特許第6391520号(P6391520)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪瓦斯株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6391520-ガス検知装置 図000002
  • 特許6391520-ガス検知装置 図000003
  • 特許6391520-ガス検知装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391520
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】ガス検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20180910BHJP
【FI】
   G01N27/12 D
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-69670(P2015-69670)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-188830(P2016-188830A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2017年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】野中 篤
(72)【発明者】
【氏名】大西 久男
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05889198(US,A)
【文献】 特開平10−054816(JP,A)
【文献】 特開2012−167954(JP,A)
【文献】 特開平11−287777(JP,A)
【文献】 米国特許第05055270(US,A)
【文献】 特開昭57−133344(JP,A)
【文献】 特開2005−345381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象ガスとの接触により電気抵抗値が変化するガス検知層及び前記ガス検知層を加熱するヒータ層を備えたセンサ素子と、
前記ヒータ層への通電を行う通電駆動制御部とを備えたガス検知装置であって、
前記通電駆動制御部は、前記ガス検知層をプロパンガス検出用の設定高温温度に加熱する高温加熱状態と、前記ガス検知層を前記設定高温温度よりも低いプロパンガス検出用の設定低温温度に加熱する低温加熱状態とに切替えるように、前記ヒータ層への通電を制御する切替加熱処理を行うように構成され、
前記ヒータ層への通電時における前記ガス検知層の電気抵抗値に基づいて、前記検出対象ガスとしてのプロパンガスを検出するガス検出部を備え、
前記ガス検出部が、前記低温加熱状態における前記ガス検知層の電気抵抗値が、予め定めたプロパンガス検出用抵抗値よりも小さく、かつ、前記高温加熱状態における前記ガス検知層の電気抵抗値を、前記低温加熱状態における前記ガス検知層の電気抵抗値により除した値が、予め定めたプロパンガス検出用設定値よりも大きい場合に、設定濃度以上の前記プロパンガスが存在していると判定するプロパンガス検出処理を行うように構成されているガス検知装置。
【請求項2】
前記通電駆動制御部が、前記切替加熱処理を設定周期にて行うように構成されている請求項1に記載のガス検知装置。
【請求項3】
前記検出対象ガスをプロパンガスとするプロパンガス検出状態と、前記検出対象ガスをメタンガスとするメタンガス検出状態とを選択する検出ガス選択部が備えられ、
前記通電駆動制御部が、前記検出ガス選択部にて前記プロパンガス検出状態が選択されたときには、前記切替加熱処理を行い、前記検出ガス選択部にて前記メタンガス検出状態が選択されたときには、前記ガス検知層をメタンガス検出用のメタンガス検出用温度に加熱するように前記ヒータ層への通電を制御するメタンガス検出用加熱処理を行うように構成され、
前記ガス検出部が、前記検出ガス選択部にて前記プロパンガス検出状態が選択されたときには、前記プロパンガス検出処理を行い、前記検出ガス選択部にて前記メタンガス検出状態が選択されたときには、前記ガス検知層の電気抵抗値が予め定めたメタンガス検出用電気抵抗値よりも低い場合に、設定濃度以上の前記メタンガスが存在していると判定するメタンガス検出処理を行うように構成されている請求項1又は2に記載のガス検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象ガスとの接触により電気抵抗値が変化するガス検知層及び前記ガス検知層を加熱するヒータ層を備えたセンサ素子と、前記ヒータ層への通電を行う通電駆動制御部とを備えたガス検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなガス検知装置においては、センサ素子が金属酸化物半導体にて構成され、通電駆動制御部によりヒータ層への通電を行うことにより、ガス検知層を検出対象ガスの種類に応じた適切な温度にまで加熱して、この温度を保持した状態におけるガス検知層の電気的特性(電気抵抗値、電圧値など)に基づいて検出対象ガスの有無及び濃度を検出する。
【0003】
かかるガス検知装置の従来例として、通電駆動制御部が、ガス検知層をメタンガス検出用のメタンガス検出用温度に加熱するように、ヒータ層への通電を制御するように構成され、メタンガス検出用温度に加熱されているときのガス検知層の電気抵抗値が予め定めたメタンガス検出用電気抵抗値よりも低い場合に、設定濃度以上のメタンガスが存在していると判定するメタン検出部を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
ちなみに、このガス検知装置は、都市ガス等の漏れを検出するために、一般家庭や業務用の厨房室等に設置されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−298108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般家庭や業務用の厨房室等においては、プロパンガスが使用されている場合があるので、ガス検知層及びヒータ層を備えたセンサ素子を有するガス検知装置によって、プロパンガスの漏れを検出することが望まれている。
【0006】
本発明は、かかる点に着目してなされたものであり、その目的は、ガス検知層及びヒータ層を備えたセンサ素子を用いて、プロパンガスを検出することができるガス検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するための本発明に係るガス検知装置は、
検出対象ガスとの接触により電気抵抗値が変化するガス検知層及び前記ガス検知層を加熱するヒータ層を備えたセンサ素子と、
前記ヒータ層への通電を行う通電駆動制御部とを備えたガス検知装置であって、その特徴構成は、
前記通電駆動制御部は、前記ガス検知層をプロパンガス検出用の設定高温温度に加熱する高温加熱状態と、前記ガス検知層を前記設定高温温度よりも低いプロパンガス検出用の設定低温温度に加熱する低温加熱状態とに切替えるように、前記ヒータ層への通電を制御する切替加熱処理を行うように構成され、
前記ヒータ層への通電時における前記ガス検知層の電気抵抗値に基づいて、前記検出対象ガスとしてのプロパンガスを検出するガス検出部を備え、
前記ガス検出部が、前記低温加熱状態における前記ガス検知層の電気抵抗値が、予め定めたプロパンガス検出用抵抗値よりも小さく、かつ、前記高温加熱状態における前記ガス検知層の電気抵抗値を、前記低温加熱状態における前記ガス検知層の電気抵抗値により除した値が、予め定めたプロパンガス検出用設定値よりも大きい場合に、設定濃度以上の前記プロパンガスが存在していると判定するプロパンガス検出処理を行うように構成されている点にある。
【0008】
上記特徴構成によれば、ガス検出部が、検出対象ガスとの接触により電気抵抗値が変化するガス検知層を低温加熱状態及び高温加熱状態にしたときの電気抵抗値と、予め定められたプロパンガス検出用抵抗値及びプロパンガス検出用設定値とに基づいて、設定濃度以上のプロパンガスが存在していることを判定するプロパンガス検出処理を行うことによって、設定濃度以上のプロパンガスが存在していることを検出することができる。
【0009】
すなわち、発明者の鋭意研究により、低温加熱状態におけるガス検知層の電気抵抗値が、予め定めたプロパンガス検出用抵抗値よりも小さく、かつ、高温加熱状態におけるガス検知層の電気抵抗値を、低温加熱状態におけるガス検知層の電気抵抗値により除した値が、予め定めたプロパンガス検出用設定値よりも大きい場合に、設定濃度以上のプロパンガスが存在していると判定することができることが見出されたのである。
【0010】
よって、検出対象ガスとの接触により電気抵抗値が変化するガス検知層を備えたセンサ素子を用いて、プロパンガスを検出することができる。
【0011】
本発明に係るガス検知装置の更なる特徴構成は、
前記通電駆動制御部が、前記切替加熱処理を設定周期にて行うように構成されている点にある。
【0012】
上記特徴構成によれば、通電駆動制御部が、切替加熱処理を設定周期にて行うものであるから、ヒータ層への通電が間欠的に行われることになるため、ヒータ層へ通電する電力を低減することができる。
【0013】
また、切替加熱処理が設定周期にて行われる場合には、ヒータ層への通電が行われていない非加熱時に、ガス検知層に検出対象ガス中に含まれる水分が蓄積するが、設定周期毎にて繰り返される切替加熱処理において、ガス検知層が高温加熱状態に加熱されることにより、非加熱時にガス検知層に蓄積した水分を蒸発させることができるので、水分蓄積のためにガス検知層の耐久性が低下することを抑制できる。
【0014】
本発明に係るガス検知装置の更なる特徴構成は、
前記検出対象ガスをプロパンガスとするプロパンガス検出状態と、前記検出対象ガスをメタンガスとするメタンガス検出状態とを選択する検出ガス選択部が備えられ、
前記通電駆動制御部が、前記検出ガス選択部にて前記プロパンガス検出状態が選択されたときには、前記切替加熱処理を行い、前記検出ガス選択部にて前記メタンガス検出状態が選択されたときには、前記ガス検知層をメタンガス検出用のメタンガス検出用温度に加熱するように前記ヒータ層への通電を制御するメタンガス検出用加熱処理を行うように構成され、
前記ガス検出部が、前記検出ガス選択部にて前記プロパンガス検出状態が選択されたときには、前記プロパンガス検出処理を行い、前記検出ガス選択部にて前記メタンガス検出状態が選択されたときには、前記ガス検知層の電気抵抗値が予め定めたメタンガス検出用電気抵抗値よりも低い場合に、設定濃度以上の前記メタンガスが存在していると判定するメタンガス検出処理を行うように構成されている点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、検出対象ガスをプロパンガスとするプロパンガス検出状態と、検出対象ガスをメタンガスとするメタンガス検出状態とを選択する検出ガス選択部が備えられているので、検出対象ガスをプロパンガスとするか、メタンガスとするかを選択することができる。
【0016】
そして、検出ガス選択部にてプロパンガス検出状態が選択されたときには、通電駆動制御部が切替加熱処理を行い、ガス検出部がプロパンガス検出処理を行うので、設定濃度以上のプロパンガスが存在していることを判定することができる。
【0017】
一方、検出ガス選択部にて前記メタンガス検出状態が選択されたときには、通電駆動制御部がメタンガス検出用加熱処理を行い、ガス検出部がメタンガス検出処理を行うので、設定濃度以上のメタンガスが存在していることを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るガス検知装置の全体構成図
図2】通電駆動制御部による切替加熱処理を示す概略図
図3】ガス検出部におけるプロパンガス検出処理を説明するグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るガス検知装置100の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、ガス検知装置100は、検出対象ガスとの接触により電気抵抗値が変化する金属酸化物半導体にて構成されたガス検知層としての半導体検知層10及び半導体検知層10を加熱するヒータ層6を備えた金属酸化物半導体式のセンサ素子20と、ヒータ層6への通電を行う通電駆動制御部12と、ヒータ層6への通電時における半導体検知層10の電気抵抗値に基づいて、検出対象ガスとしてのプロパンガスを検出するガス検出部13とを備えている。
【0020】
また、ガス検知装置100には、検出対象ガスをプロパンガスとするプロパンガス検出状態と、検出対象ガスをメタンガスとするメタンガス検出状態とを選択する検出ガス選択部14が備えられている。検出ガス選択部14は、プロパンガス検出状態とメタンガス検出状態との何れが選択された状態であるかを示す選択情報を、通電駆動制御部12及びガス検出部13に出力するように構成されている。
【0021】
〔センサ素子〕
金属酸化物半導体式のセンサ素子20は、薄膜状の支持層5の外端部が脚状のSi基板1により支持されたダイアフラム構造の支持基板上に、検出対象ガスの濃度の変化により電気抵抗値が変化する半導体検知層10、及び、半導体検知層10を加熱するためのヒータ層6を備えて構成されている。
半導体検知層10は、金属酸化物半導体である酸化スズ(SnO2)の単体又は酸化スズを主成分とする混合物等により構成されている。
【0022】
次に、金属酸化物半導体式のセンサ素子20の詳細な構造を説明する。
金属酸化物半導体式のセンサ素子20は、熱酸化膜2、Si34膜3、SiO2膜4が順次積層された支持層5を設けて構成され、さらにこの支持層5の上にヒータ層6を設け、当該ヒータ層6の上側に全体を覆う状態でSiO2膜からなる絶縁層7を設けるとともに、当該絶縁層7の上に一対の接合層8を設け、その接合層8の上に一対の電極層9を設けている。
また、絶縁層7の上面の当該一対の電極層9の間に相当する箇所に、半導体検知層10を設けている。
さらに、図1に示す例の場合は、一対の電極層9および半導体検知層10の全体を覆う形態で、選択触媒層11が設けられている。なお、その各々の層厚は0.1〜50μm程度のものである。
【0023】
また、半導体検知層10は、金属酸化物半導体である酸化スズを、スパッタリング法などにより形成したものである。
【0024】
選択触媒層11は、金属酸化物からなる担体上に触媒を担持して構成されるものであり、触媒を担持した金属酸化物をバインダーを介して互いに結合させて層状に構成するものである。
触媒としては、検出対象ガスに対して干渉ガスともなる還元性ガスを酸化除去できる、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)等を使用する。
担体を構成する金属酸化物としては、例えばアルミナ(Al23)、シリカ(SiO2
)、酸化スズ(SnO2)、酸化インジウム(In23)、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、酸化鉄(Fe23)、酸化銅(CuO
)、酸化ジルコニウム(ZrO2)あるいはこれらの混合物等を使用できる。
また、上記の金属酸化物(触媒を担持する金属酸化物)同士を結合させるバインダーとしては、例えばアルミナ微粉末、アルミナゾル、シリカ微粉末、シリカゾル、マグネシアを使用することができる。
ここで、上記のような触媒、金属酸化物、バインダーはいずれも、1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。
【0025】
選択触媒層11の役割は、検出対象ガス以外の水素ガス、COガス、アルコールガスなどの還元性ガス(非検出対象ガス)を燃焼して半導体検知層10に到達しないようにし、金属酸化物半導体式のセンサ素子20にガス選択性を持たせることにある。さらに、半導体検知層10の表面に酸素を供給することにより、感度を向上する役割をも果たしていると考えられる。
この選択触媒層11に含まれるPdまたはPtなどの貴金属酸化触媒の担持量は、5〜9質量%(触媒質量/(触媒+担体)質量×100)とする。
【0026】
〔検出ガス選択部〕
検出ガス選択部14は、検出ガス選択スイッチとしてガス検知装置100に設けられるものであって、例えば、ガス検知装置100を一般家庭や業務用の厨房室等の設置場所に設置するときに、ガス検知装置100の設置作業者等が、その設置場所においてプロパンガスが使用されているか、都市ガスが使用されているかを確認して選択する。
【0027】
〔通電駆動制御部〕
以下に、検出ガス選択部14にて、検出対象ガスをプロパンガスとするプロパンガス検出状態が選択されているときの通電駆動制御部12による制御内容について説明する。
【0028】
通電駆動制御部12は、半導体検知層10をプロパンガス検出用の設定高温温度に加熱する高温加熱状態と、半導体検知層10を設定高温温度よりも低いプロパンガス検出用の設定低温温度に加熱する低温加熱状態とに切替えるように、ヒータ層6への通電を制御する切替加熱処理を、設定周期毎に繰り返して行う。
【0029】
プロパンガス検出用の設定低温温度は、例えば、酸化スズで構成される半導体検知層10にプロパンガスが接触する状態において、最も低い電気抵抗値が検出される温度範囲である350℃〜375℃の温度範囲の何れかの温度に設定されている。
また、プロパンガス検出用の設定高温温度は、例えば、設定低温温度よりも高温側の温度範囲である400℃〜450℃の温度範囲の何れかの温度に設定されている。なお、この400℃〜450℃の温度範囲は、酸化スズで構成される半導体検知層10にメタンガスが接触する状態において、最も低い電気抵抗値が検出される温度範囲である。
【0030】
図2は、通電駆動制御部12により設定周期毎に繰り返して行われる切替加熱処理を時間経過に基づいて示したグラフである。図2に示すように、半導体検知層10の高温加熱状態と低温加熱状態との切替は、ヒータ層6へ通電する通電電圧を変更することにより行われている。すなわち、図2の縦軸に示すように、ヒータ層6への通電電圧を電圧V1とした場合には、半導体検知層10が設定低温温度に加熱する低温加熱状態となり、ヒータ層6への通電電圧を電圧V2とした場合には、半導体検知層10が設定高温温度に加熱する高温加熱状態となる。
【0031】
具体的には、通電駆動制御部12は、切替加熱処理において、ヒータ層6への通電電圧を電圧V1として、半導体検知層10を低温加熱状態とするためのヒータ層6への通電を200ミリ秒の間実施し、その後、ヒータ層6への通電電圧を電圧V2として、半導体検知層10を高温加熱状態とするためのヒータ層6への通電を200ミリ秒の間実施する。なお、低温加熱状態及び高温加熱状態とするためのヒータ層6への通電を開始してから半導体検知層10の温度が低温加熱状態又は高温加熱状態となるまでの応答時間は、20〜100ミリ秒となる。
【0032】
設定周期は、例えば、30秒に設定されている。つまり、図2に示すように、切替加熱処理の開始時と、その後の切替加熱処理の開始時の間の期間が、設定周期としての30秒に設定されている。なお、ヒータ層6への通電は切替加熱処理を実施する間にのみ行う。つまり、切替加熱処理の終了後、次の切替加熱処理が開始されるまでの間は、ヒータ層6への通電が切断されている。
【0033】
次に、検出ガス選択部14において、検出対象ガスをメタンガスとするメタンガス検出状態が選択されているときの通電駆動制御部12による制御内容について説明する。
【0034】
通電駆動制御部12は、検出ガス選択部14にてメタンガス検出状態が選択されたときには、半導体検知層10をメタンガス検出用のメタンガス検出用温度に加熱するようにヒータ層6への通電を制御するメタンガス検出用加熱処理を行うように構成されている。
【0035】
メタンガス検出用加熱処理のメタンガス検出用温度は、例えば、350℃〜450℃の温度範囲において定められ、本実施形態においては、400℃とされる。また、通電駆動制御部12は、メタンガス検出用加熱処理を、上述の切替加熱処理と同様に、設定周期毎に行う。
【0036】
〔ガス検出部〕
以下に、検出ガス選択部14にて、プロパンガス検出状態が選択されているときのガス検出部13による制御内容について説明する。
【0037】
ガス検出部13は、通電駆動制御部12と通信可能に構成されており、通電駆動制御部12による切替加熱処理の実施時期において半導体検知層10の電気抵抗値を検出するように構成されている。
【0038】
具体的には、図2に示すように、切替加熱処理の開始時、つまり、半導体検知層10を低温加熱状態にするためのヒータ層6への通電開始時から所定の経過時間の経過後の低温検出時期t1において、低温加熱状態における半導体検知層10の電気抵抗値としての低温電気抵抗値R1を検出する。なお、低温検出時期t1は、ヒータ層6への通電を開始してから半導体検知層10の温度が低温加熱状態になるまでの応答時間に基づいて、半導体検知層10を低温加熱状態とするためのヒータ層6への通電開始時から20ミリ秒経過時以降において設定することができる。本実施形態においては、半導体検知層10を低温加熱状態とするためのヒータ層6への通電開始時から200ミリ秒経過時に設定されている。つまり、低温検出時期t1は、半導体検知層10を高温加熱状態にするためのヒータ層6への通電開始の直前の時期に設定されている。
【0039】
また、半導体検知層10を高温加熱状態するためのヒータ層6への通電開始時から所定の経過時間の経過後の高温検出時期t2において、高温加熱状態における半導体検知層10の電気抵抗値としての高温電気抵抗値R2を検出するように構成されている。なお、高温検出時期t2についても、低温検出時期t1と同様に、半導体検知層10を高温加熱状態とするためのヒータ層6への通電開始時から20ミリ秒経過時以降において設定することができる。本実施形態においては、半導体検知層10を高温加熱状態とするためのヒータ層6への通電開始時から200ミリ秒経過時に設定されている。つまり、高温検出時期t2は、ヒータ層6への通電を切断する直前の時期に設定されている。
【0040】
また、ガス検出部13は、低温電気抵抗値R1が、予め定めたプロパンガス検出用抵抗値RAよりも小さく、かつ、高温電気抵抗値R2を低温電気抵抗値R1により除した値とが、予め定めたプロパンガス検出用設定値RBよりも大きい場合に、設定濃度以上のプロパンガスが存在していると判定するプロパンガス検出処理を実施する。
なお、プロパンガスの設定濃度は、2000ppmに設定されている。
【0041】
予め定めたプロパンガス検出用抵抗値RAは、半導体検知層10が設定低温温度に加熱された低温加熱状態において空気雰囲気中で得られる電気抵抗値の1/10の抵抗値であり、予めガス検出部13に記憶されている。また、予め定めたプロパンガス検出用設定値RBは、1.0に設定され、予めガス検出部13に記憶されている。
【0042】
(実験結果)
図3のグラフにおいて、横軸に、低温電気抵抗値R1及びプロパンガス検出用抵抗値RAの値が示され、縦軸に、高温電気抵抗値R2を低温電気抵抗値R1により除した値としての抵抗比率及びプロパンガス検出用設定値RBが示されている。つまり、図3には、低温電気抵抗値R1と抵抗比率との関係が示されている。
なお、図3に示したプロパンガス検出用抵抗値RAは、設定低温温度を375℃として空気を検出すると仮定した場合に得らえるプロパンガス検出用抵抗値RAである。
【0043】
図3に、2000ppmのプロパンガスの低温電気抵抗値R1及び抵抗比率との関係に加えて、空気に1000ppmの濃度で含まれる水素ガス、空気に3000ppmの濃度で含まれるメタンガス、及び、空気に300ppmの濃度で含まれるCOガスの低温電気抵抗値R1及び抵抗比率を示す。プロパンガス、水素ガス、メタンガス及びCOガスの低温電気抵抗値R1及び抵抗比率は、半導体検知層10の周囲に、プロパンガス、水素ガス、メタンガス又はCOガスが存在する状態として、設定低温温度及び設定低温温度に加熱した半導体検知層10の電気抵抗値を検出する実験により得たものである。
【0044】
また、図3には、設定高温温度を400℃とし、設定低温温度を350℃とした場合に検出された低温電気抵抗値R1と抵抗比率との関係(白抜きのプロット及び破線×印のプロット)、及び、設定高温温度を400℃とし、設定低温温度を375℃とした場合に検出された低温電気抵抗値R1と抵抗比率との関係(黒抜きのプロット及び実線×印のプロット)とがあわせて示されている。
【0045】
なお、図3には、夫々のガスについて、設定低温温度を350℃とする場合、及び、設定低温温度を375℃とする場合の夫々において、異なる4回の実験において得られた低温電気抵抗値R1と抵抗比率との関係を示している。図3に示す同種類のプロットの分布は、センサ素子20のセンサ特性のバラツキにより発生するものである。
【0046】
図3に示すように、設定濃度以上である2000ppmのプロパンガスにおける低温電気抵抗値R1と抵抗比率については、低温電気抵抗値R1が、予め定めたプロパンガス検出用抵抗値RAよりも小さく、かつ、抵抗比率が、予め定めたプロパンガス検出用設定値RBよりも大きくなる。つまり、設定濃度以上である2000ppmのプロパンガスにおける低温電気抵抗値R1と抵抗比率との関係が、図3において斜線にて示した範囲内において示される。
【0047】
一方、1000pmの水素ガス、及び、300ppmのCOガスについては、抵抗比率がプロパンガス検出用設定値RBよりも大きくなるが、低温電気抵抗値R1がプロパンガス検出用抵抗値RA以上となる。
【0048】
また、3000ppmのメタンガスについては、低温電気抵抗値R1が予め定めたプロパンガス検出用抵抗値RAよりも小さくなるが、抵抗比率がプロパンガス検出用設定値RB以下となる。
【0049】
上述の如く、プロパンガス検出用の設定低温温度は、プロパンガスが半導体検知層10に接触して反応することにより、半導体検知層10において最も低い電気抵抗値が検出される温度範囲の温度である350℃又は375℃に設定され、プロパンガス検出用の設定高温温度は、設定低温温度よりも高温側の温度範囲であり、メタンガスが半導体検知層10と接触して反応することにより、半導体検知層10において最も低い電気抵抗値が検出される温度範囲の温度である400℃に設定されている。ちなみに、プロパンガスが350℃に加熱される半導体検知層10に接触する場合に得られる電気抵抗値は、プロパンガスが375℃に加熱される半導体検知層10に接触する場合に得られる電気抵抗値よりも若干高い電気抵抗値となる。
【0050】
よって、プロパンガスについては、高温電気抵抗値R2が、低温電気抵抗値R1よりも高い電気抵抗値となるので、高温電気抵抗値R2を低温電気抵抗値R1により除した値は1.0よりも大きくなる。一方、メタンガスについては、高温電気抵抗値R2が、低温電気抵抗値R1よりも低い電気抵抗値となるので、高温電気抵抗値R2を低温電気抵抗値R1により除した値は1.0よりも小さくなる。これにより、プロパンガス検出用設定値RBを1.0とすることでプロパンガスとメタンガスとを識別することができる。
【0051】
したがって、1000pmの水素ガス、3000ppmのメタンガス、300ppmのCOガスにおける低温電気抵抗値R1及び抵抗比率との関係は、いずれも図3において斜線にて示した範囲内に示されるものではない。
よって、ガス検出部13は、プロパンガス検出処理において設定濃度以上のプロパンガスが存在していると判定することができる。
【0052】
(メタンガスの検出)
次に、検出ガス選択部14にて、メタンガス検出状態が選択されている場合において、ときのガス検出部13の制御内容について説明する。
【0053】
ガス検出部13は、検出ガス選択部14にてメタンガス検出状態が選択されたときには、メタンガス検出用加熱処理においてメタンガス検出用のメタンガス検出用温度に加熱された半導体検知層10の電気抵抗値を検出し、その電気抵抗値が予め定めたメタンガス検出用電気抵抗値よりも低い場合に、設定濃度以上のメタンガスが存在していると判定するメタンガス検出処理を行うように構成されている。
【0054】
なお、メタンガス検出用電気抵抗値は、例えば、空気中に比較的低濃度(例えば、1000ppm程度)のメタンガスが存在する場合と、空気中に水素ガス(例えば、4000ppm程度)やCOガス(例えば、500ppm程度)等のメタンガス以外のガスが存在する場合とをある程度弁別することができる電気抵抗値に設定される。
【0055】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する。
(1)上記実施形態では、切替加熱処理において、半導体検知層10を低温加熱状態とした後に高温加熱状態としたが、これに限らず、切替加熱処理において、半導体検知層10を高温加熱状態とした後に低温加熱状態としてもよい。
【0056】
(2)上記実施形態では、切替加熱処理において、半導体検知層10を低温加熱状態にした後に、ヒータ層6への通電を切断することなく高温加熱状態としたが、これに限らず、切替加熱処理において、半導体検知層10を低温加熱状態とした後に、ヒータ層6への通電を切断し、その後、ヒータ層6への通電を再開して半導体検知層10を高温加熱状態にしてもよい。
【0057】
(3)上記実施形態では、通電駆動制御部12において、切替加熱処理の設定周期が30秒に設定されたが、切替加熱処理の設定周期は適宜変更することができる。例えば、45秒や60秒に設定してもよい。
【0058】
(4)上記実施形態では、半導体検知層10を低温加熱状態とするためのヒータ層6への通電を200ミリ秒の間実施したが、これに限らず、半導体検知層10を低温加熱状態とするためのヒータ層6への通電を、200ミリ秒よりも長い通電期間の間において通電を実施してもよく、200ミリ秒よりも短い通電期間の間において通電を実施してもよい。なお、200ミリ秒よりも短い通電期間の間において通電を実施する場合は、半導体検知層10を低温加熱状態とするために必要となるヒータ層6への通電期間である20ミリ秒以上の通電期間となるように通電を実施する。
【0059】
(5)上記実施形態では、半導体検知層10を高温加熱状態とするためのヒータ層6への通電を200ミリ秒の間実施したが、これに限らず、半導体検知層10を高温加熱状態とするためのヒータ層6への通電を、200ミリ秒よりも長い通電期間の間において通電を実施してもよく、200ミリ秒よりも短い通電期間の間において通電を実施してもよい。なお、200ミリ秒よりも短い通電期間の間において通電を実施する場合は、半導体検知層10を高温加熱状態とするために必要となるヒータ層6への通電期間である20ミリ秒以上の通電期間となるように通電を実施する。
【0060】
(6)上記実施形態では、低温検出時期t1が、半導体検知層10を低温加熱状態とするためのヒータ層6への通電開始時から200ミリ秒経過時に設定されたが、これに限らず、低温検出時期t1を、半導体検知層10が低温加熱状態となっている期間において適宜設定してもよい。
【0061】
(7)上記実施形態では、高温検出時期t2が、半導体検知層10を高温加熱状態とするためのヒータ層6への通電開始時から200ミリ秒経過時に設定されたが、これに限らず、高温検出時期t2を、半導体検知層10が高温加熱状態となっている期間において適宜設定してもよい。
【0062】
(8)上記実施形態においては、半導体検知層10を酸化スズ(SnO2)単体又は酸化スズを主成分とする混合物により構成したが、特にこれに限定されるものではない。例えば、半導体検知層10を、酸化インジウム(In23)、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、酸化鉄(Fe23)、酸化ゲルマニウム(GeO2)、酸化アンチモン(Sb23)等の金属酸化物半導体の単体、又は、これらの金属酸化物半導体を主成分とする混合物により構成してもよい。この場合、プロパンガス検出用の設定低温温度を、夫々の金属酸化物半導体で構成される半導体検知層10にプロパンガスが接触する状態において、最も低い電気抵抗値が検出される温度範囲の何れかの温度に設定し、プロパンガス検出用の設定高温温度を、夫々の金属酸化物半導体で構成される半導体検知層10にメタンガスが接触する状態において、最も低い電気抵抗値が検出される温度範囲の何れかの温度に設定してもよい。
【0063】
すなわち、上記の金属酸化物半導体によって半導体検知層10が構成された場合には、その金属酸化物半導体の種類によらず、メタンガスが半導体検知層10に接触する状態において、半導体検知層10において最も低い電気抵抗値が検出される温度範囲が、プロパンガスが半導体検知層10に接触する状態において、半導体検知層10において最も低い電気抵抗値が検出される温度範囲よりも高温となる。
よって、プロパンガスが半導体検知層10に接触する状態において、半導体検知層10において最も低い電気抵抗値が検出される温度範囲内にプロパンガス検出用の設定低温温度を設定し、メタンガスが半導体検知層10に接触する状態において、半導体検知層10において最も低い電気抵抗値が検出される温度範囲内にプロパンガス検出用の設定高温温度を設定することで、プロパンガスについては、高温電気抵抗値R2が低温電気抵抗値R1よりも高い電気抵抗値となるので、高温電気抵抗値R2を低温電気抵抗値R1により除した値は1.0よりも大きくなり、メタンガスについては、高温電気抵抗値R2が低温電気抵抗値R1よりも低い電気抵抗値となるので、高温電気抵抗値R2を低温電気抵抗値R1により除した値は1.0以下となる。
これにより、上記の金属酸化物半導体によって半導体検知層10が構成された場合においても、プロパンガス検出用設定値RBを1.0とすることでプロパンガスとメタンガスとを識別することができる。
【0064】
(9)上記実施形態においては、ガス検出部13は、検出ガス選択部14にてメタンガス検出状態が選択されたときには、メタンガス検出用のメタンガス検出用温度に加熱された半導体検知層10の電気抵抗値を検出し、その電気抵抗値が予め定めたメタンガス検出用電気抵抗値よりも低い場合に、設定濃度以上の前記メタンガスが存在していると判定するメタンガス検出処理を行うように構成されたが、メタンガス検出処理の処理内容は、これに限るものではない。例えば、メタンガスとプロパンガスとの識別が必要な場合には、メタンガス検出処理において、検出ガス選択部14にてプロパンガス検出状態が選択されたときと同様に、通電駆動制御部12が、半導体検知層10を高温加熱状態と低温加熱状態とに切替えるための切替加熱処理を、設定周期毎に繰り返して行うように構成し、かつ、ガス検出部13が、低温電気抵抗値R1及び高温電気抵抗値R2を検出し、その検出した低温電気抵抗値R1及び高温電気抵抗値R2から抵抗比率を求め、その抵抗比率がプロパンガス検出用設定値RB以下であり、かつ、高温電気抵抗値R2が予め定めたメタンガス検出用電気抵抗値よりも低い場合に、設定濃度以上のメタンガスが存在していると判定するように構成されていてもよい。
【0065】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、ガス検知層及びヒータ層を備えたセンサ素子を用いて、プロパンガスを検出することができるガス検知装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
6 ヒータ層
10 半導体検知層(ガス検知層)
12 通電駆動制御部
13 ガス検出部
14 検出ガス選択部
20 センサ素子
100 ガス検知装置
R1 低温電気抵抗値(電気抵抗値)
R2 高温電気抵抗値(電気抵抗値)
RA プロパンガス検出用抵抗値
RB プロパンガス検出用設定値
図1
図2
図3