特許第6391514号(P6391514)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6391514車両用シート用発泡成形体、車両用シート用ヘッドレスト及び車両用シート用アームレスト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391514
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】車両用シート用発泡成形体、車両用シート用ヘッドレスト及び車両用シート用アームレスト
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/75 20180101AFI20180910BHJP
   B60N 2/80 20180101ALI20180910BHJP
   A47C 7/38 20060101ALI20180910BHJP
   A47C 7/54 20060101ALI20180910BHJP
   B68G 7/052 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   B60N2/75
   B60N2/80
   A47C7/38
   A47C7/54 Z
   B68G7/052 Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-64847(P2015-64847)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2016-182910(P2016-182910A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2017年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】100093953
【弁理士】
【氏名又は名称】横川 邦明
(72)【発明者】
【氏名】田畑 毅
(72)【発明者】
【氏名】片山 佳昭
【審査官】 毛利 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−059428(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3111584(JP,U)
【文献】 特開2006−043329(JP,A)
【文献】 特開平08−230076(JP,A)
【文献】 特開平06−198093(JP,A)
【文献】 特開2000−016210(JP,A)
【文献】 実開昭56−111119(JP,U)
【文献】 米国特許第05681088(US,A)
【文献】 米国特許第05150946(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00− 2/90
A47C 7/00− 7/74
B68G 7/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡して所定形状になった発泡後樹脂と、当該発泡後樹脂を覆っている表皮と、を有する車両用シート用発泡成形体において、
前記表皮は、前記発泡後樹脂を覆っている本体部と、当該本体部から張出している張出し部とを有しており、
前記表皮の本体部と前記表皮の張出し部との境界部分は曲線形状に縫い合わされており
前記表皮は1層の素材によって形成されており、
前記境界部分は、前記表皮の表と裏とをひっくり返すときに境界となる部分であり、
前記曲線形状はミシン縫いの縫い針を連続的に滑らかに移動させることができる半径を持った曲線形状である
ことを特徴とする車両用シート用発泡成形体。
【請求項2】
前記の曲線形状は、ミシン縫いにおいて針を落としたままで縫い物である前記表皮を回転させることによって縫い方向を変化させるのではなく、針を連続的に進めることによって形成できる曲線形状であることを特徴とする請求項1記載の車両用シート用発泡成形体。
【請求項3】
前記の曲線形状は円の一部分の形状であることを特徴とする請求項2記載の車両用シート用発泡成形体。
【請求項4】
前記の円の半径は10mm以上であることを特徴とする請求項3記載の車両用シート用発泡成形体。
【請求項5】
発泡して所定形状になった発泡後樹脂と、当該発泡後樹脂を覆っている表皮と、を有しており、着座者の頭部を受ける車両用シート用ヘッドレストにおいて、
前記表皮は、前記発泡後樹脂を覆っている本体部と、当該本体部から張出している張出し部とを有しており、
前記表皮の本体部と前記表皮の張出し部との境界部分は曲線形状に縫い合わされているおり
前記表皮は1層の素材によって形成されており、
前記境界部分は、前記表皮の表と裏とをひっくり返すときに境界となる部分であり、
前記曲線形状はミシン縫いの縫い針を連続的に滑らかに移動させることができる半径を持った曲線形状である
ことを特徴とする車両用シート用ヘッドレスト。
【請求項6】
発泡して所定形状になった発泡後樹脂と、当該発泡後樹脂を覆っている表皮と、を有しており、着座者の腕を受ける車両用シート用アームレストにおいて、
前記表皮は、前記発泡後樹脂を覆っている本体部と、当該本体部から張出している張出し部とを有しており、
前記表皮の本体部と前記表皮の張出し部との境界部分は曲線形状に縫い合わされているおり
前記表皮は1層の素材によって形成されており、
前記境界部分は、前記表皮の表と裏とをひっくり返すときに境界となる部分であり、
前記曲線形状はミシン縫いの縫い針を連続的に滑らかに移動させることができる半径を持った曲線形状である
ことを特徴とする車両用シート用アームレスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート用ヘッドレスト、車両用シート用アームレスト等といった車両用シート用発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の車両用シート用発泡成形体は、発泡して所定形状になった発泡後樹脂が表皮で覆われた状態になっている車両用シート用の機器である。この発泡成形体は、例えばヘッドレスト、アームレスト等である。ヘッドレストは車両用シートに着座した着座者の頭部を受ける車両用機器である。アームレストは車両用シートに着座した着座者の腕を受ける車両用機器である。
【0003】
(特許文献1)
従来、特許文献1により、ヘッドレスト等といった発泡成形体が知られている。この発泡成形体においては、ステー(すなわち支柱)を内蔵した表皮を成形型内に配置し、この表皮内に発泡樹脂原料を注入し、ステーを内蔵した状態(すなわちインサートした状態)で発泡樹脂原料を発泡及び硬化させることにより発泡成形体が形成される。
【0004】
この従来の発泡成形体においては、発泡樹脂原料を注入するための開口部を一対の舌片(すなわち張出し部)によって形成し、この開口部を通して発泡樹脂原料を表皮の内部へ注入する。表皮の本体部とその本体部分から張出す舌片との境界部分は直角形状であった。
【0005】
(特許文献2)
従来、特許文献2により、発泡原料を注入するためのスリット開口の線上にステー用孔が設けられた構造のヘッドレストが知られている。このヘッドレストで用いられる表皮は、発泡して所定形状になった発泡後樹脂を覆う本体部分と、その本体部分から張出す張出し部分である2枚重ね部分とを有している。表皮の本体部分と表皮の張出し部分との境界部分は直角状に縫い付けられていた。
【0006】
(特許文献3)
従来、特許文献3により、発泡性の樹脂を用いたヘッドレストが開示されている。このヘッドレストにおいては、折返し用の一対の突出部によって開口を形成し、この開口を通して表皮内に発泡樹脂原料を注入することによってヘッドレストが形成される。このヘッドレストにおいても、表皮の突出部と表皮の本体部との境界部分は直角形状であった。
【0007】
(特許文献4)
従来、特許文献4により、発泡性の樹脂を用いたヘッドレストが開示されている。このヘッドレストにおいては、開口部を備えた環状帯部が表皮の本体部から張出している。この環状帯部の開口部を通して発泡樹脂原料が表皮の内部に注入される。このヘッドレストにおいても、表皮の張出し部と表皮の本体部との境界部分は直角形状であった。
【0008】
以上のように、従来の発泡成形体においては、図11(a)及び図11(c)に示すように、本体部102と張出し部103とによって表皮101が形成されていた。図11(a)の表皮101は裏面が表側に現われている状態である。図11(a)において表皮101を張出し部103の開口106を通して表返しにして張出し部103を本体部102の内部へ折り込むことにより、表皮101の表面が表側に現れる状態となる。
【0009】
表皮101に対する縫い合わせ作業は、図11(d)に示すように、押え部材104によって表皮101を押さえながら、針105を表皮101に通すことによって行われる。図11(a)において境界部分Aまでの縫い合わせ作業は、針105(図11(d)参照)を矢印Bのように進行させることによって行われる。
【0010】
上述したように、従来の発泡成形体においては、図11(a)及び図11(c)に示すように、表皮101の本体部102と表皮101の張出し部103との境界部分Aは直角形状に縫い合わされていた。すなわち、直角縫いされていた。この直角縫いは、図11(a)において矢印Bのように縫い合わせを行った後、図11(b)の矢印Cのように、境界部分Aの所で針105(図11(d)参照)を落としたままで表皮101を回して矢印Dのように縫い方向を直角に変化させることによって行われていた。
【0011】
このような直角縫いを行うと、図11(d)に符号Eで示すように、針孔が大きく広がってしまう。このように針孔が大きく広がると、図11(a)の開口106又はその他の任意の部分を通して表皮101の内部へ発泡樹脂原料を注入し、さらにその原料を発泡させたとき、その針孔から発泡樹脂原料が外部へしみ出てしまうことがあった。
【0012】
このようなしみ出しが発生すると、発泡原料の発泡及び硬化が終了して図12(a)のヘッドレスト107が完成したとき、図12(a)及び図12(b)に示すように、表皮101の本体部102と表皮101の張出し部103の境界部分Aの所(すなわち、直角縫いによって針孔が大きくなった所)で発泡樹脂原料のしみ出しFが発生し、ヘッドレスト107の外観が大きく損なわれるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−031759号公報
【特許文献2】特開2000−153084号公報
【特許文献3】特開2005−323761号公報
【特許文献4】特開2007−050621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、従来装置における上記の問題点に鑑みて成されたものであって、表皮の内部に発泡原料樹脂を注入するための開口を表皮の一部に形成するために当該表皮の一部に張出し部を設けるようにした発泡成形体において、張出し部と本体部との境界部分において発泡原料樹脂が表皮の外部へしみ出すことを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る車両用シート用発泡成形体は、発泡して所定形状になった発泡後樹脂と、当該発泡後樹脂を覆っている表皮とを有する車両用シート用発泡成形体において、前記表皮は、前記発泡後樹脂を覆っている本体部と、当該本体部から張出している張出し部とを有しており、前記表皮の本体部と前記表皮の張出し部との境界部分は曲線形状に縫い合わされており前記表皮は1層の素材によって形成されており、前記境界部分は前記表皮の表と裏とをひっくり返すときに境界となる部分であり、前記曲線形状はミシン縫いの縫い針を連続的に滑らかに移動させることができる半径を持った曲線形状であることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、表皮の本体部と表皮の張出し部との境界部分を直角形状ではなく曲線形状、例えば円形状に縫い合わせるようにしたので、針孔が大きく広がることがなくなった。このため、表皮の内部に発泡性樹脂を注入したときに、並びに発泡性樹脂を発泡及び硬化させるときに、発泡性樹脂が針孔から外部へしみでることがなくなった。その結果、ヘッドレスト、アームレスト等といった発泡成形体の外観が発泡性樹脂のしみ出しによって損なわれることがなくなった。
【0017】
本発明に係る車両用シート用発泡成形体の1つの発明態様において、前記の曲線形状は、ミシン縫いにおいて針を落としたままで縫い物である前記表皮を回転させることによって縫い方向を変化させるのではなく、針を連続的に進めることによって形成できる曲線形状である。
【0018】
この発明態様によれば、針を落としたままで表皮を回転させて縫い方向を変化させることがないので、針孔が拡大することがなくなり、それ故、発泡性樹脂のしみ出しを防止する効果をより一層高めることが可能になった。
【0019】
本発明に係る車両用シート用発泡成形体の他の発明態様において、前記の曲線形状は円の一部分の形状である。この発明態様によれば、発泡性樹脂のしみ出しを防止する効果をより一層高めることができる。
【0020】
本発明に係る車両用シート用発泡成形体のさらに他の発明態様において、前記の円の半径は10mm以上である。この発明態様によれば、発泡性樹脂のしみ出しを防止する効果をより一層高めることができる。
【0021】
次に、本発明に係る車両用シート用ヘッドレストは、発泡して所定形状になった発泡後樹脂と、当該発泡後樹脂を覆っている表皮とを有しており、着座者の頭部を受ける車両用シート用ヘッドレストにおいて、前記表皮は、前記発泡後樹脂を覆っている本体部と、当該本体部から張出している張出し部とを有しており、前記表皮の本体部と前記表皮の張出し部との境界部分は曲線形状に縫い合わされており前記表皮は1層の素材によって形成されており、前記境界部分は前記表皮の表と裏とをひっくり返すときに境界となる部分であり、前記曲線形状はミシン縫いの縫い針を連続的に滑らかに移動させることができる半径を持った曲線形状であることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、ヘッドレストにおける表皮の本体部と表皮の張出し部との境界部分を直角形状ではなく曲線形状、例えば円形状に縫い合わせるようにしたので、針孔が大きく広がることがなくなった。このため、表皮の内部に発泡性樹脂を注入したときに、並びに発泡性樹脂を発泡及び硬化させるときに、発泡性樹脂が針孔から外部へしみでることがなくなった。その結果、ヘッドレストの外観が発泡性樹脂のしみ出しによって損なわれることがなくなった。
【0023】
次に、本発明に係る車両用シート用アームレストは、発泡して所定形状になった発泡後樹脂と、当該発泡後樹脂を覆っている表皮とを有しており、着座者の腕を受ける車両用シート用アームレストにおいて、前記表皮は、前記発泡後樹脂を覆っている本体部と、当該本体部から張出している張出し部とを有しており、前記表皮の本体部と前記表皮の張出し部との境界部分は曲線形状に縫い合わされており前記表皮は1層の素材によって形成されており、前記境界部分は前記表皮の表と裏とをひっくり返すときに境界となる部分であり、前記曲線形状はミシン縫いの縫い針を連続的に滑らかに移動させることができる半径を持った曲線形状であることを特徴とする。

【0024】
本発明によれば、アームレストにおける表皮の本体部と表皮の張出し部との境界部分を直角形状ではなく曲線形状、例えば円形状に縫い合わせるようにしたので、針孔が大きく広がることがなくなった。このため、表皮の内部に発泡性樹脂を注入したときに、並びに発泡性樹脂を発泡及び硬化させるときに、発泡性樹脂が針孔から外部へしみでることがなくなった。その結果、アームレストの外観が発泡性樹脂のしみ出しによって損なわれることがなくなった。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ヘッドレスト、アームレスト等といった発泡成形体の表皮の本体部と表皮の張出し部との境界部分を直角形状ではなく曲線形状、例えば円形状に縫い合わせるようにしたので、針孔が大きく広がることがなくなった。このため、表皮の内部に発泡性樹脂を注入したときに、並びに発泡性樹脂を発泡及び硬化させるときに、発泡性樹脂が針孔から外部へしみでることがなくなった。その結果、ヘッドレスト、アームレスト等といった発泡成形体の外観が発泡性樹脂のしみ出しによって損なわれることがなくなった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る車両用シート用発泡成形体の一実施形態である車両用シート用ヘッドレストの一実施形態を示す斜視図である。
図2図1のヘッドレストの製造方法の一例を示す工程図である。
図3図1のヘッドレストで用いる表皮の縫製前の状態を示す平面図である。
図4図3に示す表皮素材を縫い合わせて形成された図1のヘッドレスト用の表皮の裏返しの状態を示す斜視図である。
図5図4の表皮を表返しにした状態を示す斜視図である。
図6】(a)は本発明で用いる曲線形状の縫い処理を模式的に示しており、(b)は縫い処理の比較例を模式的に示している。
図7】発泡成形型のキャビティに装着する状態にセットされた表皮組立体を示す斜視図である。
図8】発泡成形処理の1つの工程を示す斜視図である。
図9】(a)は本発明で用いる曲線形状の縫い処理の一実施形態を模式的に示す図であり、(b)はその縫い処理の結果の一例を示す斜視図である。
図10】本発明に係る車両用シート用発泡成形体の他の実施形態である車両用シート用アームレストの一実施形態を示す斜視図である。
図11】従来の車両用シート用発泡成形体を製造するための1つの工程を模式的に示す図である。
図12】(a)は従来の車両用シート用発泡成形体の一例であるヘッドレストの一例を示す斜視図であり、(b)はそのヘッドレストの主要部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(発泡成形体の一例であるヘッドレストの実施形態)
以下、本発明に係る車両用シート用発泡成形体をその一例であるヘッドレストを例に挙げて実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、本明細書に添付した図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0028】
(ヘッドレストの全体形状)
図1は本発明に係る車両用シート用発泡成形体の一実施形態である車両用シート用ヘッドレストを示している。このヘッドレスト1は、コ字形状又はU字形状である金属製のフレーム2と、フレーム2の周りに設けられた発泡後樹脂としてのパッド3と、パッド3の全体を覆っている表皮4とを有する。
【0029】
フレーム2は、表皮4の外部へ出ている支柱部2a及び2bと、支柱部2aと支柱部2bとをつないでいる連結部2cとを有している。パッド3は発泡性樹脂であるウレタンが発泡及び硬化して所定形状になった樹脂である。表皮4は、正面表皮材4aと、着座者にとって右側にある右側面表皮材4bと、着座者にとって左側にある左側面表皮材4cとを有している。
【0030】
(ヘッドレストの製造工程)
図1のヘッドレスト1は、例えば図2に工程図として示す製造方法によって製造される。この製造方法は、表皮作成工程P1と、前処理工程(すなわち、表皮組立体の作成工程)P2と、表皮組立体の成形型へのセット工程P3と、ウレタン注入工程P4と、製品取出し工程P5とを有している。
【0031】
(表皮作成工程)
表皮作成工程P1は、図1の表皮4を作成する工程である。具体的には、まず、図3に示すように、1枚の表皮素材からそれぞれの所定形状の正面表皮材4a、右側面表皮材4b、及び左側面表皮材4cを切り出す。図1のフレーム2を挿入するための孔であるフレーム挿入用孔7及び注入ノズル挿入用孔14も切り出される。表皮素材は1層の場合と多層の場合とがある。1層の表皮素材は、例えば織物、編物等といったファブリックや、革や、合成皮革等(以下、「1層の素材」という)によって形成される。
【0032】
2層の素材は、例えば、上記の1層の素材の上にワディング(すなわち詰め物、当て物、等)を積層した素材である。パッド3を覆う際には、ワディングがパッド3に接触する。ワディングは、例えば、3〜5mmの厚さのウレタン発泡材である。また、3層の素材は、例えば、上記の1層の素材上にワディングを積層し、さらにその上にフィルムを積層した素材である。パッド3を覆う際には、フィルムがパッド3に接触する。フィルムは、例えばポリウレタンフィルムや、ポリエチレンフィルムである。フィルムの厚さは、例えば30〜50μmである。
【0033】
図3において、正面表皮材4aを線X0を中心として折り曲げた上で、正面表皮材4aと右側面表皮材4bと左側面表皮材4cとを一点鎖線G1に沿って縫い合わせ、さらに正面表皮材4aの突片4d1及び突片4d2同士を一点鎖線G2に沿って縫い合わせることにより、図4に示すような表皮4(裏返し状態)が形成される。図4に示す状態は表皮4の裏面が表側に現れている状態であり、縫い線G1及び縫い線G2が表側に現れている。突片4d1と突片4d2とを縫い線G2で縫い合わせた部分は、表皮4の本体部8から張出している張出し部9を形成している。この張出し部9において、一方の縫い線G2と他方の縫い線G2との間の先端側Lは縫い合わされておらず、先端開口となっている。また、一方の縫い線G2と他方の縫い線G2との間の根元側Kも縫い合わされておらず、根元開口となっている。
【0034】
図5は、図4において張出し部9の根元開口K及び先端開口Lを通して表皮4を表裏ひっくり返した状態を示している。つまり、図5に示す状態は表皮4の表面が表側に現れている状態であり、縫い線G1及び縫い線G2が裏側に隠れている。図4において突片4d1,4d2によって形成された張出し部9は表皮4の本体部8の外側に張出しているが、図5においては張出し部9が表皮4の本体部8の内部に張出している。
【0035】
図4において、表皮4の本体部8と表皮4の張出し部9との境界部分Aは曲線形状に縫い合わされている。具体的には、図3に示すように境界部分Aは円の一部分の形状に縫い合わされている。より具体的には、境界部分Aは円のほぼ1/4(角度90°分の円)の形状に縫い合わされている。また、この円の半径は10mm以上に設定されている。
【0036】
現状のミシン縫いにおいては、縫い目が半径10mm以上の円形状である場合には、図6(a)に示すように、縫い針5をその円形状に沿って連続的に滑らかに移動させながら縫い作業を行うことができる。他方、縫い目の半径が10mm未満である場合には、図6(b)に示すように、縫い針を連続的に移動させながら縫い作業を行うことが難しく、通常は、所定の距離dだけ移動させるたびに針5を落としたままで縫い物を回転させて針の縫い方向Nを変化させる必要があった。こうなると、縫い物を回転させる所でどうしても針孔が大きくなってしまっていた。しかしながら本実施形態では、図3及び図4において境界部分Aの縫い目の曲線形状の半径を10mm以上に設定したので、境界部分Aに大きな針孔が形成されることがなくなった。
【0037】
一般的なミシン縫い作業においては、縫い処理は縫い物の外縁線を目印としてその外縁線に沿って針を移動させることによって行われる。従って、上記のように境界部分Aの縫い目を円形状にする場合には、境界部分Aに対応した表皮4の外縁線を予め半径10mm以上の円形状に切断しておくことが望ましい。このため、本実施形態では図3の正面表皮材4aを1枚の素材から切り出す際に用いる型紙の対応する部分に半径10mm以上の円形状を形成しておき、この型紙に基づいて正面表皮材4aの境界部分Aを切り出している。
【0038】
(前処理)
図2の前処理工程P2においては、図5の表皮4のフレーム挿入用孔7の一方に図1のフレーム2の支柱部2a又は支柱部2bを差し入れ、さらに図7に示すように連結部2cを表皮4の内部に挿入し、その後、支柱部2a又は2bをフレーム挿入用孔7の他方から抜き出して、2本の支柱部2a及び2bが表皮4の外部にあり連結部2cが表皮4の内部にある状態にする。その後、開口Kよりもわずかに長い長さを有すると共に、開口Kに挿入可能な薄い板厚の開口整形治具10(図5参照)を、図7の開口Kに挿入する。次に、注入ノズル12の先端を表皮4の内部へ挿入する。これにより、表皮組立体13が作成される。
【0039】
(成形型へのセット工程)
次に、図2の成形型へのセット工程P3において、図8(a)に示すように、表皮組立体13を発泡成形型16のキャビティ内にセットする。そして次に、図8(b)に示すように、発泡成形型16を閉じる。キャビティは所望のヘッドレストの形状に合致した凹形状となっている。
【0040】
(ウレタン注入工程)
次に、図2のウレタン注入工程P4において、図8(b)に示すように、ウレタン注入機のヘッド部17を成形型へ押し付け、さらに成形型内へウレタンを注入する。さらに、ウレタンの注入が完了した後、一定時間、常温で保持する。これにより、表皮4内でウレタンが発泡及び硬化し、成形型のキャビティの形状に一致したウレタン発泡体が形成される。このウレタン発泡体の形状が所望のヘッドレストの形状である。
【0041】
(製品取出し工程)
次に、図2の製品取出し工程P5において、図8(b)の成形型16を開き、発泡後のウレタン樹脂を内蔵した表皮組立体13を取出し、さらに注入ノズル12及び開口整形治具10を抜き取ることにより、図1に示すようなヘッドレスト1の完成品が発泡成形体として得られる。このヘッドレスト1においては、表皮4の本体部8が発泡後樹脂であるウレタン発泡体のパッド3を覆っている。そして、表皮4の張出し部9が本体部8の内部へ向けて張出している。この張出し部9は図3に示した正面表皮材4aの2つの突片4d1及び4d2を縫い線G2によって縫い合わせることによって形成されている。この張出し部9は根元開口K及び先端開口Lを有しているが、パッド3が発泡する過程において、本体部8内の張出し部9は発泡するパッド3によって上下方向から押し付けられることにより、根元開口K及び先端開口Lが自動的に閉じられる。このため、根元開口K及び先端開口Lからウレタン樹脂が漏れ出ることはない。
【0042】
以上に説明した本実施形態のヘッドレストにおいては、図4に示したように、表皮4の本体部8と表皮4の張出し部9との境界部分Aを円形形状、すなわち曲線形状に縫い合わせている。これを分かり易く模式的に示せば、図9に示す通りである。より具体的には、境界部分Aは半径10mm以上の円形状に縫い合わされている。仮に、縫い目の半径が10mm未満に設定されると、縫い合わせの処理は図6(b)に示したように、短い間隔dごとに針を落とした状態で縫い物を回転させて進行方向を変化させながら行わなければならなかった。こうすると、針を中心として縫い物を回転させるときに縫い物に大きな針孔が形成されてしまうおそれがある。
【0043】
このように表皮4の本体部8と張出し部9との境界部分Aに大きな針孔が存在する表皮4に基づいて図7のように表皮組立体13を形成し、この表皮組立体13に基づいて図1のヘッドレスト1を作成すると、図8(b)に示すウレタン注入及び成形工程時に大きな針孔からウレタンがしみ出てしまい、結果的に、図12(a)及び図12(b)に示すようにヘッドレスト1の外観が損なわれるおそれがある。
【0044】
これに対し、図9(a)及び図9(b)に示す本実施形態のように境界部分Aを連続的な円形状、すなわち曲線形状で縫い合わせることにすれば、境界部分Aに大きな針孔が発生することを防止でき、図9(c)に示すように、張出し部9と本体部8との境界部分Aにウレタン樹脂のしみ出しが発生することがなくなり、ヘッドレストの外観をきれいに維持できる。
【0045】
(発泡成形体の他の一例であるアームレストの実施形態)
図10は、本発明に係る車両用シート用発泡成形体の他の実施形態であるアームレストを示している。このアームレスト51は、発泡後樹脂としてのパッド53と、パッド53の全体を覆っている表皮54とを有する。符号56はカップホルダである。
【0046】
パッド53は発泡性樹脂であるウレタンが発泡及び硬化して所定形状になった樹脂である。表皮54は、正面表皮材54aと、右側面表皮材54bと、左側面表皮材54cとを有している。左右の側面表皮材54b,54cから突出している軸部材55は、着座者の背中を受けるシートバック(図示せず)の回転支持部に回転可能に支持される。
【0047】
表皮54は、パッド53を覆っている本体部58と、本体部58の内部へ張出している張出し部59と、本体部58と張出し部59との境界部分に形成された根元開口Kとを有している。パッド53の原料であるウレタン樹脂は根元開口K又はその他の任意の部分を通して表皮54の内部へ注入された後、発泡及び硬化して図示の所望の形状となる。
【0048】
本実施形態においても、本体部58と張出し部59との境界部分Aは曲線形状、例えば円形状に縫い合わされている。この縫い作業はミシン針を方向変換することなく連続して滑らかな縫い線に沿って行われる。このため、境界部分Aには大きな針孔が存在しない。境界部分Aに大きな針孔が存在していないので、開口Kを通してウレタン樹脂を注入して、さらにウレタン樹脂を発泡させたとき、境界部分Aにおいてウレタンのしみ出しが発生することを防止できた。この結果、外観のきれいなアームレスト51が得られた。
【0049】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
【0050】
例えば、以上の実施形態では車両用シート用ヘッドレスト及び車両用シート用アームレストに本発明を適用した。しかしながら、本発明はヘッドレスト及びアームレスト以外の任意の車両用シート用機器に適用できる。
【符号の説明】
【0051】
1.ヘッドレスト(発泡成形体)、 2.フレーム、 2a、2b.支柱部、 2c.連結部、 3.パッド(発泡後樹脂)、 4.表皮、 4a.正面表皮材、 4b.右側面表皮材、 4c.左側面表皮材、 4d1,4d2.突片、 5.縫い針、 7.フレーム挿入用孔、 8.本体部、 9.張出し部、 10.開口整形治具、 12.注入ノズル、 13.表皮組立体、 16.発泡成形型、 17.ウレタン注入機のヘッド部、 51.アームレスト(発泡成形体)、 53.パッド(発泡後樹脂)、 54.表皮、 54a.正面表皮材、 54b.右側面表皮材、 54c.左側面表皮材、 55.軸部材、 56.カップホルダ、 58.本体部、 59.張出し部、 A.境界部分、 F.しみ出し、 G1.一点鎖線(本体部縫い線)、 G2.一点鎖線(張出し部縫い線)、 K.開口、 L.開放口、 N.縫い方向、 X0.折曲げ線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12