(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
合成樹脂からなる中層と、その両面上に形成された表面層とが積層されたウエハ保護フィルムであって、該表面層は、ポリエチレン樹脂を主成分とし表面層を構成する樹脂成分の結晶化度が41〜70%であって、カーボンブラックを10〜30重量%含むことを特徴とするウエハ保護フィルム。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ(以下、「ウエハ」とする)は、一般には、シリコンをインゴットと呼ばれる円柱状に結晶成長させたものを、薄くスライスした円盤状のものであり、2〜12インチ程度が主流である。このウエハの表面に回路パターンを焼き付けてICチップが製造される。通常、一枚のウエハには同じICチップの回路パターンがいくつも並べられ、露光やエッチング処理が施された後、細片に切断され、ICチップとなる。
【0003】
ところで、上記インゴットをスライスしてウエハを作成する工程、ウエハに回路を形成する工程、回路が形成されたウエハを切断しICチップをパッケージする工程は、異なる場所で行なわれることが多い。
そのため、通常は、ある工程が行なわれる場所から他の工程が行なわれる場所へのウエハの運搬には、専用の容器が使用されている。
【0004】
上記の専用の容器は、例えば複数枚のウエハを積み重ねて収納するものであるが、積み重ねされたウエハ同士が接触すると擦れによって傷が付くため、これを防止するために各ウエハの間にウエハ保護フィルムを介在させる必要がある。
ウエハ保護フィルムは、通常、ウエハとウエハとの間に直接挟まれることにより使用される合成樹脂製のフィルムであり、これまでに、合成樹脂製のシートの表裏面に多数の凸部と多数の凹部が交互に配置されるように賦形された厚さ80〜130μmウエハ保護フィルム(特許文献1)、また、このような凹凸のあるウエハ保護フィルムとして高密度ポリエチレンに加え更に直鎖状低密度ポリエチレンが含まれたウエハ保護フィルムが提案されている(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この種のウエハ保護フィルムは、基本的に、合成樹脂製のシートからなるものであることから、ウエハとウエハ保護フィルムとの摩擦により静電気が発生し、ウエハ及びウエハ保護フィルム自体に埃等の粉塵が付着しやすいものである。
そこで、ウエハとウエハ保護フィルムとの摩擦による静電気の発生を抑制することを目的として、ウエハ保護フィルム自体に帯電防止性能を付与すること、例えば、ウエハ保護フィルムを構成する合成樹脂にカーボンブラック等を配合させることが考えられている。ウエハ保護フィルムは、搬送形態によっては、帯電防止性能よりもさらに低い表面抵抗値(導電レベル)が求められるが、カーボンブラックで導電レベルの表面抵抗値を実現するためには、多量に添加する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、斯かる事情を考慮しなされたものであり、摩擦による静電気の発生を抑制することを目的に、表面層を構成する樹脂成分の結晶化度を35〜70%とすることにより、導電レベルの表面抵抗値を実現可能とし、そしてこの知見に基づき完成したものである。よって本発明は、以下を要旨とする。
(1)合成樹脂からなる中層と、その両面上に形成された表面層とが積層されたウエハ保護フィルムであって、該表面層は、ポリエチレン樹脂を主成分とし表面層を構成する樹脂成分の結晶化度が
41〜70%であって、カーボンブラックを10〜30重量%含むことを特徴とするウエハ保護フィルム。
(2)前記表面層がメタロセン触媒で重合されたポリエチレン樹脂を含んでなることを特徴とする(1)に記載のウエハ保護フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明のウエハ保護フィルムは、ウエハ搬送時において、ウエハの傷付きを確実に防止できる上、ウエハ保護フィルムに含まれるカーボンブラックの脱落によるウエハの汚染を有効に防ぐことができる。
さらに、帯電防止性能あるいは導電性能を有しているためにウエハ搬送容器中でウエハとウエハ保護フィルムが接触しても、埃等の粉塵がウエハに付着しにくいものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のウエハ保護フィルムは、合成樹脂からなる中層と、その両面上に形成された表面層とが積層されたウエハ保護フィルムであって、該表面層は、ポリエチレン樹脂を主成分とし表面層を構成する樹脂成分の結晶化度が35〜70%であって、カーボンブラックを10〜30重量%含むことを特徴とするものである。
【0011】
<表面層>
本発明のウエハ保護フィルムにおいて、表面層は、ウエハに直接接触する層であり、ポリエチレン樹脂を主成分とし表面層を構成する樹脂成分の結晶化度が35〜70%であって、カーボンブラックを配合することにより構成されるものである。
なお、「表面層を構成する樹脂成分の結晶化度が35〜70%」とは、表面層を構成する樹脂のトータルの結晶化度である。すなわち、表面層を複数の樹脂で構成する場合は、各々の樹脂の結晶化度と添加量とから算出される加重平均値が「表面層を構成する樹脂成分の結晶化度」となる。
【0012】
カーボンブラックは、ウエハ保護フィルムに、ウエハとの摩擦によって発生する静電気を効率よく逃がすための帯電防止性能や導電性能を付与し、ウエハ及びウエハ保護フィルムに粉塵が付着することを防止することを目的として配合されている。
一般に、高い帯電防止性能を有する帯電防止剤あるいは導電剤として、カーボンブラックの他に、カーボンナノチューブ及びアイオノマー樹脂系高分子型帯電防止剤等が知られているが、カーボンナノチューブは非常に高価であり、かつ取り扱いが難しいという問題があり、また、アイオノマー樹脂系高分子型帯電防止剤は、カリウム等の金属イオンを含むものであることからウエハ表面のパッドや配線等を腐食させるという問題がある。
一方、カーボンブラックは、安価で且つ取り扱いが容易であり、更には、ウエハ表面のパッドや配線等を腐食させる虞がなく、その上、静電気を効率よく逃がすための帯電防止性能(表面抵抗率10
12Ω以下)及び特定用途において求められるより高いレベル10
3乃至10
10Ω程度の導電性能を付与することができるものである。
【0013】
しかしながら、通常、カーボンブラックは合成樹脂に配合しても樹脂中に埋没してしまうため、ウエハ保護フィルムの両表面層にカーボンブラックを配合しても、本来カーボンブラックが有する帯電防止性能あるいは導電性能が発揮されにくい。また、帯電防止性能あるいは導電性能の向上のためカーボンブラックの添加量を増加させると、コスト高になるばかりでなく、使用時にカーボンブラックが脱落してウエハを汚染してしまう恐れがある。
【0014】
そこで、本発明においては、表面層について、ポリエチレン樹脂を主成分とし表面層を構成する樹脂成分の結晶化度が35〜70%であって、カーボンブラックを10〜30重量%含む構成とした。表面層を構成する樹脂成分の結晶化度が35%以上であると、カーボンブラックが本来有する帯電防止性および導電性が十分に発揮される。
結晶性樹脂に配合されたカーボンブラックは、結晶性樹脂の非晶領域に偏在する傾向があるため、結晶化度が高い樹脂ほど、非晶領域におけるカーボンブラックの濃度は高くなる。そのため、カーボンブラックを多量に添加しなくても十分に帯電防止性あるいは導電性が発揮される。
なお、結晶化度が高いほど帯電防止性あるいは導電性は発揮される傾向にあるが、表面層が硬くなってウエハを傷つけ易くなるので、結晶化度の上限は70%である。
【0015】
本明細書中においる結晶化度は、DSC法によって算出された値であり、具体的には、以下のように算出される。
結晶性樹脂材料を正確に秤量しアルミニウムパンに入れ、当該アルミニウムパンと基準物質を入れたアルミニウムパンを共にDSCにセットする。両アルミニウムパンを試料が完全に融解する温度(結晶性樹脂の結晶成分の融解温度より60℃以上高い温度とする)で5分間保持し、その後、その温度から−50℃まで10℃/minの速度で冷却する。その後、−50℃で5分間保持した後、10℃/minの昇温速度で試料が完全に融解する温度まで再び加熱する。この時に生じた結晶領域の融解熱量をΔHとする。このΔHを結晶性樹脂の完全結晶体融解熱量(ポリエチレン樹脂の場合、293J/g)で割り、百分率にしたものを結晶化度とする。
【0016】
前記表面層はポリエチレン樹脂を主成分とする。なお、本明細書中において、「主成分」とは、表面層を構成する樹脂成分の50重量%以上を意味する。ポリエチレン樹脂は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を混合して用いることもできる。その際、表面層を構成する全樹脂成分の結晶化度の加重平均値が35〜70%であればよく、用いる樹脂各々の結晶化度が35〜70%である必要はない。
【0017】
前記表面層を構成するポリエチレン樹脂は、メタロセン触媒で重合されたポリエチレン樹脂を含んでなることが好ましい。メタロセン触媒で重合されたポリエチレン樹脂は、低分子量成分の含有量が少ないため、それらがブリードアウトすることによって生じるウエハの汚染を低減することができる。
【0018】
表面層におけるカーボンブラックの含有量は、所望の帯電防止性能あるいは導電性能を達成しかつウエハ及びウエハ保護フィルムに粉塵が付着することを防止するために、10〜30重量%の範囲であることが好ましい。
【0019】
上記表面層には、ポリエチレン樹脂、カーボンブラック及び必要に応じて用いられる他の樹脂や添加剤は慣用の方法によってブレンドされる。
【0020】
<中層>
本発明の中層としては、ウエハ保護フィルムとしての物性等を損なわないように任意の材料を用いることができるが、ポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。
ポリオレフィン系樹脂としては、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどから選択される樹脂が挙げられるが、ウエハ保護フィルムに所謂コシを持たせるために、オレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン又は密度が0.940g/cm
3以上のポリエチレンが好ましく用いられる。しかし、ポリプロピレンにあっては重合段階で使用される種々の添加剤(低分子化合物)がブリードするおそれがあることから、より好ましくは、密度が0.940g/cm
3以上のポリエチレンである。密度が0.940g/cm
3以上のポリエチレンとしては、この範囲の密度を有するポリエチレンであればよく、特に製造方法等が限定されるものでない。
なお、中層の構成としては、単層でも積層された複層でもよい。
中層が複層である場合、複層を構成する少なくとも1種の層として上記のポリオレフィン系樹脂、特にはポリプロピレン又は密度が0.940g/cm
3以上のポリエチレンを含むことが好ましい。中層が複層である場合の構成としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレンと0.940g/cm
3以上のポリエチレンとの組合せ、又は、ポリプロピレン、0.940g/cm
3以上のポリエチレン若しくはその双方と、それ以外の任意の樹脂との組合せが挙げられる。
【0021】
中層は、黒色顔料を含有していてもよい。
なお、黒顔料としてカーボンブラックを使用する場合には、ウエハ保護フィルムの抵抗値を下げる作用があるため、好適である。
【0022】
上記構成からなる本発明のウエハ保護フィルムの厚みは、60乃至180μmであることが好ましい。厚みが60μm未満であると、フィルムの重量が軽くなりすぎて、取り扱いにくくなる傾向ある。反対に、厚みが180μmを超えるとフィルムが硬くなって後述の賦形加工を均一に行なうことが困難となる傾向にある。
【0023】
本発明のウエハ保護フィルムを成形する方法は特に限定されるものではないが、各層をインフレーション法、Tダイ法などによる溶融押出成形した後、ドライラミネート成形又はヒートシールにより各層を積層する方法、又は、各層を形成する材料を共押出法により一度に積層成形する方法などを採用することができる。
【0024】
本発明のウエハ保護フィルムの使用としては、
図2に示すようにクッション材3をウエハ搬送容器4の底部に載置して、その上にウエハ保護フィルム1とウエハ2を交互に積み重ね、最上部にクッション材3を載置されて蓋が閉められる。このとき、ウエハ2がウエハ搬送容器4の内部で動かないように圧力をかけて密閉される。
そのため、本発明のウエハ保護フィルム1は、
図1および
図2に示すように、凹部と凸部が交互に配置された格子状に賦形されて用いることが好ましい。格子状に賦形されたウエハ保護フィルム1は、クッション性が発現するため、ウエハの傷付きをより確実に防止することができるとともに、ウエハ搬送容器4を開放したときに復元性があるため、ウエハ2とウエハ保護フィルム1とが密着することを防止できる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0026】
<実施例1乃至14、比較例1乃至6>
表1、2に記載の配合処方で押出成形し、中層の両面上に表面層が積層された2種3層構成、層比1/3/1、総厚み100μmのフィルムを作製した。なお、表中の数値の単位は「重量%」である。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
表中;
・ポリエチレン1
メタロセン触媒で重合されたポリエチレン
旭化成ケミカルズ社製 クレオレックス T4125
結晶化度:60%
・ポリエチレン2
メタロセン触媒で重合されたポリエチレン
旭化成ケミカルズ社製 クレオレックス T4750
結晶化度:64%
・ポリエチレン3
メタロセン触媒で重合されたポリエチレン
東ソー社製 TOSOH−HMS 10S65B
結晶化度:60%
密度:0.940g/cm
3
・ポリエチレン4
メタロセン触媒で重合されたポリエチレン
旭化成ケミカルズ社製 クレオレックス QT6015
結晶化度:72%
・ポリエチレン5
非メタロセン触媒で重合されたポリエチレン
日本ポリエチレン社製 ノバテックHF560
結晶化度:78%
・ポリエチレン6
非メタロセン触媒で重合されたポリエチレン
東ソー社製 ペトロセン170K
結晶化度:41%
・ポリエチレン7
メタロセン触媒で重合されたポリエチレン
日本ポリエチレン社製 ハーモレックスNF325N
結晶化度:33%
・ポリエチレン8
非メタロセン触媒で重合されたポリエチレン
日本ポリエチレン社製 ノバテックLF443
密度:0.924g/cm
3
・カーボンブラック1
電気化学工業社製 デンカブラック
・カーボンブラック2
ライオン社製 ケッチェンブラックEC300J
・帯電防止剤1
三井デュポンポリケミカル社製 エンティラ SD100
なお、各樹脂の結晶化度はDSC法によって算出した値である。
【0030】
各実施例、比較例のフィルムについて、以下の評価を行なった。
【0031】
<ウエハ汚染性>
得られたフィルムとウエハを接触させた状態で容器に収納して2週間放置した。その後容器から取り出し、該ウエハの表面が有機物によって汚染されたかレーザー顕微鏡(KEYENCE社製 VK−8500)で観察して評価した。
○・・・汚染されていない
△・・・ごく一部に汚染が確認されたが、問題なく使用できる
×・・・汚染されていた
【0032】
<表面抵抗値>
得られたフィルムついて、三菱化学社製のHirester−UP「MCP−HT540」を用いて、表面抵抗値を求めた。
○・・・表面抵抗値が1×10E+10Ω未満
×・・・表面抵抗値が1×10E+10Ω以上
【0033】
<腐食性>
得られたフィルムと銅版を重ねた状態で温度60℃、湿度80%の条件にて2週間保管し、その後目視にて銅版に変色があるか確認を行った。
○・・・変色はみられない
×・・・変色がみられる
【0034】
<耐傷付き性>
得られたフィルムを8インチウエハの間に介在させ、5KPaの圧力にウエハ搬送容器に収納し、ウエハ面に沿って5Hz、20mm板幅で1時間の振動試験を行い、ウエハ表面の傷の有無をレーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK−8500)で観察し、以下の基準で評価した。
○・・・傷なし
×・・・傷あり
【0035】
<コシ>
得られたフィルムについて、ASTM D882に準拠してヤング率を測定し、以下の基準で評価した。
○・・・ヤング率が200MPa以上
△・・・ヤング率が200MPa未満
【0036】
実施例1〜14のフィルムは、汚染性、腐食性、耐傷付き性およびコシに優れ、そして高い導電性を有するため、ウエハ保護フィルムとして好適である。