特許第6391325号(P6391325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391325
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】N2O抑制型水処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20180910BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   C02F3/12 J
   C02F3/34 101B
   C02F3/34 101C
   C02F3/34 101A
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-135575(P2014-135575)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2016-13502(P2016-13502A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591043581
【氏名又は名称】東京都
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱本 亜希
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小林 政行
(72)【発明者】
【氏名】草野 吏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 重浩
(72)【発明者】
【氏名】大和 信大
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−110807(JP,A)
【文献】 特開2011−104585(JP,A)
【文献】 特開2010−269254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/12、34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素含有排水を所定速度で流下させる処理槽を前段区間と後段区間に区分し、前段区間の始点部、前段区間と後段区間の境界部、後段区間の終点部にそれぞれアンモニア計を設置し、これら各部に設置したアンモニア計によるアンモニア窒素濃度の測定値に基づいて、前記前段区間と前記後段区間とを独立に散気手段の動作制御を実施する散気制御工程を含む下水処理方法であって、
あらかじめ、前記前段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度と亜酸化窒素生成速度との相関関係及び前記後段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度と亜酸化窒素生成速度との相関関係を算出し、
処理槽全体の容積に対する前段区間の始点部と前記境界部までの処理槽の容積の割合(%)をα、前段区間の始点部におけるアンモニア性窒素濃度に対する前記境界部におけるアンモニア性窒素濃度の減少値で表わされるアンモニア窒素の硝化率(%)をβとした場合、
β/αが前記亜酸化窒素生成速度を最小にする前記前段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度の最適範囲となり、及び(100−β)/(100−α)が前記亜酸化窒素生成速度を最小にする前記後段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度の最適範囲となるようにα及びβを選択し、
前記前段区間でのアンモニア性窒素の硝化率が前記選択したβとなるよう前段区間の曝気量を制御し、及び、前記後段区間の終点部でのアンモニア性窒素の濃度が0となるよう前記後段区間の曝気量を制御する
下水処理方法。
【請求項2】
記亜酸化窒素生成速度を最小にする前記前段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度の最適範囲が0.30〜0.65であり、及び/または、前記亜酸化窒素生成速度を最小にする前記後段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度の最適範囲が1.2〜1.5である、請求項1記載の下水処理方法。
【請求項3】
窒素含有排水を所定速度で流下させる処理槽が前段区間と後段区間に区分され、前段区間の始点部、前段区間と後段区間の境界部、後段区間の終点部にそれぞれアンモニア計が設置され、これら各部に設置されたアンモニア計によるアンモニア窒素濃度の測定値に基づいて、前記前段区間と前記後段区間とを独立に散気手段の動作制御を実施する散気制御手段を有する下水処理装置において、
前記前段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度と亜酸化窒素生成速度との相関関係、及び前記後段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度と亜酸化窒素生成速度との相関関係を算出し、前段区間および後段区間における亜酸化窒素生成速度を最小にする流入負荷当たりのアンモニア酸化速度の最適範囲を設定する手段、
処理槽全体の容積に対する前段区間の始点部と前記境界部までの処理槽の容積の割合(%)をα、前段区間の始点部におけるアンモニア性窒素濃度に対する前記境界部におけるアンモニア性窒素濃度の減少値で表わされるアンモニア窒素の硝化率(%)をβとした場合、β/αが前記亜酸化窒素生成速度を最小にする前記前段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度の最適範囲となり、及び(100−β)/(100−α)が前記亜酸化窒素生成速度を最小にする前記後段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度の最適範囲となるようにα及びβを選択する手段
を備え、
前記散気制御手段が、前記前段区間でのアンモニア性窒素の硝化率が前記選択したβとなるよう前段区間の曝気量を制御し、及び、前記後段区間の終点部でのアンモニア性窒素の濃度が0となるよう前記後段区間の曝気量を制御する手段である下水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素含有排水の処理においてNOの発生を抑制した処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生活排水や工場排水などの排水中に含まれるアンモニア性窒素は、排水の放流先となる湖沼や内湾などの閉鎖性水域における溶存酸素の低下や富栄養化現象の原因になる。そのため、多くの排水処理設備においては、一般に硝化処理が行われる。硝化処理とは、反応槽内の排水に投入した微生物や排水中に元々存在する微生物を利用して、アンモニア性窒素を亜硝酸性窒素や硝酸性窒素に硝化する処理である。
【0003】
このような硝化処理においては、微生物活動や反応槽の運転条件などの変化によって、反応副生成物として亜酸化窒素(NO)ガスが発生することが知られている。NOガスは温室効果ガスであり、その温室効果は二酸化炭素ガスの約310倍と非常に高い。また、NOガスは、フロンガスと同様に、成層圏のオゾン層を破壊するオゾン層破壊ガスとしても知られている。そのため、地球環境保護の観点から、大気中へのNOガスの拡散を抑制することが急務となっている。
【0004】
この硝化処理の工程は、以下に示す、反応式(1)および反応式(2)によりアンモニアが酸化されて亜硝酸となる工程と、反応式(3)により亜硝酸が酸化されて硝酸となる工程と、を含む。また、以下に示す反応式(1)により生成されたNHOHは、反応式(2)により酸化されてNO2−となるが、NHOHの一部は、反応式(4)により酸化されてNOとなる。
【0005】
NH+O+2e+2H→NHOH+HO …(1)
NHOH+HO→NO+5H+4e…(2)
NO+0.5O→NO…(3)
NHOH+0.5O→0.5NO+1.5HO…(4)
【0006】
この硝化反応を促進するためには、排水中に1.5mg/L程度の溶存酸素が残存していることが必要である。そのため、硝化処理においては、ブロアから空気による曝気を行って、必要な溶存酸素量を確保している。
【0007】
従来の標準活性汚泥法では、処理槽の溶存酸素量を調整するため、処理槽の所定位置における溶存酸素量をDO計で測定し、曝気量を制御する方法が一般的であった。
しかし、この従来方法では、DO計の測定値に基づいて当該DO計の上流部における曝気量を制御するもので、下流側の曝気量を管理する概念がなかった。
また、DO計は低濃度域では感度が悪く、例えば、処理槽の前段部で硝化を抑制した場合、曝気手段への送風量の制御が難しく、前段部での硝化の進行具合を調整することは不可能に近かった。
さらに、DO計によるDO制御では、末端部での溶存酸素量をある程度確保することにより、硝化の達成度を基準にして送風量を制御しているため、硝化が完了した後もDO値が設定の値になるまで曝気が継続されるので、無駄な風量が発生していた。
反応槽から排出されるNOは、硝化の進行を制御することにより、排出量を制御できると考えられるが、DO制御でNOの生成を抑制することは困難であった。
【0008】
そこで、窒素含有排水の流れ方向に沿って配列された複数段の硝化槽において、アンモニア酸化細菌(AOB)および亜硝酸酸化細菌(NOB)を利用して窒素含有排水中に含まれるアンモニア性窒素を段階的に硝化する硝化ステップを含む排水の処理方法が開発された(特許文献1参照)。そして、この硝化ステップが、各硝化槽の曝気量を調整することによって各硝化槽の酸化還元電位(ORP)がそれぞれ、各硝化槽においてアンモニア酸化細菌活性(AOB活性)を亜硝酸酸化細菌活性(NOB活性)と同等もしくはそれ以下に維持するための目標酸化還元電位になるように制御する制御ステップを含んでいる。このような排水の処理方法によれば、窒素含有排水を生物処理する際の亜酸化窒素(NO)の発生を抑制できる。
【0009】
しかしながら、上述した排水の処理方法においては、目標酸化還元電位は、各硝化槽においてアンモニア酸化細菌活性(AOB活性)が、亜硝酸酸化細菌活性(NOB活性)と同等もしくはそれ以下に維持されるように、硝化槽ごとにあらかじめ実験データを蓄積することによって設定される。ここで、AOB活性とNOB活性との大小関係は、それぞれの菌の酸化速度を測定することにより確認する必要がある。
【0010】
すなわち、目標酸化還元電位の設定に際しては、時間の手間のかかる煩雑な作業を余儀なくされており、NOの発生の抑制効果が効率的に得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011−104585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、亜酸化窒素の発生の抑制効果を効率良く得られ、且つ必要な水質を維持するような風量制御を、時間および手間を要すことなく容易に行うことができる排水の処理装置および排水の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため、窒素含有排水を所定速度で流下させる処理槽を前段区間と後段区間に区分し、前段区間の始点部、前段区間と後段区間の境界部、後段区間の終点部にそれぞれアンモニア計を設置し、これら各部に設置したアンモニア計の測定値に基づいて、前記前段区間と前記後段区間とを独立に散気手段の動作制御を実施する散気制御工程を含む下水硝化処理方法であって、
あらかじめ、前記前段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度と亜酸化窒素(NO)生成速度との相関関係及び前記後段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度と亜酸化窒素(NO)生成速度との相関関係を算出し、
処理槽全体の容積に対する前段区間の始点部と前記境界部までの処理槽の容積の割合(%)をα、前段区間の始点部におけるアンモニア性窒素濃度に対する前記境界部におけるアンモニア性窒素濃度の減少値で表わされるアンモニア性窒素の硝化率(%)をβとした場合、
β/αが前記亜酸化窒素生成速度を最小にする前記前段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度の最適範囲となるか、及び(100−β)/(100−α)が前記亜酸化窒素生成速度を最小にする前記後段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度の最適範囲となるようにα及びβを選択し、
前記前段区間でのアンモニア性窒素の硝化率がβとなるよう前段区間の曝気量を制御し、前記後段区間の終点部でのアンモニア性窒素の濃度が0となるよう前記後段区間の曝気量を制御することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の下水処理装置は、窒素含有排水を所定速度で流下させる処理槽が前段区間と後段区間に区分され、前段区間の始点部、前段区間と後段区間の境界部、後段区間の終点部にそれぞれアンモニア計が設置され、これら各部に設置されたアンモニア計によるアンモニア窒素濃度の測定値に基づいて、前記前段区間と前記後段区間とを独立に散気手段の動作制御を実施する散気制御手段を有する下水処理装置であって、
前記前段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度と亜酸化窒素生成速度との相関関係、及び前記後段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度と亜酸化窒素成速度との相関関係を算出し、前段区間および後段区間における亜酸化窒素生成速度を最小にする流入負荷当たりのアンモニア酸化速度の最適範囲を設定する手段、処理槽全体の容積に対する前段区間の始点部と前記境界部までの処理槽の容積の割合(%)をα、前段区間の始点部におけるアンモニア性窒素濃度に対する前記境界部におけるアンモニア性窒素濃度の減少値で表わされるアンモニア窒素の硝化率(%)をβとした場合、β/αが前記亜酸化窒素生成速度を最小にする前記前段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度の最適範囲となり、及び(100−β)/(100−α)が前記亜酸化窒素生成速度を最小にする前記後段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度の最適範囲となるようにα及びβを選択する手段
を備え、
前記散気制御手段が、前記前段区間でのアンモニア性窒素の硝化率が前記選択したβとなるよう前段区間の曝気量を制御し、及び、前記後段区間の終点部でのアンモニア性窒素の濃度が0となるよう前記後段区間の曝気量を制御する手段であることを特徴とする。
【0015】
亜酸化窒素生成速度を最小にするする流入負荷当たりのアンモニア酸化速度の最適範囲を設定する手段とは、前段区間あるいは後段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度と亜酸化窒素生成速度との相関関係から、予め設定された亜酸化窒素生成速度の最小値からの許容値に基づき、自動的に最適範囲を設定するプログラム、あるいは、流入負荷当たりのアンモニア酸化速度と亜酸化窒素生成速度との相関関係をモニターなどに表示させ、装置の管理者により手動で最適範囲値を入力する入出力装置が例示できる。
【0016】
ここで、前段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度と亜酸化窒素生成速度との相関関係及び前記後段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度と亜酸化窒素生成速度との相関関係は、後述するように、シミュレーションにより求める。
【0017】
処理槽全体の容積に対する前段区間の始点部と前記境界部までの処理槽の容積の割合α(%)は、処理槽が単一槽の場合、処理槽の流れ方向の全長に対する処理槽の始点から境界部までの距離の割合で表わされ、処理槽が多槽の場合、処理槽の全槽数に対する第1槽から境界部までの槽数で表わされ、処理槽の始点部で0%、処理槽の終点部で100%となる。
また、アンモニア性窒素の硝化率β(%)は、前段区間の始点部におけるアンモニア性窒素濃度Nin、前記境界部におけるアンモニア性窒素濃度Nxとした場合、β=(Nin−Nx)/Nin×100(%)で計算される値であり、処理槽の始点部ではNin=Nxであるからβは0%である。
ここで、アンモニア計を用いたのは、槽内の溶存酸素濃度が0.1mg/L程度の条件下では、アンモニア計の値の方が、変化量が大きく捉えることができ、送風量制御に適していると考えられるからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る排水の処理方法によれば、亜酸化窒素の発生の抑制効果を効率良く得られ、且つ必要な水質を維持するような風量制御を時間および手間を要することなく容易に行うことができる。
本発明の方法で使用する流入負荷当たりのアンモニア酸化速度は無次元数であり、処理条件に依存しないので、如何なる処理条件においても、当該処理条件におけるNOの発生量を最小限とすることができ、しかも処理槽から排出されるアンモニア性窒素濃度をほぼ0とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、従来技術の実施形態による排水の処理装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、本発明の実施形態による排水の処理装置の構成を示す模式図である。
図3図3は、従来技術の実施形態による境界部における硝化率(%)を変化させたときの、境界部でのDO値及び前段部におけるNO生成速度の関係を表すグラフである。
図4図4は、本発明の実施形態による境界部における硝化率(%)を変化させたときの、境界部でのアンモニア性窒素濃度及び前段部におけるNO生成速度の関係を表すグラフである。
図5図5は、境界部における硝化率とNO生成速度の関係を表すグラフである。
図6図6は、本発明の実施形態による前段部における処理条件を変化させたときの、前段部における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度との関係を表すグラフである。
図7図7は、本発明の実施形態による後段部における処理条件を変化させたときの、前段部における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度とNO生成速度の関係を表すグラフである。
図8図8は、アンモニア酸化細菌によるN2Oの生成モデルの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、従来技術の排水の処理装置を示す。この実施形態では、排水の処理装置1は、第1〜第nの複数段、例えば6段(n=6)の硝化槽2a,2b,2c,2d,2e,2f、固液分離槽4、汚泥返送経路5、および情報処理部10を備える。硝化槽2aには、窒素含有排水としての窒素含有処理原水(以下、処理原水)が流入する。硝化槽2a〜2fは、処理原水の流れ方向に沿って直列に配列されている。それぞれの硝化槽2a〜2fにおいては、硝化槽2aに流入した処理原水が被処理水として順次生物処理される。すなわち、各硝化槽2a〜2fにおいては、好気条件下で、処理原水中に含まれるアンモニア性窒素が亜硝酸性窒素および硝酸性窒素に硝化されるとともに、処理原水中に含まれるリンが活性汚泥中に取り込まれる。情報処理部10は、例えばPCなどのハードウェアと、このPCに対して所定の情報処理を実行させるプログラムなどのソフトウェアとを有して構成される。
【0021】
それぞれの硝化槽2a〜2fにはそれぞれに対応して、亜酸化窒素(N2O)計3a,3b,3c,3d,3e,3fと、散気部6a,6b,6c,6d,6e,6fと、酸化還元電位(ORP)計7a,7b,7c,7d,7e,7fと、攪拌機11a,11b,11c,11d,11e,11fとが設けられている。散気部6a〜6fにはそれぞれ、曝気量を制御する制御弁9a,9b,9c,9d,9e,9fを介して、気体として例えば空気を供給するブロワ8a,8b,8c,8d,8e,8fが連結されている。散気部6a〜6fはそれぞれ、ブロワ8a〜8fのそれぞれから供給される空気を利用して、それぞれの硝化槽2a〜2f内に貯留されている活性汚泥に対して散気を行う。なお、これらのN2O計3a〜3fは、排水の処理装置1において必ずしも設ける必要はない。また、攪拌機11a〜11fにおいても、必要に応じて設置され、必ずしも設ける必要はない。
【0022】
また、酸化還元電位計測手段としてのORP計7a〜7fはそれぞれ、各硝化槽2a〜2f内の酸化還元電位(ORP)を測定する装置である。ORP計7a〜7fはそれぞれ、計測した酸化還元電位の値を情報処理部10に入力する。すなわち、ORP計7fが第nの酸化還元電位計測手段を構成し、これより上流側のORP計7a〜7eがそれぞれ、第1の酸化還元電位計測手段〜第n−1の酸化還元電位計測手段を構成する。なお、nは2以上の自然数であり、この第1の実施形態においては、n=6である。
【0023】
また、亜酸化窒素測定手段としてのN2O計3a〜3fはそれぞれ、各硝化槽2a〜2f内の亜酸化窒素量を計測する装置である。なお、これらのN2O計3a〜3fは、排水の処理装置1において、N2Oガスの排出量を計測する必要がある場合に設置される。
【0024】
また、各散気部6a〜6fにそれぞれ連結された制御弁9a〜9fは、例えば空気流量制御弁などによって構成され、情報処理部10からの制御信号に従って各硝化槽の曝気量を個別に制御する。すなわち、情報処理部10は、曝気量制御手段の一部としての曝気量制御部を構成するソフトウェアにおけるプログラムを有する。そして、曝気量制御部は、曝気量制御手段の一部としての、各ブロワ8a〜8f、および各ブロワ8a〜8fに対応する各制御弁9a〜9fをそれぞれ個別に制御する。これにより、曝気量制御部は、各散気部6a〜6fによる曝気量をそれぞれ独立して制御する。また、攪拌機11a〜11fはそれぞれ、各硝化槽2a〜2fにおける、各散気部6a〜6fからの空気や内部の活性汚泥を攪拌するためのものである。
【0025】
固液分離槽4には、被処理水の流れに沿った最も下流側の硝化槽2fから流出した被処理水が流入する。固液分離槽4では、被処理水が分離液4aと活性汚泥4bとに分離され、活性汚泥4bは、攪拌機4cによって攪拌される。また、固液分離槽4の側壁には、配管(図示せず)が接続されており、この配管を介して消毒処理された分離液4aが系外に排出される。また、固液分離槽4の底部には、ポンプ5aを備えた汚泥返送経路5が接続されており、固液分離槽4の底部に堆積した活性汚泥4bを例えば硝化槽2aに返送する。これにより、硝化槽2a内の生物量を所定量に維持できる。
【0026】
(実施形態)
次に、本発明の実施形態について説明する。図2は、この実施形態による排水の処理装置を示す模式図である。
【0027】
図2示すように、本実施形態による排水の処理装置21は、アンモニア濃度計測手段としてのアンモニア計12a,12b,12cが設けられている。アンモニア計12aは、処理原水に含まれるアンモニア濃度またはアンモニア性窒素濃度を計測可能に構成されている。アンモニア計12bは、硝化槽2a〜2fのうちの途中位置としての略中間位置に設置され、このアンモニア計12bより上流側が硝化領域の前段区間となる。また、アンモニア計12bは、例えば硝化槽2c内の被処理水に含まれるアンモニア濃度またはアンモニア性窒素濃度を計測可能に構成されている。アンモニア計12cは、硝化槽2a〜2fのうちの終点位置としての下流側位置に設置され、このアンモニア計12cより上流側かつアンモニア計12bより下流側が硝化領域の後段区間を構成する。また、アンモニア計12cは、例えば硝化槽2f内の被処理水に含まれるアンモニア濃度またはアンモニア性窒素濃度を計測する。なお、アンモニア計12bは、硝化槽2a〜2fにおけるいずれかの硝化槽に設置可能であるが、曝気量を制御する観点から、硝化槽2a,2fを除く2b〜2eに設置するのが好ましい。
【0028】
また、情報処理部10は、曝気量制御手段の一部としての曝気量制御部を構成するソフトウェアに従って各部を制御可能に構成されている。そして、曝気量制御部は、曝気量制御手段の一部を構成する、各ブロワ8a〜8f、および各ブロワ8a〜8fに対応する各制御弁9a〜9fをそれぞれ個別に制御する。これにより、各散気部6a〜6fによる曝気量はそれぞれ独立して制御される。また、情報処理部10は、各種シミュレーションを実行可能に構成されているとともに、排水の処理装置21における各種実験データがテーブル状に読み出しおよび書き出し可能に格納された制御手段としても用いられる。さらに、情報処理部10は、前段及び後段区間の曝気量を各アンモニア計の測定値に応じて制御する制御部を有している。そして、情報処理部10は、これらの各部を構成するソフトウェアによって処理装置21における情報に基づいて、情報を処理したり各部を制御したりする。その他の構成は、従来技術の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
以上、処理槽を6槽に分割した設備で説明したが、処理槽を単一槽とし、アンモニア計12bを処理槽の中間部に、アンモニア計12cを処理槽の終端部に、それぞれ設けた構成としてもよい。この場合、アンモニア計12bより上流側の処理槽前段部の曝気手段からの曝気量とアンモニア計12bより下流側の処理槽後段部の曝気手段からの曝気量は、別個に制御できるようにしておく。
【0029】
図3は、本発明者らが行った実験およびシミュレーションにより得られたNOの生成速度の前段区間硝化率依存性の一例を示すグラフであり、図1に示される従来技術の排水の処理装置におけるDO計による測定値も示している。
【0030】
図4は、本発明者らが行った実験およびシミュレーションにより得られたNOの生成速度の前段区間硝化率依存性の一例を示すグラフであり、硝化率(%)に対応させて、図2に示される本発明の実施態様のアンモニア計で測定されるアンモニア性窒素濃度値も示したグラフである。
【0031】
図3及び図4から明らかなように、硝化率が20〜30%である領域においては、NOの生成速度が最少となるが、図3に示されるように、この領域でのDO値が低く、且つ変化量も小さく、DO計による従来技術の装置では、硝化率を精度よく制御することは困難である。
これに対し、図4に示されるように、硝化率とアンモニア性窒素濃度は比例関係にあるので、アンモニア計を備えた本発明の装置では、前段における硝化率を精度よく制御することが可能である。
【0032】
以下、図3図4における硝化率とNO生成速度の関係の求め方について説明する。
本発明者らは、上述したアンモニア計12bにより境界部の計測に基づいて算出される前段区間硝化率(%)を種々変化させて、アンモニア計12cの計測位置である終点部でのアンモニア性窒素濃度を計測した。なお、図2の実施形態において硝化率(%)は、以下の(5)式から求められる。

{(流入位置(硝化槽2a)におけるアンモニア性窒素濃度−アンモニア計12bにより計測されるアンモニア性窒素濃度)/(流入位置におけるアンモニア性窒素濃度)}×100(%)……(5)
【0033】
ここで、流入位置におけるアンモニア性窒素濃度とは、アンモニア計12aにより計測される処理原水のアンモニア性窒素濃度に対して、返送汚泥とともに返送された返送水の流入分を考慮したアンモニア性窒素濃度である。具体的な一例を挙げると、処理原水の流入量Q1、返送水の返送量Qに対して、流入位置(硝化槽2a)におけるアンモニア性窒素濃度は、処理原水のアンモニア性窒素濃度のQ/(Q+Q)倍になる。
【0034】
そして、本発明者らは、アンモニア計12bの設置位置(中間位置)において計測される前段区間の硝化率(前段区間硝化率)を種々の硝化率として、下流側の硝化槽2f(末端槽)におけるアンモニア性窒素濃度を測定し、硝化槽2fにおけるアンモニア性窒素濃度が単調減少することを知見した。
【0035】
ここで、NOが生じる発生経路においては、以下の反応式(6),(7)のように、NO2-が還元されてNOとなる。すなわち、NOは、主にアンモニア酸化細菌(AOB)による亜硝酸の還元により生成される。

NHOH+NO-→N2O+HO+OH- …(6)
+NO-→0.5N2O+0.5HO+OH- …(7)
【0036】
Oの生成はAOBのみが担うとし、AOBによるNO生成経路として亜硝酸の脱窒を主たる生成経路とし、その表現法として転換率モデル(図8(b))を採用した。即ち、NO生成速度をアンモニア酸化速度に転換率を乗じて表す方法である。これまで、いわゆる逐次反応としてモデル(図8(a))化する例が多いようであるが、NOに関する定数を決める必要がないなど簡便で実用性が高いと判断した。
また、本発明者らは、前段区間における硝化率(前段区間硝化率)を種々の硝化率として、硝化槽2a〜2fにおけるNO生成速度の導出を試みた。なお、上述したようにNOは、AOBのアンモニア酸化に伴って生成される。そして、詳細は後述するが、本発明者がシミュレーションおよび実験に基づいて鋭意検討を行った結果、NO生成速度が以下の(8)式から導出可能であることを知見するに至った。

2O生成速度=アンモニア酸化速度×N2O転換率 ……(8)
【0037】
そして、(8)式に関して本発明者らが実験およびシミュレーションに基づいた鋭意検討により得た知見によれば、アンモニア酸化速度は、AOBの生物学的定数に基づき、アンモニア濃度および溶存酸素(DO)濃度に依存し、NO転換率は、亜硝酸濃度およびDO濃度に依存する。すなわち、上述した反応式(6),(7)によって、(8)式のNO生成速度に影響があることを知見した。
【0038】
また、上述したように、AOB活性がNOB活性以下になる条件下(AOB活性≦NOB活性)、特にNOB活性がAOB活性とほぼ等しくなる中庸の条件下においては、NOの増加が抑制される。一方、一般的に微生物の倍化速度は、NOBに比してAOBの方が倍程度大きい。これらの点から、本発明者らは、AOB活性に着目して、NOを抑制するためにAOBに含まれる微生物の区別に着目した。AOBには種々の微生物が含まれ、具体的には、Nitrosospira属、およびNitorosomonas属などが含まれる。本発明者らの知見によれば、アンモニア酸化活性に関しては、Nitorosomonas属のアンモニア酸化活性は、Nitrosospira属のアンモニア酸化活性より大きい。
【0039】
そこで、本発明者らは、これらのNitrosospira属およびNitorosomonas属の微生物に着目して、種々実験およびシミュレーションを行った。ここで、本発明者らの従来の知見から、それぞれの硝化槽2a〜2fにおける微生物の増殖速度については、以下の(9)式、(10)式および(11)式が成立することが分かっている。なお、(9)〜(11)式において、dXSPR/dtはAOBのNitrosospira属の増殖速度、dXMNS/dtはAOBのNitorosomonas属の増殖速度、dXNOB/dtはNOBの増殖速度である。また、SO2は溶存酸素濃度(DO濃度)であって、例えば、硝化槽2fにおいて2.0mgとして硝化槽2cにおいて0〜2.0mg/Lで種々の値とし、これらの値に応じて、硝化槽2b,2d,2eにおけるDO濃度SO2も種々の値としたものである。また、SNH4はアンモニア濃度であって、例えばDO濃度SO2を種々の値とした場合に、そのDO濃度SO2ごとに対応させた各硝化槽2a〜2fにおけるアンモニア濃度SNH4である。また、SNO2は亜硝酸濃度である。さらに、XSPRはNitrosospira属の微生物濃度、XMNSはNitorosomonas属の微生物濃度、XNOBはNOBの微生物濃度であり、KSPRO2、KSPRNH4、μSPRmax、KMNSO2、KMNSNH4、μMNSmax、μNOBmax、KNOBO2、およびKNOBNO2については、以下の表1に示す定数である。なお、これらの定数については、必ずしもこれらの定数に限定されるものではなく、種々の定義に基づく定数を採用可能である。また、bSPR、bMNS、およびbNOBはそれぞれ、Nitrosospira属、Nitorosomonas属、およびNOBの死滅係数である。
【0040】
【数1】
【数2】
【数3】
【0041】
【表1】
表1参考文献
1) Taylor, A.E., Bottomley, P.J., : Nitrite production by Nitrosomonas europaea and Nitrosospira sp. AV in soils at different solution concentrations of ammonium. Soil Biol. Biochem.38 (4), p.828-836. (2006)
2) Sin, G., Kaelin, D., Kampschreur, M.J., Taka´ cs, I., Wett, B., Gernaey, K.V., Rieger, L., Siegrist, H., van Loosdrecht, M. : Modelling nitrite in wastewater treatment systems: a discussion of different modelling concepts. Water Science and Technology 58 (6), p.1155-1171 (2008)
【0042】
また、本発明者の知見によれば、Nitrosospira属およびNitorosomonas属によるアンモニア酸化速度γSPRNH4,γMNSNH4については、以下の(12)式および(13)式が成立することが知られている。また、NOBによる亜硝酸酸化速度γNOBNO2については、以下の(14)式が成立することが知られている。なお、(12)〜(14)式において、YSPR、YMNS、YNOBはそれぞれ、収率である。
【0043】
【数4】
【数5】
【数6】
【0044】
しかしながら、上述した微生物増殖速度、ならびにアンモニア酸化速度および亜硝酸酸化速度のみでは、各硝化槽2a〜2fにおけるN2O生成速度をシミュレーションによって導出することは極めて困難であった。そこで、本発明者は、さらなる実験および鋭意検討を行い、それぞれの硝化槽2a〜2fにおいて、DO濃度と亜硝酸濃度とに基づいたN2O転換率を導出することを想起した。
【0045】
そして、本発明者が種々の実験およびシミュレーションを行った結果、本発明者は、Nitrosospira属およびNitorosomonas属のぞれぞれのN2O転換率ηSPR,ηMNSが、以下の(15)式および(16)式により導出可能であることを案出した。なお、ηSPRmaxは、Nitrosospira属による最大N2O転換率である定数であって、本発明者らの実験から求めた値は40であり、ηMNSmaxは、Nitorosomonas属による最大N2O転換率である定数であって、本発明者らの実験から求めた値は11であった。また、KSPRη_O2は、Nitrosospira属による回分試験結果から導いた酸素濃度に対する飽和定数であり、KMSNη_O2は、Nitorosomonas属による回分試験結果から導いた酸素濃度に対する飽和定数であって、本発明者らの実験から求めた値はいずれも0.07であった。
【0046】
【数7】
【数8】
【0047】
(15)式に示すように、Nitrosospira属によるN2O転換率は、DO濃度SO2および亜硝酸濃度SNO2に基づいて導出され、(16)式に示すように、Nitorosomonas属によるN2O転換率は、DO濃度SO2に基づいて導出される。
【0048】
また、(8)式におけるNO生成速度は、Nitrosospira属およびNitorosomonas属によるN2O生成速度の合計値であり、以下の(17)式により導出される。

2O生成速度
=Nitrosospira属によるN2O生成速度+Nitorosomonas属によるNO生成速度
=(γSPRNH4・ηSPR)+(γMNSNH4・ηMNS)…… (17)
【0049】
そして、上述した(8)〜(17)式に基づいて、表2に示す一例としての運転条件である境界条件を設定することによって、NO生成速度の前段区間硝化率依存性が導出できる。これにより、本発明者らは、NO生成速度と前段区間硝化率との関係において、図3図4に示すような、NO生成速度の前段区間硝化率依存性の傾向を導出可能であることを知見した。
【0050】
【表2】
【0051】
具体的に図3に示すように、NO生成速度は、前段区間硝化率が0から所定の第1の硝化率、例えば25%程度までの範囲においては、硝化率の増加に伴い減少する。一方、前段区間硝化率が第1の硝化率を超え、第2の硝化率、例えば80%程度までの範囲においては、NO生成速度は硝化率の増加に伴い単調増加する。そして、前段区間硝化率が第2の硝化率を超えると、NO生成速度は、また硝化率の増加に伴って単調減少する。
【0052】
すなわち、NO生成速度は、前段区間硝化率が50%以下である場合には極小(図3図4中、囲み部)となり、約50%〜70%である場合には極大となることが判明した。そして、本発明者らが種々実験および検討を行った結果、この傾向は硝化槽を用いた一般の排水の処理装置において生じる傾向であることが判明した。
【0053】
さらに、本発明者らは、被処理水の負荷や処理量などの処理条件を変化させて同様なシミュレーション及び実験を行った。その結果を図5に示す。
図5から明らかなように、処理条件を変更すると、前段区間におけるNO生成速度が最少となる最適な硝化率の領域も変動することが判明した。
【0054】
本発明者らは、さらに処理条件の影響について検討し、NO生成速度の変数として、硝化率の代わりに、以下の式で求められる、流入負荷当たりのアンモニア酸化速度(無次元)を採用したところ、処理条件にかかわらず、図6に示すように、前段区間におけるNO生成速度が最少となる最適な領域がほぼ一定となることを見出した。

流入負荷当たりのアンモニア酸化速度[−]
=アンモニア酸化速度[mgN/L・h]/流入負荷[mgN/L・h]・・(18)

流入負荷[mgN/L・h]
=流入アンモニア濃度[mgN/L]/滞留時間[h] ・・・・・(19)

図6の結果によれば、流入負荷当たりのアンモニア酸化速度を適切な領域となるよう制御すれば、処理条件を変えても、常にその条件下においてはNO生成速度を最小とすることができる。
【0055】
また、本発明者らは、中間位置の硝化槽としての硝化槽2cと、末端槽としての硝化槽2fとの間における平均のアンモニア酸化速度である後段区間硝化速度について検討を行い、その結果、N2Oの生成速度における排水の処理装置の段部の硝化速度依存性を確認し、後段区域についても、NO生成速度が最少となる最適な領域が存在することを突き止めた。
そして、本発明者らは、後段区域についても、NO生成速度の変数として、アンモニア酸化速度の代わりに流入負荷当たりのアンモニア酸化速度(無次元)を採用したところ、処理条件にかかわらず、図7に示すように、前段区間におけるNO生成速度が最少となる最適な領域がほぼ一定となることを見出した。
【0056】
図6図7のグラフより、NO生成速度の変数として、流入負荷当たりのアンモニア酸化速度(無次元)を採用し、前段区間及び後段区間で、それぞれNO生成速度が最少となる最適な領域となる流入負荷当たりのアンモニア酸化速度となるよう制御すれば、設備全体としてNO生成量を最小限に抑えることができることになる。
【0057】
本発明者らはさらに、設備全体としてNO生成量を最小限に抑えつつ、アンモニア性窒素を処理できる条件について検討した。
処理槽全体の容積に対する前段区間の始点部と前記境界部までの処理槽の容積の割合(%)をα、前段区間の始点部におけるアンモニア性窒素濃度に対する前記境界部におけるアンモニア性窒素濃度の減少値で表わされるアンモニア性窒素の硝化率(%)をβとした場合、前段区間におけるアンモニア酸化速度は、前段区間におけるアンモニア性窒素濃度の減少を前段槽における滞留時間で除した値であり、(β×アンモニア流入濃度×単位時間当たりの流入量)/(α×処理槽容量)で表わされる。

したがって、前段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度は、(18)、(19)式より、β/αとなる。
一方、後段区間におけるアンモニア酸化速度は、後段区間の最終段ではアンモニア濃度は0が目標であるから後段区間のアンモニア濃度の減少量は、前段区間最終段におけるアンモニア濃度となるから、これを後段槽における滞留時間で除した値であり、(100−β)×アンモニア流入濃度×単位時間当たりの流入量/((100−α)×処理槽容量)で表わされる。
したがって、後段区間における流入負荷当たりのアンモニア酸化速度は、(18)、(19)式より、(100−β)/(100−α)となる。
【0058】
以上によれば、シミュレーションによって前段区間と後段区間におけるそれぞれの流入負荷当たりのアンモニア酸化速度とNO生成速度との関係をグラフ化してNO生成速度が最少となる最適領域を決定し、β/αが前段区間の最適領域、(100−β)/(100−α)が後段区間の最適領域を充足する、α及び/又はβを選択し、境界部に設置したアンモニア計の設定値を前段区間における硝化率がβとなるよう設定して前段区間の曝気量を制御し、後段区間の最終端に設置したアンモニア計の測定値が0となるよう、後段区間の曝気量を制御することにより、設備全体としてNO生成量を最小限に抑えつつ、設備から排出される処理排水中のアンモニア性窒素の含有量を0に近付けることが可能となる。
【0059】
図6より、前段区間におけるNO生成速度が最少となる領域を流入負荷当たりのアンモニア酸化速度が0.30〜0.65、図7より、後段区間におけるNO生成速度が最少となる領域を流入負荷当たりのアンモニア酸化速度が1.2〜1.5とすると、上記の結果から、前段区間では、
0.30≦β/α≦0.65 ・・・・・・・・・・・・・・(20)
後段区間では、
1.2≦(100−β)/(100−α)≦1.5 ・・・・(21)
となり、これら(20)(21)式を満たすα、βを選択すれば、設備全体としてNO生成量を最小限に抑えることが可能であるが、設備の条件によっては、一方の式しか満たさない場合も考えられるが、その場合でも、上記式を満たす区間においてであれば、NO生成量を最小限に抑えることが可能である。
例えば、図2の実施態様では、境界部は処理槽の流れ方向の中間点であるから、α=50%であり、(20)、(21)式を充足するβは、25%〜33%の範囲内の値に設定すれば、設備全体としてNO生成量を最小限に抑えることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1,21 処理装置
2,2a,2b,2c,2d,2e,2f 硝化槽
3a,3b,3c,3d,3e,3f NO計
4 固液分離槽
4a 分離液
4b 活性汚泥
4c,11a,11b,11c,11d,11e,11f 攪拌機
5 汚泥返送経路
5a ポンプ
6a,6b,6c,6d,6e,6f 散気部
7a,7b,7c,7d,7e,7f ORP計
8a,8b,8c,8d,8e,8f ブロワ
9a,9b,9c,9d,9e,9f 制御弁
10 制御部
12a,12b、12c アンモニア計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8