともに、鶏卵に香りという新たな付加価値を付与するための香り卵の製造方に関する。
【背景技術】
【0002】
鶏卵は、栄養バランスがよいことから完全栄養食品とも言われ、日本人のソウルフードとして最も親しまれている食品の一つであり、生で(卵かけご飯,すき焼きの漬け卵等),焼いて(目玉焼きや卵焼き等),茹でて(茹で卵,ポーチドエッグ,温泉卵等),炒って(スクランブルエッグ等),とじて(玉子丼 ,親子丼等),包んで(オムライス等),各種料理の原材料として等々、春夏秋冬、日常的に多用途に食されている。なかでも、温かいご飯に生卵を掛けた卵かけご飯は、最もシンプルな卵料理として人気が高い。そのため、近時は卵かけご飯の専門店が開店したり、卵かけご飯専用の調味料が発売され、人気を博しており、「T.K.G.(Tamago Kake Gohan)」としても認知され、注目されている。
【0003】
このように多くの人が好む鶏卵ではあるが、一方において鶏卵、特に生の鶏卵が苦手という人も多数存在する。その理由の多くは、鶏卵の味そのものよりも、鶏卵特有の「生臭さい匂い(卵臭さ)」、特に卵白の生臭い匂いに起因していることが多い。鶏卵の匂いは飼料に起因することが多く、動物性の飼料を与えた場合には、より生臭さが強くなり、植物性の飼料を与えた場合には生臭さを減少させることができることが知られている。しかしながら、如何に植物性の飼料を与えようと、鶏卵そのものが本来持っている鶏卵特有の「生臭さい匂い(卵臭さ)」を消すことはできない。
【0004】
そこで、鶏卵の匂いを消すのではなく、積極的に香り付けをすることによって鶏卵の付加価値を高める手段として、有機溶媒に溶かした油性フレーバーエッセンスを飼料に混入する手段が提供されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−253749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示す飼料にフレーバーエッセンスを混入する手段は、飼料に起因することに他ならず、飼料による匂いと、フレーバーエッセンスの香りが混合するため、又鶏の個体差にも影響されるため、香り付けを人為的にコントロールすることが困難であり、意図した香り付けを安定して行うことができない。そのため、得られた鶏卵の香りにばらつきが生じてしまい、香りの品質を一定させて流通過程に供給することが困難である。
【0007】
鶏卵、特に生の鶏卵が苦手という人に、卵かけご飯等の鶏卵本来の美味しさを味わって貰うためには、鶏卵特有の「生臭さい匂い(卵臭さ)」を解決することが必須の課題であるが、現状では需要者,生産者,販売者ともに鶏卵は鶏卵であって、「生臭さい匂い(卵臭さ)」があるのは当然であるとして、頓着していないのが現状である。
【0008】
鶏卵を取り巻く需要者の要求は時代とともに多様化し、より安価な鶏卵を求める需要者層,価格が高くても安全や品質にこだわりを持つ鶏卵を求める需要者層,ブランドを指定して購入する需要者層等々様々である。また、鶏卵の生産者や販売者は厳格な衛生基準の下に日々工夫を重ね、美味しくて安全な鶏卵の生産に務めているが、少量生産であればともかく、流通過程に安定して供給することができる生産量の鶏卵では、一部のブランド卵を除いて他社の鶏卵との差別化,個性化に苦慮している現状にある。また、ブランド卵であっても、付加価値となるこだわり,違いが需要者に伝わりにくいため、より需要者に判りやすい付加価値を有する鶏卵の開発が求められている。
【0009】
そこで、本発明は上記した従来の鶏卵が有している課題を解決して、鶏卵特有の生臭さを解消するとともに、鶏卵に香りという新たな付加価値を意図した通りに安定して付与することのできる香り卵の製造方を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はその目的を達成するために、産卵後24時間以内の鶏卵を、1℃〜20℃の温度範囲に保持した密閉された領域内で、着香物質とともに冷風を循環させて着香物質の雰囲気内に所定時間保持し、卵殻に存在する気孔を介して、卵白に含まれている炭酸ガスを排泄し、空気を取り入れるガス交換による鶏卵の呼吸作用によって、着香物質の発散する香りを鶏卵の卵白に着香させる香り卵の製造方法を基本として提供する。
【0011】
着香物質として、柑橘類を使用し、着香物質として、果皮を粉砕して油胞を破壊した柑橘類を使用し、また、柑橘類として、香酸柑橘類の柚子,レモン,直七,ライム,スダチ,ダイダイ,カボス,シークヮーサー,シトロン,ブッシュカンから選択した1又は複数を使用する。
【0012】
更に、着香物質として、果物,花,香草,茶葉その他の自然物から選択した1又は複数を使用し、着香物質として、天然香料又は合成香料を使用し、鶏卵として、産卵後に、洗卵,乾燥,殺菌の工程を経た鶏卵を使用する。
【0013】
そして、出荷準備を完了した産卵後24時間以内の鶏卵の卵白に着香させた着香物質の香りを、少なくとも鶏卵の賞味期間である出荷後2週間は保持して発する香り卵を提供する。この香り卵は、卵白に付着させた着香物質の香りによって、鶏卵の持つ特有の臭みを緩和又は除去する。
【発明の効果】
【0014】
以上記載した本発明によれば、鶏卵、特には卵白に、着香物質の発散する香りを卵殻の気孔を介して付着させることができ、オーダーメイドの香りを有する鶏卵を提供することができる。そして、この香りによって鶏卵特有の「生臭さい匂い(卵臭さ)」をマスキングし、鶏卵が避けて通れなかった「生臭さい匂い(卵臭さ)」の問題を解消することができる。この香りは主として卵白に付着しているが、卵殻を割って取り出した全卵(卵白+卵黄)の状態はもとより、割る前の卵殻の状態においても卵殻の気孔を介して外部に発散され、人の嗅覚にて感知可能である。また、卵殻そのものにも人の嗅覚で感知可能程度に香りが付着している。一方、卵黄には人の嗅覚で感知可能な香りは付着していなかった。
【0015】
本発明によれば、鶏卵の香りを任意に設計できるため、鶏卵にオーダーメイドの香りという付加価値を付与することができる。特に近時注目されている卵かけご飯に使用した場合に、鶏卵の香りを楽しむという新たな楽しさを提供することができ、従来生臭さの点から実現していなかった鶏卵本来の味を楽しむことができる塩味の卵かけご飯等今まで実現できなかった新たな鶏卵の食べ方を実現することが可能となる。
【0016】
しかも、香りは産卵後に、鶏卵と着香物質を同じ雰囲気内に置くことによって、鶏卵に付着させるため、飼料にフレーバーエッセンスを混入する特許文献1に示す手段のように、飼料や鶏の個体差に影響を受けることがなく、香りが変質したり、ばらつきを生じることがなく、流通過程に安定して供給可能な安定した品質と量の香り卵を製造することができる。
【0017】
例えば、香りとして香酸柑橘類の柚子の果皮を使用した場合は、柚子の発散する爽やかな香気を鶏卵の殻の状態においても、殻を割った全卵の状態においても、又生の状態は勿論、加熱調理後であっても発散することが可能である。そして、香りを発散する着香物質は、柑橘類はもとより、果物,花,香草,茶葉その他の自然物、或いは天然香料又は合成香料を使用することができるため、目的に応じた香りをオーダーメイドで鶏卵に付着させることが可能である。しかも、この香りは少なくとも鶏卵の賞味期間である出荷後2週間は持続する。そのため、オーダーメイドの香りという斬新な付加価値を有する鶏卵を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明にかかる香り卵の製造方法の工程説明図。
図2】柚子の果皮の定性分析グラフ。
図3】本発明にかかる香り卵の全卵の定性分析グラフ。
図4】本発明にかかる香り卵の全卵の定性分析グラフ。
図5】本発明にかかる香り卵の全卵の定性分析グラフ。
図6】本発明にかかる香り卵の全卵の定性分析グラフ。
図7】本発明にかかる香り卵の全卵の定性分析グラフ。
図8】本発明にかかる香り卵の全卵の定性分析グラフ。
図9】本発明にかかる香り卵の卵白の定性分析グラフ。
図10】本発明にかかる香り卵の卵白の定性分析グラフ。
図11】本発明にかかる香り卵の卵白の定性分析グラフ。
図12】本発明にかかる香り卵の卵白の定性分析グラフ。
図13】本発明にかかる香り卵の卵白の定性分析グラフ。
図14】本発明にかかる香り卵の卵白の定性分析グラフ。
図15】検体2(本発明にかかる香り卵の卵白)の定性分析グラフ。
図16】検体1(従来の鶏卵の卵白)の定性分析グラフ。
図17】従来の鶏卵の全卵の定性分析グラフ。
図18】従来の鶏卵の卵白の定性分析グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下図面に基づいて本発明にかかる香り卵の製造方を説明する。本発明は上記目的を達成するために、鶏卵を、着香物質の雰囲気内に所定時間保持することによって、前記着香物質の香りを鶏卵に付着させることを基本手段としている。
【0020】
図1は本発明にかかる香り卵の製造方法の工程説明図である。ステップ1で養鶏場で鶏卵を産卵させ、ステップ2で目視によって、汚卵,破卵,柔卵等を除去する前検卵を行い、ステップ3で次亜塩素酸水を使用して殺菌し、ステップ4で温水を使用して洗卵し、ステップ5で乾燥させる。次にステップ6で再度目視による本検卵を行って汚卵,破卵等を除去し、ステップ7で紫外線殺菌装置を使用して殺菌を行い、ステップ8で異常卵検出装置を使用して、異常卵を除去して出荷の準備を完了し、ステップ9で香り付けを行う原料としての鶏卵Aを得る。従前はこのステップ9で得られた鶏卵Aを包装の上、出荷していた。
【0021】
鶏卵Aは生食適性を有していれば、その他に制約はないが、前記ステップ1〜8に示す養鶏場における出荷の準備を完了した出荷前の新鮮な鶏卵を使用することが望ましい。本実施形態では、産卵後24時間以内に出荷準備を整えた鶏卵Aを使用した。なお、鶏卵Aを産卵する鶏はケージ飼いであっても、放し飼いであってもよい。更に、鶏卵以外の生食適性を有する卵、例えば、鶉やアヒルの卵も鶏卵と同様の製造方法によって香り卵に製造することが可能である。
【0022】
次に鶏卵Aに香り付けを行うステップ10の工程を説明する。ステップ10において、鶏卵Aを着香物質αの雰囲気内に所定時間保持することによって、前記着香物質αの香りを鶏卵Aに付着させてステップ11に示す香り卵Bを製造する。産卵後24時間以内に出荷準備を整えた新鮮な鶏卵である鶏卵Aの卵白には炭酸ガスが多く含まれており、この炭酸ガスによってうすく白い色に濁っている。この炭酸ガスは鶏卵Aの多孔質な卵殻に存在する7,000〜17,000個の気孔を介して排泄されるとともに、気孔を介して空気が取り入れられる。即ち、鶏卵Aは、気孔を介して内部に発生した炭酸ガスを排泄し、空気を取り入れるガス交換による呼吸作用を行っている。そこで、着香物質αの雰囲気内に鶏卵Aを保持すると、鶏卵Aの呼吸作用によって、気孔から着香物質αの着香成分を含んだ空気が卵殻から内部に入り込んで、鶏卵A、特には鶏卵Aの卵白に香り付けして、ステップ11で香り卵Bを得ることができる。
【0023】
鶏卵Aと着香物質αとは、温度1℃〜20℃、好ましくは1℃〜10℃の密閉された領域内で、冷風を循環させて、24時間〜120時間保持することが適当である。温度が20℃を超えるとサルモネラ菌数との関係から鶏卵Aの品質保持に悪影響があり、一方、鶏卵Aには水分が含まれているため、0℃を割ると鶏卵A内の水分が凍り始めて卵殻が割れるおそれがあるためである。また、−2℃以下となると、鶏卵Aが凍ってしまう。そのため、温度設定の可能な冷蔵庫や倉庫を使用することが好ましい。鶏卵Aは呼吸をしているため、着香物質αの雰囲気内に置くだけで香りを付着させることが可能であるが、冷風を循環させることによって、その効果を高めることが可能である。
【0024】
鶏卵Aは、着香物質αの雰囲気内に24時間保持すれば、卵殻の気孔を介した呼吸作用によって、着香物質αの香りは主として鶏卵Aの卵白に付着する。また、卵殻にも人間の嗅覚で感知できる程度に着香物質αの香りを付着させることができる。その後保持時間を延長することによって、鶏卵Aへの香りの付着量が時間の経過とともに増加し、香りの濃度を高めることができるが、120時間保持すれば十分な香りが鶏卵Aに付着するし、出荷及び賞味期間との兼ね合いから120時間を限度とすることが適当である。
【0025】
着香物質αとしては、香りを発生し易い物質であれば特に限定はないが、鶏卵Aに付加価値を付与する観点からは、例えば柑橘類、中でも柚子,レモン,直七,ライム,スダチ,ダイダイ,カボス,シークヮーサー等の香酸柑橘類の果皮を乾燥させた物質を使用するのが適当である。本実施形態では、柑橘類、具体的には乾燥させた柚子の果皮を粉砕機を使用して粒状に粉砕して、柚子の果皮に含まれる油胞を破壊して精油を発散させるようにした。
【0026】
また、着香物質αとして、果物,花,香草,茶葉その他の自然物から選択した1又は複数を使用することができる。例えば、薔薇の花を使用すれば薔薇の香りが付着した華やいだ香りの香り卵Bを得ることができ、ハーブを使用すればハーブの爽やかで心安らぐ香りが付着した香り卵Bを得ることができる。また、醤油,味噌,蜂蜜,マヨネーズ等の各種調味料、胡椒,山椒,唐辛子,カレー粉等の各種香辛料、日本酒,焼酎,ウイスキー等の各種アルコール飲料、更には燻製の香り等も着香物質αとして使用可能である。
【0027】
更に、着香物質αとしては、天然物に限らず、天然物から生成した天然香料や、或いは人工的に合成した合成香料を使用することもできる。よって、提供する付加価値に応じて、任意に設計したオーダーメイドの香りを有する香り卵Bを提供することができる。
【0028】
鶏卵Aの呼吸作用によって着香物質αの香りが付着した香り卵Bは、主として卵白に香りが付着しており、卵殻の気孔を介して、割る前の卵殻の外部からもその香りを感知することができる。また、一方、卵黄には人の嗅覚で感知可能な香りは付着していない。更に、食用に際して香り卵Bを割ったときは卵白が外気に触れて、より濃厚な香りを醸し出す。なお、卵黄には香りが付着しにくいが、卵白と掻き混ぜた全卵からは、着香物質αの香りを人間の嗅覚で感知することができる。更に、卵白単独で、或いは全卵を加熱調理した後にも、着香物質αの香りを人間の嗅覚で感知することができる。さらに、卵白及び卵黄を取り出した卵殻そのものにも人の嗅覚で感知可能程度に香りが付着しており、仄かに着香物質αの香りを感知することができた。なお、卵黄単独からは着香物質αの香りを感知することはできなかった。このことから、着香物質αの香りは、主として卵白に付着していると考えられる。
【0029】
この香り卵Bの香りは鶏卵の賞味期限である出荷後2週間は十分に香りを保持することを確認している。そして、この香り卵Bに付着させた着香物質αの香りによって、鶏卵特有の「生臭さい匂い(卵臭さ)」をマスキングすることができ、緩和又は除去することができる。
【0030】
上記工程を経て製造された香り卵Bは、通常の鶏卵の出荷と同様にステップ12によって、所定個数毎に包装され、ステップ13によって出荷され、流通過程に供給される。
【実施例1】
【0031】
先ず、ステップ1〜ステップ8の処理を産卵後24時間以内に終えたステップ9に示す鶏卵Aを60個準備した。この鶏卵Aを上面が開口した2つのトレイにそれぞれ30個(6列×5列)ずつ収納し、2つのトレイを相互に隙間を空けて2段に重ね、容積2mの保管庫の上段に収納した。次に、着香物質αとして、果汁を搾汁した後の残滓をスライスして温風で乾燥させた柚子の果皮1Kgを準備し、この柚子の果皮を粉砕機を使用して粒状に粉砕し、油胞を破壊して精油を発散させるようにした後、前記保管庫の下段に収納した。そして、保管庫を密閉し、保管庫内の温度を10℃前後に保持するとともに、保管庫内に10℃前後の冷風を循環させて24時間保持した後に、着香物質αとしての柚子の香りを付着させた香り卵Bを製造した。なお、保管庫内は2時間程で柚子の香気に満たされていた。
【実施例2】
【0032】
保管庫内の保持時間を72時間とした以外は実施例1と同様の処理を施して香り卵Bを製造した。
【実施例3】
【0033】
保管庫内の保持時間を120時間とした以外は実施例1と同様の処理を施して香り卵Bを製造した。
【0034】
これらの実施例1〜実施例3にかかる香り卵Bに着香物質αとしての柚子の香りが付着していることを確認するため、次の実験を高知県工業技術センターに委嘱して行った。先ず、着香物質αとした柚子の果皮0.1gをヘッドスペース付ガスクロマトグラフ質量分析計で測定した。その結果を図2に示す。柚子の香気成分には種々の成分があるが、本実験では柚子を始め柑橘類の果皮に多く含まれ、その香りを構成する代表的物質の一つであるリモネン(limonene)の有無を基準として柚子の香りが香り卵Bに付着しているか否かを基準とした。図2に示すように、柚子の果皮には、リモネンのピークが検出された。
【0035】
一方、図17は柚子の香りを着香する前の従来の鶏卵Aの全卵0.15gを、図18は柚子の香りを着香する前の従来の鶏卵Aの卵白0.15gを、前記した柚子の果皮と同様の条件でガスクロマトグラフを使用して分析した定性分析グラフである。図17図18に示すように、リモネンのピークは検出されなかった。なお、全卵とは、卵殻を割って取り出した卵白と卵黄を撹拌したものである。その結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
ステップ10に示す着香工程を終了した日に実施例1〜3にかかる香り卵Bの全卵0.15gと卵白0.15gをそれぞれ前記した柚子の果皮と同様の条件でガスクロマトグラフを使用して分析した定性分析グラフを図3図5(全卵)と図9図11(卵白)に示す。図3図5図9図11に示すように、いずれのグラフにおいてもリモネンのピークが検出されており、実施例1〜3の全卵,卵白にはステップ10に示す着香工程を行うことによって、柚子の香りが付着し、柚子の香りを発散していることが判る。実施例1に示すように、着香物質αとしての柚子の果皮との保持時間が24時間あれば、十分に柚子の香りを鶏卵Aに付着させることができる。そして、保持時間が72時間,120時間と長くなるにつれて、付着する香りの量は増加しており、120時間保持すれば十分な柚子の香りが鶏卵Aに付着していることが判る。
【0038】
上記実験に加えて、香り卵Bにおける着香物質αとしての柚子の香りの付着状況の詳細なデータを入手するために食品分析の専門機関である「日本認証サービス株式会社(神奈川県横浜市都筑区茅ケ崎東4丁目5番17号:http://www.pure-foods.co.jp/)に依頼して検査を行った。検査内容は次の通りである。通常の卵である鶏卵Aの卵白を検体1、実施例2にかかる香り卵Bの卵白を検体2とし、検体1及び検体2をサンプル瓶にそれぞれ10g採取し、室温で3時間吸着処理を行った後、加熱脱着装置付きGC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)を用いて吸着した臭気成分を分析した。臭気成分の解析については本検査で使用したGC/MSに予め登録されている標準マススペクトルを用いて自動解析を行った。
【0039】
日本認証サービス株式会社からは、2013年6月4日付けで報告書番号:N060924として下記の検査結果が報告された。図15は検体2(本発明にかかる香り卵の卵白)の定性分析グラフ、図16は検体1(従来の鶏卵の卵白)の定性分析グラフであり、これらのグラフ及びそのGC/MS分析の解析結果を示す表2とともに、次の所見が述べられていた。該所見に示す通り、検体2、即ち香り卵Bには、柚子の香りが付着していることが明りょうとなった。
【0040】
【表2】
【0041】
「日本認証サービス株式会社の所見」
「本検査において、検体2からは、検体1には認められない1-ブタノール,ミルセン,ピネン,リモネン,γ−テルピネン,o−シメン,3−カレン,p−シメネン,リナロール,カプロン酸,ヘプタン酸,オクタン酸,ノナン酸と推定される臭気成分が特異的に検出された。また、検体1及び検体2のいずれの検体においても、ゲラニオール,ネロール,酢酸リナリル,デカナール,ヌートカトン,シトラール,ベルガプテンと推定される臭気成分は認められなかった。」
【0042】
検体2から特異的に検出された臭気成分は、表3に示すようにそれぞれテルペン類又は脂肪族カルボン酸に分類される。また、検体2から特異的に検出された臭気成分の概要は表4に示す通りである。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
次に、香りの継続性を確認するためにステップ10に示す着香工程終了後2週間を経過した実施例1〜3にかかる香り卵Bの全卵0.15gと卵白0.15gをそれぞれ前記した柚子の果皮と同様の条件でガスクロマトグラフを使用して分析した定性分析グラフを図6図8(全卵)と図12図14(卵白)に示す。図6図8図12図14に示すように、いずれのグラフにおいてもリモネンのピークが検出されており、実施例1〜3の全卵,卵白にはステップ10に示す着香工程を行うことによって、鶏卵の賞味期間である出荷後2週間は継続して香りを発散することが判る。
【0046】
図3図8に示す全卵と図9図14に示す卵白とでは、卵白の方がリモネンの付着量が多いことから、柚子の香りは主として卵白に付着していることが判る。なお、実施例1〜実施例3にかかる香り卵Bから全卵を取り出した後の卵殻のみをガスクロマトグラフを使用して分析したところ、リモネンのピークは検出されなかった。そこで、ステップ10に示す着香工程を終了した日、及び2週間を経過した実施例1〜3にかかる香り卵Bの卵殻のみを人間の嗅覚によって香りを嗅いだところ、爽やかな柚子の香りを感知することができた。そのため、ガスクロマトグラフではリモネンのピークは検出されなかったが、人間の嗅覚では卵殻にも柚子の香りが付着していることが判った。
【0047】
さらに、実施例1〜実施例3から全卵を取り出すために卵殻を割る前に、ステップ10に示す着香工程を終了した日、及び2週間を経過した日における実施例1〜3にかかる香り卵Bを卵殻のまま人間の嗅覚によって香りを嗅いだところ、爽やかな柚子の香りを卵殻のみの香りよりも強く感知することができた。これは、卵殻に付着した柚子の香りとともに、卵白に付着した香りが卵殻の気孔を介して外部から感知できていると考えられる。よって、卵殻への香りの付着の有無にかかわらず、卵白に付着した香りによって、卵殻を割る前、即ち流通段階、或いは調理前の状態においても香り卵Bから柚子の香りを感知することができる。これらの結果をまとめて表5に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
次に、本発明にかかる香り卵が香りによって鶏卵特有の生臭さをなくすとともに、鶏卵に香りという新たな付加価値を付与した新規な鶏卵として需要者に認知されるか否かを確認するために官能試験を行った。官能試験は、柚子の香りを着香させるためのステップ10に示す着香工程を終了した日に実施例2の香り卵Bの卵白及び全卵と、柚子の香りを着香する前の従来の鶏卵Aの卵白及び全卵を試料として行った。試験方法は高知県工業技術センター食品試作室において、無作為に抽出した成人男女38名(男性10名,女性28名)をパネラーとして、2種類の試料を与え、香りや味などについて好ましいものを選ばせる「2点嗜好試験法」によって行った。その結果を表6,表7に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
【表7】
【0052】
パネラーが38名の場合、5%有意差のある数値は表8に示すように26となる。そこで、表6,表7において、香り卵Bが26以上の数値を得た項目を有意差ありとして○印を付した。
【0053】
【表8】
【0054】
卵白については、表6に示すように、香り卵Bでは、柚子に起因する柑橘類の香りを殆どのパネラーが感じ、鶏卵特有の生臭さを柑橘類の香りで解消することができ、殆どの人が従来の鶏卵Aに比較して生臭さを感じないと判断している。そして、これらの2つの項目の数値34,36は5%有意差のあると判断できる26を大きく超えている。その結果、総合的にも香り卵Bの方が鶏卵Aに比べて31:7という大差で支持を得ており、香り卵Bは香りという新たな付加価値を意図した通りに安定して有していると判断できる。
【0055】
全卵については、表7に示すように、香り卵Bでは、柚子に起因する柑橘類の香りを殆どのパネラーが感じているが、鶏卵特有の生臭さについては5%有意差のある数値である26に僅か足りない23であった。それでも、鶏卵特有の生臭さを柑橘類の香りで解消することができ、従来の鶏卵Aに比較して生臭さを感じないと判断しているパネラーが圧倒的に多い。その結果、総合的にも香り卵Bの方が鶏卵Aに比べて24:13いう大差で支持を得ており、香り卵Bは香りという新たな付加価値を意図した通りに安定して有していると判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、鶏卵の香りを任意に設計できるため、鶏卵にオーダーメイドの香りという付加価値を付与することができる。特に近時注目されている卵かけご飯に使用した場合に、鶏卵の香りを楽しむという新たな楽しさを提供することができ、従来生臭さの点から実現していなかった鶏卵本来の味を楽しむことができる塩味の卵かけご飯等今まで実現できなかった新たな鶏卵の食べ方を実現することが可能となる。
【0057】
しかも、香りは産卵後に、鶏卵と着香物質を同じ雰囲気内に置くことによって、鶏卵に付着させるため、飼料にフレーバーエッセンスを混入する特許文献1に示す手段のように、飼料や鶏の個体差に影響を受けることがなく、香りが変質したり、ばらつきを生じることがなく、流通過程に安定して供給可能な安定した品質と量の香り卵を製造することができる。
【0058】
例えば、香りとして香酸柑橘類の柚子の果皮を使用した場合は、柚子の発散する爽やかな香気を鶏卵の殻の状態においても、殻を割った全卵の状態においても、又生の状態は勿論、加熱調理後であっても発散することが可能である。そして、香りを発散する着香物質は、柑橘類はもとより、果物,花,香草,茶葉その他の自然物、或いは天然香料又は合成香料を使用することができるため、目的に応じた香りをオーダーメイドで鶏卵に付着させることが可能である。しかも、この香りは鶏卵の賞味期間である出荷後2週間は持続する。そのため、オーダーメイドの香りという斬新な付加価値を有する鶏卵を提供することができる。
【符号の説明】
【0059】
A…鶏卵
B…香り卵
α…着香物質
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