【実施例】
【0016】
次に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0017】
試験例1
培養細胞にAPPとTMEM30Aを共発現させた。すなわち、アフリカミドリザル由来COS−7細胞に蛍光タンパク質Venusをカルボキシ末端に融合させたAPP−Venus、及びアミノ末端に蛍光たんぱく質mCherryを融合させたTMEM30Aを、Fugene HD(プロメガ)を用いて遺伝子導入を行った。遺伝子導入24時間後の細胞を4%パラホルムアルデヒドを含むリン酸緩衝液で固定し、水溶性封入剤により観察用サンプルを作成した。APPとTMEM30Aの共発現は、蛍光顕微鏡により確認した(
図1、A)。培養細胞中の小胞の大きさと、APPとTMEM30Aの共発現を測定した(
図1、B)。その結果、APPとTMEM30Aの共発現により、小胞が肥大化することが判明した(
図1、B)。
【0018】
COS−7細胞にAPPと蛍光たんぱく質CFPをアミノ末端に融合させたTMEM30AをFugene HDを用いて遺伝子導入した。遺伝子導入24時間後の細胞をAPP抗体 (APP(C):IBL社)、初期エンドソームマーカーであるRab−5抗体(D−11:サンタクルズ社)を用いて免疫染色を行った。
その結果、(
図2)TMEM30AとAPPの共発現により、小胞の肥大化が確認されるとともに、Rab−5が肥大化した小胞に集積する事が判明した、すなわちTMEM30AとAPPの共発現により肥大化した小胞はエンドソームとしての性質を持つ事がわかった。
【0019】
試験例2
野生型マウスの脳と、培養細胞(APPとTMEM30Aの共発現細胞)における、TMEM30AとAPPの相互作用を検討した。すなわち、8週齢の野生型マウス脳海馬、またはCOS−7にAPPとCFP融合TMEM30AをLipofectamine2000(Life Technologies社)で遺伝子導入し、48時間後の細胞を、1%CHAPSを含む溶解緩衝液(50mM HEPES,pH7.4,150mM NaCl,1mM EDTAにプロテアーゼ阻害剤カクテルを加えたもの)で溶解し、マウス海馬はTMEM30Aの抗体、培養細胞はGFP抗体(3E6 Life Technologies社)を用いて免疫沈降実験を行った。
その結果、マウスでも共発現細胞でも、TMEM30AはAPPと結合し、その結合はβCTF特異的であることがわかった(
図3)。
【0020】
試験例3
TMEM30Aの細胞外ドメインをGSTタンパク質と融合したタンパク質を大腸菌内で発現させ、大腸菌を1%TritonX 100を含むリン酸緩衝液において溶解させた後、グルタチオンセファロースビーズを添加し、GST融合タンパク質をビーズに吸着させ、ビーズを3回洗浄したのち使用した。COS−7細胞にAPPのスウエーデン型変異、または人工的なβCTFであるSC100を遺伝子導入し、1%CHAPSを含む溶解緩衝液に溶解したのち、溶解緩衝液で平衡化した融合タンパク質の吸着したビーズを添加した。コントロールとしてGSTを吸着したビーズを使用した。4℃下で1時間穏やかに攪拌を行った後、1%CHAPS を含む溶解緩衝液でビーズを3回洗浄し、非結合タンパク質を除去した。ビーズに吸着したタンパク質をレムリサンプル緩衝液により溶出した。各サンプルはイムノブロット法により解析した。
その結果、βCTFはTMEM30Aの細胞外ドメインに直接結合することが判明した(
図4)。
【0021】
試験例4
COS−7細胞にAPP単独、またはAPPとCFP融合TMEM30AをLipofectamine2000により遺伝子導入し、遺伝子導入48時間後のAPPの代謝をイムノブロット法により解析した。APPの代謝解析はAPPのカルボキシ末端抗体(C12C15)もしくはβCTF特異的抗体(82E1:IBL社)により行った。
その結果、TMEM30AとβCTFとの共発現は、APP及びβCTFを有意に蓄積することが判明した(
図5)。
【0022】
試験例5
COS−7細胞にAPPとCFP融合TMEM30AをFugene HDにより遺伝子導入を行い、遺伝子導入24時間後の細胞を免疫染色により観察した。APPカルボキシ末端抗体(mc99(80−90);ミリポア社)、後期エンドソームマーカーであるRab−7(D95F2;Cell signaling社)、リサイクリングエンドソームマーカーであるRab−11(D4F5;Cell signaling社)を用いた。
その結果を
図6に示す。
肥大化したエンドソームは各種エンドソームマーカーが集積(通常では局在は異なる)していた(
図6A、B)。またLysosomeマーカー(Lysotracker:Lifetechnologies社)と一致しなかったため(
図6C)、Lysosomeへの移行が阻害されている可能性を考えた。LysosomeでAPPを分解するβカテプシンの阻害剤の効果を検証した結果、APP単独発現では阻害剤処理によりAPP−CTFが蓄積するが、TMEM30Aとの共発現でもともと蓄積したAPP−CTFは阻害剤処理により変化しない、この結果はTMEM30Aとの共発現でLysosome分解低下が起こっていた事を示しており、APPのLysosome分解が低下するとするTraffic jam仮説と矛盾しない。
【0023】
試験例6
Aβ結合化合物であるクルクミンとタキシフォリンを用いて、TMEM30AとβCTFの結合阻害、βCTFの蓄積性を検討した。まず毒性評価のため、COS−7細胞にクルクミン(50、100μM)、タキシフォリン(100、200μM)を加え8時間後、アラマーブルー反応液を含む培地で1時間培養し、培地に放出される蛍光物質の量をコントロール細胞(溶媒のみ加えた細胞)の値により規格化して検討した。次にCOS−7細胞にAPPとCFP融合TMEM30AをLipofectamine2000を用いて共発現させ、24時間後にクルクミン(50μM)タキシフォリン(100μM)を添加し、8時間培養した。サンプルはレムリサンプル緩衝液で溶解し、イムノブロット法により解析した。COS−7細胞に遺伝子導入したβCTF(SC100)を1%CHAPSを含む細胞溶解緩衝液により溶解し、溶解液をクルクミン(50μM)、タキシフォリン(100μM)で前処理を行い、30分後にGST融合TMEM30A細胞外ドメインを吸着させたグルタチオンセファロースビーズを添加し、1時間4℃で穏やかに攪拌した。ビーズに吸着したタンパク質をレムリサンプル緩衝液により溶解してイムノブロット法により解析した
その結果、Aβ結合化合物(
図7、A)は、TMEM30AとβCTFの相互作用を阻害し(
図7、F)、細胞毒性が軽微な(10%未満)濃度で(
図7、B)APP−βCTFの蓄積を減少させた(
図7C〜E)。
【0024】
試験例7
クルクミンとタキシフォリンが、TMEM30AとAPP共発現系に及ぼす作用について検討した。COS−7細胞にVenus融合APP、及びmcherry融合TMEM30AをFugene HDにより遺伝子導入した。遺伝子導入24時間後、クルクミン(50μM)、タキシフォリン(100μM)を含む培地で8時間培養した。
その結果、TMEM30AとAPPの共発現によりAPP発現蛍光強度が強くなるが、クルクミンとタキシフォリンは、いずれも、その蛍光強度を低下させた(
図8)。