特許第6391572号(P6391572)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6391572
(24)【登録日】2018年8月31日
(45)【発行日】2018年9月19日
(54)【発明の名称】非アルコール性脂肪性肝疾患治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/423 20060101AFI20180910BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20180910BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180910BHJP
【FI】
   A61K31/423
   A61P1/16
   A61P43/00 111
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-526365(P2015-526365)
(86)(22)【出願日】2014年7月9日
(86)【国際出願番号】JP2014068253
(87)【国際公開番号】WO2015005365
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2017年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-144643(P2013-144643)
(32)【優先日】2013年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102668
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 憲生
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100158872
【弁理士】
【氏名又は名称】牛山 直子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 治樹
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 俊明
【審査官】 原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−522359(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/023777(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/145340(WO,A1)
【文献】 Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 2007, Vol. 17, No. 16, pp. 4689-4693
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/423
A61P 1/16
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(R)−2−[3−[[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物を有効成分とする非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項2】
(R)−2−[3−[[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物を有効成分とする非アルコール性脂肪性肝炎の予防及び/又は治療剤。
【請求項3】
(R)−2−[3−[[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物を有効成分とする肝臓中の脂肪沈着抑制剤。
【請求項4】
(R)−2−[3−[[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物を有効成分とする肝臓中のKupffer細胞減少剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び/又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
2型糖尿病等いわゆる生活習慣病の概念として、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が注目されている。メタボリックシンドロームは、内臓脂肪型肥満に加え、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上を併せ持つ状態と定義され、動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞等の発症危険性を高めるものとされている。
【0003】
非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease、以下NAFLDと表記することがある。)は、飲酒や明らかな成因(ウイルスや自己免疫等)によらない脂肪性肝障害であり、近年はメタボリックシンドロームの肝における表現形として認識されているが、それ以外にも脂肪代謝やミトコンドリア代謝を障害する種々の病因が報告されている。NAFLDは、肝細胞の脂肪沈着のみによる比較的予後の良好な単純性脂肪肝(simple steatosis)から、比較的重症の肝組織の線維化、肝硬変、肝細胞癌に至ることがある非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis、以下NASHと表記することがある。)までの症状が包含されている(非特許文献1)。
【0004】
NASHの発生機序として、Dayらの「two hit theory」が広く知られている(非特許文献2)。すなわち、脂肪肝の形成過程(1st hit)には、カロリー摂取・消費バランスの不均衡や、インスリン抵抗性を基盤とした代謝異常による肝細胞への脂質貯留が関与している。脂肪肝がNASHに進むには、さらに2nd hitとして、エネルギー代謝負荷に基づく酸化ストレスの増大とそれに伴う自然免疫系の賦活が重要な役割を演じている。肝における免疫担当細胞であるKupffer(CD68陽性)細胞は、肝の常在性マクロファージであり、NASH患者において増加していることが報告されている(非特許文献3)。さらにNASHモデルマウスの肝臓においても、マクロファージが増加していることが報告されている(非特許文献4)。実験的にKupffer細胞を除去することにより、高脂肪食負荷によって誘導される肝の脂肪蓄積が抑制されることも報告されており、NASHの発症にKupffer細胞が重要な役割を果たしていることが示唆されている(非特許文献5)。
【0005】
NASHの治療は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧といった生活習慣病に対する食事・運動療法を主体とした生活習慣改善が基本となる。しかし、実際には生活習慣の改善は難しく、NASHの進展に重要な因子であると考えられている、インスリン抵抗性、酸化ストレス、脂質代謝異常、高血圧等を標的とした薬物治療が行われている。インスリン抵抗性改善薬としては、インスリン感受性の増強作用にかかわる核内受容体PPARγのリガンドであるチアゾリジン系誘導体(ピオグリタゾンやロシグリタゾン等)、あるいは、インスリン抵抗性改善薬のビグアナイド系薬物(メトホルミン等)が、抗酸化剤としては、ビタミンEが、単独あるいはビタミンCとの併用により治療薬として使用されている。また、脂質代謝異常の治療剤としては、PPARαアゴニストであるフィブラート系薬物(フェノフィブラートやベザフィブラート等)、スタチン系製剤、プロブコール等が、高血圧治療剤としては、アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬(ARB)が、それぞれ治療薬として期待されている。特に、フィブラート系薬剤やスタチン系薬剤においては、それら薬剤がもつ抗炎症作用の面からも期待されている。しかし、脂肪性肝障害における症状の改善のような、エビデンスレベルの高い報告は少なく、推奨度の高い治療法は確立していない。世界的にメタボリックシンドロームの罹患者の増加が続いていることにより、NASHの患者数も今後増加することが予想され、治療法の確立が望まれている(非特許文献1、6)。
【0006】
一方、特許文献1には、次式(1):
【0007】
【化1】
【0008】
(式中、R及びRは同一又は異なって水素原子、メチル基又はエチル基を示し;R3a、R3b、R4a及びR4bは同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、C1−4アルキル基、トリフルオロメチル基、C1−4アルコキシ基、C1−4アルキルカルボニルオキシ基、ジ−C1−4アルキルアミノ基、C1−4アルキルスルフォニルオキシ基、C1−4アルキルスルフォニル基、C1−4アルキルスルフィニル基、又はC1−4アルキルチオ基を示すか、R3aとR3bあるいはR4aとR4bが結合してアルキレンジオキシ基を示し;Xは酸素原子、硫黄原子又はN−R(Rは水素原子、C1−4アルキル基、C1−4アルキルスルフォニル基、C1−4アルキルオキシカルボニル基を示す。)を示し;Yは酸素原子、S(O)基(lは0〜2の数を示す。)、カルボニル基、カルボニルアミノ基、アミノカルボニル基、スルフォニルアミノ基、アミノスルフォニル基、又はNH基を示し;ZはCH又はNを示し;nは1〜6の数を示し;mは2〜6の数を示す。)
【0009】
で表される化合物、これらの塩又はこれらの溶媒和物が、選択的なPPARα活性化作用を有しており、ヒトを含む哺乳類における体重増加や肥満を伴わない、高脂血症、動脈硬化症、糖尿病、糖尿病合併症(糖尿病性腎症等)、炎症、心疾患等の予防及び/又は治療薬として有用であることが開示されている。しかしながら、これらの化合物がNAFLD、特に症状が重症化したNASHにどのような作用をするかについては記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2005/023777号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Nugent C. et al., Nat. Clin. Pract. Gastroenterol. Hepatol., 4(8), 432-41 (2007)
【非特許文献2】Day CP. et al, Gastroenterology, 114(4), 842-5 (1998)
【非特許文献3】Park JW. et al., J. Gastroenterol. Hepatol., 22, 491-7 (2007)
【非特許文献4】Yoshimatsu M. et al., Int. J. Exp. Path., 85, 335-43 (2004)
【非特許文献5】Stienstra R. et al., Hepatology, 51(2), 511-22 (2010)
【非特許文献6】宇都浩文他, 最新医学, 63巻9号, 1683-7 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
世界的にメタボリックシンドロームの罹患者の増加が続いており、NAFLD、特に症状が重症化したNASHの患者数も今後増加することが予想されているが、NAFLDの治療に関してはエビデンスレベルの高い報告は少なく、推奨度の高い治療法は確立されていないのが現状である。本発明の課題はNAFLD、特にNASHの予防、治療に有用な新たな非アルコール性脂肪性肝疾患の予防、治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、特に症状の重い非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の予防、治療に有用な化合物を見出すべく、NASHのモデル動物であるLDL受容体ノックアウトマウス及びMCD(メチオニン−コリン欠乏)食負荷KK−Aマウスを用いてその予防、治療に有用な化合物の探索を行ったところ、全く意外にも前記特許文献1で実施例85として開示されている化合物が、肝細胞の風船様腫大及び脂肪沈着を抑制し、Kupffer細胞を減少させることを見出し、NAFLDの予防、治療に有用な化合物であることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、(R)−2−[3−[[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(以下、化合物Aと称する場合がある。)、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物を有効成分とする非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び/又は治療剤を提供するものである。
【0015】
本発明をより詳細に説明すれば、本発明は次の(1)から(18)に関する。
(1)(R)−2−[3−[[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物を有効成分とする非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び/又は治療剤。
(2)非アルコール性脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝炎である、前記(1)に記載の予防及び/又は治療剤。
(3)非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び/又は治療が、肝臓中の脂肪沈着を抑制するものである、前記(1)又は(2)に記載の予防及び/又は治療剤。
(4)非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び/又は治療が、肝臓中のKupffer細胞を減少させるものである、前記(1)又は(2)に記載の予防及び/又は治療剤。
【0016】
(5)前記化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物を有効成分とする肝臓中の脂肪沈着の抑制又は減少剤。
【0017】
(6)前記化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物を有効成分とする肝臓中のKupffer細胞の抑制又は減少剤。
【0018】
(7)必要な患者に前記化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物の有効量を投与することを特徴とする、非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び/又は治療方法。
(8)非アルコール性脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝炎である、前記(7)に記載の方法。
(9)肝臓中の脂肪沈着の抑制又は減少が必要な患者に、前記化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物の有効量を投与することを特徴とする、肝臓中の脂肪沈着を抑制又は減少する方法。
(10)肝臓中のKupffer細胞の増加抑制又は減少が必要な患者に、前記化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物の有効量を投与することを特徴とする、肝臓中のKupffer細胞を抑制又は減少させる方法。
【0019】
(11)非アルコール性脂肪性肝疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物を製造するための、前記化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物の使用。
(12)非アルコール性脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝炎である、前記(11)に記載の使用。
(13)肝臓中の脂肪沈着を抑制又は減少させるための医薬組成物を製造するための、前記化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物の使用。
(14)肝臓中のKupffer細胞を抑制又は減少させるための医薬組成物を製造するための、前記化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物の使用。
【0020】
(15)非アルコール性脂肪性肝疾患を予防及び/又は治療するために使用される医薬組成物に使用するための、前記化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物。
(16)非アルコール性脂肪性肝炎を予防及び/又は治療するために使用される医薬組成物に使用するための、前記化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物。
(17)肝臓中の脂肪沈着を抑制及び/又は減少させるために使用される医薬組成物に使用するための、前記化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物。
(18)肝臓中のKupffer細胞を抑制及び/又は減少させるために使用される医薬組成物に使用するための、前記化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、特に重症の非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の新たな予防・治療剤を提供するものである。特にNASHについては重症であり、エビデンスレベルの高い治療剤の報告は少なく、推奨度の高い治療法は確立されておらず、世界的にも患者数が今後増加することが予想されており、治療法の確立が望まれている。本発明は、肝の脂肪沈着や肝細胞の風船様腫大を抑制し、さらに肝臓中のKupffer細胞を減少させることができ、重症度の高いNASHについても、予防・治療剤を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の化合物A(0.5mg/kg)又はフェノフィブラート(100mg/kg)を投与した時の肝細胞の風船様腫大(Ballooning of hepatocytes)を示す図である。
図2図2は、本発明の化合物A(0.5mg/kg)又はフェノフィブラート(100mg/kg)を投与した時の肝臓におけるCD68陽性細胞面積率(CD68 positive area in liver)を示す図である。
図3図3は、本発明の化合物A(0.25mg/kg)又はベザフィブラート(60mg/kg)を投与した時の脂肪肝スコア(Steatosis score)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に用いる(R)−2−[3−[[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(化合物A)は、例えば、WO2005/023777号パンフレット等に記載の方法に従って製造することができる。また、文献に記載の方法に準じて製剤化することもできる。
【0024】
また、本発明では化合物Aの塩若しくは溶媒和物を用いることもできる。塩及び溶媒物は常法により、製造することができる。
【0025】
化合物Aの塩としては、薬学的に許容できるものであれば特に制限はないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩、トリアルキルアミン塩等の有機塩基塩;塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;酢酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。
【0026】
化合物A、若しくはその塩の溶媒和物としては、水和物、アルコール和物(例えば、エタノール和物)等が挙げられる。
【0027】
化合物Aで表される化合物は不斉炭素を有しているためR体及びS体の光学異性体が存在するが、それらはすべて本発明に包含される。
【0028】
NASHにおいては、肝臓中のマクロファージであるCD68陽性Kupffer細胞が増加することが知られている(非特許文献3参照)。後記実施例に示すとおり、化合物Aは、NASHのモデル動物である、高脂肪・高コレステロール食(Western diet)負荷LDL受容体ノックアウトマウスにおいて、肝細胞の風船様腫大及びKupffer細胞の有意な減少を示し、さらにNASHのモデル動物であるMCD食負荷KK−Aマウスにおいて、肝の脂肪沈着の有意な減少を示した。従って、本発明の化合物A、若しくはその塩、又はこれらの溶媒和物は、ヒトを含む哺乳類の非アルコール性脂肪性肝疾患、特に重症度の高い非アルコール性脂肪性肝炎の予防及び/又は治療剤として有用である。
【0029】
本発明の予防及び/又は治療剤は、予防のための有効成分及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物、治療のための有効成分及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物、並びに予防及び治療のための有効成分及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物を包含している。
本発明の肝臓中の脂肪沈着抑制剤は、肝臓中の脂肪の沈着の増加を抑制させるための有効成分及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物、肝臓中の脂肪沈着を減少させるための有効成分及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物、並びに肝臓中の脂肪の沈着の増加を抑制及び減少させるための有効成分及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物を包含している。
本発明の肝臓中のKupffer細胞減少剤は、肝臓中のKupffer細胞の増加を抑制させるための有効成分及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物、肝臓中で増加したKupffer細胞を減少させるための有効成分及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物、並びに肝臓中のKupffer細胞の増加の抑制及び肝臓中で増加したKupffer細胞を減少させるための有効成分及び製薬上許容される担体を含有してなる医薬組成物を包含している。
本発明の予防及び/又は治療剤、及び本発明の医薬組成物は、化合物Aで表される化合物、若しくはその塩、又はこれらの溶媒和物を有効成分とするものであり、本発明の有効成分は、後記する実施例に示すとおり、ヒトを含む哺乳類の非アルコール性脂肪性肝疾患、特に重症度の高い非アルコール性脂肪性肝炎の予防及び/又は治療剤として有用である。また、後記する実施例に示すとおり、本発明の有効成分は、ヒトを含む哺乳類の肝臓中の脂肪沈着抑制剤、肝臓中のKupffer細胞減少剤としても有用である。
【0030】
本発明の化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物は単独又は他の薬学的に許容される担体を用いて、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤、ローション剤、軟膏剤、注射剤、座剤等の剤型とすることができる。これらの製剤は、公知の方法で製造することができる。例えば、経口投与用製剤とする場合には、トラガントガム、アラビアガム、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、オリーブ油、大豆油、PEG400等の溶解剤;澱粉、マンニトール、乳糖等の賦形剤;カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤;結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤;タルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、軽質無水ケイ酸等の流動性向上剤等を適宜組み合わせて処方することにより製造することができる。
【0031】
本発明の化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物は、経口投与又は非経口投与により投与される。本発明の医薬の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状等によって異なるが、通常成人の場合、化合物Aとして一日0.01〜1000mg、好ましくは0.1〜100mgを1〜3回に分けて投与するのが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0033】
実施例1 LDL受容体ノックアウトマウスNASHモデルにおける作用
NASHの特徴的病態である脂肪肝と肝の炎症を発症することが知られている、Western diet負荷LDL受容体ノックアウトマウス(非特許文献4)における作用を検討した。
なお、本試験には、前記特許文献1に実施例85として開示されている、(R)−2−[3−[[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(化合物A)を使用した。
【0034】
1)使用動物:
雄性LDL受容体ノックアウトマウス(B6.129S7-Ldlr<tm1Her>/J、Jackson Laboratories)を実験に用いた。8週齢前後より13週間、Western dietとしてTeklad Custom Research Diet(Harlan Teklad社、TD.88137)を自由摂取させ、NASHを発症させた。
2)群構成:
マウスにWestern dietを負荷し、1週間後に採血及び体重測定を実施した。群間で血漿中脂質及び体重に差がない様に、コントロール群(0.5%メチルセルロース水溶液)、化合物A 0.5mg/kg投与群、及びフェノフィブラート100mg/kg投与群に群分けした。
3)薬物投与:
投与容量は5mL/kg体重とし、コントロール群には0.5%メチルセルロース水溶液を、化合物A投与群、フェノフィブラート投与群にはそれぞれの薬液を、1日1回経口投与した。投与期間は12週間とした。
【0035】
4)観察及び検査方法:
投与終了後、ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)麻酔下に肝臓を摘出し、パラホルムアルデヒドで固定後、ヘマトキシリン−エオジン染色標本及びCD68に対する免疫染色標本を作製した。ヘマトキシリン−エオジン染色標本を用いて、肝細胞の風船様腫大をブラインド条件下に、以下の基準(Kleiner et al. Hepatology 41, 1313-21, 2005)でスコア化した。
風船様腫大細胞なし :0
風船様腫大細胞が僅か(Few balloon cells) :1
風船様腫大細胞が多い又は顕著(Ballooning) :2
ブラインド条件下に肝臓におけるCD68陽性細胞面積率(CD68 positive area in liver)を画像解析システム(WinROOF)により測定した。
統計処理はStat Preclinica ((株)タクミインフォメーションテクノロジー)(Ver.1.1)を使用して行った。Dunnett’s test(N=14-15)により、コントロール群に対して、p<0.05で有意差があった場合に*印を、p<0.001で有意差があった場合に***印を付した。
【0036】
5)結果:
図1に示すように、化合物Aの0.5mg/kg投与群において、肝細胞の風船様腫大の有意な抑制が認められた。フェノフィブラートの100mg/kg投与群においては、風船様腫大を抑制する傾向は認められたが統計学的には有意ではなかった。また、図2に示すように、化合物Aの0.5mg/kg投与群において、肝臓におけるCD68陽性細胞面積率が著明に低下していた(低下率81%)。フェノフィブラートの100mg/kg投与群においても肝臓におけるCD68陽性細胞面積率の低下が認められたが、低下率は73%であり、化合物A投与群の効果に及ばなかった。これらの結果から、化合物AはNASHの病態である、肝細胞の風船様腫大及びKupffer細胞の陽性面積を、PPARαアゴニストであるフェノフィブラートよりも強力に抑制することが明らかとなった。
【0037】
実施例2 メチオニン・コリン欠乏食負荷KK−Aマウスを用いたNASHモデルにおける作用
メチオニン・コリン欠乏食(MCD食)を実験動物に負荷することにより、NASHの特徴的病態である脂肪肝を発症することが知られている、MCD食負荷KK−Aマウス(Nakano S.et al., Hepatol Res.,38(10),1026-39,2008)における効果を検討した。なお、本試験には、実施例1と同様に前記特許文献1に実施例85として開示されている、(R)−2−[3−[[N−(ベンズオキサゾール−2−イル)−N−3−(4−メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(化合物A)を使用した。
【0038】
1)使用動物:
雄性KK−Aマウス(KK−A/TaJcl、日本クレア(株))を実験に用いた。12週齢前後より16週間MCD食を自由摂取させ、NASHを発症させた。
2)群構成:
群間で体重に差がない様に、正常食群、コントロール群(MCD食負荷)、化合物A 0.25mg/kg投与群、及びベザフィブラート60mg/kg投与群に群分けした。
3)薬物投与:
混餌投与により行った。コントロール群には薬物を含まないMCD食を、化合物A投与群には化合物Aを0.00026%含むMCD食を、ベザフィブラート投与群にはベザフィブラートを0.06%含むMCD食を自由摂取させた。投与期間は16週間とした。
【0039】
4)観察及び検査方法:
投与終了後、ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)麻酔下に肝臓を摘出し、パラホルムアルデヒドで固定後、ヘマトキシリン−エオジン染色標本を作製した。ブラインド条件下に、脂肪肝スコア(Steatosis score)を評価した。脂肪沈着の程度(Grade)は拡大率100倍で観察し、その程度に応じて以下の基準で脂肪肝を0から3にスコア化した。
5%未満 :0
5%以上〜33%未満 :1
33%以上66%未満 :2
66%以上 :3
統計処理はStat Preclinica ((株)タクミインフォメーションテクノロジー)(Ver.1.1)を使用して行った。Dunnett’s test(N=4-9)により、コントロール群に対して、p<0.05で有意差があった場合に*印を、p<0.001で有意差があった場合に***印を付した。
【0040】
5)結果:
図3に示すように、化合物Aの0.25mg/kg投与群において、脂肪肝スコアが全例で0、すなわち脂肪沈着がほぼ完全に消失した。ベザフィブラートの60mg/kg投与群においては、正常食群と同程度に脂肪沈着を抑制したが、化合物Aのようにほぼ完全に脂肪沈着が消失するまでには至らなかった。これらのことより、化合物AはNASHの病態のひとつである脂肪沈着を、PPARαアゴニストであるベザフィブラートよりも強力に抑制することが明らかとなった。
【0041】
以上、実施例1及び実施例2より、本発明の化合物Aが非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の予防・治療薬として極めて有用であることが明らかとなり、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の予防・治療薬として極めて有用であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、化合物A、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物が、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の重度の病態である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)における肝細胞の風船様腫大の抑制、Kupffer細胞の陽性面積減少、脂肪沈着の抑制作用を有していることを初めて見出し、低分子性の非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び/又は治療剤を提供するものである。本発明は、医薬品原体として利用可能であることから製薬工業において有用であり、産業上の利用可能性を有している。
図1
図2
図3