特許第6391519号(P6391519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391519
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】ヒートシール用組成物及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/08 20060101AFI20180910BHJP
   C09J 123/06 20060101ALI20180910BHJP
   C09J 123/12 20060101ALI20180910BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   C09J123/08
   C09J123/06
   C09J123/12
   B32B27/32 101
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-68872(P2015-68872)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-188305(P2016-188305A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2017年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・デュポンポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100140877
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100140545
【弁理士】
【氏名又は名称】早瀬 貴介
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 孝一
(72)【発明者】
【氏名】町屋 宏昭
【審査官】 上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−067733(JP,A)
【文献】 特開平07−207074(JP,A)
【文献】 特開2005−187744(JP,A)
【文献】 特開2001−019810(JP,A)
【文献】 特開平06−031876(JP,A)
【文献】 特許第6262071(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−5/00、9/00−201/10
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体を30質量%以上89質量%以下と、
メルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)が20.0g/10min以下の低密度ポリエチレンを10質量%以上50質量%以下と、
ポリプロピレンを1質量%以上20質量%未満と、
を含むヒートシール用組成物(但し、含有率は、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体、低密度ポリエチレン及びポリプロピレンの合計を100質量%とした場合の含有率を表す。)であって、
前記エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体のメルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)をAg/10minとし、前記低密度ポリエチレンのメルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)をBg/10minとした場合に、5≦A−B≦40であり、かつ、
基材上に前記ヒートシール用組成物を押出成形してなる25μm厚のヒートシール層を有する二つの積層体のヒートシール層同士を重ね合わせて、温度140℃、圧力0.3MPa及び時間0.5秒の条件で圧着した場合の、ヒートシール層の機械軸方向に直交する方向における剥離強度が、10N/15mm以上25N/15mm以下であるヒートシール用組成物。
【請求項2】
前記低密度ポリエチレンのメルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)が、10.0g/10min以下である請求項1に記載のヒートシール用組成物。
【請求項3】
前記低密度ポリエチレンのメルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)が、5.0g/10min以下である請求項1又は請求項2に記載のヒートシール用組成物。
【請求項4】
前記エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体が、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸エステルである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のヒートシール用組成物。
【請求項5】
基材と、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のヒートシール用組成物からなるヒートシール層と、を含む積層体。
【請求項6】
包装材料である請求項5に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシール用組成物及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チューブ状又はフラットフィルム状の包装材料をヒートシールで密封し、内容物を内包して保存及び保護することが行われている。
例えば、ある程度強いシール性を有して内容物を内包し、他方で内容物を包装中から取り出したいときには、シール部を剥離することにより容易に開封可能なヒートシール(ピーラブルシール)性を有する包装袋が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、アイオノマー、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体及びエチレン・アクリル酸メチル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリマーと、ポリエチレン、ポリプロピレン及びエチレン・プロピレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリマーとのブレンドポリマーを含有するシーラント層を含む多層フィルムが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、シール層が50〜90重量%のエチレンメタアクリル酸共重合体(EMAA)と10〜50重量%のポリプロピレン(PP)との混合物からなるクッション層とポリエチレン(PE)からなるシーラント層の両層を含む多層フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−212835公報
【特許文献2】特開2002−283513公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に開示されているシーラント層を含むフィルムは、易開封性(イージーピール性)を示す。
しかしながら、これらの組成物は、易開封性が発現する剥離強度が依然として高すぎるため、易開封性に優れるとは言い難く、より剥離強度の低いヒートシール用組成物が求められている。
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みて成された。
即ち、本発明の目的は、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性を有し、かつ、易剥離性に優れるヒートシール用組成物及び積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を包含する。
<1>エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体を30質量%以上89質量%以下と、
メルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)が20.0g/10min以下の低密度ポリエチレンを10質量%以上50質量%以下と、
ポリプロピレンを1質量%以上20質量%未満と、
を含むヒートシール用組成物(但し、含有率は、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体、低密度ポリエチレン及びポリプロピレンの合計を100質量%とした場合の含有率を表す。)であって、
前記エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体のメルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)をAg/10minとし、前記低密度ポリエチレンのメルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)をBg/10minとした場合に、5≦A−B≦40であり、かつ、
基材上に前記ヒートシール用組成物を押出成形してなる25μm厚のヒートシール層を有する二つの積層体のヒートシール層同士を重ね合わせて、温度140℃、圧力0.3MPa及び時間0.5秒の条件で圧着した場合の、ヒートシール層の機械軸方向に直交する方向における剥離強度が、10N/15mm以上25N/15mm以下であるヒートシール用組成物。
【0008】
<2> 前記低密度ポリエチレンのメルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)が、10.0g/10min以下である<1>に記載のヒートシール用組成物。
【0009】
<3> 前記低密度ポリエチレンのメルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)が、5.0g/10min以下である<1>又は<2>に記載のヒートシール用組成物。
【0010】
<4> 前記エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体が、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸エステルである<1>〜<3>のいずれか1つに記載のヒートシール用組成物。
<5> 基材と、<1>〜<4>のいずれか1つに記載のヒートシール用組成物からなるヒートシール層と、を含む積層体。
<6> 包装材料である<5>に記載の積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性を有し、かつ、易剥離性に優れるヒートシール用組成物及び積層体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るヒートシール用組成物について、詳細に説明する。
[ヒートシール用組成物]
本発明のヒートシール用組成物は、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体を30質量%以上89質量%以下と、メルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)が20.0g/10min以下の低密度ポリエチレンを10質量%以上50質量%以下と、ポリプロピレンを1質量%以上20質量%未満と、を含み(但し前記エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体、低密度ポリエチレン及びポリプロピレンの合計を100質量%とする)、前記エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体のメルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)をAg/10minとし、前記低密度ポリエチレンのメルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)をBg/10minとした場合に、5≦A−B≦40であり、かつ、基材上に前記ヒートシール用組成物を押出成形してなる25μm厚のヒートシール層を有する二つの積層体のヒートシール層同士を重ね合わせて、温度140℃、圧力0.3MPa及び時間0.5秒の条件で圧着した場合の、ヒートシール層の機械軸方向に直交する方向における剥離強度が、10N/15mm以上25N/15mm以下である。
【0013】
本発明により、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性を有し、かつ、易剥離性に優れるヒートシール用組成物及び積層体が提供される理由は、以下のようであると推定している。
1)本発明によるヒートシール用組成物からなるヒートシール層においては、上記のエチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体(以下、「特定三元共重合体」とも言う。)に、メルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)が20.0g/10min以下の低密度ポリエチレン部分及びポリプロピレン部分が、いわゆる海島構造を構成するように含まれ、島状の領域として散在する上記の低密度ポリエチレン及びポリプロピレンは接着阻害剤として機能する。
2)特定三元共重合体と低密度ポリエチレンは、ヒートシール層に含まれる特定三元共重合体のメルトフローレート(以下、「MFR」とも言う。)と低密度ポリエチレンのMFRとの差が小さくなるほど、接着強度を低下させる。
他方、特定三元共重合体のMFRと低密度ポリエチレンのMFRとの差が大きくなるほど剥離強度は上昇する。
3)ポリプロピレンは、その融点の高さと低い流動性により、ヒートシール層に含まれるポリプロピレンの含有量は少量でも剥離強度を低下させる効果は大きい。
以上の1)〜3)より、ポリプロピレンの含有量、特定三元共重合体のMFRと低密度ポリエチレンのMFRとの差、並びに特定三元共重合体及び低密度ポリエチレンの各含有量を調整することにより、剥離強度をコントロールできる。その結果、基材上にヒートシール用組成物を押出成形してなる25μm厚のヒートシール層を有する積層体を二つ準備し、二つの積層体のヒートシール層同士を重ね合わせて、温度140℃、圧力0.3MPa及び時間0.5秒の条件で圧着した場合の、ヒートシール層の機械軸方向に直交する方向における剥離強度が、10N/15mm以上25N/15mm以下であれば、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性を有し、かつ、易剥離性に優れるヒートシール用組成物及び積層体が得られる。
【0014】
以下、本発明のヒートシール用組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
以下の説明において、「機械軸方向」を「MD方向」とも言い、「機械軸方向に直交する方向」を「TD方向」とも言う。
【0015】
〈エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体〉
特定三元共重合体、即ち、エチレン、α,β−不飽和カルボン酸及びα,β−不飽和カルボン酸エステルの三種類のモノマーが共重合している三元共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。中でも、工業的に入手が容易な点で、ランダム共重合体及びグラフト共重合体から選ばれることが好ましく、更に好ましくはランダム共重合体が選ばれる。
【0016】
α,β−不飽和カルボン酸としては、アクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソオクチル等のアクリル酸アルキルエステル、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソオクチル等のメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0017】
特定三元共重合体の具体例としては、例えば、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸メチル三元共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エチル三元共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸ブチル三元共重合体が挙げられ、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸ブチル三元共重合体が好ましく、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸ブチル三元共重合体がより好ましい。
ここで、「(メタ)アクリル酸」との用語は、アクリル酸及びメタクリル酸の両者を包括的に呼称する用語である。従って、例えば「エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸メチル三元共重合体」の場合、エチレン・アクリル酸・アクリル酸メチル三元共重合体、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸メチル三元共重合体、エチレン・アクリル酸・メタクリル酸メチル三元共重合体及びエチレン・メタクリル酸・メタクリル酸メチル三元共重合体の四種類の三元共重合体を包括的に意味する。
【0018】
特定三元共重合体における、(メタ)アクリル酸由来の構成単位の含有比率は、三元共重合体の総質量を基準として、1質量%以上20質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以上20質量%以下である。(メタ)アクリル酸由来の構成単位の含有比率が1質量%以上であることにより、ヒートシール層を形成する場合の皮膜成形性に優れるヒートシール用組成物を安定して得ることが容易となる。(メタ)アクリル酸由来の構成単位の含有比率が、20質量%以下であることにより、皮膜成形時のヒートシール用組成物の粘度の急激な上昇が生ずる恐れが少なく、安定した成形性を保持でき、また組成物中のゲル発生の恐れも低い。
【0019】
特定三元共重合体における、α,β−不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位の含有比率は、特定三元共重合体の総質量を基準として、1質量%以上20質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以上15質量%以下である。α,β−不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位の含有比率が1質量%以上であることにより、ヒートシール層を形成する場合の皮膜成形性に優れるヒートシール用組成物が容易に得られる。α,β−不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位の含有比率が20質量%以下であることにより、温度50℃以下におけるヒートシール層同士のブロッキング及び融着の恐れがなく、取り扱いが容易となる。
なお、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体における、エチレンの含有比率は、既述の(メタ)アクリル酸由来の構成単位の含有比率と、α,β−不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位の含有比率とを総和した値(質量%)を100から差し引いた残りの含有割合(質量%)である。
【0020】
特定三元共重合体のMFRは、5g/10min以上100g/10min以下が好ましく、10g/10min以上60g/10min以下がより好ましく、20g/10min以上30g/10min以下がより更に好ましい。
ここで、特定三元共重合体のMFRは、JIS K7210−1999に準拠した方法により温度190℃、荷重2160gにて測定される値である。
【0021】
特定三元共重合体の含有量は、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体、低密度ポリエチレン及びポリプロピレンの総質量を基準として、30質量%以上89質量%以下とされる。
特定三元共重合体の含有量が、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体、低密度ポリエチレン及びポリプロピレンの総質量に対して30質量%以上89質量%以下であることにより、安定した皮膜成形性を有するヒートシール用組成物が得られ、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性を有し、かつ、後述する機械軸方向における剥離強度が、易剥離性をもたらす範囲にあるヒートシール用組成物及び積層体が得られる。
特定三元共重合体の含有量は、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性と、易剥離性とのバランスに優れるという理由から、上記の総質量を基準として、好ましくは40質量%以上80質量%以下の範囲とされる。より好ましくは55質量%以上65質量%以下である。
【0022】
〈低密度ポリエチレン〉
低密度ポリエチレンは、JIS K7112:1999において定義される、密度が0.915〜0.930g/cmであるポリエチレンである。高圧法で製造される低密度ポリエチレン(以下「LDPE」ともいう)が好ましい。
本発明のヒートシール用組成物に含まれる低密度ポリエチレンは、メルトフローレート(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)が20.0g/10min以下である。
ここで、低密度ポリエチレンのMFRは、JIS K7210−1999に準拠した方法により、温度190℃、荷重2160g荷重にて測定される値である。
低密度ポリエチレンのMFRが20.0g/10min以下であることにより、安定した皮膜成形性を有するヒートシール用組成物が得られ、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性を有し、かつ、後述するようにTD方向における剥離強度が、易剥離性をもたらす範囲にあるヒートシール用組成物及び積層体が得られる。
低密度ポリエチレンのMFRは、10.0g/10min以下であることが好ましく、5.0g/10min以下であることがより好ましい。
低密度ポリエチレンのMFRは、0.5g/10min以上であることが好ましい。
【0023】
低密度ポリエチレンは、エチレン単独の重合体であっても、エチレンとα−オレフィンとの共重合によるエチレン・α−オレフィン共重合体であってもよい。エチレン・α−オレフィン共重合体は、ランダム共重合体が好適である。
低密度ポリエチレンは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
低密度ポリエチレンの含有量は、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体、低密度ポリエチレン及びポリプロピレンの総質量を基準として、10質量%以上50質量%以下である。
ヒートシール用組成物に含まれる低密度ポリエチレンの含有量が上記の範囲であることにより、安定した皮膜成形性を有するヒートシール用組成物が得られ、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性を有し、かつ、後述する機械軸方向における剥離強度が、易剥離性をもたらす範囲にあるヒートシール用組成物及び積層体が得られる。
低密度ポリエチレンの含有量は、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性と、易剥離性とのバランスに優れるという理由から、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体、低密度ポリエチレン及びポリプロピレンの総質量を基準として、好ましくは15質量%以上45質量%以下の範囲とされる。より好ましくは15質量%以上35質量%以下である。
【0025】
ヒートシール用組成物に含まれる特定三元共重合体のMFRと、低密度ポリエチレンのMFRとは、以下の関係を満たすように組み合わされる。
即ち、特定三元共重合体のMFRをAg/10minとし、低密度ポリエチレンのMFRをBg/10minとした場合に、5≦A−B≦40を満たすように組み合わされる。より好ましくは10≦A−B≦40であり、さらに好ましくは20≦A−B≦35である。
ヒートシール用組成物に含まれる特定三元共重合体のMFRと、低密度ポリエチレンのMFRとを上記の関係が満たされるように組み合わせることにより、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性と易剥離性とのバランスに優れたヒートシール用組成物及び積層体が得られる。
【0026】
〈ポリプロピレン〉
ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、及びブロックポリプロピレン等が挙げられるが、耐熱性及び成形性の観点から、ホモポリプロピレンが好ましい。
ポリプロピレンの含有量は、後述する剥離強度を抑制して易剥離性を実現する観点から、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体、低密度ポリエチレン及びポリプロピレンの総質量を基準として、1質量%以上20質量%未満である。
ヒートシール用組成物に含まれるポリプロピレンの含有量が上記の範囲であることにより、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性を有し、かつ、後述する機械軸方向における剥離強度が、易剥離性をもたらす範囲にあるヒートシール用組成物及び積層体が得られる。
ポリプロピレンの含有量は、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性と、易剥離性とのバランスに優れるという理由から、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸・α,β−不飽和カルボン酸エステル三元共重合体、低密度ポリエチレン及びポリプロピレンの総質量を基準として、より好ましくは2質量%以上10質量%以下の範囲、更により好ましくは3質量%以上8質量%以下とされる。
【0027】
ポリプロピレンのMFRは、1g/10min以上30g/10min以下が好ましく、1g/10min以上15g/10min以下がより好ましく、1g/10min以上10g/10min以下がより更に好ましい。
なお、MFRは、JIS K7210−1999に準拠した方法により230℃、荷重2160gにて測定される値である。
【0028】
〈その他の成分〉
ヒートシール用組成物には、上述した特定三元共重合体、低密度ポリエチレン及びポリプロピレンに加えて、他の重合体、粘着性付与剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤など高分子分野で通常使用される添加剤を、組成物の特性を損なわない量で含有させてもよい。
【0029】
−ヒートシール用組成物の特性−
〈剥離強度〉
本発明のヒートシール用組成物は、基材上に上記のヒートシール用組成物を形成押出成形してなる25μm厚のヒートシール層を有する二つの積層体のヒートシール層同士を重ね合わせて、温度140℃、圧力0.3MPa及び時間0.5秒の条件で圧着した場合の、ヒートシール層のTD方向における剥離強度(以下、「TD剥離強度」とも言う。)が、10N/15mm以上25N/15mm以下である。より好ましくは15N/15mm以上25N/15mm以下であり、さらに好ましくは15N/15mm以上20N/15mm以下である。
ここで、二つの積層体のヒートシール層同士を重ね合わせるに際しては、二つの積層体の各々のヒートシール層のMD方向が平行となるように重ね合わせる。
TD剥離強度が10N/15mm以上25N/15mm以下であることにより、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性を有し、かつ、易剥離性に優れるヒートシール用組成物及び積層体が得られる。
本発明において、「ヒートシール層のMD方向」は、ヒートシール層の海島構造を電子顕微鏡で観察し、分散粒子が引き伸ばされている方向を観察することにより確認することができる。
【0030】
基材上に上記のヒートシール用組成物を押出成形してなる25μm厚のヒートシール層を有する二つの積層体のヒートシール層同士を重ね合わせて、温度140℃、圧力0.3MPa及び時間0.5秒の条件で圧着した場合の、ヒートシール層のMD方向における剥離強度(以下、「MD剥離強度」とも言う。)については、特に制約はないが、TD剥離強度と同じか、近似する値であることが好ましい。従って、MD剥離強度は、5N/15mm以上30N/15mm以下の範囲にあることが好ましく、6N/15mm以上15N/15mm以下の範囲にあることがより好ましく、10N/15mm以上15N/15mm以下であることが特に好ましい。
また、TD剥離強度/MD剥離強度の比は3.0以下であることが、異方性の小さい剥離強度が得られるので好ましい。
更に、TD剥離強度とMD剥離強度との差異は、10N/15mm以下の範囲にあることがより好ましい。
【0031】
剥離強度は、JIS K 7128−1:1998に規定されている方法に準じて測定される値であり、市販の引張試験機により、測定することが可能である。
本明細書における剥離強度の値は、株式会社島津製作所製のオートグラフ DCS−R−100型(「オートグラフ」は登録商標。以下、同様。)により測定した値である。
【0032】
−ヒートシール用組成物の製造方法−
本発明のヒートシール用組成物は、特定三元共重合体、低密度ポリエチレン及びポリプロピレンと、必要に応じて他の添加剤等と、を同時又は逐次的にドライブレンド又はメルトブレンドすることにより得られる。各成分の混合順序は特に制限はない。
ドライブレンドには、例えば、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサーなどの各種ミキサーを用いることができる。
また、メルトブレンドする場合は、例えば、1軸又は2軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、ニーダーなどの混練装置を用いることができ、例えば、160℃〜230℃程度の温度で溶融混練する。
本発明のヒートシール用組成物は、ペレット状にしておいてもよい。
【0033】
[積層体]
本発明の積層体は、基材と、既述の本発明のヒートシール用組成物からなるヒートシール層と、を含む。
ヒートシール層の厚さは、3μm〜100μmとすることが好ましい。また5μm〜80μmとすることが更に好ましい。厚さが上記範囲内であると、良好な接着強度が得られる。
本発明のヒートシール用組成物からなるヒートシール層が形成される基材としては、特に制限はなく、紙、アルミニウム板(例えばアルミ箔)、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート)の板状材(シート又はフィルム)、アルミ蒸着ポリエステル(例えばアルミ蒸着ポリエチレンテレフタレート)の板状材(シート又はフィルム)、シリカ蒸着ポリエステル(例えばシリカ蒸着ポリエチレンテレフタレート)の板状材(シート又はフィルム)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン)の板状材(シート又はフィルム)、アルミ蒸着ポリオレフィン(例えばアルミ蒸着ポリプロピレン)の板状材(シート又はフィルム)などが挙げられる。これらの支持基体は、単層構造のみならず、2層以上の積層構造であってもよい。
例えばポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」とも言う。)のようなポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、エチレン成分を共重合成分とするブロック系又はランダム系のプロピレン系ポリマー、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度や超低密度のポリエチレンなどのエチレン系ポリマー、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィンの1種又は2種以上を用いてなる各種熱可塑性樹脂が挙げられる。
これらの中でもポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる二軸延伸フィルムが特に好ましい。
基材の厚さは、特に限定されないが、例えば、1μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以上200μm以下である。
【0034】
基材の表面に形成されるヒートシール層の厚さは、特に限定されないが、例えば10μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは15μm以上40μm以下である。
【0035】
本発明のヒートシール用組成物からなるヒートシール層を基材上に形成する方法としては、例えば、ヒートシール用組成物を基材上に直接フィルム状に押出コーティングする方法がある。
また、本発明のヒートシール用組成物を予めフィルム形状に製膜しておいてから、ドライラミネーション法などの方法により基材と貼り合わせる方法でもよい。
さらには、基材上に接着層を積層し、さらにこの接着層上に、本発明のヒートシール用組成物からなるヒートシール層を形成してもよい。
また、基材と、本発明のヒートシール用組成物とを共押出しすることで、基材とヒートシール層との積層体を製造してもよい。
二軸延伸PETの表面に、例えば低密度ポリエチレン等の接着層を介して、ヒートシール用組成物からなるヒートシール層を形成してもよい。
本発明に係る積層体は、基材及びヒートシール用組成物からなるヒートシール層以外に、例えばアルミニウム等の金属からなる蒸着層を含んでいてもよい。
【0036】
本発明に係る積層体は、例えば、包装材料として使用することができる。
本発明に係る積層体を適用した包装材料は、密封性、易開封性、開封部のフィルム外観、さまざまな包装形状への適合性に優れた包装材料となるため、一般的な包装材としての使用はもちろんのこと、特に、食品用、衛生材料用等の包装材として使用することが好ましい。
【0037】
なお、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の記載において、メルトフローレート(以下、「MFR」と略記する。)は、以下の方法により測定した値で示したものである。
<MFR>
JIS K7210−1999に準じて、温度190℃又は230℃で、2160g荷重の条件下で測定した、単位:g/10minで表示した値である。測定温度は、単位の後の括弧内に表示した。
【0039】
−原料−
原料として、下記材料(いずれもペレット)を準備した。
EMAA(1): エチレン81質量%、メタクリル酸4質量%及びアクリル酸ブチル15質量%を含むエチレン・メタクリル酸・アクリル酸ブチル共重合体で、MFRが27g/10min(190℃)である。
EMAA(2): エチレン85質量%、メタクリル酸5質量%及びアクリル酸ブチル10質量%を含むエチレン・メタクリル酸・アクリル酸ブチル共重合体で、MFRが32.5g/10min(190℃)である。
LDPE(1): 密度920kg/mの低密度ポリエチレンで、MFRが1.6g/10minである。
LDPE(2): 密度923kg/mの低密度ポリエチレンで、MFRが4.5g/10min(190℃)である。
LDPE(3): 密度915kg/mの低密度ポリエチレンで、MFRが23.0g/10min(190℃)である。
PP: ランダムポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製F113)、MFRが 3g/10min(230℃)で、融点が160℃である。
【0040】
−ヒートシール用組成物の調製−
後述の表1に記載した各材料(ペレット)を、表1に記載の割合(質量%)で、総質量が10kgとなる量で混合した後、混練して、ヒートシール用組成物1〜8を調製した。
【0041】
調製されたヒートシール用組成物1〜8の各々について、65mmΦ押出機(L/D=28、先端ダルメージフライトスクリュー)を用いて加工温度180℃にて溶融混練し、それぞれコンパウンド1〜8を調製した。
【0042】
−積層体の作製−
外層フィルム材として、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム:厚さ12μm)を用意した。用意したPETフィルムの片面に、押出機(65mmφ、L/D=28)、スクリュー(3ステージ型、溝深さ比=4.78)、ダイ(900mm幅、インナーディケル型)を用いて、エアギャップ110mm、加工速度80m/分で、低密度ポリエチレン重合体(密度923kg/m、MFR3.7g/10min)を加工温度320℃、15μm厚で積層した。
次いで、PETフィルムの片面に積層された低密度ポリエチレン重合体の層の表面に、調製されたヒートシール用組成物1〜8の各々について、加工温度290℃で、厚さ25μmで押出成形してヒートシール層を形成して、それぞれ積層体1〜8を準備した。
【0043】
(加工性の評価)
上記の積層体を作製する際に、下記の指標で判定を行い、結果を表1の「加工性」の欄に、下記の評価基準で記載した。
良好:フィルム外観良好
不良:フィルム外観不良、厚みムラが見られる
【0044】
−ヒートシール物の作製−
積層体1〜8の各々について、ヒートシール層同士を向い合せて重ね、温度140℃、時間0.5秒、シールバー幅1mm及びゲージ圧0.3MPaのシール条件でヒートシールを行った。ヒートシールは、シールバーの長手方向がヒートシール層のMD方向と平行となる方向にヒートシールしたもの(以下、「MD方向シール部」ともいう。)と、シールバーの長手方向がヒートシール層のTD方向と平行となる方向にヒートシールしたもの(以下、「TD方向シール部」ともいう。)との二種類の態様で行った。
【0045】
(剥離強度の測定)
TD方向シール部から、長手方向が二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのMD方向と平行となる方向に切り出したMD短冊サンプルと、MD方向シール部から、長手方向が二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのTD方向と平行となる方向に切り出したTD短冊サンプルとを作製した。各々のサンプルについて剥離角度90°、剥離速度300mm/分で剥離した場合の剥離強度を、オートグラフにて測定した。結果を表1に示した。表1において、TD短冊サンプルから得られた剥離強度を「TD方向」の欄に、MD短冊サンプルから得られた剥離強度を「MD方向」の欄に記載した。
【0046】
(トラウザー引裂強度の測定)
開封性の指標としてトラウザー引裂法JIS−K7128−1:1998に準じて、上記のMD短冊サンプル及びTD短冊サンプルとを用いて、引裂強度を測定した。結果を表1に示した。表1において、MD短冊サンプルから得られた引裂強度(単位:N)を「トラウザー引裂強度」の「MD方向」の欄に、TD短冊サンプルから得られた引裂強度を「トラウザー引裂強度」の「TD方向」の欄に記載した。
数値が1以下であれば、開封性は良好である。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示されるように、本発明によるヒートシール用組成物1〜5は、TD方向の剥離強度が10N/15mm以上25N/15mm以下の範囲にあり、易剥離性と接着性とのバランスに優れることが分かる。従って、内容物を内包して保存及び保護する優れた接着性を有し、かつ、易剥離性に優れるヒートシール用組成物及び積層体が得られていることが分かる。