【文献】
本田 誠 他,送電線吊架ジャンパ装置と塔体との動的相互作用についての一考察 −電線路直角方向振動に着目して −,風工学シンポジウム論文集,2008年,Vol.20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の工程は、前記静的荷重付与装置の先端部に装着したかませ物を除去することで、前記静的荷重付与装置による荷重を除去することを特徴とする請求項1に記載の制震性能検証試験方法。
前記第2の工程及び前記第5の工程の少なくとも一方は、前記静的荷重付与装置の先端部に装着したかませ物を除去することで前記静的荷重付与装置による荷重を除去することを特徴とする請求項2に記載の制震性能検証試験方法。
前記かませ物は、前記相対変位に平行な方向の長さが前記静的荷重付与装置で与える相対変位量以上の長さとすることを特徴とする請求項3または4に記載の制震性能検証試験方法。
前記自由振動波形は、前記第1構造体の頂部、前記第2構造体の頂部、前記第1構造体側の前記減衰器との接続部、及び、前記第2構造体側の前記減衰器との接続部の少なくとも4点に設置された複数の振動センサーで検出することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載の制震性能検証試験方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複合型塔状構造物には、制震構造を有する制震構造複合塔状構造物がある。制震構造複合塔状構造物は、例えば、構造体と構造体との間に減衰器等の振動を減衰させる機構を備えている。減衰器等を含む制震構造は、大地震時の揺れの抑制を目的として複合塔状構造物に設置される。
【0005】
ここで、制震構造複合塔状構造物は、振動を減衰する機構を備えている。このため、制震構造複合塔状構造物の制震性能を、従来のように起振機等により動的荷重を加えて建物の制震性能検証を行う振動試験するためには、減衰器を作動させるために非常に大きな加振能力の起振機が必要となる。大型起振機には、重錘を往復運動させる慣性加振装置が多い。また、1Hz未満の低振動数構造物の場合、大ストロークで大きな重錘をコントロールする必要があるため、起振機には大容量の動力源を要する。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、複数の構造体の間に減衰器を備えた複合型塔状構造物の制震性能検証試験を小さな動力源で簡便に行うことができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の制震性能検証試験方法は、第1構造体と、第2構造体と、前記第1構造体と前記第2構造体との間に直接または間接的に減衰器と、を備えた複合型塔状構造物の制震性能検証試験方法であって、前記複合型塔状構造物に前記減衰器が装着された状態で、静的荷重付与装置を用いて、前記第1構造体と前記第2構造体の間に強制荷重を加え、前記第1構造体と前記第2構造体に相対変位を与え、前記第1構造体と前記第2構造体との間の距離を変化させる第1の工程と、前記第1の工程で前記第1構造体と前記第2構造体とに与えられた前記静的荷重付与装置による荷重を除去する第2の工程と、前記第2の工程で荷重が除去された前記第1構造体と前記第2構造体の自由振動波形を計測する第3の工程と、を含む。
【0008】
本発明によれば、第1構造体と第2構造体の間に減衰器等を備えた制震構造の塔状構造物において、静的荷重付与装置により振動を誘起し、制震性能(減衰定数)を検証することができる。
【0009】
また、本発明の制震性能検証試験方法は、第1構造体と、第2構造体と、前記第1構造体と前記第2構造体との間に直接または間接的に減衰器と、を備えた複合型塔状構造物の制震性能検証試験方法であって、前記減衰器装着時に、静的荷重付与装置を用いて、第1構造体と第2構造体の間に強制荷重を加え、前記減衰器に相対変位を与え、前記第1構造体と前記第2構造体との間の距離を変化させる第1の工程と、前記第1の工程で前記第1構造体と前記第2構造体とに与えられた前記静的荷重付与装置による荷重を除去する第2の工程と、前記第2の工程で荷重が除去された前記第1構造体と前記第2構造体の自由振動波形を計測する第3の工程と、を含み、前記減衰器を取り外した状態で、前記静的荷重付与装置を用いて、前記第1構造体と前記第2構造体に強制荷重を加え、前記第1構造体と前記第2構造体に前記減衰器装着時と同程度の相対変位を与え、前記第1構造体と前記第2構造体との間の距離を変化させる第4の工程と、前記第4の工程で前記第1構造体と前記第2構造体とに与えられた前記静的荷重付与装置による荷重を除去する第5の工程と、前記第5の工程で荷重が除去された前記第1構造体と前記第2構造体の自由振動波形を計測する第6の工程と、を含む。
【0010】
本発明によれば、第1構造体第2構造体の間に減衰器等を備えた制震構造の塔状構造物において、静的荷重付与装置により振動を誘起し、第1構造体と第2構造体の自由振動波形を計測することが可能になる。計測された自由振動波形より対応する振動モードの減衰定数(含む振動数)を求め、さらに減衰器装着時と減衰器取り外し時の減衰定数を比較することで、制震性能(減衰器による増加減衰定数)を検証することができる。
【0011】
また、本発明の制震性能検証試験方法は、前記第2の工程は、前記静的荷重付与装置の先端部に装着したかませ物を除去することで、前記静的荷重付与装置による荷重を除去する。また、本発明の制震性能検証試験方法は、前記第2の工程及び前記第5の工程の少なくとも一方は、前記静的荷重付与装置の先端部に装着したかませ物を除去することで前記静的荷重付与装置による荷重を除去する。これにより、静的荷重付与装置による荷重の瞬間的な除去を簡便に行うことができる。
【0012】
また、本発明の制震性能検証試験方法は、前記かませ物の長さを前記静的荷重付与装置で与える相対変位量以上の長さとすることを特徴とする。これにより、より確実に自由振動を起こすことができる。
【0013】
また、本発明の制震性能検証試験方法は、前記第1または第4の工程において、前記静的荷重付与装置とテンション材を用いて前記第1構造体と前記第2構造体を接近させる方向に変位を与え、前記第2または第5の工程において、前記テンション材を切断させることで前記静的荷重付与装置による荷重を除去することを特徴とする。これにより、本発明の制震性能検証試験をより簡便に行うことができる。
【0014】
また、本発明の制震性能検証試験方法は、前記静的荷重付与装置による荷重のONあるいはOFFを電動ポンプで行うことを特徴とする。これにより、本発明の制震性能検証試験をさらにより簡便に行うことできる。
【0015】
また、本発明の制震性能検証試験方法は、前記静的荷重付与装置は前記複合型塔状構造物の頂部付近に位置することを特徴とする。これにより、塔状構造物の下方に静的荷重付与装置を設置した場合に比べ、静的荷重付与装置により大きな揺れを起こすことができる。
【0016】
また、本発明の制震性能検証試験方法は、前記自由振動波形は、前記第1構造体の頂部、前記第2構造体の頂部、前記第1構造体側の前記減衰器との接続部、及び、前記第2構造体側の前記減衰器との接続部の少なくとも4点に設置された複数の振動センサーで検出することが好ましい。これにより、第1構造体と第2構造体の自由振動波形をより確実に計測することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の制震性能検証試験方法は、複数の構造体の間に減衰器を備えた複合型塔状構造物の制震性能検証試験を小さな動力源で簡便に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、減衰器を備えた制震構造の塔状構造物の概略構成の一例を示す立面図である。
図2は、
図1に示す搭状構造物の頂部付近における減衰器取付階の概略構成の一例を示す平面図である。
図3は、
図2に示す減衰器取付階における減衰器(オイルダンパー)の概要図である。
【0021】
制震構造の塔状構造物1は、本実施形態の制震性能検証試験の対象となる構造物である。塔状構造物1は、被支持構造体2と、被支持構造体2を支持する支持構造体3と、減衰ユニット20と、を備える。
【0022】
図1に示す被支持構造体2は、筒身(増設筒身)2aと筒身(既設筒身)2bとを有する。筒身2aと筒身2bは、どちらも円筒形状である。筒身2a、2bは、支持構造体3によって支持される煙突筒身や排気筒等である。筒身2aは、
図2に示すように4本の片持ち梁12が張り出している。各片持ち梁12は、筒身2aの円周方向に沿って90°の間隔をあけて均等に張り出している。片持ち梁12は、筒身2aの円周の接線に直交する方向に延びる向きで配置されている。また、片持ち梁12は、先端に筒身側金物13が配置されている。なお、筒身2bは、後述する支持構造物3に締結機構や溶接により固定されている。
【0023】
支持構造体3は、例えば鉄塔構造体であり、被支持構造体2の周りを取り囲むように設置される。
図1に示す支持構造体3は、4本の柱材11aと、柱材11a間に所定の間隔で水平に架け渡された水平材11bと、水平材11b間に斜めに架け渡された斜材11cと、を有するトラス型の鉄塔である。支持構造体3は、
図2に示すように、被支持構造体2の周囲に補強材11dが配置されている。補強材11dは、水平材11bと同一平面で、かつ水平材11bに囲われる領域に配置されている。補強材11dは、水平材11bと同一平面において、水平材11bに対して、略45度傾いた角度で筒身2a、2bの周囲に配置されている。補強材11dの端部は、水平材11dまたは交差する補強材11dに固定されている。支持構造体3は、
図2及び
図3に示すように補強材11dの筒身2aに対面する位置に配置され、かつ、筒身側金物13と対面する位置に鉄塔側金物14が配置されている。また支持構造体3は、補強材11dの筒身2bと対面する位置の一部が筒身2bと接し、締結機構や溶接により連結されている。これにより、支持構造体3は、筒身2bを固定している。
【0024】
本実施形態の減衰ユニット20は、4つの減衰器21a,21b,21c,21dを有する。4つの減衰器21a,21b,21c,21dは、配置位置が異なるのみで同様の構造である。以下、配置に関係のない点について説明する場合、減衰器21として説明する。5減衰器21は、各片持ち梁12と支持構造体3との間、より具体的には、筒身側金物13と鉄塔側金物14との間に配置されている。減衰器21は、筒身側金物13を介して片持ち梁12と連結され、鉄塔側金物14を介して支持構造体3と連結されることで、片持ち梁12と支持構造体3との両方によって連結される。つまり塔状構造物1は、筒身2aが4つの減衰器21を介して支持構造体3に支持されている。減衰器21は、オイルダンパーである。ここで、オイルダンパーとは、所定の方向に加わる力を液体の移動により減衰させる機構であり、例えば、シリンダー内に封入されたオイル等の液体中でピストンを移動させ、ピストンに設けられたオリフィスを通してオイルを流動させることによって流体減衰を発揮させる。
【0025】
なお、本実施形態の減衰ユニット20は、4つの減衰器21a〜21dを配置した構成としたが、減衰器21の配置数はこれに限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0026】
次に、上記構成を有する制震構造の塔状構造物1の作用について説明する。本実施形態の制震構造の塔状構造物1は、地震が発生すると振動する。この時、被支持構造体2と支持構造体3と、より具体的には、筒身2aと支持構造体3とは、固有周期や振動モードなどの振動特性が異なるため、異なる挙動で振動する。このように、筒身2aと支持構造体3とが異なる挙動で振動すると、筒身2aと支持構造体3とが振動する方向(振動方向)が長手方向となる向きに配置された減衰器21を固定する筒身側金物13と鉄塔側金物14との距離が変化する。減衰器21は、筒身側金物13と鉄塔側金物14との距離または当該方向の力が一定以上の速度で変化すると力を打ち消す方向の力を発生させる。つまり、被支持構造体2と支持構造体3との間に設置した減衰器21が作動する。減衰器21が作動すると、振動エネルギーが熱エネルギー等に変換されて吸収されるため、被支持構造体2と支持構造体3の両者の揺れを抑制する。なお、減衰器21は、速度のない力また速度が一定より低い速度で変化する力、つまり静的な力が作用した場合、その力を打ち消す力が小さくまたは無視できる状態となり、その力に応じて、伸縮する。
【0027】
次に、
図4から
図6を用いて、
図1に示す塔状構造物を対象とする制震性能試験方法に用いる試験装置ユニットについて説明する。
図4は、
図1に示す搭状構造物を対象とした制震性能検証試験方法に用いる試験装置ユニットの概略構成の一例を示す立面図である。
図5は、
図4に示す搭状構造物の頂部付近における静的荷重付与装置取付階の概略構成の一例を示す平面図である。
図6は、
図5に示す静的荷重付与装置取付階における静的荷重付与装置(油圧ジャッキ)の概要図である。
【0028】
試験装置ユニット100は、静的荷重付与装置4(以下、油圧ジャッキ4とする)4と、自由振動波形を計測するための振動センサー35a,35b,45,45b,55a,55bと、計測した自由振動波形を集約する制御装置6と、を有する。
【0029】
油圧ジャッキ4は、搭状構造物の頂部付近において、筒身2aと筒身2bとの間に設置され、油圧ジャッキ4の長手方向に水平な強制荷重を筒身2aと筒身2bに加え、筒身2aと筒身2bとを離間させる方向に変形させる。油圧ジャッキ4は、強制荷重を徐々に加えることで、減衰器21による力の減衰効果を小さくすることができる。
【0030】
ここで、本実施形態の油圧ジャッキ4は、可動部の先端部と筒身2bとの間にかませ物61が配置されている。かませ物61は、剛体であり、油圧ジャッキ4で押されても実質的に変形しない物体である。試験装置ユニット100は、油圧ジャッキ4と筒身2bとの間に配置されたかませ物61を、油圧ジャッキ4と筒身2bとの間から外すことで、油圧ジャッキ4が筒身2aと筒身2bに加えている荷重を除去することができる。これにより、試験装置ユニット100は、油圧ジャッキ4が筒身2aと筒身2bに与えられた油圧ジャッキ4による荷重の瞬間的な除去を簡便に行うことができる。
【0031】
油圧ジャッキ4は、筒身2aと筒身2bとを離間させる方向に変形させ、その後、かませ物61を除去すること等により、付与している荷重を除去することで、
図5に示す加振方向(
図5の左下から右上)に振動を誘起することができる。油圧ジャッキ4は、搭状構造物の頂部付近に配置することで、塔状構造物の下方に油圧ジャッキ4を設置した場合に比べ、小さな力でより大きく変形させることができる。これにより、小さな力で大きな揺れを起こすことができる。
【0032】
また、試験装置ユニット100は、油圧ジャッキ4の動作を電動ポンプ62で制御している。これにより、電動ポンプ62によって、油圧ジャッキ4が筒身2aと筒身2bに加える荷重のONあるいはOFFを制御することができる。このようにすることで、作業員への負荷が少なく、本発明の制震性能検証試験を簡便に行うことできる。
【0033】
振動センサー35a,35b,45,45b,55a,55bとは、設置された位置の移動を計測する計測素子である。振動センサー35a,35b,45,45b,55a,55bとは、移動の状態を計測した結果に基づいて、自由振動波形を計測することができる。なお、演算処理は、振動センサー35a,35b,45,45b,55a,55bで行ってもよいし、制御装置6で行ってもよい。
【0034】
振動センサー35aは、筒身側金物13に設置されている。振動センサー35bは、鉄塔側金物14に設置されている。振動センサー45aは、被支持構造体2の筒身2aの頂部付近に設置されている。振動センサー45bは、支持構造体3の頂部付近に設置されている。振動センサー55aは、筒身2aの頂部に配置されている。振動センサー55bは、支持構造体3の頂部に配置されている。
【0035】
制御装置6は、静的荷重付与装置4と振動センサー5に接続されたPC等であり、演算装置と、記憶装置と、を含む。また、制御装置6は、キーボード、マウス、タッチパネル等の入力デバイスやモニタ等の出力デバイスを備えていてもよい。制御装置6は、静的荷重付与装置4の動作制御が可能であるとともに、振動センサーによる自由振動波形の測定結果を収集し、適宜解析を行い、制震性能を検証する。
【0036】
以下、
図7を用いて、
図5に示す静的荷重付与装置取付階の概略構成の場合について説明する。
図7は、本実施形態に係る制震性能検証試験方法の各工程を示すフローチャートである。本実施形態に係る制震性能検証試験方法は、第1構造体と第2構造体の間に減衰器等を備えた制震構造の塔状構造物において、
図7に示す工程で振動を誘起し、その振動を計測することで制震性能を検証する。本実施形態では、筒身2aが第1構造体となり、筒身2b及び支持構造体3が第2構造体となる。
【0037】
具体的には、まず、第1構造体と第2構造体の間に静的荷重付与装置を設置する(ステップS10)。第1構造体と第2構造体に静的荷重付与装置で強制荷重を加えて(ステップS12)、第1構造体と第2構造体に相対変位を与え(ステップS14)、第1構造体と第2構造体との間の距離を変化させる(ステップS16)。ここまでを第1の工程とする。次に、第1構造体と第2構造体とに与えられた静的荷重付与装置による荷重を除去する(ステップS18)。これを第2の工程とする。さらに、第1構造体と第2構造体に取り付けた複数の振動センサーで自由振動波形を計測する(ステップS20)。これを第3の工程とする。以上、第1から第3の工程により、起振機等を用いる代わりに静的荷重付与装置を用いて、第1構造体と第2構造体の自由振動波形を計測することが可能になる。その後、計測した自由振動波形より対応する振動モードの減衰定数(含む振動数)を求める(ステップS22)。さらに、複数の条件下で求められた減衰定数を比較することで制震性能を検証する(ステップS24)。
【0038】
ここで、本実施形態の制震性能検証試験は、複数の条件として、減衰器21を設置した状態で
図7のステップS10からステップS22の処理を行い、減衰器21を取り外した状態で
図7のステップS10からステップS22の処理を行い、両者の制震性能を比較する処理を行うことが好ましい。これにより、減衰器21を設置することで得ることができる制震性能を評価することができる。
【0039】
図8は、制震性能検証試験方法の工程の一部を示す説明図である。具体的には、
図8は、油圧ジャッキ4による処理の工程を示す。以下、
図8を用いて、上述したステップS12からステップS18の処理をより詳細に説明する。まず、筒身2aと筒身2bの間に油圧ジャッキ4が設置され、筒身2aと筒身2bに油圧ジャッキ4で強制荷重が加えられている(ステップS100)。なお、
図8に示す例では、かませ物61が用いられている。そして、筒身2aと筒身2bは相対変位を与えられ、破線で示す荷重が加えられる以前の位置から、実線で示す荷重が加えられた後の位置まで変形している(ステップS120)。なお、
図8に示す例では、筒身2aと筒身2bの相対変位量をそれぞれ40mm程度、10mm程度としている。次に、除荷時に油圧ジャッキ4の可動部の先端部と筒身2bとの間に配置されたかませ物61を除去することで、油圧ジャッキ4による荷重の瞬間的な除去を行うことができる(ステップS140)。その結果、油圧ジャッキ4と筒身2bとの間に配置されたかませ物61を、油圧ジャッキ4と筒身2bとの間から外すことで、油圧ジャッキ4と、筒身2a及び筒身2bの間には隙間が生じ、筒身2aと筒身2bはそれぞれ自由振動する(ステップS160)。
【0040】
以上のように、制震性能検証試験方法は、第1構造体と、これを水平方向に支持する第2構造体の間に減衰器等を備えた制震構造の塔状構造物において、静的荷重付与装置(本実施形態では油圧ジャッキ4)により振動を誘起し、第1構造体と第2構造体の自由振動波形を計測する。さらに、計測された自由振動波形より対応する振動モードの減衰定数(含む振動数)を求め、制震性能(減衰定数)を検証する。さらに減衰器装着時と減衰器取り外し時の減衰定数を比較することで、制震性能(減衰器による増加減衰定数)を検証する。
【0041】
このように、本実施形態の制震性能検証試験方法は、静的荷重付与装置で第1構造体と第2構造体との相対位置を変化させることで、減衰器21によって打ち消される力を小さくすることができ、小さい力でより大きく変形させ、大きく自由振動させることができる。したがって、複数の構造体の間に減衰器を備えた複合型塔状構造物の制震性能検証試験を小さな動力源で簡便に行うことができる
【0042】
次に、上記工程を有する制震性能検証試験方法の作用・効果について説明するために、本発明の比較例として、起振機を用いて制震性能検証を行う振動試験を考える。
図9は、比較例の制震性能検証試験を行う場合の、減衰器を備えた制震構造の塔状構造物の概略構成の一例を示す立面図である。
図10は、
図9に示す搭状構造物の頂部付近における起振機の設置状況の一例を示す平面図である。
【0043】
本実施形態と同様の複数の構造体間に減衰器等を備えた制震構造の塔状構造物を対象として起振機を使用する場合、
図9及び
図10に示すように、塔状構造物の頂部付近に起振機151a,151bを設置して制震性能検証を行う振動試験が考えられる。この場合、減衰器を作動させるために非常に大きな加振能力の起振機が必要となる。起振機は、塔状構造物の下方に設置した場合に比べ、頂部に設置した場合が大きな揺れを起こすことができるが、頂部に設置するには揚重設備や設置スペース、さらには支持するための強度を要する。大型起振機には重錘を往復運動させる慣性加振装置が多い。また、1Hz未満の低振動数構造物の場合、大ストロークで大きな重錘をコントロールする必要がある。そのため、起振機には大容量の動力源を要する。また振動数が0.5Hz以下(高さ200m以上)の塔状構造物が対象になると、起振機を設置することが非常に困難になる。
【0044】
これに対して、本実施形態の制震性能検証試験は、油圧ジャッキで静的な荷重を付与して、相対変位を発生させるため、振動を発生させる原動機を小さくすることができる。また、設置位置の制約も小さい。つまり、油圧ジャッキは、起振機に比べて小型軽量であるため、試験機材の減少や軽量化が可能になる。さらに、大型起振機が不要になるので、大容量の動力源も不要となる。これにより、簡単に設置することができ、特に起振機を設置することが困難である高さ200m以上の制震構造の塔状構造物1の制震性能検証も好適に行うことができる。
【0045】
試験装置ユニット100は、複数の振動センサーを設置することで、第1構造体と第2構造体の自由振動波形をより確実に計測することができる。具体的には、振動センサー45a、45bを、減衰器21が連結している筒身側金物13と鉄塔側金物14に設置することで、減衰器21を介して接続している第1構造物と第2構造物の振動を好適に計測することができる。また、振動センサー45a、45bを、それぞれ筒身2aと支持構造物3の頂部付近に配置することで、塔状構造物の下方に比べ、より大きな揺れが発生する塔状構造物の頂部付近での振動を計測することができ、第1構造体となる筒身2aと第2構造体となる筒身2b及び支持構造物3の自由振動波形をより確実に計測することができる。また、振動センサー45a、45bを、頂部付近に配置することで、筒身2aと支持構造物3の頂部に配置することで、計測する揺れをより大きく計測することができ、第1構造体となる筒身2aと第2構造体となる筒身2b及び支持構造物3の自由振動波形をより確実に計測することができる。なお、振動センサーの数及び配置はこれに限定されるものではなく、適宜変更することができる。振動センサーは、第1構造体の頂部、第2構造体の頂部、第1構造体側の減衰器との連結部、及び、第2構造体側の減衰器との連結部の少なくとも4点に設置された複数の振動センサーで計測を行うことが好ましい。
【0046】
ここで、かませ物61は、長さ(油圧ジャッキ4の可動部が移動する方向の長さ)を油圧ジャッキ4で与える相対変位量と同等以上とすることが好ましく、同等とすることがより好ましい。このようにかませ物61は、長さを所定以上の長さとすることで、かませ物61を油圧ジャッキ4と筒身2bとの間から外した場合に油圧ジャッキ4と筒身2bとの間に生じる隙間を、第1構造体と第2構造体の自由振動の最大振幅と同等以上とすることができる。したがって、より確実に自由振動を起こすことができる。
【0047】
(第2の実施形態)
ここで、第1の実施形態は、油圧ジャッキ4を筒身2aと筒身2bとの間に配置したがこれに限定されない。以下、第2の実施形態として、油圧ジャッキ4を配置する位置の他の例について説明する。
図11は、
図4に示す搭状構造物の頂部付近における静的荷重付与装置取付階の概略構成の他の例を示す平面図である。油圧ジャッキ4は、搭状構造物の頂部付近において、筒身2aと支持構造体3との間に設置されている。油圧ジャッキ4は、長手方向に水平な強制荷重を筒身2aと支持構造体3とを離間させる方向に付与する。これにより、油圧ジャッキ4は、筒身2aと支持構造体3とを離間させる方向に変形させることができる。これにより、
図11に示す加振方向(
図11の左上から右下)に振動を誘起することができる。このように、減衰器21を介して接続されている筒身2aと支持構造体3との間に油圧ジャッキ4を配置して、筒身2a(第1構造体)と支持構造体3(第2構造体)に相対変位を発生させることでも、制震性能を評価することができる。また、第2の実施形態のように、第1の実施形態と異なる方向に相対変位を発生させることで、異なる方向における制震性能を評価することができる。
【0048】
ここで、油圧ジャッキ4を設置する位置は、上記実施形態にも限定されず、減衰器を介して直接または間接的に連結された第1構造体と第2構造体との、制震性能を評価する対象の方向の相対位置を変動させることができればよい。
【0049】
(第3の実施形態)
ここで、筒身2aと減衰器を介して連結している構造物との相対位置は、両者を離す方向に移動させることにも限定されない。以下、第3の実施形態として、筒身2aと筒身2bとを近づける方向に移動させる例について説明する。
図12は、
図4に示す搭状構造物の頂部付近における静的荷重付与装置取付階の概略構成の変形例を示す平面図である。
図12に示される例では、筒身2aと筒身2bとがテンション材101で括られる。テンション材101は、鉄線等の伸びにくい線材である。油圧ジャッキ4は、搭状構造物の頂部付近において、テンション材101で囲われる領域の内側に配置され、支持構造体3に固定されている。油圧ジャッキ4は、水平な強制荷重を付与し、テンション材101で形成されている輪を外側に付勢することで、筒身2aと筒身2bとを接近させる方向(矢印130の方向)に変形させることができる。また、本実施形態では、テンション材101を切断することで、荷重を除去する。
【0050】
このように、テンション材を用いることで、テンション材101を切断するだけで荷重を除去することができる。なお、本実施形態では、油圧ジャッキ4を用いて、テンション材101を変形させたが、筒身2aと筒身2bを括るテンション材101を巻き取り機等で巻き取り、テンション材101で形成される輪を小さくすることで、筒身2aと筒身2bとを接近させる方向(矢印130の方向)に変形させてもよい。
【0051】
以下、本発明による作用・効果の一例として、減衰器装着時の実施例の数値シミュレーション解析結果を
図13に示す。第1構造体と第2構造体は、油圧ジャッキ4の押し力で離れる方向に変形し、除荷されると、本来は第1構造体と第2構造体が逆方向に振動する逆位相モードが誘起される。しかし減衰器21があるため、逆位相モードは、大きな減衰が付加されてすぐに消滅し、同位相モードが残る。地震時の揺れで問題になるのは、減衰が付加されにくい同位相の振動モードになるため、減衰器21による減衰付加を期待している振動モードの自由振動波形を計測することができる。
【0052】
減衰器を取り外した状態の数値シミュレーション解析結果を
図14に示す。第1構造体と第2構造体は、減衰器装着時と同様に油圧ジャッキの押し力で離れる方向に変形するが、除荷されると、逆位相と同位相の振動モード、さらには高次の振動モードが混在した自由振動波形を呈する。
【0053】
ここで、第1構造体と第2構造体加速度波形の周波数分析結果に基づき、自由振動波形のバンドパスフィルター処理を行った波形例を
図15A、
図15Bに示す。バンドパスフィルター処理を行うことで、同位相の振動成分と逆位相の振動成分が分離され、振動モード毎の自由振動波形を検出することができる。
【0054】
この実施例のように、減衰器装着時の自由振動波形と、減衰器を外した時の自由振動波形より対応する振動モードの減衰定数(含む振動数)を求め、両者を比較することで制震性能を検証することができる。また、自由振動の計測結果に基づいて同位相成分、逆位相成分の両方を解析できることがわかる。これにより、制震性能(減衰器による増加減衰定数)を検証することができる。
【0055】
また、本実施形態では、制震構造の塔状構造物1は、被支持構造体2と、被支持構造体2を支持する支持構造体3とを備えており、被支持構造体2は煙突筒身や排気筒等、支持構造体3は鉄塔や鋼製外筒等としたが、必ずしも制震構造の塔状構造物は被支持構造体2支持構造体3とを備える必要はなく、複数の建造物等の間に減衰器等が配置されていればよい。また、本実施形態のように被支持構造体2が複数ある場合、被支持構造体が第1構造体と第2構造体に分かれる場合もある。つまり被支持構造体と支持構造体は相対的な関係であり、減衰器を介して直接または間接的に繋がっている一方が第1構造体となり他方が第2構造体となる。
【0056】
また、本実施形態では、被支持構造体2は2つの筒身からなり、どちらも円筒形状をなしているとしたが、筒身は1つでもよく、その形状も必ずしも円筒形状でなくてもよい。このように、制震構造の複合型塔状構造物を構成する構造物の数及び配置は本実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0057】
また、本実施形態では、支持構造体3を複数の鉄骨を組み合わせた鉄塔構造物としたが、これに限定されない。支持構造体3は、被支持構造体2を支持できればよく、被支持構造体2の周囲を囲う鋼製外筒としてもよいし、被支持構造体2に並列に配置された塔状の構造物であってもよい。また、支持構造体3が外筒の場合、例えば外筒の内壁に所定の間隔をあけて減衰器21を配置すればよい。
【0058】
また、本実施形態では、減衰器21として、速度に比例する力に対向できるオイルダンパーを用いたが、速度のべき乗に力が比例するダンパーを用いてもよい。また、粘性系ダンパーとしては、オイルダンパーの他に、粘性ダンパーや粘弾性ダンパー等を用いてもよい。また、所定荷重に達すると荷重・変形特性が変化する鋼材ダンパー、鉛ダンパー等の履歴系ダンパー又は摩擦系ダンパー等を用いてもよく、その特性が設計的に信頼できるものであれば、これらを減衰器21として用いてもよい。
【0059】
また、本実施形態では、被支持構造体2が支持構造体3の頂部付近において減衰器21とを介して支持構造体3に連結されている構成としたが、必ずしも支持構造体3の頂部付近である必要はなく、支持構造体3において頂部付近よりも下方位置に減衰器21を配置し、この減衰器21とを介して被支持構造体2を支持構造体3に連結してもよい。本実施形態では、被支持構造体2を支持構造体3の頂部付近のみで支持した構成としたが、支持構造体3の複数箇所に同様にして減衰器21を配置し、複数箇所で被支持構造体2を支持してもよい。
【0060】
以上、本実施形態及びその変形例について説明したが、前述した内容により本実施形態及びその変形例が限定されるものではない。また、前述した本実施形態及びその変形例の構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本実施形態及びその変形例の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換及び変更を行うことができる。